説明

カルボン酸類の製造方法、カルシウムカルボン酸塩および低環境負荷型非塩素系融雪剤

【課題】 安価かつ短期間、高収率でカルボン酸類を容易に得ることができるカルボン酸類の製造方法を提供すること。
【解決手段】 カルボン酸類製造方法は木酢液Mを原料とし、抽出分離は適宜の有機溶媒等を用いた分配法による。たとえば木酢液Mに塩化ナトリウムを加える塩析過程P−1、得られたろ液p1を溶媒抽出に供する第1溶媒抽出過程P−2、分離された水層p2を強酸性にして溶媒抽出に供する第2溶媒抽出過程P−3、分離されたエーテル層p3から乾燥過程P−4を経てカルボン酸類CAを蒸留する蒸留過程P−5を順次行う方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボン酸類の製造方法、カルシウムカルボン酸塩および低環境負荷型非塩素系融雪剤に係り、特に、従来の方法よりも安価かつ高収率でカルボン酸類を容易に得ることができるカルボン酸類の製造方法と、それを用いたカルシウムカルボン酸塩、および該カルシウムカルボン酸塩による低環境負荷型非塩素系融雪剤に関する。
【背景技術】
【0002】
冬季の降水・降雪時における路面の凍結防止目的、ないしは融雪・融氷目的のため、従来から塩化カルシウムが広く用いられている。しかし塩化カルシウム融雪剤の使用は、車両、建物、道路・橋梁等の基盤設備に対する腐食、塩害が問題となるのみならず、自然環境に与える悪影響の点からも好ましくない。
【0003】
かかる状況下、従来より非塩素系の融雪剤や関連する技術も種々提案されており、たとえば後掲特許文献1には、塩化系凍結防止剤に金属イオン封鎖剤であるL−グルタミン酸二酢酸・四ナトリウム等を混合させて金属の腐食を防止するものとする技術が開示されている。また特許文献2には、径0.6〜13.2mmの粒状骨材に酢酸塩と防錆剤とを含浸した凍結防止剤によって金属の腐食を防止する技術が開示されている。また特許文献3には、軽焼ドロマイトの微粉末と酢酸とのニーダー混合反応で得られる酢酸カルシウムマグネシウム塩を造粒してなる融雪剤の製造技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】 特開2004−175919「凍結防止剤」
【特許文献2】 特開平10−140130「道路凍結防止剤」
【特許文献3】 特開平08−269438「融雪剤の製造方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、青森県はホタテ貝とりんごの生産量が多く、これらの加工製造も盛んであるが、その一方で大量のホタテ貝殻とりんご絞り粕が排出されており、これらは産業廃棄物としてコストをかけて処理されている現状である。これら廃棄物として処理されている未利用資源を有効に活用し、凍結防止剤を開発するプロジェクトが進んでおり、具体的には、ホタテに含まれるカルシウム分とりんご絞り粕から得られる酢酸を利用して酢酸カルシウムを製造し、これを低環境負荷型の非塩素系凍結防止剤とするものである。
【0006】
りんご絞り粕から酢酸を得る工程は具体的には、まず酵素Candida Shehataeを加えて7日間攪拌しながらエタノール発酵させ、その後精製したエタノールに酢酸菌を加えて7日間攪拌しながら酢酸発酵させるというものである(発酵法)。したがって酢酸製造には相当の時間がかかる上、酵素利用は高価であり、コスト面でも不利である。非塩素系融雪剤を構成するにあたり、酢酸源としてより安価かつ製造期間も短縮可能なものが要求されている。また、より安価な酢酸源を得ることによって、最終製品たる低環境負荷型非塩素系融雪剤のコストも軽減することができる。さらに酢酸製造方法として、より高収率であることは望ましい。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を除き、従来の方法よりも安価かつ短期間、さらに高収率でカルボン酸類を容易に得ることができるカルボン酸類の製造方法と、それを用いたカルシウムカルボン酸塩、および該カルシウムカルボン酸塩による低環境負荷型非塩素系融雪剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について、水分を除く主成分が酢酸である木酢液からカルボン酸類を安価に抽出分離する可能性を鋭意検討した結果、これがカルボン酸源として充分に利用できるものであり、それによって上記課題の解決が可能であることを見出して本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
(1) 木酢液から抽出分離することを特徴とする、カルボン酸類の製造方法。
(2) 前記抽出分離は分配法によるものであることを特徴とする、(1)に記載のカルボン酸類の製造方法。
(3) 前記木酢液は蒸留せずに前記分配法に供することを特徴とする、請求項2に記載のカルボン酸類の製造方法。
(4) 前記分配法は、木酢液に塩化ナトリウムを飽和状態になるまで加える塩析過程と、該塩析過程により得られたろ液を溶媒抽出に供する第1溶媒抽出過程と、該第1溶媒抽出過程により分離された水層を強酸性にしてさらに溶媒抽出に供する第2溶媒抽出過程と、該第2溶媒抽出過程により分離されたエーテル層からカルボン酸類を蒸留する蒸留過程とを備えてなることを特徴とする、(2)または(3)に記載のカルボン酸類の製造方法。
(5) (1)ないし(4)のいずれかに記載の製造方法により得られるカルボン酸類の、融雪作用を有するカルシウムカルボン酸塩製造への使用。
(6) (1)ないし(4)のいずれかに記載の製造方法により得られるカルボン酸類と、カルシウム源とから製造されることを特徴とする、カルシウムカルボン酸塩。
(7) 前記カルシウム源は貝殻であることを特徴とする、(6)に記載のカルシウムカルボン酸塩。
(8) 前記貝殻はホタテガイの貝殻であることを特徴とする、(7)に記載のカルシウムカルボン酸塩。
(9) (6)ないし(8)のいずれかに記載のカルシウムカルボン酸塩からなることを特徴とする、低環境負荷型非塩素系融雪剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカルボン酸類の製造方法、カルシウムカルボン酸塩および低環境負荷型非塩素系融雪剤は上述のように構成されるため、これによれば、従来よりも安価かつ短期間、さらに高収率でカルボン酸類を容易に得ることができ、したがって、従来よりも安価かつ容易に低環境負荷型の非塩素系融雪剤を得ることができる。
【0011】
上述の発酵法による酢酸カルシウムは、それ以前の化学合成法によるものよりも安価に製造可能とされているが、本発明製造方法によればさらに安価な製造が可能である。また本発明では、高価でありかつ貴重でもある酵素や、精密な製造装置などを一切用いずに、簡単な化学的分離技術を応用することにより、高収率でカルボン酸類を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明のカルボン酸類製造方法は、木酢液を原料とするものである。特にその抽出分離には、適宜の有機溶媒等を用いた分配法によることが、簡易かつ安価である。たとえば分配法としては、実施例に詳述するように、木酢液Mに塩化ナトリウムを飽和状態になるまで加える塩析過稈P1、塩析過程P−1により得られたろ液p1を溶媒抽出に供する第1溶媒抽出過程P−2、第1溶媒抽出過程P−2により分離された水層p2を強酸性にしてさらに溶媒抽出に供する第2溶媒抽出過程P−3、第2溶媒抽出過程P−3により分離されたエーテル層p3から、硫酸マグネシウム等による乾燥過程P−4を経て、カルボン酸類CAを蒸留する蒸留過程P−5を順次行う方法を採ることによって、容易に木酢液Mから酢酸を主としたカルボン酸類CAを抽出分離することができる。
図1は、本発明に係る上記分配法の基本的構成を示すフロー図である。
【0013】
もっとも分配法の実際はこれに限定されるものではなく、要するにpHの制御および溶媒の選択を中心とした簡単な化学的分離技術を用いたカルボン酸類製造技術、ないしは融雪剤製造原料としての木酢液由来カルボン酸類製造技術であれば、すべて本発明の範囲内である。
【0014】
本発明のカルボン酸類源である木酢液も、産業廃棄物である間伐材、剪定枝、あるいは解体廃木材等を乾留して得られるものであり、コストをかけて排気されてきた低利用資源の有効利用策の一つとしても大いに産業上の意義を有するものである。
【0015】
実施例にも後述するが、原料として用いる木酢液は、これを敢えて蒸留せずに前記分配法に供するものとすることができる。むしろその方がカルボン酸類の収率が高い上、製造工程中の過程を軽減できるため、より望ましい実施形態である。
【0016】
以上のようにして得られる、酢酸を主としたカルボン酸類と、適宜のカルシウム源とを用いて、融雪剤に利用可能なカルシウムカルボン酸塩を得ることができる。カルシウム源は特に限定されないが、産業廃棄物として大量に生産される低利用資源であるホタテガイの貝殻を始めとした貝殻を有効利用することができる。得られるカルシウムカルボン酸塩は、塩素を含まないものであるため、従来技術よりも環境負荷を軽減することができ、また金属の腐食、塩害発生を防止することができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例として木酢液からのカルボン酸類抽出分離および融雪剤製造実験について説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。
<1.木酢液の物性>
使用した木酢液(特定の製品、I社製)の物性を測定した。測定した項目はpH、比重、酸度、色調である。
pHについては、pHメーター(HORIBA F−51)を用いて測定した。比重については、木酢液を15℃に調整し標準比重計を用いて測定した。酸度については、木酢液の100倍希釈液に0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、中和点を求めることで算出した。指示薬にはフェノールフタレイン指示薬を用いた。水酸化ナトリウムの正確な濃度はシュウ酸標準溶液を用いた滴定によって求めた。色調については、裸眼で判定した。
【0018】
<2.木酢液の蒸留>
木酢液の蒸留は、オイルバスの温度を150℃に設定して、上部温度計が98℃以上を示しているときの流出液を集めた。それ以前の流出液は初留液として取り除いた。
【0019】
<3.カルボン酸類の分離>
木酢液の未蒸留のものと蒸留したものについて、後述する2種類の分配法(分配法1、分配法2)により、それぞれカルボン酸類を分離した。以後、未蒸留分配法1、未蒸留分配法2、蒸留分配法1、蒸留分配法2とする。なお、分配法2は本来蒸留したものに用いるのだが、本実施例では未蒸留のものにも用いた。
図2は、分配法1の構成を示すフロー図である。また、
図3は、分配法2の構成を示すフロー図である。
【0020】
<3−1.分配法1>
図2に示すように、分配法1では次のような操作を行った。まず、木酢液に塩化ナトリウムを飽和状態になるまで加えた(塩析)。ろ過により溶け残った塩化ナトリウムと油状に分離したものを取り除いた。ろ液を分液漏斗に移しジエチルエーテルを加えて振り混ぜ、しばらく放置した後2層を分離した。この操作をエーテル層に色がつかなくなるまで繰り返した。分離したエーテル層に5%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて振り混ぜ、しばらく放置した後2層を分離した。この操作を水層に色がつかなくなるまで繰り返した。分離した水層に30%硫酸を加えて強酸性(pH1)にした。その水層を分液漏斗に移しジエチルエーテルを加えて振り混ぜ、しばらく放置した後2層を分離した。この操作をエーテル層に色がつかなくなるまで繰り返した。
【0021】
分離したエーテル層に硫酸マグネシウムを少量加え1晩放置した(乾燥)。ろ過によりエーテル層から硫酸マグネシウムを取り除いた。ウォーターバスの温度を70℃に設定したロータリーエバポレーターを用いてろ液からジエチルエーテルを取り除いた。フラスコ内に残った液体をカルボン酸類とした。なお、ロータリーエバポレーターで取り除いたジエチルエーテルは抽出に再利用した。
【0022】
<3−2.分配法2>
図3に示すように、分配法2では次のような操作を行った。木酢液に炭酸水素ナトリウムを加えてpH7.8に調整した。なお、末蒸留木酢液は始めに炭酸水素ナトリウムを加えた際、黒色かつ高粘性の反応生成物が発生したため、このままでは以後の操作ができないと判断して、該反応生成物を除去してから操作を続けた。pHを調整した木酢液を分液漏斗に移しジエチルエーテルを加えて振り混ぜ、しばらく放置した後2層を分離した。この操作をエーテル層に色がつかなくなるまで繰り返した。分離した水層に濃塩酸を加えて強酸性にした。その水層に塩化ナトリウムを飽和状態になるまで加えた(塩析)。ろ過により溶け残った塩化ナトリウムと油状に分離したものを取り除いた。ろ液を分液漏斗に移しジエチルエーテルを加えて振り混ぜ、しばらく放置した後2層を分離した。この操作をエーテル層に色がつかなくなるまで繰り返した。分離したエーテル層に5%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて振り混ぜ、しばらく放置した後2層を分離した。この操作を水層に色がつかなくなるまで繰り返した。
【0023】
分離した水層に30%硫酸を加えて強酸性(pH1)にした。その水層を分液漏斗に移しジエチルエーテルを加えて振り混ぜ、しばらく放置した後2層を分離した。この操作をエーテル層に色がつかなくなるまで繰り返した。分離したエーテル層に硫酸マグネシウムを少量加え1晩放置した(乾燥)。ろ過によりエーテル層から硫酸マグネシウムを取り除いた。ウォーターバスの温度を70℃に設定したロータリーエバポレーターを用いてろ液からジエチルエーテルを取り除いた。フラスコ内に残った液体をカルボン酸類とした。なお、ロータリーエバポレーターで取り除いたジエチルエーテルは抽出に再利用した。
【0024】
<4.ガスクロマトグラフィー>
分配法によって分離されたカルボン酸類をガスクロマトグラフィーで分析した。装置は、G−3900形ガスクロマトグラフ HITACHI、水素炎イオン化検出器(FID)、D−2500形クロマトデータ処理装置 HITACHI、テレフタル酸処理ポリエチレン修飾キャピラリーカラムBP21(25m×0.22mm) SGE Japanを用いた。キャリアーガスには水素を用いて、メイクアップガスにはヘリウムを用いた。カラム流量は1ml/min.、カラム流量+メイクアップガス流量は30ml/min.に設定した。
【0025】
<4−1.成分分析>
各分配法によって分離した4種類のカルボン酸を試験管に1ml採り、ジエチルエーテル2mlを加えて試料とした。試料1μlを注入して分析した。注入口温度および検出器温度は300℃に設定した。カラム恒温層温度は分析開始から3分間は45℃、3分から47分までは毎分4℃ずつ221℃まで上昇させ、47分から80分までは221℃に設定した。
【0026】
<4−2.添加法>
成分分析によって得られたクロマトグラフと分析標品のクロマトグラフを比較して、保持時間のほぼ同様な分析標品を探し出した。カルボン酸類1mlとジエチルエーテル2mlを混合したものに見つけた分析標品を1ml添加し、成分分析と同じ条件でガスクロマトグラフィーを行った。このクロマトグラフィーで予想した分析標品とカルボン酸類の成分との保持時間が重なって大きなピークが検出されれば2つの成分を同一のものと判断した。
【0027】
<5.凍結防止剤の試作>
融雪剤として使用可能な性能を目標として、凍結防止剤を試作した。
未蒸留分配法1で得られたカルボン酸類の100倍希釈液に0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、中和点を求めることによりカルボン酸類の濃度を測定した。求めた濃度より焼成ホタテ貝殻と反応する割合を予想した。その際、カルボン酸類の酸性をすべて酢酸によるものと仮定し、焼成ホタテ貝殻の成分をすべて酸化カルシウムと仮定した。予想に基づき焼成ホタテ貝殻0.2gと未蒸留分配法1で得られたカルボン酸類1mlを試験管にとり、スパーテルでこねるようにかき混ぜて反応させた。反応させた後放置して十分乾燥させたものを試作凍結防止剤とした。
【0028】
<6.融氷試験>
あらかじめ用意していた一定形状の30gの氷の上に試作凍結防止剤0.5gを添加し、冷蔵庫(−5〜0℃)で9時間放置した。その後の融氷量を測定し融氷率を求めた。また、参考として未添加のもの、酢酸カルシウムを添加したもの、塩化カルシウムを添加したものについても同様に測定した。融氷率は、下記式1、2のようにして求めた。融氷率が負の値となった場合は0%とした。
【0029】
【式1】

【0030】
【式2】

【0031】
<7.結果>
<7−1.木酢液の物性>
使用した木酢液の物性と日本木酢液協会で定められている基準を表1にまとめた。比較してみると使用した木酢液はいずれも基準を満たしていた。
【0032】
【表1】

【0033】
<7−2.分配法の収率>
それぞれの分配法の収率を表2にまとめた。収率を比較すると未蒸留分配法1が最も高く、蒸留分配法2が最も低かった。また、蒸留と未蒸留を比較すると未蒸留の方が収率が高かった。同様に分配法1と分配法2を比較すると分配法1の方が収率が高かった。
【0034】
また、上述のりんご絞り粕から酢酸を得る発酵法では、収率は4.5%であり、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を含むカルボン酸全体としての収率とはいえ未蒸留分配法1ではこれを大きく上回る収率であった。
【0035】
【表2】

【0036】
<7−3.カルボン酸類の成分>
図4〜7はガスクロマトグラフィーの結果を示すクロマトグラムである。図4から順に、未蒸留分配法1、未蒸留分配法2、蒸留分配法1、蒸留分配法2のクロマトグラムである。
4種類の分析試料で多少の違いが見られたものの、類似したクロマトグラムが得られた。いくつかのピークが検出されたが、そのうち共通する3つの主成分を添加法により同定した。その結果、それらのピークは酢酸、プロピオン酸、酪酸と同定された。
【0037】
未蒸留分配法1と未蒸留分配法2を比較すると、未蒸留分配法2の方が後半部分のピークが小さく検出されたものの、ほぼ同じような結果が得られた。また、蒸留分配法1と蒸留分配法2を比較すると、成分のピークの大きさに多少違いが見られたものの、ほぼ同じ結果が得られた。このことから、分配法1と分配法2では構成成分の組成比に若干の違いが見られたものの、得られる成分は同一のものであると考えられた。
【0038】
また、蒸留と未蒸留を比較すると、蒸留したものは後半部分のピークが小さくなっており、30min以降ではピークは検出されなかった。かかる現象は分配法1と分配法2の両方に認められた。これにより、木酢液を本発明カルボン酸類製造方法に供する前に蒸留を行うことによって、木酢液中のカルボン酸成分が減少するものと考えられた。また、このことから、蒸留の条件を適切に設定することによって、特定のカルボン酸を選択的に分離できる可能性が示唆された。
【0039】
<7−4.凍結防止剤の試作>
蒸留分配法1の濃度を測定した結果、酢酸仮定で7.054mol/lであった。そして、カルボン酸類と酸化カルシウムの反応式より算出した結果、カルボン酸類1mlと反応する焼成ホタテ貝殻は100%酸化カルシウム仮定で0.1975gであった。以上に基づき焼成ホタテ貝殻0.2gとカルボン酸類1mlを反応させたところ、発熱しながら激しく反応し沸騰しているような状態になった。その後徐々に粘度が増していき淡黄色のかたまりがいくつかできた。生成物は酢酸、酪酸等の臭いが混じった特異臭を有した。
図8は、試作した凍結防止剤の外観を示す写真図である。
【0040】
<7−5.融氷試験>
所定形状に製氷した30gの氷の表面に試作凍結防止剤0.5gを添加すると、接している部分から侵食するように氷を融かしていき、9時間後の測定時には氷に穴が開いているような状態になっていた。融氷試験の結果を表3にまとめた。また、冷蔵庫で9時間放置した後の氷の様子を図9、10に示した。その結果、試作凍結防止剤には明らかな融氷効果が確認され、それは従来技術である酢酸カルシウムや塩化カルシウムと比較しても、さほど差異のないほど実用的な効果であった。
【0041】
【表3】

【0042】
<7−6.まとめ>
特に分配法1による収率は、カルボン酸類としての収率ではあるものの、りんご絞り粕から得られる酢酸の収率である4.5%を上回っていた。そして分離したカルボン酸類を用いた試作凍結防止剤には明らかに融氷効果が確認できた。また、蒸留により選択的にカルボン酸類を分離することができれば凍結防止剤の成分を調整することができ、性能をさらに向上させることができる可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のカルボン酸類の製造方法、カルシウムカルボン酸塩および低環境負荷型非塩素系融雪剤によれば、安価にかつ容易に、さらに高収率でカルボン酸類を得ることができ、従来よりも安価かつ容易に、腐食・塩害を防止できかつ低環境負荷型の非塩素系融雪剤を得ることができる。しかも木酢液は間伐材等の低利用資源を有効利用できるものであることも相俟って、産業上利用価値が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】 本発明に係る上記分配法の基本的構成を示すフロー図である。
【図2】 分配法1の構成を示すフロー図である。
【図3】 分配法2の構成を示すフロー図である。
【図4】 ガスクロマトグラフィーの結果を示すクロマトグラムであり、未蒸留分配法1の結果を示す。
【図5】 ガスクロマトグラフィーの結果を示すクロマトグラムであり、未蒸留分配法2の結果を示す。
【図6】 ガスクロマトグラフィーの結果を示すクロマトグラムであり、蒸留分配法1の結果を示す。
【図7】 ガスクロマトグラフィーの結果を示すクロマトグラムであり、蒸留分配法2の結果を示す。
【図8】 試作した凍結防止剤の外観を示す写真図である。
【図9】 試作凍結防止剤を氷に添加して融氷試験を行った結果を示す写真図である。
【図10】 試作凍結防止剤未添加の氷について融氷試験を行った結果を示す写真図である。
【符号の説明】
【0045】
M・・・木酢液
P−1・・・塩析過程
P−2・・・第1溶媒抽出過程
P−3・・・第2溶媒抽出過程
P−4・・・乾燥過程
P−5・・・蒸留過程
p1・・・塩析過程により得られたろ液
p2・・・第1溶媒抽出過程により分離された水層
p3・・・第2溶媒抽出過程により分離されたエーテル層
CA・・・カルボン酸類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木酢液から抽出分離することを特徴とする、カルボン酸類の製造方法。
【請求項2】
前記抽出分離は分配法によるものであることを特徴とする、請求項1に記載のカルボン酸類の製造方法。
【請求項3】
前記木酢液は蒸留せずに前記分配法に供することを特徴とする、請求項2に記載のカルボン酸類の製造方法。
【請求項4】
前記分配法は、木酢液に塩化ナトリウムを飽和状態になるまで加える塩析過程と、該塩析過程により得られたろ液を溶媒抽出に供する第1溶媒抽出過程と、該第1溶媒抽出過程により分離された水層を強酸性にしてさらに溶媒抽出に供する第2溶媒抽出過程と、該第2溶媒抽出過程により分離されたエーテル層からカルボン酸類を蒸留する蒸留過程とを備えてなることを特徴とする、請求項2または3に記載のカルボン酸類の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法により得られるカルボン酸類の、融雪作用を有するカルシウムカルボン酸塩製造への使用。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法により得られるカルボン酸類と、カルシウム源とから製造されることを特徴とする、カルシウムカルボン酸塩。
【請求項7】
前記カルシウム源は貝殻であることを特徴とする、請求項6に記載のカルシウムカルボン酸塩。
【請求項8】
前記貝殻はホタテガイの貝殻であることを特徴とする、請求項7に記載のカルシウムカルボン酸塩。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれかに記載のカルシウムカルボン酸塩からなることを特徴とする、低環境負荷型非塩素系融雪剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−44924(P2008−44924A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251681(P2006−251681)
【出願日】平成18年8月20日(2006.8.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月21日 国立大学法人 弘前大学主催の「2005年度物質理工学科機能素材工学講座卒業研究発表会」において文書をもって発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(503083351)東管工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】