説明

カラー発光ナノサイズ複合体

【課題】 様々な色の強発光及びその色調制御が可能であり、各種マトリクス材料と複合しても発光特性の安定度が高いナノサイズのカラー発光材料を提供する。
【解決手段】 ホスト体として細孔を有するナノサイズ粒子状のゼオライトを用い、その細孔に希土類イオンなどの発光性物質及び光増感剤を担持させることにより、カラー発光ナノサイズ複合体を得る。本発明の複合体は、溶媒、プラスチックなどの光透過性材料と組み合わせても発光特性が変化せず、また、複合材料を白濁させてしまうことがない。発光性物質の種類や比率を変化させたり、温度や励起波長を適宜に制御することにより、所望の色の発光を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光色の色調制御を容易に行うことができ、各種マトリクス材料との複合が可能なナノサイズの発光材料に関する。特に、本発明は、ナノ微粒子状ゼオライトの細孔中に発光性物質が担持された構成を有するナノサイズ複合体に関する。なお、本明細書中でいう「色」とは、標準的な条件の下での平均的な観測者の色感覚に対応する色刺激のことを指すものとする。
【背景技術】
【0002】
ある種の希土類イオンが優れた発光特性を有することが知られている。この希土類イオンは、所定の励起光(通常は紫外光)を照射すると、可視光領域波長において発光する。このような希土類イオンの発光特性を向上させるために、希土類イオンを中心イオンとし、その周囲に光増感剤である配位子を配位させた希土類錯体も各種提案されている。希土類イオンや希土類錯体は、励起光が不可視であることや発光強度が高いという特長を備えているのみならず、希土類イオンの種類や配位子の種類を選択することによって励起光−発光光特性が変化するため、所望の光特性を有する発光体を高い自由度で以て設計することができるという優れた特性を備えている。
【0003】
希土類イオンや希土類錯体の応用の一つに、発光性複合材料の創製がある。優れた発光特性を有する希土類イオンや希土類錯体を溶媒、ポリマー、ガラスなどをはじめとする各種の光透過性材料中に分散させることにより、発光特性が付与された発光性複合材料を得ることができ、その応用範囲は広範で多岐に亘る。しかし、希土類イオンや希土類錯体は化学的環境の変化に非常に敏感であり、他の材料と組み合わせた際に、発光特性が変化しやすいという問題があった。さらに、有機材料への溶解性が低く、光透過性材料中へ高濃度且つ均一に分散させることが困難であるという問題もあった。
【0004】
そこで、希土類イオンや希土類錯体を他の材料と組み合わせた場合にその発光特性を安定化することを目的として、ゼオライトの細孔中に希土類イオンなどの発光性材料を担持させ、そのゼオライトを各種の光透過性材料中に分散させる技術が考案されてきた。この技術によって、希土類イオンなどを光透過性材料中に高濃度で均一に分散させることも可能となる。例えば、特許文献1には、ゼオライト中に希土類金属イオン及び希土類金属錯体のうち少なくとも1種を担持した複合体が開示されている。この複合体によれば、希土類イオンや希土類錯体の発光安定性、耐熱性、化学的安定性のいずれも改善される。さらに、この複合体は媒体中で白濁することがないため、光透過性材料中に高濃度で分散しても、複合材料の光透過性を低下させることがない。
【0005】
【特許文献1】特開2000-256251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているような、ゼオライト細孔中に希土類イオン等が担持された複合体を用いることにより、発光特性や発光安定性に優れた発光性複合材料を得ることが可能である。しかしながら、この技術を含め、従来開発・開示されてきた技術では、色調制御に関する課題があった。例えば、発光が単色であったり、色純度が低かったりと、発光色の色調制御の自由度が非常に低かったのである。
【0007】
発光性複合材料の発光色を任意に制御することが可能となれば、その応用範囲、応用分野は格段に拡がる。とりわけ、光の三原色に対応する赤、緑、青の三色の発光を独立して制御することが可能となれば、発光色のフルカラー化を行うことが可能となる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、発光特性や発光安定性に優れ、且つ発光色の色調制御が可能な発光性材料であるカラー発光ナノサイズ複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るカラー発光ナノサイズ複合体は、ナノ微粒子状ゼオライトの細孔中に、発光色が異なる複数の発光性物質と、光増感剤とが担持されていることを特徴とする。
また、本発明のカラー発光ナノサイズ複合体の他の形態は、ナノ微粒子状ゼオライトの細孔中に、発光色が赤及び緑に対応する少なくとも二種類の発光性物質と、青の発光色を有する光増感剤とが担持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るカラー発光ナノサイズ複合体は、ゼオライトの細孔中に担持される発光性物質や光増感剤の種類や比率を選択的に決定して作製することができるため、励起光や温度の条件を適宜に設定することによって、一つの細孔から種々の異なる色の発光を実現することが可能である。また、本発明のカラー発光ナノサイズ複合体は、溶媒、プラスチック、ガラスといった多様な材料中への高濃度での均一分散が可能であり、しかもそれらの材料と組み合わせた際の発光安定性に優れているため、多方面への応用が可能である。さらに、このカラー発光ナノサイズ複合体は光透過性材料中へ分散しても白濁することがないという長所も兼ね備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るカラー発光ナノサイズ複合体の概念図を図1に示す。この複合体の基本的構成は、ホスト体であるゼオライトと、そのゼオライトの持つ細孔中に担持されるゲスト体である発光性物質及び光増感剤とから成る。
【0012】
ゼオライトは結晶中に多数の微細な孔(細孔)を有する物質であり、一般にアルミノケイ酸から成る。本発明において利用できるゼオライトの種類は特に限定されることなく、各種のゼオライトを用いることができるが、他の材料中への分散性を良好とし、白濁を防止するためには、その粒径は100nm以下程度であることが望ましい(図1(a))。また、ゼオライトの有する細孔のサイズは、その大きさに応じて担持可能な発光性物質等の数量が決定されるため、0.1〜50nm程度が好適である(図1(b))。ゼオライトはその骨格に負電荷を有するため、正の電荷を有する発光性物質や光増感剤をイオン交換によって細孔中に容易に取り込み、本発明のカラー発光ナノサイズ複合体を形成することができる(図1(c))。
【0013】
発光性物質としては、色純度や発光強度が高い各種の希土類イオンや有機色素等を利用することができる。希土類イオンや有機色素はその種類によって特徴的な発光波長、すなわち、発光色を有している。例えば、Eu(III)は赤、Tb(III)は緑、Tm(III)は青の発光色を有している。ゼオライトの細孔中には通常、複数個の発光性物質分子が担持され得るが、本発明では一つの細孔中に発光色が異なる複数の発光性物質を担持させることにより、実現可能な発光色の幅を拡げることが可能となる。発光性物質の種類やそれらの比率は、所望の発光特性に応じて任意に設定すればよい。発光強度は、入射する励起光の強度によって調節することができる。特に、光の三原色である赤、緑、青の発光色に対応した三種類の発光性物質を用いることにより、各発光性物質からの発光強度を制御してフルカラー発色を実現することができ、ディスプレイ等への応用が可能となる。
【0014】
光増感剤は希土類イオン等の発光性物質に励起エネルギーを与える役割を担い、発光性物質の発光能力を向上させる。本発明において好適に用いことができる光増感剤の例としては、芳香族基やヘテロ環芳香族基などを有する有機化合物があるが、これらに限定されるものではなく、種々の光吸収能力の大きい有機分子を利用することができる。しかし、後述するように、本発明に係るカラー発光ナノサイズ複合体においては、光増感剤は発光性物質としても機能させるため、その種類は適宜に選択する必要がある。なお、本発明において光増感剤は発光性物質の近傍に存在しているだけで十分にその役割を果たすため、必ずしも細孔中に担持されている必要はない。
【0015】
本発明のカラー発光ナノサイズ複合体においては、自身からも発光が生じるような光増感剤を使用することもできる。この場合、光増感剤は、発光性物質及び光増感剤の両者の役割を果たす。発光色は光増感剤の構成によって異なるため、光増感剤の種類を適宜に選択することにより、所望の発光特性を備えた複合体を得ることができる。このような特性を有する光増感剤としては、例えば、4-acetylbipehnylやbenzophenone等があり、これらの光増感剤からは青の発光色を得ることができる。この構成によって光の三原色の発光を実現するためには、例えば希土類イオンから赤色及び緑色を発光させ、光増感剤から青色を発光させればよい(図1(d))。
【0016】
発光色の制御について述べる。本発明のカラー発光ナノサイズ複合体の発光色は、以下に挙げる三種類のパラメータによって制御することが可能である。
1)ゼオライトの細孔中に担持される発光性物質の種類及び比率を変化させる。
2)温度を変化させる。
3)照射する励起波長を変化させる。
上記の各パラメータを適宜に設定することにより、所望の色の発光を実現することが可能となる。
【実施例】
【0017】
実施例として、発光性物質として希土類イオンであるEu(III)及びTb(III)、発光性物質及び光増感剤として4-acetylbipehnyl又はbenzophenoneを利用したカラー発光ナノサイズ複合体を作製した(図1)。なお、本実施例における励起波長及び発光波長の測定はいずれもJovin Yvon社製、SPEX Fluorolog-3によって行った。
【0018】
ゼオライトとして、東ソー株式会社製のフォージャサイト型ゼオライトをナノ微粒子状に調製したもの(Zeolite-X:Na+-X, SiO2/Al2O3=4.8, Na/Al=1.0)を利用した。図1(a)は、このゼオライトのSEM像である。本実施例において利用したゼオライトは1粒子あたり12個の細孔を有しており、細孔の入口の直径は0.7nm、細孔内部の直径は1.3nmであった。
【0019】
ゼオライトの細孔中にEu(III)及びTb(III)を導入するために、温度条件353Kで、Ln(NO3)3・6H2O(Ln=Tb,Eu)の0.08モル水溶液中と上記ゼオライトとを混合し、16時間攪拌した。Tb(III)、Eu(III)のモル比は10:0、1:1、1:10、0:10とした。次いで、溶液中のゼオライトを遠心分離によって取り出した後、脱イオン水によって洗浄し、353Kの雰囲気中で乾燥させた。
【0020】
上記のようにして得た、Eu(III)及びTb(III)が細孔中に担持されたゼオライトを423K、1時間の条件で脱気した後、気体状の4-acetylbiphenyl又はbenzophenoneに曝すことにより、光増感剤を導入した。導入された光増感剤の量を熱重量分析によって得た減少重量値に基づき算出したところ、ゼオライトの1粒子あたり10〜14分子、すなわち1細孔あたり1〜2個の光増感剤が担持されていることがわかった。
【0021】
最終的に、試料を常温で1時間脱気した後に真空下で密封し、カラー発光ナノサイズ複合体を得た。なお、ゼオライトが空気に触れることがないように、上述の作業は全て真空条件下で行った。
【0022】
図2に、今回の実施例において作製した種々のカラー発光ナノサイズ複合体試料及び照射した励起波長の一覧表を示す(図2a〜k、ただし、試料kは温度条件77K。)。図2の表において発光性物質の数字は、ゼオライトの1粒子あたりの平均発光性物質分子数を表している。Tb及びEuの比率はICP(Inductively coupled plasma:誘導結合プラズマ、Jobin Yvon社製ULTIMA2)によって測定した。
【0023】
これらの各試料に対して図2の表に示す波長(365nm又は254nm)の励起光を照射すると、図3のCIEx-y色度図上に示すような種々の色の発光が観察された。このことより、発光色の制御パラメータの項目1)である、ゼオライトの細孔中に担持される発光性物質の種類及び比率を変化させることにより、発光色の制御が可能であることが確認された。
【0024】
次に、温度変化が発光色に与える影響について調べた。図4に、カラー発光ナノサイズ複合体試料であるTb31Eu3.2(acbp)-Xの、励起波長が330nmの励起光を照射した場合に発光波長が温度によって変化する様子を表すグラフを示す。温度を77Kから293Kまで上昇させた時の発光波長の変化を図4(a)、77Kから293Kまで温度を上昇させた時の、400nm、540nm、610nmの各波長における発光強度の相対値(77Kの発光強度を1とする)のグラフ(図4(b))を示す。なお、観察された色は、77Kの場合には白(図3のk)、293Kの場合にはピンク(図3のb)であった。
【0025】
温度が上昇するに従って、Tb31Eu3.2(acbp)-Xの発光強度は発光波長全般に亘り徐々に減少する傾向を示すが、図4(b)に示されているように、Tb(III)に由来する540nmでの発光(緑)は、Eu(III)に由来する610nmでの発光(赤)及び4-acetylbiphenylに由来する400nmの発光(青)に比べ、その強度の落ち込みが急激であり、室温に近づくと、その強度は他の二色に対して無視可能な程度にまで低下する。このことにより、発光色の制御パラメータの項目2)である、温度を変化させることにより発光色の制御が可能であることが確認された。
【0026】
励起波長が発光色に与える影響について確認するため、カラー発光ナノサイズ複合体としてTb31Eu3.2(acbp)-Xを用い、励起光の波長を250nm〜360nmの間で変化させた時の発光波長を測定した(図5)。図5(a)は77K、(c)は293K、(b)はその中間の温度における測定結果である。また、図5(a)〜(c)の各図の右上のグラフは、励起波長が変化した際の400nm(青)、540nm(緑)、610nm(赤)の各発光波長におけるTb31Eu3.2(acbp)-Xの発光強度を示している。
【0027】
低温(77K)の場合、励起波長を長くしてゆくと、緑色の発光強度は260nmから320nmでの範囲で急激に増加し、320nm以降では発光強度が低下する。他方、青や赤の発光強度は単調に増加する(図5(a))。また、温度が上昇すると、緑色の発光強度の最大値は短波長側に移動することが観察された(図5(b)、(c))。この測定結果から、発光色の制御パラメータの項目3)として挙げた、照射する励起波長を変化させることにより、発光色を制御することが可能であることが確認された。
【0028】
本実施例において、光の三原色に対応する発光色のうち、温度の変化及び励起光波長の変化のいずれに対しても最も敏感に反応したのは、緑色の発光色であった。緑色に対応する発光波長の変化は、青や赤のそれと比較すると視覚的な認識が緩やかであるため、この特性を利用することにより、所望の発光色を得るための制御を比較的容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係るカラー発光ナノサイズ複合体は、照明、ディスプレイ、塗料など、蛍光体、発光体に関わる全ての分野に応用することが可能である。また、従来得ることができなかった光による表現が可能となるため、玩具や芸術作品などに適用することもでき、その応用分野は極めて広範である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)微粒子状ゼオライトのSEM像。(b)ゼオライトの[111]面の結晶構造を表す図。(c)本発明に係るカラー発光ナノサイズ複合体の模式図。(d)本発明に係るカラー発光ナノサイズ複合体の細孔部の拡大図。
【図2】本発明の実施例において作製した種々のカラー発光ナノサイズ複合体試料及び照射した励起波長の一覧表。
【図3】図2の種々のカラー発光ナノサイズ複合体試料に対して所定波長の励起光を照射した場合の各発光色をCIEx-y色度図において示す図。
【図4】Tb31Eu3.2(acbp)-Xの温度を変化させた場合の、発光波長を表すグラフ(a)、400nm、540nm、610nmの各波長における発光強度の相対値を示すグラフ(b)。
【図5】77K(a)、中間温度(b)、293K(c)において、Tb31Eu3(acbp)-Xの励起光を変化させた時の、発光波長を示すグラフ(左)、400nm、540nm、610nmの各波長における発光強度を示すグラフ(右)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ微粒子状ゼオライトの細孔中に、発光色が異なる複数の発光性物質と、光増感剤とが担持されていることを特徴とするカラー発光ナノサイズ複合体。
【請求項2】
前記発光性物質が希土類イオン又は有機色素であることを特徴とする請求項1に記載のカラー発光ナノサイズ複合体。
【請求項3】
前記発光性物質が、赤、緑、青の発光色に対応する少なくとも三種類の発光性物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカラー発光ナノサイズ複合体。
【請求項4】
前記三種類の発光性物質がEu(III)、Tb(III)、Tm(III)であることを特徴とする請求項3に記載のカラー発光ナノサイズ複合体。
【請求項5】
ナノ微粒子状ゼオライトの細孔中に、
赤及び緑の発光色に対応する少なくとも二種類の発光性物質と、青の発光色を有する光増感剤とが担持されていることを特徴とするカラー発光ナノサイズ複合体。
【請求項6】
前記二種類の発光性物質がEu(III)及びTb(III)であり、
前記光増感剤が4-acetylbipehnyl又はbenzophenoneであることを特徴とする請求項5に記載のカラー発光ナノサイズ複合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のカラー発光ナノサイズ複合体が光透過性マトリクス材料中に分散されて成るカラー発光性複合材料。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−291015(P2006−291015A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112750(P2005−112750)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】