説明

カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス、これを含むディップ成形用ラテックス組成物

【課題】本発明は、架橋性官能基を有する不飽和単量体を含むカルボン酸変性ニトリル(nitrile)系共重合体ラテックス、これを含むディップ成形用ラテックス組成物、およびこれから製造される成形品に関するものである。
【解決手段】本発明は、ビニル基およびエポキシ基の中から選択される架橋性官能基を有する不飽和単量体を用いて製造されたカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを使用することにより、長い撹はん熟成工程を行うことなく、硫黄および加硫促進剤によるアレルギー反応も起こさない、耐油性と機械的強度が高く且つ風合いの良い成形品の製造が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長い撹はん熟成工程を行うことなく、硫黄および加硫化促進剤によるアレルギー反応も起こさない、耐油性と機械的強度が高く且つ風合いの良い成形品の製造が可能なカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス、これを含むディップ成形用ラテックス組成物、およびこれから製造されたディップ成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム手袋は、家事、食品産業、電子産業、医療分野など広い分野で使用されている。天然ゴムラテックスをディップ(dip)成形して作ったゴム手袋が多く使用されているが、前記天然ゴムに含まれている蛋白質は一部の使用者に痛みや発疹などのアレルギー反応を起こし問題となっていた。
【0003】
これにより、アレルギー反応を起こさない合成ゴムラテックス、例えば、アクリル酸-アクリロニトリル(acrylonitrile)-ブタジエン(butadiene)共重合体ラテックスなどのカルボン酸変性ニトリル(nitrile)系共重合体ラテックスに、硫黄および加硫促進剤を配合したラテックス組成物をディップ成形して作った手袋が多く使用されている。
【0004】
しかしながら、このような手袋を生産する工程では、硫黄および加硫促進剤をラテックスに配合した後、通常24時間以上の長い撹はん熟成(maturatuion)工程を経なければならないため、生産性が低下するという問題がある。
【0005】
また、硫黄および加硫促進剤を必須成分として配合した組成から製造されたゴム手袋を長時間着用して作業する場合、硫黄から発生する臭いにより不快感を与えたり、手袋の色が変色して商品価値が低下し、一部の使用者にアレルギー反応が起こってひりひりとした痛みを誘発させるという問題があった。
【0006】
特許文献1では、硫黄および加硫促進剤を用いなく、ディップ成形品を得る方法として、共役ジエン(conjugated diene)ゴムラテックスと有機過酸化物を含むディップ成形用ラテックス組成物を用いて、長い撹はん熟成工程を省略し、長時間使用しても変色しない手袋が作れたものの、有機過酸化物溶液が人体に非常に有害であり、熱や衝撃が加えられると火事や爆発を起こす危険があるため、安全でないという欠点がある。
【0007】
特許文献2では、アクリルエマルジョンラテックスに、架橋可能なモノマーを用いて長い撹はん熟成工程を行うことなく、硫黄および加硫促進剤によるアレルギー反応も起こさない手袋を作ったものの、アクリル手袋が温度に極めて敏感であるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-321955号公報
【特許文献2】米国特許第7,345,111号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのため、本発明では、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、本発明の目的は、長い撹はん熟成工程を行うことなく、硫黄および加硫促進剤によるアレルギー反応も起こさない、耐油性と機械的強度が高く且つ風合いの良い成形品の製造が可能なカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを含むディップ成形用ラテックス組成物およびこれから製造された成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造時に、ビニル基およびエポキシ基の中から選択される架橋性官能基を有する不飽和単量体を用い、これをディップ成形用ラテックス組成に含ませることにより、上記のような従来の問題点を解決することができた。
【発明の効果】
【0012】
本発明のように、手袋の製造工程中にビニル基およびエポキシ基の中から選択される架橋性官能基を有する不飽和単量体を用いて製造されたカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを使用することにより、長い撹はん熟成工程を行うことなく、硫黄および加硫促進剤によるアレルギー反応も起こさない、耐油性と機械的強度が高く且つ風合いの良い成形品の製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記のような目的を達成するための本実施形態のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、架橋性官能基を有する不飽和単量体を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本実施形態の他の目的を達成するためのカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス組成物は、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体に、イオン性架橋剤、顔料、充填剤、増粘剤およびpH調節剤からなる群より選択される1種以上の添加剤を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本実施形態のまた他の目的を達成するためのディップ成形品は、前記組成物をディップ成形して得られることを特徴とする。
【0016】
以下、本実施形態についてより詳しく説明する。
【0017】
本実施形態は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する各単量体に、乳化剤、重合開始剤、および分子量調節剤を添加して、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを製造した後、これをディップ成形用ラテックス組成物に含ませ、ディップ成形して最終製品を製造する。
【0018】
以下、本実施形態のディップ成形品を得るために使用されるカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス、およびこのラテックスを含んだラテックス組成物について詳しく説明する。
【0019】
1.カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス
本実施形態に係るカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する各単量体に、乳化剤、重合開始剤、分子量調節剤、およびその他添加剤を添加し乳化重合させて製造する。
【0020】
前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する単量体は、共役ジエン系単量体と、エチレン性不飽和ニトリル系単量体と、エチレン性不飽和酸単量体と、ビニル基およびエポキシ基の中から選択される架橋性官能基を含む不飽和単量体と、で構成される。
【0021】
本実施形態のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、特にビニル基およびエポキシ基の中から選択される架橋性官能基を含む不飽和単量体を用いる。このような架橋性官能基を含む不飽和単量体を用いることにより、反応性化合物として通常使用されていた硫黄や加硫促進剤を使用しなくても、ディップ成形品を得ることが可能である。
【0022】
このような架橋性官能基を含む不飽和単量体の具体的な例を挙げると、グリシジル(メタ)アクリレート、アルファメチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、オキソシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、2,5-ヘキサンジオールジメタクリレート、2,4-ペンタンジオールジアクリレート、2,4-ペンタンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、およびネオペンチルグリコールジメタクリレートからなる群より選択される1種以上である。
【0023】
前記架橋性官能基を含む不飽和単量体の含有量は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する全単量体に対して0.1〜5重量%、望ましくは0.3〜3重量%、最も望ましくは0.5〜2.5重量%で含まれる。架橋性官能基を有する不飽和単量体の含有量が0.1重量%未満であるとディップ成形品の耐油性と引張強度が低下し、5重量%を超えると触感および着用感が低下する。
【0024】
本実施形態に係るカルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する他の単量体として前記共役ジエン系単量体の具体的な例を挙げると、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、およびイソプレンからなる群より選択される1種以上であり、これらの中で1,3-ブタジエンとイソプレンが望ましく、特に1,3-ブタジエンが最も望ましい。
【0025】
前記共役ジエン系単量体は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する全単量体に対して40〜90重量%、望ましくは45〜80重量%、最も望ましくは50〜78重量%で含まれる。共役ジエン系単量体の含有量が40重量%未満であると、ディップ成形品が硬くなって着用感が悪くなり、90重量%を超えるとディップ成形品の耐油性が悪くなり、引張強度が低下する。
【0026】
本実施形態に係るカルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する他の単量体として、前記エチレン性不飽和ニトリル系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロニトリル、およびα-シアノエチル アクリロニトリルからなる群より選択される1種以上であり、これらの中でアクリロニトリルとメタクリロニトリルが望ましく、特にアクリロニトリルが最も望ましい。
【0027】
エチレン性不飽和ニトリル単量体は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する全単量体に対して10〜50重量%、望ましくは15〜45重量%、最も望ましくは20〜40重量%で含まれる。エチレン性不飽和ニトリル単量体の含有量が10重量%未満であるとディップ成形品の耐油性が悪くなり、引張強度が低下し、50重量%を超えるとディップ成形品が硬くなって着用感が悪くなる。
【0028】
本実施形態に係るカルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する他の単量体として、エチレン性不飽和酸単量体は、カルボキシル基、スルホン酸基、および酸無水物からなる群より選択される1種以上の酸性基を含有するエチレン性不飽和単量体として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸単量体と、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などのポリカルボン酸無水物と、スチレンスルホン酸などのエチレン性不飽和スルホン酸単量体と、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ-2-ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和ポリカルボン酸部分エステル(partial ester)単量体などが挙げられる。これらの中で特にメタクリル酸が望ましい。このようなエチレン性不飽和酸単量体は、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩のような形態に使用できる。
【0029】
前記エチレン性不飽和酸単量体は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する全単量体に対して0.1〜10重量%、望ましくは0.5〜9重量%、より望ましくは1〜8重量%で含まれる。エチレン性不飽和酸単量体の含有量が0.1重量%未満であるとディップ成形品の引張強度が低下し、10重量%を超えるとディップ成形品が硬くなって着用感が悪くなる。
【0030】
本実施形態に係るカルボン酸変性ニトリル系共重合体は、選択的に前記エチレン性不飽和ニトリル単量体およびエチレン性不飽和酸単量体との共重合が可能なその他のエチレン性不飽和単量体をさらに含むことができるが、具体的には、スチレン、アルキルスチレン、およびビニルナフタレンからなる群より選択されるビニル芳香族単量体と、フルオロ(fluoro)エチルビニルエーテルなどのフルオロアルキルビニルエーテルと、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、およびN-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミドからなる群より選択されるエチレン性不飽和アミド単量体と、ビニルピリジン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンなどの非共役ジエン単量体と、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、およびジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートからなる群より選択されるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体からなる群より選択される1種以上を用いる。
【0031】
前記エチレン性不飽和ニトリル系単量体およびエチレン性不飽和酸単量体との共重合が可能な他のエチレン性不飽和単量体の使用量は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する全単量体に対して20重量%の範囲内に使用され、20重量%を超えると柔らかい着用感と引張強度間のバランスが悪くなる。
【0032】
本実施形態のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する単量体に、乳化剤、重合開始剤、分子量調節剤などを添加し乳化重合して製造することができる。
【0033】
乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが用いられる。これらの中でアルキルベンゼン スルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、およびアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群より選択される陰イオン性界面活性剤が特に望ましい。乳化剤の使用量は、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する単量体100重量部に対して、望ましくは0.3〜10重量部、より望ましくは0.8〜8重量部、最も望ましくは1.5〜6重量部が用いられる。 重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル開始剤が望ましく用いられる。ラジカル開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物と、t-過酸化ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノールパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物と、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチルからなる群より選択される1種以上であり、このようなラジカル開始剤の中で無機過酸化物がより望ましく、これらの中でも過硫酸塩が特に望ましい。重合開始剤の使用量は、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する全単量体100重量部に対して望ましくは0.01〜2重量部、より望ましくは0.02〜1.5重量部、最も望ましくは0.5〜1重量部で含まれる。
【0034】
分子量調節剤としては、特に限定されないが、例えば、α-メチルスチレンダイマー、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類と、四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素と、テトラエチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等の含硫黄化合物などが挙げられる。このような分子量調節剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でメルカプタン類が望ましく、t-ドデシルメルカプタンがより望ましい。分子量調節剤の使用量は、その種類に応じて異なるが、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する全単量体100重量部に対して望ましくは0.1〜0.9重量部、より望ましくは0.2〜0.7重量部、最も望ましくは0.3〜0.6重量部である。
【0035】
また、本実施形態のラテックスの重合時において、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤 、老化防止剤、酸素捕捉剤(oxygen scavenger)等の副材料を添加できることはもちろんである。
【0036】
前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する単量体混合物の投入方法は、特に限定されなく、単量体混合物を重合反応器に一度に投入する方法、単量体混合物を重合反応器に連続的に投入する方法、単量体混合物の一部を重合反応器に投入し、残りの単量体を重合反応器に連続的に供給する方法のいずれかの方法を用いても良い。
【0037】
前記乳化重合時において、重合温度は特に限定されないが、通常10〜90℃、 望ましくは25〜75℃である。重合反応を停止する時の転換率は望ましくは90%以上、より望ましくは93%以上である。未反応のモノマーを除去し、固形分の濃度やpHを調整することにより、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを得ることができる。
【0038】
2.ディップ成形用ラテックス組成物
上記のような方法により得た本実施形態のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスに、イオン性架橋剤、顔料、充填剤、増粘剤およびpH調節剤からなる群より選択される1種以上の添加剤を含んでディップ成形用ラテックス組成物を製造することができる。
【0039】
アレルギー反応を起さないイオン性架橋剤、チタニウムオキサイドのような顔料、シリカのような充填材、増粘剤、およびアンモニアまたはアルカリ水酸化物のようなpH調節剤などのディップ成形用組成物に用いられる一般的な添加剤を含んでディップ成形用ラテックス組成物を製造する。
【0040】
前記組成物において、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、全組成物に対して80〜99重量%、望ましくは85〜98重量%、最も望ましくは88〜97重量%で含まれることが、本実施形態のディップ成形品の一種の手袋物性の面で望ましい。
【0041】
本実施形態のディップ成形用ラテックス組成物の固形分濃度は、望ましくは10〜40重量%、より望ましくは15〜35重量%、最も望ましくは18〜33重量%である。本実施形態のディップ成形用ラテックス組成物のpHは望ましくは8.0〜12、より望ましくは9〜11、最も望ましくは9.3〜10.5である。
【0042】
3.ディップ成形品
本実施形態のディップ成形品を得るためのディップ成形方法として通常の方法を採用することができ、例えば、直接浸漬法、アノード凝着浸漬法、ティーグ(Teague)凝着浸漬法などが挙げられる。これらの中では、均一な厚みを有するディップ成形品を得やすいという利点から、アノード凝着浸漬法が望ましい。
【0043】
まず、手形状のディップ成形型を凝固剤溶液に漬け、ディップ成形型の表面に凝固剤を付着させる。凝固剤としては、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛および塩化アルミニウムなどのようなハロゲン化金属と、硝酸バリウム、硝酸カルシウムおよび硝酸亜鉛のような硝酸塩と、酢酸バリウム、酢酸カルシウムおよび酢酸亜鉛のような酢酸塩と、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムおよび硫酸アルミニウムのような硫酸塩などがある。これらの中で塩化カルシウムと硝酸カルシウムが望ましい。凝固剤溶液は、前記のような凝固剤を水、アルコール或いはそれらの混合物に溶解させた溶液である。凝固剤溶液内の凝固剤の濃度は、通常5〜75重量%、望ましくは15〜55重量%、最も望ましくは18〜40重量%である。
【0044】
次いで、前記凝固剤を付着させたディップ成形型を、本実施形態のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスで作ったディップ成形用ラテックス組成物に浸漬し、ディップ成形型を引き上げ、ディップ成形型にディップ成形層を形成させる。その後、ディップ成形型に形成されたディップ成形層を加熱処理して、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを架橋させる。加熱処理時には水性分が先に蒸発してから架橋による硬化が行われる。続いて、加熱処理によって架橋したディップ成形層をディップ成形型から剥がしてディップ成形品を得る。
【0045】
本実施形態に係る方法は、公知技術のディップ成形法によって製造できる如何なるラテックス物品に対しても適用することができる。具体的には、手術用手袋、検査手袋、コンドーム、カテーテルまたは様々な種類の産業用および家庭用手袋のような健康管理用品から選択されたディップ成形ラテックス物品に好適に用いることができる。
【0046】
以下、下記の実施例によって本実施形態をより詳しく説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。またディップ成形品の評価は下記の方法により行った。
(実施例1)
【0047】
反応容器にアクリロニトリル21重量部、1,3-ブタジエン74重量部、メタクリル酸5重量部、t-ドデシルメルカプタン0.5重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.3重量部、水140重量部およびグリシジルメタクリレート1重量部、過硫酸カリウム0.3重量部を投入した後、温度を40℃に上げて重合を開始した。転換率が65%に至ると温度を70℃に上げて重合を進行させ、転換率が94%に至ると水酸化アンモニウム0.3重量部を投入して重合を止めた。脱臭工程により未反応モノマーを除去し、アンモニア水、酸化防止剤、消泡剤などを添加して、固形分濃度44.5%とpH8.0のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを得た。
【0048】
次いで、水酸化カリウム0.03重量部、チタニウムオキシド0.7重量部、2次蒸溜水5重量部を混合して調剤した分散液5.73重量部を前記のラテックス333重量部(固形分100重量部)に混合した後、2次蒸溜水を加えて固形分濃度30%のディップ成形用組成物を得た。
【0049】
22重量部の硝酸カルシウム、69.5重量部のメタノール、8重量部の炭酸カルシウム0.5重量部の湿潤剤(Teric 320 produced by Huntsman Corporation、Australia)を混合して凝固剤溶液を作った。この溶液に手形状のセラミックモールドを1分間漬けてから引き出した後、70℃で3分間乾燥して凝固剤を手形状のモールドに塗布した。その後、凝固剤が塗布されたモールドを前記のディップ成形用組成物に1分間漬けて引き上げ、70℃で1分間乾燥した後、水または温水に3分間浸漬して浸出(leaching)させた。再度、モールドを70℃で3分間乾燥した後125℃で20分間架橋させた。架橋したディップ成形層を手形状のモールドから剥がして手袋形態のディップ成形物を得た。
(実施例2)
【0050】
実施例1で、グリシジルメタクリレート1重量部の代わりに2重量部を使用したことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
(実施例3)
【0051】
実施例1で、グリシジルメタクリレート1重量部の代わりにアリルグリシジルエーテル1重量部を使用したことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
(実施例4)
【0052】
実施例2で、グリシジルメタクリレート2重量部の代わりにアリルグリシジルエーテル2重量部を使用したことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
(実施例5)
【0053】
実施例1で、重合成分中にグリシジルメタクリレート1重量部の代わりにジエチレングリコールジメタクリレート1重量部を使用したことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
(実施例6)
【0054】
実施例2で、重合成分中にグリシジルメタクリレート2重量部の代わりにジエチレングリコールジメタクリレート2重量部を使用したことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
(実施例7)
【0055】
実施例1で、重合成分中にグリシジルメタクリレート1重量部の代わりに3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート1重量部を使用したことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
(実施例8)
【0056】
実施例2で、重合成分中にグリシジルメタクリレート2重量部の代わりに3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート2重量部を使用したことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
(実施例9)
【0057】
実施例1で、重合成分中にグリシジルメタクリレート1重量部の代わりに1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート1重量部を使用したことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
(実施例10)
【0058】
実施例2で、重合成分中にグリシジルメタクリレート2重量部の代わりに1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート2重量部を使用したことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
(比較例1)
【0059】
実施例1で、重合成分中にグリシジルメタクリレート1重量部を使用しないことを除いては、同様の方法により手袋形態のディップ成形物を製造した。その物性を表1に示す。
【0060】
前記実施例および比較例により製造された各成形物の物性を次のように評価した。その結果を表1に示す。
【0061】
* 引張強度(Tensile strength)、伸び率(Elongation)、伸び率300%でのモジュラス(Modulus at 300%):ASTM D-412に準じてダンベル形状の試験片を作製した。次いで、この試験片を伸び速度500mm/分で引っ張り、伸び率が300%の時の応力、破断時の引張強度および破断時の伸び率を測定した。
【0062】
* 引張強度保持率(Tensile strength retention):ダンベル形状の試験片の両端を500mm/分の速度で試験片の標準区間20mmを40mmまで伸張した時点で伸張を止め、この時の応力M100(0)を測定し、そのまま6分が経過した後の応力M100(6)を測定する。M100(0)に対するM100(6)の値を百分率で算出し、この値を応力保持率とする。応力保持率が50%以上であると、フィート(fit)性に優れる。
【0063】
* 耐油性:ディップ成形品で作った直径25mmの円形試験片をシクロヘキサノンに30分間浸漬した後、膨張した試験片の直径を測定する。浸漬後の試験片の直径を浸漬前の試験片の直径で分けた値を耐油性の指標とする。この数値が低いほど耐油性に優れる。
【0064】
【表1】

【0065】
前記表1の結果のように、実施例1〜6のように、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの重合過程中に、架橋性官能基を有する不飽和単量体を用いることにより、硫黄および加硫促進剤がなくても、引張強度、伸び率、耐油性などに優れる手袋形態のディップ成形物を製造することができた。これとは異なり、比較例1のように、架橋性官能基を含む不飽和単量体を用いない場合は、引張強度と応力保持率が非常に低く、手袋のフィート(fit)性が非常に良くないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性官能基を有する不飽和単量体を含むカルボン酸変性ニトリル(nitrile)系共重合体ラテックス。
【請求項2】
前記架橋性官能基は、ビニル基またはエポキシ基であることを特徴とする請求項1に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項3】
前記架橋性官能基を有する不飽和単量体は、グリシジル(メタ)アクリレート、アルファメチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、オキソシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、2,5-ヘキサンジオールジメタクリレート、2,4-ペンタンジオールジアクリレート、2,4-ペンタンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、およびネオペンチルグリコールジメタクリレートからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項4】
前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体は、共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体、エチレン性不飽和酸単量体、および架橋性官能基を有する不飽和単量体が含まれることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項5】
前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体は、共役ジエン系単量体40〜89重量%、エチレン性不飽和ニトリル系単量体10〜50重量%、エチレン性不飽和酸単量体0.1〜10重量%、および架橋性官能基を有する不飽和単量体0.1〜5重量%で含まれることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項6】
前記共役ジエン系単量体は、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、およびイソプレンからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項4に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和ニトリル系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロニトリル、およびα-シアノエチルアクリロニトリルからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項4に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項8】
前記エチレン性不飽和酸単量体は、カルボキシル基、スルホン酸基、および酸無水物からなる群より選択される1種以上の酸性基を含有することを特徴とする請求項4に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項9】
前記エチレン性不飽和酸単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、スチレンスルホン酸、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、およびマレイン酸モノ-2-ヒドロキシプロピルからなる群より選択されることを特徴とする請求項8に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項10】
前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体は、エチレン性不飽和ニトリル単量体およびエチレン性不飽和単量体と共重合が可能な他のエチレン性不飽和単量体を全共重合体に対して20重量%以内でさらに含むことを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項11】
前記共重合が可能な他のエチレン性不飽和単量体は、ビニル芳香族単量体、フルオロアルキルビニルエーテル、エチレン性不飽和アミド単量体、非共役ジエン単量体、およびエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体からなる群ようり選択される1種以上であることを特徴とする請求項10に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項12】
前記ラテックスは、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する総単量体100重量部に対して、乳化剤0.3〜10重量部、重合開始剤0.01〜2重量部、分子量調節剤0.1〜0.9重量部で含むことを特徴とする請求項1から11の何れか1項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス。
【請求項13】
請求項1から12の何れか1項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを含むディップ成形用ラテックス組成物。
【請求項14】
前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、全組成物に対して80〜99重量%で含まれることを特徴とする請求項13に記載のディップ成形用ラテックス組成物。
【請求項15】
前記組成物は、顔料、イオン性架橋剤、充填剤、増粘剤およびpH調節剤からなる群より選択される1種以上の添加剤を含むことを特徴とする請求項13に記載のディップ成形用ラテックス組成物。
【請求項16】
前記イオン性架橋剤は酸化亜鉛であることを特徴とする請求項15に記載のディップ成形用ラテックス組成物。
【請求項17】
請求項13から16の何れか1項に記載のディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形品。

【公開番号】特開2010−144163(P2010−144163A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245912(P2009−245912)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】