説明

カード基材

【課題】昇華転写方式によるカード基材への画像形成において、汎用の安価な熱可塑性樹脂を染料受容層に用いても、画像形成工程の途中段階での染料の汚れ防止や、画像形成工程終了時の剥離改善を可能にするカード基材を提供するものである。
【解決手段】昇華転写方式のカードプリンター用カード基材であって、カードコア材の片面に、少なくとも接着層、染料受容層、剥離層が、順次積層され、最外層の剥離層が微細な凹凸構造を形成され、さらに、前記凹凸構造がテーパー形状からなり、カード基材全面に渡り縦横それぞれ35μmの範囲内に2つ以上、該テーパー形状があることを特徴とするカード基材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレジットカード、キャッシュカード、社員証など、広範囲に利用されているIDカード等に、昇華転写方式を用いて高精細、高品位な画像形成をするためのカード基材に関する。
【背景技術】
【0002】
クレジットカード、キャッシュカード、社員証など、広範囲に利用されているIDカードは、従来の磁気テープを具備した磁気カードからICチップを埋め込んだICカードへと移行している。磁気カードあるいはICカードのいずれのカードであっても、その多くはインクジェット方式や熱転写方式等により、記録媒体を用いてカード上に文字や画像が形成されている。
【0003】
上述の画像形成においては、特に濃度階調による多色画像が可能な昇華転写方式が多く用いられている。一般に昇華転写方式は、昇華性染料(熱移行性染料)とバインダー樹脂とを主成分とした熱転写記録層を支持体上に設けた熱転写記録媒体を、被転写体である受像体と重ねて、サーマルヘッドなどの加熱デバイスで画像情報に応じて加熱し、与える熱量に応じて熱転写記録層中の昇華性染料を受像体に移行させることにより、階調画像を形成するものである。
【0004】
しかしながら、一般に、前記受像体には染料受容層として比較的低融点の熱可塑性樹脂層が施されているため、上述のような昇華性染料(熱移行性染料)を用いて画像を形成する場合、画像形成工程の途中段階において、熱転写記録層中の昇華性染料の一部が移行して画像品位を低下させる問題がある。また、画像形成工程の終了時に熱転写記録媒体との熱融着により剥がれ難いなどの問題が生じる。
【0005】
上記のこれらの問題は、主に染料受容層の熱可塑性樹脂の融点が低いことに起因している。これらの問題解決として、染料受容層にポリイソシアネート化合物とイソシアネート基と反応し得る基を有するシリコーン化合物からなる組成物を用い、架橋反応による耐熱性の向上とシリコーン化合物による剥離性改善の技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上記提案は、染料受容層にポリイソシアネート化合物と、イソシアネート基と反応し得る基を有するシリコーン化合物からなる組成物を用いることから、架橋反応の安定性に依存する信頼性や高価な材料を用いることによるコストアップ等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平7−41746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、昇華転写方式によるカード基材への画像形成において、汎用の安価な熱可塑性樹脂を染料受容層に用いても、画像形成工程の途中段階での染料の汚れ防止や、画像形成工程終了時の剥離改善を可能にするカード基材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、本発明の請求項1に係る発明は、昇華転写方式のカードプリンター用カード基材であって、カードコア材の片面に、少なくとも接着層、染料受容層が順次積層され、該染料受容層の最表面が微細な凹凸形状を有することを特徴とするカード基材である。
【0010】
本発明の請求項2に係る発明は、前記凹凸形状がテーパー形状からなり、カード基材全面に渡り縦横それぞれ35μmの範囲内に2つ以上、該テーパー形状があることを特徴とする請求項1に記載のカード基材である。
【0011】
本発明の請求項3に係る発明は、前記テーパー形状が、直径が4μmから10μmの大きさであることを特徴とする請求項1または2に記載のカード基材である。
【0012】
本発明の請求項4に係る発明は、前記テーパー形状が、高さ150nmから600nmの大きさの突起であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のカード基材である。
【0013】
本発明の請求項5に係る発明は、前記カード基材の染料受容層が、少なくともエチレン−酢酸ビニル共重合体からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のカード基材である。
【発明の効果】
【0014】
染料受容層に汎用の熱可塑性樹脂を用いても、高品位、高画質な画像形成を可能とするカード基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一態様に係るカード基材を概略的に示す断面図。
【図2】本発明の一態様に係る転写箔を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1に示すように、本発明のカード基材(4)は、カードコア材(3)上に接着層(2)を介して染料受容層(1)を施してなる。また、該染料受容層(1)の最表面は微細な凹凸形状(5)からなる。
【0018】
本発明のカード基材は、前記染料受容層(1)の最表面が微細な凹凸形状からなることにより、昇華転写方式の熱転写による直接の画像形成において、貼り付きがなく、受像適性を備えた高品質な印刷を可能にする。これは、インクリボン上の熱転写記録層と前記カード基材(4)上の染料受容層(1)との接触面積が、染料受容層(1)の最表面の凹凸形状(5)により低下し、結果としてインクリボン上の熱転写記録層との貼り付きを防止しているものと考えられる。
【0019】
本発明のカード基材(4)は、図2に示すように、プラスチックフィルムまたはシートからなる支持体(6)の片面に、染料受容層(1)、接着層(2)を順次設けてなる転写箔(7)を、カードコア材(3)に熱転写して形成される。また、該転写箔(7)を熱転写後、プレス機を用いて熱、圧力をかけることで、微細な凹凸形状(5)を形成することができる。また、染料受容層(1)にさらに接着性の向上を目的とした樹脂層を中間層として用いることもできる。
【0020】
本発明に係る転写箔(7)に用いられる支持体(6)は、プラスチックフィルムまたはシートであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、アクリル−スチレン共重合体、ナイロン及び塩化ビニルが使用できる。
【0021】
本発明に係るカードコア材(3)には、ポリ塩化ビニル、ABS、ポリカーボネート、ポリ乳酸、紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びこれらの複合材料が使用できる。
【0022】
また、本発明に係る染料受容層(1)は、昇華性染料(熱移行性染料)の受容性が求められていることから、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、ブチラール樹脂及び塩素化プロピレン樹脂を用いることができる。中でも受容性が良いものとして、塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂が含まれていることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る染料受容層(1)は、熱転写による、転写箔(7)の支持体(6)からカードコア材(3)への容易な転移性が必要であることから、支持体(6)からの剥離性を有する必要があり、また、さらには画像形成後の保護機能を合わせて持つ必要があるため、特に、エチレン−酢酸ビニル共重合体がより好ましい。
【0024】
また、上記転移後に、染料受容層(1)の表面に微細な凹凸構造(5)を設ける手段としては、例えば、プレス機を用いて、熱と圧力をかけることで形成することができる。
【0025】
上記凹凸形状(5)は、様々な形状、サイズに関する鋭意努力の結果、縦横35μmの範囲内に2つ以上、8つ未満のテーパ形状の突起があること、またそのテーパ形状の突起が、直径が4μmから10μm、高さが150nmから600nmの大きさであることが分かった。これらの結果は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)の測定結果より得られた。
【0026】
また、本発明に係る前記凹凸形状の形成方法には、上述の方法以外にもいくつかある。例えば、支持体(6)上に所望の形状となる凹凸構造を予め形成しておき、その上に染料受容層(1)および接着層(2)を塗工する方法である。支持体(6)上に所望の形状を形成する方法としては、熱エンボス方式やレーザー加工方式等が可能である。
【0027】
また、本発明に係る接着層(2)は、カードコア材(3)に接着するためのものであり、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、ブチラール樹脂及び塩素化プロピレン樹脂が使用できる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例をもって本発明の具体的な説明をする。
【0029】
<実施例1>
2軸延伸ポリエステルフィルムのルミラー25T60(東レ社製)を支持体として、下記組成の剥離層、染料受容層、接着層を、それぞれ乾燥後の膜厚が0.4μm、0.9μ
m、0.6μmになるように、順次、グラビア印刷機で塗工し、転写箔を作製した。
【0030】
<染料受容層>
ZEST1000Z(新第一塩ビ社製) 6重量部
VYNS−3(ダウケミカル社製) 3重量部
BR60(三菱レイヨン社製) 0.5重量部
スミテートMB−11(住友化学社製) 0.5重量部
テトラヒドロフラン 100重量部
【0031】
<接着層>
ソルバインA(日信化学社製) 10重量部
メチルエチルケトン 50重量部
トルエン 50重量部
【0032】
次に、カードコア材(住友ベークライト社製、商品名:スミライト)に上記転写箔を、転写条件:温度140℃、圧力4.9×10Paで15分間、プレス機で転写し、その後、支持体を剥離してカード基材を得た。
【0033】
得られた上記カード基材の剥離層の最表面を原子間力顕微鏡で数ヶ所測定を行なった結果、縦横35μmの範囲内に2つ以上、テーパー形状の突起があること、またそのテーパー形状の突起が、直径が4μmから10μm、高さが150nmから600nmの大きさであることが確認された。
【0034】
次に、昇華転写方式のカードプリンター(CP1750、凸版印刷社製)を用いて、上記カード基材に顔写真の画像を形成した。その結果、貼り付きがなく高品質の画像を形成することができた。
【0035】
<比較例1>
100℃、2.9×10Paで15分間の転写条件以外は実施例1と同じ条件で転写を行い、その後、支持体を剥離した。
【0036】
得られた上記カード基材の剥離層の最表面を、原子間力顕微鏡で数ヶ所測定を行なった結果、縦横35μmの範囲内にテーパー形状の突起を確認することはできなかった。
【0037】
次に、実施例1と同様に昇華転写方式のカードプリンター(CP1750、凸版印刷社製)を用いて、上記カード基材に顔写真の画像を形成した。その結果、貼り付きが発生し、高品質の画像を形成することができなかった。
【符号の説明】
【0038】
1・・・染料受容層 5・・・凹凸形状
2・・・接着層 6・・・支持体
3・・・カードコア材 7・・・転写箔
4・・・カード基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華転写方式のカードプリンター用カード基材であって、カードコア材の片面に、少なくとも接着層、染料受容層が順次積層され、該染料受容層の最表面が微細な凹凸形成を有することを特徴とするカード基材。
【請求項2】
前記凹凸形状がテーパー形状からなり、カード基材全面に渡り縦横それぞれ35μmの範囲内に2つ以上、該テーパー形状があることを特徴とする請求項1に記載のカード基材。
【請求項3】
前記テーパー形状が、直径4μmから10μmの大きさであることを特徴とする請求項1または2に記載のカード基材。
【請求項4】
前記テーパー形状が、高さ150nmから600nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のカード基材。
【請求項5】
前記カード基材の染料受容層が、少なくともエチレン−酢酸ビニル共重合体からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のカード基材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−161947(P2012−161947A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22510(P2011−22510)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】