説明

カビ毒生産のモニタリング方法

【課題】カビ毒生産に対する被験因子の効果を判定するための簡便法、及びカビ毒生産抑制剤の提供。
【解決手段】Tri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNAを有する赤カビ病菌を、2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地にて、被験因子存在下、及び被験因子非存在下でそれぞれ培養し、該赤カビ病菌の菌糸におけるレポーター遺伝子発現を検出し、被験因子存在下での該発現レベルと被験因子非存在下での該発現レベルとを比較することを含む、赤カビ病菌のカビ毒生産に対する被験因子の効果を判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カビ毒生産に対する被験因子の効果を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小麦、大麦などの重要穀物類のカビ毒(mycotoxin)汚染が世界的に深刻な問題となっている。このうち、カビ毒産生真菌の1つである赤カビ病菌(Fusarium graminearum)は、麦類に感染する主な植物病原菌であり、デオキシニバレノール(DON)などのトリコテセン系毒素を生産する。トリコテセン系毒素は、動物が摂取すると悪心や嘔吐、下痢などの中毒症状を起こす恐れがあり、また熱にも安定であるため通常の調理過程では減毒されないので、食の安全性からも重要な問題となっている。
【0003】
赤カビ病菌がもつTri5遺伝子は、トリコテセン生合成の最初のステップを触媒するトリコジエンシンターゼ酵素をコードする。このTri5遺伝子を破壊した赤カビ病菌変異体では、トリコテセン系毒素が産生されなくなり、穀類に対するその菌の病原性も低下することが報告されていることから(非特許文献2)、Tri5遺伝子発現の有無はそのトリコテセン系毒素生産を左右すると考えられる。トリコジエンシンターゼ遺伝子は、他のフザリウム属(Fusarium)菌でも同定されている(非特許文献3及び4)。またTri5遺伝子の転写因子であるTri6遺伝子産物がTri5遺伝子プロモーター内の3箇所に結合することも報告されている(非特許文献8)。
【0004】
赤カビ病菌などの真菌による毒素生産は、温度、pH、水分活性や化学物質の存在等の様々な環境要因によって大きな影響を受ける。一例として、テブコナゾールなどの一部の抗真菌剤を致死量以下で使用するとフザリウム属菌によるマイコトキシン産生がむしろ増強されることや、抗真菌剤の適用のタイミングによって毒素生産量が大きく変動することなども報告されている(非特許文献1)。そのため、例えば新規農薬の開発の際には病原体防除効果を有するだけでなく真菌毒素の生産を促進しないようにすることも考慮する必要がある。しかし、各種環境要因がカビ毒生産に与える影響は極めて複雑多様であり、複合的な作用も考えられる。そのため環境要因が真菌毒素生産に与える影響を調べるには、多数の検体の分析などの多くの労力を要する。また従来、赤カビ病菌等によって生産されたカビ毒の検出には、GC-MS、LC-MS、HPLC、ELISA、TLC等の手法により毒素を直接検出する方法が用いられているが(非特許文献5〜7)、その何れの手法でも赤カビ病菌培養後にタンパク質の抽出、濃縮、精製など多くの煩雑な操作がさらに必要であり、また、高価な試薬を必要とする工程もあることから、多くの検体を試験しようとすると膨大な費用と時間が必要となる。また、これらの手法で用いる毒素抽出工程においては、作業者がカビ毒に被爆する可能性があるうえ、有機溶媒を使用するため作業者の健康を害する可能性もある。そのため、より迅速、簡便、低コストでさらに作業者にもより安全な、赤カビ病菌の毒素生産能をモニターできる系を開発し、それを用いてカビ毒生産に与える環境要因の影響を調べる方法を提供することが望まれている。
【0005】
所定の遺伝子の発現誘導に影響を及ぼす化合物を同定するための遺伝学的方法の一例が、特許文献1に記載されている。特許文献1には、ヒトのセロトニン5-HT7受容体遺伝子の発現調節を担う5-HT7受容体プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含む核酸分子を細胞に導入し、その細胞を被験物質に接触させ、レポーター遺伝子の発現レベルの差異を調べることにより、5-HT7受容体プロモーター活性を調節する化合物を同定する方法が開示されている。但しこの方法では、被験物質を細胞(遺伝子導入細胞)と接触させて判定するため、細胞単体で生じる発現誘導への影響しか確認することができず、より組織化された生体で認められる5-HT7受容体遺伝子発現調節の局時性や局所性、5-HT7受容体遺伝子の発現によりもたらされる臨床症状などに影響を及ぼす物質を選択的に同定することはできない。
【0006】
【特許文献1】特表2005−535300号公報
【非特許文献1】D'Mello J.P.F., et al., European Journal of Plant Pathology (1998) 104: p.741-751
【非特許文献2】Proctor R.H., et al., Molecular Plant-Microbe Interactions, Vol.8, No.4 (1995) P.593-601
【非特許文献3】Hohn T.M. and Desjardins A.E., Molecular Plant-Microbe Interactions, Vol.5, No.3 (1992) P.249-256
【非特許文献4】Hohn T.M. and Beremand P.D., Gene, 79 (1989) p.131-138
【非特許文献5】Sagawa N., et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. (2006) Jan; 70(1): p.230-236
【非特許文献6】Nielsen K.F., and Thrane U., J. Chromatogr. A., (2001) Sep 21; 929(1-2): p.75-87
【非特許文献7】Shoji T. et al., J. Chromatogr. A., (1979) 172; p.335-342
【非特許文献8】Hohn TM, Krishna R, Proctor RH. "Characterization of a transcriptional activator controlling trichothecene toxin biosynthesis" Fungal Genet Biol. 1999 Apr; 26(3):224-235
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、赤カビ病菌のカビ毒生産に対する被験因子の効果を簡便、迅速かつ高感度に判定する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、カビ毒生産に対する抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、Tri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNAを有する形質転換赤カビ病菌を特定の培地で培養し、そのレポーター遺伝子発現を検出することにより、トリコテセン系毒素を実際に生成させることなく、赤カビ病菌の基底菌糸及び気中菌糸の両方についてのカビ毒生産の変動を高感度かつリアルタイムに可視化することに成功した。そこで本発明者らは、この形質転換赤カビ病菌をモニタリング株として用いて、赤カビ病菌の毒素生産に対する各種物質や環境条件の効果(促進又は抑制など)を迅速かつ簡便に判定する系を構築し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] Tri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNAを有する赤カビ病菌を、2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地にて、被験因子存在下、及び被験因子非存在下でそれぞれ培養し、該赤カビ病菌の菌糸におけるレポーター遺伝子発現を検出し、被験因子存在下での該発現レベルと被験因子非存在下での該発現レベルとを比較することを含む、赤カビ病菌のカビ毒生産に対する被験因子の効果を判定する方法。
この方法の1つの実施形態では、被験因子存在下での前記発現レベルが被験因子非存在下での前記発現レベルと比較して高い場合に、その被験因子を赤カビ病菌のカビ毒生産の促進因子であると判定することをさらに含む。
この方法のさらに別の実施形態では、被験因子存在下での前記発現レベルが被験因子非存在下での前記発現レベルと比較して低い場合に、その被験因子を赤カビ病菌のカビ毒生産の抑制因子であると判定することをさらに含む。
この方法では、レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子であることがより好ましい。
この方法で用いる固体培地に含まれるジェランガムの濃度は、0.1%〜2.0%であることがより好ましい。
この方法では、前記菌糸は基底菌糸又は気中菌糸でありうる。
【0010】
[2] 赤カビ病菌のカビ毒生産に対する被験因子の効果を判定するための、2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む培地。
[3] NaCl又はKClを含む、赤カビ病菌に対するカビ毒生産抑制剤。
[4] Tri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNAを有する赤カビ病菌を、2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地にて、1種又は2種以上の濃度の農薬存在下、及び農薬非存在下でそれぞれ培養し、該赤カビ病菌の菌糸におけるレポーター遺伝子発現を検出し、各濃度の農薬存在下での該発現レベルと農薬非存在下での該発現レベルとを比較し、赤カビ病菌のカビ毒生産に対する農薬の効果を濃度毎に判定することを含む、農薬の有効濃度の判定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法は、迅速、簡便かつ高感度に、カビ毒生産に対する被験因子の効果を判定することができる。また、この方法に基づく農薬の有効濃度の判定方法は、カビ毒生産を促進することなく農薬活性を発揮できる適用濃度の検討に有用である。また、本発明の別の側面からは、カビ毒生産に対する抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.赤カビ病菌の毒素生産
赤カビ病菌(Fusarium graminearum。Gibberella zeaeとも称される)のトリコテセンの生合成では、基質であるファーネシルピロリン酸から、Tri5遺伝子産物であるトリコジエンシンターゼの触媒によって最初の環化反応がおこり、その後様々な生合成ステップを経て最終的に4-アセチルニバレノール(4-ANIV)、4,15-アセチルニバレノール(4,15-ANIV)、デオキシニバレノール(DON)、15-アセチルデオキシニバレノール(15-ADON)、ニバレノール(NIV)等のトリコテセン系毒素が合成される(図1)。トリコテセン系毒素の生産はTri5遺伝子産物が起点となっており、Tri5遺伝子の発現がトリコテセン系毒素の生産(以下、毒素生産、とも略記する)を左右し、Tri5遺伝子の発現が強くなれば毒素生産量も増加する。
本発明では、ゲノム上のTri5遺伝子を相同組換え法によりレポーター遺伝子に置換した形質転換赤カビ病菌(モニタリング株)を作製することにより、そのレポーター遺伝子産物の活性を指標として、Tri5遺伝子プロモーターによるTri5遺伝子発現の調節を可視化し、それにより赤カビ病菌における毒素生産の変動を高感度かつリアルタイムに可視化できるようにしたモニタリング系を開発した。本発明は、このモニタリング系を利用して、カビ毒生産に対する被験因子の効果を判定する方法に関する。
【0013】
2.モニタリング株の作製
本発明の方法でモニタリング株として用いる形質転換赤カビ病菌は、そのTri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNAを有するように遺伝的に改変された赤カビ病菌である。
本発明に係る形質転換赤カビ病菌は、トリコテセン系毒素の産生能を有する赤カビ病菌の任意の菌株から作製することができる。この赤カビ病菌は、農業生物資源ジーンバンク(独立行政法人 農業生物資源研究所(日本)、http://www.gene.affrc.go.jp/index_j.php)やATCC(米国微生物系統保存機関、American Type Culture Collection (USA))などの微生物株保存機関から入手したものを用いてもよいし、赤カビ病菌に感染した小麦などから独自に単離したものを用いてもよい。本発明では上記赤カビ病菌として、限定されるものではないが、例えば、赤カビ病菌MAFF111233株を用いることができる。赤カビ病菌MAFF111233株については、4-アセチルニバレノール(4-ANIV)、4,15-アセチルニバレノール(4,15-ANIV)等のトリコテセン系毒素の産生が確認されており、この菌株は農業生物資源ジーンバンクから当該MAFF番号に基づいて入手可能である。赤カビ病菌MAFF111233株は、ポテトデキストロース寒天上で25℃にて培養することができる。
【0014】
本発明において「Tri5遺伝子」とは、基本的には赤カビ病菌ゲノム上のトリコジエンシンターゼをコードする配列の翻訳開始部位から翻訳終結部位までの領域を意味し、これは通常エキソン配列とイントロン配列とを含む。赤カビ病菌のTri5遺伝子の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列はすでに決定されている(非特許文献2;Tri5遺伝子の塩基配列の一例はGenBank塩基配列データベース・アクセッション番号AF359361に示す塩基配列の30945位〜32131位[ゲノム上のTri5遺伝子配列。このうちエキソン配列は30945位〜31413位及び31473位〜32131位]に記載されている;そのTri5遺伝子にコードされるアミノ酸配列はGenBankタンパク質データベース・アクセッション番号AAK33084にも記載)。また本発明において「Tri5遺伝子プロモーター」とは、赤カビ病菌のゲノムDNA中のTri5遺伝子の転写を誘導する調節領域を意味する。Tri5遺伝子プロモーター内には、Tri5遺伝子の転写因子であるTri6遺伝子産物が結合する3箇所の結合部位(Tri6結合モチーフ)が存在する。その3つのTri6結合モチーフは「YNAGGCC」(Yはチミン又はシトシン、Nは任意の塩基である)で表される共通配列を有し、Tri5遺伝子の翻訳開始部位から上流の-161〜-560bpに存在する(非特許文献8;配列の位置はアクセッション番号AF359361の配列に基づく)。従って本発明におけるTri5遺伝子プロモーターとは、より具体的には、3つのTri6結合モチーフを少なくとも含む、Tri5遺伝子の翻訳開始部位よりも上流のゲノム配列、典型的には、Tri5遺伝子の翻訳開始部位から約700bp〜約1.5kb上流までのゲノム配列を指す。
【0015】
本発明では、レポーター遺伝子として、活性の検出及び/又は測定が容易であり細胞毒性がないタンパク質をコードする任意のレポーター遺伝子を用いることができる。レポーター遺伝子の遺伝子産物としては、限定するものではないが、励起光によって自ら別の波長で蛍光を発するタンパク質(蛍光タンパク質)、又は特定の基質と反応して発色又は発光する酵素などがある。本発明の方法で用いるレポーター遺伝子として、蛍光タンパク質をコードする遺伝子は特に好ましく、励起光によって自ら励起光とは別の波長の蛍光を発することができる限り任意の蛍光タンパク質を、本発明において好適に使用することができる。そのような蛍光タンパク質遺伝子の具体例としては、限定するものではないが、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、DsRed、Kaede、Dronpaなどの様々な生物由来蛍光タンパク質、及びそれらの改変型蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。改変型蛍光タンパク質としては、例えば、eGFP、hMGFP、BFP(青色蛍光タンパク質)、CFP(シアン蛍光タンパク質)、及びYFP(黄色蛍光タンパク質)、RFP(赤色蛍光タンパク質)などの改変型GFPの他、DsRed(4量体赤色蛍光タンパク質)から作製された赤色単量体蛍光タンパク質などの単量体化蛍光タンパク質などもある。以上のようなレポーター遺伝子については、すでに多種多様なものが開発され市販されており、例えばClontech社、Promega社、Evrogen社などから、通常は発現ベクターやレポーターアッセイ用ベクターの形態で購入することができる。なお市販されているベクターの多くは、全長のベクター構造、制限酵素切断地図及び塩基配列情報と共に提供されている。レポーター遺伝子は、レポーター遺伝子を含む任意のベクターから適当な制限酵素によって切り出すか、又はPCR法で増幅することによってDNA断片として取得することができる。
【0016】
本発明において、「Tri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNA」とは、Tri5遺伝子プロモーター下流の、Tri5遺伝子プロモーターによる正常な発現調節(促進又は抑制)を受ける位置にレポーター遺伝子が挿入されており、かつTri5遺伝子の一部若しくは全部が除去されているか又は破壊されているゲノムDNAを意味する。ここで「Tri5遺伝子が破壊されている」とは、ゲノムDNA中の内因性Tri5遺伝子が、外来DNAの挿入によりTri5遺伝子が分断された状態などの、その遺伝子産物(トリコジエンシンターゼ)を生産不能な状態へと改変されていることを意味する。そのようなゲノムDNAを有する本発明の形質転換赤カビ病菌は、当業者に公知の遺伝子工学的手法、特にプロモーター制御下への遺伝子の挿入、及び遺伝子置換又は遺伝子破壊に係る周知の手法を用いて作製することができる。具体的には、例えば、Tri5遺伝子プロモーターを含有するTri5遺伝子の上流領域(例えば0.5kb〜3kbのDNA断片)及び下流領域(例えば0.5〜3kbのDNA断片)のDNA断片でレポーター遺伝子を挟むように相同組換え用ベクターを構築し、それを赤カビ病菌にトランスフェクションすることにより、そのベクターとゲノム配列との間で相同組換えを引き起こし、その結果、赤カビ病菌のゲノム上のTri5遺伝子プロモーターの制御下にTri5遺伝子と置換されたかたちでレポーター遺伝子を組み込むことができる。あるいは、Tri5遺伝子の5'末端配列、及びTri5遺伝子の3'末端配列をそれぞれ含むDNA断片でレポーター遺伝子を挟むように相同組換え用ベクターを構築し、それを赤カビ病菌にトランスフェクションすることにより、そのベクターとゲノム配列との間で相同組換えを引き起こし、赤カビ病菌のゲノム上のTri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を挿入し、かつTri5遺伝子を破壊してもよい。本発明の「Tri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNA」においては、レポーター遺伝子の下流に、さらに抗生物質耐性遺伝子(例えば、neo遺伝子など)や栄養要求性遺伝子(例えば、trpC遺伝子など)などのマーカー遺伝子、及びベクター配列の一部などの他の任意の外来配列が挿入されていてもよい。
【0017】
Tri5遺伝子の上流領域及び下流領域のDNA断片は、赤カビ病菌から常法により抽出したゲノムDNAを鋳型として、PCR法やiPCR法によって取得することができる。例えば、iPCR法では、赤カビ病菌のゲノムDNAを鋳型とし、Tri5遺伝子とその上流領域及び下流領域を含むDNA断片を増幅し、得られた増幅断片をセルフライゲーションし、それを鋳型としてさらに上流領域と下流領域を含むDNA断片を増幅すればよい。あるいは、Tri5遺伝子の5'末端配列及び3'末端配列を含むDNA断片は、赤カビ病菌から常法により抽出したゲノムDNA又は総RNAから、PCR法やRT-PCR法によって取得することができる。そのようにして得たDNA断片を、レポーター遺伝子を含むDNA断片と直接連結した後にベクターに挿入してもよいし、あるいはレポーター遺伝子を含むベクター中に挿入してもよい。その場合、Tri5遺伝子の上流領域又は5'末端配列を含むDNA断片はレポーター遺伝子の上流に、Tri5遺伝子の下流領域又は3'末端配列を含むDNA断片は、レポーター遺伝子の下流になるよう、レポーター遺伝子を前後に挟み込むように配置する。これらDNA断片の連結は、リガーゼを用いるライゲーション反応によって行えばよい。レポーター遺伝子とTri5遺伝子の下流領域又は3'末端配列を含むDNA断片との間には、さらに抗生物質耐性遺伝子(例えば、neo遺伝子など)や栄養要求性遺伝子(例えば、trpC遺伝子など)などのマーカー遺伝子、及びベクター配列の一部などの他の任意の配列を含んでもよい。なお、ここで用いるレポーター遺伝子を含むベクターは、限定するものではないが、ファージ等のウイルスベクター、ファージミドベクター、プラスミドベクター等に基づくものであることが好ましい。
【0018】
以上のようにして構築した相同組換え用ベクターを、常法により、赤カビ病菌へトランスフェクションする。トランスフェクション技術は、一般的に用いられている様々な手法、例えばエレクトロポレーション法、パーテイクルガン法、PEG法等を適用することができる。このトランスフェクションにより相同組換えベクターが導入された赤カビ病菌細胞中では、その導入ベクターとゲノムDNAとの間の共通配列において相同組換えが生じる。その相同組換えにより、赤カビ病菌のゲノムDNA中のTri5遺伝子は除去又は破壊され、その代わりにレポーター遺伝子がTri5遺伝子プロモーター制御下に挿入される。こうして得られた形質転換体は、Tri5遺伝子プロモーターによってレポーター遺伝子の発現が調節されている赤カビ病菌である。形質転換体の選択は、レポーター遺伝子と共にゲノムDNAに組み込んだマーカー遺伝子を利用して行うことが可能である。得られた形質転換体については、意図した通りの遺伝子組換えがなされていることを、サザンブロット法などの公知のDNA解析法により確認することが好ましい。得られた形質転換体は、赤カビ病菌の培養に用いられる通常の方法に従って培養することができる。
【0019】
以上のような形質転換赤カビ病菌の作製に関する詳細な反応条件については、後述の実施例を参照することができる。本発明において好適な形質転換赤カビ病菌の例としては、実施例で作製しているT1株が挙げられる。
【0020】
なお本発明で用いるゲノムDNA及びmRNAの抽出及び精製、cDNAの作製(RT-PCR)、PCR、ベクター中へのライゲーション、細胞の形質転換及びライブラリーの作製、DNAの塩基配列決定、プライマーの設計及び合成、突然変異誘発、タンパク質の抽出などの分子生物学的実験法や生化学的実験法は、基本的には、通常の実験書の記載に従って行うことができる。そのような実験書として、例えば、SambrookらのMolecular Cloning, A laboratory manual, 2001, Eds., Sambrook, J. & Russell, DW. Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。
【0021】
3.モニタリング株を用いた、被験因子のカビ毒生産に対する効果の判定方法
本発明では、上記で作製したモニタリング株である形質転換赤カビ病菌を、被験因子の存在下で、2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地で培養し、その菌糸におけるレポーター遺伝子発現を検出し、その被験因子の存在下のレポーター遺伝子発現の発現レベルを、被験因子非存在下であること以外は被験因子存在下と同じ条件で検出した前記レポーター遺伝子発現の発現レベルと比較することにより、赤カビ病菌のカビ毒生産に対する被験因子の効果を判定することができる。ここで「カビ毒」とはマイコトキシン、特にトリコテセン系毒素を指す。
【0022】
この培養に用いる固体培地において、グルコースの濃度は、より好ましくは2.5%〜12.5%であり、なお好ましくは2.5〜10.0%、さらに好ましくは2.5〜7.5%、特に好ましくは5%である。また酵母抽出物の濃度はより好ましくは0.07%〜0.16%、なお好ましくは0.07%〜0.12%であり、さらに好ましくは0.1%である。またペプトンの濃度はより好ましくは0.07%〜0.16%、なお好ましくは0.07%〜0.12%であり、さらに好ましくは0.1%である。2.5%〜10.0%グルコース、0.05%〜0.15%酵母抽出物、0.05%〜0.15%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地は、カビ毒生産に対する促進効果と抑制効果の両方を高感度に検出する上で、より有用である。さらに好適な実施形態では、グルコース(炭素源)に対する窒素源の比率が高くなりすぎないようにするため、酵母抽出物+ペプトン(窒素源)の濃度は0.25%以下であることがより好適である。ジェランガムは、培地を適度な硬さで固体化できる量であればよいが、通常は0.1%〜2.0%であることが好ましい。ここで、被験因子としてNaClやKCl等のカチオン含有物質を添加した培地はジェランガムで固まりやすくなるので、培地組成が適度に分散したうえでゲル化するように、NaClやKCl等のカチオン含有物質の添加濃度に応じてジェランガムの濃度を下げる必要がある。例えば1.0%のNaClを添加するのであれば、ジェランガムの濃度は0.1〜0.5%程度に下げることが好ましい。本発明の固体培地における上記各成分の濃度(パーセンテージ)は、培地の全質量に対する質量%である。本発明でとりわけ好適に使用できる固体培地は、TEM培地(5%グルコース、0.1%酵母抽出物、0.1%ペプトン、1%ジェランガム)である。グルコース、酵母抽出物(イーストエクストラクト又は酵母エキスとも称される)、ペプトン、ジェランガムは市販されており、当業者であれば容易に入手することができる。なおジェランガムとは、シュードモナス・エロディア(Pseudomonas elodea)が菌体外に分泌する多糖類を分離精製して得られた培地固化剤である。ジェランガムを含む本発明の培地は、透明度の高いゲルを形成することができる。本発明は、本発明の方法において赤カビ病菌の培養に用いる上記のような培地も提供する。
【0023】
本発明に係る固体培地は、限定するものではないが、例えば、培地の上記各成分を所定の濃度で水に溶解し、オートクレーブ等で加熱及び滅菌処理した後、滅菌状態を維持しながらプレートなどに分注し、冷まして固化させることにより、作製することができる。この固体培地の調製の際には、上記成分に加えて被験因子に相当する他の物質を添加してから、固化させてもよい。
【0024】
本発明に係る固体培地を用いて上記の形質転換赤カビ病菌を培養し、そのレポーター遺伝子発現を検出すると、赤カビ病菌の基底菌糸と気中菌糸の両方でレポーター遺伝子産物の活性を確認できる。従ってこの系を用いれば、基底菌糸と気中菌糸のいずれの毒素生産をも評価することができる。また本発明の固体培地で上記形質転換赤カビ病菌を培養する場合、培養開始後、レポーター遺伝子は局所的に発現が認められ、それが時間とともに気中菌糸から菌糸末端の基底菌糸へと徐々に広がっていき、発現量も増大していく。従ってこの系では、赤カビ病菌における毒素生産の時間的変化をも評価することができる。本発明の固体培地での上記形質転換赤カビ病菌の培養においては、毒素生産の時間的・場所的変動を高感度に可視化できることから、赤カビ病菌によるカビ毒生産に対する被験因子の効果を判定する上で非常に有利に用いることができる。
【0025】
本発明において「被験因子」は、カビ毒生産に対する効果を判定することを意図した任意の物質又は環境条件である。一の実施形態では、被験因子は、赤カビ病菌による毒素生産の誘導が懸念される物質又は環境条件であることが好ましい。あるいは別の実施形態では、被験因子は、赤カビ病菌による毒素生産の抑制が期待される物質又は環境条件であることが好ましい。より具体的な被験因子の例としては、農薬(例えば、抗真菌剤、抗生物質、殺虫剤、除草剤など)、生活排水、塩、金属イオン、高温又は低温、酸性(低pH)又はアルカリ性(高pH)条件、特定の濃度の物質、紫外線照射などが挙げられるが、これらに限定するものではない。現在、圃場で赤カビ病菌の防除に用いられている農薬は病害の軽減を目的として登録されており、それら農薬が毒素生産に与える影響に関する知見はわずかしかないことから、本発明の方法は農薬を被験因子とするアッセイ法としてとりわけ好適に使用できる。
【0026】
本発明の方法において「被験因子の存在下」での培養は、一の実施形態としては、被験因子を添加してから固体化した固体培地にて本発明の形質転換赤カビ病菌を培養することによって行うことができる。あるいは、本発明の形質転換赤カビ病菌を固体培地に接種した後に、被験因子をその培養環境に加えることによって行ってもよい。被験因子は、培養開始と同時に形質転換赤カビ病菌に加えてもよいし、培養開始からある程度の時間が経過してから加えてもよい。
【0027】
本発明に係る被験因子のカビ毒生産に対する効果の判定方法では、まず、本発明の形質転換赤カビ病菌を、本発明に係る上記固体培地に常法により接種し、それをインキュベートすることにより培養し、その培養中のその菌糸におけるレポーター遺伝子発現を検出すればよい。この際、被験因子を加えた実験群(被験因子存在下)と、被験因子を加えないこと以外は実験群と同じ条件のコントロール群(被験因子非存在下)とを作製し、いずれもレポーター遺伝子発現の検出を行う。ここでレポーター遺伝子発現の検出を行う菌糸は、赤カビ病菌の基底菌糸又は気中菌糸でありうるが、好ましくはその両方である。より厳密な比較を行うために、被験因子存在下の実験群と被験因子非存在下の実験群における赤カビ病菌の培養は、実質的に同時に開始し、その後の必要な実験操作も並行して行うことが望ましい。
【0028】
固体培地での培養(インキュベーション)温度は、コントロール群(被験因子非存在下)では20℃〜30℃程度が好ましく、25℃での培養がより好ましい。培養温度が低くなると蛍光が測定可能になるまでの期間が長くなり、培養温度が高くなるとその期間が短くなる。コントロール群では、通常25℃では、培養開始から約4日後に気中菌糸においてレポーター遺伝子発現が検出され始め、培養開始から約7日後には基底菌糸でもレポーター遺伝子発現が検出され始める。
【0029】
レポーター遺伝子発現の検出は、本発明の形質転換赤カビ病菌のTri5遺伝子プロモーターの制御下に組み込んだレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により行うことができるが、通常はその遺伝子産物の活性を可視化して検出するための任意の周知技術を用いて行うことができる。そのような検出方法によれば、レポーター遺伝子発現が認められる場合には、その発現レベルも測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がGFP遺伝子などの蛍光タンパク質遺伝子である場合には、蛍光タンパク質に励起光を照射し、それにより発せられる蛍光を、実体蛍光顕微鏡などを用いて検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。本発明の方法においてレポーター遺伝子の「発現レベル」は、レポーター遺伝子の発現により生成される遺伝子産物の有無、量、活性値、及びその細胞内保持期間等を包含する。レポーター遺伝子の発現レベルは、絶対値又は相対値のいずれで定量化してもよい。
【0030】
次いで、上記のようにして測定されたレポーター遺伝子の発現レベルを、被験因子の存在下(実験群)と被験因子非存在下(コントロール群)の間で比較する。被験因子非存在下での発現レベルとは、すなわち、本発明の形質転換赤カビ病菌を、被験因子が存在しないこと以外は被験因子の存在下と同じ条件下で、本発明の固体培地にて培養し、レポーター遺伝子発現を検出して得られたレポーター遺伝子の発現レベルである。例えば、農薬を被験因子として、農薬を溶媒に溶かした液を添加して作製した固体培地を使用して発現レベル測定を行う場合には、農薬の代わりにその溶媒のみを添加し作製した固体培地を用いて同様に測定したレポーター遺伝子発現レベルを「被験因子非存在下での発現レベル」とすることができる。このような比較により、被験因子非存在下と比較したときの被験因子存在下での発現レベルにおける変化を見出し、その変化を、被験因子がカビ毒生産に与える効果として判定することができる。
【0031】
本発明の方法では、レポーター遺伝子発現の検出及びその発現レベルの比較は、赤カビ病菌の菌糸が観察可能な状態まで生長した後であれば任意の時点で行うことができる。レポーター遺伝子発現の検出は、例えば、限定するものではないが、一般的には、赤カビ病菌の培養開始時から好ましくは4日前後(72〜120時間後)以降又は7日前後(144〜192時間後)以降、より好ましくは4日後〜10日後に行うことができる。
【0032】
このようなレポーター遺伝子発現の検出及びその発現レベルの比較は、本発明の固体培地での培養期間中、繰り返し行うことができる。経時的なレポーター遺伝子発現の変化を観察し、被験因子の存在下と非存在下との間での比較を繰り返すことにより、被験因子がカビ毒生産に与える効果について、時間的変化も含めたより総合的な評価が可能になる。あるいは、例えば、赤カビ病菌の培養開始直後に被験因子を加えた場合と、培養開始後しばらく経過した後にその被験因子を加えた場合とを並行して試験して、当該被験因子が添加時期によってカビ毒生産に及ぼす効果に違いがあるかどうかなどについても調べることができる。
【0033】
さらにこのようなレポーター遺伝子発現の検出及びその発現レベルの比較は、被験因子の適用レベル(濃度、照射量など)を様々に変えた条件下で行ってもよい。本発明の方法では、毒素生産の変動を高感度に可視化することができるので、異なる濃度の被験因子を用いて、濃度毎の効果を調べることができる。例えば、所定の被験因子について、毒素生産を促進する特定の濃度範囲があれば、その範囲を同定することもできる。
【0034】
本発明の方法では、上記のようなレポーター遺伝子の発現レベルの比較に基づき、被験因子が赤カビ病菌のカビ毒生産に対する促進因子であるか又は抑制因子であるかを判定してもよい。本発明の方法で用いるレポーター遺伝子の発現は、Tri5遺伝子プロモーター(野性型赤カビ病菌においてカビ毒生産の誘導を制御している)の制御下にあることから、そのレポーター遺伝子の発現レベルの変化は、Tri5遺伝子プロモーターによるカビ毒生産誘導に及ぼす効果を示す。
【0035】
具体的には、例えば、本発明に係る上記方法での発現レベルの比較により、被験因子存在下で測定されたレポーター遺伝子の発現レベルが、被験因子非存在下で同様に測定された同レポーター遺伝子の発現レベルよりも高いことが示される場合には、その被験因子は赤カビ病菌のカビ毒生産の促進因子であると判定することができる。そのような被験因子は、赤カビ病菌においてTri5遺伝子の発現を促進し、カビ毒生産を増大させうる。なお本発明では、被験因子の存在下でレポーター遺伝子の発現が明瞭に確認されるが被験因子非存在下ではその発現が確認できない場合も、被験因子存在下での発現レベルが被験因子非存在下での発現レベルよりも高い場合に含めるものとする。
【0036】
逆に、上記比較により、被験因子存在下での上記発現レベルが被験因子非存在下での上記発現レベルよりも低いことが示される場合には、その被験因子は赤カビ病菌のカビ毒生産の抑制因子であると判定することができる。そのような被験因子は、赤カビ病菌においてTri5遺伝子の発現を抑制し、カビ毒生産を低下させうる。本発明では、被験因子存在下でレポーター遺伝子の発現が確認できないが被験因子非存在下ではその発現が明瞭に確認される場合も、被験因子存在下での発現レベルが被験因子非存在下での発現レベルよりも低い場合に含めるものとする。
【0037】
本発明において、「赤カビ病菌のカビ毒生産の促進因子」とは、赤カビ病菌によるカビ毒生産(例えば、カビ毒の生産量、生産速度など)を増大させる能力を有する因子を意味する。また「赤カビ病菌のカビ毒生産の抑制因子」とは、赤カビ病菌によるカビ毒生産を低下させる能力を有する因子を意味する。これらの「促進因子」「抑制因子」の種類は、具体的には上記で定義した被験因子の種類と同様であり、例えば、ある特定の濃度の物質を意味することがある。
【0038】
本発明の方法において、被験因子が促進因子であるかどうかの判定は、2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地を用い、上記の手順に従って好適に行うことができる。一方、被験因子が促進因子であるか抑制因子であるかの判定を行うためには、2.5%〜10.0%グルコース、0.05%〜0.15%酵母抽出物、0.05%〜0.15%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地を用いることがより好ましい。また本発明の方法において、被験因子が抑制因子であるかどうかの判定には、2.5%〜10.0%グルコース、0.05%〜0.15%酵母抽出物、0.05%〜0.15%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地を用いることが好適である。
【0039】
これらの固体培地を用いて本発明の方法を実施する場合、通常の培養条件(25℃)であれば、レポーター遺伝子発現は、赤カビ病菌の培養開始時から4日前後(72〜120時間後)以降又は7日前後(144〜192時間後)、より好ましくは4日後〜10日後に好適に検出することができ、すなわち、被験因子が促進因子又は抑制因子であるかどうかの判定を行うことが可能になる。
【0040】
本発明に係る被験因子のカビ毒生産に対する効果の判定方法について、形質転換赤カビ病菌としてT1株(後述)、固体培地としてTEM培地を用いた場合の一連の典型的な手順を、以下に例示する。また、このうち、1)〜4)について図7に図示した。
1) 形質転換赤カビ病菌T1株をYGA培地(2%グルコース、0.5%酵母抽出物、1.5%寒天)で前培養後,最も生育のよい菌糸周辺をコルクボーラーで打ち抜く。
2) 打ち抜いた菌糸プラグをTEM培地(5%グルコース、0.1%酵母抽出物、0.1%ペプトン、1%ジェランガム)の中央に接種し、25℃条件下で培養を開始する。被験因子は培地中に添加しておき、培養開始後、eGFP蛍光の検出を開始する。同様に被験因子を加えないコントロールも用意しておき、同様に検出を行う。
3) 培養開始から約4日後、コントロールの菌糸先端(基底菌糸)ではGFP蛍光は検出されない。これに対し、被験因子が毒素生産を促進する効果を有する場合には、その菌糸先端でeGFP蛍光が検出される可能性がある。
4) 培養開始から約7日後、コントロールの菌糸先端でもeGFP蛍光が検出されるようになる。これに対し、被験因子が毒素生産を抑制する効果を有する場合には、その菌糸先端でeGFP蛍光が検出されなくなる可能性がある。
5) 培養開始から約2〜7日後、培地から上方に形成された気中菌糸のGFP蛍光を観察する。被験因子がコントロールと比較して気中菌糸の毒素生産を促進又は抑制する効果を有する場合には、気中菌糸のGFP蛍光の変化が検出される。
6) 以上の検出結果を総合し、被験因子のカビ毒生産に及ぼす効果を判定する。
【0041】
本発明の方法では、レポーター遺伝子発現の検出に加えて、上記形質転換赤カビ病菌の増殖率を測定し、それを被験因子存在下と被験因子非存在下で比較することも好ましい。増殖率は、後述の実施例の記載に従って測定することができる。その増殖率に基づいて、被験因子が、赤カビ病菌の増殖能力を損なうことにより毒素産生を低下させるのか、それとも増殖能力は損なわないが毒素産生を特異的に低下させるのかを判断することができる。
【0042】
本発明の手法を用いることにより、様々な環境条件下(薬剤、温度、pH、UV等)で、本発明の固体培地を用いた培養により、赤カビ病菌の毒素生産に対する被験因子の促進/抑制などの効果をリアルタイムにモニタリングすることが可能となる。
【0043】
こうして被験因子のカビ毒生産に対する効果を確認することにより、赤カビ病菌が存在しうる環境への該被験因子の適用の際に、その効果を考慮することができるようになる。例えば、被験因子とした農薬についてカビ毒生産を増強する効果を有すると判定された場合には、その農薬は赤カビ病菌の防除には使用しない方が好ましいと判断される。逆に被験因子とした農薬についてカビ毒生産を抑制する効果を有すると判定された場合には、その農薬を赤カビ病菌の防除に使用できると判断される。また特定の濃度範囲等でのみ農薬がカビ毒生産を増強する効果を有することが示された場合には、その農薬の適用には厳密な用量コントロールが必要であると判断される。本発明の方法によって赤カビ病菌のカビ毒生産を抑制する効果が確認された物質は、有用な赤カビ病菌防除用の農薬として用いることができる可能性が示される。
【0044】
さらに本発明は、上記のようなカビ毒生産に対する被験因子の効果の判定方法に基づいて、農薬の有効濃度を判定する方法も提供する。この方法では、上記の被験因子の効果の判定方法が被験物質の濃度に依存したカビ毒生産に対する効果の違いをも鋭敏に検出できる利点を利用して、赤カビ病菌によるカビ毒生産を促進することなく又はそのカビ毒生産を抑制しながらその農薬活性を発揮することができる濃度を、個々の農薬の有効濃度として判定することができる。農薬の安全性を確保する上で、このような本発明の方法は非常に有用である。
【0045】
このような本発明の農薬の有効濃度の判定方法では、まず、判定対象とする農薬を1種又は2種以上の濃度で調製し、その各々を被験因子として用いること以外は上記の被験因子の効果の判定方法と同様にして、カビ毒生産に対する被験因子の効果の判定を行う。そこで得られた結果に基づき、赤カビ病菌のカビ毒生産に対するその農薬の効果を適用濃度毎に判定する。より具体的には、本発明の農薬の有効濃度の判定方法では、本発明に係る形質転換赤カビ病菌(Tri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNAを有する赤カビ病菌)を、判定対象の1種又は2種以上の濃度の農薬をそれぞれ含有させた、本発明に係る固体培地(2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む)で培養し[農薬存在下]、それぞれの培地で増殖させた該赤カビ病菌の菌糸におけるレポーター遺伝子発現を検出する。同様に、農薬を含まないこと以外は農薬存在下と同じ培地及び同じ条件下で上記形質転換赤カビ病菌を培養し[農薬非存在下]、レポーター遺伝子発現を同様に検出する。次いで、各濃度の農薬存在下でのそのレポーター遺伝子の発現レベルと農薬非存在下でのレポーター遺伝子の発現レベルとを比較し、その結果に基づいて、赤カビ病菌のカビ毒生産に対する上記農薬の効果を、使用した農薬濃度毎に判定する。これにより、調べた農薬が所定の濃度でカビ毒生産に対してどのような効果(促進効果や抑制効果など)を有するかを判定することができる。この方法では、さらに、それら所定の濃度の農薬について農薬活性を測定することも好ましい。農薬活性を測定するためには、例えば、上記の所定の濃度の農薬存在下、及び農薬不在下で、その農薬の標的生物(例えば赤カビ病菌などの真菌、細菌、昆虫、雑草など)を培養又は生育させた後、上記でレポーター遺伝子発現の検出を行ったのと同時点でその標的生物の量を測定し、農薬存在下で測定された標的生物の量と農薬不在下で測定された標的生物の量とを比較し、農薬存在下における減少レベルを決定すればよい。標的生物の量の比較においては、農薬存在下で測定された標的生物の量を、農薬不在下で測定された標的生物の量を100としたときの相対値で表してもよい。農薬活性としては、限定するものではないが、例えば、抗真菌活性(例えば抗赤カビ病菌活性)、抗菌活性、殺虫活性、除草活性などが挙げられる。カビ毒生産への効果を調べた各濃度の農薬について農薬活性の測定も行うことにより、例えば、任意の農薬について、カビ毒生産を促進しないか又はカビ毒生産を抑制することができ、かつ有効な農薬活性を示すことができる適用濃度を判定することができる。
【0046】
従ってこのような本発明の農薬の有効濃度の判定方法は、赤カビ病菌が感染しうる作物に対する農薬の適用濃度を、カビ毒生産に対する影響の点でより安全な範囲に最適化するために使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]モニタリング系の構築
1.pNF312ベクターの構築
後述の相同組換え用ベクター作製に用いたpNF312ベクターは、以下の手順に従って、pBF312ベクター(Banno S., et al., FEMS Microbiol Lett. (2003) May 28;222(2):221-227)中のブラストサイジン耐性遺伝子(bsd)を、ネオマイシン耐性遺伝子(neo)に置換することにより作製した。Banno S.らの文献に記載の通り、pBF312ベクターは、eGFP遺伝子(egfp)、Cryphonectria parasitica gpdターミネーター(Tgpd)、Aspergillus nidulans trpCプロモーター(PtrpC)、ブラストサイジン耐性遺伝子(bsd)、Aspergillus nidulans trpCターミネーター(TtrpC)をこの順で含んでいる。
まず、ネオマイシン耐性遺伝子を、pBF-srf-Neo(Tokai T., et al., FEMS Microbiol Lett. (2005) Oct 15;251(2):193-201及びそのSupplementary data)を鋳型として、下記の条件を用いてPCR増幅した。
【0049】
ネオマイシン耐性遺伝子増幅プライマーセット:
NEOF 5'-AGCatcgatTCGCATGATTGAACAAGATG-3'(小文字配列は制限酵素ClaI切断部位)
NEOR 5'-aggcctTCAGAAGAACTCGTCAAGAA-3'(小文字配列は制限酵素StuI切断部位)
【0050】
PCRの反応液組成は以下の通りとした。
PCR反応液組成:
40〜200 ng/μl 鋳型DNA 1 μl
10×ExTaqバッファー 5 μl
2.5mM dNTPs 4 μl
NEOF 1 μl
NEOR 1 μl
5U/μl ExTaq 0.5 μl
H2O 37.5 μl
総量 50 μl
PCR反応は以下の条件で行った:
95℃で5分の後、95℃で1分、56℃で30秒、72℃で1分を25サイクル行ってから4℃に冷却。
【0051】
この反応により生成された増幅断片(ネオマイシン耐性遺伝子含有断片)を、制限酵素ClaI及びStuIで処理した後、上記pBF312ベクターのClaI-SmaI部位に導入し連結することによって、pNF312ベクターを構築した。
【0052】
2.モニタリング株の作製
モニタリング株T1は、赤カビ病菌(Fusarium graminearum)MAF111233株を親株として以下のように作製した。使用したMAF111233株は、農業生物資源ジーンバンク(農業生物資源研究所)より入手した。MAF111233株はトリコテセン系毒素である4-アセチルニバレノール(4-ANIV)、4,15-アセチルニバレノール(4,15-ANIV)を生産する。
モニタリング株作製のため、まず、Tri5遺伝子をeGFP遺伝子で置換するための相同組換え用ベクターを構築した。赤カビ病菌MAF111233株から常法によりゲノムDNAを抽出し、それを鋳型として、iPCR(inverse polymerase chain reaction;逆ポリメラーゼ連鎖反応、Ochmanら、Genetics Nov., (1988) 120(3): p.621-3及びTrigliaら、Nucleic Acids Res., Aug 25 (1988);(16):p.8186)法を用いて、ゲノムDNA上のTri5遺伝子の上流2.2kb(Tri5遺伝子プロモーターを含む)と下流1.4kbの領域を含むDNA断片を増幅した。iPCRには以下のプライマーを用いた。
・プライマー1F: 5'-CTCGggatccGACGTAACGTCGCAATTGAG-3'(小文字配列は制限酵素BamHI切断部位;Tri5遺伝子上流領域の5'側)
・プライマー2R: 5'-AGGAggatccCGTAATCTTCAAATGGTGCT-3'(小文字配列は制限酵素BamHI切断部位;Tri5遺伝子下流領域の3'側)
・プライマー3F: 5'-gcggccgcCCGAATGCGAGTTTAGAAGT-3'(小文字配列は制限酵素NotI切断部位;Tri5遺伝子下流領域の5'側)
・プライマー4R: 5'-accggtGGTGTATTGGTAACAGTTATTC-3'(小文字配列は制限酵素AgeI切断部位;Tri5遺伝子上流領域の3'側)
【0053】
具体的にはまず、1st PCRにより、鋳型のゲノムDNAから、プライマー1F及び2Rを用いて、Tri5遺伝子上流領域+Tri5遺伝子+Tri5遺伝子下流領域を含むDNA断片を増幅した。この1st PCRの反応液組成は以下の通りとした。
PCR反応液組成:
40-200 ng/μl 鋳型DNA 1 μl
10x ExTaqバッファー 5 μl
2.5mM dNTPs 4 μl
プライマー1F 1 μl
プライマー2R 1 μl
5U/μl ExTaq 0.5 μl
H2O 37.5 μl
総量 50 μl
PCR反応は以下の条件で行った:95℃で5分の後、95℃で1分、56℃で30秒、72℃で6分を25サイクル行ってから4℃に冷却。
【0054】
こうして1st PCRで得られた増幅断片を、BamHIを用いて切断した後、両末端同士をセルフライゲーションにより連結し環状化した。
【0055】
次いで、この環状化DNAを鋳型とし、2nd PCRを行った。2nd PCRでは、プライマー3F及び4Rを用いることにより、Tri5遺伝子上流領域と下流領域とを含むDNA断片を増幅した。ここで2nd PCRの反応液組成は、鋳型として環状化DNAを使用し、また前述の環状化プライマー1F及び2Rの代わりにプライマー3F及び4Rを用いること以外は、1st PCRと同様であった。
【0056】
2nd PCR反応は以下の条件で行った:95℃で5分の後、95℃で1分、56℃で30秒、72℃で4分を25サイクル行ってから4℃に冷却。
【0057】
こうして得られた増幅断片においては、Tri5遺伝子下流領域の3'側にTri5遺伝子上流領域の5'末端が連結されている。この増幅断片の塩基配列を配列番号9に示す。配列番号9の塩基番号1〜8の配列はプライマーによって付加されたNotI部位、塩基番号9〜1421の配列は赤カビ病菌ゲノムDNAのTri5遺伝子のすぐ下流の領域、塩基番号1422〜1427の配列はプライマーによって付加されたBamHI部位(セルフライゲーションでの連結部位)、塩基番号1428〜3665の配列は赤カビ病菌ゲノムDNAのTri5遺伝子のすぐ上流の領域、塩基番号3666〜3671の配列はプライマーによって付加されたAgeI部位である。そのTri5遺伝子上流領域は、配列番号9の塩基番号3114〜3120(TAAGCC)、塩基番号3283〜3289(TTAGGCC)、塩基番号3513〜3519(TTAGGCC)に、共通配列「YNAGGCC」からなるTri6結合モチーフを含む通り、Tri5遺伝子のプロモーターを含有している。
【0058】
そこで次に、得られた増幅断片を制限酵素AgeI及びNotIで処理して両末端を切断し、それを、前述の通り構築してAgeI及びNotIで切断したpNF312ベクターのAgeI-NotI部位にライゲーション反応により連結し、ターゲッティングベクターpProm5GFPNを構築した(図2)。
【0059】
次いでpProm5GFPNをPEG法により赤カビ病菌MAFF111233株に導入した。具体的にはまずバシディオマイセテス種(Basidiomycetes sp.)由来のドリセラーゼ(SIGMA社)及びトリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)由来の溶解酵素(Lysing Enzyme)(SIGMA社)の混合溶液を用いて、赤カビ病菌MAFF111233株の細胞壁を溶解した。この赤カビ病菌プロトプラストに対し、終濃度40%のPEG8000溶液を用いるPEG法により、ベクターpProm5GFPNを導入した。相同組換えベクターを導入すると、ベクター中のTri5遺伝子上流領域及び下流領域とゲノムDNA中のそれぞれの対応領域との間で相同組換えが生じ、それにより赤カビ病菌ゲノム上のTri5遺伝子がeGFP遺伝子を含むベクターDNA断片に置換される。その結果、ゲノムDNAにおいてTri5遺伝子上流領域内のTri5遺伝子プロモーターの制御下にeGFP遺伝子が組み込まれた赤カビ病菌が得られる。
【0060】
そこで、相同組換えベクターを導入した赤カビ病菌MAFF111233株を、20μg/mlのジェネティシン二硫酸塩(G418;和光純薬工業株式会社)の存在下で培養することにより、形質転換体を選抜した。得られた形質転換体(T1株と称する)については、目的の遺伝子置換がなされていることをサザンブロット法により確認した(図2)。具体的には、T1株から常法によりゲノムDNAを抽出し、SphIで切断し、それをTri5遺伝子含有DNA断片(図2のプローブA)をプローブとして用いるサザンブロット法に供して、T1株ゲノムDNAにTri5遺伝子が含まれないことを確認した。さらにT1株のゲノムDNAをXhoIで切断し、それをTri5遺伝子上流領域断片(図2のプローブB)をプローブとして用いるサザンブロット法に供して、約8.6kbp(予測長)の断片を検出することにより、T1株ゲノムDNAにおいて、Tri5遺伝子上流領域に連結された形でeGFP遺伝子含有外来性断片が組み込まれていることを確認することができた。
【0061】
なおプローブA及びプローブBは、赤カビ病菌から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、PCR DIG Probe Synthesis kit (Roche社)及び下記プライマーセットを用いて、PCR増幅により作製した。
プローブA作製用プライマーセット:
プライマー5F 5'-ATGGAGAACTTTCCCACCGA-3'
プライマー6R 5'-TCACTCCACTAGCTCAATCG-3'
プローブB作製用プライマーセット:
プライマー1F 5'-CTCGggatccGACGTAACGTCGCAATTGAG-3'
プライマー4R 5'-accggtGGTGTATTGGTAACAGTTATTC-3'
【0062】
赤カビ病菌形質転換体T1株のもつTri5遺伝子プロモーターがeGFP遺伝子を正常に発現させることができるかどうかを確認するため、さらに以下の実験を行った。T1株を、毒素非生産培地(YG培地:2%グルコース、0.5%酵母抽出物)、及び毒素生産培地(RF培地:5%米粉、3%スクロース、0.1%酵母抽出物)に接種し、25℃にて3日間培養を行い、菌糸におけるeGFP蛍光を実体蛍光顕微鏡(MZ FLIII; Leica社)で440〜520nmの波長の励起光を当てて観察した。その結果を図3に示す。毒素生産培地(RF培地)で培養したT1株の菌糸からは、強いeGFP蛍光が観察された。一方、毒素非生産培地(YG培地)では菌糸からeGFP蛍光は全く観察されなかった。従って形質転換体T1株のTri5遺伝子プロモーターは、野生型の赤カビ病菌と同様の活性を有し、eGFP発現を正常に誘導できることが示された。そこで、このT1株を用いれば、赤カビ病菌の毒素生産能とその推移を、トリコテセン系毒素を実際に産生させることなく、eGFP蛍光を指標としてリアルタイムに評価できると考えられた。
【0063】
3.各種培地における毒素生産能の検討
各種培地での赤カビ病菌の毒素生産能を、培養中の上記T1株から検出されるeGFP蛍光によって評価した。
まず、従来赤カビ病菌の培養に使用されてきた液体培地であるYG培地(毒素生産培地)やRF培地(毒素非生産培地)でT1株を培養したところ、これらの培地では毒素の生産及び非生産が強く制御されたため、毒素生産に影響を与えることが知られている因子を処理しても、蛍光は観察されなかった。そのため、これら液体培地においてT1株を用いて毒素生産をモニタリングすることは困難と考えられた。
【0064】
次に、固体培地であるYG寒天培地(YGA培地:2%グルコース、0.5%酵母抽出物、1.5%寒天)にT1株を接種し、25℃で10日間培養を行った。その結果、固体培地に接している菌糸(基底菌糸)ではYG培地と同様にeGFP蛍光は検出されなかったが、培地面から空中へと形成された気中菌糸が多く存在する部分では強いeGFP蛍光が検出された。すなわちT1株をYGA培地で培養する場合、基底菌糸はTri5遺伝子プロモーター活性を示さないが、気中菌糸はTri5遺伝子プロモーター活性を示すことが判明した。このことは、赤カビ病菌は気中菌糸の部位でも活発に毒素生産を行うことができることを意味している。
【0065】
そこでT1株を用いてYGA培地で気中菌糸のeGFP蛍光を抑制する環境条件や化学物質のスクリーニングを行ったところ、培地中にNaClを加えることにより菌糸のGFP蛍光が強く抑制されることが示された。具体的には、まず、YGA培地と、NaClを各種濃度で添加したYGA培地とをそれぞれ調製し、そこにT1株の菌糸プラグを接種して、25℃で培養を行った。培養後の菌糸の外観と蛍光検出の結果の例を図4に示す。上記実験と同様、YGA培地では、25℃で5日間培養後、気中菌糸が形成されていた中央寄りの部分で強い蛍光が観察されたが(図4、コントロールa、b)、基底菌糸の末端に当たる周辺部では蛍光が観察されなかった(図4、コントールc)。さらに2% NaClを添加したYGA培地では、部位にかかわらず25℃で6日間培養を行ってもeGFP蛍光はほとんど検出されず、Tri5遺伝子プロモーターによる発現誘導は抑制されていた(図4)。図4中、BFは明視野(Bright field)観察を表し、GFPはeGFPタンパク質由来の蛍光(eGFP蛍光)観察を表す。
【0066】
この結果から、NaClはTri5遺伝子プロモーターによるTri5遺伝子発現誘導を抑制し、赤カビ病菌の毒素生産を抑制するであろうことが示された。そこで、NaClの毒素生産抑制効果を実証するため、野生型赤カビ病菌をNaCl存在下で培養した後の培地中の毒素量を、実際にHPLCを用いて測定した。具体的には、1%又は2%NaClを添加した14gのYGA培地に赤カビ病菌MAF111233株の菌糸プラグを接種し、25℃で培養を行った。培養開始後5日目及び10日目にプレートから培地を取り出し、毒素とエルゴステロールそれぞれの抽出用に半分に分割した。毒素は、分割した培地の一方に等量の酢酸エチルを加えることにより抽出し、濃縮乾固後、mycosep227(Romer Labs)を用いて処理し溶出させることにより、精製した。次いで、得られたサンプル中のトリコテセン系毒素4-ANIV及び4,15-ANIVを、HPLCで測定した。HPLC分析には、装置として島津製SCL-10A、4.6 mm×250 mm ODSカラム、40℃のカラム温度、移動層として水:アセトニトリル:メタノール(80:15:5)を用いて、流量1ml/minにて、UV 220nmで測定した。バイオマスの定量には、エルゴステロール含量を測定し、それを指標とした。具体的には、菌体のエルゴステロールは、分割した培地のもう一方からクロロホルム:メタノール溶液(2:1)で抽出し、濃縮後メタノールに溶解し、それをHPLC分析にかけた。HPLC分析には、装置として島津製SCL-10A、4.6 mm × 250 mm ODSカラム、40℃のカラム温度、移動層としてメタノールを用いて、流量1ml/minにてUV 282nmで測定した。
【0067】
HPLC分析の結果を図5に示す。図5のグラフに示される通り、培地中にわずか1%のNaClを添加することによって、赤カビ病菌の毒素生産が顕著に抑制されたことが示された。1% NaCl添加培地では、10日間培養後でさえ、コントロール培地(NaCl非添加YGA培地)よりも95%以上低下した毒素量しか測定されず、2% NaClを添加した培地では毒素は全く測定されなかった。一方、菌糸の生育は、浸透圧ストレスによるためか、NaCl添加培地ではコントロールと比べるとわずかに阻害されるものの両者に大きな差異はなく、いずれも良好に生育していた。
【0068】
以上の結果は、本発明のモニタリング株で観察されるeGFP蛍光レベルと、実際の赤カビ病菌による毒素生産量が相関していることを示した。NaClは農薬と異なり食塩として日常的に食用されていることから、より安全性の高い赤カビ病菌毒素生産抑制剤として利用できる可能性がある。
【0069】
また、上記と同様にして1%NaCl及び1%KClを含む培地にて野性型赤カビ病菌を培養し、培地中のトリコテセン量(ここでは4,15-ANIV及び4-ANIVの量)を、薄層クロマトグラフ法(TLC: Thin Layer Chromatography)で常法により測定した。その結果を図6に示す。図6から分かるとおり、1%NaCl処理サンプル及び1%KCl処理サンプルのいずれにおいても、活発な生育が認められるにも関わらず、4,15-ANIV及び4-ANIVはほとんど検出されなかった。この結果から、KClを用いた場合もNaClの場合と同程度の毒素生産抑制効果を得られることが示された。
【0070】
4.培地の検討及びモニタリング系の構築
作製したモニタリング株を用いて上記の通り検討を行ったが、従来赤カビ病菌の培養に使用されてきた液体培地では毒素生産の微妙な変化が示されにくく、またYGA培地では基底菌糸の毒素生産がほとんど起こらないことが示された。そのため、赤カビ病菌の毒素生産を調べる目的からみると、それらはいずれも十分好適な培地とは言えなかった。赤カビ病菌の毒素生産能を総合的かつ高感度にモニタリングするためには、従来の液体培地に代えて、気中菌糸及び基底菌糸の両方について毒素生産能を調べることができるような固体培地を用いることが望ましいと考えられた。
【0071】
そこで様々な培地でT1株からのeGFP蛍光を観察することにより、培地の検討を行った。固体培地であるTEM培地(Tri gene expression detection medium[遺伝子発現検出用培地]; 5%グルコース、0.1%酵母抽出物、0.1%ペプトン、1%ジェランガム)を用いて実験したところ、赤カビ病菌の毒素生産能の変化を非常に高感度にモニタリングできることが示された。
【0072】
具体的には、まず、T1株をYGA培地で前培養後、最も生育のよい菌糸周辺をコルクボーラーで打ち抜いた。打ち抜いた菌糸プラグを上記TEM培地の中央に接種し、25℃の温度条件下で培養を開始した。培養開始から4日後、T1株の基底菌糸は伸長してTEM培地上で円形に増殖しており、その中央付近では基底菌糸から空中へと気中菌糸が伸長していた。この時点で、気中菌糸では弱いeGFP蛍光が検出されたが、菌糸先端(基底菌糸)ではeGFP蛍光は検出されなかった。培養開始から7日後、TEM培地上の気中菌糸ではより強いeGFP蛍光が検出され、菌糸先端(基底菌糸)でもGFP蛍光が検出された。
【0073】
このように、T1株をTEM培地で培養することにより、基底菌糸と気中菌糸の両方で毒素生産の指標となるeGFP蛍光を検出することができ、また菌糸における経時的なeGFP蛍光の変化も検出することができた。従って、各種条件下でT1株をTEM培地にて培養すれば、赤カビ病菌の毒素生産能の変化(特に、促進又は抑制)をリアルタイムかつ高感度に検出することができることが示された。図7には、こうして構築した赤カビ病菌の毒素生産能モニタリング系の例を示した。
【0074】
[実施例2]モニタリング系を用いた農薬の毒素生産促進活性の評価
本実施例では、実施例1で構築したモニタリング系を用いて、様々な農薬が赤カビ病菌の毒素生産に与える影響について調べた。
農薬としては、アゾキシストロビン(Azoxystrobin)、クレソキシムメチル(kresoxim-metyl)、トリフロキシストロビン(trifloxystrobin)、ジフェノコナゾール(difenoconazole)、イプコナゾール(ipconazole)、メトコナゾール(metconazole)、テブコナゾール(tebuconazole)、チオファネートネチル(thiophanatemethyl)、キャプタン(captan)、イプロジオン(iprodione)を用いて試験した。これらの農薬はいずれも和光純薬工業株式会社から入手した。各農薬は、ジメチルスルホキシド(和光純薬工業株式会社)に溶解し、使用するまで4℃で保存した。
農薬を各濃度(後述の表1に記載)で添加したTEM培地[5%グルコース、0.1%酵母抽出物(Difco社)、0.1%ペプトン(Difco社)、1%ジェランガム(和光純薬工業株式会社)]は、TEM培地の上記各成分を所定の濃度で蒸留水に溶解してからオートクレーブを用いて滅菌し、その培地を約60℃まで冷ました後、各農薬を所定の濃度で添加することにより調製した。
【0075】
実施例1で作製したT1株を、まずYGA培地(2%グルコース、0.5%酵母抽出物、1.5%寒天)に接種して25℃で48〜96時間かけて前培養した。次いで、生育の良い菌糸周辺の寒天培地をコルクボーラーで打ち抜き、打ち抜いた菌糸プラグを作製した農薬添加TEM培地の中央に1つずつ接種し、その培地を25℃に保温したインキュベーター中に入れて培養を開始した。コントロール用に、農薬を添加しないTEM培地を用いて、T1株の培養を同じ手順で開始した。
【0076】
培養中の培地を観察したところ、培養開始から4日経過後、コントロールでは菌糸先端(基底菌糸)でのeGFP蛍光は検出されなかったのに対し、一部の農薬を添加した培地では菌糸先端でもeGFP蛍光が検出された。結果を表1に例示する。表1中、増殖率(%)は以下の式:
増殖率(%)=農薬添加培地での菌糸の直径/コントロール培地での菌糸の直径×100
によって算出した。
【0077】
表1に示される通り、試験に用いた農薬の半数以上については、コントロールと比較して毒素生産を促進するという結果は示されなかった。しかしトリアゾール系剤であるジフェノコナゾール、イプコナゾール、メトコナゾール、又はテブコナゾールを添加したTEM培地では、コントロールと比較して強いeGFP蛍光が検出され、毒素生産を顕著に促進することが示された。
【0078】
【表1】

【0079】
そこで次に、トリアゾール系剤の1つであるテブコナゾールをより幅広い濃度で培地に添加し、毒素生産を促進する濃度条件を検討した。具体的には、T1株及び野生型赤カビ病菌(MAF111233株)をそれぞれ上記と同様にして各培地で25℃にて7日間培養し、経時的に蛍光観察を行った。培養開始から4日後、基底菌糸先端のeGFP蛍光観察の結果を図8に示す。図8中、BFは明視野(Bright field)観察を表し、GFPはeGFPタンパク質由来の蛍光(eGFP蛍光)観察を表す。図8に示される通り、野生型赤カビ病菌、及びテブコナゾール無添加培地(0μg/ml)でのT1株では、eGFP蛍光は全く観察されなかった。また赤カビ病菌の生育を阻害しない低濃度(0.001μg/ml)や強く生育を阻害する高濃度(0.25μg/ml)でテブコナゾールを添加した場合にも、T1株におけるeGFP蛍光の増強は確認されなかった。しかし生育を僅かに阻害する濃度(0.05μg/ml)では強いeGFP蛍光が確認された。この結果から、特定の農薬を一定の濃度範囲で添加する場合にカビ毒の産生が促進されることが示唆された。
【0080】
さらに、テブコナゾール又はトリフロキシストロビン処理した野生型赤カビ病菌の毒素量の測定をHPLC法により行った。野生型赤カビ病菌(MAF111233株)をYG培地にて25℃で3日間前培養し、その前培養液1mLを、50ng/mlテブコナゾール若しくはトリフロキシストロビン又は0.1%DMSO(コントロール)を添加した200mlのMRM培地(5%米粒を800mlの蒸留水中でボイル後、そこから採取した上清に3%スクロース、0.1%酵母抽出物を添加し、蒸留水で1Lにメスアップすることにより調製)に接種し、25℃、120rpmで回転培養した。その培養液を適時15mlずつ分析サンプルとして回収し、遠心分離によって菌体と培養上清に分離した。菌体ペレットは65℃で乾燥し、乾燥重量を測定した。培養上清についてはその毒素含量を定量した。まず培養上清に等量の酢酸エチルを加えて抽出し、乾固後、mycosep227を用いて溶出することにより精製し、その溶出液をHPLC分析に供してトリコテセン系毒素(4-ANIV、4,15-ANIV)を定量した。その結果を図9に示す。図9から分かる通り、50ng/mlテブコナゾール処理によって毒素量がコントロールの約2倍に増加した。一方、50ng/mlトリフロキシストロビン処理ではコントロールと比較して毒素量が約80%も減少した。このことから、少なくとも特定の濃度範囲では、テブコナゾールは赤カビ病菌の毒素生産を大幅に促進する活性を有すること、またトリフロキシストロビンは赤カビ病菌の毒素生産を大幅に抑制する活性を有することが実証された。
【0081】
以上の結果から、トリアゾール系剤は、極めて低濃度で糸状菌の生育を阻害するが、生育をわずかに阻害する濃度では、毒素生産を促進する恐れもある農薬であることも示された。トリアゾール系薬剤を用いる場合には、圃場に適正な量の農薬を散布しなければ、赤カビ病菌を防除できないばかりでなく、毒素生産を促進し食の安全性にも危険を及ぼす可能性があると考えられる。一方、トリフロキシストロビンは赤カビ病菌の生育を阻害するだけでなく、毒素生産も抑制することができる有用な農薬であることが示された。
【0082】
[実施例3]改変TEM培地の検討
本発明のモニタリング系において、TEM培地以外に使用可能な改変TEM培地の組成を検討するため、TEM培地の組成を少しずつ変化させた各種改変TEM培地にテブコナゾール0.05μg/mlを添加した培地及び添加しない培地を調製し、それらを用いて実施例2と同様にしてT1株の培養と蛍光観察を行った。蛍光観察は培養開始から10日間にわたって行った。結果を表2に示す。
【0083】
表2に示される通り、TEM培地の組成から離れるにつれて、毒素生産の指標であるeGFP蛍光は検出されにくくなった。例えば、改変TEM培地中の酵母抽出物+ペプトン(窒素源)の割合を0.4%以上に増加させ、グルコース(炭素源)に対するそれら窒素源の比率が増大した培地では、蛍光は、テブコナゾール添加により毒素生産が促進された場合しか検出されないか、あるいはテブコナゾールを添加してもしなくても検出されなかった。
【0084】
【表2】

【0085】
また、TEM培地中のジェランガム濃度を0.1%又は0.25%に減らし、そこに1%NaClを添加した改変TEM培地を作製して、それらを用いてT1株の培養と蛍光観察を同様に行ったところ、10日間観察しても基底菌糸のeGFP蛍光は観察されず、NaClの毒素生産抑制効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の方法は、例えば、赤カビ病菌防除農薬の安全性評価の予備検討や、環境条件が赤カビ病菌の毒素生産に及ぼす影響の評価などに有用である。また、本発明の赤カビ病菌の毒素生産抑制剤は、直接圃場に散布するほか、例えば運搬中の作物における赤カビ毒産生を抑制するポストハーベスト剤としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、トリコテセン生合成経路を示す図である。
【図2】図2は、毒素生産をリアルタイムにモニタリングするための形質転換株の作製を示す図である。Aは用いた相同組換えベクターのマップ、B及びCは、形質転換株のサザンブロット解析の結果を示す。
【図3】図3は、液体培地での毒素生産能を示した蛍光観察の写真である。
【図4】図4は、YGA培地におけるNaCl処理による毒素生産抑制効果を示す写真である。
【図5】図5は、YGA培地におけるNaCl処理による毒素生産抑制を定量的に示した図である。左の縦軸に示したTCTB(Trichothechene type B;B型トリコテセン)の相対量は棒グラフで、右の縦軸に示したバイオマスの指標であるエルゴステロール含量の平均値は散布図で示した。本試験で含量を測定したB型トリコテセンは、4-ANIV及び4,15-ANIVである。
【図6】図6は、1%NaCl及び1%KClで処理した野性型赤カビ病菌が培地中へと生産したトリコテセン量を示す写真である。1%NaCl及び1%KCl処理サンプルでは、コントロール培地(NaCl非添加YGA培地)と比較して、4,15-ANIV及び4-ANIVの量が顕著に抑制されている。
【図7】図7は、赤カビ病菌の毒素生産能リアルタイムモニタリング系の例を示す図である。
【図8】図8は、テブコナゾール処理による毒素生産の促進を示す写真である。
【図9】図9は、テブコナゾール及びトリフロキシストロビン処理による毒素生産量の増加を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0088】
配列番号1〜8の配列は、プライマーである。
【0089】
配列番号9の配列は、赤カビ病菌由来のTri5遺伝子上流領域に融合したTri5遺伝子下流領域を含む増幅DNA断片である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNAを有する赤カビ病菌を、2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地にて、被験因子存在下、及び被験因子非存在下でそれぞれ培養し、該赤カビ病菌の菌糸におけるレポーター遺伝子発現を検出し、被験因子存在下での該発現レベルと被験因子非存在下での該発現レベルとを比較することを含む、赤カビ病菌のカビ毒生産に対する被験因子の効果を判定する方法。
【請求項2】
被験因子存在下での前記発現レベルが被験因子非存在下での前記発現レベルと比較して高い場合に、その被験因子を赤カビ病菌のカビ毒生産の促進因子であると判定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験因子存在下での前記発現レベルが被験因子非存在下での前記発現レベルと比較して低い場合に、その被験因子を赤カビ病菌のカビ毒生産の抑制因子であると判定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
固体培地に含まれるジェランガムの濃度が、0.1%〜2.0%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記菌糸が基底菌糸又は気中菌糸である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
赤カビ病菌のカビ毒生産に対する被験因子の効果を判定するための、2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む培地。
【請求項8】
NaCl又はKClを含む、赤カビ病菌に対するカビ毒生産抑制剤。
【請求項9】
Tri5遺伝子プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含み、かつTri5遺伝子を欠損したゲノムDNAを有する赤カビ病菌を、2.5%〜15.0%グルコース、0.05%〜0.20%酵母抽出物、0.05%〜0.20%ペプトン、及びジェランガムを含む固体培地にて、1種又は2種以上の濃度の農薬存在下、及び農薬非存在下でそれぞれ培養し、該赤カビ病菌の菌糸におけるレポーター遺伝子発現を検出し、各濃度の農薬存在下での該発現レベルと農薬非存在下での該発現レベルとを比較し、赤カビ病菌のカビ毒生産に対する農薬の効果を濃度毎に判定することを含む、農薬の有効濃度の判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−228645(P2008−228645A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72449(P2007−72449)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、農林水産省、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】