説明

カロテノイド生産新規微生物およびこれを用いたカロテノイド類の生産方法

【課題】
カロテノイド、主にアスタキサンチンを工業規模で大量に生産することができる微生物の提供およびその微生物を用いて効率的にアスタキサンチン等のカロテノイド類を生産する方法を提供する。
【解決の手段】
培養温度28℃までにおいて、培養温度の上昇に伴い増殖性が向上するカロテノイド類生産性微生物および、当該微生物を培養し、培養され増殖した菌体または培養液からカロテノイド類を回収するカロテノイド類の生産方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規微生物およびそれを用いたカロテノイド、特にアスタキサンチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスタキサンチンは従来よりサケ・マス・マダイなどの養殖魚類の色揚げに用いられており、また近年ではその抗酸化作用から健康食品などへの利用が検討されている化合物である。南極オキアミ等の甲殻類から抽出、或いは酵母や微細藻類などの培養により天然から得られるが、供給の安定性やコストの問題から現在では化学合成品が広く用いられている。しかしながら化学合成品には製法由来の不純物、とくに合成反応に用いられる劇薬類の混入の不安があり、安全性の面から天然品の供給が望まれている。一方で天然品には先に述べた供給の安定性やコストの問題があり、特に酵母や微細藻類の培養によって得られたものには副産物として脂肪酸エステル体が混在する問題があり、また細胞壁が硬いため、抽出に複雑な工程を経る必要があるという問題があった。その改良としてアグロバクテリウム属細菌N−81106(受託番号:FERM P―14023)(例えば特許文献1参照)あるいは、アグロバクテリウム属細菌TSN18E7(受託番号:FERM P−19746)(例えば特許文献2参照)などの培養により得る方法が開示されている。当該発明に寄れば細菌を培養した後の菌体を回収した後、アセトンなどの有機溶媒と菌体を混和・攪拌するだけで容易にアスタキサンチンを抽出できるという利点がある。
【0003】
しかしながら、当該細菌を安定に培養するためには培養温度を低く抑える必要があり、工業規模における培養においては必ずしも満足しうるものではなく、さらに、工業発酵規模における発酵槽では培養温度の制御が困難であり、培養温度域が広い培養温度に対する増殖等の安定性が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開平7−184668
【特許文献2】特開2005−58216
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カロテノイド、主にアスタキサンチンを工業規模で大量に生産することができる微生物の提供およびその微生物を用いて効率的にアスタキサンチン等のカロテノイド類を生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは上記課題に関し鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、アスタキサンチン生産パラコッカス属細菌の育種により得られる、培養温度に対して安定性が向上したパラコッカス属細菌である。また、本発明は、そのような細菌を培養し、菌体または培養液からカロテノイドを回収する、カロテノイドの製造方法である。
【0007】
すなわち本発明は、培養温度28℃までにおいて、培養温度の上昇に伴い増殖性が向上するカロテノイド類生産性微生物であり、さらに当該微生物がパラコッカス属細菌、特にTSTT031株(特許生物寄託センターの受託番号:FERM P−20689)が変異した微生物、カロテノイド類生産パラコッカス属細菌TSTR020(特許生物寄託センターの受託番号FERM P−20684)であり、この菌株TSTR020と同一の種に属する菌株または同一の菌学的性質を有する微生物であっても本発明の目的を達しうる。
【0008】
また本発明は、上記微生物を培養し、培養され増殖した菌体または培養液からカロテノイド類を回収するカロテノイド類の生産方法であり、さらにカロテノイド類がアスタキサンチンであるカロテノイド類の生産方法である。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の新規微生物により、養殖魚類の色揚げ用飼料などとして有用なアスタキサンチンをはじめとするカロテノイド類を安定に効率よく製造することが可能となる。
(2)28℃においても培養できることから、22℃に比べて冷却水等の使用量を低減できる。
(3)自らの発酵熱による培養温度の上昇に対しても安定に培養可能であるため、温度ムラができにくく、培養温度域が広くなり、産業上有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において培養温度28℃までにおいて、培養温度の上昇に伴い増殖性が向上する微生物とは、カロテノイドを生産する微生物であって、通常その微生物において知られている培養温度より高い培養温度で培養しても、培養温度への安定性が向上しているために安定して増殖し、カロテノイドを生産する微生物である。すなわち、培養温度領域が広い微生物である。この培養温度領域が広いとは、培養温度28℃までのことを意味し、また、「培養温度」とは、それぞれの微生物において異なるものの、カロテノイドを生産する培養環境下において培養し、適宜、培養温度、増殖、カロテノイド生産を解析することにより評価可能である。
【0012】
カロテノイドを生産する微生物としてはChlorobium属細菌、Synechococcus属細菌、Myxococcus属細菌、Stigmatella属細菌、Sorangium属細菌、Chondromyces属細菌、Bradyrhizobium属細菌、Pseudomonas属細菌、Xanthomonas属細菌、Spirochaeta属細菌、Flavobacterium属細菌、Flexibacter属細菌、Cytophaga属細菌、Saprospira属細菌、Deinococcus属細菌、Streptomyces属細菌、Nocardia属細菌、Corynebacterium属細菌、Brevibacterium属細菌、Mycobacterium属細菌、Micrococcus属細菌、Bacillus属細菌、Staphyrococcus属細菌、Sarcina属細菌、Enterocccus属細菌、Halobacterium属細菌、Paracoccus属細菌等がある。また、各種、真核微生物も知られている。
【0013】
本発明の培養温度に対して安定性が向上した新規な微生物はカロテノイドを生産することを特徴とするアグロバクテリウム属細菌N−81106株(寄託番号:FERM P―14023号:後に、パラコッス(Paracoccus)属細菌と再同定された。)の育種により得られたすべての変異株である。本発明において変異株とは、様々な手段によってパラコッカス属細菌から誘導される変異株を意味する。
【0014】
本発明の培養温度28℃までにおいて、培養温度の上昇に伴い増殖性が向上する新規な微生物は、アスタキサンチンを生産するカロテノイド生産パラコッカス属細菌TSTT031(受託番号:FERM P−20689)の育種により得られた微生物である。さらに詳しくは、上記の新規な微生物としては、カロテノイド生産パラコッカス属細菌TSTR020株(受託番号FERM P−20684)である。また、本発明の新規な微生物としては該菌株TSTR020株と同一の種に属する菌株であってもよく、さらにまた該菌株TSTR020と同一の菌学的性質を有する菌株であってもよい。
【0015】
本発明の微生物はパラコッカス属細菌TSTT031株の育種により誘導された新規な微生物である。TSTT031株は田中らにより分離・取得された微生物であり、特許生物寄託センターに受託番号:FERM P−20689として寄託されている。
【0016】
TSTT031株は細胞中にアスタキサンチンを主なカロテノイドとして蓄積するが、その他にβ―カロテン、β―クリプトキサンチン、3−ヒドロキシエキネノン、カンタキサンチン、3’−ヒドロキシエキネノン、アドニキサンチン、アドニルビンなどの多様なカロテノイドを蓄積することが開示されている。
【0017】
本発明の微生物はカロテノイド生産細菌の育種により誘導されるが、育種の方法としては自然突然変異により派生した優良菌株を選別していく方法などの他に、変異原物質、紫外線やファージ暴露で細胞を処理することによって変異を加速させたのちに生産性が向上した菌株を選別していく方法や、以上の様な方法で得られた性質の異なる菌株同士を細胞融合させるなどの様々な方法を行うことができる。特に変異原物質を用いる方法は短期間に有用な菌株を得る方法として好ましく用いることが出来る。変異原物質としてはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、メタンスルホン酸エチル等の化合物が知られている。
【0018】
育種方法の一例を挙げると、予め培養して得られたカロテノイド生産微生物の適当な菌株から菌体を調製し、次いで所定量の変異原物質を添加する。所定時間後、遠心分離操作等により菌体を回収し、変異原物質を除去する。変異原物質の濃度は処理する細菌における、変異原物質に対する感受性を勘案して決定すればよい。通常0.1mg〜100mg、好ましくは1〜10mgである。次いで、適当な培地を利用して、培養し、遺伝学的に安定な菌株とする。これらの変異を導入された変異株群を、高温環境下で培養することにより、培養温度域が広がった優良菌株を分離、取得する。培養は、液体培養、固体培地による平板培養等微生物の特性に合わせて選択すればよい。高温環境下とは、通常、その微生物の培養に適した温度から3℃以上、好ましくは、10℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。
【0019】
優良菌株は適当な菌株を評価し決定することができる。固体培地を利用した場合には、任意のコロニーをピックアップし、液体培養を行い、増殖能、カロテノイド生産能を評価することにより評価が可能である。
【0020】
カロテノイドの定量は公知の技術により高速液体クロマトグラフィー等により正確に分析が可能である。カロテノイドの分析方法は、菌体または培養液から安定に効率良く回収されれば特に限定はなく、例えば抽出溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、クロロフォルム、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド等を例示することができる。
【0021】
本発明の方法で使用された微生物は、従来方法として知られている栄養培地中で培養することができる。なお、本発明に用いる培地としては、微生物が増殖しカロテノイドを生産しうるものであればいずれを使用してもよく、炭素源には廃糖蜜、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、デンプン、乳糖、グリセロール、酢酸などが、窒素源にはコーンスティープリカー、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粕等の天然成分や酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩等やグルタミン酸、アスバラギン酸、グリシン等のアミノ酸類が、無機塩にはリン酸1ナトリウム、リン酸2ナトリウム、リン酸1カリウム、リン酸2カリウム等のリン酸塩や塩化ナトリウムなどが、金属イオンには塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、塩化カルシウム2水和物、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化銅、硫酸マンガン、塩化マンガンなどが、ビタミン類として酵母エキスやビオチン、ニコチン酸、チアミン、リボフラビン、イノシトール、ビリドキシン等が使用できる。
【0022】
培養工程で使用される菌株は、公知方法に従って、画線培養プレートから醗酵容器に移すことができる。好適な方法は、寒天平板培地、斜面寒天培地およびフラスコ培養液を用いた方法である。
【0023】
本発明のアスタキサンチン等のカロテノイドを製造せしめる条件での新規微生物の培養の条件については、上記微生物を培養し、培養され増殖した菌体または培養液からカロテノイド類、特にアスタキサンチンを回収する方法であれば、いずれの方法を用いて実施してもよい。
【0024】
本方法の好適な実施態様としては、培養は培養液中で行うことが好ましい。この液内培養に関しては通常に液内培養で用いられる条件を使用してもよい。好適には、培養温度を10〜35℃に、培地のpHを6〜9の範囲に設定し、20〜200時間醗酵させるのが好ましい。培養温度については培養初期、中期、後期に区別してそれぞれの段階で温度を変えてもよい。本発明の栄養培地を使用した好適な条件は、培養温度が20〜27℃、pHが約7.0、培養時間が50〜150時間である。
【0025】
培地のpHは6.5〜8.0に調整されるが、好ましくは約7.0である。pHの調整には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム若しくはアンモニウムの水溶液を使用するが、これらの物に限定しない。これらは等業者には既知のものである。
【0026】
培養後に、培養液中のカロテノイド含有量を測定する。このためには、先ず、遠心分離操作によって培養菌体を培養基質から分離し、細胞からカロテノイドを抽出する。その抽出液中に含まれるカロテノイド量は、高速液体クロマトグラフィー等においてカロテノイド標準物質と比較することにより定量することができる。
【0027】
培養終了後のアスタキサンチン等のカロテノイドは、発酵槽中の培養液を濃縮し、極性有機溶媒を用いて、または、超臨界流体抽出によって、細胞から抽出する。極性有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、クロロフォルム、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド等を使用すればよい。好適にはアセトンを例示することができるが、これらに限定されない。さらには、液体クロマトグラフィー等を利用して高純度に分離、精製することが可能である。液体クロマトグラフィーの分画原理としはイオン交換、疎水性相互作用、分子篩等を挙げることができる。好ましくは逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィーである。
【0028】
あるいは、培養終了後、菌体を培地から、例えば、遠心分離操作、デカンテーションまたはろ過等の方法を用いて分離してもよい。得られた菌体は、使用し易い粘度にまで水を加えてスラリーとする。アスタキサンチン等のカロテノイド類の分解を防ぐためには、このスラリー中に適当は添加剤を加えてもよい。添加剤としてはアスコルビン酸等の酸化防止剤を例示することができるが、これらに限定されない。その後、調製スラリーを例えばガラスビーズ、ジルコニアビーズを用いた破砕器または高圧ホモジナイザーを使用して均一化し、後に使用するため乾燥しておく。好ましい乾燥法はスプレー乾燥法である。
【0029】
この菌体を、例えば、このまま養殖魚等の飼料中へ添加してもよい。または、前述したように極性有機溶媒等により抽出して使用してもよい。アスタキサンチン等のカロテノイドを抽出した後に残った、ほとんど色素を含まない細胞体のほとんどが、家禽を飼育するうえで理想的な蛋白質およびビタミンの供給源として使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0031】
(実施例1) パラコッカス属細菌TSTT031株の培養温度に対する特性
100mL容バッフル付三角フラスコに表1に示す培地60mlを添加し、121℃、20分間のオートクレーブ処理により滅菌し、次いで、表2に示すストック液を添加した。これに、パラコッカス属細菌TSTT031株を植菌し25℃、100rpmで3日間振盪培養を行なった。この培養液100μLを、表1および表2に記載されている成分からなる溶液に寒天を添加して作製した平板培地上に塗布した。次いで、この平板培地を25℃、28℃、31℃、34℃、37℃の温度で3日間培養した。
【0032】
目視により出現したコロニー数を評価した。結果を表3に示す。表3の通り、パラコッカス属細菌TSTT031株は、平板培地上において培養温度28℃までは良好に増殖しコロニーを形成するが、31℃から増殖能の低下が認められ、37℃ではコロニーは全く形成されなかった。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

(実施例2) 変異株の作製
パラコッカス属細菌TSTT031株を実施例1と同様に液体培地で培養し、この培養液のうち、0.5mLを1.5mL容エッペンドルフチューブに回収し、15000rpm、10分間の遠心分離を行なって微生物菌体を回収した。この菌体をpH7.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液(緩衝液A)0.5mLに懸濁し、次いで1.5mg/mLのN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(以下NTGと略記する)水溶液10μLを加え、室温で10分間放置することにより変異導入を行った。
【0036】
15000回転、10分間の遠心分離で菌体を回収し、緩衝液Aに再懸濁する操作を2回繰返してNTGを除去した。さらに、0.5mLの緩衝液Aに菌体を懸濁し、実施例1と同様に作製した液体培地2.0mlに20μLの懸濁液を添加した。25℃で5時間培養後、実施例1と同様に作製した平板培地に塗布した。次いで、この平板プレートを34℃で1週間静置培養した。
【0037】
変異導入により生じたコロニーのうち数十個の赤色の強いものを試験管で25℃で培養した。試験管には実施例1で作製した液体培地を2mL添加したものを用いた。2日間培養後、増殖したものを変異導入株とした。
【0038】
(実施例3) 変異株の評価
実施例2で作製した個々の変異株のカロテノイド合成量と増殖能を液体培地にて評価した。対照としてパラコッカス属細菌TSTT031株を用いた。液体培地は実施例1と同様に作製した100mL容のバッフル付フラスコを用いた。25℃で5日間培養後、一定量サンプリングしカロテノイド合成量と増殖能(OD660nm)を評価した。
【0039】
カロテノイド合成量はまず培養液1mlを1.5ml容エッペンドルフチューブに入れ、15,000回転、5分間遠心分離して菌体ペレットを得た。この菌体に20μlの純水に懸濁し、次いで200μlのジメチルフォルムアミドおよび500μlのアセトンを加え振とうしてカロテノイドを抽出した。この抽出液を15,000回転、5分間遠心分離により残渣を除去後、TSKgel−ODS80TMカラム(東ソー社製)を用いた高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと略記する)で各種カロテノイドを定量した。なおカロテノイドの分離はA液として純水とメタノールの5対95の混合溶媒、B液としてメタノールとテトラヒドロフランの7対3の混合溶媒を用い、1ml/minの流速でA液を5分間カラムに通液させた後、同じ流速でA液100%からB液100%へ直線濃度勾配で5分間通液を行ない、さらにB液を5分間通液させることにより行なった。カロテノイド類の成分帰属は市販の試薬とのHPLCリテンションタイムの比較により行なった。
【0040】
代表的な変異株のカロテノイド合成量と濁度を測定した結果を図1に示す。図1の通り、変異導入にもかかわらず、代表的な変異株は対照であるTSTT031と同程度に増殖し、カロテノイド合成も確認することができた。対照であるTSTT031株に対して有意にカロテノイド合成量の増加が確認された株をTSTR020株とした(図1中、14番の株)。
【0041】
(実施例4) TSTR020株の培養温度に対する特性
実施例1と同様に作製した液体培地にTSTR020株を接種した。次いで、22、25、28、31℃で5日間培養した。実施例3と同様に、カロテノイド合成量とOD660nmの吸光度を測定した。結果を図2及び図3に示す。対照としてTSTT031株も同様に培養評価した。
【0042】
図2及び図3の通り、TSTT031株は培養温度を上昇させることにより、増殖能が低下し、極端に660nmの吸光度が減少した。さらに、カロテノイド合成量も低下した。これに対して、TSTR020株は培養温度を上昇させてもTSTT031株程、極端に660nmの吸光度の減少およびカロテノイド合成量の低下も確認されなかった。特に、培養温度28℃にいてTSTR020株は安定に培養された。
【0043】
(実施例5) ジャーファーメンタによるTSTR020株の培養温度に対する特性
実施例1と同様に作製した液体培地にTSTR020株を接種した。24時間培養後の培養液を前々培養液とした。次いで、表4に示した組成の培地100mLを500mL容の三角フラスコにいれ、表5のストック液をいれ前々培養液3mLを植菌し、25℃、100rpmで1日間振盪培養を行なった。この培養液を前培養液とした。表6に示した培地を2L容醗酵槽にいれ121℃、20分間滅菌後、あらかじめ滅菌しておいた表7のストック液と40mLの前培養液を植菌した。培養条件は温度22℃、25℃、28℃の3条件を設定した。攪拌数は490回転、pH7.0〜7.2、通気は空気にて1VVMで制御し、120時間培養した。pHの調整には培養8時間後までは2M−水酸化ナトリウム水溶液を使用し、その後5%アンモニアをpH指標にして流加した。グルコースはYSI社製グルコースセンサー(2700SELECT)を用いて測定し、50%グルコース水溶液を適宜追加した。
【0044】
結果を図4に示す。図4の通り、TSTR020株は22℃の培養温度に対して25℃、28℃の方が高増殖性を示した。
【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
【表7】

(比較例1) ジャーファーメンタによるTSTT031株の培養温度に対する特性
実施例5と同様にTSTT031株をジャーファーメンタにより培養した。培養温度は22℃と25℃とした。
【0049】
結果を図5に示す。図5の通り、TSTT031株は培養温度を22℃から25℃に変えて培養すると、TSTR020株とは異なり明らかに増殖能が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】任意の変異株のカロテノイド合成量とOD660nmの吸光度を示す図であり、図中、X軸(横軸)は任意の変異株(control(コントロール)および1〜25番)を示し、Y軸(縦軸)の内、白抜きの軸はOD660nmにおける吸光度(単位は任意)を、黒塗りの軸はカロテノイド生産量(単位はmg/L)を、それぞれ表し、controlはTSTT031株を示す。
【図2】TSTR020株とTSTT031株の培養温度に対するOD660nmの吸光度特性を示す図であり、図中、X軸(横軸)は培養温度(単位は℃)を示し、Y軸(縦軸)はOD660nmにおける吸光度(単位は任意)を示し、白丸(○)はTSTT031株を、黒丸(●)はTSTR020株を、それぞれ表す。
【図3】TSTR020株とTSTT031株の培養温度に対するカロテノイド合成の特性を示す図であり、図中、X軸(横軸)は培養温度(単位は℃)を示し、Y軸(縦軸)はカロテノイド濃度(単位はmg/L)を示し、白丸(○)はTSTT031株を、黒丸(●)はTSTR020株を、それぞれ表す。
【図4】TSTR020株の培養温度に対する培養特性を示す図であり、図中、X軸(横軸)は培養時間(単位は時間)を示し、Y軸(縦軸)はOD660nmにおける吸光度(単位は任意)を示し、黒三角(▲)は培養温度22℃における値を、黒丸(●)は培養温度25℃における値を、白丸(○)は培養温度28℃における値を、それぞれ表す。
【図5】TSTT031株の培養温度に対する培養特性を示す図であり、図中、X軸(横軸)は培養時間(単位は時間)を示し、Y軸(縦軸)はOD660nmにおける吸光度(単位は任意)を示し、白丸(○)は培養温度22℃における値を、黒丸(●)は培養温度25℃における値を、それぞれ表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養温度28℃までにおいて、培養温度の上昇に伴い増殖性が向上することを特徴とするカロテノイド類生産性微生物。
【請求項2】
請求項1記載のカロテノイド類生産性微生物が、パラコッカス属細菌であることを特徴とするカロテノイド生産微生物。
【請求項3】
微生物が、TSTT031株(受託番号:FERM P−20689)が変異した微生物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカロテノイド類生産性微生物。
【請求項4】
微生物が、カロテノイド類生産パラコッカス属細菌TSTR020(受託番号FERM P−20684)であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の微生物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の微生物を培養し、培養され増殖した菌体または培養液からカロテノイド類を回収することを特徴とするカロテノイド類の生産方法。
【請求項6】
カロテノイド類が、アスタキサンチンである請求項5に記載のカロテノイド類の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−306884(P2007−306884A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141401(P2006−141401)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】