説明

カドミウム測定用試料の前処理方法、カドミウムの分離方法、及び、カドミウム分離カラム装置、並びにそれらの利用

【課題】作製に要するコスト、時間及び労力を低減でき、簡易で迅速であり、且つ、高精製度の、カドミウム測定用試料の前処理方法、カドミウムの分離方法、及び、カドミウム分離カラム装置を実現する。
【解決手段】カドミウムを選択的に吸着する陰イオン交換樹脂を用いることにより、試料中のカドミウムを迅速かつ簡便に抽出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウム測定用試料の前処理方法、カドミウムの分離方法、及び、カドミウム分離カラム装置、並びにそれらの利用に関するものであり、特に、農作物、水産物、畜産物、又は、土壌に含まれるカドミウムを選択的に分離するカドミウム測定用試料の前処理方法、カドミウムの分離方法、及び、カドミウム分離カラム装置、並びにそれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全等の社会的な環境意識や健康に対する影響への関心の高まりから、産業や生活に伴う様々な場面における環境汚染物質の蓄積の動向が注視されている。環境汚染物質の中でも重金属類、特にカドミウムは過去にその毒性による重篤な問題を起こしていることもあり、食品に含まれるカドミウムの量は重要な問題である。
【0003】
農作物、水産物、畜産物、又は、土壌に含まれるカドミウムの量は、一般に、ICP発光分光分析器や原子吸光光度計等の分析機器を用いて測定されている。例えば、農林水産省による農作物、水産物、畜産物に含まれるカドミウムの分析においても、ICP発光分光分析器や原子吸光光度計による測定が採用されている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、ICP発光分光分析器や原子吸光光度計を用いたカドミウム分析法は、非常に高価な分析機器を必要とするばかりか、硫酸-硝酸分解等の専門的な前処理が必要になり、長い処理時間と労力を必要とする。それゆえ、例えば、穀物等のカドミウム汚染を検査する場合には、検査ロットを少量にせざるを得ず、規制値を超える汚染が検出されたときの被害が大きくなってしまうという問題がある。また測定を現場で行うことができず、分析機器を設置した施設で行う必要がある。このため、安価でかつ現場で行える、迅速、簡便な判定法が求められていた。
【0005】
かかる迅速、簡便なカドミウム分析法として、本願発明者らは、錯体を形成したカドミウムを特異的に認識する抗カドミウムモノクローナル抗体を利用した検出・定量方法を報告している(例えば、特許文献1等参照)。この抗カドミウムモノクローナル抗体は、カドミウムと反応するが、カルシウム、マグネシウム、銅、鉄、ニッケル、鉛、亜鉛等の金属とはほとんど交差反応しないという特性を示す。このように、上記抗カドミウムモノクローナル抗体はカドミウムに高い特異性を持つものではあるが、測定対象物中に存在する他の金属が高濃度である場合、カドミウムの測定値に影響を与える。
【0006】
そこで、作物から抽出した種々の夾雑物イオンを含む抽出液から、測定に支障がない程度までカドミウムを分離精製する前処理が必要となる。かかる前処理法として、本発明者らは、4級アンモニウム塩が表面にコーティングされたシリカゲル担体を充填した分離カラムと作物からの抽出液とを接触させる方法を提案している(例えば、特許文献2、3等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−323508号公報
【特許文献2】特開2006−226986号公報
【特許文献3】特開2008−58207号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】農林水産省のホームページ:食品中のカドミウムに関する情報,48Cd(http://www.maff.go.jp/cd/index.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2、3に記載の、4級アンモニウム塩が表面コーティングされたシリカゲル担体は、その作製にコスト、時間及び労力を要し、その性能もさらなる向上が望まれる。
【0010】
具体的には、上記特許文献2、3に記載の、4級アンモニウム塩が表面にコーティングされたシリカゲル担体の作製には、別途希塩酸で洗浄し活性化したシリカゲルに、4級アンモニウム塩をコーティングすることが必要となる。そして、シリカゲルへの4級アンモニウム塩のコーティングには、およそ、一晩の処理時間が必要である。
【0011】
また、シリカゲル担体の表面にコーティングされた4級アンモニウム塩が、分離カラムからの流出液中にわずかながらも漏出する。
【0012】
さらに、作物からの抽出液に含まれる水銀は、カドミウムに比べて、4級アンモニウム塩が表面にコーティングされたシリカゲル担体に極めて強固に吸着するものの、カドミウムを回収するときに少量の水銀が同時に流出するという問題がある。
【0013】
例えば、水銀とカドミウムの双方に対して非常に高い親和性・特異性を有しているモノクローナル抗体では、カドミウムを回収するときに水銀が同時に流出するため、かかるモノクローナル抗体が水銀に対して反応しないよう、操作を加えて測定する必要がある(特許文献2参照)。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、作製に要するコスト、時間及び労力を低減でき、4級アンモニウム塩の漏出がなく、簡易で迅速であり、且つ、高精製度の、カドミウム測定用試料の前処理方法、カドミウムの分離方法、及び、カドミウム分離カラム装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法は、上記課題を解決するために、測定対象物を0.002〜2Mの塩酸溶液で塩酸抽出する塩酸抽出工程と、塩酸抽出工程で得られた塩酸抽出液を陰イオン交換樹脂と接触させてカドミウムを陰イオン交換樹脂に吸着させる吸着工程と、吸着工程でカドミウムを吸着させた陰イオン交換樹脂を、塩素イオン濃度が0.05〜12Mの塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液で洗浄する洗浄工程と、洗浄工程で洗浄された陰イオン交換樹脂から、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液でカドミウムを回収する回収工程と、を含み、陰イオン交換樹脂と接触させる上記塩酸抽出液の塩素イオン濃度を0.05〜12Mとすることを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、従来の4級アンモニウム塩が表面コーティングされたシリカゲル担体の代わりに陰イオン交換樹脂に塩酸抽出液中のカドミウムを吸着することができる。4級アンモニウム塩が表面コーティングされたシリカゲル担体は担体の作製に時間がかかるのに対して市販品の陰イオン交換樹脂を利用することができるので、時間とコストの削減という効果を奏する。また、陰イオン交換樹脂は4級アンモニウム塩構造を持つため、カラムからの4級アンモニウムイオンの溶出を防げるという効果を奏する。さらに、従来のシリカゲル担体に比べ、陰イオン交換樹脂は水銀をさらに強固に吸着するため、前処理液中に残留する水銀を完全に除去できるという効果を奏する。
【0017】
本発明にかかる前処理方法では、上記塩酸抽出液の上記陰イオン交換樹脂との接触は、カラム法により行うことが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、塩酸抽出により測定対象物からカドミウムとそれ以外の金属が抽出された塩酸抽出液を陰イオン交換樹脂を充填したカラムに流すことで、簡便且つ効率よくカドミウムを選択的にカラムに吸着させることができるという効果を奏する。
【0019】
本発明にかかる前処理方法では、上記測定対象物は、農作物、水産物、畜産物、又は、土壌であることが好ましい。
【0020】
本発明にかかるカドミウムの測定方法は、上記前処理方法を用いてカドミウム測定用試料を調製する工程と、当該工程により調製されたカドミウム測定用試料を用いてカドミウムの検出及び/又は定量を行う工程とを含むことを特徴としている。
【0021】
上記の構成によれば、異なる種類の試料の分析や同じ種類でも多くのロット等多数の試料を非常に簡便に且つ効率よく分析することができるという効果を奏する。
【0022】
本発明にかかるカドミウムの測定方法では、上記カドミウムの検出及び/又は定量は、イムノアッセイ法、ICP法、蛍光X線法、ボルタンメトリー法又は吸光法によって行われることが好ましい。
【0023】
本発明で得られるカドミウム測定用試料は、他の金属が排除され、カドミウムが選択的に分離されたカドミウム測定用試料であることから、他の金属が測定を妨害するような方法を採用するときに、本発明の効果がより有効に発揮される。
【0024】
本発明にかかるカドミウムの分離方法は、カドミウム含有溶液から、カドミウムを選択的に分離する分離方法であって、塩素イオン濃度が、0.05〜12Mであるカドミウム含有溶液を用い、当該カドミウム含有溶液を陰イオン交換樹脂と接触させてカドミウムを陰イオン交換樹脂に吸着させる吸着工程と、上記吸着工程でカドミウムを吸着させた陰イオン交換樹脂を、塩素イオン濃度が0.05〜12Mの塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液で洗浄する洗浄工程と、上記洗浄工程で洗浄された陰イオン交換樹脂から、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液でカドミウムを回収する回収工程と、を含むことを特徴としている。
【0025】
上記の構成によれば、従来の4級アンモニウム塩が表面コーティングされたシリカゲル担体の代わりに陰イオン交換樹脂に塩酸抽出液中のカドミウムを吸着することができる。4級アンモニウム塩が表面コーティングされたシリカゲル担体は担体の作製に時間がかかるのに対して市販品の陰イオン交換樹脂を利用することができるので、時間とコストの削減という効果を奏する。また、陰イオン交換樹脂は4級アンモニウム塩構造を持つため、カラムからの4級アンモニウムイオンの溶出を防げるという効果を奏する。さらに、従来のシリカゲル担体に比べ、陰イオン交換樹脂は水銀をさらに強固に吸着するため、前処理液中に残留する水銀を完全に除去できるという効果を奏する。
【0026】
本発明にかかるカドミウムの分離方法では、上記カドミウム含有溶液の上記陰イオン交換樹脂との接触はカラム法により行うことが好ましい。
【0027】
上記の構成によれば、塩酸抽出により測定対象物からカドミウムとそれ以外の金属が抽出された塩酸抽出液を陰イオン交換樹脂を充填したカラムに流すことで、簡便且つ効率よくカドミウムを選択的にカラムに吸着させることができるという効果を奏する。
【0028】
本発明にかかるカドミウム分離カラム装置は、上記課題を解決するために、液体流入口と液体流出口とを有するカラム容器と、当該カラム容器の液体流入口と液体流出口との間に収容される陰イオン交換樹脂とを備えることを特徴としている。
【0029】
上記の構成によれば、カドミウムが選択的に分離された測定用試料を非常に簡単な操作により得ることができるカドミウム分離カラム装置を提供することが可能になるという効果を奏する。
【0030】
本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理装置は、上記カドミウム分離カラム装置と、a)当該カドミウム分離カラム装置の上記液体流入口に接続される流入液供給部、及び/又は、b)当該カドミウム分離カラム装置の上記液体流出口に接続される流出液受器と、を具備してなることを特徴としている。
【0031】
上記の構成によれば、カドミウムが選択的に分離された測定用試料を非常に簡単な操作により得ることができるという効果を奏する。
【0032】
本発明にかかる前処理装置では、上記流入液供給部は、圧送手段を有していることが好ましい。上記の構成によれば、操作時間を短縮することができるという効果を奏する。
【0033】
本発明にかかる前処理装置では、上記流出液受器は、減圧下に置かれることが好ましい。上記の構成によれば、操作時間を短縮することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0034】
本発明にかかるカドミウム測定方法は、以上のように、カラム担体として陰イオン交換樹脂を用いるので、市販品の陰イオン交換樹脂を利用することができ、時間とコストの削減という効果を奏する。また、陰イオン交換樹脂は4級アンモニウム塩構造を持つため、カラムからの4級アンモニウムイオンの溶出を防げるという効果を奏する。さらに、従来のシリカゲル担体に比べ、陰イオン交換樹脂は水銀をさらに強固に吸着するため、前処理液中に残留する水銀を完全に除去でき、以降の分析結果の精度が上昇するという効果を奏する。さらに、4級アンモニウム塩をシリカゲルにコーティングした充填カラムでは、カドミウム回収に希硝酸を用いていたが、本陰イオン交換樹脂カラムでは、より安全性の高いイオン交換水を用いる。そのことにより、イムノクロマト法での展開液による希釈率変更が容易になる。これにより、コーデックス委員会にて規制値がコメより低く設定されている、農作物の測定に必要な検出感度の向上が可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、カドミウム分離カラム装置の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すものであり、カドミウム分離装置の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示すものであり、カドミウム分離カートリッジを示し、右半分は断面図であり、左半分は平面図であり、下図は平面図である。
【図4】本発明の一実施形態を示すものであり、カドミウム分離カラム装置と、流入液供給部、及び/又は、流出液受器とを具備してなるカドミウム測定試料の前処理装置を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態を示すものであり、減圧マニホールドと、カドミウム分離カートリッジとを有するカドミウム分析用前処理装置を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示すものであり、加圧ポンプと、カドミウム分離カートリッジとを有するカドミウム分析用前処理装置を示す図である。
【図7】実施例において、土壌汚染対策法に基づく溶出量試験法の測定値と、同溶出量試験法抽出液に本発明のカドミウムの分離方法を適用して得られた測定用試料のイムノクロマト法測定値との比較を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法、カドミウムの分離方法、及び、カドミウム分離カラム装置、並びにそれらの利用について説明する。
【0037】
(I)本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法
本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法は、カドミウムの検出及び/又は定量を行う測定対象物を0.002〜2Mの塩酸溶液で塩酸抽出する塩酸抽出工程と、塩酸抽出工程で得られた塩酸抽出液を陰イオン交換樹脂と接触させてカドミウムを陰イオン交換樹脂に吸着させる吸着工程と、吸着工程でカドミウムを吸着させた陰イオン交換樹脂を、塩素イオン濃度が0.05〜12Mの塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液で洗浄する洗浄工程と、上記洗浄工程で洗浄された陰イオン交換樹脂から、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液でカドミウムを回収する回収工程とを含んでいればよい。また、上記吸着工程において、陰イオン交換樹脂と接触させる上記塩酸抽出液の塩素イオン濃度は0.05〜12Mである。
【0038】
これにより、塩酸抽出工程で得られた塩酸抽出液に含まれるカドミウム以外のマンガン、亜鉛、マグネシウム、銅、鉄等の金属を減少あるいは除去してカドミウムを選択的に回収することができる。
【0039】
また、4級アンモニウム塩が表面コーティングされたシリカゲル担体は担体の作製に時間がかかるのに対して市販品の陰イオン交換樹脂を利用することができるので、時間とコストの削減という効果を奏する。また、陰イオン交換樹脂は4級アンモニウム塩構造を持つため、カラムからの4級アンモニウムイオンの溶出を防げるという効果を奏する。さらに、従来のシリカゲル担体に比べ、陰イオン交換樹脂は水銀をさらに強固に吸着するため、前処理液中に残留する水銀を完全に除去できるという効果を奏する。それゆえ、本発明の前処理方法によって調製されたカドミウム測定用試料は測定対象物中のカドミウムの検出及び測定に好適に用いることができる。
【0040】
以下、本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法に含まれる各工程について説明する。
【0041】
(I−1)塩酸抽出工程
塩酸抽出工程は、測定対象物を0.002〜2Mの塩酸溶液で塩酸抽出する工程である。ここで、「測定対象物を0.002〜2Mの塩酸溶液で塩酸抽出する」とは、測定対象物に0.002〜2Mの塩酸溶液を添加し、カドミウム及び他の金属を抽出する工程をいう。
【0042】
本工程では塩酸溶液の濃度を0.002M以上とすることにより、測定対象物からカドミウムを十分に抽出することができる。また、塩酸溶液の濃度を2M以下とすることにより、pHが低くなりすぎないため、後の吸着工程に供するときに、pHを調製するための大量の中和剤を添加する必要がない。それゆえ、大量の中和剤の添加によるカドミウム測定用試料中のカドミウム濃度の希釈を回避することができる。
【0043】
上記塩酸溶液の濃度は、0.002〜2Mであればよいが、0.02〜1Mであることがより好ましく、0.02〜0.1Mであることがさらに好ましい。
【0044】
また、測定対象物からカドミウムを抽出する方法は、測定対象物に上記塩酸溶液を添加し抽出する方法であれば特に限定されるものではないが、測定対象物に上記塩酸溶液を添加後、浸漬する方法、攪拌する方法、振とうする方法等を用いることができる。中でも、測定対象物に上記塩酸溶液を添加後、攪拌又は振とうする方法をより好適に用いることができる。これにより、カドミウムを効率的に抽出することができる。また、浸漬、攪拌又は振とうを行う場合の、測定対象物の塩酸溶液に対する割合は、5〜20容量%であることが好ましく、10〜20容量%であることがさらに好ましい。測定対象物の塩酸溶液に対する割合を5容量%以上とすることにより、得られる塩酸抽出液中のカドミウムの濃度が薄くなり過ぎないため好ましい。また、測定対象物の塩酸溶液に対する割合を20容量%以下とすることにより、得られる塩酸抽出液中の夾雑物の量が多くなりすぎないため好ましい。
【0045】
本発明においてカドミウムの検出及び/又は定量を行う測定対象物としては、特に限定されるものではないが、例えば、農作物、水産物、畜産物、土壌、河川水、沼湖水、海水、圃場、加工食品等を挙げることができる。
【0046】
中でも、本発明にかかる前処理方法は、カドミウムの測定を妨害する亜鉛、マグネシウム、マンガン、銅、鉄等を含有する測定対象物に用いる場合に、カドミウムを選択的に分離して、上記金属の影響を受けずにカドミウムの検出、定量を行うことができるという本発明の効果を発揮することができる。かかる測定対象物としては、例えば、米、麦、蕎麦等の穀物;大豆、小豆等の豆類;じゃがいも、サトイモ等の芋類;ホウレンソウ、ネギ、オクラ、トマト、ナス、ニンジン、小松菜等の野菜類;肉類:アカイカ、ホタルイカ、帆立貝、帆立貝柱、牡蠣等の魚介類;茶;たばこ等を挙げることができる。
【0047】
本工程においては、上記測定対象物は、そのまま塩酸抽出を行ってもよいが、塩酸抽出に供する前に、より小さくすることが好ましく、細片、微細片、又は、スラリーとした上記測定対象物に、上記塩酸溶液を添加して、浸漬、攪拌、振とう等によりカドミウム等を抽出することがより好ましい。これにより、抽出の時間を短縮することができる。
【0048】
また、上記測定対象物を、細片、微細片、又は、スラリーとする方法も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を好適に用いることができる。上記測定対象物を、細片、微細片等とする方法としては例えば、ミルサー等で粉砕する方法等を挙げることができる。また、上記測定対象物を、スラリーに液状化する方法としては例えば、ジューサー、ミキサー等で液状化する方法等を挙げることができる。
【0049】
また得られた塩酸抽出液が、夾雑物を含有する場合には、かかる夾雑物を除去することがより好ましい。これにより、操作性及び検出感度が向上するため好ましい。ここで、夾雑物を除去する方法としても、特に限定されるものではなく、例えば、自然ろ過、吸引ろ過、吸着、凝集等、従来公知の方法を用いることができる。
【0050】
本塩酸抽出工程により得られた塩酸抽出液は、続く吸着工程で陰イオン交換樹脂と接触させる。そのときに、陰イオン交換樹脂と接触させる当該塩酸抽出液の塩素イオン濃度は0.05〜12Mの範囲内となるようにする。
【0051】
塩素イオン濃度が、0.05M以上であることにより、カドミウムを陰イオン交換樹脂に吸着させることができるため好ましい。また、塩素イオン濃度が、12M以下であることにより、亜鉛の陰イオン交換樹脂への吸着を防ぐことができる。
【0052】
従って、本工程により得られた塩酸抽出液は、その塩素イオン濃度が、上記範囲内であれば、そのまま吸着工程に供することができる。しかし、本工程により得られた塩酸抽出液の塩素イオン濃度が、上記範囲から外れる場合には、塩酸抽出液の塩素イオン濃度を上記範囲内に調整する塩素イオン濃度調整工程が必要となる。塩酸抽出液の塩素イオン濃度を上記範囲内に調整する方法としては、特に限定されるものではなく、塩素イオン濃度が0.05M未満である場合には、例えば、塩素イオンを供給する物質を添加すればよい。また、塩素イオン濃度が12Mを超える場合には、塩酸抽出液を希釈すればよい。
【0053】
また、続く吸着工程で陰イオン交換樹脂と接触させる塩酸抽出液のpHは、1.5〜2.5であることが好ましい。塩酸抽出液のpHが2.5以下であることにより、カドミウムが陰イオン交換樹脂に十分に吸着されるため好ましい。また、当該塩酸抽出液のpHが1.5以上であることにより、亜鉛とマンガンがカドミウムと共に吸着されることがなく、カドミウムを選択的に吸着することができる。
【0054】
従って、本工程により得られた塩酸抽出液は、そのpHが、上記範囲内であれば、そのまま吸着工程に供すればよい。しかし、本工程により得られた塩酸抽出液のpHが、2.5を超える場合には、塩酸抽出液のpHを2.5以下に調整するpH調整工程が必要となる。また、得られた塩酸抽出液のpHが、1.5未満となる場合には、夾雑イオン分離の観点からpHを1.5以上とするpH調整工程を加えることが好ましい。塩酸抽出液のpHを上記範囲内に調整する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。
【0055】
上記塩素イオン濃度調整工程及び/又はpH調整工程が必要な場合は、これらの工程は、上記塩酸抽出液を続く吸着工程で陰イオン交換樹脂と接触させる前に行えばよい。塩素イオン濃度調整工程及びpH調整工程が必要な場合は、塩素イオン濃度調整工程をpH調整工程の前に行なってもよいし、同時に行ってもよいし、塩素イオン濃度調整工程をpH調整工程の後に行なってもよい。
【0056】
(I−2)吸着工程
上記塩酸抽出工程では、カドミウムを塩酸溶液中に抽出させるが、上述したとおり、この時、亜鉛、マンガン、マグネシウム、銅、鉄等の他の金属も同時に塩酸溶液中に抽出される。従って、上記塩酸抽出工程で得られた塩酸抽出液には、亜鉛、マンガン、マグネシウム、銅、鉄等も含まれており、カドミウムの正確な測定を妨げる。そこで、本工程では、上記塩酸抽出工程で得られた塩酸抽出液を陰イオン交換樹脂と接触させることにより、塩酸抽出液中に含まれているカドミウムを選択的に陰イオン交換樹脂に吸着させる。
【0057】
ここで、本工程において、塩酸抽出液を陰イオン交換樹脂と接触させる方法は、塩酸抽出液中に含まれているカドミウムが陰イオン交換樹脂に吸着される方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、塩酸抽出液に陰イオン交換樹脂を浸漬してカドミウムを吸着させてもよいし、塩酸抽出液に陰イオン交換樹脂を添加し、攪拌又は振とうしてカドミウムを吸着させてもよい。あるいは、塩酸抽出液の陰イオン交換樹脂との接触はカラム法により行ってもよい。すなわち、陰イオン交換樹脂を充填したカドミウム分離カラム装置に、塩酸抽出液を流すことにより、カドミウムを陰イオン交換樹脂に吸着させてもよい。
【0058】
中でも、簡便且つ効率よくカドミウムを選択的に吸着させることができる点から、塩酸抽出液の陰イオン交換樹脂との接触はカラム法により行うことがより好ましい。
【0059】
本発明において、陰イオン交換樹脂はカドミウムを選択的に吸着する機能を有する。すなわち、カドミウム以外の金属も含んでいるような塩酸抽出液に陰イオン交換樹脂を接触させる場合に、カドミウムを選択的に吸着する機能、換言すれば、カドミウムを分離する機能を有する。
【0060】
本発明で用いられる陰イオン交換樹脂は、特に限定されるものではなく、どのような陰イオン交換樹脂であってもよいが、4級アンモニウム塩、又は、3級アミンを有しているものであることがより好ましい。また、4級アンモニウム塩としては、−N(R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基等を示し、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子、又は、過塩素酸イオン、水酸イオン、酢酸イオン等の陰イオンを示す。)で表される構造を有していることがさらに好ましい。また、3級アミンとしては、−NR(R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基等を示す。)で表される構造を有していることがさらに好ましい。中でも、上記陰イオン交換樹脂は、4級アンモニウム塩構造を有していることが特に好ましい。
【0061】
ここで、上記R、R、R、R及びRがアルキル基である場合、当該アルキル基は、直鎖状であっても、枝分かれ状であっても、環状であってもよい。中でも、上記R、R、R、R及びRは、直鎖状であることがより好ましい。また、R、R及びRは同じであっても異なっていてもよいし、R及びRも同じであっても異なっていてもよい。中でも、R、R及びRは同じであることがより好ましく、R及びRも同じであることがより好ましい。
【0062】
また、上記4級アンモニウム塩においては、上記R、R及びRの少なくも1つが炭素数1〜18のヒドロキシアルキル基に置き換わっていてもよい。
【0063】
また、4級アンモニウム塩の上記R、R及びRがアルキル基である場合、当該アルキル基のR、R及びRの合計炭素数は、3〜54であることが好ましく、8〜40であることがより好ましい。
【0064】
また、アミノ基の上記R及びRがアルキル基である場合、当該アルキル基の合計炭素数は、2〜36であることが好ましく、8〜16であることがより好ましい。
【0065】
また、上記R、R、R、R及びRがアリール基である場合、当該アリール基は単環式であってもよいし、多環式であってもよい。かかるアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を挙げることができる。また、R、R及びRは同じであっても異なっていてもよいし、R及びRも同じであっても異なっていてもよい。中でも、R、R及びRは同じであることがより好ましく、R及びRも同じであることがより好ましい。
【0066】
また、本発明で用いられる陰イオン交換樹脂としては、母体合成樹脂に−R−Nが結合した陰イオン交換樹脂を好適に用いることができる。ここで、R、R及びRは上述したとおりであり、RもR、R及びRと同様でありうる。かかる陰イオン交換樹脂としては、例えば、具体的には、母体合成樹脂にテトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウム等が結合した陰イオン交換樹脂を挙げることができる。すなわち、母体合成樹脂にテトラエチルアンモニウムが結合した陰イオン交換樹脂は、Rがエチレン基であり、R、R及びRがエチル基である。また、母体合成樹脂にテトラブチルアンモニウムが結合した陰イオン交換樹脂は、Rがブチレン基であり、R、R及びRがブチル基である。また、母体合成樹脂にトリオクチルメチルアンモニウムが結合した陰イオン交換樹脂は、R、R、R及びRの何れか1つが、メチル基又はメチレン基であり、他の3つがオクチル基又はオクタメチレン基であればよいが、Rがメチレン基であり、R、R及びRがオクチル基であることがより好ましい。また、母体合成樹脂にトリドデシルメチルアンモニウムが結合した陰イオン交換樹脂は、R、R、R及びRの何れか1つが、メチル基又はメチレン基であり、他の3つがドデシル基又はドデカメチレン基であればよいが、Rがメチレン基であり、R、R及びRがドデシル基であることがより好ましい。
【0067】
中でも、母体合成樹脂に−R−Nが結合した陰イオン交換樹脂では、Rがメチレン基であり、R、R及びRが炭素数6〜12のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0068】
なお、入手のしやすさの観点からは、−NMeMeMeClの構造を持つ陰イオン交換樹脂が、市販品が容易に入手できることからより好ましい。
【0069】
4級アンモニウム塩の対イオンXとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン等のハロゲンイオン;過塩素酸イオンまたは水酸イオン等が例示されるが、対イオンXは塩素イオンであることがより好ましい。
【0070】
また、本発明で用いられる陰イオン交換樹脂の母体合成樹脂も特に限定されるものではなく、通常陰イオン交換樹脂に用いられる母体合成樹脂であれば何でもよい。かかる母体合成樹脂としては、例えば、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体等を挙げることができる。なお、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体における架橋度はジビニルベンゼンの含有率により示されるが、ジビニルベンゼンの含有率は1%〜10%(架橋度は1%〜10%)であることがより好ましい。
【0071】
また、上記陰イオン交換樹脂の平均粒径は、大きすぎると理論段数が低下するので所望の性能が発揮されず、小さすぎると圧力損失が大きくなって通液速度が低下してしまうことから、50〜400meshのものを用いることが好ましく、200〜400meshのものを用いることがより好ましい。
【0072】
なお、ここで、陰イオン交換樹脂の平均粒径は、湿式分級で決定される値をいう。
【0073】
上記陰イオン交換樹脂としては、例えば、市販のダウエックス(登録商標)2×8樹脂(Cl−型)、ダウエックス(登録商標)1×2樹脂(Cl−型)、ダウエックス(登録商標)1×4樹脂(Cl−型)、ダウエックス(登録商標)1×8樹脂(Cl−型)等をより好適に用いることができる。
【0074】
(I−3)洗浄工程
洗浄工程では、上記吸着工程によりカドミウムイオンが吸着された陰イオン交換樹脂を、塩素イオン濃度が0.05〜12Mの塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液で洗浄する。なお、これらの塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液は、アルカリ金属以外の金属を全く又は殆ど含有しないものである。ここで、塩酸のアルカリ金属塩水溶液としては、例えば、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液等を挙げることができる。
【0075】
これにより、上記吸着工程で用いた容器内、又はカラム法を用いる場合は、カラム容器内に付着して、陰イオン交換樹脂まで到達しなかったカドミウムが陰イオン交換樹脂に吸着される。また、陰イオン交換樹脂の樹脂表面や樹脂間の隙間に残っているカドミウム以外の金属を洗い流すことが可能となり、カドミウム以外の金属をより減少させて、測定をより正確に行うことが可能となる。
【0076】
本工程において、陰イオン交換樹脂を洗浄する方法は、容器内に付着するカドミウムを陰イオン交換樹脂に吸着させ、カドミウム以外の金属を洗い流すことができる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、洗浄用の塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液に陰イオン交換樹脂を浸漬して洗浄してもよいし、洗浄用の塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液に陰イオン交換樹脂を添加し、攪拌又は振とうして洗浄してもよい。あるいは、陰イオン交換樹脂の洗浄はカラム法により行ってもよい。すなわち、陰イオン交換樹脂を充填したカドミウム分離カラム装置に、洗浄用の塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液を流すことにより、カドミウム分離カラム容器内部と陰イオン交換樹脂とを洗浄してもよい。
【0077】
本工程で洗浄に用いる塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液は、塩素イオン濃度が0.05〜12Mであることが好ましい。洗浄に用いる塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液の塩素イオン濃度が、0.05M以上であることにより、カドミウムの陰イオン交換樹脂への吸着を維持することができるため好ましい。また、塩素イオン濃度が、12M以下であることにより、容器内に付着している亜鉛及び樹脂表面や樹脂間の隙間に残っている亜鉛の陰イオン交換樹脂への吸着を防ぐことができる。
【0078】
また、洗浄に用いる塩酸の濃度は、0.01〜12Mであることが好ましく、0.01〜1.0Mであることがより好ましく、0.01〜0.1Mであることがさらに好ましい。塩酸濃度を0.01M以上とすることにより、pHが高くなることを回避することができる。それゆえ、容器に付着したカドミウムをカラムに吸着させる程度にpHを高くすることができるため好ましい。また、塩酸濃度を12M以下とすることにより、カドミウム以外の金属が陰イオン交換樹脂に吸着することを防ぐことができるため好ましい。なお、塩酸の濃度が、0.01M以上0.05M未満の場合のように、その塩素イオン濃度が上記範囲から外れる場合は、塩素イオン濃度が0.05M以上になるように調整すればよい。塩素イオン濃度を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、塩素イオンを供給する物質を添加すればよい。
【0079】
(1−4)回収工程
回収工程では、上記洗浄工程で洗浄された陰イオン交換樹脂から、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液でカドミウムを回収する。なお、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液は、金属を実質的に含有しないものである。
【0080】
本工程において、カドミウムを回収する方法は、カドミウムを吸着させた陰イオン交換樹脂からカドミウムを溶出させることができる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液に陰イオン交換樹脂を浸漬してカドミウムを溶出させてもよいし、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液に陰イオン交換樹脂を添加し、攪拌又は振とうしてカドミウムを溶出させてもよい。あるいは、陰イオン交換樹脂からのカドミウムの回収はカラム法により行ってもよい。すなわち、カドミウムを吸着させた陰イオン交換樹脂を充填したカドミウム分離カラム装置に、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液を流すことにより、陰イオン交換樹脂からカドミウムを溶出させて回収してもよい。
【0081】
これにより、陰イオン交換樹脂に吸着しているカドミウムを、陰イオン交換樹脂から解離し、水溶液中に溶出させて回収することができる。
【0082】
本工程で回収に用いる水溶液は、塩素イオン濃度が0.05M未満であればよい。かかる水溶液には勿論、水道水、イオン交換水、蒸留水等も含まれる。また、0.05〜1.0Mの酢酸アンモニウム水溶液も好適に用いることができる。本工程では、カドミウムの回収に用いられる水溶液の塩素イオン濃度を0.05M未満とすることにより、陰イオン交換樹脂に吸着しているカドミウムを、陰イオン交換樹脂から解離させることができる。
【0083】
本工程を、カラム法を用いて行う場合には、カドミウム分離カラムに塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液を流す。その際の最適な流速について説明する。ここで、当該水溶液の流速を速くすればカドミウムの分離処理時間(回収時間)を短縮することができるが、カドミウムの回収率が低下してしまう。従って、カドミウムの回収率が低下しない程度の流速とする必要がある。後述する実施例では、カドミウム分離カラム装置を直径13mmとして、0.6mLの陰イオン交換樹脂を充填したカドミウム分離カラムに3mL/min以下の流速で溶液を流すようにしているが、この例には限られず、カラム径、担体の量、担体の性質(大きさや孔径等)等により最適な流速が適宜決定される。
【0084】
(I−5)その他の工程
本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法は、塩酸抽出工程と、吸着工程と、洗浄工程と、回収工程とを少なくとも含んでいればよいが、必要に応じて、その他の工程を含んでいてもよい。かかる工程としては、例えば、塩酸抽出工程で得られた塩酸抽出液の塩素イオン濃度を調整する塩素イオン濃度調整工程、塩酸抽出液のpHを調整するpH調整工程、陰イオン交換樹脂から回収されたカドミウムを含む水溶液を、カドミウム測定用試料として調製する工程等を挙げることができる。
【0085】
陰イオン交換樹脂から回収されたカドミウムを含む水溶液を、カドミウム測定用試料として調製する工程は、用いられる測定方法に応じて、必要により行えばよい。例えば、上記回収工程で得られたカドミウムを含有する水溶液は、中和され、希釈されてカドミウム測定用試料として調製される。また、ここで中和、希釈は、通常の方法で行えばよく、特に限定されるものではない。
【0086】
(II)カドミウムの分離方法
また、本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法は、上記塩酸抽出工程で、測定対象物からカドミウムを抽出して得られる塩酸抽出液を出発点として、吸着工程と、洗浄工程と、回収工程とにより、カドミウムを選択的に分離する方法という観点からみると、カドミウムの分離方法を包含する。従って、本発明には、カドミウムの分離方法も含まれる。
【0087】
本発明にかかるカドミウムの分離方法は、カドミウム含有溶液から、カドミウムを選択的に分離する分離方法であって、塩素イオン濃度が、0.05〜12Mであるカドミウム含有溶液を用い、当該カドミウム含有溶液を陰イオン交換樹脂と接触させてカドミウムを陰イオン交換樹脂に吸着させる吸着工程と、上記吸着工程でカドミウムを吸着させた陰イオン交換樹脂を、塩素イオン濃度が0.05〜12Mの塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液で洗浄する洗浄工程と、上記洗浄工程で洗浄された陰イオン交換樹脂から、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液でカドミウムを回収する回収工程とを含んでいればよい。
【0088】
本発明にかかるカドミウムの分離方法を構成する、吸着工程と、洗浄工程と、回収工程については、上記(I−2)〜(I−5)で説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0089】
また、用いられるカドミウム含有溶液の、塩素イオン濃度及びpHは、上記(I−1)で、説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0090】
(III)カドミウムの測定方法
本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法によって得られた、陰イオン交換樹脂から回収されたカドミウムを含む水溶液は、そのままカドミウム測定用試料として、又は、カドミウム測定用試料として調製され、カドミウムの測定に供される。従って、本発明には、本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法を用いてカドミウム測定用試料を調製する工程と、当該工程により調製されたカドミウム測定用試料を用いてカドミウムの検出及び/又は定量を行う工程とを含むカドミウムの測定方法も含まれる。
【0091】
本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法を用いてカドミウム測定用試料を調製する工程は、上記前処理方法を利用する方法であればよい。
【0092】
また、本発明にかかるカドミウム測定用試料の前処理方法を用いてカドミウム測定用試料を調製する工程により調製されたカドミウム測定用試料を用いてカドミウムの検出及び/又は定量を行う工程で用いられる方法も特に限定されるものではなく、イムノアッセイ法、ICP法、蛍光X線法、ボルタンメトリー法又は吸光法等を用いることができる。より具体的には、原子吸光分析(AAS(=atomic absorption spectrometry))、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP−AES(=inductively coupled plasma atomic emission spectrometry))、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS(=inductively coupled plasma [source] mass spectrometry))等でカドミウム含有量を測定してもよいし、例えば、硝酸水溶液に導電性ダイヤモンド電極と対電極との間で電圧を印加して電流値を測定する方法(特開2005−49275号公報)、カドミウムをキレート剤に配位させ、この形成された錯体をモノクローナル抗体(例えば、特許生物寄託センターの寄託番号 FERM P−19240 のハイブリドーマが産生する抗カドミウムモノクローナル抗体So26G8、例えば、特許生物寄託センターの寄託番号 FERM P−19703 のハイブリドーマが産生する抗カドミウムモノクローナル抗体Nx22C3)により検出・測定するイムノアッセイ法等を挙げることができる。
【0093】
中でも、本発明で得られるカドミウム測定用試料は、他の金属が排除され、カドミウムが選択的に分離されたカドミウム測定用試料であることから、他の金属が測定を妨害するような、カドミウムの検出方法又は定量方法を採用するときに、本発明の効果がより有効に発揮される。従って、本発明にかかるカドミウムの測定方法で用いられるカドミウムの検出方法又は定量方法は、イムノアッセイ法等であることがより好ましい。
【0094】
本発明では、上記前処理方法を用いることにより、他の金属が排除され、カドミウムが選択的に分離されたカドミウム測定用試料を得ることができ、また、陰イオン交換樹脂を用いることにより、特に、従来のシリカゲルを用いた分離方法では、分離が十分でなかった、水銀からもカドミウムを効果的に分離することができる。よって、カドミウムが高度に分離された測定試料を用いる必要性が高い、イムノアッセイ法等に用いたときに効果的である。
【0095】
中でも、イムノアッセイ法としては、特開2004−323508号公報(特許文献1)に記載されている方法を好適に用いることができ、イムノクロマト法等を用いることができる。特に特許文献1に記載のモノクローナル抗体を含め必要な試薬がフィルター等に吸着されている試験紙のような形態を用いて行うことがより好ましい。本発明にかかる前処理方法を用い、かかる試験紙を用いることにより、カドミウムの濃度を迅速かつ簡便に分析できる。
【0096】
(VI)カドミウム分離カラム装置
本発明者らは、上記問題を解決するために、陰イオン交換樹脂を用いたところ、カラムからの4級アンモニウムイオンの溶出を防げ、さらに、従来のシリカゲル担体に比べ、陰イオン交換樹脂は水銀をさらに強固に吸着するため、前処理液中に残留する水銀を完全に除去できることを見出した。それゆえ、陰イオン交換樹脂を用いたカドミウム分離カラム装置も、本発明に含まれる。
【0097】
すなわち、本発明にかかるカドミウム分離カラム装置は、液体流入口と液体流出口とを有するカラム容器と、当該カラム容器の液体流入口と液体流出口との間に収容される陰イオン交換樹脂とを備えるものである。
【0098】
以下、本発明にかかるカドミウム分離カラム装置の一実施形態について、図1、2に基づいて説明する。カドミウム分離カラム装置1は、液体流入口3と液体流出口4とを有するカラム容器2と、当該カラム容器2の液体流入口3と液体流出口4との間に収容される陰イオン交換樹脂7とを備えている。
【0099】
カラム容器2には、液体流入口3と液体流出口4とを設けるようにする。カラム容器2の素材としては例えば、プラスチック等を採用できるが、これらに限られるものではない。また、カラム容器2の形状としては、図1は円筒状のものを示すが、これ以外の形状であってもよい。また、カラム容器2の大きさも特に限定されるものではないが、例えば円筒状の場合は、直径が9〜15mm、高さが40〜60mmであることが好ましい。また、液を陰イオン交換樹脂7に通液する方法としては、液を重力落下させる自然落下法を用いてもよいし、液体流入口3側からピストン等により加圧する押し出し法を用いてもよいし、液体流出口4側から吸引する吸引法を用いてもよい。
【0100】
上記自然落下法には注射筒型のカドミウム分離カラム装置を用いることができ、上記吸引法と押し出し法には注射筒型のカドミウム分離カラム装置又はカートリッジ型のカドミウム分離カラム装置を用いることが出来る。
【0101】
また、本発明にかかるカドミウム分離カラム装置では、液体流入口3側に陰イオン交換樹脂7を押さえるようにしてフィルタ5を設けてもよい。フィルタ5を設けることで液中に存在する懸濁物等により陰イオン交換樹脂7が目詰まりを起こすのを防止することができ、また、陰イオン交換樹脂7が液体に拡散して良好な充填状態を保てなくなるのを防止することができる。フィルタ5としては、その孔径が陰イオン交換樹脂7の粒径よりも小さく、さらに、液中に存在する懸濁物等の浸入を防げる程度に粒径が小さいことが好ましい。また、フィルタ5は親水性を有するものであることが好ましい。これにより、液体がフィルタ5全体に浸透して、陰イオン交換樹脂7に均一に広がるようになることから好ましい。さらに、フィルタ5は、使用する液体に対して耐性を有することも必要である。かかるフィルタ5としては、例えば分析用の定量濾紙(例えば、アドバンテック社製高純度濾紙、No.5B等)を採用することができるが、フィルタ5は勿論これに限られるものではない。
【0102】
また、本発明にかかるカドミウム分離カラム装置では、カラム容器2内部にフィルタ押さえ8を設けてもよい。液体流入口3側のフィルタ5が固定されていない場合には、液体を入れた際にフィルタ5が浮いて陰イオン交換樹脂7が液体中に拡散して良好な充填状態を保てなくなるおそれがある。これに対して、フィルタ押さえ8を設けることで、フィルタ5が浮いて陰イオン交換樹脂7が分散するのを防ぐことができるだけでなく、陰イオン交換樹脂7の充填状態を安定に保持することができる。
【0103】
また、液体流出口4側にもフィルタ6を設けて、陰イオン交換樹脂7が液体流出口4から流出されるのを防ぐようにしてもよい。フィルタ6としては、その孔径が陰イオン交換樹脂7の粒径よりも小さく、使用時の液体の通液による圧力損失が極力少ない孔径のものを用いることが好ましい。こうすることで、陰イオン交換樹脂7がフィルタ6を通過して流出してしまうのを防ぐことができる。また、陰イオン交換樹脂7を通過した液体を効率よく液体流出口4から排出するために、フィルタ6は親水性を有することが好ましい。さらに、フィルタ6は、使用する液体に対して耐性を有することも必要である。このフィルタ6の場合も、フィルタ5と同様に、例えば分析用の定量濾紙(例えば、アドバンテック社製高純度濾紙、No.5B等)を採用することができるが、フィルタ6はこれに限られるものではない。
【0104】
また、液体流入口3は後述する流入液供給部と接続可能になっていることが好ましく、さらに接続部分は着脱可能であることが好ましい。着脱可能であると、後述する流入液供給部を容易に交換することができる。
【0105】
次に、陰イオン交換樹脂7をカラム容器2内に充填する場合には、例えば以下のようにする。まず、カラム容器2にフィルタ6を入れる。次に陰イオン交換樹脂7を適量充填して、その上にフィルタ5を置く。そして、フィルタ5全体をピストン等で軽く圧縮する。なお、陰イオン交換樹脂7を、例えば、カラム容器2のサイズに合うような固形タイプのものとした場合には、陰イオン交換樹脂7を上記のようにして充填する必要が無くなる。さらに、このような固形タイプの陰イオン交換樹脂を用いれば、陰イオン交換樹脂7が液体流出口4から流出することを防止できるので、フィルタ6を用いる必要はないし、通液する液体に懸濁物が存在しない場合には、フィルタ5を用いる必要はない。
【0106】
尚、陰イオン交換樹脂はカドミウムの分離処理を行う程度の時間であれば問題にはならないものの、光劣化を起こすおそれがある化合物である。したがって、カドミウム分離カラム装置は暗所に保存するか、又は、カラム容器2に遮光性を持たせるようにすることが好ましい。
【0107】
なお、陰イオン交換樹脂については、上記(I−2)で説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0108】
次に、本発明にかかるカドミウム分離カラム装置の他の実施形態として、図3に示すカドミウム分離カートリッジ9について説明する。カドミウム分離カートリッジ9は、液体流入口10と液体流出口12とを有するカラム容器と、当該カラム容器の液体流入口10と液体流出口12との間に設けられた収納部11に収容される陰イオン交換樹脂とを備えるものである。上記カラム容器は、液体流入口10と液体流出口12との2箇所の開口部を除いては密閉されている。
【0109】
また、カドミウム分離カートリッジ9の材質としては、加工のしやすさの観点から、例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製等のポリオレフィン製;フッ素樹脂製等を好適に用いることができる。さらに、耐薬品性の観点からは、カドミウム分離カートリッジ9は、ポリプロピレン製、フッ素樹脂製等であることが好ましく、とりわけ、ポリプロピレン製であることが好ましい。
【0110】
液体流出口12は、液体が吸入によってカドミウム分離カートリッジ9に注入される場合には、空気の吸引口として機能し、液体が圧送によってカドミウム分離カートリッジ9に注入される場合には空気の排出口として機能する。
【0111】
本カドミウム分離カートリッジ9における液体流入口10の断面積は、収納部11の断面積よりも小さい。
【0112】
液体流入口10及び収納部11の断面の形状は、通常、略円形であり、液体流入口10の直径(図3のr)は、収納部11の直径(図3のR)よりも小さいことが好ましい。これにより、液体流入口10から流入した液体が収納部11全体に分散され、カドミウムを収納部11に充填された陰イオン交換樹脂に効率的に吸着させることができる。
【0113】
また、液体流入口10は着脱可能であることが好ましい。着脱可能であると、後述する流入液供給部を容易に交換することができる。
【0114】
液体流入口10と収納部11との間にはフィルタ13が具備されている。フィルタ13が存在することにより、液体流入口10から液体を収納部11全体に分散させ、カドミウムを効率的に陰イオン交換樹脂に吸着させることができる。
【0115】
上記フィルタ13としては、塩酸等の酸及び試料等のフィルタに接触する物質に対する耐薬品性があれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製、フッ素樹脂製、ガラス製等のフリット;濾紙等;これらを組み合わせたフィルタを挙げることができる。
【0116】
中でも、上記フィルタ13としては、ポリプロピレン製フリットをより好適に用いることができる。ポリプロピレン製フリットは、安価で、入手が容易で、耐薬品性に優れる。また、カドミウム分離カートリッジ9を作製する際に、収納部11に陰イオン交換樹脂を充填したのち、収納部11の上面を簡単に平滑にすることができることから好ましい。
【0117】
また、液体流出口12から陰イオン交換樹脂を流出させないために、液体流出口と収納部11との間には、通常、フィルタ14が具備されている。
【0118】
本発明のカドミウム分離カートリッジ9の収納部11には、カドミウムを選択的に吸着する陰イオン交換樹脂が充填されている。ここで、陰イオン交換樹脂の使用量は、吸着するカドミウムの量に応じて、適宜、設定すればよいが、ハンディタイプの注射筒で試料を注入する場合のカドミウム分離カートリッジ9には、0.3〜1.0gの陰イオン交換樹脂が用いられる。
【0119】
カドミウム分離カートリッジ9の大きさは、試料中のカドミウムを十分に吸着し得る陰イオン交換樹脂を収容できる大きさであればよい。具体的には、収納部11の直径(図3のR)は5〜10mmであることが好ましい。収納部11の直径が少なくとも5mm以上であれば、試料の通液速度の制御が容易になる傾向があることから好ましい。また、収納部11の高さ(図3のH)は、通常、5mm以上であれば、収納部11における試料の保持時間の制御が容易になる傾向があることから好ましい。
【0120】
本発明のカドミウム分離カートリッジ9は、±1気圧程度の加圧あるいは減圧に耐えられる構造であることが好ましい。これにより、カドミウム分離カートリッジ9の収納部11を加圧あるいは減圧にして、試料等の通液速度を上げ、迅速に前処理することができる。
【0121】
(V)カドミウム分析用前処理装置
本発明にかかるカドミウム分離カラム装置は、これを利用し、さらにa)当該カドミウム分離カラム装置の上記液体流入口に接続される流入液供給部、及び/又は、b)当該カドミウム分離カラム装置の上記液体流出口に接続される流出液受器を備えることにより、カドミウム分析用のカドミウム測定用試料の前処理に好適に用いることができる。
【0122】
それゆえ、本発明には、本発明にかかるカドミウム分離カラム装置と、当該カドミウム分離カラム装置の上記液体流入口に接続される流入液供給部、及び/又は、b)当該カドミウム分離カラム装置の上記液体流出口に接続される流出液受器18とを具備してなるカドミウム測定試料の前処理装置も含まれる。
【0123】
本発明にかかるカドミウム測定試料の前処理装置の一実施形態を図4に示す。本実施形態にかかるカドミウム測定試料の前処理装置は、カドミウム分離カラム装置としてのカドミウム分離カートリッジ9と、当該カドミウム分離カートリッジ9の液体流入口10に接続される流入液供給部17、及び/又は、b)当該カドミウム分離カートリッジ9の上記液体流出口12から流出する液体を受け入れるように上記液体流出口12に接続される流出液受器18とを具備している。
【0124】
流入液供給部17は、シリンダー部15とピストン16とから構成され、液体を圧送できるとともに、吸引することができるようになっている。流入液供給部17は、かかる圧送手段を有していることが好ましく、例えば注射器を好適に用いることができる。
【0125】
カドミウム分離カートリッジ9に流入する液体は、流入液供給部17のシリンダー部15に準備され、ピストン16に押し出され、カドミウム分離カートリッジ9を通過して、流出液受器18に導かれる。カドミウム分離カートリッジ9に流入する液体が1つの流入液供給部17で処理できない場合には、試料の入った第2の流入液供給部17に交換し、続いて、同様に、カドミウム分離カートリッジ9にカドミウムを吸着させればよい。この際、液体流入口10が流入液供給部17を着脱できる構造であると、容易に流入液供給部17を交換することができる。
【0126】
次に、陰イオン交換樹脂に含まれるカドミウム以外の金属イオンを洗浄するために、塩酸等の洗浄液を導入した流入液供給部17に交換して、当該洗浄液をカドミウム分離カートリッジ9に通液する。
【0127】
続いて、陰イオン交換樹脂からカドミウムイオンを脱離させるために、例えば、イオン交換水を導入した流入液供給部17に交換して、当該イオン交換水をカドミウム分離カートリッジ9に通液し、カドミウム分析用に前処理されたカドミウム濃縮液を得る。
【0128】
なお、流入液供給部17は、カドミウム分離カラム装置に液体を供給できるものであれば、シリンダー部15とピストン16とから構成されるものに限られるものではない。
【0129】
流入液供給部17は、圧送手段としては、シリンダー部15とピストン16との他にも加圧ポンプ等を用いることができる。また、流出液受器18は、減圧下に置かれる構成であってもよい。
【0130】
図5に、カドミウム分析用前処理装置の他の実施態様を示す。カドミウム分離カラム装置としてのカドミウム分離カートリッジ9の液体流入口10には、流入液供給部17のシリンダー部が接続されている。
【0131】
カドミウム分離カートリッジ9の液体流出口12は減圧マニホールド19に接続される。当該減圧マニホールド19には、流出液受器18、および、真空ポンプ21が具備されており、減圧マニホールド19を減圧することにより、流入液供給部17からカドミウム分離カートリッジ9に、例えば、塩酸抽出液、塩酸等の洗浄液、イオン交換水等の回収液等の液体を通液することができる。減圧マニホールド19とカドミウム分離カートリッジ9との接続箇所が複数あれば、複数のカドミウム分離カートリッジ9を接続することができる。
【0132】
減圧マニホールド19には、必要に応じて、減圧メーター20、減圧調整弁(図示せず)、吸引瓶(図示せず)等を接続していてもよい。
【0133】
図6に、カドミウム分析用前処理装置のさらに他の実施態様を示す。流入液を圧送する場合、カドミウム分離カラム装置としてのカドミウム分離カートリッジ9を通液する液体を供給するための貯槽23、および、加圧ポンプ22がカドミウム分離カートリッジ9に接続されている場合等が例示される。
【0134】
なお、図4〜6では、カドミウム分離カラム装置として、当該カドミウム分離カートリッジ9を備えているが、カドミウム分離カラム装置としては、当該カドミウム分離カートリッジ9に限られるものではなく、例えば図1及び2に示すカドミウム分離カラム装置を備えていてもよい。
【実施例】
【0135】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0136】
なお、本実施例においては、イムノクロマト法による測定を行うに当たり、カドミウムとしてCd−EDTAを特異的に認識するモノクローナル抗体として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成16年2月26日付けで受託番号FERM P−19703として寄託されているハイブリドーマから産生されるNx22C3を用いた。
【0137】
また、本実施例において、ICP−AESは、ICP発光分光分析装置として(株)リガク社製SPECTRO CIROS−120(EOP)またはエスアイアイナノテクノロジーズ(株)社製 SPS−3100を用いて行った。測定した元素と用いた波長は、Cd(214.438nm)、Zn(213.856nm)、Mn(257.610nm)、Mg(279.553nm)、Fe(259.940nm)、Cu(324.754nm)である。検量線作成用の金属標準溶液は原子吸光分析用(和光純薬工業製)を用いて作製した。測定は3回繰り返し、その平均を測定値とした。
【0138】
〔実施例1:カドミウム分離カラム装置の作製及びカドミウム標準液を用いた評価〕
表1に記載の陰イオン交換樹脂(ダウエックス(登録商標)1×8、1×4、1×2、2×8(すべてCl−型、200−400mesh)を、それぞれカラム容器(直径13mm、高さ50mm)に0.6mLずつ充填して、カドミウム分離カラム装置を作製した。作製したカドミウム分離カラム装置に、カドミウム100標準液(和光純薬製、Cd濃度:100mg/L)を希釈して調製したカドミウム濃度0.040mg/L(0.1N塩酸溶液、塩素イオン濃度:0.1M)を5mL通液し、カドミウムを吸着させた(吸着工程)。続いて、塩素イオン濃度が0.1Mの0.1N塩酸5mLを通液した(洗浄工程)。その後、表1に記載の各回収液を5mLずつ3回通液し(回収工程)、各通液により得られる流出液について、ICP−AESを用いてカドミウム濃度の測定を行った。測定結果を表1に示す。なお、本実施例において、各通液速度は、すべての工程において、0.1mL/sec以下であった(特に表示する場合を除き、以下の実施例においても同様。)。また、各回収液の塩素イオン濃度は0.05M未満であった。
【0139】
【表1】

【0140】
表1中及び以下本明細書の表において、「吸着」は吸着工程の流出液中のカドミウム濃度、「洗浄」は洗浄工程の流出液中のカドミウム濃度、「回収(計)」は、回収工程で得られるカドミウムの合計回収量である。また、「回収率(%)」は、カドミウムの合計回収量の、測定試料中のカドミウム濃度に対する割合である。
【0141】
表1に示されるように、カドミウムの合計回収量は、いずれの陰イオン交換樹脂を用いた場合も、ほぼ100%であった。また、いずれの回収液を用いた場合も、カドミウムの合計回収量は、ほぼ100%であった。
【0142】
〔実施例2:測定試料のカドミウム濃度とカドミウム回収率〕
陰イオン交換樹脂として、ダウエックス(登録商標)1×4樹脂(Cl−型、200−400mesh)を用い、実施例1と同様にして、カドミウム分離カラム装置を作製した。
【0143】
作製したカドミウム分離カラム装置に、表2「Cd濃度」に示す各濃度に調製したカドミウム0.1N塩酸溶液(塩素イオン濃度:0.1M)を5mLずつ通液して陰イオン交換樹脂に吸着させ(吸着工程)、0.1N塩酸水5mL(塩素イオン濃度:0.1M)で洗浄し(洗浄工程)、イオン交換水又は1M酢酸アンモニウム水溶液を5mLずつ3回通液し(回収工程)、各通液により得られる流出液について、ICP−AESを用いてカドミウム濃度の測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0144】
【表2】

【0145】
表2に示されるように、いずれの条件においても、ほぼ100%のカドミウムを回収することができた。この結果から、試料液中のカドミウムが低濃度である場合も、カドミウムの回収率が極めて良好であることが判る。
【0146】
〔実施例3:通液速度とカドミウム回収率>
陰イオン交換樹脂の充填量を0.8mLとした以外は、実施例1と同様にして、カドミウム分離カラム装置(陰イオン交換樹脂:1×4(Cl−型)200−400mesh)を作製した。作製したカドミウム分離カラム装置に、表3に示すように、通液速度を変えて、カドミウム0.1N塩酸溶液(Cd濃度0.10mg/L、塩素イオン濃度:0.1M)を5mL通液し(吸着工程)、0.1N塩酸水5mL(塩素イオン濃度:0.1M)で洗浄(洗浄工程)、イオン交換水を5mLずつ3回通液し(回収工程)、各通液により得られる流出液について、ICP−AESを用いてカドミウム濃度の測定を行った。なお、本実施例においては、表3の各通液速度は、吸着、洗浄及び回収のすべての工程において採用した。測定結果を表3に示す。
【0147】
【表3】

【0148】
表3に示すように、カドミウムの合計回収量は、いずれの通液速度の場合も、ほぼ100%であった。
【0149】
〔実施例4:陰イオン交換樹脂の充填量とカドミウム回収率〕
陰イオン交換樹脂の充填量を、表4に示すように変化させた以外は実施例1と同様にして、表4に示すイオン交換樹脂を用いて、カドミウム分離カラム装置を作製した。得られたカドミウム分離カラム装置に、カドミウム0.1N塩酸溶液(Cd濃度0.10mg/L、塩素イオン濃度:0.1M)を1mLずつ通液し(吸着工程)、0.1N塩酸水(塩素イオン濃度:0.1M)1mL×3で洗浄(洗浄工程)、イオン交換水を1mLずつ6回通液し(回収工程)、各通液により得られる流出液について、ICP−AESを用いてカドミウム濃度の測定を行った。測定結果を表4に示す。
【0150】
【表4】

【0151】
表4に示すように、カドミウムの合計回収量は、陰イオン交換樹脂の充填量を表4のように変化させた場合も、ほぼ100%であった。
【0152】
〔実施例5:カドミウム分離カラムによる他金属イオンの除去効果〕
カドミウム分離カラム装置を用いてコメ抽出液(塩酸抽出溶液)に含まれるカドミウムの分離を試みた。コメの粉砕試料2gを0.1Mの塩酸20gで振とう処理した後、ろ過によって抽出液から不溶物を除きコメ抽出液を得た。このコメ抽出液の塩素イオン濃度は0.1Mであった。このコメ抽出液中の他の金属イオンの濃度(単位:mg/L)をICP−AESで測定したところ、表5(「コメ抽出液(元液)中濃度」)に示すとおりであった。
【0153】
陰イオン交換樹脂としてダウエックス(登録商標)1×2樹脂および2×8樹脂(いずれの樹脂もCl−型、200−400mesh)を用い、それぞれについて、実施例1と同様にして、カドミウム分離カラム装置を作製した。
【0154】
作製したカドミウム分離カラム装置に、コメ抽出液を1mL通液し(吸着工程)、0.1N塩酸(塩素イオン濃度:0.1M)をダウエックス(登録商標)1×2樹脂を充填したカラムの場合は1mL、2×8樹脂を充填したカラムの場合は3mL通液して洗浄(洗浄工程)した後に、イオン交換水をダウエックス(登録商標)1×2樹脂を充填したカラムの場合は1mL、2×8樹脂を充填したカラムの場合は3mL通液(回収工程)した。各工程で得られる各流出液について、カドミウム、および、その他金属の濃度をすべてICP−AESによって測定し、カドミウム、および、その他金属の回収状況を調査した。測定結果を表5に示す。なお、分離は自然落下法により、行った。
【0155】
【表5】

【0156】
表5に示すように、各通液により得られる流出液中のカドミウム濃度の測定結果から、実際にコメからカドミウムを抽出した試料においても問題なくカドミウムの陰イオン交換樹脂への吸着、および、陰イオン交換樹脂からの回収が行われていることが確認された。またほぼ全量のカドミウムが回収可能であることがわかった。
【0157】
また、銅、亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウムについては、吸着工程の流出液と洗浄工程の流出液とに、コメ抽出液中に含まれるこれらの金属イオンの大部分が含まれていることから、大部分は陰イオン交換樹脂に吸着されることなく流出されたことが確認された。
【0158】
以上の結果から本発明のカドミウム分離カラム装置により、カドミウムが極めて選択的に分離されることが判る。
【0159】
次に、回収工程の流出液中の各金属イオン濃度のICP−AES測定値から、イムノクロマト法による測定値を予測した結果を表6に示す。表6の予測は、表5に示される2回の測定の結果を用いて行った。まず、回収工程の流出液中の各金属イオン濃度の2回平均(A)を求め、次に、(A)にイムノクロマト法に用いる抗カドミウム抗体Nx22C3の交差反応性を乗じて100で割った値を求めた。この結果より、交差反応性を組み合わせることで、コメ抽出液中に含まれるカドミウムの濃度が、他の金属に比べて低いにもかかわらず、カドミウムの選択性がさらに向上することが判る。
【0160】
【表6】

【0161】
また、表6に示すように、ダウエックス(登録商標)1×2樹脂を充填したカラムの場合は、イムノクロマト法によるカドミウムの測定値の予想は0.40ppmであり、実際の測定値である0.40ppm(n=3平均)と一致した。また、ダウエックス(登録商標)2×8樹脂を充填したカラムの場合は、イムノクロマト法によるカドミウムの測定値の予想は0.36ppmであり、実際の測定値は0.39ppm(n=3平均)であった。
【0162】
〔実施例6:農作物試料での従来法測定値と本発明の前処理方法により得られた測定用試料のICP法測定値及びイムノクロマト法測定値との比較〕
カドミウム含有量の異なる3種類の擬似汚染試料について、従来の方法である硝酸分解−ICP−AES測定法と本発明の前処理方法により得られた測定用試料のイムノクロマト法測定値およびICP−AES分析法測定値(機器分析法)とを比較して、本発明の前処理方法の各種分析法に対する適用性を確認した。
【0163】
NIES米(Cd濃度1.55mg/kg)と無汚染の市販米とをミルサーで粉砕後、NIES:市販米=1:2、1:3、1:4の各比率で混合均一化して擬似汚染試料3点を作成し、それぞれ、擬似汚染試料1、2、3とした。この試料のカドミウム濃度を従来の方法(硝酸分解−ICP−AES分析法)によって測定した。表7に示すように、従来の方法による擬似汚染試料1、2及び3中のカドミウム濃度測定値は、それぞれ、0.50mg/kg、0.40mg/kg、及び、0.30mg/kgであった。
【0164】
次に、各試料を各2g量り取り、0.1N塩酸20mLを加えて振とう抽出し、ろ過により夾雑物をろ過除去した溶液(塩酸抽出液)を得た。
【0165】
続いてダウエックス(登録商標)1×2および1×4をそれぞれ充填したカドミウム分離カラム装置に、塩酸抽出液(塩素イオン濃度:0.1M)を、ダウエックス(登録商標)1×2樹脂を充填したカラムの場合は1mL、1×4樹脂を充填したカラムの場合は3mL通液し(吸着工程)、次にダウエックス(登録商標)1×2樹脂を充填したカラムの場合は1mL、1×4樹脂を充填したカラムの場合は3mLの0.1N塩酸(塩素イオン濃度:0.1M)で洗浄し(洗浄工程)、ダウエックス(登録商標)1×2樹脂を充填したカラムの場合は1mL、1×4樹脂を充填したカラムの場合は3mLのイオン交換水を通液して(回収工程)カドミウムを分離回収した。なお、分離は自然落下法により、行った。回収工程の流出液(カラム回収液)について、カドミウムの濃度をICP−AESとイムノクロマト法とによって測定した。測定結果と従来測定法(硝酸分解−ICP−AES分析法)の比較を表7に示す。なお、ICP−AESとイムノクロマト法による測定はそれぞれ繰り返しを3回行った。表7中に記載のデータは3回測定の平均値であり、また、従来分析法データとの比較のため、米中のカドミウム濃度に換算して表示した。
【0166】
【表7】

【0167】
表7に示すように、本発明の前処理方法を用いて調製したカドミウム測定用試料を用いイムノクロマト法ならびにICP−AES法(機器分析法)によって得られた測定値は従来の分析法(硝酸分解−ICP−AES分析法)によって得られた測定値とほぼ同一の値を示した。
【0168】
〔実施例7:農作物試料での従来法測定値と本発明の前処理方法により得られた測定用試料のICP法測定値及びイムノクロマト法測定値との比較〕
カドミウム含有量の異なる5種類の小麦試料について、従来の方法である硝酸分解−ICP−AES測定法と本発明の前処理方法により得られた測定用試料のイムノクロマト法測定値およびICP−AES分析法測定値(機器分析法)とを比較して、本発明の前処理方法の各種分析法に対する適用性を確認した。
【0169】
カドミウムの含有量が異なる5種類の小麦試料(小麦1〜5)を従来の方法(硝酸分解−ICP−AES分析法)によって測定した。
【0170】
次に、各試料を各2g量り取り、0.1N塩酸20mLを加えて振とう抽出し、ろ過により夾雑物をろ過除去した溶液(塩酸抽出液)を得た。
【0171】
続いてダウエックス(登録商標)1×2を充填したカドミウム分離カラム装置に、塩酸抽出液(塩素イオン濃度:0.1M)を、1mL通液し(吸着工程)、次に2mL0.1N塩酸(塩素イオン濃度:0.1M)で洗浄し(洗浄工程)、1mLのイオン交換水を通液して(回収工程)カドミウムを分離回収した。なお、分離は自然落下法により、行った。回収工程の流出液(カラム回収液)について、カドミウムの濃度をICP−AESとイムノクロマト法とによって測定した。測定結果と従来測定法(硝酸分解−ICP−AES分析法)の比較を表8に示す。イムノクロマト法による測定は2回繰り返して行った。また、表8中に記載のICP−AES法による測定値は3回測定の平均値である。なお、表8中の本発明の前処理方法により得られた測定用試料のICP法測定値及びイムノクロマト法測定値は従来分析法データとの比較のため、小麦中のカドミウム濃度に換算して表示した。
【0172】
表8に示すように、本発明の前処理方法を用いて調製したカドミウム測定用試料を用いイムノクロマト法ならびにICP−AES法(機器分析法)によって得られた測定値は従来の分析法(硝酸分解−ICP−AES分析法)とほぼ同一の値を示した。
【0173】
【表8】

【0174】
〔実施例8:土壌汚染対策法に基づく溶出量試験法の測定値と同溶出量試験法抽出液に本発明のカドミウムの分離方法を適用して得られた測定用試料のイムノクロマト法測定値との比較〕
土壌中におけるカドミウム量の測定の一実施例として、土壌汚染対策法に基づく溶出量試験法の測定値と、同溶出量試験法の抽出操作によって得られた抽出液に対して本発明のカドミウムの分離方法を適用して得られた測定用試料のイムノクロマト法による測定値とを比較した。
【0175】
土壌試料25点について、試料土壌50gに対してイオン交換水500mLを加えて6時間振とう抽出し、抽出液を0.45μmメンブレンろ紙によりろ過して抽出液とした。この抽出液中のカドミウム量をICP−AESにより測定し溶出量試験法の測定値とした。
【0176】
続いて前述の抽出液に塩酸を添加して塩酸濃度を0.1N(塩素イオン濃度:0.1M)に調整後、ダウエックス(登録商標)1×2を充填したカドミウム分離カラム装置に1mL通液し(吸着工程)、次に2mL0.1N塩酸(塩素イオン濃度:0.1M)で洗浄し(洗浄工程)、1mLのイオン交換水を通液して(回収工程)カドミウムを分離回収した。なお、分離は自然落下法により、行った。回収工程の流出液(カラム回収液)について、イムノクロマト法によってカドミウム量の測定を行った。
【0177】
図7に、土壌汚染対策法に基づく溶出量試験法の測定値(図7中「ICP−AES」と表示)と、同溶出量試験法抽出液に本発明のカドミウムの分離方法を適用して得られた測定用試料のイムノクロマト法測定値(図7中「Imc」と表示)との比較を示す。
【0178】
図7に示すように、本発明のカドミウムの分離方法を用いて調製したカドミウム測定用試料を用いイムノクロマト法によって得られた測定値は、公定法(土壌汚染対策法に基づく溶出量試験法)の測定値と良好な相関性を示した。
【0179】
コメ、小麦、及び、土壌試料に対する上記適用結果から、これら試料と同様に夾雑イオンを含む魚介類などの抽出液も従来公知の方法により、十分な固液分離を行うことによって、本前処理法により、夾雑イオンなどの妨害成分を除去して各種測定に供することができる。
【0180】
〔実施例9〜14:本発明のカドミウム分析用前処理装置を用いる前処理〕
イオン交換樹脂(1×4(Cl−型)200−400mesh)0.55gを、図3に示すカートリッジの収納部に充填し、本発明のカドミウム分析用前処理装置を製造した。
【0181】
NIES米をミルサーで粉砕し、粉砕試料を各2g量り取り、0.1N塩酸20mLを加えて振とう抽出し、ろ過により夾雑物をろ過除去した溶液(塩酸抽出液)をカドミウム測定用試料とした。このカドミウム測定用試料のカドミウム濃度をICP−AESにより測定したところ、カドミウム濃度測定値は、0.14mg/Lであった。
【0182】
得られたカドミウム含有試料を、注射器17に5mL吸引したのち、当該注射器17と、上記のようにして作製されたカドミウム分離カートリッジ9とを図4に示すように組み立てて、カドミウム分析用前処理装置とした。
【0183】
次に、注射器17のピストン部16を押して、通液速度0.1mL/sec(=0.143sec−1(収納部0.7ml)の割合でカドミウム含有試料(塩素イオン濃度:0.1M)をカドミウム分離カートリッジ9に通液して、カドミウムイオンを収納部11に吸着させた(吸着工程)。このとき、流出液受器18に回収された流出液をICP−AES分析したところ、カドミウムイオンは検出されなかった。
【0184】
続いて、カドミウム分析用前処理装置から注射器17を取り外し、0.1M塩酸を5mL充填した別の注射器17を装着し、押出しにより通液速度1mL/sec(=1.43sec−1)で0.1M塩酸(塩素イオン濃度:0.1M)を通液した(洗浄工程)。この際、流出液受器18に回収された流出液をICP−AES分析したところ、カドミウムイオンは検出されなかった。
【0185】
そして、カドミウム分析用前処理装置から注射器17を取り外し、イオン交換水を5mL充填した別の注射器17を装着し、押出しにより通液速度1mL/sec(=1.43sec−1)でイオン交換水を通液し、流出液受器18にカドミウム濃縮液を得た(回収工程)。得られた濃縮液をICP−AESにて測定したところ、カドミウム濃縮液には、Cd2+=0.14mg/Lが含有されていた。
【0186】
特開2004−323508号公報(特許文献1)に記載のキットを用いて、この濃縮液のカドミウム濃度を測定したところ、0.14mg/Lが測定された。
【0187】
実施例10〜14については、表9の備考に記した点を変更した以外は実施例9と同様にして実施した。流出液受器8におけるカドミウム濃度を実施例9とともに表9に示した。
【0188】
【表9】

【0189】
〔実施例15〜17:減圧マニホールドを用いた前処理〕
図5に示す減圧マニホールド19のA、B、および、Cの位置に、0.028mg/Lのカドミウムが含まれる試料(塩素イオン濃度:0.1M)5mLを吸引した注射器17を接続し、約−50mmHgの減圧で吸引した(吸着工程)。実施例15の通液速度が0.047mL/sec、実施例16の通液速度が0.033mL/sec、実施例17の通液速度が0.046mL/secであった。
【0190】
続いて、カドミウム分析用前処理装置から注射器17を取り外し、0.1M塩酸(塩素イオン濃度:0.1M)を5mL充填した別の注射器17を装着し、約−50mmHgの減圧で吸引した(洗浄工程)。実施例15の通液速度が0.111mL/sec、実施例16の通液速度が0.139mL/sec、実施例17の通液速度が0.208mL/secであった。
【0191】
そして、カドミウム分析用前処理装置から注射器17を取り外し、イオン交換水を5mL充填した別の注射器17を装着し、約−50mmHgの減圧で吸引した(回収工程)。実施例15の通液速度が0.132mL/sec、実施例16の通液速度が0.185mL/sec、実施例17の通液速度が0.263mL/secであった。
【0192】
回収工程で得られた流出液受器18中のカドミウム濃度をICP−AESで分析した結果を表10に示す。なお、表10中、A、B及びCは、注射器17を接続した減圧マニホールド19の位置を示す。A、B、Cのいずれの場合も、カドミウムが含まれる試料に含まれるカドミウムがほぼ全量流出液受器18に回収されたことが判る。
【0193】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0194】
以上のように、本発明により、従来品に比べてカドミウムの回収率がさらに向上したことで、測定対象物中のカドミウム濃度を簡便に測定する方法として、より信頼性の高いデータを提供することができる。また、本発明では、一般的に市販されている陰イオン交換樹脂を利用するため、従来品に比べ、シリカゲルのコーティングにかかる時間を省くことができ、コスト削減につながる。また、従来懸念されていた、4級アンモニウム塩漏出の問題が解決され、より安全な装置を提供することができる。さらに、本発明によるカラム装置は、試料中の極めて低濃度のカドミウムを濃縮できることから、本発明は、微量のカドミウム量を測定するための機器分析等にも利用することができることから、様々な物質中に含まれるカドミウムを測定する必要のある各種産業に幅広く活用することができる。
【符号の説明】
【0195】
1 カドミウム分離カラム装置
2 カラム容器
3 液体流入口
4 液体流出口
5 フィルタ
6 フィルタ
7 陰イオン交換樹脂
8 フィルタ押さえ
9 カドミウム分離カートリッジ
10 液体流入口
11 収納部
12 液体流出口
13 フィルタ
14 フィルタ
15 シリンダー部
16 ピストン
17 流入液供給部
18 流出液受器
19 減圧マニホールド
20 減圧メータ
21 真空ポンプ
22 加圧ポンプ
23 貯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物を0.002〜2M(mol/L)の塩酸溶液で塩酸抽出する塩酸抽出工程と、
塩酸抽出工程で得られた塩酸抽出液を陰イオン交換樹脂と接触させてカドミウムを陰イオン交換樹脂に吸着させる吸着工程と、
吸着工程でカドミウムを吸着させた陰イオン交換樹脂を、塩素イオン濃度が0.05〜12Mの塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液で洗浄する洗浄工程と、
洗浄工程で洗浄された陰イオン交換樹脂から、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液でカドミウムを回収する回収工程と、
を含み、
陰イオン交換樹脂と接触させる上記塩酸抽出液の塩素イオン濃度を0.05〜12Mとすることを特徴とするカドミウム測定用試料の前処理方法。
【請求項2】
上記塩酸抽出液の上記陰イオン交換樹脂との接触は、カラム法により行うことを特徴とする請求項1に記載の前処理方法。
【請求項3】
上記測定対象物は、農作物、水産物、畜産物、又は、土壌であることを特徴とする請求項1又は2に記載の前処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の前処理方法を用いてカドミウム測定用試料を調製する工程と、当該工程により調製されたカドミウム測定用試料を用いてカドミウムの検出及び/又は定量を行う工程とを含むことを特徴とするカドミウムの測定方法。
【請求項5】
上記カドミウムの検出及び/又は定量は、イムノアッセイ法、ICP法、蛍光X線法、ボルタンメトリー法又は吸光法によって行われることを特徴とする請求項4に記載のカドミウムの測定方法。
【請求項6】
カドミウム含有溶液から、カドミウムを選択的に分離する分離方法であって、
塩素イオン濃度が、0.05〜12Mであるカドミウム含有溶液を用い、
当該カドミウム含有溶液を陰イオン交換樹脂と接触させてカドミウムを陰イオン交換樹脂に吸着させる吸着工程と、
上記吸着工程でカドミウムを吸着させた陰イオン交換樹脂を、塩素イオン濃度が0.05〜12Mの塩酸又はそのアルカリ金属塩水溶液で洗浄する洗浄工程と、
上記洗浄工程で洗浄された陰イオン交換樹脂から、塩素イオン濃度が0.05M未満の水溶液でカドミウムを回収する回収工程と、
を含むことを特徴とするカドミウムの分離方法。
【請求項7】
上記カドミウム含有溶液の上記陰イオン交換樹脂との接触はカラム法により行うことを特徴とする請求項6に記載のカドミウムの分離方法。
【請求項8】
液体流入口と液体流出口とを有するカラム容器と、当該カラム容器の液体流入口と液体流出口との間に収容される陰イオン交換樹脂とを備えることを特徴とするカドミウム分離カラム装置。
【請求項9】
請求項8に記載のカドミウム分離カラム装置と、
a)当該カドミウム分離カラム装置の上記液体流入口に接続される流入液供給部、及び/又は、b)当該カドミウム分離カラム装置の上記液体流出口に接続される流出液受器と、
を具備してなることを特徴とするカドミウム測定用試料の前処理装置。
【請求項10】
上記流入液供給部は、圧送手段を有していることを特徴とする請求項9に記載の前処理装置。
【請求項11】
上記流出液受器は、減圧下に置かれることを特徴とする請求項9又は10に記載の前処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−133949(P2010−133949A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254402(P2009−254402)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)