説明

カラムキット

【課題】分離材としてガラス質多孔体を用いた新規なカラムキットを提供する。
【解決手段】筒状の部分13aを含む部材(ピペットチップ13)と、筒状の部分13aの内部に配置される円柱状の分離材12と、分離材12の外周面に配置され分離材12を筒状の部分13aに固定するためのエラストマーチューブ11とを含む。分離材12はガラス質多孔体である。チューブは、ゴムチューブであってもよく、フッ素ゴムからなっていてもよい。分離材12として用いるガラス質多孔体は、例えばゾル−ゲル法によって形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離材を含むカラムキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クロマトグラフィー用のカラムにおいて、粉末状の分離材の代わりに多孔質シリカなどからなる一体型の多孔体を用いたカラムが提案されている。そのようなカラムの1つとして、ゾル−ゲル法によって形成される無機多孔体(分離材)を用いたカラムが提案されている(たとえば特許文献1および2参照)。一体型の無機多孔体を用いたカラムは、分離性能が高い、分離特性のばらつきが小さい、安定性に優れるといった特長を有する。このような多孔体は、高精度の分析やDNAの高速分離に用いることが可能である。
【0003】
一体型の多孔体を用いたカラムの1つとして、熱収縮チューブと熱可塑性樹脂層とを含む円筒によって多孔体の周囲を保護したカラムが提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−265534号公報
【特許文献2】特開平7−41374号公報
【特許文献3】特開平10−197508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、熱収縮チューブを用いたカラムの場合、多孔体の表面に凹部が存在すると、熱収縮チューブではその凹部を埋めることができず、その凹部が空隙となる場合があった。また、使用時の圧力によって、多孔体と熱収縮チューブとの間に空隙が発生する場合があった。これらの空隙は一旦発生すると修復されず、さらに空隙が拡大したり、空隙同士が連続したりする場合があった。長い空隙が形成されると、分離対象物が多孔体を通らずに空隙を通過してしまい、精度よく分離をすることができなくなる場合があった。この問題は、特に、複数の円柱状の多孔体を直列に並べて用いる場合に顕著となる。また、ゾル−ゲル法で形成される無機多孔体の表面には微小な凹凸が存在する場合があり、その場合にも上記の問題が顕著となる。
【0005】
また、上記問題を回避するために分離材を樹脂の溶着によって樹脂製の保持部材に固定する方法が考えられるが、溶着の不良が生じやすいといった問題があった。また、溶着によって分離材を固定した場合には、使用者が任意に分離材を選択して使用することができなかった。また、溶着によって分離材を固定する場合、溶着時の加熱によって分離材の表面状態が変化する場合があった。
【0006】
このような状況において、本発明は、分離材としてガラス質多孔体を用いた新規なカラムキットを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のカラムキットは、物質を分離するためのカラムキットであって、筒状の部分を含む部材と、前記筒状の部分の内部に配置される円柱状の分離材と、前記分離材の外周面に配置され前記分離材を前記筒状の部分に固定するためのチューブとを含み、前記分離材がガラス質多孔体であり、前記チューブがエラストマーのチューブである。なお、この明細書において、「チューブ」には、中心軸方向の長さが短いもの、すなわち、リング状のものも含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカラムキットは、分離材が、ゴム状弾性を有するエラストマーチューブで保持される。そのため、分離材の表面に凹凸があったり分離材のサイズにばらつきがあったりしても、分離材とエラストマーチューブとの間に空隙が生じることを抑制できる。同様に、筒状の部分を含む部材とエラストマーチューブとの間に空隙が生じることを抑制できる。
【0009】
また、本発明のカラムキットによれば、使用者が、分離能やサイズが異なる様々な種類の分離材の中から好ましい分離材を選択して使用することができる。また、本発明のカラムキットは、筒状の保持部材とエラストマーチューブと分離材とを、任意に組み合わせて使用することが可能であるため、経済的である。また、本発明のカラムキットでは、分離材を固定する際に加熱しないため、表面が修飾された分離材を用いる場合であっても、加熱による分離材の特性の変化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、具体例を挙げて本発明を説明する場合があるが、本発明は以下で説明する具体例に限定されない。
【0011】
[カラムキット]
本発明のカラムキットは、物質を分離するためのカラムキットである。このカラムキットは、筒状の部分を含む部材(以下、「筒状部材」という場合がある)と、筒状の部分の内部に配置される円柱状の分離材と、分離材の外周面に配置され分離材を上記筒状の部分固定するためのチューブとを含む。分離材は、ガラス質多孔体である。チューブは、エラストマーのチューブである。
【0012】
エラストマーチューブは、通常、円筒状である。内部に分離材が配置されたエラストマーチューブは、比較的硬い2つの部材(分離材と筒状部材)に挟まれて圧縮された状態で保持される。その結果、エラストマーチューブと分離材とが円筒部材に固定される。すなわち、分離材およびエラストマーチューブは、通常、それらを取り外すことが可能な状態で、筒状部材の内部に固定される。
【0013】
なお、エラストマーチューブは、複数の円筒を連結した形状であってもよい。たとえば、エラストマーチューブは、内径が異なる複数の円筒を、それらの中心軸が重なるように連結した形状であってもよい。エラストマーチューブのうち分離材が配置される部分の内径を、分離材の直径よりもわずかに小さくし、その部分に隣接する部分の内径をさらに小さくすることによって、使用時に分離材がエラストマーチューブから外れることを抑制できる。エラストマーチューブの好ましい一例では、エラストマーチューブの内周面に、分離材が嵌め込まれるリング状の溝が形成されている。
【0014】
また、分離材が配置されたエラストマーチューブの前後に、分離材の直径よりも径が小さい貫通孔を有するストッパを配置してもよい。このストッパによって、使用時に分離材がエラストマーチューブから外れることを抑制できる。ストッパの材料には、分離材が配置されるエラストマーチューブについて説明する材料を適用できる。ただし、分離材が配置されるエラストマーチューブの材料と、ストッパの材料とは、同じであってもよいし、異なってもよい。分離材の移動を抑制できる限り、ストッパの形状に特に限定はなく、たとえば、円筒状(貫通孔が形成されたディスク形状を含む)や、ドーナツ状であってもよい。ストッパの典型的な一例は、エラストマーチューブである。
【0015】
エラストマーチューブは、ゴム状弾性を有する材料で形成される。エラストマーの典型的な一例はゴムであり、エラストマーチューブはゴムチューブであってもよい。以下の説明において、エラストマーをゴムと読みかえることが可能である。
【0016】
分離対象物によっては、エラストマーチューブは耐薬品性が高い材料で形成されることが好ましい。
【0017】
エラストマーチューブは、たとえば、フッ素ゴムからなるものであってもよいし、シリコーンゴムや合成ゴムからなるものであってもよい。合成ゴムとしては、たとえば、ニトリルゴム(NBR)、スチレン・ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレンゴム(EP)、イソブチレン・イソプレン共重合ゴム(IIR)が挙げられる。フッ素系エラストマー(たとえばフッ素ゴム)は、耐薬品性や耐熱性が高い点で好ましい。フッ素ゴムとしては、たとえば、フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴム、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテルゴム(FFKM)などが挙げられる。また、他のフッ素系エラストマーとしては、たとえば、パーフロロエラストマーが挙げられる。これらの中でも、パーフロロエラストマーおよびFFKMは、耐薬品性および耐熱性が高いため好ましい。
【0018】
エラストマーチューブの厚さが薄すぎると、エラストマーの特性が充分に発揮されない。そのため、分離材が収納される部分のエラストマーチューブの厚さt([外径−内径]/2)は一定以上の厚さであることが好ましい。一例では、エラストマーチューブの通常時(外力が加えられていない状態)の厚さtは、0.1mm以上(たとえば0.5mm以上で一例では2.5mm以上)であってもよい。厚さtの上限に特に限定はないが、たとえば10mm以下としてもよい。なお、厚さtは、本発明の効果が得られる限り特に限定されず、たとえば、分離材の直径の0.01倍〜1倍の範囲としてもよい。
【0019】
エラストマーチューブの好ましい硬度は、エラストマーチューブの厚さtによっても異なるが、たとえば、デュロメータタイプの硬度計に従って測定された硬度(JIS−K−6253)が、A/20〜A/100の範囲(たとえばA/40〜A/90の範囲)、またはD/60以下の範囲であってもよい。
【0020】
一例のエラストマーチューブでは、エラストマーチューブの厚さtが2mm〜4mmの範囲であり、硬度(JIS−K−6253)が、A/50〜A/80の範囲である。
【0021】
エラストマーチューブは高い弾性を有することが必要である。そのため、テフロン(登録商標)や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)といった、ゴム状弾性を有さない樹脂で形成されたチューブを用いることはできない。
【0022】
本発明のカラムキットでは、分離材とエラストマーチューブとが、取り外せないように一体となっていてもよい。この場合、分離材の長さとエラストマーチューブの長さとは、通常、ほぼ同じに設定される。分離材とエラストマーチューブとが一体となったカラムは、たとえば、分離材の外周部に液状のエラストマーを塗布して硬化させることによって形成できる。代表的な液状エラストマーとしては、たとえば、フッ素系ゴムやシリコーンゴムなどが挙げられる。
【0023】
本発明のカラムキットでは、分離材が、取り外し可能なようにエラストマーチューブ内に配置されてもよい。分離材が取り外し可能である場合、エラストマーチューブ内に配置される分離材の種類や数を自由に変えることによって、カラムの分離能を自由に設定することが可能である。また、使用によって分離材の能力が低下したときに、分離材のみを交換することが可能である。分離材の数を減らす場合には、分離材の代わりに円筒状のスペーサをエラストマーチューブ内に配置してもよい。
【0024】
本発明のカラムでは、複数個の分離材が1つのエラストマーチューブ内に配置可能であってもよい。この場合、1つの分離材の長さ(円柱状の分離材の中心軸方向の長さ)は、通常、エラストマーチューブの長さ(チューブの中心軸方向の長さ)の2分の1以下である。1つのエラストマーチューブ内に配置可能な分離材の数は、たとえば、2個以上や、3個以上や、4個以上であってもよい。上限は特にないが、たとえば10個以下や5個以下であってもよい。なお、カラム内に複数個の分離材が配置される場合、すべての分離材がガラス質多孔体であってもよいし、ガラス質多孔体以外の分離材を含んでもよい。
【0025】
また、1つのエラストマーチューブ内に分離材が1個だけ配置可能であってもよい。この場合、分離材の長さは、通常、エラストマーチューブの長さの0.5倍よりも大きく1.5倍以下(たとえば1倍以下)である。ただし、図4に示すような、内周面に溝が形成されたエラストマーチューブの場合、エラストマーチューブ全体の長さは、分離材の長さのたとえば5倍以下であってもよい。
【0026】
本発明のカラムキットの分離材は、粉末状の分離材とは異なり、円柱状(ディスク状を含む)の一体型(モノリス型)の分離材である。この分離材は、クロマトグラフィーに用いられる分離材である。分離材の典型的な形状は、断面形状が真円である円柱である。ただし、分離材は、断面形状が真円でなくともよく、また、端面が平面でなくてもよい。たとえば、端面が曲面であってもよい。また、本発明の分離材の断面形状は、四角形の角を丸めることによって得られる円状の形状であってもよい。
【0027】
分離材は、ガラス質多孔体(実質的に無機多孔体であり、ガラスおよびガラスセラミクスなどを含む)であり、ゾル−ゲル法を用いて形成されたガラス質多孔体、具体的には、ゾル−ゲル法を用いて得られる多孔性ゲルや、そのゲルを熱処理して得られる多孔体を用いることができる。たとえば、金属アルコキシド(たとえばアルコキシシラン)やハロゲン化金属を出発材料として公知のゾル−ゲル法によって形成されるガラス質多孔体を用いることができる。なお、分離材は、有機基が結合した金属アルコキシドやハロゲン化金属を出発材料の1つとして形成される、有機成分を含むガラス質多孔体であってもよい。
【0028】
このガラス質多孔体は、分離能を高めるために、表面が修飾されていてもよい。たとえば、ガラス質多孔体の表面に、官能基または有機分子が結合していてもよい(官能基を備える有機分子が結合する場合を含む)。ガラス質多孔体の表面を修飾する官能基または有機分子は、求められる分離能に応じて選択される。それらには、分離材で用いられる公知のものを適用でき、たとえば、ヘキシル基やオクチル基やその他のアルキル基、オクタデシルシラン、オクタデシル基、フェニル基、トリメチルシリル基、シアノ基、アミノ基を適用できる。
【0029】
ガラス質多孔体の典型的な一例は、酸化ケイ素を主成分(50質量%以上)とする多孔体であり、たとえば多孔質シリカガラスである。ただし、酸化ケイ素以外の酸化物を含むガラス質多孔体(無機多孔体)や、酸化ケイ素以外の酸化物を主成分とするガラス質多孔体(無機多孔体)を用いてもよい。ゾル−ゲル法で形成されるモノリス型のゲル(ガラス質多孔体)は、多孔度や孔径の制御が比較的容易であり、分離能のばらつきが小さいという点で好ましい。
【0030】
分離材には、市販されているガラス質多孔体を用いてもよい。たとえば、ジーエルサイエンス株式会社から販売されているMonoFas(登録商標)DNA精製キットIに使用されているディスク状の多孔質シリカを用いてもよい。また、分離材は、公知のゾル−ゲル法を用いて形成してもよい。たとえば、特開平6−265534号公報や特開平7−41374号公報に記載されている方法で形成してもよい。これらの方法によれば、円柱状の多孔質シリカガラス(多孔質シリカゲル)を形成することが可能である。
【0031】
分離材には、孔径が比較的大きい貫通孔と、孔径が小さい細孔とが混在する分離材を用いてもよい。たとえば、特開平6−265534号公報に記載の製造方法で製造されるガラス質多孔体、具体的には、孔径が500nm〜数十μm(たとえば30μm)の多数の貫通孔と、孔径が5nm〜100nmの多数の細孔とが形成されたガラス質多孔体を用いてもよい。このガラス質多孔体の細孔の全容積は、たとえば0.001m3/kg〜0.01m3/kg(1m3/t〜10m3/t)の範囲である。
【0032】
ガラス質多孔体(分離材)の分離能は、多孔体の孔の径や、多孔度、比表面積などによって変化する。そのため、求められる分離能に応じて、それらの値が制御される。それらの値は、多孔体の製造条件、特に、ゾル−ゲル法の条件を変更することによって制御できる。
【0033】
筒状の部分を含む筒状部材の形状に特に限定はなく、目的に応じて形状が選択される。筒状部材は、適度な強度を有する材料で形成できる。この部材は、たとえば、ロックウェル硬度(ASTMD785)、Rスケールで15以上の材料で形成してもよい。この部材の材料としては、たとえば、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマ(LCP)、ポリエステル、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、アクリル、ポリプロピレン(PP)、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、シリコーン樹脂や、様々な充填剤を配合した樹脂が挙げられる。また、この部材の一部または全部は金属で形成されてもよい。
【0034】
分離材の外周面とエラストマーチューブの内周面とを密着させるため、エラストマーチューブの内径は、通常、分離材の直径よりも小さい。たとえば、エラストマーチューブの内径は、分離材の直径よりも0.1mm〜2mm程度小さくてもよい。別の観点では、エラストマーチューブの内径は、分離材の直径のたとえば0.6倍〜0.98倍の範囲であってもよい。
【0035】
内部に分離材が配置されたエラストマーチューブの通常時における外径dは、それらが筒状部材の内部に配置されたときよりも大きい。すなわち、筒状部材のうち、分離材およびエラストマーチューブが配置される部分の最小の内径D2は、外径dよりも小さい。一例では、外径dは、内径D2よりも0.1mm〜5mm程度小さい。別の観点では、外径dは、内径D2のたとえば0.8倍以上0.99倍以下であってもよい。なお、筒状部材の筒状の部分の内径は、一定であってもよいし、変化していてもよい。たとえば、開口部の内径が他の部分の内径よりも大きくてもよい。
【0036】
本発明のカラムキットでは、筒状部材が、ピペットチップであってもよい。また、本発明のカラムキットは、遠心分離に用いられるカラムキットであってもよい。また、本発明のカラムキットは、筒状部材の内部を摺動可能なピストンをさらに含み、ピストンの動作により液体試料を筒状部材(シリンダ)の内部に導入し、または内部から排出する構成としてもよい。
【0037】
[カラムキットの例]
以下、本発明のカラムキットの一例として、ピペットチップとして用いられるカラムキットについて説明する。
【0038】
本発明のカラムキットの一例の断面図を図1(a)に示す。また、図1(a)の線Ib−Ibにおける断面図を図1(b)に示し、線Ic−Icにおける断面図を図1(c)に示す。
【0039】
図1(a)のカラムキット10は、エラストマーチューブ11と、円柱状(ディスク状)の分離材12と、ピペットチップ13とを含む。
【0040】
ピペットチップ13は、内部に円柱状の空間13hが形成された筒状の部分13aを含む。ピペットチップ13には、その先端13tから後端13bまで貫通する貫通孔が形成されている。
【0041】
エラストマーチューブ11は、分離材12の外周面に配置されている。エラストマーチューブ11と分離材12とは、筒状の部分13aに押し込まれてピペットチップ13に固定される。
【0042】
内部に分離材12がセットされたエラストマーチューブ11の通常時(ピペットチップ13に押し込まれる前の状態)における外径d(図示せず)は、筒状の部分13aにおける最小の内径よりも大きい。この構成によれば、エラストマーチューブ11および分離材12が、ピペットチップ13に固定される。また、外径dを、筒状の部分13aの開口端における内径よりも小さくすることによって、エラストマーチューブ11および分離材12を、筒状の部分13aに押し込みやすくなる。
【0043】
筒状の部分13aの内径は、エラストマーチューブ11および分離材12を押し込みやすいように、空間13hの開口部から奥に向かって徐々に内径が小さくなってもよい。ピペットチップ13の一例では、内径D1が7.6mmであり、内径D2が7mmであり、上記外径dが7.3mmである。
【0044】
カラムキット10の使用方法に限定はない。カラムキット10の使用方法の一例では、カラムキット10はピペッターの先端に取り付けられる。そして、ピペットチップ13の先端13tから、分離対象物を含む液体試料を吸い込む。液体試料は、分離材12を通って空間13hに吸い上げられる。吸い上げられた液体試料は、分離材12を再度通過させることによってピペットチップ13の外に排出することが可能である。分離対象物は、分離材12に吸着され、液体試料から分離される。分離材12に吸着された分離対象物は、必要に応じて適当な溶媒で抽出できる。分離材12は、分離対象物を含む液体試料に応じて選択される。
【0045】
[カラムキットの他の例]
以下、本発明のカラムキットの他の一例として、遠心分離に用いられるカラムキットについて説明する。
【0046】
本発明のカラムキットの一例の断面図を図2(a)に示す。また、図2(a)の線IIb−IIbにおける断面図を図2(b)に示す。
【0047】
図2(a)のカラムキット20は、エラストマーチューブ11と、分離材12と、円筒状の部分を含む部材21とを含む。なお、カラムキット20は、分離対象物が分離されたあとの液体を収集するための容器22を含んでもよい。
【0048】
部材21は、円柱状の空間21hが内部に形成された筒状の部分21aを含む。また、部材21は、蓋21cを含む。なお、蓋21cは状況に応じて省略してもよい。
【0049】
ピペットチップ21には、その先端21tから後端21bまで貫通する貫通孔が形成されている。内部に分離材12がセットされたエラストマーチューブ11の通常時における外径dと、空間21hの内径との関係は、上述したカラムキット10と同様である。
【0050】
カラムキット20は、遠心分離に用いられる。まず、容器22を部材21の先端にセットする。次に、分離対象物を含む液体試料を空間21hに入れ、蓋をしてカラムキット20を遠心機にセットする。遠心機によってカラムキット20が回転させられると、液体試料が分離材12を通過して容器22に移動する。液体試料が分離材12を通過する際に、分離対象物は分離材12に吸着される。分離対象物が除去された液体試料は、容器22によって収集される。分離材12に吸着された分離対象物は、必要に応じて適当な溶媒で抽出できる。
【0051】
なお、カラムキット20は、遠心分離以外の方法、たとえば吸引による分離・抽出などに用いることが可能である。
【0052】
[カラムキットの他の例]
分離材が外れることを防止するためのストッパを備えるカラムキットの一例の断面図を図3(a)に示す。また、図3(a)の線IIIb−IIIbにおける断面図を図3(b)に示し、線IIIc−IIIcにおける断面図を図3(c)に示す。図3のカラムキットは、図2のカラムキット20と比較して、2つのストッパ31を含む点のみが異なるため、重複する説明は省略する。
【0053】
ストッパ31は、内部に分離材12が配置されたエラストマーチューブ11の両端に配置される。ストッパ31は、円筒状の形状を有するエラストマーチューブである。ストッパ31の内径は、分離材12の外径よりも小さい。ストッパ31の内径は、分離材12の移動を抑制できる限り特に限定はない。ストッパ31の一例の内径は、分離材の直径の0.6倍〜0.95倍の範囲であってもよい。
【0054】
ストッパ31の通常時(部材21に押し込まれる前)の外径は、部材21の内径よりも大きく、たとえば、外径dの一例の範囲として上述した範囲にある。
【0055】
なお、ストッパ31のようなストッパは、遠心分離用のカラムキットに限らず、本発明の他のカラムキット(たとえばピペットチップタイプのカラムキット)にも適用できる。ピペットチップタイプのカラムキットでは、液体試料を筒状部材の内部に吸入したのち排出するという操作を行う場合がある。そのような場合には、分離材の前方と後方とにストッパを配置することによって、分離材がエラストマーチューブから外れることを防止できる。また、1つのカラムキットに使用されるストッパは、2つに限らず、1つまたは3つ以上であってもよい。複数のストッパを用いる場合、それらの内径および外径は、同じであってもよいし、異なってもよい。たとえば、筒状部材の筒状の部分の内径が位置によって変化している場合、その内径の変化にあわせて、外径が大きいストッパと外径が小さいストッパとを組み合わせて用いてもよい。
【0056】
[カラムキットの他の例]
分離材が外れることを防止するための溝が形成されたエラストマーチューブを含むカラムキットの一例の断面図を図4(a)に示す。また、図4(a)の線IVb−IVbにおける断面図を図4(b)に示し、線IVc−IVcにおける断面図を図4(c)に示す。図4のカラムキットは、図2のカラムキット20と比較して、エラストマーチューブの形状のみが異なるため、重複する説明を省略する。
【0057】
図4のカラムキットは、エラストマーチューブ41を含む。エラストマーチューブ41の内周面には、分離材12の外周部分が嵌め込まれるリング状の溝が形成されている。別の観点では、エラストマーチューブ41は、内径が大きい円筒を、内径が小さい2つの円筒で挟んで結合した形状を有する。この内径が大きい円筒の部分に分離材12が配置される。内径が大きい円筒部分の内径は、たとえば、エラストマーチューブ11の一例の内径の範囲として上述した範囲にある。内径が小さい円筒部分の内径は、たとえば、ストッパ31の一例の内径の範囲として上述した範囲にある。また、内径が大きい円筒部分の長さ(中心軸方向における長さ)は、分離材12の長さ(中心軸方向における長さ)と同程度か少し大きい。
【0058】
エラストマーチューブ41によれば、溝の部分に分離材12が嵌め込まれるため、使用時に分離材12がエラストマーチューブ41から外れることを抑制できる。なお、エラストマーチューブ41は弾性があるため、内径が小さい円筒部分の貫通孔を広げれば、分離材12を内部に配置することが可能である。
【0059】
なお、エラストマーチューブ41のようなエラストマーチューブは、遠心分離用のカラムキットに限らず、本発明の他のカラムキット(たとえばピペットチップタイプのカラムキット)にも適用できる。
【0060】
[カラムキットの他の例]
図5に、カラムキットのさらに別の例を示す。カラムキット50は、シリンダ53と、シリンダ53の内部に固定されたエラストマーチューブ51および分離材52と、その一部がシリンダ53に挿入されたピストン54とを備えている。シリンダ53は、筒状の部分53a、53bとフランジ部53cとを備えている。ピストン54は、その外周面がシリンダ53の内側表面(内周面)の全周に接するピストンヘッド55と、一端がピストンヘッド55に接続されるとともに他端がシリンダ53の外部に突出したピストンロッド56とを備え、シリンダ53内をその軸方向に移動する。ピストン54は、シリンダ53に着脱自在であり、シリンダ53の後端開口部からシリンダ53内に挿入される。
【0061】
ピストンヘッド55は、円盤状でその側面(外周面)の全周がシリンダ53の内周面の全周に接する2つの摺動部57、59と、シリンダ53の内周面に接しないように摺動部57、59の間に配置された接続部58とを備え、ゴム状弾性を有する材料により形成されている。摺動部57、59は、シリンダ53の内径よりも僅かに大きい直径を有し、シリンダ53内に押し込まれてその弾性に起因する復元力によりシリンダ53の内周面を押圧している。摺動部57、59は、ほぼ気密な障壁となってシリンダ53の内部空間を先端側と後端側とに分割し、その前進または後退により内部空間に気圧の変化を生じさせる。シリンダ53およびピストンロッド56は硬質の樹脂部材から形成されている。エラストマーチューブ51および分離材52の材料、形状等の詳細は基本的には上記で説明したとおりであり、ここでは説明を省略する。1ml程度の容量を有するシリンダ53の内部に配置すべき場合、分離材52の適当な大きさは、厚み2mm程度、直径3mm程度である。
【0062】
一般的なピストンシリンジと同様、ピストンロッド56を引っ張ればピストンヘッド55がシリンダ53内をその後端側(図示下方)へと後退し、ピストンロッド56を押圧すればピストンヘッド55がシリンダ53内をその先端側(図示上方)へと前進する。シリンダ53の先端側開口を分離対象物を含む液体試料中に配置した状態でピストンヘッド55を後退させると、液体試料がシリンダ53内に吸引されて分離材52を通過する。吸引された液体試料は、ピストンヘッド55を前進させると再び分離材52を通過してシリンダ53から排出される。分離材52を通過する際に、液体試料中の分離対象物は分離材52に吸着される。こうして、カラムキット50では、手動により行いうるピストン54の後退および前進により、液体試料に含まれる分離対象物を分離材52に吸着させることができる。
【0063】
図5に示したカラムキット50においても、ストッパ31を追加してよいし(図3参照)、エラストマーチューブ51に代えてリング状の溝が形成されたエラストマーチューブ41を用いてもよい(図4参照)。図5に示したとおり、エラストマーチューブ51および分離材52は、シリンダ53の先端開口部近傍、特にシリンダ53の拡径筒状部53b内の先端側(細径筒状部53a側)近傍に固定することが好ましいが、シリンダ53内に吸引される液体試料が分離材52を通過できる限りにおいて、分離材52を固定する位置に制限はない。
【0064】
上記のように、本発明のカラムキットは、ピストンシリンジのシリンダ内部にチューブを用いて分離材を固定した形態であってもよい。このカラムキットは、分離材が固定された部材(シリンダ)の筒状の部分の内周面の全周に接するように筒状の部分の内部に配置されたピストンヘッドと、ピストンヘッドに接続されたピストンロッドとをさらに含み、ピストンロッドを引っ張りまたは押圧してピストンヘッドを移動させることにより部材(シリンダ)の内部に液体試料が吸引または排出される。
【0065】
本発明のカラムキットでは、ゴム状弾性を有するチューブで分離材が保持されるため、分離材の表面に凹部が存在しても、その凹部が空隙となることが抑制される。また、液体試料を分離材に通過させる際に、分離材に高い圧力が加わってエラストマーチューブと分離材との間に空隙が生じても、チューブの弾性によって空隙が縮小する。そのため、本発明のカラムキットによれば、液体試料が、分離材の周囲に存在する空隙を通ってリークすることを抑制できる。
【0066】
なお、本発明のカラムでは、本発明の効果が得られる限り、分離材の周囲が、ゴム状弾性を有さない他の部材、たとえば硬化性樹脂(UV硬化性樹脂、接着剤、フッ素系樹脂、シリコーン系コーティング剤)等で補強されていてもよい。なお、ゴム状弾性を有さない材料によって分離材の周囲が被覆されている場合でも、その周囲をゴムチューブで覆うことによって、熱収縮チューブ等と分離材との間でリークが起こることを抑制できる。
【0067】
また、エラストマーチューブの外径は一定でなくてもよく、たとえば、エラストマーチューブの外形は円錐台状であってもよい。また、本発明のカラムキットは、エラストマーチューブおよび分離材が所定の位置にセットされるようにするためのストッパを含んでもよい。そのようなストッパは、筒状部材の内面の段差であってもよいし、エラストマー製のリング状のスペーサであってもよい。また、本発明のカラムキットは、分離材とエラストマーチューブとの間のリークを特に抑制するため、それらの間にシール材を配置してもよい。同様に、エラストマーチューブと筒状部材との間のリークを特に抑制するため、それらの間にシール材を配置してもよい。
【0068】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づいて他の実施形態に適用できる。
【0069】
別の観点では、本発明は、筒状の部分を含む部材と、筒状の部分の内部に配置される円柱状の分離材(分離能を有すればよく、ガラス質多孔体に限定されない)と、分離材の外周面に配置され分離材を筒状の部分に固定するためのエラストマーチューブとを含むカラムキットである。このカラムキットは、分離材の材質を除いて上述したカラムキットと同じである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のカラムキットは、物質の分離、およびそれに伴う精製や抽出に適用できる。本発明のカラムキットによれば、様々な物質、たとえばタンパク質やペプチドといった有機化合物を分離、精製、抽出することが可能である。たとえば、本発明のカラムキットを用いて、DNAを含む液体試料からDNAを抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のカラムキットの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のカラムキットの他の一例を示す断面図である。
【図3】本発明のカラムキットの他の一例を示す断面図である。
【図4】本発明のカラムキットの他の一例を示す断面図である。
【図5】本発明のカラムキットの他の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
10、20、50 カラムキット
11、41、51 エラストマーチューブ
12、52 分離材
13 ピペットチップ(筒状の部分を含む部材)
13a、21a 筒状の部分
21 筒状の部分を含む部材
31 ストッパ
53 シリンダ
53a 細径筒状部
53b 拡径筒状部
53c シリンジ部
54 ピストン
55 ピストンヘッド
56 ピストンロッド
57、59 摺動部
58 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質を分離するためのカラムキットであって、
筒状の部分を含む部材と、前記筒状の部分の内部に配置される円柱状の分離材と、前記分離材の外周面に配置され前記分離材を前記筒状の部分に固定するためのチューブとを含み、
前記分離材がガラス質多孔体であり、
前記チューブがエラストマーのチューブであるカラムキット。
【請求項2】
前記チューブがゴムチューブである請求項1に記載のカラムキット。
【請求項3】
前記チューブがフッ素ゴムからなる請求項2に記載のカラムキット。
【請求項4】
前記分離材と前記チューブとが、取り外せないように一体となっている請求項1〜3のいずれか1項に記載のカラムキット。
【請求項5】
前記分離材が、取り外し可能なように前記チューブ内に配置される請求項1〜3のいずれか1項に記載のカラムキット。
【請求項6】
複数個の前記分離材が前記チューブ内に配置可能である請求項5に記載のカラムキット。
【請求項7】
前記分離材がゾル−ゲル法によって形成されたガラス質多孔体である請求項1〜6のいずれか1項に記載のカラムキット。
【請求項8】
前記ガラス質多孔体の表面が修飾されている請求項1〜7のいずれか1項に記載のカラムキット。
【請求項9】
前記チューブの内周面に、前記分離材が嵌め込まれるリング状の溝が形成されている請求項1〜8のいずれか1項に記載のカラムキット。
【請求項10】
前記部材がピペットチップである請求項1〜9のいずれか1項に記載のカラムキット。
【請求項11】
遠心分離に用いられる請求項1〜9のいずれか1項に記載のカラムキット。
【請求項12】
前記筒状の部分の内周面の全周に接するように前記筒状の部分の内部に配置されたピストンヘッドと、前記ピストンヘッドに接続されたピストンロッドとをさらに含み、前記ピストンロッドを引っ張りまたは押圧して前記ピストンヘッドを移動させることにより前記部材の内部に液体試料を吸引または排出する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のカラムキット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−240525(P2007−240525A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25362(P2007−25362)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000108524)ヘラマンタイトン株式会社 (57)
【Fターム(参考)】