説明

カテーテル

【課題】投与される薬剤量の位置的な分布を動的かつ簡易に変化させることができるカテーテルを提供すること。
【解決手段】人間を含む哺乳類の体内に薬剤を導くカテーテルであって、薬剤を体内に吐出する薬剤吐出部1と、薬剤供給側から薬剤吐出部1に薬剤を導く薬剤通路2と、薬剤吐出部1および薬剤通路2の少なくとも一方に設けられ、外部から伝わるエネルギーを受けて、薬剤の流れを許容または禁止する一方の状態から禁止または許容する他方の状態に遷移するゲート機構11,12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人間を含む哺乳類の体内に薬剤を導くカテーテルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、人間を含む哺乳類の体内臓器の内部に穿刺針を刺して薬剤を投与するカテーテルが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平3−57457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のカテーテルは基本的に体内臓器内部の1点にのみに薬剤を投与するものであったため、ある程度の体積をもつ患部に薬剤を投与したい場合であっても、投与位置から離間した患部の部分には、あまり薬剤を行きわたらせることができなかった。
【0005】
特に、薬剤が投与された体内臓器は、薬剤投与の作用効果によって罹患部位の位置、大きさ、あるいは形状が変化する。このため、薬剤を継続的に投与する場合、罹患部位の位置、大きさ、あるいは形状の変化に対応して、投与される薬剤量の位置的な分布を動的に変化できることが望ましい。
【0006】
ここで、上述した従来のカテーテルを用いて、投与される薬剤量の位置的な分布を変化させる場合、一旦取り付けたカテーテルを外して新たな位置にカテーテルを取り付け直す必要があり、切開手術等による医師に負担がかかるとともに、投与対象の人間を含む哺乳類にかかる負担が大きいという問題点があった。
【0007】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、投与される薬剤量の位置的な分布を動的かつ簡易に変化させることができるカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるカテーテルは、人間を含む哺乳類の体内に薬剤を導くカテーテルであって、前記薬剤を体内に吐出する薬剤吐出部と、薬剤供給側から前記薬剤吐出部に前記薬剤を導く薬剤通路と、前記薬剤吐出部および前記薬剤通路の少なくとも一方に設けられ、外部から伝わるエネルギーを受けて、前記薬剤の流れを許容または禁止する一方の状態から禁止または許容する他方の状態に遷移するゲート機構と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記エネルギーは、カテーテル表面を経由してカテーテル内に伝搬するエネルギーである。そして、前記ゲート機構の状態遷移は、前記ゲート機構周辺のカテーテル表面から侵入したエネルギーによって惹起される。このようなエネルギーは、たとえば、外部から照射される波動エネルギーである。ここで、波動エネルギーとは、波動の形式で進行するエネルギーであり、音波、超音波、電磁波(電波、赤外線、可視光、紫外線を含む)、衝撃波、機械的振動を含むがこれに限定されず、パルスも波動に含まれる。このようなエネルギーの印加によって、ゲート機構の部材の破壊、変形(溶融や膨張など)等が惹起され、この結果、ゲート機構の遷移状態が起こる。
【0010】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記ゲート機構は、前記波動エネルギーの照射を受けて破壊される被破壊部材を有し、該被破壊部材の破壊によって前記状態が遷移することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記被破壊部材は、前記薬剤の流れを禁止する部材であり、前記ゲート機構は、前記波動エネルギーの照射を受けて該被破壊部材が破壊されることによって前記薬剤の流れを禁止する状態から許容する状態に遷移させることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記被破壊部材は、前記薬剤の流れを許容する部材であり、前記薬剤の流れを禁止する位置に移動する方向に付勢され、前記被破壊部材によって前記移動が阻まれる付勢部材を有し、前記ゲート機構は、前記波動エネルギーの照射を受けて前記被破壊部材が破壊されることによって前記付勢部材を前記薬剤の流れを禁止する位置に移動させ、前記薬剤の流れを許容する状態から禁止する状態に遷移させることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記被破壊部材は、セラミックスであることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記ゲート機構は、前記エネルギーを受けて変形する変形部材を有し、該変形部材の変形によって前記状態が遷移することを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記ゲート機構は、前記エネルギーを受けて前記変形部材が変形することによって前記薬剤の流れを禁止する状態から許容する状態に遷移させることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記変形部材は、前記薬剤の流れを許容する部材であり、前記薬剤の流れを禁止する位置に移動する方向に付勢され、前記変形部材によって前記移動が阻まれる付勢部材を有し、前記ゲート機構は、前記エネルギーを受けて前記変形部材が変形することによって前記付勢部材を前記薬剤の流れを禁止する位置に移動させ、前記薬剤の流れを許容する状態から禁止する状態に遷移させることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記変形部材は、熱可塑性のプラスチックであることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記波動エネルギーは、音波、超音波、赤外線と可視光とを含みかつ高周波を含む電磁波、衝撃波、機械振動のうちの1または複数を組み合わせたエネルギーであることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記波動エネルギーは、レーザ装置から出力されるエネルギーであることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記波動エネルギーは、超音波振動子から出力されるエネルギーであることを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記波動エネルギーは、衝撃波発生装置から出力されるエネルギーであることを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記薬剤吐出部および前記ゲート機構は、複数であり、少なくとも1つの薬剤吐出部は、前記ゲート機構によって前記薬剤を吐出する活性状態と薬剤を吐出しない不活性状態との遷移が行われることを特徴とする。
【0023】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記薬剤通路は、チューブ状であり、前記ゲート機構は、シート状の前記薬剤吐出部の内部に設けられることを特徴とする。
【0024】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記薬剤吐出部は、浸透膜を有し、該浸透膜を介して前記薬剤を前記体内に吐出することを特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記薬剤吐出部は、開口が形成され、該開口を介して前記薬剤を前記体内に吐出することを特徴とする。
【0026】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記薬剤吐出部は、穿刺針であり、前記薬剤通路は、チューブ状であり、前記ゲート機構は、前記薬剤通路の途中に設けられることを特徴とする。
【0027】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記薬剤通路は、前記薬剤の供給側の1つの通路から複数の通路に分岐する分岐部を有し、前記ゲート機構は、前記分岐部に複数設けられ、前記分岐部から分岐した少なくとも1つの通路は、前記ゲート機構によって該通路に薬剤を流す活性状態と該通路に薬剤を流さない不活性状態との状態遷移を行うことを特徴とする。
【0028】
また、この発明にかかるカテーテルは、上述した発明において、前記分岐部は、網状の通路であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、薬剤を体内に吐出する薬剤吐出部および薬剤供給側から前記薬剤吐出部に薬剤を導く薬剤通路の少なくとも一方にゲート機構が設けられ、このゲート機構が、外部から伝わるエネルギーを受けて、薬剤の流れを許容または禁止する一方の状態から禁止または許容する他方の状態に遷移するようにしているので、投与される薬剤量の位置的な分布を動的かつ簡易に変化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して、この発明にかかるカテーテルの実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0031】
図1は、この発明の実施の形態にかかるカテーテルが人体に適用された状態を示す模式図である。また、図2は、図1に示したカテーテルの薬剤吐出部を体内臓器側からみた図である。さらに、図3は、図1に示したカテーテルの薬剤吐出部の分解斜視図である。図1では、たとえば、肝臓などの体内臓器4の表面に対して数十ml程度の抗癌剤などの薬剤を、1週間程度の長期間にわたり連続的かつ集中的に吐出して計画投与する場合を示している。なお、ここでいう薬剤には、液状およびゲル状の薬剤を含む。
【0032】
図1〜図3において、カテーテル10は、チューブ状の薬剤通路2とシート状の薬剤吐出部1とを有する。薬剤通路2は、体表6に取り付けられた薬剤投入装置3に接続されるとともに、コネクタ16aを介して薬剤吐出部1に接続される。薬剤吐出部1は、臓器支持組織5によって体内で支えられている体内臓器4表面に密着して該体内臓器4に固着され、薬剤投入装置3から薬剤通路2を介して供給される薬剤を体内臓器4表面に浸透させる。薬剤投入装置3は、上述したように体内臓器4の表面に対して数十ml程度の薬剤を、1週間程度の長期間にわたり連続的かつ集中的に吐出して計画投与するものであり、たとえば、薬剤リザーバ内に蓄積された薬剤を、電気浸透流ポンプなどによって微量に押し出し、カテーテル10を介して投与する。すなわち、薬剤投入装置3から規定された量の薬剤が薬剤通路2を通って体内に導入され、薬剤は、薬剤吐出部1の裏面から、選択される所定範囲に拡散し、体内臓器4にその表面から吸収される。なお、薬剤投入装置3は、体表6に取り付けてある必要はなく、例えば、体内に埋め込む構成や、体外に離間して配置する構成が可能である。
【0033】
薬剤吐出部1は、図3に示すように、上層13、中間層14、下層15からなる3層構造をなし、互いに接着される。中間層14は、上層13および下層15によって挟まれ、柔軟な生体適合性のある素材、例えばシリコンゴム等で実現され、好ましくは0.5mm〜5mmの肉厚な層である。上層13は、柔軟な生体適合性のある素材、たとえばポリエチレン等で実現され、中間層14に比して肉薄で、好ましくは0.05mm〜0.3mmの層である。下層15は、たとえばポリスルホンによって実現され、薬剤を透過させる柔軟で生体適合性のある素材で、中間層14に比して肉薄で、好ましくは0.05mm〜0.3mmの層である。
【0034】
上層13は、薄膜が薬剤通路2側に引き出された突出部17を有する。突出部17の先端には、コネクタ16bが設けられ、コネクタ16aとコネクタ16bとが接続されることによって、薬剤通路2に連結される。すなわち、コネクタ16a,16bの連結によって、突出部17の先端の開口と薬剤通路2の内部通路とが連通する。
【0035】
中間層14の内部には、第1の開口7、第2の開口8、および第1の開口7および第2の開口8間を連通する流路9が形成されている。第1の開口7の開口領域には、突出部17が配置される。流路9内には、初期状態で薬剤の流れを許可し、外部からのエネルギーを受けて薬剤の流れを禁止する第1のゲート機構11と、初期状態で薬剤の流れを禁止し、外部からのエネルギーを受けて薬剤の流れを許可する第2のゲート機構12とが設けられている。なお、第1のゲート機構11および第2のゲート機構12は、いずれか一方のみが設けられればよく、説明の都合上、図2および図3では、第1のゲート機構11および第2のゲート機構12の双方を流路9内に配置した構成を示している。
【0036】
なお、下層15は、薬剤のみが透過する浸透膜ではなく、第1の開口7および第2の開口8に対応する領域のみが開口した薄膜であってもよい。
【0037】
薬剤投入装置3から供給される薬剤は、薬剤通路2、コネクタ16a,16bを介して薬剤吐出部1の上層13の突出部17に導入され、さらに中間層14の第1の開口7に導入される。第1の開口7に導入された薬剤は、第1の開口7に対応する下層15の領域を透過して体内臓器4表面から体内に浸透する。ここで、第1のゲート機構11は、初期状態で薬剤の流れを許可するため、薬剤は、第1の開口7から第2の開口8側に向けて流路9を進行するが、初期状態で薬剤の流れを禁止する第2のゲート機構12によって薬剤の流れが阻止され、薬剤は、第2の開口8には導入されない。この結果、薬剤は、第1の開口7に対応する体内臓器4の表面のみに供給されることになる。なお、流路9上であって、第1の開口7と第2のゲート機構12との間に対応する領域からも体内臓器4表面に薬剤が供給されるが、線状領域であるため、無視できる程度の薬剤供給である。
【0038】
その後、第2のゲート機構12が、外部からエネルギーを受けて、薬剤の流れを禁止する状態から薬剤の流れを許可する状態に遷移すると、流路9は、第1の開口7と第2の開口8との間が連通状態となり、第1の開口7に供給された薬剤は、流路9を介して第2の開口8に供給され、第2の開口8に対応する下層15の領域を透過して体内臓器4表面に供給される。すなわち、第2の開口8は、薬剤の吐出が禁止された不活性状態から薬剤を吐出する活性状態に遷移する。なお、この場合、第1の開口7に対応する体内臓器4表面からも薬剤が供給される。
【0039】
その後、さらに第1のゲート機構11が、外部からエネルギーを受けて、薬剤の流れを許可する状態から禁止する状態に遷移すると、流路9は、第1の開口7と第2の開口8との間が非連通状態となり、第1の開口7に供給された薬剤は、第1の開口7に対応する下層15の領域のみから体内臓器4表面に薬剤が供給される。すなわち、第2の開口8は、薬剤が吐出される活性状態から、薬剤の吐出が禁止された不活性状態に遷移する。このようにして、結果的に、薬剤量の位置的な分布の動的変化を簡易に行うことができる。
【0040】
ここで、第2のゲート機構12は、図4に示すように、流路9の側面に対向して設けられた1対の凹部19に、外部からの超音波衝撃波などで破壊するシリカ・アルミナ・燐酸カルシウム系セラミックスなどによって実現されるセラミックスで形成された円柱状のペレット18が挿入されて構成される。ペレット18は、凹部19に挿入されて流路9に係止されることによって流路9を塞ぐ。
【0041】
ペレット18は、外部からカテーテル10の表面を介してエネルギーを受けると破壊する被破壊部材である。したがって、ペレット18が破壊されることによって、第2のゲート機構12は、薬剤の流れを禁止する状態から薬剤の流れを許容する。
【0042】
一方、第1のゲート機構11は、図5および図6に示すように、流路9の一方の側部に、円柱状のペレット20を係止する凹部23が形成されるとともに、凹部23に対向する側部に弾性片25を収納する凹部であるスペース24が形成される。弾性片25は、たとえば生体親和性のあるコーティングが施された鋼などの金属で実現され、一端が、スペース24が形成された流路9の側部であってスペース24近傍に片持ち支持され、他端が、ペレット20に押圧されてスペース24内に収納される。
【0043】
ペレット20は、一方の側面から他方の側面に貫通する開口22を有した連通孔21が形成され、連通孔21の連通方向が、流路9の流れ方向に一致するように流路9に挿入され、係止される。一方、弾性片25は、図6(b)に示すように、ペレット20が存在しない場合に、自己の弾性力によって流路9を塞ぎ、薬剤の流れを禁止する。ここで、第1のゲート機構11は、図6(a)に示すように、ペレット20が流路9に係止された状態で、弾性片25がペレット20を凹部23側に押圧する状態となるように設置される。すなわち、弾性片25は、流路9を塞いで薬剤の流れを禁止する位置に移動するように自己の弾性力によって付勢されている付勢部材である。したがって、弾性片25に替えて、伸張バネ等によって付勢する付勢部材であってもよい。
【0044】
ここで、ペレット20は、ペレット18と同様に、カテーテル10の表面を介してエネルギーを受けると破壊するセラミックスなどによって実現される被破壊部材によって形成される。そして、ペレット20が破壊されない図6(a)の状態では、薬剤の流れを許可する状態となり、ペレット20が破壊されると、弾性片25が図6(b)に示すように、自己の弾性力によって流路9を塞ぐ位置に移動して、流路9を塞ぐ。
【0045】
なお、ペレット18,20は、セラミックスに限らず、外部から供給されるエネルギーとの関係で、ガラスやプラスチック等の種々の材質で実現してもよい。同様に、ペレット18,20を破壊する外部から供給されるエネルギーも、音波、超音波、赤外線と可視光を含む電磁波、衝撃波、機械振動などの各種波動エネルギーを用いることができる。さらに、伝導によって伝わる熱エネルギーでもよい。なお、熱は、赤外線による波動エネルギーとして伝えることもできる。
【0046】
また、ペレット18,20は、外部からのエネルギーによって変形する変形部材であってもよい。たとえば、熱エネルギーによって変形する熱可塑性のプラスチックであってもよい。
【0047】
さらに、ペレット18は、内部に空気などの流体を有したバルーンなどによって形成してもよい。このバルーンは、気泡によって実現してもよい。また、バルーンを破壊せずに、バルーン内の流体の膨張・収縮を行うことによって、流路9の開閉を行う可逆性のゲート機構としてもよい。
【0048】
ここで、図7および図8を参照して、外部からカテーテル10の表面を介してゲート機構11,12にエネルギーを供給する機構の一例について説明する。図7は、体外から音波、超音波、衝撃波などの波動エネルギーを照射する状態を示す模式図である。図7において、波動エネルギー発生装置31は、ドライバ32から信号線33を介して供給される信号をもとに波動エネルギーを発生する。波動エネルギーは、波動エネルギー発生装置31のゲート機構18,20側に設けられた波動レンズ30によって集約され、ゲート機構18,20に照射される。なお、波動エネルギー発生装置31としては、超音波振動子、衝撃波発生装置、音波源などによって実現される。
【0049】
一方、図8では、硬性鏡34の内部チャネルを通して、エネルギー発生装置35のエネルギー発生部を体内に挿入し、エネルギー発生部をゲート機構18,20の近傍に位置させ、エネルギー発生部からゲート機構18,20にエネルギーを供給する。なお、エネルギー発生装置35は、ドライバ40から信号線41を介して供給される信号をもとにエネルギー発生部からエネルギーを発生させる。なお、エネルギーとしては、たとえば、ホルミウム・YAGレーザによるレーザ光や、超音波、高周波、機械振動などが用いられる。もちろん、伝導によって伝わる熱であってもよい。
【0050】
(変形例1)
ここで、薬剤吐出部1の変形例について説明する。図9は、薬剤吐出部1の変形例1である薬剤吐出部50を裏面側からみた図である。薬剤吐出部1は、第2の開口8が1つであったが、この薬剤吐出部50は、複数の第2の開口52を有している。すなわち、第1の開口7に対応する第1の開口51と、4つの第2の開口52とが放射状に設けられ、第1の開口51と第2の開口52との間にそれぞれ4つの流路9が設けられ、各流路9には、薬剤吐出部1と同様に、それぞれ第1のゲート機構11と第2のゲート機構12とが設けられている。なお、下層15は、ここでは、浸透膜ではなく、第1の開口51および第2の開口52に対応する領域のみに開口を有するようにしている。これによって、各流路9のゲート機構11,12に対してエネルギーを与えることによって各ゲート機構11,12がオンオフし、薬剤が供給される領域を動的に変化させることができる。
【0051】
(変形例2)
さらに、薬剤吐出部1の変形例について説明する。図10に示した薬剤吐出部60では、さらに第2の開口8に対応した第2の開口62を、第1の開口61の周囲に12個設けている。そして、第1の開口61と第2の開口62との間の流路9をネットワーク状にし、流路9が交差する交差部にゲート機構11を設けている。いわゆるネットワークにおけるノードの開閉を行うようにしている。なお、下層15は、薬剤のみを浸透する浸透膜ではなく、第1の開口61および第2の開口62に対応する領域のみが開口している。ゲート機構11は、エネルギーの供給によって破壊するものであるため、図10では、初期状態において薬剤の供給は、第1の開口61に対応する領域のみとなる。これによって、きめ細かく薬剤供給分布を動的に変更することができる。なお、ゲート機構11に限らず、ゲート機構12を適宜組み合わせても良いし、可逆性のある開閉を行うゲート機構としてもよい。さらに、ゲート機構は、ノードに限らず、流路9上に設けてもよい。
【0052】
なお、変形例1,2では、第1の開口と第2の開口との間に流路9が形成されるようにしているが、流路9の空き領域に第1の開口あるいは第2の開口を密に配置することが好ましい。また、第3の開口をさらに設けるとともに第2の開口と第3の開口とをつなぐ流路をさらに設けるとともに、この流路内にゲート機構を設け、薬剤供給分布をさらにきめ細かく制御可能にすることが好ましい。
【0053】
さらに、1つの流路9内に異種のエネルギーによって開閉するゲート機構を複数設けてもよい。たとえば、衝撃波によって破壊するゲート機構と熱によって破壊するゲート機構とを設けるようにしてもよい。この場合、流路9の開閉を多段階によって行うことができ、さらにきめ細かく薬剤供給分布を動的に変更することができる。
【0054】
(変形例3)
上述した実施の形態では、主に体内臓器4表面にシート状の薬剤吐出部1,50,60を用いて直接薬剤を供給するものであったが、この変形例3では、薬剤通路2上にゲート機構を設けている。すなわち、この変形例3のカテーテル70は、図11に示すように、薬剤通路2の途中に分岐ユニット73を設け、分岐ユニット73の吐出側に複数の薬剤通路71が接続される。分岐ユニット73の薬剤投入装置3側は、コネクタ74a,74bによって接続される。複数の薬剤通路71の各先端には、薬剤を吐出する開口を有した穿刺針72が接続されている。
【0055】
このカテーテル70は、分岐ユニット73が体表に設置され、各薬剤通路71を介して接続される穿刺針72が、複数に分散した処置対象である体内臓器などにそれぞれ穿刺された状態となっている。ここで、分岐ユニット73内の薬剤通路71は、共通の薬剤通路75を介して分岐接続され、各薬剤通路71上には、ゲート機構11,12が設けられ、各薬剤通路71のオンオフが選択制御される。
【0056】
この変形例3では、薬剤通路71を介した穿刺針72による薬剤の吐出を選択的にオンオフ制御することができるので、動的な薬剤供給分布の変更を簡易に行うことができる。
【0057】
(変形例4)
上述した実施の形態では、状態遷移が可逆性のないゲート機構を前提として説明した。すなわち、薬剤の流れを許容するまたは禁止する一方の状態から、薬剤の流れを許容するまたは禁止する他方の状態に遷移した場合には、再び、元の状態に遷移できないゲート機構であった。この変形例4では、薬剤の流れを許容するまたは禁止する一方の状態から他方の状態への遷移を繰り返し行うことができる可逆性のあるゲート機構を実現している。
【0058】
図12は、この発明の実施の形態の変形例4のゲート機構の構成を示す分解斜視図である。また、図13は、図12に示したゲート機構の動作を示す図である。図12に示すように、このゲート機構は、流路9の断面に対応した開口101が形成された金属製のスライダ100が、流路9の途中の両側にそれぞれ形成されたスライダ収容部105a,105bにスライド可能に収容される。各スライダ収容部105a,105bが流路9から延在する奥にはスライダ駆動室103a,103bが設けられ、各スライダ駆動室103a,103bの流路9側の壁には、それぞれ磁石104a,104bが埋め込まれる。また、各スライダ駆動室103a,103bの流路9から離隔する奥側の室内には、それぞれバルーン102a,102bが収容される。
【0059】
バルーン102a,102bは、純水などの流体をシリコンゴムなどの弾性膜で覆ったものであり、外部からのエネルギー照射(たとえば、レーザ光の照射)によって流体の温度が上がると、流体の気化によって体積が膨張する性質を有する。
【0060】
ここで、図13(a)に示す状態では、スライダ100がスライド収容部105a側に偏って収容されている。この状態で、スライダ100に形成された開口101は、流路9の位置に対応した位置に配置され、流路9を通る薬剤は、開口101を通って自由に流れることができる。また、この状態では、スライダ100は、その一端が磁石104bに引き付けられた状態となっており、他の力が作用しない限り移動しない安定した状態となっている。
【0061】
この状態で、バルーン102aにレーザ光などを照射して外部エネルギーを与えると、バルーン102a内の流体が気化してバルーン102aの体積が膨張する。この結果、図13(b)に示すように、スライダ100は、スライダ駆動室103b側に向かって押され、磁石104bの引き付け力に抗して解放され、スライダ駆動室103b側に向けて移動する。このスライダ100の位置では、スライダ100の開口101は、流路9の位置に対応しておらず、流路9がスライダ100によって塞がれた状態となる。この結果、薬剤の流れは、スライダ100によって禁止される。また、この状態では、スライダ100の他端が、磁石104aに引き付けられており、他の力が作用しない限り移動しない安定した状態となっている。
【0062】
その後、図13(c)に示すように、バルーン102aが冷えて、体積が収縮して元のバルーン102aの体積にもどるが、スライダ100は、磁石104aの引き付け力によって、スライダ駆動室103b側に移動した状態で安定している。
【0063】
この図13(c)に示す状態で、バルーン102aと同様に、他方のバルーン102bに外部からエネルギーを与えれば、スライダ100は、バルーン102aの膨張によってスライダ駆動室103a側に移動し、流路9は、再び薬剤の流れを許容する状態に戻すことができる。
【0064】
この変形例4に示したゲート機構では、薬剤の流れを許容するまたは禁止する一方の状態から、薬剤の流れを禁止するまたは許容する他方の状態への遷移を可逆的に繰り返し行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、この発明の実施の形態にかかるカテーテルが人体に適用された状態を示す模式図である。
【図2】図1に示したカテーテルの薬剤吐出部を裏面側からみた図である。
【図3】図1に示したカテーテルの薬剤吐出部の構成を示す分解斜視図である。
【図4】第2のゲート機構の構成を示す斜視図である。
【図5】第1のゲート機構の構成を示す斜視図である。
【図6】第1のゲート機構の動作を示す模式図である。
【図7】外部からカテーテルの表面を介してゲート機構にエネルギーを供給する機構の一例を示す模式図である。
【図8】外部からカテーテルの表面を介してゲート機構にエネルギーを供給する機構の一例を示す模式図である。
【図9】薬剤吐出部の変形例1を裏面側からみた模式図である。
【図10】薬剤吐出部の変形例2を裏面側からみた模式図である。
【図11】カテーテルの変形例3の構成を示す斜視図である。
【図12】この発明の実施の形態の変形例4のゲート機構の構成を示す分解斜視図である。
【図13】図12に示したゲート機構の動作を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1,50,60 薬剤吐出部
2,71,75 薬剤通路
3 薬剤投入装置
4 体内臓器
5 臓器支持組織
6 体表
7,51,61 第1の開口
8,52,62 第2の開口
9 流路
10,70 カテーテル
11,12 ゲート機構
13 上層
14 中間層
15 下層
16a,16b,74a,74b コネクタ
18,20 ペレット
19,23 凹部
21 連通孔
24 スペース
25 弾性片
30 波動レンズ
31 波動エネルギー発生装置
32,40 ドライバ
33,41 信号線
34 硬性鏡
35 エネルギー発生装置
72 穿刺針
73 分岐ユニット
100 スライダ
101 開口
102a,102b バルーン
103a,103b スライダ駆動室
104a,104b 磁石
105a,105b スライダ収容部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間を含む哺乳類の体内に薬剤を導くカテーテルであって、
前記薬剤を体内に吐出する薬剤吐出部と、
薬剤供給側から前記薬剤吐出部に前記薬剤を導く薬剤通路と、
前記薬剤吐出部および前記薬剤通路の少なくとも一方に設けられ、外部から伝わるエネルギーを受けて、前記薬剤の流れを許容または禁止する一方の状態から禁止または許容する他方の状態に遷移するゲート機構と、
を備えたことを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記エネルギーは、外部から照射される波動エネルギーであることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記ゲート機構は、前記波動エネルギーの照射を受けて破壊される被破壊部材を有し、該被破壊部材の破壊によって前記状態が遷移することを特徴とする請求項2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記被破壊部材は、前記薬剤の流れを禁止する部材であり、
前記ゲート機構は、前記波動エネルギーの照射を受けて該被破壊部材が破壊されることによって前記薬剤の流れを禁止する状態から許容する状態に遷移させることを特徴とする請求項3に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記被破壊部材は、前記薬剤の流れを許容する部材であり、
前記薬剤の流れを禁止する位置に移動する方向に付勢され、前記被破壊部材によって前記移動が阻まれる付勢部材を有し、
前記ゲート機構は、前記波動エネルギーの照射を受けて前記被破壊部材が破壊されることによって前記付勢部材を前記薬剤の流れを禁止する位置に移動させ、前記薬剤の流れを許容する状態から禁止する状態に遷移させることを特徴とする請求項3に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記被破壊部材は、セラミックスであることを特徴とする請求項3に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記ゲート機構は、前記エネルギーを受けて変形する変形部材を有し、該変形部材の変形によって前記状態が遷移することを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記ゲート機構は、前記エネルギーを受けて前記変形部材が変形することによって前記薬剤の流れを禁止する状態から許容する状態に遷移させることを特徴とする請求項7に記載のカテーテル。
【請求項9】
前記変形部材は、前記薬剤の流れを許容する部材であり、
前記薬剤の流れを禁止する位置に移動する方向に付勢され、前記変形部材によって前記移動が阻まれる付勢部材を有し、
前記ゲート機構は、前記エネルギーを受けて前記変形部材が変形することによって前記付勢部材を前記薬剤の流れを禁止する位置に移動させ、前記薬剤の流れを許容する状態から禁止する状態に遷移させることを特徴とする請求項7に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記変形部材は、熱可塑性のプラスチックであることを特徴とする請求項7に記載のカテーテル。
【請求項11】
前記波動エネルギーは、音波、超音波、赤外線と可視光とを含みかつ高周波を含む電磁波、衝撃波、機械振動のうちの1または複数を組み合わせたエネルギーであることを特徴とする請求項2に記載のカテーテル。
【請求項12】
前記波動エネルギーは、レーザ装置から出力されるエネルギーであることを特徴とする請求項2に記載のカテーテル。
【請求項13】
前記波動エネルギーは、超音波振動子から出力されるエネルギーであることを特徴とする請求項2に記載のカテーテル。
【請求項14】
前記波動エネルギーは、衝撃波発生装置から出力されるエネルギーであることを特徴とする請求項2に記載のカテーテル。
【請求項15】
前記薬剤吐出部および前記ゲート機構は、複数であり、
少なくとも1つの薬剤吐出部は、前記ゲート機構によって前記薬剤を吐出する活性状態と薬剤を吐出しない不活性状態との遷移が行われることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項16】
前記薬剤通路は、チューブ状であり、
前記ゲート機構は、シート状の前記薬剤吐出部の内部に設けられることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項17】
前記薬剤吐出部は、浸透膜を有し、該浸透膜を介して前記薬剤を前記体内に吐出することを特徴とする請求項16に記載のカテーテル。
【請求項18】
前記薬剤吐出部は、開口が形成され、該開口を介して前記薬剤を前記体内に吐出することを特徴とする請求項16に記載のカテーテル。
【請求項19】
前記薬剤吐出部は、穿刺針であり、
前記薬剤通路は、チューブ状であり、
前記ゲート機構は、前記薬剤通路の途中に設けられることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項20】
前記薬剤通路は、前記薬剤の供給側の1つの通路から複数の通路に分岐する分岐部を有し、
前記ゲート機構は、前記分岐部に複数設けられ、
前記分岐部から分岐した少なくとも1つの通路は、前記ゲート機構によって該通路に薬剤を流す活性状態と該通路に薬剤を流さない不活性状態との状態遷移を行うことを特徴とする請求項19に記載のカテーテル。
【請求項21】
前記分岐部は、網状の通路であることを特徴とする請求項20に記載のカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−125228(P2010−125228A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305501(P2008−305501)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】