説明

カリウム塩を含むポリマー電解質リチウムバッテリー

【課題】再充電可能なリチウムバッテリーを提供すること。
【解決手段】少なくとも1つのリチウムアノードと、第1ポリマーに結合した1つのリチウムイオン還元性カソードと、第2ポリマー中に溶液中のリチウム塩を含むポリマー電解質とを含む再充電可能なリチウムバッテリーであって、前記リチウムバッテリーが前記カソードと前記ポリマー電解質との少なくとも一方に分配されたカリウムイオンを含む添加剤を含有し、前記バッテリーが平衡に達したときの第2ポリマー中の、O/(Li+K)として表現される、リチウムとカリウムとの濃度が約8/1〜40/1の範囲内であり、Li/Kの比が約0.2〜15の範囲内であり、前記カリウムイオンがエネルギー及び電力に関してサイクリング中のバッテリーの性能を安定化するように選択される、前記再充電可能なリチウムバッテリー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー電解質バッテリー、例えば、バッテリーの性能及び有効寿命を安定化することを可能にするカリウム塩を有するポリマー電解質発電機に関する。さらに詳しくは、本発明はポリマー電解質中に、カソード中に分配されたカリウム塩を含有する、又はこれらの両方を同時に含有する再充電可能なリチウム発電機(generator)に関する。特に、本発明は、カソード中に並びにポリマー電解質中に添加剤の形態で導入されるカリウムイオンが、例えばエネルギー及び電力に関する充放電(cycling)中の性能を改良するように、発電機の総有効寿命を持続する現場処理(in situ treatment)を画定する、再充電可能なリチウム発電機に関する。本発明はまた、再充電可能なリチウム電気化学発電機の要素の少なくとも1つ中に及び2つ中にさえも、好ましくはポリマー電解質と、ポリマーに結合した複合カソード(composite cathode)とに分配され、その効果が充放電中のエネルギーと電力性能とを安定化することであるカリウム塩基添加剤にも関する。
【0002】
本発明はまた、カリウムを発電機中に発電機の要素のいずれか1つによって導入するための好ましい手段を述べ、充放電中の電極の作用を最適にするように1種より多くの要素にカリウムを分配する方法をも述べる。この添加剤は充放電中のリチウムアノードの形態を維持して、充放電中のカソードの物理的性質にするための有益な効果を有する。
【背景技術】
【0003】
バッテリーの寿命は、両電極における電気化学プロセスの可逆性を包含する多くの要素に依存する。リチウムバッテリーのカソードの活性物質にアルカリ土類金属又は遷移金属を添加することは知られており、挿入カソード(insertion cathode)を安定化する又は最適化するために一般に用いられている(フランス特許発明第2,616,013号明細書(特許文献1);米国特許第5,013,620号明細書(特許文献2);米国特許第5,114,809号明細書(特許文献3);フランス特許発明第2,573,250号明細書(特許文献4))。用いる添加剤は一般に挿入構造体を安定化し、時には、ホスト構造体(host structure)中の有効な部位数を最適化するように意図される(国際公開第91/02383号(特許文献5);米国特許第4,668,594号明細書(特許文献6))。場合によっては、これらの添加剤は挿入物質の電子伝導性を高めるようにも意図される(米国特許第4,965,151号明細書(特許文献7);特開平2−247978号公報(特許文献8);特開平2−195659号公報(特許文献9);米国特許第5,114,811号明細書(特許文献10);米国特許第5,147,737号明細書(特許文献11))。知られている大部分の場合には、添加金属がホスト構造体中に組み込まれて、主要遷移金属に関して1%〜50%の範囲内で変化する比較的高い割合で存在する。これらの添加剤はホスト挿入構造体中に一般に固定化され、発電機の他の要素、例えば電解質及びアノード中には散在しない。添加金属が電解質中に溶解性である場合には、添加金属は金属リチウムによって還元されて、発電機中に平衡状態に留まることができない。さらに、出願人の見解では、リチウム発電機の1つより多い要素中に存在する添加剤の例は今までに述べられていない。
【0004】
実際問題として、これらの金属のうちの数種類はリチウムアノードと化学的に適合し、発電機の電解質中に溶液中のリチウム塩と共存することができる。カリウムは、マグネシウムと共に、非プロトン性媒質中でリチウムによって(熱力学的かつ動力学的に)還元されない単独金属(the only metals)の1つであり、それ故に、本発明を実施するための特有の物質を構成する。
【0005】
混合アルカリカチオンを含むポリマー電解質の利用は導電率測定中に(ACFAS1993)かつビヒキュラー伝導電解質(vehicular conduction electrolyte)の構成に関して(米国特許第5,350,646号明細書(特許文献12)を参照のこと)挙げられている。これらの場合のいずれも電解質の混合カチオンと電極材料との間の平衡又は発電機の充放電又はリチウムアノードに関する有益な効果を述べていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】フランス特許発明第2,616,013号明細書
【特許文献2】米国特許第5,013,620号明細書
【特許文献3】米国特許第5,114,809号明細書
【特許文献4】フランス特許発明第2,573,250号明細書
【特許文献5】国際公報第91/02383号
【特許文献6】米国特許第4,668,594号明細書
【特許文献7】米国特許第4,965,151号明細書
【特許文献8】特開平2−247978号公報
【特許文献9】特開平2−195659号公報
【特許文献10】米国特許第5,114,811号明細書
【特許文献11】米国特許第5,147,737号明細書
【特許文献12】米国特許第5,350,646号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、ポリマー電解質バッテリーのテクノロジーに用いられているカソードV25の材料の安定化に認められる有益な効果を提供し、同時に、バッテリーの性能と有効寿命と改良するためにリチウムアノードの溶解−再付着の可逆性とその形態との改良を提供することが、本発明の目的である。
【0008】
それ故、例えばKTFSI(カリウムトリフルオロメタンスルホニルイミド)のようなカリウム塩をポリマーセパレーター中及び/又は、正の複合体(composite positive)又はカソードを構成するポリマー中に導入することによって改良を提供することが、本発明の目的である。
【0009】
引き続いて電極中に存在するカリウムイオンを電気化学的手段によってポリマー中に導入することが、本発明の他の目的である。
必ずしも化学的手段を用いずに、例えばカリウムのような安定剤を現場添加することによって得られる、エネルギー及び電力に関する充放電の改良を特徴とするバッテリーの製造を提供することも、本発明の目的である。
【0010】
安定剤がLiと正電荷の捕集面(the collector of the positive)との界面からバッテリー全体中に均一に分配されるように、例えばポリマー電解質セパレーター中及び/又はカソード中に安定剤を導入することを可能にすることが、本発明の他の目的である。
【0011】
デンドライトの出現なしにバッテリーを数十回サイクルで可逆的に再びサイクルさせるリチウムの形態的展開(リチウムの平面から凹凸面への改変)後に、再充填中の減極効果を生じることも、本発明の目的である(デンドライト形成、アノードとカソードとの接触の場合には、20Mvを越える電圧低下)。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的を達成し、先行技術の欠点を克服するために、本発明は少なくとも1つのリチウムアノードと、第1ポリマーに結合した1つのリチウムイオン還元性カソードと、第2ポリマー中に溶液中のリチウム塩を含むポリマー電解質とを含む再充電可能なリチウムバッテリーを提案する。本発明によるリチウム発電機はカソードとポリマー電解質との少なくとも一方に分配されたカリウムイオンを含有し、第2ポリマー中の平衡下での、O/(Li+K)として表現される、リチウムとカリウムとの濃度が約8/1〜40/1の範囲内であり、Li/Kのモル比が約0.2〜15の範囲内であることを特徴とする。カリウムイオンは充放電中の発電機のエネルギー及び電力性能を安定化するように選択される。
【0013】
一般に、カリウムイオンはカリウム塩として導入される。カリウム塩はカソード中、電解質中、又はポリマー電解質とカソードの両方の中に分配される。
さらに、第1ポリマーと第2ポリマーとは、当業者に明らかであるように、状況に応じて同じものでも異なるものでもよい。
【0014】
本発明によって使用可能であるカリウム塩の例としては、KBF4、KPF6、KN(RFSO22、KN(FSO22、K(FSO2−N−SO2F)及びKRFSO3[式中、RFはペルハロゲノアルキル、ペルハロゲノオキシアルキル、ペルハロゲノチアアルキルまたはペルハロゲノアリールで、場合によりアザ若しくはオキサ置換基を含み、好ましくは1〜10個の炭素原子を含む]が挙げられる。式KN(RFSO22の塩において、2個のRF基は同一又は異なるものであってもよく、1〜6個の炭素原子を有し、場合により1個以上の酸素若しくは窒素原子を環の中に含むペルハロゲン化環を一緒に形成してもよい。カリウムイオンは、部分的な又は完全な還元形であるカソード中に組み込まれることができる。
【0015】
好ましくは、カソードは遷移金属の酸化物、硫化物又はカルコゲニドとから成る群から選択される少なくとも1種の化合物を包含し、例えば、五酸化バナジウムが挙げられる。
カソードを構成する化合物は式:[−R−SXnで示される化合物中から選択されることができる。式中、Rはジラジカル又はトリラジカルである。ジラジカルの例は、例えば硫黄、炭素原子2〜10個を含有するアルキレン基、炭素原子4〜12個と酸素原子1〜4個とを含有するオキシアルキレン基、例えば置換又は非置換のフェニレン、チアジアゾジイル及びオキサジアゾジイルのような環状ラジカルを包含する。トリラジカルの例は、3個の硫黄原子が置換した1,3,5−トリアジンの誘導体を包含し、nは重合度であり、2〜100,000、好ましくは10〜10,000の範囲内であり、Xは≧2であり、この場合に、カリウムはカソード中にR−S−K(式中、Rは上記で定義した通りである)の形態で存在する。少なくとも1種の電子伝導性ポリマーと、型[−R−SXnの化合物とを含むポリマーの混合物もカソードを構成することができる。これは式:MXZ[式中、Mは遷移金属であり、Xはカルコゲン又はハロゲンを表し、Zは1〜3の範囲内で変化する]で示される化合物から選択されることもでき、この場合に、カリウムはカソード中にKX[式中、Xは上記で定義した通りである]の形態で存在する。
【0016】
本発明はまた、ポリマーに結合した、再充電可能なリチウムバッテリー用のリチウムイオン還元性カソードであって、その中に分配されたカリウムイオンを含有し、前記カソードを用いて製造される発電機のポリマー電解質中のリチウムとカリウムとの濃度が、発電機が平衡に達したときに、O/(Li+K)として表現されて、約8/1〜40/1の範囲内であり、モル比Li/Kが約0.2〜15の範囲内であるような量で、カリウムイオンが存在する前記リチウムイオン還元性カソードにも関する。
【0017】
本発明はまた、再充電可能なリチウムバッテリー用のポリマー電解質であって、その中に導入されたカリウムイオンを含有し、前記ポリマー電解質を包含する発電機のポリマー電解質中のリチウムとカリウムとの濃度が、発電機が平衡に達したときに、O/(Li+K)として表現されて、約8/1〜40/1の範囲内で変化し、モル比Li/Kが約0.1〜5の範囲内であるような量で、カリウムイオンが存在する前記ポリマー電解質にも関する。
【0018】
ポリマー電解質発電機中に現在用いられるリチウム塩に対する例えばKTFSIのようなカリウム塩の量は大きな程度に変化し、好ましくはK/Li比が5より小さい、好ましくは0.2〜1の範囲内であるような量である。
【0019】
カソードがV25を含有する場合には、KαV25の最大濃度は好ましくはα≦0.06又はなおK/Vが0.03以下であるような濃度である。
本発明の他の特徴と利点は添付図面から明らかになると思われる。
【0020】
例えばKN(CF3SO22の形態で電解質にカリウムを添加すると、カソードの活性物質の使用率(rate of use)を、カリウムを含有しない同様な発電機の場合に得られるよりも高く維持することができる。電解質を通して導入されるカリウムがアノードに付着せずにバッテリーの全ての要素に等しく分配され、本発明の発電機に用いられる混合アルカリカチオン(Li++K+)による電解質の安定化を確証することも、充放電後の元素分析によって示される。
【0021】
本発明の他の利点は、放電/充電サイクル中に維持される、金属リチウムとポリマー電解質との間の接触の質に関し、これは本発明による発電機の充放電と電力との優れた性質に大きく寄与する。
【0022】
カソードの材料によって発電機の1つより多い要素に平衡状態でカリウムを導入する可能性も本発明の要旨に含まれる。これらの場合には、例えばアセトニトリルのような非プロトン性溶媒中の例えばKIのような酸化可能な塩の溶液によって酸化バナジウムの構造中にカリウムを化学的に予め挿入することによって、カリウムの添加をおこなって、KX25とヨウ素(又はトリヨーダイド(triiodide))を生成することができる。これらの場合に、充放電及びバッテリーの分析後にセパレーターの電解質中にもカリウムが存在することも、元素分析によって判明するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】カリウムイオンを有する本発明によるバッテリーと、カリウムを有さない先行技術の他のバッテリーとの比較結果を示すグラフ。
【図2】Li/K比が可変である本発明による3発電機の性能を比較するグラフ。
【図3】200サイクル後のバッテリー(O/M=40;Li/K=0.8)の極低温断面の電解質の(蛍光X線分析)EDXによる化学分析を示す図である。
【図4】陽極に関するものである以外は、図3と同じ分析を示す図である。
【図5】充放電前の図3と4に示したバッテリーと同じバッテリーの電解質のEDXによる化学分析、充放電後(図3)よりも高い濃度のカリウム塩(比K/S)を実証する。
【図6】透過型電子顕微鏡(MET)によって得られた顕微鏡写真、酸化バナジウムの構造中のカリウムの存在を実証する。
【図7】カリウムの存在を立証する酸化バナジウム粒子の中心において得られた対応EDXスペクトルによる、透過型電子顕微鏡検査による顕微鏡的分析。
【図8】Li0/ポリマー電解質の界面における電解質と接触するリチウム面のEDXによる化学分析。
【図9】電解質中にKTFSIを含むバッテリー Li0−ポリマー電解質/ポリマー電解質−Li0の極低温断面。
【図10】KTFSIを含まない、図9と同様な極低温断面。
【図11】図9に示したバッテリー6のLi0/SPE界面におけるリチウム面の走査電子顕微鏡写真(SEM)の比較図(75゜)。
【図12】図10に示したバッテリー7のLi0/SPE界面におけるリチウム面の走査電子顕微鏡写真(SEM)の比較図(75゜)。
【図13】図1に示したバッテリー1の極低温断面。
【図14】図2に示したバッテリー3の極低温断面。
【図15】図1に示したバッテリー1と2の充放電の関数としての瞬間電力(Pi)の最大値の展開。
【図16】持続電力に関する、それぞれ、Kを含まない及びKを含む、バッテリー9と10の物理的性質を比較する曲線。
【図17】バッテリー11の電解質のEDXスペクトル、カソードとポリマー電解質との間の平衡下のKの存在(最初に化学的手段によってV25中に挿入)を示す。
【図18】図18は、カソードのポリマーバインダーに現場で取り込まれるK+イオンを有するバッテリーと共に得られた、サイクル数の関数として“ダイナミックストレステスト”と称される方法に従った単位面積当たりの特定のインピーダンスの放出(ASI)を示す。ここでK+イオンは、塩KN(FSO22の形態で導入される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
【実施例】
【0025】
以下の実施例は例示としてのみ記載するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
(実施例1)
この実施例では、ポリマーセパレーター・フィルム中に現場で組み入れられたK+を有するバッテリー(バッテリー1)と、K+を有さず、Li+のみを有するバッテリー(バッテリー2)とを充放電中に得られた結果に関して比較する(図1)。リチウム金属アノードを有するポリマー電解質バッテリーと完全に適合するビス−トリフルオロメタンスルホンイミド(KTFSI)なる名称のK塩の形態で、K+を導入する。バッテリー1と2は薄いニッケルシート上に担持された35μm厚さのリチウムアノードと、約40容量%の酸化バナジウム、10容量%のアセチレンブラック及び50容量%のエチレンオキシドコポリマーの組成の複合カソードとから形成される。このコポリマーは下記特許:欧州特許第0,013,199号明細書;米国特許第4,578,326号明細書;及び米国特許第4,578,483号明細書に述べられているように約80%のエチレンオキシドを包含し、これに30/1の酸素:金属イオン比O/Mでリチウム(LiTFSI)及び/又はカリウム(KTFSI)の電解質ビストリフルオロメタンスルホンイミドが加えられる。4C/cm2(2Li/V)に近い真容量(true capacity)のカソードを薄いニッケル捕集面上に配置する。セパレーター又はポリマー電解質の厚さは30μmであり、ポリマー電解質はエチレンオキシドベースポリマーからも製造される。バッテリー1の場合のLi/K比は0.8に等しい。3.89cm2の有効面積を有するバッテリーは80℃における熱間圧縮によって組み立てられる。
【0026】
これらのバッテリーは放電時の約100μA/cm2と、60℃における3.3V〜1.5Vの範囲内での充電時の50μA/cm2の負荷電流密度(imposed current density)においてサイクルされ、深い放電(deep discharge)(100%DOD)の発生を可能にする。図1は、サイクルされる容量の展開を説明し、より詳しくは、サイクル数の関数としての使用%(サイクル1で得られる容量を越えるサイクルnにおけるサイクル容量)を説明する。バッテリー1の初期使用率はバッテリー2よりも小さい。他方では、バッテリー1の容量の低下は約100サイクル後にバッテリー2よりも非常に低い率(1/6〜1/7)で安定化される。それ故、バッテリー中のKの存在による安定化効果は100サイクルを越えて感知され、発電機の1000サイクルを越える有効寿命を期待させる。この安定化は、特に、サイクル数の関数としての容量の低下の2曲線の交差点である375サイクル近くで非常に興味深くなる。
(実施例2)
この実施例では、Li/Kの組成が変化する3発電機の性能を比較する。KTFSIをセパレータのポリマー電解質に導入する。これらのバッテリーは実施例1と同じアノードとカソードとから本質的に構成される。組み立て方法も同じであり、電流密度は同じ電圧範囲下で放電時及び充電時に負荷される。全てのバッテリーは塩の総量 O/M=30/1から構成される。発電機中のLi/K比はバッテリー1の場合には0.8に等しく、バッテリー3では7、バッテリー4では25である。図2はサイクル数の関数としてのこれらの3バッテリーの使用%の展開を示す。充放電と内部抵抗とに関するバッテリー3の展開は、バッテリー1と同じである。実際に、この種類の電極材料に関しては、減少傾向(slope of decrease)の安定化は100サイクル後にも認められ、各バッテリーに関して第100サイクルと第350サイクルとの間で内部抵抗が安定化されるときにバッテリー1の減少傾向の安定化と完全に同じであり、バッテリー3の内部抵抗の方がやや優れている。バッテリー4の減少傾向はバッテリー3又はバッテリー1に比べて非常に大きく(約4倍)、バッテリー2と同じ程度に重要である。それ故、発電機中のKの濃度は低すぎて、安定剤添加剤として有益な効果を及ぼすことができない。この結果から、25以下であるが7以上であるLi/K比が発電機の充放電中の容量の低下を安定化するために充分であると結論することができる。Kの最大濃度は、発電機のそのリチウムアノードとの電気化学的適合性を考慮して、Kの最大濃度はLi/K=0.2であり、O/M=8であることができる。
(実施例3)
この実施例では、カリウム添加剤がセパレーター電解質及び/又はカソードのいずれに導入されるとしても、発電機全体に均一に分散されることを説明することを目的とする。この実施例(バッテリー5)はKTFSIをセパレーター中に導入する場合を説明する。塩の量O/Mは40/1に等しく、発電機中のLi/K比は0.8に等しい。セパレーターの厚さは40ミクロンであり、発電機の他の要素はバッテリー1と同じである。200サイクル後に、バッテリーの断面検査を可能にする極低温破壊(cryogenic fracture)後の蛍光X線分析(EDX)によって、このバッテリーを検査した。
【0027】
セパレーター電解質中と陽極(positive electrode)中の“K+”の相対的組成は、KとSを表すピークの強度の比によって図3と4に示すように、同じである。発電機中のSの供給源はLi及びKの塩のアニオンTFSIに由来する。K/S比が充放電前の電解質中において大きいことも認められ(図5)、このことはK+が発電機全体中に再分配され、発電機中で平衡が少なくとも2時間存在することを明白に実証する。
【0028】
酸化バナジウムの構造中のKの存在(図6)は透過型電子顕微鏡検査(TEM)によっても実証され、固体粒子と、結合剤として作用するポリマー電解質とに関してカソードにおけるKの存在(平衡下)を疑いもなく明確にした。他方では、この構造中に導入されるKの量は結合剤中の濃度に比べて低い(図7)、それ故、発電機の使用の関数として、ポリマー電解質中のK+とLi+の間の平衡を妨げない。
【0029】
平衡は恐らくLi/ポリマー電解質の界面のレベルに存在する。実際の問題として、図8は金属リチウムの表面における還元されたカリウム(K)の不存在を明確に示す(したがって、ポリマー電解質媒質中のリチウムアノードの存在下でのKイオンの明白な安定性を実証して、K+がアノードと完全に適合することを正当化する)。リチウムはこの方法によって検出されないが、それを覆う酸素(O)はスペクトル上で明白に目視可能である。それ故、アノード上でカリウムが還元されないので、リチウムの表面に非常に近接して等しく平衡常態にあると思われる。
【0030】
したがって、これらの分析によって、バッテリーの2つより多い要素及び/又は区分:ポリマー電解質セパレーターと、セパレーターと同じ電解質から製造されるカソードのバインダーと、陽極の酸化物の顆粒状粒子中にKが存在することが確認される。Li/ポリマーの界面にカリウムイオンを発見する可能性も排除されない。
(実施例4)
リチウムアノードにおけるK+の存在の有益な効果を再度確認するために、リチウムアノードとカソードとを有する2つの対称的バッテリー(6と7)を組み立てた。図9と10はこれらの2つのバッテリーの走査電子顕微鏡(SEM)による極低温(cryogenic)断面図を再度説明し、図11と12は表面観察を示す。バッテリー7はニッケルシート10μm上に担持された最初に35μmの金属リチウムによって組み立てられる。電解質の厚さは約30μmであった。電解質は30/1の濃度のLiTFSIのみを含有した。バッテリー6は2つの相違点:これが22μm厚さのLiから製造されることと、Li/K=2の比で塩の量O/M=20/1を含有すること以外は、バッテリー7に同じである。他のバッテリー(図示しないバッテリー8)も検査したところ、これはLi/K=5の比で塩の量O/M=25を含有した。これらのバッテリーの各々を実施例1に述べたものと同じ電流密度及び実験条件下でサイクルした。アノードはその還元に関して複流(double current)下で酸化されるリチウムの電極であり、第2電極は対流(opposite currents)が認められるカソードとして用いられた。充放電時間は、同じクーロン量が放電され、再充電されるように調節される。バッテリー7は内部短絡を示すまでに24サイクルを経験し、バッテリー6は39サイクル後に自発的に停止させたが、バッテリー7の場合のような主要なデンドライトをまだ示さなかった。図9と12に認められるリチウムはアノードとしてサイクルされたものであり、これは50μA/cm2のオーダーの電流密度における付着又はプレーティング(plating)を意味する。
【0031】
バッテリー7のリチウムアノードの展開形態はより低い充放電持続時間(殆ど1/2に満たないサイクル数)に関してさえもバッテリー6の展開形態の3倍である。これらの2バッテリーの間の唯一の主要な差異はバッテリー6におけるKTFSIの存在である。したがって、これらの図はサイクルされたリチウムのプロフィロメトリー(profilometry)に対する、したがってバッテリーの寿命の持続に対するKの有益な効果を非常に明確に立証する。前面の顕微鏡写真も非常に意味深い。20サイクルを達成したバッテリー8の検査後に同じ結論が得られている。
(実施例5)
この実施例では、バッテリー1と3の事後の分析(post mortem analysis)をおこなって(極低温断面図)、走査電子顕微鏡(SEM)によって観察されるようなバッテリーの種々な要素の形態の最終状態を示す(図13と14)。バッテリー1が1100サイクルを達成し、バッテリー3がほぼ600サイクルを達成したことが認められる。認められるように、ポリマー電解質のフィルムとカソードのフィルムとはまだ完全に離れており、リチウムの微視的形態はポリマー電解質の表面から見ると殆ど存在していない(リチウムはポリマー電解質から離層しているので、Liは低い形態展開を示すと結論せざるを得ない)。実際問題として、以前の実験は、アノードの界面におけるポリマー電解質の表面観察がリチウム面のミラー像を示すことを立証している。リチウムの形態の展開に対するカリウムアノードの抑制効果はこれらの実験からも実証される。
(実施例6)
この実施例では、発電機の寿命の関数としての瞬間電力の発生に対する添加剤K+の有益な効果を確証する。研究した2バッテリーは実施例1のバッテリーと本質的に同じである。瞬間電力(Pi)は発電機が完全に充電されたときに測定される。1〜5mA/cm2のオーダーの電流密度(I)がバッテリー2に2秒間供給される。電力の各コール(call)の間、バッテリーは120秒間停止される(rest)。次に、各衝撃(impulsion)の最終電圧(V)は記録され、瞬間電力(mW)が式Pi=VIによって与えられる。図15は充放電の関数としてのPiの最大値の展開(evolution)を説明する。バッテリー1の電力が200〜600サイクルの間で安定化されるが、このことはバッテリー2には該当しないことを観察することができる。同様に充放電中に、バッテリー2は最初の200サイクル中に高い瞬間電力を有するが、決して安定化されない。それ故、Li/K=0.1の比でのK量の存在は瞬間電力の安定化のために非常に有効である。バッテリーの内部抵抗も図15に示される。バッテリー1の内部抵抗はバッテリー2に比べて最初の100サイクルではやや高いが、サイクル300ではバッテリー2の内部抵抗値の方が高い。この差異がバッテリー1の電力の性能がより良好であることの理由であると考えられる。
(実施例7)
この実施例では、Kを含むバッテリーとKを含まないバッテリーとの持続電力に関する物理的性質(金属捕集面に関する最適化バッテリーの形態のRagone曲線)を比較する。バッテリー9(図16)はKを含有せず、実施例1に述べたバッテリー2と同じ性質である。バッテリー10は実施例2に挙げたバッテリー3と正確に同じである。K量は化合物KTFSIによって、濃度Li/K=7(O/M=30)を生じる率(rate)でポリマー電解質中に導入される。バッテリーの組み立てと充放電は先行実施例と同じである。
【0032】
既述したように、バッテリー9の低い電力エネルギーは、その使用率(約375サイクルまで)が高いので、バッテリー10の電力エネルギーよりも高い。初期電力もKを有するバッテリーよりも高い。他方では、200サイクル後に、Kを含まないバッテリー9は、特に200W/kgのオーダーの高い電力下で、かなり低下した比エネルギー(wh/kg)を示すが、これはバッテリー10には該当しない。実際問題として、Kを有するバッテリーの持続電力は、発電機の有効寿命の開始時には低いが、維持され、これは300サイクルを越えて維持され、このことはポリマー電解質リチウムバッテリー中のKによってもたらされる安定化効果を実証する。
(実施例8)
この実施例では、Li種とK種との平衡が酸化バナジウムと、カソードを結合するポリマーと、電解質のポリマーとを包含する少なくとも3要素中で、Kx25とヨウ素(又はトリヨージド)とを生成するようにアセトニトリル中のKIの溶液によって酸化バナジウムの構造中にカリウムを化学的に添加するために得られることができることを示す。実施例1に述べたと同じ種類の充放電後に、バッテリー11をバッテリーの断面図を得ることを可能にする極低温破壊後の蛍光X線分析(EDX)によって検査した。バッテリー11の電気化学的形態は、電解質がカリウム塩を含有しないこと及び酸化バナジウムV25が約0.18モルのKを含有すること以外には、バッテリー1と同じである。スペクトルEDXを図17に示す。ポリマー電解質及び/又はカソード中のKの存在を観察することができるが、カソードを結合するポリマーの出発電解質中にカリウムは導入されていない。
(実施例9)
本実施例に於いては、カソードのポリマーバインダーに現場で取り込まれたK+イオンを有するバッテリー(バッテリー12)の充放電時に得られた結果と、全くK+イオンを含まないがLi+イオンのみを含むバッテリー(バッテリー13)で得られた結果とを比較する。K+イオンを以後KFSIと称する式KN(FSO22を有するカリウムビス−フルオロメタンスルホンイミドの形態でカソード中に導入する。この塩は、金属リチウムアノードを有するポリマー電解質バッテリーに完全に適合する。バッテリー12及び13は各々、厚さ27μmを有する自立性リチウムフィルムからなるアノードと、実施例1で記載されたのと同様の、厚さ15μmを有し、酸化バナジウム40容量%、アセチレンブラック10容量%及びエチレンオキシドコポリマー50容量%とを含む複合物質からなるカソードとから製造される。バッテリー12においては、コポリマーは、酸素:イオン性金属比O/(Li+K) 30/1、Li/K比が2で、KFSIとリチウムビス−トリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)との混合物を含む。バッテリー13においては、コポリマーは、酸素:イオン性金属比O/Li 30/1で塩LiTFSIを含む。双方のバッテリーにおいて、約5C/cm2の有効容量(useful capacity)を有するカソードを金属補集面(metal collector)に設置する。アノードとカソードとの間のセパレータは、厚さ15μmを有するエチレンオキシドコポリマーフィルムから構成される。バッテリーを、アノード、カソード及びセパレータからなるフィルムを80℃で熱プレスすることにより組み立てる。これは有効表面積3.89cm2を有する。
【0033】
バッテリーを幾つかの放電及び充電工程[電気ビヒクル(electric vehicle)の操作を再生する形態中の再生破壊(regenerative breaking)によりバッテリーが完全に放電する(放電DODの深度は80%である)]を含む”ダイナミックストレステスト(Dynamic Stress Test)”(DST)と称される方法に従ってサイクルにかける。バッテリーの充電速度はC/10であり、10時間での完全充電に対応する。
【0034】
図18は、サイクル数の関数としてDSTプロフィールに従った単位面積(ASI)当たりの特定のインピーダンスの放出を示す図である。DST ASIは放電深度80%で決定され、電池の耐性を表す。DST ASIは、8秒間のピーク放電と続く8秒間のピーク充電の間(再生破壊)で測定される。図18は、K+イオンの存在が電池中の他の物質と完全に適合性であり、電池の最大電力に影響を及ぼさないことを示している。LiTSFIを、バッテリー性能を低下させることなく、例えばKN(FSO22などのより安価な塩で部分置換することは、電気化学的発電機の発達において非常に興味深いことが立証される。
【0035】
本発明が上記実施例に限定されず、変更及び代替えが発明の範囲から逸脱せずに可能であることは、理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのリチウムアノードと、第1ポリマーに結合した1つのリチウムイオン還元性カソードと、第2ポリマー中に溶液中のリチウム塩を含むポリマー電解質とを含む再充電可能なリチウムバッテリーであって、前記リチウムバッテリーが前記カソードと前記ポリマー電解質との少なくとも一方に分配されたカリウムイオンを含む添加剤を含有し、前記バッテリーが平衡に達したときの第2ポリマー中の、O/(Li+K)として表現される、リチウムとカリウムとの濃度が約8/1〜40/1の範囲内であり、モルLi/Kが約0.2〜15の範囲内であり、前記カリウムイオンがエネルギー及び電力に関して充放電中のバッテリーの性能を安定化するように選択される、前記再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項2】
前記カリウムイオンがカリウム塩の形態で導入される、請求項1記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項3】
前記カリウム塩が前記カソード中に分配される、請求項2記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項4】
前記カリウム塩が前記ポリマー電解質中に導入される、請求項2記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項5】
前記カリウム塩が前記ポリマー電解質と前記カソード中に分配される、請求項2記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項6】
前記第1ポリマーと前記第2ポリマーとが同じである、請求項1記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項7】
前記第1ポリマーと前記第2ポリマーとが異なる、請求項1記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項8】
前記カリウム塩がKBF4、KPF6、KN(RFSO22、KN(FSO22、K(FSO2−N−SO2F)及びKRFSO3[これらの式中、RFはペルハロゲノアルキル、ペルハロゲノオキシアルキル、ペルハロゲノチアアルキルまたはペルハロゲノアリール基で、場合により、アザまたはオキサ置換基を含み、式KN(RFSO22の塩の2個のRF基は同一若しくは異なり、又は1〜6個の炭素原子を有し、場合により少なくとも1個の酸素又は窒素原子を環中に含むペルハロゲン環を一緒に形成する]から成る群から選択される、請求項2記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項9】
前記カリウム塩が、K(FSO2−N−SO2F)及びKRFSO3[式中、RFは、1〜10個の炭素原子を有するペルハロゲノアルキル、ペルハロゲノオキシアルキル、ペルハロゲノチアアルキルまたはペルハロゲノアリール基である]からなる群から選択される、請求項8記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項10】
前記カリウムイオンが前記カソードによって組み込まれ、前記カソードが完全還元形又は部分的還元形である、請求項2記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項11】
前記カソードが遷移金属の酸化物とカルコゲニドとから成る群から選択された少なくとも1種の化合物を包含する、請求項3記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項12】
前記化合物がV25から成る、請求項11記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項13】
前記化合物が式[−R−SXn(式中、Rはジラジカル又はトリラジカルであり、nは2〜100,000の整数であり、X>2である)によって表され、この場合に前記カソード中のカリウムがR−S−K(式中、Rは上記で定義した通りである)で表わされる、請求項11記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項14】
前記化合物が式MXZ(式中、Mは遷移金属であり、Xはカルコゲン又はハロゲンであり、Zは1〜3の範囲内で変化する)によって表され、この場合に前記カソード中のカリウムがKX(式中、Xは上記で定義した通りである)で表わされる、請求項13記載の再充電可能なリチウムバッテリー。
【請求項15】
ポリマーに結合した、再充電可能なリチウムバッテリー用のリチウムイオン還元性カソードであって、前記カソードはその中に分配されたカリウムイオンを含有し、前記カソードを用いて製造される発電機のポリマー電解質中のリチウムとカリウムとの濃度が、前記発電機が平衡に達したときに、O/(Li+K)として表現されて、約8/1〜40/1の範囲内であり、モル比Li/Kが約0.2〜15の範囲内であるような量で、前記カリウムイオンが存在する前記リチウムイオン還元性カソード。
【請求項16】
再充電可能なリチウムバッテリー用のポリマー電解質であって、その中に導入されたカリウムイオンを含有し、前記ポリマー電解質を用いて製造される発電機のポリマー電解質中のリチウムとカリウムとの濃度が、前記発電機が平衡に達したときに、O/(Li+K)として表現されて、約8/1〜40/1の範囲内であり、モル比Li/Kが約0.2〜15の範囲内であるような量で、前記カリウムイオンが存在する前記ポリマー電解質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−186759(P2010−186759A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127863(P2010−127863)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【分割の表示】特願平10−57035の分割
【原出願日】平成10年3月9日(1998.3.9)
【出願人】(597164909)イドロ−ケベック (30)
【氏名又は名称原語表記】Hydro−Quebec
【Fターム(参考)】