説明

カルボキシル基含有配位高分子を用いたイオン伝導材料

【課題】 固体電解質のイオン伝導度に関与する自由イオン(特に、リチウムイオン、Li)の担持効率がはるかに向上した主鎖有機化合物に、自由イオンと金属イオンとが配位してなる配位高分子、ならびにそれを含む固体電解質を提供すること。
【解決手段】 本発明によれば、金属イオンと、該金属イオンに配位可能な少なくとも2以上のアニオン性配位子を有する有機化合物とが繰返し単位を構成する配位高分子であって、前記有機化合物は固体電解質の伝導種となる自由イオンを担持可能な置換基を有することを特徴とする配位高分子が提供される。本発明によれば、また、この配位高分子に自由イオンを担持させた固体電解質が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンと主鎖有機化合物とからなる錯体高分子および該錯体高分子を用いた固体電解質に関する。より詳しくは、カルボキシル系配位子を含む新規有機−無機ハイブリッド電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体電解質は、主に有機高分子に電解液を含浸させたゲル型やリチウムイオンを系中に持つ無機のガラス系化合物などに限られており、その混合組成や混合比を変えて伝導度を制御するという試みが多くなされてきた。ところが、これらの問題点として、ゲル型では完全に固体でないことから液漏れなどの危険性が残ること、また有機物であることから耐熱性が十分でない等の問題があった。
【0003】
一方、ガラス系電解質は、液漏れなどの虞がないものの、イオン伝導度が小さく実用レベルに程遠いことが大きな問題点として挙げられる。また、これらいずれのタイプも自由イオンがリチウムの他に電子やプロトン等も考えられるため、実際のイオンの輸率は比較的小さくなるといった問題も有している。
【0004】
このような背景から、先行技術(特許文献1参照)では、金属イオンと有機配位子が規則的な二次元構造を構成し、その規則的構造において有機配位子のもつ負電化を帯びた置換基がリチウムイオンを担持し、自由イオンとして機能させ得る新規な有機−無機複合材料からなる固体電解質材料を提案している。この固体電解質材料によれば、有機物からなる高分子固体電解質よりも高い熱的安定性を備え、かつ無機の固体電解質よりも高い柔軟性、可撓性を備え、イオン伝導材料としての設計自由度を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0005】
しかしながら、先行技術の固体電解質材料は、有機配位子が電気的に中性である。例えば、特許文献1では、ジピリジル誘導体を配位子として用いている。このため、金属イオン(例えばAg)の正電荷を中和するために、本来リチウムイオンを担持するべく存在する有機配位子中の負電化を帯びた置換基が一部関与するため、リチウムイオンの担持効率が十分に向上し得ないという問題があった。
【特許文献1】特開2005−75870
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、固体電解質のイオン伝導度に関与する自由イオン(特に、リチウムイオン、Li)の担持効率がはるかに向上した有機配位子を設計し、この有機配位子に自由イオンと金属イオンとが配位してなる配位高分子、ならびにそれを含むリチウムイオン電池として有用な固体電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、リチウムイオンを捕捉する置換基と、金属イオンに対しアニオニックに配位する置換基とを併せ持つ主鎖有機化合物が、金属イオンと1:1で高分子を形成し、電荷が中和され、その結果、全てのリチウムイオン捕捉置換基が、リチウムイオンを捕捉する配位子として機能することを確認できたことにより、上記課題を解決した。
【0008】
さらに、本発明者らは、この系に、金属イオン間を架橋する別の架橋配位子を共存させることで、より高次のリチウム含有配位高分子を合成できることを確認できたことにより、上記課題を解決した。
【0009】
本発明によれば、以下が提供される。
【0010】
(1)金属イオンと、
該金属イオンに配位可能な少なくとも2以上のアニオン性配位子を有する有機化合物とが繰返し単位を構成する配位高分子であって、
前記有機化合物は固体電解質の伝導種となるイオンを担持可能な置換基を有することを特徴とする配位高分子。
【0011】
(2)
該有機化合物は、該アニオン性配位子を2つ有し、そして、該イオン担持可能な置換基の該金属イオンに対する配位力は、該アニオン性配位子の該金属イオンに対する配位力よりも弱い、上記項1に記載の配位高分子。
【0012】
(3)上記項1に記載の配位高分子であって、以下の構造式を有し:
【0013】
【化3】

ここで、Rは、アルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールであり、
q+は、金属イオンであり、
は、配位結合を形成せずに前記伝導種となるイオンとイオン結合を形成する基であり、
B1j−およびLB2k−は、それぞれ、金属原子と配位結合を形成する基であり、
nは、任意の整数であり、
jは、1、2または3であり、
kは、1、2または3であり、
qは、jとkとの和に等しい、配位高分子。
【0014】
(4) 上記項3に記載の配位高分子であって、Mq+が2価の遷移金属イオンであり、Lが、−SOHまたはその塩であり、LB1j−が、−COO であり、LB2k−が、−COO であり、qは2であり、jは1であり、kは1である、配位高分子。
【0015】
(5) 前記金属イオンが、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Pd2+およびCd2+からなる群から選択される、上記項4に記載の配位高分子。
【0016】
(6) 前記式1中Rは芳香環を少なくとも一つ有する基である、上記項3に記載の配位高分子。
【0017】
(7) 前記主鎖有機化合物が以下から選択される、上記項4に記載の配位高分子:
【0018】
【化4】

【0019】
ここで、Lは、配位結合を形成せずに前記伝導種となる自由イオンとイオン結合を形成する基であり、
は、金属原子と配位結合を形成する基である。
【0020】
(8) 上記項1に記載の配位高分子であって、さらに、架橋配位子を含み、
該架橋配位子は、前記金属イオンと配位結合を形成する部位を分子内に2箇所以上有し、1つの金属イオンと他の金属イオンとを架橋する、配位高分子。
【0021】
(9) 上記項8に記載の配位高分子であって、前記金属イオンが3つ以上の配位結合を形成する2価の遷移金属イオンであり、前記イオンを担持可能な置換基が、−SOHまたはその塩であり、前記アニオン性配位子が、−COO である、配位高分子。
【0022】
(10) 前記架橋配位子が、ビピリジルである、上記項8に記載の配位高分子。
【0023】
(11) 前記金属イオンが、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Pd2+およびCd2+からなる群から選択される、上記項9に記載の配位高分子。
【0024】
(12)
上記項1〜11のいずれか1項に記載の配位高分子に、伝導種となる自由イオンが担持された、固体電解質。
【0025】
(13)
前記自由イオンがLiである、上記項12に記載の固体電解質。
【発明の効果】
【0026】
本発明の配位高分子は、固体電解質として好適に使用することができる。
【0027】
本発明によれば、以下の特有の効果が達成される。
【0028】
A)主鎖有機化合物が高分子を構成する金属イオンにアニオニックに配位する部位をするため、自由イオン(特に、リチウムイオン)を担持する置換基の全てが自由イオン(特に、リチウムイオン)捕捉に関与することができ、しかも、自由イオンが一種類のみと考えられるため、シングルイオン伝導による輸率が向上する。
【0029】
B)自由イオンが移動しやすいスペースを有する規則的な結晶が容易に得られることにより伝導度が向上する。さらに、中性架橋配位子を共存させる場合には、より空隙率が高く、自由イオンが移動しやすい規則的な3次元構造が実現可能となり、リチウム担持機能のより一層の効率向上がみられ、リチウムイオン電池として容量特性が向上する。
【0030】
なお、本発明においては、従来技術のリチウムイオン含有配位高分子で達成される効果、すなわち、以下の1)〜4)の利点が維持される。
【0031】
1)有機高分子より高い熱的安定性(温度安定性も300〜400℃)と、無機高分子よりも優れた構造柔軟性等を兼ね備えた新たな電解質が設計可能である点;
2)合成時に骨格素子を適宜設計・選択することで高分子骨格がアニオニックなものを構築でき、自由イオン(特に、リチウムイオン)をカチオンとして導入することにより高いイオン密度が達成可能であり、かつ、自由イオンを一種類のみにすることが可能であって、シングルイオン伝導による輸率が向上する点;
3)合成が容易であり、本発明にある電解質の多くは室温で混合するだけで合成が可能であり、大量合成や高い純度が達成可能である点;および
4)配位高分子を固体電解質に利用することで、これまで不可能であったリチウム金属を電極に持つ究極のリチウム二次電池が実現可能である点。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0033】
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0034】
本明細書において「固体電解質」とは、電解質の一種であり、固体状態のままでイオンが移動する物質の総称である。本明細書において、「固体電解質」との用語は、「イオン伝導材料」と互換可能に使用され得る。
【0035】
本明細書において「配位高分子」とは、金属イオンと主鎖有機化合物とが繰り返して配位結合してなる高分子を意味する。本発明における「配位高分子」は、必須成分として、自由イオン、金属イオンおよび主鎖有機化合物を含むが、この自由イオンは、配位高分子の繰り返し主鎖を構成する配位結合には、関与しない。
【0036】
本明細書において「配位」または「配位結合」とは、共有結合の一種で、一方の原子の非結合電子対が相手の原子に供与され共有されることによって結合ができると解釈されるものを意味する。
【0037】
本明細書において「イオン伝導度の高い」または「イオン伝導性の高い」とは、本発明の配位高分子を固体電解質として利用した際に、二次電池またはイオン電池の実現が可能な程度に、自由イオンが移動しやすい状態を意味する。
【0038】
本明細書において「金属イオン」とは、遷移金属、典型金属またはランタノイド金属に属する金属のイオンであり、2つ以上の配位結合を形成するイオンである。4つ以上の配位結合を形成することが好ましい。
【0039】
本明細書において「アルキル」とは、鎖状または環状の脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいう。鎖状の場合は、一般にC2k+1−で表される(ここで、kは正の整数である)。鎖状のアルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルキルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルキルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
【0040】
本明細書において「低級アルキル」とは、炭素数の比較的少ないアルキル基を意味する。好ましくは、C1〜10アルキルであり、より好ましくは、C1〜5アルキルであり、さらに好ましくは、C1〜3アルキルである。具体例としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどである。
【0041】
本明細書において「置換アルキル」とは、アルキル基の水素が置換基に置換された基を意味する。このような置換基としては、例えば、アリールまたはシアノなどが挙げられる。
【0042】
本明細書において「シクロアルキル」とは、環状構造のアルキルを意味する。例えば、シクロヘキシルなどが挙げられる。シクロアルキルの炭素数は、3以上の任意の自然数であり得る。好ましくは5以上であり、より好ましくは6以上である。また、好ましくは20以下であり、より好ましくは10以下である。
【0043】
本明細書において「置換シクロアルキル」とは、シクロアルキル基の水素が置換基に置換された基を意味する。このような置換基としては、例えば、アルキル、アリールまたはシアノなどが挙げられる。
【0044】
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいう。具体的には、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニルなどである。
【0045】
本明細書において「置換アリール」とは、アリールに置換基が結合して生ずる基をいう。置換アリールにおける置換基としては、例えば、アルキルなどがあり得る。この場合のアルキルの炭素数は、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましく、5以下であることがいっそう好ましい。
【0046】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0047】
(主鎖)
本発明の配位高分子の主鎖は、金属イオンと、当該金属イオンに配位可能な少なくとも2以上のアニオン性配位子を有する有機化合物とからなる繰返し単位が多数重合された構造を有する。この主鎖は、固体電解質の伝導種となる自由イオンを担持可能な置換基を有する。
【0048】
なお、本明細書中では、上記金属イオンと配位可能な少なくとも2以上のアニオン性配位子を有する有機化合物を「主鎖有機化合物」ともいう。
【0049】
また、本発明の配位高分子においては、後述するとおり、架橋配位子を用いて、架橋配位子と金属イオンとが高分子鎖を形成して、主鎖有機化合物を含む高分子鎖と、架橋配位子を含む高分子鎖とを含む配位高分子とすることが可能である。そして、そのような2種類の高分子鎖を含む配位高分子において、主鎖有機化合物を含む高分子鎖の長さが、架橋配位子を含む高分子鎖の長さよりも短い場合があり得るが、本明細書中では、便宜上、主鎖有機化合物を含む高分子鎖を主鎖と称する。
【0050】
(金属イオン)
金属イオンは、配位高分子の主鎖に含まれており、主鎖有機化合物と配位結合を形成している。1つの金属イオンは、2つの主鎖有機化合物と配位結合を形成する必要がある。金属イオンは、3つ以上の配位結合を形成するものであることが好ましく、4つ以上の配位結合を形成するものであることがより好ましく、6つ以上配位結合を形成するものであることがさらに好ましい。
【0051】
金属イオンはより具体的には、遷移金属、典型金属またはランタノイド金属に属する金属のイオンである。好ましくは、遷移金属イオンである。なお、後述する自由イオンを用いる場合には、その自由イオンとは異なるイオンである。
【0052】
金属イオンの電荷は特に限定されない。例えば、1価、2価、または3価の金属イオンを使用することが可能である。2価または3価が好ましく、2価がより好ましい。
【0053】
好ましい金属イオンの具体例としては、コバルト(II)イオン(Co2+)、ニッケル(II)イオン(Ni2+)、銅(II)イオン(Cu2+)、亜鉛(II)イオン(Zn2+)、パラジウム(II)イオン(Pd2+)およびカドミウム(II)イオン(Cd2+)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
(主鎖有機化合物)
本発明に用いる主鎖有機化合物は、金属イオンへの配位結合を形成する役割を担う部分と、自由イオンを担持する役割を担う部分とを有する。本発明に用いる主鎖有機化合物は、金属イオンとの間に配位結合を形成する置換基を少なくとも2つ有し、さらに、配位結合を形成せずに自由イオンとイオン結合を形成する置換基を少なくとも1つ有する、有機化合物である。本発明に用いる主鎖有機化合物は、アニオニックに金属に配位結合することが可能であり、そのため、配位結合が形成されることにより、金属イオンの電荷を中和することが可能である。
【0055】
すなわち、主鎖有機化合物は、骨格(式1の場合であれば、R)と、その骨格に結合した3つ以上の置換基とを有する。
【0056】
主鎖有機化合物の骨格としては、任意の有機基が可能である。例えば、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素、より具体的には、例えば、アルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールなどである。なお、アルキルおよびアリールは、通常は1価の基を意味するから、厳密には、アルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールなどからさらに2つ以上の水素原子が失われた3価以上の有機基などが、主鎖有機化合物の骨格となる。骨格は、芳香族であることが好ましい。
【0057】
主鎖有機化合物の骨格に芳香族を用いることには、以下の利点がある。まず、置換基を平面三方向に配置できる。例えば、ベンゼン環の1位、3位、5位に置換基を導入すれば平面上で120°ずつの間隔で置換基を配置できる。例えば、ベンゼン環の1位、2位、4位に置換基を導入すれば1位の置換基と4位の置換基を直線状に配置できる。また、共役系の相互作用によって高次の構造が期待できる、すなわち、配位高分子の3次元構造が骨格の芳香族基により安定化される。さらに、結晶性が高い構造ができるという利点もある。そして、芳香族を骨格に用いれば高い空隙率を有する結晶性高分子を容易に合成することが可能である。高い空隙率の結晶が得られれば、固体電解質として利用する際に、自由電子が移動できる空間を広く確保できることになり、高い伝導性を得ることができるので非常に有利である。
【0058】
従って、骨格としては、芳香環を有し、かつ配位力の比較的高いアニオン性の配位可能な置換基を2つ以上と、配位力の比較的低い置換基を1つ以上有するものが非常に有効である。
【0059】
主鎖有機化合物の分子量は、特に限定されない。好ましくは、100以上であり、より好ましくは、150以上であり、さらに好ましくは、200以上である。また、分子量は2000以下であることが好ましく、より好ましくは1000以下であり、さらに好ましくは700以下であり、特に好ましくは400以下である。
【0060】
主鎖有機化合物の炭素数は、好ましくは、5以上であり、より好ましくは、6以上であり、さらに好ましくは、7以上である。また、炭素数は50以下であることが好ましく、より好ましくは30以下であり、さらに好ましくは20以下であり、特に好ましくは10以下である。
【0061】
主鎖有機化合物は、金属イオンとの間にアニオニックな配位結合を形成する置換基を少なくとも2つ有する。この置換基の数は、3つ以上であってもよいが、好ましくは2つである。この置換基は負の電荷を有し、金属イオンとの間に配位結合を形成する際に、金属イオンの正の電荷を中和する。
【0062】
このような置換基の具体例としては、例えば、−COOが挙げられる。なお、−COOは、厳密にはカルボシキシル基ではないが、便宜上、本明細書中では、カルボシキシル基ともいう。また、−COOと同様に機能する基としては、−PO2−、−PO3−、−PO、−O、−NO、−OSOなどが挙げられる。
【0063】
主鎖有機化合物は、さらに、配位結合を形成せずに自由イオンとイオン結合を形成する置換基であって、上記配位結合を形成する置換基とは異なる置換基を少なくとも1つ有する。イオン結合を形成する置換基としては、上記配位結合を形成する置換基に比べて、配位結合を形成する反応性が低い置換基であってかつ負の電荷を有する置換基であれば、任意の置換基が可能である。すなわち、主鎖有機化合物が、配位結合を形成する反応性が高い複数の置換基と反応性が低い置換基とを有することにより、反応性が高い置換基において配位結合が形成されて配位高分子の主鎖が形成され、反応性が低い置換基においては自由イオンが捕捉される。
【0064】
配位結合を形成する反応性が高い置換基としてカルボシキシル基を用いる場合、反応性が低い置換基の具体例としては、酸基が挙げられる。具体的には、硫酸エステル基(−OSOH)、スルホン酸基(−SOH)、リン酸基(−PO)、およびホスホン酸基(−PO)などの水素が1つまたはそれ以上解離した置換基が挙げられる。すなわち、−OSO、−SO、−PO、−PO2−などが挙げられる。また、水酸基もしくはメルカプト基から水素が1つ解離した置換基、すなわち、−Oもしくは−Sも使用可能である。
【0065】
好ましい主鎖有機化合物は、具体的には、例えば、以下の化合物である。
【0066】
【化5】

ここで、LおよびLの定義は、上述したとおりである。Lは好ましくは、−SOH であり、Lは好ましくは、−COO である。
【0067】
(配位力)
本発明においては、配位力に着目して、配位力の強い配位子と、配位力の弱い配位子とを組み合わせて配位高分子の分子設計を行うことが好ましい。
【0068】
すなわち、本発明の好ましい実施形態において、主鎖有機化合物は、2つ以上のアニオン性配位子と、1つ以上のイオン担持可能な置換基とを有する。ここで、イオン担持可能な置換基の金属イオンに対する配位力は、アニオン性配位子の金属イオンに対する配位力よりも弱い。
【0069】
より好ましい実施形態において、主鎖有機化合物は、配位力の強い2つのアニオン性配位子と、配位力の弱い1つ以上のイオン担持可能な置換基とを有する。
【0070】
本明細書において、「配位力」とは、配位子が金属イオンとの間に配位結合を形成しようとする傾向の程度をいう。すなわち、金属イオンとの間に配位結合を形成しやすい配位子は、その金属イオンに対する配位力が強いと評価され、金属イオンとの間に配位結合を形成しにくい配位子は、配位力が弱いと評価される。
【0071】
配位力は、相対的な概念であり、2種類の配位子がある場合に、より配位結合を形成しやすい配位子を強いと評価し、他方を弱いと評価する。
【0072】
配位力は、金属イオンの種類に依存する。すなわち、金属イオンの元素の種類によって異なり、また、金属イオンの価数によって異なる。
【0073】
配位力は、簡易な実験により、容易に測定することができる。例えば、1種類の金属イオン1モルが存在する溶液中に、複数種類(例えば、2種類)の配位子をそれぞれ等モルずつ(例えば1モルずつ)添加して錯体を合成し、得られる錯体の組成を分析するか、または残存するそれぞれの配位子の量を分析することにより、いずれの配位子の配位力が強いかを確認することができる。
【0074】
従って、主鎖有機化合物に関して、主鎖金属イオンと配位結合するために使用される配位子として上述した置換基および自由イオンを担持するために使用される置換基として上述したすべての置換基のうち、配位力の高い置換基を、配位結合のための置換基として使用することができ、そして配位力の弱い置換基を、自由イオンを担持するための置換基として使用することができる。より具体的には、例えば、−CO、−PO2−、−PO3−、−PO、−O、−NO、−OSO、−OSO、−SO、−PO、−PO2−などの置換基のうちの、配位力の高い置換基を、配位結合のための置換基としてすることができ、そして配位力の弱い置換基を、自由イオンを担持するための置換基として使用することができる。
【0075】
(配位高分子の分子量)
本発明の配位高分子の分子量は、特に限定されない。好ましくは、1000以上であり、より好ましくは、3000以上であり、さらに好ましくは、1万以上であり、特に好ましくは、3万以上である。また、分子量は、好ましくは、300万以下であり、より好ましくは、100万以下であり、さらに好ましくは、50万以下であり、特に好ましくは、20万以下である。分子量が小さすぎる場合には、固体電解質としての性能が充分に得られにくい。分子量が大きすぎる場合には、その合成が困難になりやすい。
【0076】
配位高分子の分子中の繰り返し単位の数(一般式(1)の場合にはn)は、特に限定されず、好ましくは、3以上の整数であり、より好ましくは、10以上の整数であり、さらに好ましくは、20以上の整数であり、いっそう好ましくは、50以上の整数であり、特に好ましくは、100以上の整数である。また、好ましくは、20000以下であり、より好ましくは、10000以下であり、さらに好ましくは、5000以下であり、いっそう好ましくは、3000以下であり、特に好ましくは、1000以下である。
【0077】
(好ましい配位高分子)
本発明の配位高分子に用いられる自由イオン、金属イオンおよび主鎖有機化合物は、上述したとおりであるので、好ましい配位高分子の例は、以下の式1で示される。
【0078】
【化6】

ここで、Rは、有機基であり、好ましくは、アルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールであり、より好ましくは、アリールまたは置換アリールであり、さらに好ましくは、フェニルである。
q+は、金属イオンであり、好ましくは、遷移金属イオンであり、より好ましくは、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Pd2+またはCd2+である。
は、前記自由イオンとイオン結合を形成する、Lと異なる基であり、負の電荷を有する任意の基であり得る。好ましくは、−SOHまたはその塩である。
B1j−およびLB2k−は、同一であってもよく、異なってもよく、それぞれ、金属原子と配位結合を形成する基である。LB1j−およびLB2k−は好ましくは、−COOである。
nは、任意の整数であり、好ましくは、3以上であり、より好ましくは、10以上であり、さらに好ましくは、20以上であり、いっそう好ましくは、50以上であり、特に好ましくは、100以上である。
jは、1、2または3であり、好ましくは、1である。
kは、1、2または3であり、好ましくは、1である。
qは、jとkとの和に等しく、好ましくは2である。
【0079】
(架橋配位高分子)
別の局面において、本発明は、自由イオン、自由イオンとは異なる金属イオン、主鎖有機化合物、および金属イオン間を架橋する架橋配位子を含む、架橋構造を有する配位高分子を提供する。ここで用いられる自由イオン、金属イオンおよび主鎖有機化合物は、上述したとおりである。
【0080】
(架橋配位子)
架橋配位子は、電荷が中性であって、正または負の電荷を有さない化合物である。架橋配位子は、金属イオンと配位結合を形成する部位を少なくとも2箇所有する。
【0081】
従って、配位結合を形成可能な非共有電子対を有する原子を2つ有する化合物を架橋配位子として使用できる。例えば、非共有電子対を有する窒素原子を2つ有する芳香族または脂肪族の有機化合物が使用可能である。より具体的には、例えば、単一の芳香環に非共有電子対を有する窒素原子を2つ有する化合物、非共有電子対を有する窒素原子を1つ有するヘテロ芳香環を2つ有する化合物などが使用可能である。単一の芳香環に非共有電子対を有する窒素原子を2つ有する化合物の例としては、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、キノキサリン、キナゾリン、ナフタリジン、フェナジンなどが挙げられる。非共有電子対を有する窒素原子を1つ有するヘテロ芳香環を2つ有する化合物の例としては、2,2’−ビピリジル、4,4’−ビピリジル、ビピリジル誘導体などが挙げられる。4,4’−ビピリジルまたは4,4’−ビピリジル誘導体がより好ましい。4,4’−ビピリジルが最も好ましい。
【0082】
ここで、ビピリジル誘導体としては、例えば、2つのピリジル基の間に様々な鎖を挿入した化合物が挙げられる。より具体的には、ビピリジルエテン、ビピリジルエタン、アゾピリジン、ビピリジルプロパン、ビピリジルベンゼンなどが挙げられる。また、4,4’−ビピリジル誘導体は、4位および4’位に窒素を有する化合物であり、すなわち、4,4’−ビピリジルエテン、4,4’−ビピリジルエタン、4,4’−アゾピリジン、4,4’−ビピリジルプロパン、4,4’−ビピリジルベンゼンなどである。
【0083】
また、脂肪族の配位子も使用可能である。例えば、2つ以上の窒素原子を含む脂肪族化合物が使用可能である。具体的には、トリエチレンジアミンなどが挙げられる。
【0084】
架橋配位子の分子量は、好ましくは、70以上であり、より好ましくは、100以上であり、さらに好ましくは、130以上である。また、分子量は1000以下であることが好ましく、より好ましくは500以下であり、さらに好ましくは300以下であり、特に好ましくは200以下である。
【0085】
架橋配位子の炭素数は、好ましくは、3以上であり、より好ましくは、5以上であり、さらに好ましくは、10以上である。また、炭素数は50以下であることが好ましく、より好ましくは30以下であり、さらに好ましくは20以下であり、特に好ましくは15以下である。
【0086】
架橋配位子は、その分子中に存在する2箇所の配位結合可能な部位が2つの金属イオンに配位結合して、その2つの金属イオン間を架橋する。例えば、式1の配位高分子を架橋配位子によって架橋した場合、架橋された部分の構造は、以下の式で示される。
【0087】
【化7】

上記式6において、Lは架橋配位子を示す。
【0088】
このように、1つの金属イオンに対して2つの主鎖有機化合物が配位して金属イオン:有機アニオン性配位子=1:1のユニットが形成されることにより鎖状高分子が形成され、さらに金属イオンに対して2つの架橋配位子が配位して金属イオン:架橋配位子=1:1のユニットが形成されることにより2次元状(平面状)高分子が形成される。
【0089】
さらに、この二次元状高分子中の金属イオンに対して、その平面の上下の方向から主鎖有機化合物または架橋配位子を配位させれば、3次元状の高分子が形成される。従って、3次元構造の縦方向、横方向、高さ方向のうち、1方向または2方向が主鎖有機化合物と金属イオンによる高分子鎖となり、残りの2方向または1方向が架橋配位子と金属イオンによる高分子鎖となる。すなわち、3次元構造の2方向が主鎖有機化合物と金属イオンによる高分子鎖の場合には、金属イオンと主鎖有機化合物と架橋配位子とのモル比が金属イオン:主鎖有機化合物:架橋配位子=1:2:1となる。3次元構造の1方向が主鎖有機化合物と金属イオンによる高分子鎖の場合には、金属イオンと主鎖有機化合物と架橋配位子とのモル比が金属イオン:主鎖有機化合物:架橋配位子=1:1:2となる。
【0090】
(分子量)
配位高分子が架橋配位子によって架橋されている場合には、その架橋のために、多数の分子鎖が連結された構造になり、その分子量は、ほぼ無限大になる。
【0091】
この実施形態の配位高分子の場合の架橋密度は、必要に応じて調整することが可能である。すなわち、配位高分子を合成する際に使用される主鎖有機化合物のモル数および金属イオンのモル数に対して、架橋配位子のモル数を調整することにより、所望の架橋密度を得ることができる。1つの実施形態では、金属イオンのすべてに対して、架橋配位子を2つずつ配位させることができる。別の実施形態では、金属イオンの一部のみに対して、架橋配位子を配位させることもできる。安定な三次元構造を得るためには、金属イオンのうちの20%以上に対して、架橋配位子を1つ以上配位させることが好ましく、金属イオンのうちの50%以上に対して、架橋配位子を1つ以上配位させることがより好ましい。すべての金属イオンに対して、架橋配位子を2つずつ配位させれば、安定な結晶を得やすい点で有利である。
【0092】
(自由イオン)
本発明の配位高分子は、伝導種となる自由イオン(以下、単に「自由イオン」ともいう)を担持させて、固体電解質として使用することが可能である。
【0093】
本明細書において「自由イオン」とは、本発明の配位高分子を固体電解質として利用した際に、固体電解質内を移動し得るイオンを意味する。この自由イオンが固体電解質内を移動し得ることにより、固体電解質に導電性が与えられる。自由イオンは、配位子と錯体を形成しにくいイオンであることが好ましく、配位子と錯体を形成しないイオンであることがより好ましい。具体的には、自由イオンは、好ましくは、水素イオン、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属のイオンであり、より好ましくは、水素イオンまたはアルカリ金属のイオンである。より好ましくは、水素イオンまたはリチウムイオンである。二次電池においては、Liが汎用されており、また燃料電池においてはHが汎用されており、これらを用いた固体電解質は有用である。最も好ましくは、リチウムイオン(Li)である。本発明において、好ましくは、一種類の自由イオンのみが、固体電解質内を移動し得る。
【0094】
自由イオンによるイオン伝導度(またはイオン伝導性)は、本発明の配位高分子を固体電解質として利用した際に、二次電池またはイオン電池の実現が可能な程度に、自由イオンが移動しやすい状態であることが必要であり、イオン伝導度が高ければ高いほど好ましい。具体的には、10−5S/cm以上のイオン伝導率であることが好ましく、より好ましくは、10−3S/cm以上であり、さらに好ましくは、10−2S/cm以上であり、いっそう好ましくは、10S/cm以上であり、特に好ましくは、10S/cm以上である。
【0095】
(固体電解質)
本発明の固体電解質は、本発明の配位高分子に自由イオンを担持させたものである。
【0096】
本発明の固体電解質として、例えば、上記式1の配位高分子に対応する固体電解質は、以下の式1Aで示される。
【0097】
【化8】

ここで、Rは、アルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールであり、
p+は、自由イオンであり、
q+は、金属イオンであり、
は、配位結合を形成せずに前記自由イオンとイオン結合を形成する基であり、
B1j−およびLB2k−は、それぞれ、金属原子と配位結合を形成する基であり、
nは、任意の整数であり、
pは、1、2または3であり、
jは、1、2または3であり、
kは、1、2または3であり、
qは、jとkとの和に等しい。
【0098】
また、上記式6の架橋配位高分子に対応する固体電解質は、以下の一般式6Aで示される。
【0099】
【化9】

(製造方法)
次に、本発明の配位高分子の製造方法について説明する。
【0100】
(鎖状配位高分子の製造方法)
鎖状配位高分子の代表的な合成スキームを図1に示す。
【0101】
本発明の配位高分子は、上述した材料を混合して反応させることにより合成される。例えば、金属イオンを含む化合物と、主鎖有機化合物と、自由イオンを含む化合物とを溶媒中で混合することにより、配位高分子が得られる。これらの材料を混合する順序は、特に限定されない。例えば、すべての材料を一度に混合することも可能である。
【0102】
より具体的には、例えば、所定の金属イオンの溶液と、所定の主鎖有機化合物の塩の溶液とをそれぞれ別個に調製する。このとき、必要に応じて、有機溶剤を加えてもよい。次いで、両者を混合することにより、水素を自由イオンとする新規な配位高分子が得られる。また、水素以外を自由イオンとする場合は、例えば、当該自由イオンを含む化合物を溶解した溶液を作製し、この溶液を、水素を自由イオンとして有する配位高分子に添加することにより、水素を置換して、水素以外の自由イオンを担持した配位高分子を得ることができる。
【0103】
本発明は、理論に拘束されるものではないが、この合成反応の際には、主鎖有機化合物が有する置換基のうちの配位力が相対的に強い置換基が金属イオンとの間に配位結合を形成し、そのことにより、主鎖有機化合物と金属イオンとが交互に結合して直鎖状の配位高分子が形成される。他方、配位力が相対的に弱い置換基においては、金属イオンとの間の配位結合が形成されず、その置換基がその電荷を保持したまま配位高分子中に残存することになり、残存した置換基が自由イオンを担持すると考えられる。
【0104】
合成反応の際のそれぞれの上記反応材料の使用量は、化学反応式から理論的に計算される量を用いることができる。具体的には、1モルの金属イオンに対して理論上1モルの有機アニオン性化合物が結合した配位高分子を得る場合には、1モルの金属イオンに対して、0.8〜1.2モルの有機アニオン性化合物を使用することが好ましく、0.9〜1.1モルの有機アニオン性化合物を使用することがより好ましく、0.95〜1.05モルの有機アニオン性化合物を使用することがさらに好ましく、0.98〜1.02モルの有機アニオン性化合物を使用することが特に好ましく、1モルの金属イオンに対して、実質的に1モルの有機アニオン性化合物を使用することが最も好ましい。理論的な量に比べて多すぎる場合または少なすぎる場合には、充分に高い分子量を有する配位高分子が得られにくい。
【0105】
反応の際の圧力は、特に限定されるものではなく、常圧でよい。また、温度は、溶媒が流動性を有する状態を確保できれば、特に限定されない。また、2つの溶液を混合する方法は、一方の溶液に他方の溶液を加える方法、水と必要に応じて有機溶剤を加えた水系媒体に、上記両水溶液を加える方法、上記一方の溶液に、水と必要に応じて有機溶剤を加えた水系媒体を加え、次いで、上記他方の溶液を加える方法等、任意の方法を採用することができる。このとき、混合をゆっくりと静かに行うことにより、錯体結晶をより大きく生成させることができる。
【0106】
上記反応に用いる溶媒としては、上記材料を溶解して、金属イオンおよび自由イオンをイオン化させることのできる溶媒であれば特に限定されない。水を用いてもよく、有機溶媒を用いても良い。水に有機溶剤を加えた混合溶媒を用いてもよい。有機溶剤としては、極性有機溶媒が好ましく、より好ましくはアルコールである。代表例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。
【0107】
(架橋配位高分子の製造方法)
三次元的な構造を有する配位高分子は、上記架橋配位子を含む材料を溶液中で混合することにより合成することができる。例えば、金属イオンを含む化合物と、主鎖有機化合物と、架橋配位子と、自由イオンを含む化合物とを溶媒中で混合することにより、配位高分子が得られる。これらの材料を混合する順序は、特に限定されない。例えば、すべての材料を一度に混合することも可能である。
【0108】
より具体的には、例えば、所定の金属イオンの溶液と、所定の主鎖有機化合物の塩の溶液と、架橋配位子の塩の溶液をそれぞれ別個に調製する。このとき、必要に応じて、有機溶剤を加えてもよい。次いで、これらの溶液を混合することにより、水素を自由イオンとする架橋配位高分子が得られる。また、水素以外を自由イオンとする場合は、例えば、当該自由イオンを含む化合物を溶解した溶液を作製し、この溶液を、水素を自由イオンとして有する架橋配位高分子に添加することにより、水素を置換して、水素以外の自由イオンを担持した架橋配位高分子を得ることができる。
【0109】
本発明は、理論に拘束されるものではないが、この架橋配位高分子の合成反応の際には、主鎖有機化合物が有する置換基のうちの配位力が相対的に強い2つの置換基が金属イオンとの間に配位結合を形成し、そのことにより、主鎖有機化合物と金属イオンとが交互に結合して直鎖状の配位高分子が形成される。また、架橋配位子が金属イオンとの間に配位結合を形成し、そのことにより、架橋配位子が金属イオンとが交互に結合した直鎖が形成される。主鎖有機化合物と金属イオンとによる直鎖と、架橋配位子と金属イオンとによる直鎖とは、金属イオンを交点として交差するので、二次元的な構造が形成される。そして、この二次元的な構造の交点に存在する金属イオンに対してさらに主鎖有機化合物または架橋配位子が結合すれば、上記二次元的な構造の平面と交差する方向に鎖が伸びることになり、三次元構造の配位高分子が形成される。
【0110】
金属イオンとして、同一平面上に存在する4つの配位子との間に配位結合を形成しやすい金属イオンを用いる場合には、二次元的な構造の架橋配位高分子が得られやすい。
【0111】
さらに、金属イオンとして、6つの配位子との間に配位結合を形成やすい金属イオンを用いる場合には、上記三次元的な構造の配位高分子が形成されやすい。
【0112】
他方、主鎖有機化合物が有する置換基のうちの残りの置換基、すなわち、配位力が相対的に弱い置換基においては、金属イオンとの間の配位結合が形成されず、その置換基がその電荷を保持したまま配位高分子中に残存することになり、残存した置換基が自由イオンを担持すると考えられる。
【0113】
合成反応の際のそれぞれの上記反応材料の使用量は、化学反応式から理論的に計算される量を用いることができる。具体的には、1モルの金属イオンに対して1モルの有機アニオン性化合物と、1モルの架橋配位子とが理論上結合した配位高分子を得る場合には、1モルの金属イオンに対して、0.8〜1.2モルの有機アニオン性化合物を使用することが好ましく、0.9〜1.1モルの有機アニオン性化合物を使用することがより好ましく、0.95〜1.05モルの有機アニオン性化合物を使用することがさらに好ましく、0.98〜1.02モルの有機アニオン性化合物を使用することが特に好ましく、1モルの金属イオンに対して、実質的に1モルの有機アニオン性化合物を使用することが最も好ましい。理論的な量に比べて有機アニオン性化合物の量が多すぎる場合または少なすぎる場合には、充分に高い分子量を有する配位高分子が得られにくい。理論的な量に比べて有機アニオン性化合物の量が多すぎる場合または少なすぎる場合には、均一な構造の架橋配位高分子が得られにくい。また、1モルの金属イオンに対して、0.8〜1.2モルの架橋配位子を使用することが好ましく、0.9〜1.1モルの架橋配位子を使用することがより好ましく、0.95〜1.05モルの架橋配位子を使用することがさらに好ましく、0.98〜1.02モルの架橋配位子を使用することが特に好ましく、1モルの金属イオンに対して、実質的に1モルの架橋配位子を使用することが最も好ましい。理論的な量に比べて架橋配位子の量が多すぎる場合または少なすぎる場合には、均一な構造の架橋配位高分子が得られにくい。
【0114】
反応の際の圧力は、特に限定されるものではなく、常圧でよい。また、温度は、溶媒が流動性を有する状態を確保できれば、特に限定されない。また、両水溶液の混合の方法は、一方の水溶液に他方の水溶液を加える方法、水と必要に応じて有機溶剤を加えた水系媒体に、上記両水溶液を加える方法、上記一方の水溶液に、水と必要に応じて有機溶剤を加えた水系媒体を加え、次いで、上記他方の水溶液を加える方法等、任意の方法を採用することができる。このとき、混合をゆっくりと静かに行うことにより、錯体結晶をより大きく生成させることができる。
【0115】
上記反応に用いる溶媒としては、上記材料を溶解して、金属イオンおよび自由イオンをイオン化させることのできる溶媒であれば特に限定されない。水を用いてもよく、有機溶媒を用いてもよい。水に有機溶剤を加えた混合溶媒を用いてもよい。有機溶剤としては、極性有機溶媒が好ましく、より好ましくはアルコールである。代表例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。
【0116】
本発明の配位高分子の製造方法において、上記の各工程で得られる中間生成物または最終生成物は、反応液から夾雑物(未反応原料、副生成物、溶媒など)を、当該分野で慣用される方法(例えば、抽出、蒸留、洗浄、濃縮、沈澱、濾過、乾燥など)によって除去した後に、当該分野で慣用される後処理方法(例えば、吸着、溶離、蒸留、沈澱、析出、クロマトグラフィーなど)を適宜組み合わせて処理して単離し得る。
【0117】
(構造確認)
このようにして得られる配位高分子は、従来公知の方法を用いてその構造を確認することができる。例えば、X線結晶構造解析によって構造を分析することが可能である。また、固体NMRにより、組成を確認することができる。
【0118】
(性能)
このようにして得られる配位高分子は、固体電解質として優れた伝導性を示す。すなわち、高い伝導性が示される。
【0119】
(用途)
本発明の配位高分子は、固体電解質として非常に有用である。より具体的には、固体リチウム二次電池のための固体電解質として有用である。
【0120】
また、本発明の固体電解質はイオンセンサとして使用することもできる。例えば、複数種類のイオン(例えば、LiイオンとCaイオン)が共存する環境下で特定のイオン(例えば、Liイオン)だけを選択的に検知するセンサとして使用可能である。さらに、本発明の1つの実施形態において得られる三次元構造の配位高分子は、その三次元構造のセルに気体分子を捕捉することが可能であるので、固体電解質として用いることができるほか、ガスセンサーとしても用いることができる。
【0121】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0122】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【実施例】
【0123】
(調製例1:配位子の調製)
以下の実験に用いる配位子を、以下のように調製した。
【0124】
配位子の化合物:「Ph(COH)(SOLi)」として、市販の試薬(アルドリッチ、[CAS NO.46728−75−0])を使用した。試薬のH−NMRを測定したところ、不純物を示すピークは存在しなかった。
【0125】
(実施例1:二次元配位高分子の合成)
二次元配位高分子を以下のように合成した。
【0126】
5−スルホイソフタル酸モノリチウム塩(以下、「siaLi」と略す)(20mM)と4,4’−ビピリジル(以下「bpy」と略す)(20mM)およびLiOH(40mM)のメタノール溶液50mLにCd(NO・4HO(20mM)のエタノール溶液50mLを室温・大気下でゆっくり滴下し、4時間攪拌することによって白色の粉末を自己集合的に得た。これをろ過、洗浄することによって目的の配位高分子を収率90%で得た。
【0127】
配位高分子の構造を以下のように解析した。
【0128】
siaLiとbpyおよびLiOHのメタノール、エタノール1:1混合溶液(20mM)とCd(NO・4HOのエタノール溶液(20mM)とを直径6mmのガラス管にそれぞれ浮かべ、静置することによってゆっくり拡散させ、界面に単結晶を成長させた。その構造をX線結晶構造解析から求めた。X線測定はRigaku/MSC Mercury CCD diffractometer (λ = 0.71069 Å)を用いて行った。測定条件は−50度、2θは55°までを用いて行った。解析は初期構造を直接法(SIR97)で求め、構造の最適化を最小二乗法(SHELXL)を用いて行った。
【0129】
その結果、Cd(II)イオン周りにsiaLi配位子のカルボキシル基が配位し、鎖状のネットワークを形成していることが確認され、siaLiのスルフォネート基はCd(II)イオンに配位していないことが分かった。またカルボキシル基の配位面に垂直な位置からCd(II)にbpyが配位することによって鎖状ネットワーク同士が連結され、二次元シート構造を作っていることがわかった。
【0130】
また固体NMRを用いて組成の確認を行った。13CNMR CPMAS測定を行ったところ、siaLiに由来するカルボキシル基のピークが約170ppmに、またbpyを示すピークが145−160ppmの範囲に観測されたことから二つの配位子が共存していることが示され、またLi−NMRの測定を行なったところ、2.2ppmにピークが確認され、リチウムイオンが系中に存在していることが確認された。
【0131】
また、上記X線結晶構造解析により、きわめて規則的な構造であることが確認されたことから、単結晶の1粒の1つの断面が全体として1分子であると考えられる。すなわち、極めて巨大な分子量を有する配位高分子が得られた。そして、合成後のろ過を1μm口径のろ紙で行い、完全にろ過できたことから、得られた単結晶粉末の粒子サイズは最低でも約2μmはあった。すなわち、粒子の断面積は少なくとも2x2μmであった。構造解析結果から算出された結晶構造の単位ユニットは約1nmであったので、得られた高分子は、粒子の断面に縦に2000ユニット以上、横に2000ユニット以上が整列しており、その重合度は、2000=4x10以上であると計算された。
【0132】
得られた配位高分子の性能を以下のとおり評価した。
【0133】
配位高分子の粉末についてICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分析を行ったところ、Cd(II)とLi(I)の比がほぼ1:1で存在していることが分かった。またこの粉末に対して固体Li−NMRの測定を行った。粉末の静止状態での測定で得られたピークの半値幅は約0.8 kHzであり、従来の固体電解質と比較しても小さく、Li(I)イオンの運動性が高いことが定性的に示された。さらに縦緩和時間T1の温度依存性をプロットし、適当なモデルでフィッティングしたところ、局所的なLi(I)イオンの運動における活性化エネルギーが0.23eVと小さいことが示された。よってネットワーク中におけるLi(I)イオンの高いモビリティを反映する結果が得られた。
【0134】
またバルクの粉末を用いてインピーダンス測定を行ったところ、その伝導度は測定を行う環境の湿度に依存することが確認されており、また湿度約30%における伝導度のオーダーは約10−5〜10−6S/cmであり、シングルイオン導電体の値としては非常に高いことが示された。
【0135】
なお、インピーダンス測定は、以下のとおりに行った。
【0136】
0.15gの粉末に対して0.3トンの圧力を3分かけることによって直径1.3cmのペレットを成型し、その上下に金箔電極を挟み、50mVの交流電圧を2Hz〜2MHzまで連続的にかけることによってインピーダンス測定を行った(装置はソーラトロン社製ポテンショスタット/ガルバノスタット)。
【0137】
(実施例2:三次元架橋配位高分子の合成)
架橋配位高分子を以下のように合成した。
【0138】
5−スルホイソフタル酸モノリチウム塩(以下、「siaLi」と略す)(20mM)と4,4’−ビピリジル(以下、「bpy」と略す)(20mM)およびLiOH(40mM)のメタノール/水溶液50mLにCu(NO・xHO(20mM)のメタノール溶液50mLを室温・大気下でゆっくり滴下し、1日間攪拌することによって白色の粉末を自己集合的に得た。これをろ過、洗浄することによって目的の配位高分子を収率90%で得た。
【0139】
得られた配位高分子の構造を以下のように解析した。
【0140】
配位高分子の単結晶を作成し、その構造をX線結晶構造解析から求めた。X線測定はRigaku/MSC Mercury CCD diffractometer(λ= 0.71069 Å)を用いて行った。測定条件は−50度、2θは55°までを用いて行った。解析は初期構造を直接法(SIR97)で求め、構造の最適化を最小二乗法(SHELXL)を用いて行った。
【0141】
その結果、配位高分子が三次元構造を有していることが確認された。より具体的には、得られた配位高分子は、直方体をユニットとしており、その直方体のそれぞれの角にCuが位置していた。また、直方体の縦方向、横方向、高さ方向のうち、2方向がsiaLiと銅イオンによる高分子鎖であり、残りの1方向がbpyと銅イオンによる高分子鎖であった。
【0142】
なお、固体NMRを用いた組成の確認はCu(II)が常磁性なため不可能であり、行なわなかった。
【0143】
得られた配位高分子は、3次元構造を有しており、リチウム担持機能のより一層の効率向上がみられ、リチウムイオン電池として容量特性が向上する。
【0144】
(実施例3:二次元架橋配位高分子の合成)
金属イオンを含む化合物としてCd(NO・4HO(20mM)を用いた以外は、実施例2と同様に架橋配位高分子を合成し、実施例2と同様に解析した。反応のスキームを図2に示す。
【0145】
構造解析の結果を図3に示す。カドミウムイオンにsiaおよびbpyが配位することにより、以下のような骨格の平面構造が形成された。その平面構造からなる層状化合物が積層された構造となっていることが確認された。また、siaの2つのカルボシキシル基がCdに配位結合し、siaのSO基はCdに配位結合しなかったことが確認された。また、Cd(II)とsiaLi配位子との存在比から、系中にリチウムイオンが存在していることが確認された。
【0146】
【化10】

上記構造式中、「sia」は5−スルホイソフタル酸イオンを示す。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、極めて安全性が高く高電力の全固体リチウム二次電池の開発の要素技術となり得るものである。リチウム二次電池の開発技術は、今後さらに需要が伸びると予想される民生用のモバイル機器、特に携帯電話やポータブルパソコン、さらには電気自動車等の補助電源など分野において、世界的に潜在的なニーズがあり、他にも、リチウムイオン二次電池の利用分野、製品として、携帯式電動工具、UPS、業務用車載搭載機器、遠隔地に設置した測定器、海底作業機、リモコン、GPS等、種々の製品・分野が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】本願実施例の配位高分子の合成スキームを示す。
【図2】本願実施例の架橋配位高分子の合成スキームを示す。
【図3】本願実施例の架橋配位高分子の単結晶X線構造解析結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと、
該金属イオンに配位可能な少なくとも2以上のアニオン性配位子を有する有機化合物とが繰返し単位を構成する配位高分子であって、
前記有機化合物は固体電解質の伝導種となるイオンを担持可能な置換基を有することを特徴とする配位高分子。
【請求項2】
該有機化合物は、該アニオン性配位子を2つ有し、そして、該イオン担持可能な置換基の該金属イオンに対する配位力は、該アニオン性配位子の該金属イオンに対する配位力よりも弱い、請求項1に記載の配位高分子。
【請求項3】
請求項1に記載の配位高分子であって、以下の構造式を有し:
【化1】

ここで、Rは、アルキル、置換アルキル、アリールまたは置換アリールであり、
q+は、金属イオンであり、
は、配位結合を形成せずに前記伝導種となるイオンとイオン結合を形成する基であり、
B1j−およびLB2k−は、それぞれ、金属原子と配位結合を形成する基であり、
nは、任意の整数であり、
jは、1、2または3であり、
kは、1、2または3であり、
qは、jとkとの和に等しい、配位高分子。
【請求項4】
請求項3に記載の配位高分子であって、Mq+が価数2以上の遷移金属イオンであり、Lが、−SOHまたはその塩であり、LB1j−が、−COO であり、LB2k−が、−COO であり、qは2であり、jは1であり、kは1である、配位高分子。
【請求項5】
前記金属イオンが、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Pd2+およびCd2+からなる群から選択される、請求項4に記載の配位高分子。
【請求項6】
前記式1中Rは芳香環を少なくとも一つ有する基である、請求項3に記載の配位高分子。
【請求項7】
前記主鎖有機化合物が以下から選択される、請求項4に記載の配位高分子:
【化2】

ここで、Lは、配位結合を形成せずに前記伝導種となる自由イオンとイオン結合を形成する基であり、
は、金属原子と配位結合を形成する基である。
【請求項8】
請求項1に記載の配位高分子であって、さらに、架橋配位子を含み、
該架橋配位子は、前記金属イオンと配位結合を形成する部位を分子内に2箇所以上有し、1つの金属イオンと他の金属イオンとを架橋する、配位高分子。
【請求項9】
請求項8に記載の配位高分子であって、前記金属イオンが3つ以上の配位結合を形成する2価の遷移金属イオンであり、前記イオンを担持可能な置換基が、−SOHまたはその塩であり、前記アニオン性配位子が、−COO である、配位高分子。
【請求項10】
前記架橋配位子が、ビピリジルである、請求項8に記載の配位高分子。
【請求項11】
前記金属イオンが、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Pd2+およびCd2+からなる群から選択される、請求項9に記載の配位高分子。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の配位高分子に、伝導種となる自由イオンが担持された、固体電解質。
【請求項13】
前記自由イオンがLiである、請求項12に記載の固体電解質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−63448(P2007−63448A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252884(P2005−252884)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】