説明

カプロラクタムよりポリアミド樹脂を製造する方法

【課題】 カプロラクタムより、高品質のポリアミド樹脂を工業的に効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 (1)水の存在下、カプロラクタムの重合反応により得られる反応混合物を水抽出して、ポリアミド樹脂と、未反応のカプロラクタム及びその環状オリゴマーを含有する水溶液を得る工程;
(2)工程(1)で得られた水溶液をそのまま濃縮しながら、環状オリゴマーを開環させる工程;
(3)工程(2)で得られた濃縮物と追加量のカプロラクタムを、水の存在下、重合反応させる工程;
を含み、前記工程(1)〜(3)を循環させて、繰り返すことを特徴とする、ポリアミド樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すぐれた品質のポリアミド樹脂をカプロラクタムより工業的に効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カプロラクタムの重合によって得られるポリアミド樹脂中には、10重量%程度の未反応カプロラクタム及びその低重合物(以下「オリゴマー」という)が含まれているので、製品とするには、熱水抽出によりオリゴマーを除去することが必要である。
【0003】
熱水抽出によって得られるオリゴマーを含有する希薄水溶液の処理法としては、これを精製又は濃縮して重合反応系に供給し、これに新しいカプロラクタムを追加して重合させる方法が知られている。例えば、特公昭40−15663号公報には、オリゴマー水溶液をイオン交換剤により精製したものにオリゴマー1重量部当り6〜500重量部の新しいカプロラクタムを加えて重合させる方法が示されている。
【0004】
カプロラクタムの重合に際しては、適量の水分を存在させて加圧下、カプロラクタムを加水分解し、次いで放圧して水分を除き、常圧ないし減圧下で重合させる。その場合、当初の水分量があまりに多いと放圧時の熱損失が大きく、また装置も大型となって工業的に有利ではないので、通常はカプロラクタムに対し数%程度の水分が存在する状態で重合させるが、上記特公昭40−15663号公報の方法によるときは、オリゴマーの希薄水溶液中の水分に見合う比較的多量のカプロラクタムを加えないと、適当な水分量を保持しえないので、工業的製造法としては満足し得るものではない。
【0005】
また、特開昭51−96891号公報には、濃縮オリゴマーを分離又は精製することなく、他のポリアミド原料と一緒に重合させることが示され、オリゴマーの濃縮は、90重量%以上、好ましくは96重量%以上、特に好ましくは98重量%まで濃縮し、該濃縮物を固化した薄片として、重合反応系に供することが示されている。しかしながら、90重量%を超えるような高濃度のオリゴマー濃縮物は粘度が大きく取扱いが困難であり、また、一旦固化したオリゴマーは重合反応系内で容易に溶解せず、製品にフィッシュアイを生成させる原因となる等の不都合がある。しかも、オリゴマーを含有する濃縮物中の水分が微量であると、重合反応系に別途水分を供給する必要があって、工業的に有利な方法とはいえない。
【0006】
更に、特開昭54−64593号公報には、オリゴマーを80〜90重量%まで濃縮するに際し、温度t≧6C−320(C:濃縮度:重量%)に保持し、溶融状態で重合反応器にリサイクルすることが示されている。しかし同公報には、特に最も開環し難い環状ダイマーが開環することの明示はなく、後述する実施例で示すように、同公報の実施例の濃縮条件下では環状ダイマーはほとんど開環しない。更に、濃縮をより高温で行うことは、同一の圧力下において、濃縮度を上げる結果となるが、同公報においては、濃縮度を80〜90%としなくてはならないので、濃縮度が90%に近い上記実施例において更に高温にするとの思想はないと考えられる。
本発明者らの知見によれば、この開環し難い環状ダイマーが重合反応器に供給され、追加量のカプロラクタムと重合工程にリサイクルされると、一定の平衡値に到達するまで増加し、結果的に製品中に多くの環状ダイマーが含有されることとなる。環状ダイマーは、融点も高く(300℃以上)昇華性があり、成形加工時昇華し、金型に付着したり(射出成形)、ダイスに付着したり(押出成形)して、多くのトラブルを引き起こす原因物質となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、カプロラクタムより工業的に効率よく、高品質のポリアミド樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このため鋭意検討を重ねた結果、環状オリゴマーのうち特に開環しにくい環状ダイマーを開環させるのが重要であり、同環状ダイマーを開環させる条件として、特に水分圧と温度が重要な因子であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、水の存在下、カプロラクタムを重合させて得られるポリアミド樹脂を水抽出して、得られる未反応のカプロラクタム及びその低重合物を含有する水溶液を濃縮し、該濃縮物に追加量のカプロラクタムを添加して重合させるポリアミド樹脂の製造方法において、
(1)前記水溶液中環状オリゴマーのうち、環状ダイマーを15%以上開環、鎖状体とした後、重合反応器に供給し、次いで
(2)前記追加量のカプロラクタムを添加する、
ことを繰返すことを特徴とするカプロラクタムよりポリアミド樹脂を製造する方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂の製造には、通常ε−カプロラクタムが原料として使用される。更にε−カプロラクタムを主成分として、これと共重合し得る成分、例えば11−アミノウンデカン酸、ヘキサメチレンジアミン−アジピン酸塩、ヘキサメチレンジアミン−セバシン酸塩、ヘキサメチレンジアミン−アゼライン酸塩、ヘキサメチレンジアミン−テレフタル酸塩、イソホロンジアミン−アジピン酸塩のようなラクタム類、又はジアミンとジカルボン酸の塩を共重合させて得られる共重合ポリアミドを包含する。
【0011】
これらポリアミドは、通常カプロラクタムを水の存在下20kg/cm2G 以下、好ましくは3〜10kg/cm2G の圧力、240〜290℃の温度で加水分解により開環させ、次いで放圧し、同程度の温度で常圧ないし数十Torrまでの減圧下重縮合させて得られる。
【0012】
オリゴマーの抽出は公知の方法が採用でき、熱水単独、カプロラクタムや安定剤等を含有する熱水等が用いられる。抽出操作としては、熱水を用いる数段の抽出操作が好ましい。
【0013】
本発明の重要な点の1つは、上記のようにして得られた水溶液中の環状ダイマーを15%以上開環させることにある。開環させる条件に特に制限はないが、以下に述べる濃縮工程において開環させることが好ましい。
抽出オリゴマー水溶液の濃縮には、多段濃縮法等周知の濃縮方法がいずれも適用できるが、通常オリゴマー濃度として70〜98重量%、好ましくは75〜95重量%まで濃縮する。圧力は10〜30kg/cm2G 、好ましくは10〜20kg/cm2G 程度で運転する。
【0014】
環状ダイマーを鎖状体に開環させるには、水分圧で10kg/cm2G 以上の圧力に到達させる必要があり、温度と対応する濃縮度に到達させる必要がある。例えば230℃で、16.5kg/cm2G では濃度80重量%、10kg/cm2G では91重量%となる。環状ダイマーを鎖状体に開環させる条件として、水分圧10kg/cm2G 以上及び温度230℃以上、好ましくは水分圧13kg/cm2G 以上及び温度240℃以上、より好ましくは水分圧15kg/cm2G 以上及び温度250℃以上に到達させ、その後通常0.1〜10時間、好ましくは0.5〜5時間その状態に保持する。この圧力及び温度が低すぎると環状ダイマーは全く開環しないで回収され、一定の割合で環状ダイマーが増え続け、環状ダイマーを多く含有する不良な製品となる。環状ダイマーの開環には圧力及び温度とも高い場合には不都合はないが、ポリアミド樹脂の分解速度が急に増す300℃以上や、リサイクルする重合反応系内の水分量が極端に多くなる水分圧(30kg/cm2G 以上)は好ましくない。
一方カプロラクタム及び環状ダイマー以外の環状オリゴマーは、鎖状体とする条件として上記のような高温、高圧まで必要としない。
【0015】
本発明では所定の圧力及び温度に到達させるまでの方法に特に制限はないが、圧力が一定値に保持された状態で所定の温度まで昇温することによって、水分圧を所定圧力に到達させる方法が好ましい。このとき、他の不活性ガス等が存在していてもよい。
【0016】
本発明において特に問題とする環状ダイマーは、この所定の水分圧・温度に到達させるまでにある程度開環するが、この水分圧・温度に到達させないと環状ダイマーの開環は十分ではなく、リサイクル回数が増すにつれ、製品中のダイマー量が増加する。
したがって、ポリアミド樹脂を抽出して得られる水溶液中環状オリゴマーのうち、環状ダイマーを15%以上開環、鎖状体とした後、重合反応器に供給し、回収する。好ましくは25%以上、更に好ましくは35%以上まで開環させた後回収する。
【0017】
本発明においては、上記の工程で得られた濃縮オリゴマーを溶融状態のままで重合反応器に供給する。濃縮オリゴマーを冷却固化させて重合反応器に供給すると、容易に溶解せず、製品中に残存してフィッシュアイを生成するとか、装置の閉塞を招く等の不都合がある。
【0018】
また、本発明の方法においては、オリゴマーが高温度に長時間保持される機会が多く、微量の酸素によっても着色等の不都合を招きやすいので、抽出オリゴマー水溶液の濃縮、貯蔵、転送等に当って、特に酸素の洩れ込みがないよう厳重に管理することが望ましい。
【0019】
重合方法は、水を存在させて加圧下カプロラクタムを加水分解して開環させ、次いで放圧して水分を除去し、常圧ないし減圧下で重縮合させる周知の方法が適用できる。当然この環境下でも環状ダイマーのうち一部は開環されるが、これだけでは、製品として問題のない環状ダイマー量まで低減するのに不十分であるため、上記のように抽出液として独立して厳しい環境(高温、高圧)を設定している。
【0020】
重合反応器への新しいカプロラクタムの供給量は、濃縮オリゴマーと新しいカプロラクタムからなる混合物中の水分含有量が、全カプロラクタムとその低重合体の全量に対して0.5〜10重量%、好ましくは1〜4重量%、より好ましくは1.3〜2.5重量%の範囲内となるようにするが、本発明の特定水分含有量の濃縮オリゴマーを使用すれば、前記特公昭40−15663号公報の方法のように多量の新しいカプロラクタムを追加することなく、上記の所要水分条件を満足することができるので工業的に有利である。
【0021】
重合反応器内での圧力、温度条件により、環状オリゴマーの開環の程度は当然異なり、通常の重合条件下では回収量の3割弱程度を開環させることができるが、残りの7割の可能な限り多い量を開環させ、得られる製品を成形する際環状ダイマーの昇華による不都合が生じない程度まで低減することが、本発明によって改善された点である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
ε−カプロラクタムに水2.5重量%を添加し、オートクレーブ中で285℃に加熱した後、缶内圧6kg/cm2G を徐々に減圧し、更に表1に示した減圧度にて、2時間反応させた後、樹脂をストランドとして抜き出し、チップ化して未抽出ペレットを得た。同ペレットを水で向流抽出し、有機物濃度8重量%の水溶液を得ると同時に、抽出ペレットを得た。抽出した未反応カプロラクタム及びオリゴマーの総量は未抽出ペレット中9重量%であった。この抽出液中の有機物を圧力16kg/cm2G の一定圧で、270℃まで加熱して94重量%に濃縮した(このときの水分圧16kg/cm2G)後、この状態を2時間保持した。
このようにして得られた鎖状オリゴマーを新たなカプロラクタム中へ投入し、総重量を1回目と同一にして、上記と同一の操作を繰返しペレットを得た。
このような操作を5回繰返し、最後に得た製品中の環状ダイマー量を確認した結果、最初の1回目に得た製品(リサイクルなし)と変わらず、良好なナイロン6が得られていることが分かった。結果を表1に示す。
【0024】
なお、オリゴマーの分析法は下記のとおりであり、また得られたポリアミド樹脂の相対粘度(ηrel)の測定はJIS K6810に準拠した。
オリゴマー分析法:水溶液中のカプロラクタム及び環状オリゴマーは、H2 O/メタノールを溶離液に、210nmUVにて直接液体クロマトグラフ分析(LC)することにより分離、定量した。一方、ペレット中に包含されたカプロラクタム及び環状オリゴマーは、メタノールを溶剤として沸騰抽出した後、同液をLC分析することで分離、定量した。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例2
抽出液中の有機物を93重量%に濃縮した以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0027】
実施例3
抽出液中の有機物を圧力16kg/cm2G で240℃まで加熱して90重量%に濃縮した(このときの水分圧16kg/cm2G)以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0028】
比較例1
抽出液を圧力10kg/cm2G 、220℃まで加熱して85重量%に濃縮した(このときの水分圧10kg/cm2G)以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例4
ε−カプロラクタム85重量部とアジピン酸−ヘキサメチレンジアミンの塩15重量部とを共重合して得た未抽出ペレットを水で向流抽出し、有機物濃度7重量%の水溶液を得ると同時に抽出ペレットを得た。抽出した未反応カプロラクタム及びオリゴマーの総量は、未抽出ペレット中7.5重量%であった。この抽出液中の有機物を圧力16kg/cm2G の一定圧で、240℃まで加熱して90重量%まで濃縮した(このときの水分圧16kg/cm2G)後、2時間保持した。実施例1と同様にこの操作を5回繰返した。結果を表1に示す。
【0030】
比較例2
実施例4において、抽出液を圧力10kg/cm2G の一定圧で、220℃まで加熱して85重量%に濃縮した(このときの水分圧10kg/cm2G)以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0031】
実施例1及び比較例1での抽出された環状オリゴマーの組成を表2に示した。表2より、環状ダイマーが最も蓄積されやすく、他の環状オリゴマーはリサイクルしても大きな変化のないことが分かる。
【0032】
【表2】

【0033】
[発明の効果]
本発明の方法に従って、カプロラクタムよりポリアミド樹脂を製造する場合、得られるポリアミド樹脂は高品質でカプロラクタム単体から製造したものと全く遜色ない。しかも、同ポリアミド樹脂から抽出されたオリゴマーは、全量その重合反応系に再使用することができ、高い歩留りが達成できるので工業的に極めて有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水の存在下、カプロラクタムの重合反応により得られる反応混合物を水抽出して、ポリアミド樹脂と、未反応のカプロラクタム及びその環状オリゴマーを含有する水溶液を得る工程;
(2)工程(1)で得られた水溶液をそのまま濃縮しながら、環状オリゴマーを開環させる工程;
(3)工程(2)で得られた濃縮物と追加量のカプロラクタムを、水の存在下、重合反応させる工程;
を含み、前記工程(1)〜(3)を循環させて、繰り返すことを特徴とする、ポリアミド樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2007−113020(P2007−113020A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26011(P2007−26011)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【分割の表示】特願2003−346527(P2003−346527)の分割
【原出願日】平成8年10月3日(1996.10.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】