説明

カメラ用絞り装置

【課題】複数枚の絞り羽根を同時に同じ方向へ往復回転させる絞り駆動リングが、各々の絞り開口の大きさに対応して常に所定の停止状態を維持でき、安定した絞り開口が得られるようにしたカメラ用絞り装置を提供すること。
【解決手段】回転子4が回転すると、絞り駆動リング6は、親子歯車5を介して回転させられ、7枚の絞り羽根7によって、絞り開口の大きさを変化させるが、停止状態は、地板1に取り付けられている永久磁石棒3と、絞り駆動リング6の突状部6dの一つとの間に作用する磁気吸引力によって維持されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車機構を介してモータによって往複回転させられる絞り駆動リングが、複数枚の絞り羽根を同時に同じ方向へ回転させて、絞り開口の大きさを段階的に変化させるようにしたカメラ用絞り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ用絞り装置の中には、絞り駆動リングが光軸を中心にして所定の回転角度範囲内で往復回転すると、複数枚の絞り羽根が、同時に同じ方向へ回転させられ、それらの協働によって絞り開口の大きさを連続的又は段階的に変化させるようにしたものがある。そして、この種の絞り装置は、古くは絞り駆動リングを手動で回転させていたが、現在ではモータによって回転させるのが普通になっており、そのように構成したものの一例が下記の特許文献1に記載されている。
【0003】
また、特許文献1にも記載されているように、この種の絞り装置の場合には、絞り駆動リングは、略等角度範囲となるように形成した複数の細長いカム溝と、所定の角度範囲にだけ形成した部分歯車部とを有していて、複数のカム溝には、地板に対して回転可能に取り付けられている複数枚の絞り羽根の連結ピンを挿入させ、部分歯車部には、モータによって回転させられる歯車を噛合させているのが普通であるが、本発明は、そのような構成をしたカメラ用絞り装置に関するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2003−57715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の構成をしたカメラ用絞り装置は、通常、地板に、光軸を中心にした環状の凹部を形成していて、絞り駆動リングは、その凹部内に配置されている。そのため、なんらかの対策を講じていないと、加工公差の関係で、絞り駆動リングは、若干、光軸と直交する方向へ移動可能になっており、その移動方向も、カメラの構え方などによっては一定しなくなってしまう。
【0006】
また、絞り駆動リングは、上記のように、モータにより歯車機構を介して回転させられる。そのため、モータの回転子が所定の位置で停止したとしても、バックラッシュの関係で、絞り駆動リングは、若干、回転可能となっているので、カメラの構え方などによっては、回転停止位置が一定しなくなってしまう。
【0007】
そして、それらの原因で絞り駆動リングの停止位置が定まらないと、絞り駆動リングのカム溝によって回転させられる複数枚の絞り羽根は、回転角度が少しずつばらばらになるし、そのばらばら状態も一定ではないので、得られるべき絞り開口の大きさや形状が不安定になってしまう。このことは、絞り開口が大きい場合には余り問題にならないが、小さい絞り開口を制御する場合には大きな問題となる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、歯車機構を介してモータによって往復回転させられる絞り駆動リングが、複数枚の絞り羽根を同時に同じ方向へ回転させて、絞り開口の大きさを制御するようにしたカメラ用絞り装置において、絞り駆動リングが、絞り開口の大きさに対応して、常に、所定の状態で停止することが可能になり、絞り開口を安定して制御できるようにしたカメラ用絞り装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のカメラ用絞り装置は、各々が光軸を中心にして形成された開口部を有していて両者の間に羽根室を構成している合成樹脂製の地板及びカバー板と、略等角度間隔で形成した複数のカム溝と所定の角度範囲にだけ形成した部分歯車部とを有していて羽根室内において光軸を中心にして前記地板に形成された環状の凹部内に回転可能に配置されている絞り駆動リングと、前記部分歯車部に噛合していて前記地板又はカバー板に回転可能に取り付けられておりモータに回転させられ前記絞り駆動リングを往復回転させる歯車と、各々が前記カム溝に挿入している連結ピンを有していて羽根室内の光軸を中心にした略等角度間隔位置において前記地板又はカバー板に回転可能に取り付けられており前記絞り駆動リングの回転によって同時に同じ方向へ回転させられ協働して形成される絞り開口の大きさを変化させる複数枚の絞り羽根と、前記絞り駆動リングの外周部に設けられている少なくとも一つの被保持手段と、前記被保持手段と近接し得るようにして設けられている少なくとも一つの保持手段と、を備えていて、前記被保持手段と前記保持手段とは、いずれか一方が磁性体の場合には他方が永久磁石であって、前記モータの回転が停止しているときには、最も接近し合っている前記保持手段と前記被保持手段との間に作用する磁気吸引力によって前記絞り駆動リングの停止状態を維持するようにする。
【0010】
その場合、前記絞り駆動リングが磁性体で製作されていて、前記地板には、永久磁石からなる一つの前記保持手段が前記被保持手段の近接し得る位置に取り付けられており、前記絞り駆動リングの外周部には、所定の角度範囲にわたり、該保持手段に順に近接し得る複数の突状部が複数の前記被保持手段として形成されているようにすると好適である。
【0011】
そのほか、前記絞り駆動リングが合成樹脂で製作されていて、前記地板には、永久磁石からなる一つの前記保持手段が前記被保持手段の近接し得る位置に取り付けられており、前記絞り駆動リングの外周部には、所定の角度範囲にわたり、該保持手段に順に近接し得る複数の磁性体部材が複数の前記被保持手段として取り付けられているようにしてもよい。
【0012】
また、前記絞り駆動リングが合成樹脂で製作されていて、該絞り駆動リングの外周部には、永久磁石からなる一つの前記被保持手段が取り付けられており、前記地板には、該被保持手段が近接し得るように配列された複数の磁性体部材が複数の前記保持手段として取り付けられているようにしてもよい。
【0013】
また、前記歯車が合成樹脂で製作され、前記絞り駆動リングが磁性体で製作されていて、前記歯車には、永久磁石からなる複数の前記保持手段が該歯車の歯底に取り付けられており、前記絞り駆動リングに形成されている前記部分歯車部の各歯部が、複数の前記被保持手段を兼ねているようにしてもよい。
【0014】
また、前記歯車が合成樹脂で製作され、前記絞り駆動リングも合成樹脂で製作されていて、前記歯車には、永久磁石からなる複数の前記保持手段が該歯車の歯底に取り付けられており、前記絞り駆動リングに形成されている前記部分歯車部の各歯部近傍には、複数の磁性体部材が複数の前記保持手段として取り付けられているようにしてもよい。
【0015】
更に、前記歯車が合成樹脂で製作され、前記絞り駆動リングが磁性体で製作されていて、前記歯車には、前記保持手段としての円筒状の永久磁石が該歯車の回転軸の周りに一体成形されており、前記絞り駆動リングに形成されている前記部分歯車部の各歯部が、複数の前記被保持手段を兼ねているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、歯車機構を介してモータによって往復回転させられる絞り駆動リングが、複数枚の絞り羽根を同時に同じ方向へ回転させて、絞り開口の大きさを制御するようにしたカメラ用絞り装置において、保持手段と被保持手段とのいずれか一方を絞り駆動リングに設けておき、モータの回転停止状態においては、絞り駆動リングが、保持手段と被保持手段との間に作用する磁気吸引力によって、光軸とは直交する方向へ寄せられているとともに、回転方向への動きも抑制されているので、加工公差やバックラッシュの影響を受けることなく、全ての絞り開口の大きさと形状が常に安定して得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態を、図示した五つの実施例によって説明する。周知のように、カメラ用絞り装置は、絞り装置だけをユニットとして構成される場合もあるが、シャッタ装置などと共に一つのユニットとして構成されることもある。そのため、以下に説明する各実施例の絞り装置は、いずれも絞り装置だけをユニットとして構成したものであるが、本発明のカメラ用絞り装置には、そのようにシャッタ装置などと共にユニット化した絞り装置も含まれる。尚、図1〜図4は、実施例1を説明するためのものであり、図5は、実施例2を説明するためのものである。また、図6〜図8は、実施例3を説明するためのものであり、図9は、実施例4を説明するためのものである。そして、図10は、実施例5を説明するためのものである。
【実施例1】
【0018】
図1〜図4を用いて本発明の実施例1を説明するが、図1は、最大絞り開口の制御状態を示した平面図であり、図2は、構成部材の重なり状態を説明するための断面図である。また、図3は、中間絞り開口の制御状態を示した平面図であり、図4は、最小絞り開口の制御状態を示した平面図である。尚、図1,図3,図4は、いずれも、地板1とカバー板2との間に構成されている羽根室内を見やすくするために、図2の下側から、即ちカバー板2側から、カバー板2を取り除いて示した平面図である。
【0019】
先ず、本実施例の構成を、主に図1及び図2を用いて説明する。本実施例の地板1とカバー板2は、いずれも合成樹脂製である。図2に示されていて図1には示されていないカバー板2は、図1に示されている地板1と略同じ平面外形形状をしており、図示していない手段によって地板1に取り付けられ、地板1との間に羽根室を構成している。
【0020】
また、地板1とカバー板2の略中央部には、光軸を中心にして円形の開口部1a,2aが形成されているが、図2から分かるように、開口部2aよりも開口部1aの方が、はるかに大きい。そのため、本実施例では、カバー板2の開口部2aが被写体光の最大光路、即ち最大絞り開口の大きさと形状を規制するようになっている。そして、図1,図3,図4においては、開口部1aの形状は記載を省略してあるが、開口部2aの形状は二点鎖線で示されている。
【0021】
尚、本実施例では、開口部1aも円形をしているが、開口部2aが最大絞り開口を規制するので、開口部1aは必ずしも円形である必要はない。また、本実施例では、開口部2aが最大絞り開口を規制しているが、本発明は、このような構成に限定されず、開口部1aの直径の方を小さくして最大絞り開口を規制するようにしても構わないし、後述する絞り駆動リング6の内径を、開口部1a,2aの直径よりも小さくして、最大絞り開口を規制するようにしても構わない。そして、このことは、下記の各実施例の場合にも言えることである。
【0022】
次に、地板1の羽根室側の形状を説明する。地板1の羽根室側の面には、光軸を中心にした大きな環状凹部1bが形成されており、図1に示されているように、その外側に隣接して、環状凹部1bよりも浅い七つの段部1cが、放射状に形成されている。そして、それらの段部1cには、羽根取付孔1eが一つずつ形成されている。そして、環状凹部1bの内周壁には、光軸に向けて三つの突状部1dが形成されている。
【0023】
また、環状凹部1bの内周壁に隣接して、三つの押さえ部1fが形成されている。これらの押さえ部1fは、カバー板2側に突き出ていて、一部が光軸に向けて環状凹部1bの一部を覆うようなフック形状をしている。そのため、図示していないが、カバー板2の羽根室側の面には、それらの押さえ部1fを受け入れるための凹部が3箇所に形成されている。更に、環状凹部1bの内周壁の近傍には、取付孔1gが形成されており、そこに、本発明の保持手段に相当する永久磁石棒3が圧入されている。
【0024】
図1の右方位置には、環状凹部1bに隣接して、その環状凹部1cよりも深い歯車収容部1hが形成されていて、その底面には軸1iが立設されている。また、その歯車収容部1hに隣接して回転子収容部1jが形成されているが、この回転子収容部1jは、略コップ状をしていて、図2に示されているように、地板1の反対側の面に突き出すようにして形成されている。そして、その回転子収容部1jの底面には軸1kが立設されているが、この軸部1kに代えて、金属製の軸部材を、かしめ加工などによって立設するようにすることも知られている。
【0025】
次に、羽根室側に配置されている部材の構成を説明する。先ず、回転子収容部1j内において、回転子4が、上記の軸1kに回転可能に取り付けられている。この回転子4は、周知のステッピングモータの回転子であって、図2から分かるように、合成樹脂製の中空の軸部4aの一端側に歯車部4bを形成し、他端側には円周面が4極となるように着磁された永久磁石4cを一体成形していて、軸部4aの中空部を上記の軸1kに嵌合させている。また、上記の歯車収容部1hに立設されている軸1iには、親子歯車(2段歯車)5が回転可能に取り付けられていて、その親歯車5aが、回転子4の歯車部4bに噛合している。
【0026】
環状凹部1b内には、磁性体金属で製作された絞り駆動リング6が配置されている。この絞り駆動リング6は、光軸を中心にして略等角度間隔となるようにして同じ形状の七つのカム溝6a(図1,図3,図4では、一つにだけ符号を付けてある)を形成しており、外周部には、三つの逃げ部6bと、所定の角度範囲にわたって形成された複数の歯部からなる部分歯車部6cと、本発明の複数の被保持部に相当する五つの突状部6dを形成している。また、この絞り駆動リング6の内径は、開口部1aよりは小さいが開口部2aよりも大きい。
【0027】
そして、この絞り駆動リング6は、その三つの逃げ部6bを上記の三つの押さえ部1fの位置に合わせ、且つ部分歯車6cの歯部が上記の親子歯車5の子歯車5bに噛合するようにして、環状凹部1b内に落とし込まれ、反時計方向へ回転させられたことによって図1の状態にさせられている。尚、下記の作動説明からも分かることであるが、この絞り駆動リング6は、作動中に、図1の状態から時計方向へ回転させられるが、三つの逃げ部6bが上記の三つの押さえ部1fの位置にくるまでは回転させられないようになっている。
【0028】
羽根室内には全く同じ形状をした合成樹脂製の7枚の絞り羽根7が配置されているが、図1,図3,図4においては、それらのうちの1枚にだけ符号を付けてある。それらの絞り羽根7は、いずれも、同じ面に羽根軸7aと連結ピン7bとを有していて、羽根軸7aを地板1の羽根取付孔1eに回転可能に嵌合させ、連結ピン7bを絞り駆動リング6のカム溝6aに挿入している。尚、本実施例においては、絞り羽根を7枚備えているが、3枚以上であれば何枚でもよく、そのようにした場合には、羽根取付孔1eやカム溝6aの数も同じになることは言うまでもない。
【0029】
最後に、地板1の羽根室外の面に取り付けられているステッピングモータの固定子の構成を説明するが、その構成は、例えば、特開2002−131802号公報などで周知である。また、ステッピングモータの構成自体は、本発明とは直接関係がない。そのため、その固定子の構成は、図2を用いて簡単に説明する。
【0030】
本実施例の固定子は、ヨーク8,9と、中空のボビン10,11と、それらのボビン10,11の外側に巻回されたコイル12,13とで構成されている。それらのうち、ヨーク8,9は、二つの脚部とそれらの一端を繋いだ基部とで略U字形をしていて、適宜な手段によって地板1に取り付けられており、各々一方の脚部をボビン10,11の中空部に貫通させている。また、ヨーク8,9は、各々の二つの脚部の先端を磁極部としていて、回転子収容部1jに形成された四つの孔に挿入し、回転子4に設けられている永久磁石4cの円周面に対向させているが、図2においては、ボビン10,11の中空部に貫通させている方の脚部の先端を、上記の四つの孔のうち、二つの孔1m,1nに挿入している状態が示されている。
【0031】
次に、本実施例の作動を、主に図1,図3,図4を用いて説明する。図1は、7枚の絞り羽根7が開口部2aを全開にしている状態、即ち最大絞り開口が開口部2aによって規制されている状態を示したものである。本実施例の場合、この状態も含めて5段階の絞り開口を制御できるように構成されている。そこで先ず、最大絞り開口で撮影する場合を説明する。
【0032】
その場合、回転子4は、図1の状態で停止している。通常、この状態においては、加工公差によって、絞り駆動リング6は、光軸に対して直交する方向に動き得る状態になっている。また、回転子4の歯車部4bと親子歯車5の親歯車5aとの間、及び親子歯車5の子歯車5bと絞り駆動リング6の部分歯車部6cとの間にはバックラッシュがあるため、絞り駆動リング6は、回転方向へも動かされ得る状態になっている。そのため、絞り駆動リング6の位置は、それらの動きが複合的に作用し、カメラの構え方などによって変動する。
【0033】
ところが、本実施例の場合には、絞り駆動リング6の外周部に五つの突状部6dが形成され、また、地板1の取付孔1gには永久磁石棒3が圧入されているので、図1の状態では、五つの突状部6dのうち、一番右側に形成されている突状部6dと永久磁石棒3との間に作用している磁気吸引力によって、絞り駆動リング6には、永久磁石棒3の方向へ変位させる力が働いている。そのため、バックラッシュが完全にはなくならず、親子歯車5から絞り駆動リング6を回転させようとする力が加わったとしても、絞り駆動リング6は、上記の吸引力が保持力として働き、動かされるようなことがない。従って、撮影は、絞り駆動リング6が常に図1の状態で行われる。
【0034】
次に、中間絞り開口で撮影する場合、即ち図1の状態を1段目とするならば、3段目の絞り開口で撮影する場合を説明する。この場合には、撮影に際して、回転子4を図1の状態から時計方向へ回転させることによって、絞り駆動リング6を図3の状態まで時計方向へ回転させる。そのため、7枚の絞り羽根7は、同時に時計方向へ回転させられ、それらの協働によって、絞り開口を形成することになる。つまり、1段目の絞り開口は、その大きさも形状も、開口部2aの形状によって規制されていたが、2段目から5段目までは、7枚の絞り羽根7によって規制されることになる。
【0035】
そして、図3の状態においては、絞り駆動リング6に形成されている五つの突状部6dのうち、真中に形成されている突状部6dが、永久磁石棒3に一番近接した位置にくるので、その突状部6dと永久磁石棒3との間に作用する磁気吸引力によって、絞り駆動リング6には、図1の状態のときと同じように、永久磁石棒3の方向へ変位させる力が働いている。また、それによって、絞り駆動リング6は、親子歯車5から受ける力によっても動かされない。そのため、この絞り開口による撮影は、絞り駆動リング6が常に図3の状態で行われるので、従来のように、絞り駆動リング6の位置の変動によって、7枚の絞り羽根7によって形成される絞り開口の大きさや形状が変ってしまうことがない。
【0036】
次に、最小絞り開口で撮影する場合、即ち5段目の絞り開口で撮影する場合は、撮影に際して、回転子4を図1の状態から時計方向へ回転させ、絞り駆動リング6と7枚の絞り羽根7とを、図4の状態になるまで時計方向へ回転させる。そして、図4の状態になると、絞り駆動リング6に形成されている五つの突状部6dのうち、一番左側に形成されている突状部6dが、永久磁石棒3に一番近接した位置にくるため、このときにも、絞り駆動リング6には、図1及び図3の状態のときと同様に、永久磁石棒3の方向へ変位させる力が働いている。
【0037】
従って、この状態においても、絞り駆動リング6は、カメラの構え方などによって動かされることがない。そのため、絞り駆動リング6の位置の変動が原因となって、7枚の絞り羽根7によって形成される絞り開口の大きさや形状が変ってしまうようなことがない。そして、図3の状態又は図4の状態で撮影が終了すると、回転子4は反時計方向へ回転し、絞り駆動リング6と7枚の絞り羽根7を、図1の状態に復帰させる。
【0038】
尚、これまでは、1段目,3段目,5段目について説明したが、2段目,4段目も、3段目,5段目と同じ様にして制御される。また、本実施例の絞り装置は、5段制御になっているが、本発明の絞り装置は、複数であれば何段であっても構わない。また、上記の作動説明は、本実施例の絞り装置がスチルカメラに採用されている場合を想定して説明したが、ムービーカメラに採用しても構わない。その場合には、回転子4は、図1の状態から回転させられた後、最初に停止した状態から、撮影中の被写体光の変化に対応して、反時計方向へ回転させられたり、時計方向へ回転させられたりすることになる。そして、これらのことは、下記の各実施例の場合も同じである。
【実施例2】
【0039】
次に、図5を用いて実施例2を説明するが、図5は、上記の図1と同様に、本実施例の最大絞り開口の制御状態を、羽根室内を見やすくするために、カバー板2を取り除いて示した平面図である。尚、本実施例の場合は、上記の絞り駆動リング6以外の構成部材が、実施例1の場合と全く同じである。そのため、それらの同じ構成部材には同じ符号を用いておいて説明を省略し、本実施例に固有な絞り駆動リング16の構成についてだけ説明する。
【0040】
本実施例の絞り駆動リング16は、実施例1の絞り駆動リング6とは異なり、合成樹脂で製作されている。そして、その形状は、実施例1の絞り駆動リング6と似ており、七つのカム溝16a(一つにだけ符号を付けてある)と、三つの逃げ部16bと、部分歯車部16cとは、上記の絞り駆動リング6におけるカム溝6a,逃げ部6b,部分歯車部6cの場合と同様にして形成されている。
【0041】
しかしながら、本実施例の絞り駆動リング16には、上記の絞り駆動リング6に形成されていた五つの突状部6dが形成されていない。その代わり、本実施例の絞り駆動リング16には、外周部に五つの磁性体部材17が取り付けられ、それらが本発明の被保持手段になっている。本実施例の場合、それらの磁性体部材17は、円柱状をしていて、絞り駆動リング16に形成されている五つの孔に圧入されているが、絞り駆動リング16と一体成形しても差し支えない。尚、磁性体部材17の形状は、円柱状である必要はない。
【0042】
このような構成をしている本実施例の場合にも、絞り開口の制御作動は、実施例1の場合と実質的に同じである。そのため、その説明を省略する。そして、本実施例の場合にも、絞り駆動リング16の回転停止状態は、永久磁石棒3と、それに一番近接している磁性体部材17との間に作用する磁気吸引力によって好適に維持されるので、カメラの構え方を変えるなどしても、絞り駆動リング16の変位が原因で、絞り開口の大きさや形状が変ってしまうようなことがない。
【0043】
尚、本実施例の場合には、地板1に永久磁石棒3を取り付け、絞り駆動リング16に五つの磁性体部材17を取り付けているが、本発明は、地板1に五つの磁性体部材17を取り付け、絞り駆動リング16に永久磁石棒3を取り付けるようにしてもよい。但し、そのように構成した場合は、回転停止位置によって、絞り駆動リング16に対する吸引力の作用角度が少しずつ変わることになる。また、本実施例の永久磁石棒3を磁性体部材にし、五つの磁性体部材17を永久磁石にしてもよい。但し、その場合には、永久磁石同士の間隔よりも、永久磁石と磁性体部材の間隔を狭くするのが好ましい。
【実施例3】
【0044】
次に、図6〜図8を用いて実施例3を説明するが、図6は、上記の図1と同様にして、本実施例における最大絞り開口の制御状態を示した平面図である。また、図7は、上記の図2と同様にして、本実施例の構成部材の重なり状態を説明するための断面図である。更に、図8は、上記の図4と同様にして、本実施例における最小絞り開口の制御状態を示した平面図である。
【0045】
尚、本実施例は、上記の実施例1とは、地板1,親子歯車5,絞り駆動リング6の構成の一部が異なるだけである。そのため、それらの部材には、実施例1の場合と同じ符号を用いることにし、異なる点についてだけ詳しく説明する。また、それ以外の部材は、実施例1の場合と全く同じであるため、それらの部材には、実施例1の場合と同じ符号を付けて説明を省略する。
【0046】
先ず、本実施例の地板1は、実施例1のように永久磁石棒3を取り付けていない。そのため、取付孔1gは形成されていない。また、環状凹部1bの内周壁に形成されている突状部1dが図6の上方領域に二つ増え、合計五つになっている。更に、図6の上方領域に形成されている押さえ部1dの位置が、実施例1の場合よりも左寄りに移動している。地板1のその他の形状は、実施例1の場合と同じである。
【0047】
また、本実施例の親子歯車5は、子歯車5bの各歯底が、略C字状の平面形状となるように深く形成され、それらに部位に、合計8本の永久磁石棒18が圧入されている。これらの永久磁石棒18は、親子歯車5と一体成形するようにしてもよいし、親子歯車5に接着剤で接着するようにしてもよい。そして、本実施例では、実施例1のように、地板1に永久磁石棒3を取り付けていないので、これらの永久磁石棒18が、本発明の保持手段になる。親子歯車5のその他の形状は、実施例1の場合と同じである。尚、本実施例の場合には、永久磁石棒18は、絞り駆動リング6の部分歯車部6cの歯部の先端から見た場合に、周面の一部が面として見えるようにして圧入されているが、線として見えるようにしてもよいし、全く見えないようにして圧入するようにしてもよい。また、本実施例のように、周面の一部が面として見えるようにする場合であっても、それによって、歯底面の一部が残るようにしても構わない。
【0048】
更に、本実施例の絞り駆動リング6は、実施例1の場合と同様に、磁性体材料で製作されている。しかしながら、外周部には、実施例1のように、五つの突状部6dを形成していない。その代わり、本実施例においては、部分歯車部6cの複数の歯部が、本発明の被保持手段の役目を兼用するようにしている。また、上記のように、突出部1dの数を増やしたのに伴い、図6の上方領域に形成されている押さえ部1fの位置が、実施例1とは異なっているため、その押さえ部1fに対応する逃げ部6bの形成位置も変っている。絞り駆動リング6のその他の形状は、実施例1の場合と同じである。
【0049】
このような構成をしている本実施例の場合にも、絞り開口の制御作動は、実施例1の場合と同じようにして行われる。そのため、最小絞り開口の制御状態を図8に示し、その説明を省略する。そして、本実施例の場合にも、絞り駆動リング6の回転停止状態は、一番接近し合っている、永久磁石棒18の一つと部分歯車部6cの歯部の一つとの間に作用する吸引力によって好適に維持されるので、カメラの構え方を変えるなどしても、絞り駆動リング6の変位が原因で、絞り開口の大きさや形状が変ってしまうことがない。
【0050】
また、特に本実施例の場合は、回転子4の停止状態においては、絞り駆動リング6が永久磁石棒18に吸引されて、部分歯車部6cの一つの歯部が、子歯車5bの二つの歯部の間に完全に接触し、且つその吸引力が軸1iに向かって作用するようになるので、子歯車5bと部分歯車部6cとの間のバックラッシュがなくなると同時に、回転子4の歯車部4bと親歯車5aとの間のバックラッシュの影響によってはどちらの方向へも回転されにくくなっているという特徴がある。そして、このことは、下記の実施例4,5の場合も同じである。
【実施例4】
【0051】
次に、図9を用いて実施例4を説明するが、この図9は、上記の図6と同様に、本実施例における最大絞り開口の制御状態を示した平面図である。尚、本実施例は、絞り駆動リング6を除けば、全て実施例3と同じ構成をしている。そのため、実施例3と同じ構成部材には同じ符号を付け、それらについての説明を省略する。
【0052】
本実施例の絞り駆動リング26は、実施例3の絞り駆動リング6とは異なり、合成樹脂で製作されている。そして、その形状は、実施例3の絞り駆動リング6と似ており、七つのカム溝26aと、三つの逃げ部26bと、部分歯車部26cとは、実施例3の絞り駆動リング6におけるカム溝6a,逃げ部6b,部分歯車部6cの場合と全く同じようにして形成されている。
【0053】
しかしながら、本実施例の絞り駆動リング26には、部分歯車部26cの複数の歯部のうち五つの歯部の根元に、五つの磁性体部材27が、本発明の被保持手段として取り付けられている。本実施例の場合、それらの磁性体部材27は、実施例2における磁性体部材17と同様に円柱状をしていて、絞り駆動リング26に形成されている五つの孔に圧入されているが、絞り駆動リング26と一体成形しても差し支えない。尚、本実施例の場合も、磁性体部材17の形状は、円柱状にある必要はない。
【0054】
このような構成をしている本実施例の場合にも、絞り開口の制御作動は、実施例3の場合と実質的に同じである。そのため、その説明を省略する。そして、本実施例の場合にも、絞り駆動リング26の回転停止状態は、永久磁石棒18と、それに一番近接している磁性体部材27との間に作用する磁気吸引力によって好適に維持されるので、カメラの構え方を変えるなどしても、絞り駆動リング26の変位が原因で、絞り開口の大きさや形状が変ってしまうようなことがない。
【実施例5】
【0055】
次に、図10を用いて実施例5を説明するが、この図10は、上記の図6と同様に、本実施例における最大絞り開口の制御状態を示した平面図である。尚、本実施例は、親子歯車5を除けば、全て実施例3と同じ構成をしている。そのため、実施例3と同じ構成部材には同じ符号を付け、それらについての説明を省略する。
【0056】
本実施例においては、上記の実施例3,4の場合とは異なり、親子歯車15の親歯車15aと子歯車15bは、合成樹脂によって、実施例1における親子歯車5の親歯車5a,子歯車5bと全く同じ外形となるように形成されている。しかしながら、本実施例の親子歯車15は、子歯車15bの歯底に露出しないようにして、永久磁石筒28を一体成形で取り付けている。そのため、本実施例の場合には、永久磁石筒28が、本発明の被保持手段になっている。
【0057】
このような構成をしている本実施例の場合にも、絞り開口の制御作動は、実施例3の場合と実質的に同じである。そのため、その説明を省略する。そして、本実施例の場合にも、絞り駆動リング6の回転停止状態は、永久磁石筒28と、それに一番近接している部分歯車部6cの歯部の一つとの間に作用する吸引力によって好適に維持されるので、カメラの構え方を変えるなどしても、絞り駆動リング6の変位が原因で、絞り開口の大きさや形状が変ってしまうようなことがない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】最大絞り開口の制御状態を示した実施例1の平面図である。
【図2】実施例1を構成している部材の重なり状態を説明するための断面図である。
【図3】中間絞り開口の制御状態を示した実施例1の平面図である。
【図4】最小絞り開口の制御状態を示した実施例1の平面図である。
【図5】最大絞り開口の制御状態を示した実施例2の平面図である。
【図6】最大絞り開口の制御状態を示した実施例3の平面図である。
【図7】実施例3を構成している部材の重なり状態を説明するための断面図である。
【図8】最小絞り開口の制御状態を示した実施例3の平面図である。
【図9】最大絞り開口の制御状態を示した実施例4の平面図である。
【図10】最大絞り開口の制御状態を示した実施例5の平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 地板
1a,2a 開口部
1b 環状凹部
1c 段部
1d,6d 突状部
1e 羽根取付孔
1f 押さえ部
1g 取付孔
1h 歯車収容部
1i,1k 軸
1j 回転子収容部
1m,1n 孔
2 カバー板
3,18 永久磁石棒
4 回転子
4a 軸部
4b 歯車部
4c 永久磁石
5,15 親子歯車
5a,15a 親歯車
5b,15b 子歯車
6,16,26 絞り駆動リング
6a,16a,26a カム溝
6b,16b,26b 逃げ部
6c,16c,26c 部分歯車部
7 絞り羽根
7a 羽根軸
7b 連結ピン
8,9 ヨーク
10,11 ボビン
12,13 コイル
17,27 磁性体部材
28 永久磁石筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が光軸を中心にして形成された開口部を有していて両者の間に羽根室を構成している合成樹脂製の地板及びカバー板と、略等角度間隔で形成した複数のカム溝と所定の角度範囲にだけ形成した部分歯車部とを有していて羽根室内において光軸を中心にして前記地板に形成された環状の凹部内に回転可能に配置されている絞り駆動リングと、前記部分歯車部に噛合していて前記地板又はカバー板に回転可能に取り付けられておりモータに回転させられ前記絞り駆動リングを往復回転させる歯車と、各々が前記カム溝に挿入している連結ピンを有していて羽根室内の光軸を中心にした略等角度間隔位置において前記地板又はカバー板に回転可能に取り付けられており前記絞り駆動リングの回転によって同時に同じ方向へ回転させられ協働して形成される絞り開口の大きさを変化させる複数枚の絞り羽根と、前記絞り駆動リングの外周部に設けられている少なくとも一つの被保持手段と、前記被保持手段と近接し得るようにして設けられている少なくとも一つの保持手段と、を備えていて、前記被保持手段と前記保持手段とは、いずれか一方が磁性体の場合には他方が永久磁石であって、前記モータの回転が停止しているときには、最も接近し合っている前記保持手段と前記被保持手段との間に作用する磁気吸引力によって前記絞り駆動リングの停止状態を維持するようにしたことを特徴とするカメラ用絞り装置。
【請求項2】
前記絞り駆動リングが磁性体で製作されていて、前記地板には、永久磁石からなる一つの前記保持手段が前記被保持手段の近接し得る位置に取り付けられており、前記絞り駆動リングの外周部には、所定の角度範囲にわたり、該保持手段に順に近接し得る複数の突状部が複数の前記被保持手段として形成されていることを特徴とする請求項1に記載のカメラ用絞り装置。
【請求項3】
前記絞り駆動リングが合成樹脂で製作されていて、前記地板には、永久磁石からなる一つの前記保持手段が前記被保持手段の近接し得る位置に取り付けられており、前記絞り駆動リングの外周部には、所定の角度範囲にわたり、該保持手段に順に近接し得る複数の磁性体部材が複数の前記被保持手段として取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のカメラ用絞り装置。
【請求項4】
前記絞り駆動リングが合成樹脂で製作されていて、該絞り駆動リングの外周部には、永久磁石からなる一つの前記被保持手段が取り付けられており、前記地板には、該被保持手段が近接し得るように配列された複数の磁性体部材が複数の前記保持手段として取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のカメラ用絞り装置。
【請求項5】
前記歯車が合成樹脂で製作され、前記絞り駆動リングが磁性体で製作されていて、前記歯車には、永久磁石からなる複数の前記保持手段が該歯車の歯底に取り付けられており、前記絞り駆動リングに形成されている前記部分歯車部の各歯部が、複数の前記被保持手段を兼ねているようにしたことを特徴とする請求項1に記載のカメラ用絞り装置。
【請求項6】
前記歯車が合成樹脂で製作され、前記絞り駆動リングも合成樹脂で製作されていて、前記歯車には、永久磁石からなる複数の前記保持手段が該歯車の歯底に取り付けられており、前記絞り駆動リングに形成されている前記部分歯車部の各歯部近傍には、複数の磁性体部材が複数の前記保持手段として取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のカメラ用絞り装置。
【請求項7】
前記歯車が合成樹脂で製作され、前記絞り駆動リングが磁性体で製作されていて、前記歯車には、前記保持手段としての円筒状の永久磁石が該歯車の回転軸の周りに一体成形されており、前記絞り駆動リングに形成されている前記部分歯車部の各歯部が、複数の前記被保持手段を兼ねているようにしたことを特徴とする請求項1に記載のカメラ用絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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