説明

カロテノイド色素含有乳化組成物及びその製造方法

【課題】酸性度且つ塩分濃度が高い食品に添加しても、カロテノイド色素含有乳化組成物自体の乳化安定性が高く、安定な着色剤として用いることができるカロテノイド色素含有乳化組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】カロテノイド色素をポリソルベート含有油相部及び水相部を用いて乳化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカロテノイド色素含有油相部をポリソルベートにより乳化するカロテノイド色素含有乳化組成物に関する。より詳細には、酸性度且つ塩分濃度が高い食品に添加しても、カロテノイド色素含有乳化組成物自体の乳化安定性が高く、安定な着色剤として用いることができるカロテノイド色素含有乳化組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の食に対する天然志向が高まりつつあり、激辛ブームに伴ったキムチや、従来、合成着色料が使用されていた浅漬け・福神漬けなどの古漬け分野でも天然着色料への切り替えが行われている。そのような時代の流れに沿って、これらキムチや漬物類のように酸性であり尚且つ食塩濃度の高い食品分野でも安定して用いることができる天然着色料が求められている。
【0003】
天然着色料であるカロテノイド色素はニンジン、カボチャ、パプリカ、卵黄、バター等、動植物界を通じて広く分布する黄〜赤色の色素であり、緑黄色野菜に代表される食品に多く含まれる成分であることから、現在、健康イメージを持つ天然の食用色素として注目を浴びつつある。加えて、カロテノイド色素は色調及び染色性が良いことから食品分野において重宝されている色素であり、その中でもトウガラシ色素は赤味の強い色調を呈することからキムチや福神漬けを始めとする様々な食品の着色に幅広く使用されている。
【0004】
トウガラシ色素は一般にトウガラシやパプリカ果実をヘキサン等の溶剤により抽出し、得られる。このトウガラシ色素の主成分であるカプサンチンは高い抗酸化作用を有することから、パプリカの摂取による生活習慣病の予防が期待されている。このように、カロテノイド色素の一つであるトウガラシ色素は抗酸化作用も兼ね備えた天然の食用色素であり、幅広い食品への応用が望まれる色素の一つである。
【0005】
しかし、その一方でトウガラシ色素等のカロテノイド色素は形態が粉末、液体のいかんに関わらず、一般に油溶性又はアルカリ可溶性かつ水不溶性であって、酸性液中に加えると直ちに不溶性のリング、もしくは沈殿を生じるという欠点を有する色素でもあることから、使用に改良の余地がある着色料である。
【0006】
安定なカロテノイド色素の調製方法としては、例えば、非水溶性カロチノイド色素に特定量のアルコール及び脂肪酸を添加し、加熱することを特徴とする耐酸均質化法により、耐酸性及び耐塩性が付与されること(特許文献1)、特定量のカロチノイド着色剤、特定量の保存剤、ポリソルベート、飽和ココヤシ脂肪酸のモノグリセリドの混合物及びココヤシ油トリグリセリドの飽和留分の混合物からなる乳化剤成分からなるカロチノイド着色組成物が、熱水または冷水に容易に分散して光学的に透明な溶液を生成する液体形態のカロチノイド着色組成物(特許文献2)であること、カロチノイド系色素を含有する食品にγ−オリザノールを添加することにより食品の退色を防止する方法(特許文献3)が開示されている。また、難溶性成分をアルコール溶液に溶解することにより、難溶性成分は均一に微粒子化しコロイド粒子となり、そのコロイド粒子と可溶化剤が結合することにより長期間安定で透明な可溶化液を調製できることが開示されている(特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特公昭61−28702号公報
【特許文献2】特開昭49−126727号公報
【特許文献3】特開平04−166061号公報
【特許文献4】特開2005−328839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カロテノイド色素を含有する油相部をポリソルベートにより乳化するカロテノイド色素含有乳化組成物に関し、特にこれまでの技術では十分に達成されていなかった、酸性度且つ塩分濃度が高い食品に添加しても、カロテノイド色素含有乳化組成物自体の乳化安定性が高く、安定な着色剤として用いることができるカロテノイド色素含有乳化組成物及びその製造方法に関する。先述のように、カロテノイド色素は生理作用を兼ね備えた天然の食用色素であり、尚且つ栄養価の高い緑黄色野菜等の食品に多く含まれる成分である。加えて、その色調及び染色性の良さから食品分野において重宝されている色素である。しかし、その一方で、カロテノイド色素は水不溶性であることから、水分散性の製剤(乳化色素製剤)としなければならないという不都合な点を持つ色素でもあった。しかし、天然原料を由来にするカロテノイド色素は、一般に当該原料に由来する遊離脂肪酸、リン脂質またはガム質等の不純物を多く含むため乳化が難しいという問題点があった。また、特許文献1に記載があるように、「例えば、カロチノイド類色素を油脂に溶かし、水の中に乳化剤を存在させ、ホモゲナイザーその他の手段を使用して均質化操作を行う」という乳化方法を用いた場合でも、色素濃度を高くすることが困難であること、酸性水溶液中に投入すると経時的にリングが生じてしまうこと、水液の比重調整が必要となり耐塩性が乏しいという問題点が生じていたとある。そこで、特許文献1では特定量のアルコール及び脂肪酸を添加し、加熱することを特徴とする耐酸均質化法により耐酸性及び耐塩性を付与する方法が開示されている。しかし、この方法では特定のアルコール及び脂肪酸を用いて加熱するという製造工程を経なければならず、アルコールは揮発性物質の一種であり、引火する可能性があるため作業上危険が伴うものであること、更にはアルコールを添加することができない食品には応用できないという問題点があったことから、これらを改善する必要があった。また、特許文献2では、特定量のカロチノイド着色剤、特定量の保存剤、ポリソルベート、飽和ココヤシ脂肪酸のモノグリセリドの混合物及びココヤシ油トリグリセリドの飽和留分の混合物からなる乳化剤成分からなるカロチノイド着色組成物が、熱水または冷水に容易に分散し、更には耐酸性を有するカロチノイド着色組成物となることが開示されている。しかし、この製造方法は「乳化剤成分及び保存剤の混合成分を100℃乃至120℃間の温度に加熱」、「この加熱した溶液に攪拌しながらカロチノイド着色剤を徐々に加える」、「次いでこの組成物を周囲温度に冷却する」ことが記載されていることから、三段階の製造工程を経なければならず、また100℃以上の溶液を周囲温度まで冷却することは産業利用上、冷却設備の必要性や時間を要することが推察でき、これらの製造工程を改善する余地があった。加えて特許文献2では、ポリソルベートを好ましくは約80〜90重量%必要とし、食品の風味への影響やポリソルベートの過剰摂取が懸念され、これらの問題点を解決する必要があった。一方、特許文献4では難溶性成分を溶解したアルコールを原料水に混合することにより、アルコール溶液が瞬時に分散し、難溶性成分はコロイド粒子となること、このコロイド溶液に可溶化剤を加えて軽く攪拌すると長期間安定で透明な可溶化液を得ることができることが開示されているが、特許文献1と同様にアルコールは引火する可能性があるため作業上危険が伴うものであり、また、アルコールを添加することができない食品には応用できないという問題点があった。加えて、特許文献4にはカロテノイド色素に応用できることは全く記載がないことから、カロテノイド色素における安定な色素組成物の調製には改良の余地があった。また、乳化による耐酸性及び耐塩性効果付与に関しても、再検討する余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みて開発されたもので、酸性度且つ塩分濃度が高い食品に添加しても、カロテノイド色素含有乳化組成物自体の乳化安定性が高く、安定な着色剤として用いることができるカロテノイド色素含有乳化組成物及びその製造方法の提供を目的とする。
【0010】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、カロテノイド色素、殊にトウガラシ色素を含有する油相部を、ポリソルベートを用いて乳化することにより安定な乳化組成物を調製することができ、酸性度且つ塩分濃度が高い食品に添加しても、カロテノイド色素含有乳化組成物自体の乳化安定性が高く、安定な着色剤として用いることができるカロテノイド色素含有乳化組成物及びその製造方法を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明は以下の態様を有するカロテノイド色素含有乳化組成物及びその製造方法に関する;
項1.下記工程:
(1)カロテノイド色素にポリソルベート及び、油脂及び/又は親油性グリセリン脂肪酸エステルを混合・加熱溶解して油相部を調製する工程
(2)必要に応じて乳化剤を混合した水相部に上記(1)の工程で得られた油相部を混合し、攪拌する工程
を経て調製されるカロテノイド色素含有乳化組成物。
項2.油脂が中鎖脂肪酸グリセリンエステル、親油性グリセリン脂肪酸エステルが平均重合度3〜10のポリグリセリンに、飽和脂肪酸からなり炭素数が2〜10の脂肪酸を5〜8分子エステル結合させたポリグリセリン脂肪酸エステルである項1記載のカロテノイド色素含有乳化組成物。
項3.乳化剤が平均重合度2〜10のポリグリセリンに、炭素数が12〜18の脂肪酸を1〜3分子エステル結合させたポリグリセリン脂肪酸エステル、及び/又はショ糖脂肪酸エステルである項1乃至2記載のカロテノイド色素含有乳化組成物。
項4.耐酸性及び耐塩性を有することを特徴とする項1乃至3記載のカロテノイド色素含有乳化組成物。
項5.項1に記載の工程(1)、(2)を経ることを特徴とする項1乃至4記載のカロテノイド色素含有乳化組成物の製造方法。
項6.項1の工程(1)、(2)において項2乃至3記載成分を含有することを特徴とするカロテノイド色素含有乳化組成物に耐酸性及び耐塩性を付与する方法。
項7.カロテノイド色素がトウガラシ色素である項1乃至6記載のカロテノイド色素含有乳化組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、酸性度且つ塩分濃度が高い食品に添加しても、カロテノイド色素含有乳化組成物自体の乳化安定性が高く、安定な着色剤として用いることができるカロテノイド色素含有乳化組成物及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の耐酸性及び耐塩性を有するカロテノイド色素含有乳化組成物は、カロテノイド色素、殊にトウガラシ色素を含有する油相部をポリソルベートを用いて乳化することにより調製することができる。
【0014】
本発明でいうカロテノイド色素としては、特に制限されるものではなく、例えば、カロテノイドを含有する植物や動物またはカロテノイドを産出する微生物等を原料として取得されるものを挙げることができる。例えば、カロテノイドを多量に含む植物またはその部位としては、オレンジ類、温州みかん、いよかん、またはその他の高カロテノイド含有柑橘類の果実または果皮、ニンジンやサツマイモなどの根菜類の根茎部、トマトやパプリカ、トウガラシなどの果実部、マリーゴールドなどの花弁、またはパーム椰子の実を;また、カロテノイドを多量に含む動物またはその部位としてはエビ、オキアミまたはカニなどの甲殻類の甲殻部位を;さらにカロテノイド産生能力を有する微生物としてはデュナリエラやヘマトコッカスなどの藻類、またはファフィアやロードトリーラなどの酵母を例示することができる。これらの天然原料に由来するカロテノイド色素としては、具体的にはトウガラシ色素、オレンジ色素、ニンジンカロテン、トマト色素、パプリカ色素、マリーゴールド色素、パーム油カロテン、オキアミ色素、デュナリエラカロテン、ヘマトコッカス藻色素、及びファフィア色素などを例示することができる。中でも好ましくはトウガラシ色素である。なお、本発明のカロテノイド色素組成物は、かかる色素を1種単独で含有していても、また2種以上を任意に組み合わせて含有するものであってもよい。
【0015】
本発明で使用するトウガラシ色素は、第8版食品添加物公定書に記載されている規格内のものであれば、特に制限されず使用できる。一般的な調製方法で得られたトウガラシ色素としては、ナス科トウガラシ(Capsicum annuum LINNE)の果実より、熱時油脂で抽出して得られたもの、室温時〜微温時ヘキサン又はエチルアルコールで抽出して得られたもの、又はこれらより、温時加圧下に二酸化炭素で辛味成分を除去したものを例示できる。得られたトウガラシ色素はカプサンチン類を主成分とするものである。
【0016】
本発明のカロテノイド色素は、使用目的に応じて好ましい濃度を設定できるが、例えば、カロテノイド色素含有乳化組成物中0.1〜20質量%、好ましくは1〜15質量%、特に好ましくは5〜10質量%を例示できる。
【0017】
本発明で使用するポリソルベートは、ソルビタン脂肪酸エステル1モルにエチレンオキシド約20モルを付加させた親水性の非イオン界面活性剤である。効果の点により、ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、ポリソルベート65(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)を用いることが望ましい。好ましくは、ポリソルベート80である。
【0018】
本発明のポリソルベートは組成物に使用する原料によって異なるが、使用目的に応じて好ましい濃度を設定できる。例えば、カロテノイド色素含有乳化組成物中10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%、特に好ましくは30〜50質量%を例示することができる。これ以上の量を添加すると、飲食物へ使用した際に、ポリソルベート特有の味が飲食物の風味を損なう恐れがあり、また、これ以下の量では粒子の微細化が充分でないことがある。
【0019】
本発明で使用される油相部は、カロテノイド色素及びポリソルベートに油脂及び/または親油性グリセリン脂肪酸エステルを混合して、これを加熱溶解することによって調製できる。
本発明で用いられる油脂としては、食品分野で使用できる油脂を例示できる。例えば、大豆油、ナタネ油、コーン油、またはやし油等の植物性油脂;牛脂、豚脂、鯨脂または魚油等の動物性油脂(海産物に由来する油脂を含む)、中鎖脂肪酸グリセリンエステルなどが挙げられる。親油性グリセリン脂肪酸エステルは平均重合度3〜10のポリグリセリンに、飽和脂肪酸からなり炭素数が2〜10の脂肪酸を5〜8分子エステル結合させたポリグリセリン脂肪酸エステルを例示できる。好ましくは、中鎖脂肪酸グリセリンエステル及び/又は上述のポリグリセリン脂肪酸エステルである。なお、トコフェロール類を初めとする油溶性ビタミン類や、香辛料抽出物など油溶性の酸化防止剤を配合することもできる。
【0020】
本発明で使用する中鎖脂肪酸グリセリンエステルは、炭素数6から12の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする中鎖脂肪酸グリセリンエステルであり、好ましくはカプリル酸、カプリン酸などの飽和脂肪酸のトリグリセリドが挙げられる。これらの飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする中鎖脂肪酸グリセリンエステルは、異なる飽和脂肪酸が結合していても良いし、同じ飽和脂肪酸が結合してもよい。また、本発明で使用する中鎖脂肪酸グリセリンエステルは1種類でも、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明で油相部成分として使用するポリグリセリン脂肪酸エステルは、平均重合度3〜10のポリグリセリン及び飽和脂肪酸からなり炭素数が2〜10の脂肪酸5〜8分子とをエステル化していることを特徴とする。好適には、炭素数が8のカプリル酸を用いたポリグリセリンオクタカプリル酸エステルである。本発明で用いるポリグリセリンオクタカプリル酸エステルは、カプリル酸とポリグリセリンをエステル化し、脱酸及び濾過することにより得られる。
【0022】
本発明の油脂及び/または親油性グリセリン脂肪酸エステルの添加量は、使用目的に応じて好ましい濃度を設定できるが、例えば、カロテノイド色素含有乳化組成物中0.1〜15質量%、好ましくは1〜10質量%、特に好ましくは1〜5質量%を例示できる。
【0023】
本発明の油脂及び/または親油性グリセリン脂肪酸エステルは、カロテノイド色素:油脂及び/または親油性グリセリン脂肪酸エステルを質量比で1:0.1〜1:2、より好ましくは1:0.2〜1:0.5の範囲内で添加することが好ましい。これよりも少ないと十分な効果を得ることができず、これより多く添加しても、更なる効果が望めないためである。
【0024】
本発明のカロテノイド色素含有乳化組成物は、カロテノイド色素を含有する油脂及び/または親油性グリセリン脂肪酸エステル等の油溶成分の総量:ポリソルベートを質量比で1:0.5〜1:20、好ましくは1:1〜1:10、特に好ましくは1:3〜1:5の範囲内で添加することが好ましい。
【0025】
本発明では水相部成分の乳化剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルを併用できる。これら乳化剤を併用することにより、カロテノイド色素含有乳化組成物に耐酸性及び耐塩性を更に付与できる。
【0026】
本発明で水相部成分に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBは9以上、好ましくは、11〜16であり、脂肪酸の炭素数は12以上、好ましくは16〜18のモノ又はジ、或いはトリエステルである。また、グリセリンの平均重合度は2〜10が好ましく、より好ましくは5〜10である。本発明で用いる好適なポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、デカグリセリンモノ脂肪酸エステル、その中でもデカグリセリンモノオレイン酸エステルを例示することができる。本発明においては、上記好ましい範囲内のポリグリセリン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることも可能であり、主な原料として、ナタネやパームが挙げられる。
【0027】
本発明で水相部成分に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量は、カロテノイド色素含有乳化組成物中1〜10質量%、好ましくは、2〜5質量%である。これよりも少ないと十分な効果を得ることができず、これより多く添加しても、更なる効果が望めないためである。
【0028】
本発明で使用するショ糖脂肪酸エステルは、HLB16以上、より好ましくはHLB19以上で、かつ構成脂肪酸が炭素数8〜22の飽和又は不飽和脂肪酸の1種又は2種以上であり、例えば、ショ糖脂肪酸モノステアリン酸エステル、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル等が挙げられる。その中でも、本発明で用いるショ糖脂肪酸エステルの好ましい構成脂肪酸としてステアリン酸とパルミチン酸が挙げられ、その好ましい割合は7:3である。主な原料として、サトウキビやパーム、ヤシが挙げられる。
【0029】
本発明のショ糖脂肪酸エステルの添加量は、カロテノイド色素含有乳化組成物中0.1〜5質量%、好ましくは、1〜3質量%である。これよりも少ないと十分な効果を得ることができず、これより多く添加しても、更なる効果が望めないためである。
【0030】
本発明では水相部成分として、水を挙げることができるが、水以外に多価アルコールを含有していても良い。かかる多価アルコールは水と混合して含水多価アルコール溶液として使用されるため、水と相溶性があるように水溶性であることが好ましい。多価アルコールとして、具体的にはプロピレングリコール等の二価アルコール類;グリセリン等の三価アルコール類;マルチトール、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、ソルビトール及びマンニトールなどの糖類を挙げることができるが、好適にはグリセリンである。これらは任意の割合で水を混合して使用される。
【0031】
本発明の水相部の配合割合は、特に制限されないが、通常、最終カロテノイド色素含有乳化組成物100質量%(液状乳化物換算)を締める水相部の割合が、10〜90質量%、好ましくは30〜60質量%の範囲となるような割合を例示できる。
【0032】
本発明の油相部と水相部の混合工程は、特に制限されず、慣用の攪拌機を用いて攪拌することによって行うことができる。また混合する際の温度条件も特に制限されない。通常、室温から60℃、好ましくは20℃〜60℃の範囲内で適宜選択することが出来る。なお、配合する油相部の配合割合は、特に制限されないが、通常、最終色素含有乳化組成物100質量%(液状乳化物換算)を占める油相部の割合が、0.1〜25質量%、好ましくは5〜15質量%の範囲となるような割合を例示できる。
【0033】
本発明の油相部と水相部の混合物は次いで攪拌工程に供され、本攪拌工程を経ることにより均一な乳化組成物を調製できる。ここで、一般的な油相部と水相部の乳化方法としては、まず、第一段階として油相と水相及び乳化剤を混合・攪拌を行う(予備乳化)。この第一段階の攪拌では通常、乳化粒子が粗大で不均一なため、乳化が不十分である。そこで次に、第二段階として、高圧ホモジナイザー等の機器を用いて均一な乳化粒子を調製するという工程を経る。一方、本発明の乳化組成物の調製は、通常の乳化方法と比較して一段階工程を省略することができ、乳化工程をより簡便にできる。具体的には、第一段階の攪拌のみで容易に均一な乳化粒子を作製でき、第二段階の高圧ホモジナイザー等の機器での調製を必須としない。攪拌の方法としては、特に制限されず慣用の方法で行うことができる。例えば、油相部、乳化剤及び水相部を混合した後、手攪拌、プロペラを用いた攪拌等を例示できる。なお、攪拌のみの乳化工程を経た本発明のカロテノイド色素組成物は、水などの溶媒に簡便かつ透明に溶解できる。
【0034】
なお、本発明のカロテノイド色素含有乳化組成物には、その効果を奏する限りにおいて組成物に対して、更なる乳化性、耐熱性、耐酸性、保存安定性、食品中での乳化安定性等を向上させる目的で、所望により、他の添加物を含有させてもよい。そのような添加物としては、カロテノイド色素の色調を変化させる物質でなければ、公知の食品添加物の何れでも用いることができ、油溶性のものでも水溶性のものでもよい。例えば、高分子多糖類(例;可溶性澱粉、デキストリン、シクロデキストリン、アラビアガム、ペクチン、キサンタンガム等)、保存剤(例;パラオキシ安息香酸エステル類、安息香酸等)、比重調整剤〔SAIB(シュークロースアセテートイソブチレート)〕、タンパク質分解物(例;カゼイン、ゼラチン等)、ビタミン、香料、不飽和脂肪酸(例;α−リノレン酸、γ−リノレン酸、リノール酸等)等が挙げられる。これらの添加物の使用量は使用目的に応じて適宜決定される。
【0035】
本発明のカロテノイド色素含有乳化組成物は、例えば食品添加物として各種の食品に使用することができ、食品は液状、半固形状又は固形状の何れでもよい。本発明のカロテノイド色素含有乳化組成物は、過度な酸性尚且つ塩濃度の高い食品に使用できることを特徴としているが、それらに制限されず、幅広い食品に使用できる。その具体例としては、以下のものが挙げられる。
飲料:炭酸飲料、果実飲料、乳清飲料、酸性乳飲料、野菜飲料、豆乳等
冷菓:アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット等
製果:ゼリー、キャンディー、ガム、クッキー、ケーキ、チョコレート、パイ、ビスケット、プリン等
乳製品:乳飲料、ヨーグルト、チーズ等
油脂類:バター、マーガリン等
穀物加工類:パン類、麺類、パスタ類等
水畜産加工食品:ハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ等
調味料:みそ、タレ、ソース、卓上レモン、酢、マヨネーズ、サラダドレッシング等
調理品:卵焼き、オムレツ、カレー、シチュー、ハンバーグ、コロッケ、スープ、お好み焼き、餃子、果物ジャム等
漬物類:キムチ、浅漬け、ヌカ漬け、福神漬け、奈良漬、千枚漬け、しょうゆ漬け、塩漬け、味噌漬け、しょうが漬け、梅酢漬け、酢漬け、もろみ漬け、梅漬け、しば漬け等
その他:動物飼料、医薬品、医薬部外品等
【0036】
本発明により、酸性度且つ塩分濃度が高い食品に添加しても、カロテノイド色素含有乳化組成物自体の乳化安定性が高く、安定な着色剤として使用可能なカロテノイド色素組成物を得ることができる。また、本色素組成物の製造方法は特別な条件や製造機器・工程を必要としないため、工業的にも有利である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明は
これらに何ら限定されるものではない。なお、処方中、特に記載がない限り単位は「質量部」とする。
【0038】
実施例1〜4、比較例1〜3:トウガラシ色素含有乳化組成物の調製
表1に掲げる処方のうち、まず油相部を調製した。油相部はトウガラシ色素、トコフェロール、油脂、親油性グリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート80を混合し、80℃に加熱した。加熱後、油相部を水相部(乳化剤を含む)に混合・攪拌し、実施例1〜4のトウガラシ色素組成物を調製した。なお、比較例1〜3は加熱後、油相部を水相部(乳化剤を含む)に混合・攪拌し、高圧ホモジナイザーを用いて均質化し(560kg/cmにて乳化)、トウガラシ色素含有乳化組成物を調製した。
【0039】
実施例1〜4及び比較例1〜3で調製したトウガラシ色素含有乳化組成物を用いて、耐酸・耐塩性試験を行った。まず、耐酸性試験はクエン酸(無水)を用いて、耐塩性試験は食塩(NaCl)を用いて各々の濃度の水溶液を調製、さらにトウガラシ色素組成物を1%添加し、試験液とした。次に、試験液を95℃まで加熱し、加熱前後での濁度を測定した。加熱前後での濁度増加程度を下記計算式の通り求め、数値化した。濁度増加は粒子粗大化に起因し、乳化した組成物が粒子劣化したことを示唆する。なお、本発明の濁度測定は、分光光度計により、イオン交換水を対照とした720nmに於ける吸光度を測定した。実施例の結果を表2に、比較例の結果を表3示す。
濁度の増加=(加熱後の濁度―加熱前の濁度)×1000
【0040】
表4に実施例1〜4及び比較例1〜3に係る試験液のpHを示す。
【0041】
下記記号により濁度増加の程度を表した。
○:濁度の増加が20以下のもの (濁度増加殆ど無し)
△:濁度の増加が20〜80以下のもの (少し濁度増加した)
×:濁度の増加が100以上のもの (かなり濁度増加した)
××:濁度の増加が2000以上のもの (著しく濁度増加した)
【0042】
【表1】

注1:カプリル酸、カプリン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
表2及び3の結果より、ポリソルベートを併用しない場合(比較例1〜3)と比較し、ポリソルベートを併用した実施例1〜4は塩濃度及び酸性度が高い状態でも乳化粒子が安定し、耐酸性及び耐塩性が大きく向上することが分かった。また、油脂として中鎖脂肪酸グリセリンエステルを用いた実施例1と比較して、ポリグリセリンオクタカプリル酸エステルを用いた実施例2では、塩濃度の高い状態でも耐塩性の更なる向上が認められた。また、実施例2の処方に加えて、更に乳化剤を配合することで(デカグリセリンモノオレイン酸エステルを加えた実施例3、デカグリセリンモノオレイン酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを加えた実施例4)、実施例2よりも耐酸性がより向上し、過度な酸、塩存在下でも粒子を安定に保つことができた。一方、ポリソルベートを併用しない比較例1〜3は、塩濃度が高く尚且つ酸性度の高い状態に耐えることができる乳化剤の組み合わせはなく、トウガラシ色素含有乳化組成物の粒子が劣化してしまうことが分かった。以上より、ポリソルベートを用いることにより、乳化工程を一段階省略することができ、より簡便な製造方法で、酸性度尚且つ塩濃度の高い状態にも安定なトウガラシ色素含有乳化組成物を調製できることが分かった。また、表2〜4の結果より、本発明はpH0.7という大変酸性度の高い状態及び塩濃度が20%という大変過酷な条件下でも、乳化粒子が壊れることなく安定なトウガラシ色素含有乳化組成物を提供できることが分かった。
【0047】
実施例5:キムチ漬けのもと
表5に掲げる処方に従い、水及び成分1〜9を混合した。混合後、95℃で5分間殺菌した。
【0048】
【表5】

【0049】
調製したキムチ漬けのもと(実施例5)は塩分濃度が高いにも関わらず、加熱殺菌後も調味液中の粒子は乳化が壊れることなく安定であり、かつトウガラシ色素の発色も良好であった。
【0050】
実施例6:福神漬けのもと
表6に掲げる処方に従い、水及び成分1〜8を混合した。混合後、95℃で5分間殺菌した。
【0051】
【表6】

【0052】
調製した福神漬けのもと(実施例6)は塩分濃度が高いにも関わらず、加熱殺菌後も調味液中の粒子は乳化が壊れることなく安定であり、かつトウガラシ色素の発色も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によって得られるカロテノイド色素含有乳化組成物は、酸性度且つ塩分濃度が高い食品に添加しても、カロテノイド色素含有乳化組成物自体の乳化安定性が高く、安定な着色剤として用いることができる。また、その製造方法は簡便、安全且つ低コストであり、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程:
(1)カロテノイド色素にポリソルベート及び、油脂及び/又は親油性グリセリン脂肪酸エステルを混合・加熱溶解して油相部を調製する工程
(2)必要に応じて乳化剤を混合した水相部に上記(1)の工程で得られた油相部を混合し、攪拌する工程
を経て調製されるカロテノイド色素含有乳化組成物。
【請求項2】
油脂が中鎖脂肪酸グリセリンエステル、親油性グリセリン脂肪酸エステルが平均重合度3〜10のポリグリセリンに、飽和脂肪酸からなり炭素数が2〜10の脂肪酸を5〜8分子エステル結合させたポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1記載のカロテノイド色素含有乳化組成物。
【請求項3】
乳化剤が平均重合度2〜10のポリグリセリンに、炭素数が12〜18の脂肪酸を1〜3分子エステル結合させたポリグリセリン脂肪酸エステル、及び/又はショ糖脂肪酸エステルである請求項1乃至2記載のカロテノイド色素含有乳化組成物。
【請求項4】
耐酸性及び耐塩性を有することを特徴とする請求項1乃至3記載のカロテノイド色素含有乳化組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の工程(1)、(2)を経ることを特徴とする請求項1乃至4記載のカロテノイド色素含有乳化組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1の工程(1)、(2)において請求項2乃至3記載成分を含有することを特徴とするカロテノイド色素含有乳化組成物に耐酸性及び耐塩性を付与する方法。
【請求項7】
カロテノイド色素がトウガラシ色素である請求項1乃至6記載のカロテノイド色素含有乳化組成物。