説明

カテーテル

【課題】患者の身体と能動的に熱交換し、これにより必要に応じて体温を上昇もしくは低下させることができるようになされたカテーテルを提供する。
【解決手段】中心静脈線には、患者の血液と熱交換関係を持って配置される熱交換エレメントが供給される。この熱交換エレメントは、循環する流体をその内部に収容しており、そして、この流体は、患者体温フィードバック機構に従って、患者の身体の外部で自動的に冷却または加温される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の中心静脈血液供給部へアクセスするために使用される中心静脈線カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
中心静脈線カテーテル等のカテーテルは、典型的にはICU(集中治療室)患者、特には卒中または他の脳の外傷性イベントを被った患者に対して使用される。それらの中心静脈線カテーテルは、典型的には、サイズが約8.5〜12Frenchであり、8〜12インチにわたって延在する軟質で可撓性の多内腔構造体からなっている。それらのカテーテルは、通常、医療担当者が中心静脈系を介して患者の中心血液供給部へ容易且つ便利にアクセスできるように、患者の鎖骨下静脈または頸静脈を通じて導入され、また、好適性が幾分劣るものの、大腿静脈も利用される。一般的に、このようにして中心血液供給部へのアクセスが達成され、これにより、血液ガス分析等のために患者の血液を収集することが可能になると共に、例えば、薬剤や、注入液、または栄養剤の送給が可能になる。
【0003】
ICU患者等の多くの患者で発熱が生じることは珍しくない。特に神経系ICU患者で発熱が生じやすく、その発現は、脳における有害な影響を悪化させることがある。発熱を管理するための通常の治療法は、アセトアミノフェン(Tylenol)や、冷却毛布、氷水膀胱灌注及び氷浴を用いる治療法を含む。患者の体温を下げるためのこれらの手法はすべて、患者を冷やすのに過剰な時間を必要とする。しかも、それらの従来の方法は、患者の冷却状態を正確に制御することができない。ここで認識されるように、患者を冷却することによる有益性を最適化するためには、制御された仕方で比較的迅速に患者を冷やすことが重要である。
【0004】
ICU患者における発熱による上述の有害な影響と、現在の温度調節方法及び装置の不十分性を認識し、本譲受人は、同時係属中の特許文献1及び特許文献2において、患者の血液供給部から熱を取り除くために患者の体内に移植することができる留置カテーテルを開示した。それらの上記引用出願公報の留置カテーテルは、血液供給部と熱交換関係をもたらすように配置され、そして、そのカテーテルを通じて、冷却剤が閉鎖ループ内で循環される。これらのカテーテルは、生体組織の温度を下げ、これにより、上述の如く、患者の医療上の成果を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第09/133,813号
【特許文献2】米国特許出願第09/063,984号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明により理解されるように、上で引用された冷却用カテーテルの利点は、中心静脈カテーテルの形態に組込まれる。上述の如く、中心静脈カテーテルは、通常、神経系ICU患者を含む多くのICU患者で使用されることから、本発明者らは、これらの認識を組み合わせて、患者を冷却するという付加的な能力を備えた中心静脈カテーテルを提供できれば有利であろうと考えた。これを成し遂げるため、本発明は、単一の装置で、従来の中心静脈カテーテルと、患者の体温を効果的且つ正確に管理するための手段を提供することという2つの目標を達成する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、患者の身体と能動的に熱交換し、これにより必要に応じて体温を上昇もしくは低下させることができるようになされた中心静脈線カテーテルを提供することにより、従来技術の不十分さを克服する。中心静脈線には、患者の血液と熱交換関係を持って配置される熱交換エレメントが供給される。この熱交換エレメントは、循環する流体をその内部に収容しており、そして、この流体は、患者体温フィードバック機構に従って、患者の身体の外部で自動的に冷却または加温される。
【0008】
中心静脈線カテーテルの既知の機能に患者の血液を冷却または加温する機能を追加することにより、本発明は、その静脈系への現存するアクセス及び単一の切開部を利用でき、これにより、付加的な合併症の危険性が低減されるという長所を有している。典型的には鎖骨下静脈や、頸静脈あるいは大腿静脈を通じて行われるこのアクセスは、その中心静脈系を介して中心血液供給部へなされ、従って、患者の体温を効果的に冷却または加温できるため、特に好都合である。中心静脈系という用語は、一般的に、下大静脈及び上大静脈を含む、血液を右心へ戻す静脈系部分を表す言葉である。本発明の特別な一つの利点は、発熱を伴いがちであることが知られている処置と連合してこの冷却機能を効果的に実施し、このようにして、そのような発熱を見越しての処置や、発熱の管理の容易化ができることである。本システムと患者の中心静脈系との間のこの熱交換関係は、長期間、例えば約1時間から約29日間にわたって維持することができる。
【0009】
本発明に係る中心静脈線カテーテルは、複数の内腔を画定する管状構造体からなっている。これらの内腔のうちの少なくとも2つは、熱交換用流体を中心静脈線カテーテルの移植可能な遠位側端部に配置された熱交換エレメントに運ぶ一方、残りの内腔は、患者の中心血液供給部へのアクセスをもたらすべく機能する。上述の熱交換エレメントは、それらのコンポーネント間に熱交換用流体を運ぶ配管系を介して、温度制御モジュールと流体的に連通している。冷却及び/又は加熱装置を備えるこの温度制御ユニットは、温度コントローラーと協働し、検知された患者の体温に応じて、その熱交換用流体を加熱または冷却する。
【0010】
ある好適さに劣る実施態様では、本発明の熱交換エレメントは、鋼等の金属でできていてよく、そして、アコーディオン様の形態等の適当なある形態をなしていてよい。
【0011】
本発明のシステムは、患者の体温を所望のレベルに維持すべく機能する。所望レベルからの逸脱は、発熱の発現と対抗するため、中心静脈線カテーテルを通じて冷却された熱交換用流体を循環させる等の矯正作用を自動的に起動する。更に、本システムは、患者に有害な生理学的変化が生じていることを警告するため、例えば本システムの作業負荷の高まりを検知することにより検出された逸脱を患者の医療担当者に信号で知らせるインジケーターを備えている。
【0012】
従って、本発明は、熱交換エレメントを備えた中心静脈線カテーテルを用いて患者の体温を制御するためのシステムを提供する。この中心静脈線カテーテルは、患者の中心血液供給部へアクセスするための1つもしくはそれ以上の内腔の他に、熱交換用流体を熱交換エレメントと連絡させるための付加的な内腔も備えている。熱交換用流体の温度は、熱交換用流体と熱交換関係にある加熱装置及び/又は冷却装置からなる温度制御ユニットを制御するために使用されるフィードバックループを通じて調節され、このフィードバックループで患者の体温が検知される。配管系は、本システムの閉じた流体回路内で上述の流体を循環させるべく機能するポンプと協働して、中心静脈線と温度制御ユニットとの間で熱交換用流体を輸送する。
【0013】
添付図面と関連させてこの明細書を読めば、本発明の多くの利点が当業者に明らかになるであろう。それらの図面では、同様なエレメントに対しては同様な参照番号が付与されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る中心静脈線カテーテル温度制御システムを示す模式図である。
【図2】本発明に係る中心静脈線カテーテルの模式側面図である。
【図3】図2の線3−3で切断された模式横断面図である。
【図4】本発明に係るカテーテルの好適な配列の模式横断面図である。
【図5】本発明の中心静脈線カテーテルの遠位側部分の模式断面図である。
【図6】本発明の第二の実施態様による中心静脈線カテーテルの模式側面図である。
【図7】本発明の第三の実施態様による中心静脈線カテーテルの模式側面図である。
【図8】本アンカーにおける一つの実施態様の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明に係る温度制御システム10を示している。患者の中心血液供給部へのアクセスを提供する中心静脈線カテーテル20は、患者と熱交換関係を持って配置される。循環する熱交換用流体(図示せず)が中心静脈線カテーテル20に供給され、この熱交換用流体の温度は、所望の患者標的体温または体温範囲を達成するため、フィードバック機構により自動的に制御される。フィードバック機構は、プローブ54を用いて患者の体温を検知する手段を含んでおり、そして、このプローブの出力が、温度制御モジュール50に収容された温度コントローラー55へ供給される。温度コントローラー55は、検知された温度が上述の望ましい温度あるいは温度範囲から逸脱しているかどうかを決定し、その逸脱の方向に応じて熱交換用流体を加熱もしくは冷却するため、熱制御ユニット57を選択的に起動する。以降でもっと詳細に説明されているように、中心静脈線カテーテル20は多内腔式の装置であり、それらの内腔のうちの少なくとも2つは、カテーテルの熱交換エレメントへの熱交換用流体のフロー用に、及び、その熱交換エレメントからの熱交換用流体のフロー用に設けられている。その他の1つもしくはそれ以上の内腔は、特定の適用形態に応じて、液体の注入や、薬物の送給、あるいはガイドワイヤーの支持等、異なる用途で使用することができる。それらの内腔の好適な個数は3ないし5個であるが、その他の個数も可能である。
【0016】
図2乃至4は、中心静脈線カテーテル20をさらに詳しく示しており、この中心静脈線カテーテルは、患者の体内、好適には鎖骨下静脈または頸静脈内への挿入に適した全体的に円筒形の実質上細長の構造体である。中心静脈線カテーテル20は、それの様々な内腔32,34,42,44及び46を画定するあらゆる既知のポリマー材料23から形成することができる。ナイロン,ポリエチレン及びPEBAX等の他の材料も使用することができるが、好適な材料はポリウレタンである。適当な材料23を選択する際に考慮すべき事項は、生体適合性、可撓性、温度変化適合性及び座屈抵抗性を含む。
【0017】
カテーテル20の移植可能な遠位側端部22には、このカテーテルの幅の周りに放射状に配置された、流体を担持する膨張可能なバルーン24等の熱交換エレメントが設けられている。バルーン24は可撓性の先端部21に近接配置されており、そして、このバルーンは、一枚のシート材料38から形成することもできるし、あるいは、管材料を押し出し加工して所望の形及びサイズの成形バルーンを形成し、次いで、それをシャフト25に結合するか、もしくは他の方法で固定して空洞36を形成することにより作成することもできる。図示されているように、バルーン24は、カテーテルのシャフト部分25よりも有意に大きな直径を有するものとして示されている。例えば、幾つかの適用形態では、膨張したバルーンの直径がシャフト25の直径の3倍以上になるように設計される。一つの好適な実施態様では、バルーンの直径は、4ミリメートルないし10ミリメートル(4mm〜10mm)である。好適には、バルーンの直径は、代表的な大静脈の直径の40%〜60%を越えないように選択される。あるケースでは、熱交換用流体のフローを容易化するため、シャフト25の寸法を最大化するのが望ましい場合があることを理解すべきである。これは、バルーン24内の流体の体積を最小化することにもなり、これにより、より迅速な熱交換が促進されよう。更に、本発明と共に、前述の2件の同時係属特許出願公報に開示されているような、これらに限定するものではないが、螺旋形または溝付き形を含む無数のバルーン形状を利用し得ることも理解されよう。選択される特定の形状は、適用形態や、所望の熱交換特性及び他の特性に依存するであろう。一つの好適な実施態様では、バルーン24は、ウレタン、ナイロンまたはPETから作成され、そして、薄肉であり、即ち、このバルーン24の肉厚は、3ミル未満、より好適には1.5ミル未満である。また、そのバルーン24は、好適には、ヘパリン等の抗凝固物質や抗菌物質でコーティングされる。
【0018】
バルーン24は、中心静脈カテーテルのうちの患者に挿管される部分の全長にわたって拡張できることを理解すべきである。典型的には、この長さは約15cmである。そのような状況下において、このバルーンの直径は、通常の中心静脈カテーテルの直径よりも大きい必要はなく、例えば、バルーンの直径は12Frenchや10Frenchであってよく、もしくは、7.5French等、更に小さくてもよい。もっと広く、バルーンの直径は、バルーンがカテーテルの挿管部分の全長にわたって拡張するとき、5〜13Frenchであってよい。以下で詳述されている如くに複数のバルーンが使用されるように配列されているケースでは、これらのバルーンが全体として、カテーテルの挿管部分の全長を覆うようにすることができる。即ち、それぞれが約7.5cmの2個のバルーン、または、3個の5cmのバルーン等、を使用することができる。
【0019】
図3及び図4を参照することでより明瞭になるように、カテーテル20には一対の内腔32と34が形成されており、そのうちの内腔32は、バルーン24にカテーテル20中を循環させられる熱交換用流体を供給する流入チャンネルとして機能し、もう一方の内腔34は、バルーン24からの熱交換用流体をカテーテルへ戻す流出チャンネルとして機能する。選定される特定の熱交換用流体は、万一誤って破裂した際に患者に害が及ぶことを避けるため、生体適合性であることが好ましい。そのような候補となる材料は、無菌生理食塩水及び二酸化炭素ガスを含み、その他にも、適当な粘度、熱交換特性及び材料適合特性を有する他の流体も使用することができる。生体適合性ではないため、望ましさは劣るものの、フレオンも代りに使用することができる。
【0020】
バルーン24は、インレットポート26及びアウトレットポート28等の複数のポートを介して、内腔32及び34と流体的に連通している。カテーテル20内を循環させられる熱交換用流体は、内腔32からインレットポート26を通じて空洞36内へ入った後、アウトレットポート28を通じて空洞36から内腔34へ出る。空洞36内にある間、中心静脈線カテーテル20の外部で遠隔的に冷却された熱交換用流体は、バルーン24の壁部を形成するシート材料38の内面に低温の流体を供給すべく機能する。このシート材料38を通じて、バルーン24の外側を流れる血液等の体液との熱輸送が起こり、これにより、患者の身体の効果的な冷却と、発熱の影響の抑制が行われる。このため、インレットポート26は、アウトレットポート28の遠位側に配置されている。
【0021】
また、内腔32と34の横断面形状に関して特定の考慮をなすことによっても効果的な熱輸送が促進される。特に、図3から分かるように、内腔32と34は、そこを通って流れる流体の体積を最大化するように設計されている。これは、カテーテル20内で円周的に最大の弧長を占めるように、それらの内腔を三日月形の横断面形状にすることにより達成される。しかし、上述の三日月形横断面形状は、シャフト部分25におけるカテーテル20の外部との望ましくない熱交換をもたらす表面積の増大をも伴うため、この体積の最大化は、熱効率を犠牲にする心配がある。この心配を取り除くため、図4に示されている好適な横断面形状では、カテーテルの構造用材料37で、内腔32と34が、カテーテル20の外部からもっと効果的に絶縁されている。
【0022】
バルーン24の空洞36内への流体の流入、及び空洞からの流体の流出を容易化するため、アウトレットポート28をインレットポート26よりも大きくし、これにより、熱交換用流体がバルーン24を出るときに遭遇する抵抗を低減することができる。この相対的なサイズの相違は、本発明の別の実施態様で考えられているような、カテーテル20に複数のバルーンが供給されているときに特に重要になる。特に、単一のバルーン24に関して説明されているが、図6に示されているように、シャフト25の長さ方向に沿って軸状に配置された幾つかのそのようなバルーンを供給できることが理解されよう。複数のバルーンを用いる形態の一つの利点は、熱交換用流体の流れ及び温度を、カテーテル20の熱交換領域の全長に沿って一層簡単に制御できることである。熱交換用流体は、血液との熱交換に入る前が最も冷たく、そして、血液との熱交換後に最も暖かくなるということを認識した上で、流速及び流量だけでなく、それぞれのバルーン24内での流れの方向も有利に制御することができる。複数のバルーンを用いる設計の別な利点は、カーブした血管系内に置かれたときのカテーテルの湾曲及び屈曲能力である。
【0023】
カテーテル20は、内腔32と34の他に、2つもしくは3つの内腔42,44及び46を備えている。それらの内腔42,44及び46は、化学療法等の薬剤や、液体、及び栄養剤の注入、サンプリング用シリンジへのアクセス、及び、患者をモニタリングするためのサーミスター等の様々なセンサーの収容等を含む多数の機能を果たすことができ、従って、一般的には、特定の適用形態により指定された通りの中心血液供給部へのアクセスを提供する。更に、例えばガイドワイヤーを一層良好な状態で支持するため、中央の内腔44を、両側の内腔42及び46とは異なる直径になしてもよい。それらの内腔は、実質的に、近位側端部27から遠位側端部22まで、カテーテル20の全長にわたって延在している。設ける内腔の個数は、個々の適用形態に合わせて変えることができる。
【0024】
また、熱交換エレメントは、必ずしもバルーン24等のバルーンの形態でなくてもよいことが理解されよう。むしろ、そこを通じて熱交換用流体が循環させられる可撓性中空ファイバーアレイ等の配列を用いることもでき、この場合、熱交換相互作用に寄与する表面積を大きくすることができる。本発明で使用できる他の熱交換エレメントの配列と共に、そのような配列が、参照としてそっくりそのまま本明細書に組込まれている前述の同時係属特許出願第09/133,813号に開示されている。中空ファイバー型熱交換エレメントの形態が図7に示されている。中空ファイバー58は、熱交換流体用の内側の内腔62から流体を受け入れ、そして、この流体を、カテーテル20の熱交換流体用の外側の内腔64へ戻す。様々な流体の送給を容易化するため、及び、他の用途で、内腔66等の付加的な内腔も設けられている。中空ファイバー型熱交換エレメント配列の重要な利点は、この熱交換エレメントの長さ方向に沿ったあらゆる箇所で、例えばポート68を介して、内腔66等の内側の内腔と血液との連絡が可能になることである。図2を相互に参照しながら再度図1を参照すると、カテーテル20は、温度制御モジュール50と協働して機能する。冷却剤のインレット及びアウトレット用フィッティング52a,52b(図2)を含む配管系52(図1)は、例えば隔膜ポンプ、ブラダーポンプ、ピストンポンプ、ぜん動ポンプ等の既知のポンピング手段(図示せず)を用いて、閉じた流体回路内の温度制御モジュール50とカテーテル20との間で流体を搬送し、流体はこの閉じた流体回路を通じて循環させられる。それらのインレット及びアウトレット用フィッティング52a,52bは、それぞれ、温度制御ユニット57からカテーテル20の内腔32,34への流体的な連通経路を確立することを理解すべきである。温度制御モジュール50には、適切な情報を記憶するメモリー(図示せず)を有するマイクロプロセッサーであってよい温度コントローラー55が設けられており、プローブ54から患者の体温信号を受信する。冷却用流体と熱交換関係にある冷却装置及び/又は加熱装置であってよい温度制御ユニット57への入力を制御することにより、温度コントローラー55は、所望の標的温度もしくは温度範囲に応じて、その熱交換用流体の温度を自動的に調節する。その標的温度または温度範囲は、キーボード56等の入力装置を用いて登録することができる。LCD58等の表示装置は、システムの操作及び/又は患者の状態に関する指示を呈示するための様々なパラメーターを表示する。
【0025】
好適には、その標的温度は正常な体温になるべく選定され、そして、例えば発熱の発現により誘発されたこの温度からの逸脱は、プローブ54で検知され、本発明のシステムにより自動的に矯正される。温度の矯正は、例えば、温度制御モジュール50の温度制御ユニット57を起動することにより果たされる。冷却する適用形態の場合、温度制御ユニット57は、循環する流体の冷却をもたらし、ついには、プローブ54でモニタリングされている患者のコア体温の冷却をもたらす。正常な温度が達成されると、温度制御ユニット57は、スイッチが自動的に切られるか、あるいは、温度コントローラー55によりその冷却効果を低減することができる。正確な温度調節を果たすため、システムのコンポーネント及びシステムの時定数からなる性能パラメーターを考慮に入れた好ましい温度制御アルゴリズムが、温度コントローラー55により実行される。より有利な温度制御形態では、モジュール50は、温度制御ユニット57の一部として更に加熱装置を備えていてもよく、そして、例えば所望の標的温度または温度範囲からのオーバーシューティングを防ぐため、更には、ある状況下において高体温を誘発するため、プローブ54からのフィードバックを利用してこの加熱装置を自動的に起動することもできる。プローブ54は、例えば直腸等の患者の身体のいずれかの部分からの温度フィードバック信号を得るために使用することもできるし、あるいは、プローブ54がこの流体回路のいずれかの箇所における温度情報をもたらし、次いで、その情報を、本システムの異なる部分の熱伝導率や、体重、身長、年齢等の患者情報などの既知のパラメーターを用いて、患者のコア体温と関係付けることもできることが理解されよう。更に、ある環境下においては、正確度を改善するため、患者及び/又は本システムからの読み取り値の組み合わせを得るために1つより多くのプローブを用いることもできる。
【0026】
本発明によれば、フィードバック機構を用いて患者を所望の温度条件に維持することができる。特に、本システムは、正常体温範囲であってよい許容可能な温度範囲からのあらゆる温度上の逸脱を制御するために使用することができ、そこでは、上述の予め定められた範囲からのこの検知された逸脱状態に応じて、プローブ54が患者の身体の冷却または加熱を誘発するであろう。更に、この逸脱は、一般的に、その患者の医療担当者が承知しておくべき特定の生理学的活動の指標であるため、本システムの運転を、この生理学的活動が起こっていることの指示手段として利用することができる。例えば、患者のコア体温が上昇したために温度制御ユニット57の冷却運転が起動された場合、本システムを構成する冷却コンポーネントの作業負荷の増大として反映される本システムの冷却活動は、この時、その患者の身体が発熱状態に入ろうとしているのを、例えばアラームまたは他の状況インジケーター装置(図示せず)を用いて音響信号または視覚的な信号により医療担当者に指示するために使用される。その後、適切な処置を講じることができる。この指示を発するため、温度フィードバックの傾きの符号とその傾き等の作業負荷以外のパラメーターを使用することもできる。代替的に、プローブ54で検知されたもの等の患者の体温の直接的な指標を用いることもできる。このようにして、例えば約1時間から約29日間、もしくはそれ以上の日数等、長期間にわたる本システムの使用を容易化することができる。
【0027】
図1と図2とを相互に参照すると、中心静脈カテーテル20は、温度制御ユニット57に接続されているのに加え、中心静脈コンポーネント70,72と、カテーテル20の選定された内腔42,44及び46との間の連絡を確立するため、図2から明らかなように、それぞれのフィッティング74,76及び78を介して、1つもしくはそれ以上の中心静脈コンポーネント70,72(図を見やすくする都合上、図1では2つの静脈コンポーネントのみが示されている)にも接続されている。本発明により想定されるものとして、中心静脈コンポーネント70,72は、薬物注入源、カテーテル20から流出する血液を受けるための血液容器、ガイドワイヤー等のうちの1つ以上で構成することができる。
【0028】
更に、図2に最も明らかに示されているように、カテーテル20は、このカテーテル20を患者に取り付けられるような形状になされたアンカーを含んでいる。より詳細には、一つの意図的実施態様では、このアンカーは、縫合用フィッティング80により構成される。縫合用フィッティング80は、カテーテル20と一体的に作成することもできるし、あるいは、カテーテルとは別のプラスチック製フィッティングとして作成し、取り巻くようにしてカテーテル20と係合させることもできる。図示されているように、この縫合用フィッティング80は2つの小穴82,84を含んでおり、これらの小穴に縫合糸を通して、患者の皮膚や、包帯、テープ、または患者に固定された他の構造物と係合することができる。代替的に、上述のアンカーを図8に示されているような一片のテープ86で構成し、このテープで本発明のカテーテルを患者に固定してもよい。更に、このアンカーは、患者と係合できる接着面を備え、且つ、本発明のカテーテルを受け入れられるような形状になされた構造物を含むプレート等の別の固定装置も含むことができる。ここで理解されるように、中心静脈カテーテルは典型的には長期間留置することが意図されているため、中心静脈カテーテルでは、アンカーは、カテーテルを患者に保持するものであることが望ましい。
【0029】
以上は本発明の例示的な実施態様の説明であって、何ら限定することを意図したものではない。当業者が、請求項に記載されている通りの本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、そこへ変更をなし得ることは明白であろう。
【符号の説明】
【0030】
10:温度制御システム
20:中心静脈線カテーテル
21:先端部
22:遠位側端部
24:バルーン
25:シャフト
26:インレットポート
28:アウトレットポート
32:内腔
34:内腔
36:空洞
42:内腔
44:内腔
46:内腔
50:温度制御モジュール
52:配管系
54:プローブ
55:温度コントローラ
57:温度制御ユニット
58:中空ファイバー
62:内側の内腔
64:外側の内腔
80:縫合用フィティング(アンカー)
82:小穴
84:小穴
86:テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位部及び遠位部を有するとともに、前記近位部及び遠位部で細長い構造体の外部と連通する少なくとも1つの第一ルーメンと、前記近位部及び遠位部で細長い構造体の外部と連通する少なくとも1つの第二ルーメンと、を画定して、前記第一ルーメン及び第二ルーメンがスルールーメンであり且つ前記遠位部で第一の注入ポート及び第二の注入ポートを終端する、少なくとも1つの細長い構造体と、
患者との身体との熱交換を生じさせるために少なくとも前記遠位部に沿って延在する少なくとも1つの熱交換要素と、を備えるカテーテルであって、
当該カテーテルは、動作時において血管を閉塞することなく、血管内に配置されることを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
中心静脈ラインアクセスを確立するように構成されて、近位部及び遠位部を有するとともに、前記近位部で細長い構造体の外部と連通する少なくとも1つの第一ルーメンを画定する少なくとも1つの細長い構造体と、
中心静脈システムとの熱交換を生じさせるために少なくとも前記遠位部に沿って延在して、前記第一ルーメンを通じて熱交換流体を受け取る少なくとも1つの熱交換要素と、
熱交換流体を運ぶことがない第二ルーメンと、を備えるカテーテルであって、
1つ以上の中心静脈コンポーネントと流体連通可能である第二ルーメンを通じて、薬剤が注入されるか血液が採取されることを特徴とするカテーテル。
【請求項3】
中心静脈ラインアクセスを確立するように構成されて、近位部及び遠位部を有するとともに、前記近位部で細長い構造体の外部と連通する少なくとも1つの第一ルーメンと、前記近位部で細長い構造体の外部と連通する少なくとも1つの第二ルーメンと、を画定する少なくとも1つの細長い構造体と、
前記細長い構造体と係合して、前記第一ルーメンから熱交換流体を受け取り、患者との熱交換を生じさせるために少なくとも前記遠位部に沿って延在し、前記第二ルーメンを通じて熱交換流体を戻させる複数の中空の細長い熱交換要素と、を備えることを特徴とするカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−130808(P2012−130808A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91116(P2012−91116)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【分割の表示】特願2008−279870(P2008−279870)の分割
【原出願日】平成12年2月18日(2000.2.18)
【出願人】(500087017)ゾール・サーキュレイション・インコーポレイテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】Zoll Circulation, Inc.
【Fターム(参考)】