説明

カーボネート化ポリビニルアルコールおよびその製造方法ならびにゲル状電解質

【課題】製造が容易であり、ゲル状電解質に適用した場合に、イオン伝導度と電解液の保持性が共に良好となる新規な高極性ポリマーを提供する。
【解決手段】酢酸ビニル単位を20〜90モル%およびビニルアルコール単位を10〜80モル%有するポリビニルアルコールの、ヒドロキシル基の少なくとも一部を、−OC(=O)ORで表される基(Rは、置換基を有していてもよい炭素数12以下の、アルキル基、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基、または芳香族基を示す。)で置換した構造を有するカーボネート化ポリビニルアルコール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質に用いられ得る新規なポリビニルアルコール誘導体およびその製造方法に関し、また、当該ポリビニルアルコール誘導体を用いた高分子ゲル電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池の電解質として、電解液の漏液のない高分子固体電解質の適用が検討されている。しかし、高分子固体電解質をそのまま用いたのでは、イオン伝導度が低いという問題がある。
【0003】
高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させるために、ポリマーを電解液で膨潤させたゲル状の電解質が開発されている。このようなゲル状電解質を二次電池に適用するには、ゲル状電解質が高いイオン伝導度を有すると同時に、このものが正極と負極との間のセパレータを兼ねるため、十分な機械的強度を有することが必要である。機械的強度を向上させる一例として、特許文献1記載の、基材多孔質膜に導電性ポリマーを塗布し、電解液で膨潤させてゲル状電解質とする方法が挙げられる。これは、基材多孔質膜によって強度を確保する技術であるが、電解液の保持性に劣り、電池の破損時には漏液し得るため、安全性に劣るという問題がある。そこで、このような基材多孔質膜を用いないゲル状電解質の開発が行われている。このような基材多孔質膜を用いずにポリマーを電解液で膨潤させたゲル状電解質では、強度不足となり易い。ゲル状電解質の強度を上げるためにはポリマーの割合を増やせば良いが、電解液の割合が減少する分イオン伝導性は低下する。逆に、電解液量を増やせばイオン伝導性は改善されるが強度が低下し、ゲル状電解質の電解液保持能を超え、電解液の滲み出しといった問題も生じることになる。ゲル状高分子電解質を用いた電池の場合、イオン伝導性は電池の性能に、電解液の滲み出しは電池の安全性に直接影響する重要な因子であり、ゲル状電解質は、イオン伝導性が良好であると同時に漏液のないことが求められている。
【特許文献1】特開2002−241533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、ゲル状電解質は、イオン伝導性が良好であると同時に漏液のないことが求められているところ、特に基材多孔質膜を用いないゲル状電解質用のポリマーとして、高極性かつ高強度のポリマーが求められている。しかし、一般に、モノマー合成時の不安定性、重合時のゲル化性等から製造時の作業性に問題があり、またコスト的にも問題があることから、高極性のポリマーの製造は困難である。
【0005】
そこで本発明は、製造が容易であり、ゲル状電解質に適用した場合に、イオン伝導度と電解液の保持性が共に良好となる新規な高極性ポリマーを提供することを目的とする。本発明はまた、イオン伝導度と電解液の保持性が共に良好なゲル状電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、酢酸ビニル単位を20〜90モル%およびビニルアルコール単位を10〜80モル%有するポリビニルアルコール(以下、PVAと略すことがある。)の、ヒドロキシル基(以下、OH基と記すことがある。)の少なくとも一部を、−OC(=O)ORで表される基(Rは、置換基を有していてもよい炭素数12以下の、アルキル基、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基、または芳香族基を示す。)で置換した構造を有するカーボネート化ポリビニルアルコールである。
本発明のカーボネート化ポリビニルアルコールは、前記ヒドロキシル基の50モル%以上が前記−OC(=O)ORで表される基で置換された構造であることが好ましい。
本発明のカーボネート化ポリビニルアルコールの別の態様は、酢酸ビニル単位を20〜90モル%およびビニルアルコール単位を10〜80モル%有するポリビニルアルコールの、ヒドロキシル基の一部を、−OC(=O)ORで表される基(Rは、置換基を有していてもよい炭素数12以下の、アルキル基、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基、または芳香族基を示す。)で置換し、さらに残りのヒドロキシル基の水素原子(以下、Hと記すことがある。)の一部または全部を、イソシアネート化合物残基で置換した構造を有するカーボネート化ポリビニルアルコールである。
本発明はまた、上記のカーボネート化ポリビニルアルコールを用いたゲル状電解質である。
本発明はさらに、酢酸ビニル単位を20〜90モル%およびビニルアルコール単位を10〜80モル%有するポリビニルアルコールと、XCOORで表されるハロゲン化蟻酸エステル(Rは、置換基を有していてもよい炭素数12以下の、アルキル基、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基、または芳香族基を示し、Xは、ハロゲン原子を示す。)とを反応させることを特徴とするカーボネート化ポリビニルアルコールの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のカーボネート化PVAは、高極性のビニルポリマーであるにもかかわらず、製造時の作業面、コスト面において問題がなく、製造が容易であり、ゲル状電解質に適用した場合には、イオン伝導度と電解液の保持性が共に良好なゲル状電解質が得られる。従って、当該カーボネート化PVAを用いた電解質を含むリチウム二次電池は、イオン伝導度が良好であり、漏液の問題がないものとなる。本発明の製造方法は、高極性のビニルポリマーの製造方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のカーボネート化PVAの構造の基となる酢酸ビニル単位を20〜90モル%およびビニルアルコール単位を10〜80モル%有するPVAについてまず説明する。当該PVAは、常法により、ポリ酢酸ビニルを合成し、けん化することにより得ることができ、市販品として入手することもできる。
【0009】
PVAのビニルアルコール単位の量は、カーボネート化反応性およびイオン伝導度の観点より、20〜80モル%であることが好ましい。なお、上記のPVAの酢酸ビニル単位およびビニルアルコール単位の量については、酢酸ビニル単位とビニルアルコール単位の合計を100モル%とした場合の量である。従って、PVAが酢酸ビニル単位およびビニルアルコール単位からなる場合、ビニルアルコール単位の量は、けん化度と等しくなる。
【0010】
当該PVAは、本発明の趣旨を損なわない範囲で、酢酸ビニル単位およびビニルアルコール単位以外のモノマー単位を含んでいてもよい。
【0011】
本発明のカーボネート化PVAは、上記のPVAのOH基の少なくとも一部が、−OC(=O)ORで表される基で置換された構造を有する。
【0012】
ここで、Rは、置換基を有していてもよい炭素数12以下の、アルキル基、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基、または芳香族基である。
【0013】
Rで示される炭素数12以下のアルキル基は、直鎖状、分岐状または環状のいずれであってもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、イソへキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が例示できる。
【0014】
Rで示される炭素数12以下のアルキル鎖にエーテル結合が導入された基は、直鎖状、分岐状または環状のいずれであってもよく、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシブチル基などのアルコキシアルキル基、エトキシエトキシエチルなどのポリオキシアルキレン基等が例示できる。
【0015】
Rで示される炭素数12以下の芳香族基の例としては、フェニル基、トルイル基などのアリール基等が挙げられる。
【0016】
Rで示される炭素数12以下の、アルキル基、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基、または芳香族基は、全体としての炭素数が12以下となる範囲内で置換基を有していてもよい。当該置換基の例としては、炭素数4以下のアルキル基(例、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基など)、メトキシエチル基、メトキシブチル基等が挙げられる。
【0017】
Rとしては、炭素数12以下(好ましくは炭素数6以下)の、アルキル基およびアルキル鎖にエーテル結合が導入された基が好ましく、特に極性向上の観点から、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基が好ましい。
【0018】
カーボネート化PVAのRの化学構造は、すべて同一である必要はない。Rは、上記定義内の1種の基のみならず、上記定義内の2種以上の基であってもよい。
【0019】
本発明のカーボネート化PVAは、前記OH基の少なくとも一部が−OC(=O)ORで表される基で置換された構造となるが、OH基は、一般に電池特性を低下させ、またカーボネート化PVAの可撓性の発現に悪影響を及ぼすので、前記OH基は、−OC(=O)ORで表される基に50%以上置換されることが好ましく、60%以上置換されることがより好ましく、80%以上置換されることがさらに好ましい。
【0020】
本発明のカーボネート化PVAの重合度としては、特に制限はないが、100〜10000が好ましい。
【0021】
本発明のカーボネート化PVAの製造方法については、特に制限はないが、製造の容易さから、酢酸ビニル単位を20〜90モル%およびビニルアルコール単位を10〜80モル%有するPVAと、XCOORで表されるハロゲン化蟻酸エステル(Rは、前記と同義であり、Xはハロゲン原子を示す。)とを反応させることが好ましい。当該反応は、溶媒中、活性水素を有しないアルカリ性化合物の存在下で行うことが好ましい。
【0022】
ハロゲン化蟻酸エステルのXで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。本発明のカーボネート化PVAのRは、ハロゲン化蟻酸エステルのRに由来するため、ハロゲン化蟻酸エステルのRには、本発明のカーボネート化PVAに導入したいRを選択すればよい。
【0023】
ハロゲン化蟻酸エステルは、公知方法により合成し、または市販品として入手することができ、ハロゲン化蟻酸エステルの使用量は、原料のPVAのOH基1モルに対し、1〜5モルが好ましく、1〜3モルがより好ましい。1モルより少ないと、十分なカーボネート化が行われず、5モルより多いと、未反応物や副生成物などの不純物が増加し、好ましくない。
【0024】
溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノンからなる含窒素溶媒を除く、カーボネート化PVAを溶解可能な溶媒を用いればよい。当該反応においては、原料のPVAが反応前に溶解していなくても、カーボネート化PVAを可溶な溶媒を用いることにより、反応性良くカーボネート化PVAを得ることができることが明らかになった。当該溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン、トルエン、酢酸エチル等が挙げられる。これら例示した溶媒は、入手が容易であり、低極性、低沸点の溶媒であるため、反応後の精製において水洗分離、溶媒の濃縮等を行うことが容易である。溶媒の使用量として好ましくは、原料のPVA1gに対し、2〜20gである。
【0025】
活性水素を有しないアルカリ性化合物の例としては、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等が挙げられる。当該アルカリ性化合物の使用量として好ましくは、原料のPVAのOH基1モルに対し0.9〜1.5モル当量である。
【0026】
反応温度と時間は、使用するPVAの有するOH基、ハロゲン化蟻酸エステルおよび溶媒の量等により適宜決定すればよいが、反応温度としては、0〜60℃が好ましく、反応時間としては、3〜72時間が好ましい。
【0027】
反応混合物より、目的のカーボネート化PVAは、常法に従い精製して単離することができる。例えば、必要によりトルエン等の水と分離する溶媒を加えた後、飽和食塩水等で洗浄を行う。次いで有機層を硫酸マグネシウム等で乾燥後、溶媒を除去して乾燥し、カーボネート化PVAを単離することができる。
【0028】
本発明のカーボネート化PVAにOH基が残っている場合には、OH基は、一般的に電池特性を低下させるために、OH基の水素原子(H)をイソシアネート化合物残基で置換することが好ましい。
【0029】
ここで、イソシアネート化合物残基とは、イソシアネート化合物のイソシアネート基がOH基と反応して生成する(イソシアネート化合物の−N=C=O基の窒素原子に水素原子が付加し、炭素原子にOH基の酸素原子が結合してできる)イソシアネート化合物由来の基のことをいう。よって、カーボネート化PVAのOH基のHを、イソシアネート化合物残基で置換するには、例えば乾燥条件下で、OH基とイソシアネート化合物を反応させればよい。また、イソシアネート化合物残基は、多官能イソシアネート化合物の残基であってもよく、このとき、カーボネート化PVAが架橋される。
【0030】
イソシアネート化合物の例としては、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、および1モルのトリメチロールプロパンにこれらのジイソシアネート3モルを付加させたトリイソシアネート化合物等を挙げることができ、なかでも1モルのトリメチロールプロパンにヘキサメチレンジイソシアネート3モルを付加させたトリイソシアネート化合物が好ましい。
【0031】
あるいは、本発明のカーボネート化PVAにOH基が残っている場合には、OH基を、常法によりエステル化してもよい。
【0032】
本発明のカーボネート化PVAを、ゲル状電解質に適用した場合には、イオン伝導度と電解液の保持性が共に良好なゲル状電解質を得ることができる。また、本発明のカーボネート化PVAは、柔軟性にも優れる。
【0033】
一実施態様として、前記ゲル状電解質は、本発明のカーボネート化PVAおよび電解液を含み、当該電解液は、電解質塩および溶媒を含む。
【0034】
電解質塩の例としては、LiPF6、LiBF4、LiN(C25SO22、LiAsF6、LiSbF6、LiAlF4、LiGaF4、LiInF4、LiClO4、LiN(CF3SO22、LiCF3SO3、LiSiF6、LiN(CF3SO2)(C49SO2)等のリチウム金属塩が挙げられる。
【0035】
電解液を構成する溶媒の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の直鎖状カーボネートが挙げられる。
【0036】
上記ゲル状電解質は、常法に従い作製すればよい。例えば、本発明のカーボネート化PVAの溶液を塗布および乾燥してフィルム化し、電解質塩を含む電解液に浸漬することにより製造することができる。イソシアネート化合物を添加する場合は、添加混合液が流動性を保っている間に流延させればよい。
【0037】
当該カーボネート化PVAを用いた電解質はリチウム二次電池に適用でき、当該リチウム二次電池は、イオン伝導度が良好であり、漏液の問題がないものとなる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0039】
(カーボネート化PVAの合成)
実施例1
300mLの三口フラスコに、バキュームスターラー、塩化カルシウム管付きコンデンサーおよび窒素導入管を取り付け、フラスコ内を窒素置換した。乾燥した窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン90g、LM−15(PVA、クラレ製、けん化度35モル%)16.1gおよびピリジン9.5gを加えた。この溶液を氷冷バスで0〜10℃程度にまで冷却し、一様に攪拌しながらゆっくりとクロロ蟻酸メトキシブチル20gを滴下した。全量を滴下した後、ゆっくりと20℃まで温度を上げ、48時間そのまま攪拌を続けた。
【0040】
この溶液を攪拌しながらトルエン200mLを加え、飽和食塩水200mLで3回洗浄した後、分離した有機層(上液)を分液した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を除去し、乾燥してゴム状のカーボネート化PVAを得た。NMRにより解析した結果、原料のPVAのOH基の85%がカーボネート残基(−OC(=O)ORで表される基)で置換されていた。
【0041】
実施例2
実施例1においてクロロ蟻酸メトキシブチル20gの代わりにクロロ蟻酸2−エチルヘキシル23gを使用した以外は、実施例1と同様にして、カーボネート化PVAを得た。NMRにより解析した結果、原料のPVAのOH基の85%がカーボネート残基で置換されていた。
【0042】
実施例3
実施例1においてLM−15(PVA、クラレ製、けん化度35モル%)16.1gの代わりにL−10(PVA、クラレ製、けん化度72モル%)16.1gを使用した以外は、実施例1と同様にして、カーボネート化PVAを得た。NMRにより解析した結果、原料のPVAのOH基の65%がカーボネート残基で置換されていた。
【0043】
実施例4
ポリ酢酸ビニル(重合度1500)50gを、1N水酸化ナトリウム 70%エタノール水溶液1000mLに添加し、50℃で3時間けん化反応を行った。得られたPVAのけん化度は15%であった。このPVAを実施例1と同様の方法でカーボネート化して、カーボネート化PVAを得た。NMRにより解析した結果、原料のPVAのOH基の98%がカーボネート残基で置換されていた。
【0044】
比較例1
実施例4のけん化時間を1時間に変更した以外は実施例4と同様にして、ポリ酢酸ビニルのけん化反応を行った。得られたPVAのけん化度は5%であった。このPVAを実施例1と同様の方法でカーボネート化して、カーボネート化PVAを得た。NMRにより解析した結果、原料のPVAのOH基の98%がカーボネート残基で置換されていた。
【0045】
比較例2
実施例1においてLM−15(PVA、クラレ製、けん化度35モル%)16.1gの代わりにCM−318(PVA、クラレ製、けん化度90モル%)16.1gを使用した以外は、実施例1と同様にして、カーボネート化PVAを得た。NMRにより解析した結果、原料のPVAのOH基の30%がカーボネート残基で置換されていた。
【0046】
(電解質の評価)
実施例1〜4および比較例1〜2で得られたカーボネート化PVAの10%ジメチルホルムアルデヒド溶液に、当該カーボネート化PVAのOH基と当量の3官能イソシアネート化合物(1モルのトリメチロールプロパンにヘキサメチレンジイソシアネート3モルを付加させたトリイソシアネート化合物;日本ポリウレタン製、コロネートHL)を混合した。これをPTFE製シャーレに展開し、乾燥した後、50℃にて5日間加熱して厚み50μmのポリマーフィルムを得た。1MLiPF6 EC/DMC(1/2)溶液にこのポリマーフィルム0.5gを浸漬し、室温にて2日間放置した。その後、表面の液を拭き取り、ゲル状電解質フィルムを得た。
【0047】
また、比較例3として、1MLiPF6 EC/DMC(1/2)溶液に多孔質ポリオレフィンフィルム(空孔率約35%、厚さ約25μm)0.1gを浸漬し、室温にて2日間放置後、表面の液を拭き取って得た電解質フィルムを用意した。
【0048】
これらの電解質フィルムの電導度および漏液の有無を、以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0049】
(電導度測定)
実施例および比較例の電解質フィルムを、アルゴングローブボックス内にて直径10mmの白金板で10gの荷重をかけて挟みこみ、インピーダンス測定装置(Princeton Applied Research製263Aポテンショスタットおよび5210 Lock in amplifier)を用い、室温(23℃)にて複素インピーダンス法により高周波数側の円弧と低周波数側の直線との交点の実数成分インピーダンスを求め、以下の式により電導度σ(S/cm)を算出した。
σ=d/(R・A)
d:サンプル厚み(cm)、R:インピーダンス(Ω)、A:サンプル断面積(cm2
【0050】
(漏液の評価)
上記の10gの荷重を除去したときに、電極面における液の流出の有無を目視にて判定した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1より明らかなように、ビニルアルコール単位の量が本発明の範囲を外れるポリビニルアルコールを用いたのでは(比較例1および2)、漏液は見られなかったものの、十分な電導度を得ることができなかった。一方、多孔質ポリオレフィンフィルムを用いたのでは(比較例3)、電導度は良好であるものの、漏液が見られた。それに対し、本発明のカーボネート化PVAを用いた場合(実施例1〜4)、漏液はなく、電導度も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のカーボネート化PVAは、リチウム二次電池等のゲル状電解質に好適である。また、本発明の製造方法は、高極性のビニルポリマーの製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル単位を20〜90モル%およびビニルアルコール単位を10〜80モル%有するポリビニルアルコールの、ヒドロキシル基の少なくとも一部を、−OC(=O)ORで表される基(Rは、置換基を有していてもよい炭素数12以下の、アルキル基、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基、または芳香族基を示す。)で置換した構造を有するカーボネート化ポリビニルアルコール。
【請求項2】
前記ヒドロキシル基の50モル%以上が前記−OC(=O)ORで表される基で置換されている構造である請求項1に記載のカーボネート化ポリビニルアルコール。
【請求項3】
酢酸ビニル単位を20〜90モル%およびビニルアルコール単位を10〜80モル%有するポリビニルアルコールの、ヒドロキシル基の一部を、−OC(=O)ORで表される基(Rは、置換基を有していてもよい炭素数12以下の、アルキル基、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基、または芳香族基を示す。)で置換し、さらに残りのヒドロキシル基の水素原子の一部または全部を、イソシアネート化合物残基で置換した構造を有するカーボネート化ポリビニルアルコール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のカーボネート化ポリビニルアルコールを用いたゲル状電解質。
【請求項5】
酢酸ビニル単位を20〜90モル%およびビニルアルコール単位を10〜80モル%有するポリビニルアルコールと、XCOORで表されるハロゲン化蟻酸エステル(Rは、置換基を有していてもよい炭素数12以下の、アルキル基、アルキル鎖にエーテル結合が導入された基、または芳香族基を示し、Xは、ハロゲン原子を示す。)とを反応させることを特徴とするカーボネート化ポリビニルアルコールの製造方法。

【公開番号】特開2008−88328(P2008−88328A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272073(P2006−272073)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】