説明

カーディオトミーフィルタ及び貯血槽

【課題】カーディオトミーフィルタの初期通液性、動的充填量、残血量を改善する。
【解決手段】カーディオトミーフィルタ1は、スクリーンフィルタ12とスクリーンフィルタを挟んで配置された一対のサポート材13a,13bとからなるフィルタ部材11を備える。フィルタ部材11は、第1方向91に沿ってプリーツ加工され、第1方向と交差する第2方向92に沿って折り曲げられ、第2方向92と交差するフィルタ部材の一対の端縁11b,11cがそれぞれシールされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心肺手術等を行う際に使用される体外血液循環回路において、心内血を濾過するために使用されるカーディオトミーフィルタに関する。また、本発明は、このカーディオトミーフィルタを内蔵し、体外循環中の血液を一時的に貯留する貯血槽に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓手術等を行う場合、患者の心臓や肺の機能を代替するための血液ポンプや人工肺を備えた体外血液循環回路が用いられる。体外血液循環回路には、患者の静脈から脱血された静脈血を一時的に貯留して循環回路血液量を調整するための貯血槽(「静脈血貯血槽」と呼ばれることがある)や、術野に溢れた血液(心内血)を吸引して回収して一時的に貯留するための貯血槽(「心内血貯血槽」と呼ばれることがある)が設けられる。心内血は、静脈血に比べて、肉片、脂肪、凝血塊などの異物や気泡を多く含むので、心内血貯血槽には、異物を除去するための濾過層と気泡を消泡するための消泡層とからなるカーディオトミーフィルタが設けられる。
【0003】
従来のカーディオトミーフィルタの一例を図13(A)及び図13(B)に示す。図13(A)は側面断面図、図13(B)は図13(A)の13B−13B線での矢視断面図である(例えば特許文献1〜3を参照)。
【0004】
このカーディオトミーフィルタ100は、全体として略円筒形状を有する濾過層110と、濾過層110の内側に配置され、略円筒形状を有する消泡層120とを備える。濾過層110の上下の端縁には、略円板形状を有する樹脂板131,132が接着されている。消泡層120は、上側の樹脂板131に接着されて保持されている。上側の樹脂板131の中央には血液が流入するための貫通孔133が形成されている。
【0005】
濾過層110は、図13(C)に示すように、スクリーンフィルタ112と、このスクリーンフィルタ112を挟む一対のサポート材113a,113bとが積層されたフィルタ部材111からなる。長方形のフィルタ部材111を短辺方向に沿ってプリーツ加工し、一対の短辺同士をシールして環状に接合することで、濾過層110が形成される。スクリーンフィルタ112としては樹脂製のメッシュフィルタが用いられる。サポート材113a,113bとしては、スクリーンフィルタ112に比べて高い機械的強度を有し、相対的に大きな開口が形成された樹脂製のメッシュ部材が用いられる。
【0006】
消泡層120としては、シリコーンなどの消泡剤がコーティングされた、連続気泡を有するポリウレタンなどからなる発泡体が用いられる。
【0007】
気泡及び異物が混入した血液は、上側の樹脂板131の貫通孔133を通りカーディオトミーフィルタ100内に流入する。気泡は浮力により血液の液面付近に集まり、消泡層120に接触して破裂する。異物は濾過層110で捕捉される。かくして、気泡及び異物が除去された血液が濾過層110を通過してカーディオトミーフィルタ100外に流出する。
【特許文献1】特開2001−204815号公報
【特許文献2】特開昭63−102764号公報
【特許文献3】特開昭62−258673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来のカーディオトミーフィルタでは、下側の樹脂板132はフィルタ部材111の全体形状を保持するために設けられている。しかしながら、この樹脂板132はフィルタ機能を有しないために以下の問題を有していた。
【0009】
第1に、初期通液性に劣る。初期通液性は、上側の樹脂板131の貫通孔133を通じてカーディオトミーフィルタに最初に充填液を流入させたときに、充填液が濾過層110外に流出し始めるまでに必要な充填液量によって判断される。初期通液性が劣ると、充填液がカーディオトミーフィルタを通過するのに多くの充填液と時間が必要となる。従って、体外血液循環回路を充填するのに必要な血液量、即ち回路充填量が増大する。回路充填量、即ち体外血液循環回路の血液量が増大するということは、患者体内から体外へ血液が移行することになるので、患者の負担となる。また、カーディオトミーフィルタを介して貯血槽内の血液に薬液を混入する場合に、初期通液性が劣ると、薬液がカーディオトミーフィルタ外に流出して貯血槽内に貯留した血液に混入するまでに多くの時間がかかるため、迅速な処置が必要な場合に不利となる。
【0010】
第2に、動的充填量が多くなる。動的充填量とは、循環前に存在する静的充填量と循環に必要な余分な液量との合計量であって、フィルタ内に滞る液量等も含まれる。動的充填量が多いと、回路充填量が増大するだけでなく、貯血槽内の貯血量の増減の応答性が鈍くなり、血液レベルの制御、調整をする上で施術者の負担が大きくなる。
【0011】
第3に、残血量が多い。残血とは、体外血液循環を停止後にカーディオトミーフィルタに残存する血液をいう。残血量が多いと、患者への返血量が少なくなるので、患者負担が増大する。
【0012】
本発明は、初期通液性、動的充填量、残血量が改善されたカーディオトミーフィルタ及びこれを備えた貯血槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のカーディオトミーフィルタは、スクリーンフィルタと前記スクリーンフィルタを挟んで配置された一対のサポート材とからなるフィルタ部材を備える。前記フィルタ部材は、第1方向に沿ってプリーツ加工され、前記第1方向と交差する第2方向に沿って折り曲げられ、前記第2方向と交差する前記フィルタ部材の一対の端縁がそれぞれシールされている。
【0014】
本発明の貯血槽は、上記の本発明のカーディオトミーフィルタを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、初期通液性、動的充填量、残血量が改善されたカーディオトミーフィルタ及びこれを備えた貯血槽を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記の本発明のカーディオトミーフィルタが、更に、前記フィルタ部材の前記折り曲げられた側とは反対側の端縁に接着された樹脂板を備えることが好ましい。これにより、カーディオトミーフィルタの形状保持特性が向上する。
【0017】
また、上記の本発明のカーディオトミーフィルタが、更に、前記フィルタ部材の内側に消泡層を備えることが好ましい。これにより、血液中の気泡の消泡特性を向上させることができる。
【0018】
以下、本発明のカーディオトミーフィルタ及び貯血槽を図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1(A)は、本発明の一実施形態に係るカーディオトミーフィルタ1の斜視図、図1(B)はその側面図、図1(C)はその上面図である。本実施形態のカーディオトミーフィルタ1は、図1(B)に示した第1方向91に沿ってプリーツ加工されたフィルタ部材11を備える。フィルタ部材11は、第1方向91と交差する第2方向92に沿って折り曲げられた折り曲げ部11aを有している。更に、フィルタ部材11は、第2方向92と交差するその一対の端縁11b,11cにてそれぞれシールされている。フィルタ部材11はスクリーンフィルタとこれを挟む一対のサポート材とからなる三層積層構造を有している。
【0020】
スクリーンフィルタが相対的に高い機械的強度を有する一対のサポート部材で挟まれて保持されているので、スクリーンフィルタを所望する形状に維持することができる。
【0021】
また、フィルタ部材11に多数のプリーツが形成されているので、フィルタ部材11の表面積が増大し、濾過効率が向上し、フィルタ寿命を長くすることができる。
【0022】
このカーディオトミーフィルタ1の製造方法を以下に説明する。
【0023】
最初に、図2に示すように、スクリーンフィルタ12の両側にサポート材13a,13bをそれぞれ重ね合わせて三層積層構造を有する長方形状のフィルタ部材11を作成する。
【0024】
次に、図3に示すように、長方形状のフィルタ部材11の一辺と平行な第1方向91に沿って多数のプリーツを形成する。即ち、一定ピッチで、第1方向91と平行な方向に沿って山折りと谷折りとを繰り返して行う。
【0025】
次に、フィルタ部材11の第1方向91における中間位置を通り、第1方向91と直交する第2方向92に平行な二点鎖線で示す折り曲げ線15に沿って、フィルタ部材11を矢印16a,16bの方向に折り曲げる。この際、例えば樹脂や金属等の硬質材料からなる治具の直線状の一端縁を折り曲げ線15に沿ってフィルタ部材11に押し付けて、治具と接触したプリーツの全ての山(尾根)を第2方向92のいずれか一方の側に変位させながら折り曲げると、容易且つ見映え良く折り曲げることができる。
【0026】
次に、フィルタ部材11の第2方向における両端縁をそれぞれシールして接合する。即ち、第2方向92において一方の側に位置する端縁11bのうち、折り曲げ線15に対して一方の側に位置する端縁部11b1と他方の側に位置する短縁部11b2とを重ね合わせてシールする。第2方向92において他方の側に位置する端縁11cも同様にシールする。シールの方法は特に制限はなく、フィルタ部材11の材料などを考慮して適宜選択すればよいが、例えばヒートシール法を用いることができる。この際、シールされる2つの部材(例えば端縁部11b1と短縁部11b2)の間に、塩化ビニルなどのシール性を向上させる材料を挟んでも良い。
【0027】
かくして、図1(A)〜図1(C)に示した、全体として袋形状(又は、コーヒー抽出の際に使用する紙製のコーヒーフィルタに類似した形状)を有するカーディオトミーフィルタ1を得ることができる。
【0028】
本発明においてスクリーンフィルタ12は、血液が通過する際に血液中の異物を捕捉して除去する機能を有している。更に、気泡を捕捉する機能を有していても良い。このような機能を有するスクリーンフィルタ12としては、特に制限はなく、従来のカーディオトミーフィルタに使用されていた公知のスクリーンフィルタを任意に選択して使用することができる。例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどの樹脂材料からなるメッシュフィルタを用いることができる。また、その孔径は、特に制限はないが、20〜50μmが好ましい。
【0029】
サポート材13a,13bは、スクリーンフィルタ12の形状を維持するために用いられる。従って、スクリーンフィルタ12よりも高い機械的強度を有している必要がある。サポート材13a,13bとしては、特に制限はなく、従来のカーディオトミーフィルタに使用されていた公知のサポート材を任意に選択して使用することができる。例えばポリプロピレンなどのヒートシール性が良好な材料からなるメッシュ部材を用いることができる。サポート材13a,13bの孔径は、スクリーンフィルタ12の孔径よりも大きいことが好ましい。
【0030】
スクリーンフィルタ12及び/又はサポート材13a,13bに消泡剤(例えばシリコーン)をコーティングして気泡の消泡機能を付与しても良い。
【0031】
図4(A)は、本発明の別の実施形態に係るカーディオトミーフィルタ2の側面図、図4(B)は図4(A)の4B−4B線に沿った矢視断面図、図4(C)は図4(A)の4C−4C線に沿った矢視断面図である。図4(A)〜図4(C)に示したカーディオトミーフィルタ2は、図1(A)〜図1(C)に示したカーディオトミーフィルタ1に比べて、樹脂板20及び消泡層27を更に備える点で相違する。図4(A)〜図4(C)において図1(A)〜図1(C)に示した部材と同一の機能を有する部材には同一の符号を付してそれらについての詳細な説明を省略する。
【0032】
樹脂板20は、フィルタ部材11の折り曲げ部11aとは反対側(上側)の端縁に、全周にわたって接着されている。樹脂板20の材料は特に制限はないが、例えばポリウレタンなどの接着剤を用いることができる。樹脂板20の平面形状は、図4(A)及び図4(B)に示した例では長円形(即ち、陸上競技場のトラック(走路)状)であるが、これに限定されず、楕円形、円形、長方形など任意の形状を選択できる。樹脂板20を設けることより、フィルタ部材11の形状保持特性が向上する。樹脂板20には、血液が流入するための貫通孔23が形成されている。
【0033】
消泡層27は、図4(C)に示すように、フィルタ部材11の内側に、フィルタ部材11の内面に沿うように環状に設けられている。フィルタ部材11がプリーツ加工されていることにより、フィルタ部材11と消泡層27との間には隙間28が形成されている。図4(B)に示すように、上下方向においては消泡層27はフィルタ部材11の上側の領域にのみ設けられており、消泡層27の上側端縁が樹脂板20に接着されることで消泡層27は樹脂板20に保持されている。消泡層27としては、接触した気泡を破泡させる機能を有していれば特に制限はなく、従来のカーディオトミーフィルタに使用されていた公知の消泡層を任意に選択して使用することができる。例えば、基層としてのポリウレタンの表面に消泡剤としてのシリコーンがコーティングされた材料を用いることができる。また、形態としては、連続気泡を有する発泡体、織物、編み物、不織布などを用いることができる。消泡層27は、単層であっても良いが、2層以上の積層構造を有していても良い。なお、フィルタ部材11が消泡機能を有する場合等では、消泡層27を省略することができる。
【0034】
次に、図4(A)〜図4(C)に示した本発明のカーディオトミーフィルタ2を備えた貯血槽の一例を説明する。
【0035】
図5は貯血槽の一例の斜視図、図6はその側面断面図である。この貯血槽5は、ハウジング本体31とハウジング本体31の上部に載置された蓋体36とからなるハウジング30を備える。
【0036】
ハウジング本体31は、その底面の中心から外れた一部が下方に突出して形成された貯血部32と、貯血部32の下端に設けられた、血液が流出する血液流出ポート33とを備える。ハウジング本体31の下面には、手術室に立設された支柱の上端を挿入することで貯血槽5を保持するための固定用穴34が形成されている。
【0037】
蓋体36には、静脈血が流入する血液流入ポート60と、心内血が流入する複数の心内血流入ポート50とが取り付けられている。更に、蓋体36には、薬液等を血液に混入するための複数の薬液注入ポート71,72、緊急に大量の薬液を血液に混入させたり、カーディオトミーフィルタ2のフィルタ部材11がそのフィルタの目詰まりにより使用できなくなった場合に代替のカーディオトミーフィルタを通過させた血液を流入させたりするためのサービスポート73、貯血槽5内の圧力を調整するための排気ポート74、貯血槽5内の圧力が異常な陽圧又は陰圧になるのを防止するための圧力調整弁75等が設けられている。血液流入ポート60には、静脈血の温度を測定するための温度プルーブ61が突き刺されている。
【0038】
血液流入ポート60には体外血液循環回路の脱血ラインのチューブが接続され、心内血流入ポート50には心内血吸引ラインのチューブが接続される。血液流出ポート33には体外血液循環回路の送血ラインのチューブが接続される。薬液注入ポート71,72には所定の薬液パックに接続された薬液注入ラインのチューブが接続される。薬液注入ポート71から流入した薬液はカーディオトミーフィルタ2内を通過せずに貯血部32内に流入し、薬液注入ポート72から流入した薬液はカーディオトミーフィルタ2内を通過した後、貯血部32内に流入する。サービスポート73には各種ラインのチューブが接続される。温度プルーブ61には温度計測機器と接続された電気配線が接続される。
【0039】
ハウジング30内には、静脈血濾過網47を保持するサポート部材40が収納されている。図7は静脈血濾過網47を保持していない状態のサポート部材40を示した斜視図である。サポート部材40は、略升形状を有するカップ状部41と、カップ状部41の一側面に形成された格子状フレームからなる枠状部45とを備えている。カップ状部41の底面には溝43が形成されている。枠状部45は、ハウジング本体31の貯血部32内に挿入されるように、カップ状部41よりも下方に延びている。枠状部45の側面に形成された開口を塞ぐように、静脈血濾過網47が枠状部45に固定保持されている。静脈血濾過網47は、枠状部45の上下方向のほぼ全範囲にわたって延設されており、その下端が血液流出ポート33近傍にまで達している。
【0040】
静脈血濾過網47は、血液中の異物や気泡を除去するフィルターとしての機能を有していれば、その構成及び材料に特に制限はなく、公知のものを適宜選択して使用することができる。例えば、静脈血濾過網47として多数の微細な開口を有するスクリーンフィルタを用いることができる。
【0041】
血液流入ポート60と静脈血導入管80の上端とが蓋体36を介して接続されている。静脈血導入管80は、カップ状部41の溝43に嵌め込まれ、カップ状部41から枠状部45へとサポート部材40の内側を案内され、その下端の開口は、貯血槽5の最低血液面レベルBよりも下側に位置している。
【0042】
心内血流入ポート50の下側には、カーディオトミーフィルタ2がサポート部材40内に配置されている。心内血流入ポート50の流出端53がカーディオトミーフィルタ2の樹脂板20に形成された貫通孔23に挿入されている。フィルタ部材11の下端の折り曲げ部11aはカップ状部41の底面に接触しており、これにより、カーディオトミーフィルタ2から流出した血液の泡立ちを低減している。
【0043】
貯血槽5内の血液の流れを簡単に説明する。患者の静脈から脱血された静脈血は、血液流入ポート60及び静脈血導入管80を順に通過して、静脈血導入管80の下端の開口から流出し、静脈血濾過網47を通過し、血液流出ポート33から流出する。また、患者の術野から吸引された心内血は、心内血流入ポート50及びカーディオトミーフィルタ2を順に通過して、サポート部材40内に流出し、静脈血濾過網47を通過し、血液流出ポート33から流出する。この過程で、血液は貯血部32内に一時的に貯留される。
【0044】
上記に示した実施形態は一例であって、本発明はこれに限定されない。
【0045】
図4(A)〜図4(C)に示したカーディオトミーフィルタ2では、消泡層27は樹脂板20に接着されて保持されていたが、消泡層27の保持方法はこれに限定されない。例えば、フィルタ部材11に対して消泡層27が下降しないように消泡層27の下端に設けられた治具で消泡層27を保持しても良い。
【0046】
本発明のカーディオトミーフィルタ1,2は、図5〜図7に示した貯血槽5に限定されず、公知の如何なる貯血槽にも搭載することができる。例えば、図5〜図7に示した貯血槽5は静脈血と心内血とが流入する心内血貯血槽一体型静脈血貯血槽であったが、静脈血が流入しない心内血貯血槽に搭載することももちろん可能である。
【実施例】
【0047】
(実施例)
図8(A)〜図8(B)に示す本発明に対応した実施例に係るカーディオトミーフィルタを作成した。このカーディオトミーフィルタは、樹脂板20に形成された貫通孔23に筒状の導入管25が設けられている点で図4(A)〜図4(C)に示したカーディオトミーフィルタ2と異なる。図8(A)〜図8(B)において図4(A)〜図4(C)に示した部材と同一の機能を有する部材には同一の符号を付してそれらについての詳細な説明を省略する。
【0048】
実施例のカーディオトミーフィルタは以下のようにして製造した。
【0049】
図2に示すように、スクリーンフィルタ12の両側にサポート材13a,13bをそれぞれ重ね合わせて三層積層構造の長方形のフィルタ部材11を作成した。スクリーンフィルタ12として、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、孔径が40μmのメッシュフィルタを用いた。サポート材13a,13bとして、ポリプロピレンからなり、孔径が1mmのメッシュを用いた。このフィルタ部材11に、図3に示すように、10mmピッチで第1方向91に沿って山折りと谷折りとを繰り返して多数のプリーツを形成し、次に、フィルタ部材11を第2方向92に平行な折り曲げ線15に沿って折り曲げて、フィルタ部材11の両端縁11b,11cをそれぞれヒートシールした。長円形の型内に流し込んだポリウレタン接着剤に、消泡層27の一端縁とフィルタ部材11の折り曲げ部11aとは反対側の端縁とを浸漬し、その状態でポリウレタン接着剤を硬化させて樹脂板20を形成した。消泡層27としては、表面にシリコーンがコーティングされた、連続気泡が形成されたポリウレタン発泡体を用いた。フィルタ部材11の樹脂板20に接着された端縁の平面視形状は全体として長円形とした。樹脂板20の長軸方向と折り曲げ部11aの延設方向とは一致させた。その後、樹脂板20の貫通孔23に筒状の導入管25を挿入し固定した。
【0050】
図8(A)〜図8(B)に示すように、樹脂板20の下面からのフィルタ部材11の折り曲げ部11aまでの距離(フィルタ部材高さ)をA、樹脂板20の下面から消泡層27の下端までの距離(消泡層高さ)をC、樹脂板20の下面から導入管25の下端までの距離(導入管長)をD、樹脂板20の下面上でのフィルタ部材11の短軸方向外寸法をE、長軸方向外寸法をFとする。また、フィルタ部材11の内側表面積をS1、消泡層27の内側表面積をS2とする。各部の寸法を表1にまとめて示す。
【0051】
(比較例)
図9(A)〜図9(B)に示す比較例に係るカーディオトミーフィルタを作成した。このカーディオトミーフィルタは、上側の樹脂板131に形成された貫通孔133に筒状の導入管135が設けられている点で図13(A)〜図13(C)に示したカーディオトミーフィルタ100と異なる。図9(A)〜図9(B)において図13(A)〜図13(C)に示した部材と同一の機能を有する部材には同一の符号を付してそれらについての詳細な説明を省略する。
【0052】
比較例のカーディオトミーフィルタは以下のようにして製造した。
【0053】
図13(C)に示すように、実施例と同様にスクリーンフィルタ112の両側にサポート材113a,113bをそれぞれ重ね合わせて三層積層構造の長方形のフィルタ部材111を作成した。スクリーンフィルタ112及びサポート材113a,113bとしては実施例と同じものを用いた。得られたフィルタ部材111に、10mmピッチで短辺方向に沿って山折りと谷折りとを繰り返して多数のプリーツを形成し、次に、フィルタ部材111をその一対の短辺同士をシールして環状に接合した。円形の型内に流し込んだポリウレタン接着剤に、消泡層120の一端縁とフィルタ部材111の一端縁とを浸漬し、その状態でポリウレタン接着剤を硬化させて上側の樹脂板131を形成した。消泡層120としては、全体形状が円筒形状である点を除いて実施例と同じ材料を用いた。次に、円形の型内に流し込んだポリウレタン接着剤に、フィルタ部材111の他端縁を浸漬し、その状態でポリウレタン接着剤を硬化させて下側の樹脂板132を形成した。フィルタ部材111の平面視形状は全体として円形とした。その後、樹脂板131の貫通孔133に筒状の導入管135を挿入し固定した。
【0054】
図9(A)〜図9(B)に示すように、上下の樹脂板131,132の間隔(フィルタ部材高さ)をA、上側の樹脂板131の下面から消泡層120の下端までの距離(消泡層高さ)をC、上側の樹脂板131の下面から導入管135の下端までの距離(導入管長)をD、フィルタ部材111の直交する2方向での外寸法をE,Fとする。また、フィルタ部材111の内側表面積をS1、消泡層120の内側表面積をS2とする。各部の寸法を表1にまとめて示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(評価)
実施例及び比較例のカーディオトミーフィルタを、以下の項目について評価した。
【0057】
1.初期通液性
シリンジを用いて導入管より生理食塩水を注入し、生理食塩水がフィルタ部材を通過して流出するまでの生理食塩水の注入量を測定した。
【0058】
結果を図10に示す。図10に示すように、実施例は比較例に比べて初期通液性に優れていた。従って、実施例のカーディオトミーフィルタを用いることにより、体外血液循環回路の回路充填量を低減することができる。また、カーディオトミーフィルタを介して貯血槽内の血液に薬液を短時間で混入することが可能になる。
【0059】
2.動的充填量
カーディオトミーフィルタを貯血槽に搭載し、血液を所定の流量及び貯血レベルで安定的に循環させた。その後、血液循環を停止させたときの貯血槽内の貯血レベルの増加量を測定した。血液流量を0.5,1.0,1.5,2.0cm3/分の4通りに変えて測定した。
【0060】
結果を図11に示す。図11に示すように、血液流量にかかわらず、実施例は比較例に比べて動的充填量が少なかった。従って、実施例のカーディオトミーフィルタを用いることにより、体外血液循環回路の回路充填量を低減することができる。
【0061】
3.残血量
カーディオトミーフィルタを貯血槽に搭載し、設計上の最大流量である2×103cm3/分で血液を循環させた後、血液循環を停止させた。血液循環を行う前と、血液循環停止後カーディオトミーフィルタから血液の流出がなくなった時点とのそれぞれでカーディオトミーフィルタの重量を測定し、その差を求めた。そして、得られた重量差を体積に換算した。
【0062】
結果を図12に示す。図12に示すように、実施例は比較例に比べて残血量が少なかった。従って、実施例のカーディオトミーフィルタを用いることにより、患者への返血量を多くすることができ、患者負担を軽減することができる。
【0063】
4.消泡特性
カーディオトミーフィルタを貯血槽に搭載し、エアを混入させた血液を循環させて、フィルタ部材を通過した血液中の気泡の有無を目視で観察するとともに、カーディオトミーフィルタ内の上部の空気層の気圧を測定した。カーディオトミーフィルタ内が陽圧になると、カーディオトミーフィルタ内に血液や薬液などを注入するのが困難になる等の支障を来すことがある。
【0064】
その結果、実施例と比較例との間で有意な差は認められず、実施例及び比較例はいずれも良好な消泡特性を有していた。
【0065】
以上のように、本発明に対応した実施例に係るカーディオトミーフィルタは、初期通液性、動的充填量、及び残血量において良好な特性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、心肺手術等を行う際に使用される体外血液循環回路中に設けられるカーディオトミーフィルタ及びこれを備えた貯血槽として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1(A)は、本発明の一実施形態に係るカーディオトミーフィルタの斜視図、図1(B)はその側面図、図1(C)はその上面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係るカーディオトミーフィルタを製造するための一工程を示した斜視図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係るカーディオトミーフィルタを製造するための一工程を示した斜視図である。
【図4】図4(A)は、本発明の別の実施形態に係るカーディオトミーフィルタの側面図、図4(B)は図4(A)の4B−4B線に沿った矢視断面図、図4(C)は図4(A)の4C−4C線に沿った矢視断面図である。
【図5】図5は、図4(A)〜図4(C)に示した本発明のカーディオトミーフィルタを備えた貯血槽の一例の斜視図である。
【図6】図6は、図4(A)〜図4(C)に示した本発明のカーディオトミーフィルタを備えた貯血槽の一例の側面断面図である。
【図7】図7は、図6に示した本発明の貯血槽に内装されるサポート部材の斜視図である。
【図8】図8(A)は、実施例に係るカーディオトミーフィルタの側面図、図8(B)は図8(A)の8B−8B線に沿った矢視断面図である。
【図9】図9(A)は、比較例に係るカーディオトミーフィルタの側面断面図、図9(B)は図9(A)の9B−9B線での矢視断面図である。
【図10】図10は、実施例及び比較例のカーディオトミーフィルタの初期通液性の測定結果を示した図である。
【図11】図11は、実施例及び比較例のカーディオトミーフィルタの動的充填量の測定結果を示した図である。
【図12】図12は、実施例及び比較例のカーディオトミーフィルタの残血量の測定結果を示した図である。
【図13】図13(A)は、従来のカーディオトミーフィルタの一例の側面断面図、図13(B)は図13(A)の13B−13B線での矢視断面図、図13(C)は従来のカーディオトミーフィルタを構成するフィルタ部材の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1,2 カーディオトミーフィルタ
5 貯血槽
11 フィルタ部材
11a 折り曲げ部
11b,11c 端縁
12 スクリーンフィルタ
13a,13b サポート材
20 樹脂板
23 貫通孔
27 消泡層
91 第1方向
92 第2方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーンフィルタと前記スクリーンフィルタを挟んで配置された一対のサポート材とからなるフィルタ部材を備え、
前記フィルタ部材は、第1方向に沿ってプリーツ加工され、前記第1方向と交差する第2方向に沿って折り曲げられ、前記第2方向と交差する前記フィルタ部材の一対の端縁がそれぞれシールされてなることを特徴とするカーディオトミーフィルタ。
【請求項2】
更に、前記フィルタ部材の前記折り曲げられた側とは反対側の端縁に接着された樹脂板を備える請求項1に記載のカーディオトミーフィルタ。
【請求項3】
更に、前記フィルタ部材の内側に消泡層を備える請求項1に記載のカーディオトミーフィルタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のカーディオトミーフィルタを備えた貯血槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−194385(P2008−194385A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35180(P2007−35180)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】