説明

カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤および同補足剤

【課題】 カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積の促進。
【解決手段】 ナトリウムの摂取により意外にもカルシウムおよびマグネシウムの体内蓄積量を増加させることが見出された。よって、本発明の第一の態様によれば、ナトリウムを有効成分として含んでなる、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤が提供される。また、本発明の第二の態様によれば、カルシウムまたはマグネシウムと、ナトリウムとを併せて含んでなる、カルシウムまたはマグネシウム補足剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤、およびカルシウムまたはマグネシウムの吸収能または体内蓄積能が高められた、例えば食品の形態である、カルシウムまたはマグネシウム補足剤に関する。
【0002】
背景技術
カルシウムまたはマグネシウムの不足を補うために、これら成分の吸収を高めるまたは排泄を抑制する工夫がなされているが、本発明者の知る限りでは、ナトリウムの摂取がカルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量を増加させるとの報告はなされていない。
本発明者は、カルシウム、マグネシウムなどの成分の摂取と、体内蓄積に関し、幾つかの報告(以下、非特許文献1〜6参照)を行ってきているが、ナトリウムの摂取とカルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量の相関はこれらには報告していない。
【0003】
【非特許文献1】Nishimuta et al., J Jap Soc Mg Res, 10:243-253
【非特許文献2】Nishimuta et al., J Jap Soc Mg Res, 12:29-37
【非特許文献3】Takeyama et al., Advances in Magnesium Research: 1 (Smetana R, ed), p355-363, John Libbey & Co. Ltd, London
【非特許文献4】Nishimuta et al.., Advances in Magnesium Research: 1 Nutrition and Health(Rayssiguier Y., Mazure A, Durlach J, eds), p197-200, John Libbey & Co. Ltd, London
【非特許文献5】Kodama et al., J Nutr Sci Vitaminol, 49:201-209(2003)
【非特許文献6】Nishimuta et al., J Nutr Sci Vitaminol, 50:19-25(2004)
【発明の概要】
【0004】
本発明者等は、今般、ナトリウムの摂取により意外にもカルシウムおよびマグネシウムの体内蓄積量を増加させることを見出した。本発明は係る知見に基づくものである。
すなわち、本発明の第一の態様によれば、ナトリウムを有効成分として含んでなる、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤が提供される。
また、本発明の第二の態様によれば、カルシウムまたはマグネシウムと、ナトリウムとを併せて含んでなる、カルシウムまたはマグネシウム補足剤が提供される。
【発明の具体的説明】
【0005】
本発明の第一の態様によれば、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量を増加させるための、カルシウムまたはマグネシウムとともに摂取するカルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤が提供され、この体内蓄積促進剤はナトリウムを有効成分として含んでなるものである。
【0006】
後記する実験結果から明らかなように、ナトリウムの摂取量と、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量には相関があることが見出された。このカルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量の増加の一部はこれら成分の体内吸収が促進され、かつ体内からの排泄が高められないことによると思われるが、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量を増加させる限りにおいて、ナトリウムを主成分とする組成物の使用は本発明による体内蓄積促進剤に包含される。
【0007】
本発明によるカルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積剤におけるナトリウムの量は、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量を増加させるのに有効な量である限りにおいて特に限定されないが、食事からの摂取量を含めて60〜100mg/kg体重/日となるように調整されることが好ましく、最も好ましくは63〜65mg/kg体重/日となるように調整される。
【0008】
体内蓄積の対象となるカルシウムまたはマグネシウムの摂取量は、本発明による体内蓄積剤の摂取に伴い、特に増加または減少させる必要はないが、効率のよい体内蓄積のため、カルシウムの場合、食事からの摂取量を含めて10〜17mg/kg体重/日程度の量を摂取することが好ましく、より好ましくは10.7〜11.3mg/kg体重/日程度であり、マグネシウムの場合、食事からの摂取量を含めて3〜5mg/kg体重/日程度の量を摂取することが好ましく、より好ましくは4.0〜4.5mg/kg体重/日程度である。
【0009】
また、本発明の第二の態様によれば、カルシウムまたはマグネシウムと、ナトリウムとを併せて含んでなる、カルシウムまたはマグネシウム補足剤が提供される。すなわち、上記した本発明の第一の態様によるカルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積剤の場合、カルシウムまたはマグネシウムと、ナトリウムとは別々に摂取されるが、この態様にあっては、カルシウムまたはマグネシウムと、ナトリウムとを併せて含んでなる。体内のカルシウムまたはマグネシウムが不足するなど、これら成分の積極的な体内摂取が望まれる場合、カルシウムまたはマグネシウム補足剤が用いられるが、この補足剤にナトリウムを添加することで、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積が促進される。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、カルシウムまたはマグネシウム補足剤は、食品、または医薬品の形態であってもよい。また、本発明によるカルシウムまたはマグネシウム補足剤は、経口にみならず、非経口の投与経路に適合するような形態であってもよい。
【0011】
本発明によるカルシウムまたはマグネシウム補足剤における、ナトリウム、カルシウムまたはマグネシウムの量は特に限定されないが、上記した本発明の第一の態様による体内蓄積剤について記載した摂取量となるように、それら成分が規定されることが好ましい。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明によるカルシウムまたはマグネシウム補足剤中のナトリウム、カルシウムまたはマグネシウムの量は、例えば一錠2g一日3錠摂取するとき、好ましくはナトリウムが10〜100mg/g程度であり、より好ましくは20〜60mg/g程度であり、好ましくはカルシウムが25〜200mg/g程度であり、より好ましくは50〜100mg/g程度であり、好ましくはマグネシウムが10〜100mg/g程度であり、より好ましくは20〜40mg/g程度である。
【0012】
また、以上の本発明の第一および第二の態様から明らかなように、本発明の別の態様として、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤の製造のための、ナトリウムの使用が提供される。また、本発明の別の態様によれば、カルシウムまたはマグネシウムと、ナトリウムとを併せて含んでなる、カルシウムまたはマグネシウム補足剤の製造のための、ナトリウムの使用が提供される。
【0013】
またさらに、以上の本発明の第一および第二の態様から明らかなように、本発明のさらに別の態様として、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤の製造方法が提供され、この方法は、ナトリウム濃度を、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量を高めるのに有効な量となるように調整する工程を含んでなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の別の態様として、カルシウムまたはマグネシウム補足剤の製造方法が提供され、この方法は、ナトリウム濃度を、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量を高めるのに有効な量となるように調整する工程を含んでなることを特徴とする。この態様において製造の対象となるのは、食品、医薬品も含まれることは明らかである。
【実施例】
【0015】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
実験例
日本人青年109名(男23名、女96名)を対象に、11回の出納実験を行った。すなわち、食事内容を規定し、ナトリウム、カルシウム、およびマグネシウムについて、その摂取量、糞中及び尿中排泄量を測定し、かつ摂取量から排出量を引いた値を「蓄積量」とする実験を行った。具体的には、2−4日の予備期間後に、5−12日間の出納を測定した。対象者、ナトリウム、カルシウム、およびマグネシウム等の供給量の詳細は以下の表に示されるとおりであった。
【0017】
【表1】

【0018】
以上の表に示されるとおり、ナトリウム、カルシウム、およびマグネシウムの算出された摂取量は以下の通りであった。
Na:2.21−6.87g/日(38.56−142.23mg/kg体重/日)
Ca:294−1131mg/日(4.83−23.58mg/kg体重/日)
Mg:154−379mg/d(2.44−7.83mg/kg体重/日)
【0019】
Naの摂取量とCaの出納は全例では有意な相関はなかったが、最もナトリウムの摂取量の多い実験の結果(表1中のNo.11群)を除外すると有意な相関が得られた。すなわち、最もナトリウムの摂取量の多い実験の結果(表1中のNo.11群)を除外して、ナトリウム摂取量と、カルシウムまたはマグネシウムの摂取量、同見かけの吸収量、同見かけの吸収率(%)、同尿中排泄量、および同蓄積量(出納)の相関をグラフに表せば、それぞれ図1a〜1eおよび図2a〜2eのとおりであった。
【0020】
とりわけ、図1eに示されるとおり、Y(Na摂取量)=3.059X(Ca出納)+63.308mgNa/kg体重/日、r=0.134、p<0.001との結果が得られた。
【0021】
また、図2eに示される通り、Naの摂取量とMgについては、Y(Na摂取量)=15.144X(Mg出納)+60.977mgNa/kg体重/日、r=0.268、p<0.001との結果が得られた。
【0022】
さらに、図1bおよび1c並びに図2bおよび2cに示される通り、見かけの吸収量(摂取量から糞便中の排泄量を差し引いた値)においても優位な正の相関を示すことが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1a】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)とカルシウム摂取量(mgCa/kg体重/日)との相関を示す図である。
【図1b】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)とカルシウムの見かけの吸収量(mgCa/kg体重/日)との相関を示す図である。
【図1c】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)とカルシウムの見かけの吸収率(%)との相関を示す図である。
【図1d】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)と尿中カルシウム排泄量(mgCa/kg体重/日)との相関を示す図である。
【図1e】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)とカルシウムの蓄積量(出納)(mgCa/kg体重/日)との相関を示す図である。
【図2a】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)とマグネシウム摂取量(mgMg/kg体重/日)との相関を示す図である。
【図2b】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)とマグネシウムの見かけの吸収量(mgMg/kg体重/日)との相関を示す図である。
【図2c】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)とマグネシウムの見かけの吸収率(%)との相関を示す図である。
【図2d】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)と尿中マグネシウム排泄量(mgMg/kg体重/日)との相関を示す図である。
【図2e】ナトリウムの摂取量(mgNa/kg体重/日)とマグネシウムの蓄積量(出納)(mgMg/kg体重/日)との相関を示す図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムを有効成分として含んでなる、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤。
【請求項2】
カルシウムまたはマグネシウムと、ナトリウムとを併せて含んでなる、カルシウムまたはマグネシウム補足剤。
【請求項3】
食品である、請求項2に記載の補足剤。
【請求項4】
カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤の製造のための、ナトリウムの使用。
【請求項5】
カルシウムまたはマグネシウムと、ナトリウムとを併せて含んでなる、カルシウムまたはマグネシウム補足剤の製造のための、ナトリウムの使用。
【請求項6】
ナトリウム濃度を、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量を高めるのに有効な量となるように調整する工程を含んでなることを特徴とする、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積促進剤の製造方法。
【請求項7】
ナトリウム濃度を、カルシウムまたはマグネシウムの体内蓄積量を高めるのに有効な量となるように調整する工程を含んでなることを特徴とする、カルシウムまたはマグネシウム補足剤の製造方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【公開番号】特開2006−16320(P2006−16320A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193945(P2004−193945)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物名、巻数、号数 第58回 日本栄養・食糧学会大会講演要旨集 2.発行者名 日本栄養・食糧学会 3.発行年月日 平成16年4月1日
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】