説明

カーボンオニオンおよびその製造方法、ならびに、ゲル組成物およびその製造方法

【課題】新規なカーボンオニオンの製造方法、および新規なゲル組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、炭素質材料を含む原料を、高周波誘導加熱法により加熱しカーボンオニオンを製造する方法である。ここで、炭素質材料は、ダイヤモンドクラスタ、カーボンブラック、ダイヤモンド微粒子、すす、グラファイト微粒子のうちいずれか一種またはいずれか二種以上の混合物であることが好ましい。また、加熱温度は、1500〜2500℃の範囲内にあることが好ましい。また、本発明は、イオン性液体中にカーボンオニオンを含むゲル組成物である。ここで、イオン性液体が、イミダゾリウム系イオン性液体またはピリジニウム系イオン性液体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカーボンオニオンに関する。また、本発明は、新規なカーボンオニオンの製造方法に関する。
また、本発明は、新規なゲル組成物に関する。また、本発明は、新規なゲル組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンオニオンが注目されている。カーボンオニオンは炭素原子からなるナノ粒子であり、球殻・多面体状に閉じたグラフェンシートが同心円に多層構造をなしている。
【0003】
電子線照射法によるカーボンオニオンの製造方法が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。透過型電子顕微鏡内で高エネルギーの電子線をすすなどの原料炭素に照射して、カーボンオニオンを生成する。本方法によれば、微量な生成物を得ることができる。
【0004】
抵抗加熱法によるカーボンオニオンの製造方法が報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。高融点金属の箔に原料炭素を包み、通電して加熱することによって、カーボンオニオンを生成する。本方法によれば、微量な生成物を得ることができる。
【0005】
イオンインプランテーション法によるカーボンオニオンの製造方法が報告されている(例えば、非特許文献3参照。)。炭素のイオンを高温に加熱した銅、銀などの金属箔に打ち込み飽和させてカーボンオニオンを生成する。本方法では、大型で高価な装置を必要とする。
【0006】
赤外線加熱法によるカーボンオニオンの製造方法が報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献4参照。)。ハロゲンランプから発せられる赤外線を集光し、原料炭素に照射して加熱することによりカーボンオニオンを生成する。本方法では、10mg程度のカーボンオニオンを得ることができる。加熱温度は、1800℃程度まで上げることができる。
【0007】
一方、メンテナンスフリーシステムの構築や機械の長寿命化および精度維持、消費エネルギーの節減には、摺動部の摩擦・摩耗の低減が重要な課題である。摩擦・摩耗を制御するため、潤滑を担う材料として高圧の気体、油・グリースなどの液体から、金などの軟質金属、グラファイト・二硫化モリブデン・PTFEなどの層状構造分子の固体まで、様々な物質が利用されている。そして、これらは単体として用いられるだけでなく、複合されて使用される場合が多い。
【0008】
現在、自動車、航空宇宙機器にはじまる機械の摺動部は、機械的・熱的負荷、使用環境雰囲気などの点でさらに過酷な環境におかれ、また、MEMSに代表されるマイクロ・ナノの領域での潤滑の制御の必要性、環境に優しいグリーンエンジニアリングの観点などから、トライボロジーの高度化が求められている。これに対応するためは、新しい物質を効果的に適用する試みが必要である。
【0009】
現在、潤滑材料の領域では、液体潤滑を担う新たな物質として不揮発性・難燃性などの特徴を有するイオン性液体(常温溶融塩)が、より広い適用環境を有する新トライボロジー材料として高い可能性を有することが着目され始めている。また、固体潤滑の分野では、従来の層状構造分子を構成する元素からなる閉殻同心多層のオニオン構造ナノ粒子、閉殻単層のフラーレン、円筒状構造のカーボンナノチューブが自己潤滑性を有する新固体潤滑材として提案されている。
【0010】
他方、カーボンナノチューブとイオン性液体からなるゲルの製造方法が報告されている(例えば、特許文献2参照。)。イオン性液体にカーボンナノチューブを加え、せん断力を加えて細分化し、その後、必要に応じて生成物を遠心分離に供することによってカーボンナノチューブとイオン性液体とから成るゲル状組成物が製造される。このゲル状組成物は加工性に優れ、単に外力を加えた流動状態で印刷、塗布、押出または射出等の手段で所定の形状を形成した後、イオン性液体を溶媒や吸収材で除去すれば、カーボンナノチューブの成形体が得られる。なお、グラファイト、C60、活性炭などではゲル状組成物は生成しなかったと報告されている。
【0011】
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(例えば、非特許文献5参照。)。これは、特許法第30条第1項を適用できるものと考えられる。
【0012】
【特許文献1】特開平2002−080212号公報
【特許文献2】特開平2004−142972号公報
【非特許文献1】Nature, v.359, n.6397, p.707 (1992)
【非特許文献2】Chemical Physics Letter, vol.207, n.4-6, p.480 (1993)
【非特許文献3】Journal of Materials Science, v.30, p.4787 (1995)
【非特許文献4】垣内孝宏,平田敦,精密工学会誌,p.1175〜1179 (2001)
【非特許文献5】齋藤真司,平田敦,イオン性液体添加カーボンオニオンゲルの生成およびその潤滑特性,2006年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,p.753 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、4つのカーボンオニオンの製造方法が開発されているが、新規なカーボンオニオンの製造方法は開発されていない。また、上述のように、カーボンナノチューブとイオン性液体とからなるゲルおよびその製造方法が開発されているが、新規なゲル組成物およびその製造方法は開発されていない。
【0014】
そのため、新規なカーボンオニオンの製造方法の開発が望まれている。また、新規なゲル組成物およびその製造方法の開発が望まれている。
【0015】
本発明は、新規なカーボンオニオンおよびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、新規なゲル組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のカーボンオニオンは、炭素質材料を含む原料を、高周波誘導加熱法で加熱することにより得られる。
【0017】
ここで、限定されるわけではないが、炭素質材料が、ダイヤモンドクラスタ、カーボンブラック、ダイヤモンド微粒子、すす、グラファイト微粒子のうちいずれか一種またはいずれか二種以上の混合物であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、加熱温度が、1500〜2500℃の範囲内にあることが好ましい。
【0018】
本発明のカーボンオニオンの製造方法は、炭素質材料を含む原料を、高周波誘導加熱法により加熱しカーボンオニオンを製造する方法である。
【0019】
ここで、限定されるわけではないが、炭素質材料が、ダイヤモンドクラスタ、カーボンブラック、ダイヤモンド微粒子、すす、グラファイト微粒子のうちいずれか一種またはいずれか二種以上の混合物であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、加熱温度が、1500〜2500℃の範囲内にあることが好ましい。
【0020】
本発明のゲル組成物は、イオン性液体中にカーボンオニオンを含む。
【0021】
ここで、限定されるわけではないが、イオン性液体が、イミダゾリウム系イオン性液体またはピリジニウム系イオン性液体であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、イオン性液体が、1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム−テトラフルオロボレートであることが好ましい。
【0022】
本発明のゲル組成物の製造方法は、イオン性液体中にカーボンオニオンを混合させる方法である。
【0023】
ここで、限定されるわけではないが、イオン性液体が、イミダゾリウム系イオン性液体またはピリジニウム系イオン性液体であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、イオン性液体が、1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム−テトラフルオロボレートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0025】
本発明のカーボンオニオンは、炭素質材料を含む原料を、高周波誘導加熱法で加熱することにより得られるので、新規なカーボンオニオンを提供することができる。
【0026】
本発明のカーボンオニオンの製造方法は、炭素質材料を含む原料を、高周波誘導加熱法により加熱するので、新規なカーボンオニオンの製造方法を提供することができる。
【0027】
本発明のゲル組成物は、イオン性液体中にカーボンオニオンを含むので、新規なゲル組成物を提供することができる。
【0028】
本発明のゲル組成物の製造方法は、イオン性液体中にカーボンオニオンを混合させるので、新規なゲル組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
まず、カーボンオニオンおよびその製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0030】
カーボンオニオンの製造方法について説明する。本発明のカーボンオニオンの製造方法は、炭素質材料を含む原料を、高周波誘導加熱法により加熱しカーボンオニオンを製造する方法である。
【0031】
炭素質材料は、炭素原子からなる微粒子であればよい。炭素質材料が、ダイヤモンドクラスタ、カーボンブラック、ダイヤモンド微粒子、すす、グラファイト微粒子のうちいずれか一種またはいずれか二種以上の混合物である。
【0032】
炭素質材料の純度は80質量%以上の範囲内にあることが好ましく、95質量%以上の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0033】
純度が80質量%以上であると、カーボンオニオンと同時に析出する数十nmに異常成長した炭素微粒子の生成が抑制されるという利点がある。純度が95質量%以上であると、その効果がさらに顕著である。
【0034】
また、炭素質材料の平均粒径は2〜250nmであることが好ましい。平均粒径が2nm以上であると、同心円多層構造のカーボンオニオンが得られるという利点がある。平均粒径が250nm以下であると、同心円多層構造のカーボンオニオンが生成されやすいという利点がある。
【0035】
反応に炭素質材料を使用する量は、0.001〜100gであることが好ましい。炭素質材料が0.001g以上であると、収率を高められるという利点がある。炭素質材料が100g以下であると、均一に加熱できるという利点がある。
【0036】
高周波誘導加熱法で加熱するとき、加熱温度範囲は1500〜2500℃の範囲内にあることが好ましい。また、加熱温度範囲は1700〜2400℃の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0037】
加熱温度が1500℃以上であると、原料の表面が同心円多層構造に変化するという利点がある。加熱温度が1700℃以上であると、その効果がさらに顕著になる。
【0038】
加熱温度が2500℃以下であると、異常成長粒子が大量に生成しないという利点がある。加熱温度が2400℃以下であると、その効果がさらに顕著になる。
【0039】
加熱時間は、1分以上30分以下が好ましい。加熱時間が1分以上であると、原料のカーボンオニオンへの転換率が高くなるという利点がある。加熱時間が30分以下であると、加熱エネルギーが少ないという利点がある。
【0040】
反応の雰囲気は、不活性雰囲気であればよい。例えば、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気などが挙げられる。この他、真空下でもよい。
【0041】
反応時の圧力は、10−3〜10kPaが好ましい。10−3kPa以上であれば、超高真空系が不要という利点がある。10kPa以下であれば、高圧容器が不要という利点がある。
【0042】
つぎに、カーボンオニオンについて説明する。本発明のカーボンオニオンは、炭素質材料を含む原料を、高周波誘導加熱法で加熱することにより得られるカーボンオニオンである。
【0043】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0044】
つぎに、ゲル組成物およびその製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0045】
ゲル組成物の製造方法について説明する。本発明のゲル組成物の製造方法は、イオン性液体中にカーボンオニオンを混合させる方法である。
【0046】
イオン性液体は常温でも溶融状態の塩である。イオン性液体は、イミダゾリウム系イオン性液体またはピリジニウム系イオン性液体などが挙げられる。
【0047】
イミダゾリウム系イオン性液体では、1-Butyl-3-methyl-imidazolium-tetrafluoro borate、1-Ethyl-3-methyl-imidazolium bromide、1-Ethyl-3-methyl-imidazolium hexa fluorophosphate、1-Hexyl-2,3-dimethyl-imidazolium trifluoromethanesulfonateなどが挙げられる。
【0048】
ピリジニウム系イオン性液体では、1-Ethylpyridinium bromide、1-Hexylpyridinium bromide、1-Butyl-3-methylpyridinium chlorideなどが挙げられる。
【0049】
カーボンオニオンは、上述の高周波誘導加熱法により製造されたものに限られない。電子線照射法、抵抗加熱法、イオンインプランテーション法、赤外線加熱法などにより製造されたものであってもよい。
【0050】
カーボンオニオンとイオン性液体との合計質量に対するカーボンオニオンの占める質量比をカーボンオニオンとイオン性液体との混合比率とした場合、カーボンオニオンとイオン性液体との混合比率は、0.1〜10質量%であることが好ましい。混合比率が0.1質量%以上であれば、少量のイオン性液体でゲルが生成できるという利点がある。混合比率が10質量%以下であれば、攪拌が容易であるという利点がある。
【0051】
イオン性液体中にカーボンオニオンを混合させる装置として超音波加振機を用いる場合、超音波加振機にかける時間は60〜1440分であることが好ましい。60分以上であれば、充分攪拌できるという利点がある。1440分以下であれば、効率的に攪拌できるという利点がある。
【0052】
イオン性液体中にカーボンオニオンを混合させる装置は、カーボンオニオンの凝集を解く効果のある装置であればよい。例えば、超音波加振機、ボールミルなどが挙げられる。
【0053】
なお、カーボンオニオンとイオン性液体とを混合する場合、上記混合装置を使用するにあたっては、乳鉢などで予備混合を行ってもよい。
【0054】
カーボンオニオンとイオン性液体との混合物を分離する装置として遠心分離機を用いる場合、遠心分離機における遠心効果は2000〜100万Gであることが好ましい。遠心効果が2000G以上であれば、過剰なイオン性液体が除去されゲルが生成できるという利点がある。遠心効果が100万G以下であれば、市販の遠心分離機が利用できるという利点がある。
【0055】
つぎに、ゲル組成物について説明する。本発明のゲル組成物は、イオン性液体中にカーボンオニオンを含むゲル組成物である。
【0056】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例1】
【0057】
つぎに、本発明にかかる第1の実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0058】
カーボンオニオンの製造方法について説明する。
【0059】
実施例1
原料として平均粒径5nmのダイヤモンドクラスタ(東京ダイヤモンド工具製作所販売)を用いた。ダイヤモンドクラスタの組成は、C:82質量%、H:0.2質量%、N:2.8質量%、O:13質量%、その他の金属の合計:2.0質量%であった。加熱には、高周波誘導加熱炉(セキスイメディカル電子株式会社製、MC−1700D)を用いた。ダイヤモンドクラスタ粉約40mgを充てんした黒鉛製るつぼを高周波誘導加熱炉内部に挿入し、約1.3Paに減圧した後、アルゴンガスを流入させて炉内圧力を101.3kPaにして、アルゴンガスを流しながら加熱した。1500℃まで加熱後、加熱温度を1500℃、保持時間を10分間とし、その後、放冷した。
【0060】
実施例2
加熱温度を1700℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0061】
実施例3
加熱温度を2000℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0062】
実施例4
加熱温度を2350℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0063】
実施例5
原料として粒径<100nmのダイヤモンド微粒子(DE BEERS製、MICRON+MDA)を用い、加熱温度を1700℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0064】
実施例6
加熱温度を2000℃とした以外は、実施例5と同様である。
【0065】
実施例7
加熱温度を2350℃とした以外は、実施例5と同様である。
【0066】
実施例8
原料として粒径<250nmのダイヤモンド微粒子(DE BEERS製、MICRON+MDA)を用い、加熱温度を1700℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0067】
実施例9
加熱温度を2000℃とした以外は、実施例8と同様である。
【0068】
実施例10
加熱温度を2350℃とした以外は、実施例8と同様である。
【0069】
実施例11
原料として平均粒径が18nmのカーボンブラック(東海カーボン株式会社製、シースト3H)を用い、加熱温度を1700℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0070】
実施例12
加熱温度を2000℃とした以外は、実施例11と同様である。
【0071】
実施例13
加熱温度を2350℃とした以外は、実施例11と同様である。
【0072】
実施例14
原料として平均粒径が27nmのカーボンブラック(東海カーボン株式会社製、シースト9H)を用い、加熱温度を1700℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0073】
実施例15
加熱温度を2000℃とした以外は、実施例14と同様である。
【0074】
実施例16
加熱温度を2350℃とした以外は、実施例14と同様である。
【0075】
実施例17
加熱時間を30分とし、加熱温度を2350℃とした以外は、実施例1と同様である。
【0076】
比較例1
原料として、平均粒径5nmのダイヤモンドクラスタを用いた。ダイヤモンドクラスタ中の炭素の割合は82質量%であった。加熱には、楕円体内部の一方の焦点にハロゲンランプを配置し、もう一方の焦点に加熱対象物を置いて、赤外線を集光して加熱するイメージ炉(アルバック理工株式会社、MR−39H/S)を用いた。ダイヤモンドクラスタ粉約10mgを充てんした黒鉛製試料ホルダを加熱炉内部に挿入し、約1.3Paに減圧した後、アルゴンガスを導入して炉内圧力を150kPaにし、加熱を開始した。約40分間で1730℃まで昇温後、保持時間を1分間とし、その後放冷した。
【0077】
カーボンオニオンの評価方法について説明する。
【0078】
透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM−2010F)にてカーボンオニオンの形状、粒径を観察し、層間距離を測定した。
【0079】
摩擦係数の測定について説明する。
【0080】
摩擦係数は自作のボールオンディスク式摩擦試験機により測定し、ボールとしてはステンレス鋼ボール、ディスクとしてはシリコンウェハを使用した。カーボンオニオンを散布したシリコンウェハ表面にステンレス鋼ボールを押しつけながら、シリコンウェハを回転させ、摩擦力を測定し、摩擦係数を算出した。
【0081】
耐酸化性の測定について説明する。
【0082】
得られたカーボンオニオンについて、乾燥空気中における耐酸化性の測定を行った。耐酸化性の測定には、熱重量分析装置(理学電気株式会社製、TG8120)を使用した。
【0083】
カーボンオニオンの評価結果について説明する。
【0084】
図1〜6に、実施例2,3,4,7,13、比較例1の透過型電子顕微鏡の写真を示す。
得られたカーボンオニオンの粒径は、実施例2〜4では5〜10nm、実施例7では10〜100nm、実施例13では15〜25nm、比較例1では5〜10nmであった。
【0085】
層間距離を測定したところ、実施例2,3,4,7,13では0.34nm、比較例1では0.34nmであった。この層間距離はグラファイトの六角網面間の距離に等しい。
【0086】
透過型電子顕微鏡の写真に基づきカーボンオニオンの形状をみたところ、実施例2,3,4で球形、実施例7では多角形、実施例13では多角形、比較例1では球形であった。この結果は、加熱温度、原料の結晶構造および純度に依存すると考えられる。
【0087】
実施例2と同条件(ただし原料は10mg)で赤外線加熱法により生成したカーボンオニオンについては、高周波誘導加熱法により得られたカーボンオニオンと形状は同様である。
【0088】
多角形のカーボンオニオンが得られたのは、実施例7および13であった。加熱温度が2350℃でも、ダイヤモンドクラスタからは球形のカーボンオニオンが生成されることから、原料の構造や純度が得られるカーボンオニオンの形状に影響すると推測される。
【0089】
Satoshi Tomita et al., Structure and electronic properties of carbon onions, Journal of Chemical Physics, v.114, n.17, (2001) 7477では、ラマン分光分析およびESRの結果とTEMでの観察結果を比較している。カーボンオニオンの輪郭が球形から多角形になるにしたがって、欠陥が減少する傾向にある。
【0090】
摩擦係数の測定結果を表1に示す。ダイヤモンドクラスタから生成したカーボンオニオンの摩擦係数と、ダイヤモンド微粒子から生成したカーボンオニオンの摩擦係数とを比較すると、各加熱温度について、ダイヤモンドクラスタから生成したカーボンオニオンの摩擦係数の方が小さかった。ダイヤモンドクラスタから生成したカーボンオニオンの粒径の方が小さいため、平滑なしゅう動面に潤滑膜が形成されやすいためと考えられる。また、それぞれの摩擦係数について、原料加熱温度が上昇するにつれ摩擦係数が低減する傾向がみられた。原料加熱温度の上昇とともに生成されるカーボンオニオンの表面の欠陥が減少することで安定し、接触する物質との相互作用が小さくなるためと考えられる。さらに、実施例で得られたカーボンオニオンの摩擦係数と、比較例で得られたカーボンオニオンの摩擦係数とを比較すると、実施例2と比較例1では摩擦係数はほぼ同様である。加熱方法にかかわらず原料および加熱温度が同じであれば、同様の性質を有するカーボンオニオンが生成されるためと考えられる。
【0091】
【表1】

【0092】
耐酸化性の測定結果を表1に示す。耐酸化温度は、試料を空気中で加熱したときに急激に重量減少し始める温度である。2段階部分は、急激な重量減少の後で残った試料の割合であり、耐酸化温度以上の温度で徐々に酸化により消失する。実施例2〜4および17、実施例5〜7、実施例8〜10、実施例11〜13に分け、原料ごとに加熱温度による耐酸化温度の変化をみると、加熱温度が上昇するにつれ耐酸化温度が上昇する傾向が見られた。この結果は、原料の加熱温度の上昇とともに生成されるカーボンオニオンの表面欠陥が減少して安定な構造となり、耐酸化性が高まり、耐酸化温度が上昇するためと考えられる。
【0093】
実施例2と同条件(ただし原料は10mg)で赤外線加熱法により生成したカーボンオニオンについては、高周波誘導加熱法により得られたカーボンオニオンと耐酸化性は同様である。
【0094】
加熱温度による2段階部分の量の変化をみると、ダイヤモンドクラスタにおいては、加熱温度が上昇するにつれて増加する傾向が見られた。この結果は、異常成長した炭素粒子が生成するためである。
【実施例2】
【0095】
つぎに、本発明にかかる第2の実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0096】
ゲル組成物の製造方法について説明する。
【0097】
実施例18
ダイヤモンドクラスタから高周波誘導加熱法により加熱温度1700℃で製造したカーボンオニオンとイオン性液体1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム−テトラフルオロボレート(1-Butyl-3-methyl-imidazolium-tetrafluoroborate、Sigma-Aldrich製)(以後、「BMImBF」という。)とを混合した。混合比率を2質量%とし、乳鉢のような容器に加えて40分間混合し、その容器をじかに超音波加振機(BRANSON社製、B−5510BTH(出力:180W、周波数:42kHz))に設置して超音波によって120分間振動を加えた。振動する部位からサンプルまでの距離は100mmであった。なお、混合比率とは、カーボンオニオンとイオン性液体との合計質量に対するカーボンオニオンの占める質量比である。
【0098】
次に、乳鉢のような容器により混合し、超音波加振機(HSIANGTAI社製、CN−1050)によって加振した後,過剰なBMImBFを遠心分離機によって排除した。混合物に加える遠心効果は2200G、時間を30分間とした。
【0099】
実施例19
イオン性液体と混合するカーボンオニオンとして、加熱温度を2100℃とし実施例2と同様に製造したカーボンオニオンを用いた以外は、実施例18と同様である。
【0100】
比較例2
ダイヤモンドクラスタ(東京ダイヤモンド工具製作所販売)とイオン性液体BMImBFとを混合した以外は、実施例18と同様である。なお、混合比率とは、ダイヤモンドクラスタとイオン性液体との合計質量に対するダイヤモンドクラスタの占める質量比である。
【0101】
比較例3
60(フロンティアカーボン株式会社製)とイオン性液体BMImBFとを混合し、混合比率を4質量%とした以外は、実施例18と同様である。なお、混合比率とは、C60とイオン性液体との合計質量に対するC60の占める質量比である。
【0102】
ゲル組成物の製造結果について説明する。
【0103】
遠心分離処理後、実施例18,19および比較例2,3で得られた混合物について、イオン性液体が分離され、流動性を失ったゲル状物質が生成されているかどうか確認した。その結果を表2に示す。実施例18,19ではゲル状物質を形成したが、比較例2,3ではゲル状物質を形成しなかった。比較例2では、ダイヤモンドクラスタは分子の結合状態がspでありπ電子が存在しなかったため、ゲル化が生じなかったと考えられる。比較例3では、C60は有機溶媒に溶けるため、ゲル状物質は生じなかったと考えられる。
【0104】
【表2】

【0105】
差動型示差熱天秤(理学電気社製、Themo Plus TG8210)でゲル組成物の熱重量分析を行った。この時、昇温速度8.0K/min、流量1.0L/minの窒素雰囲気条件下で分析を行った。熱重量分析前後での質量変化率を表2に示す。
【0106】
実施例18と実施例19とで質量変化率を比較したところ、実施例19の質量変化の方が大きかった。これは、カーボンオニオンの生成温度によって分子構造に変化が生じたためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】実施例2で得られたカーボンオニオンの透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例3で得られたカーボンオニオンの透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例4で得られたカーボンオニオンの透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例7で得られたカーボンオニオンの透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例13で得られたカーボンオニオンの透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例1で得られたカーボンオニオンの透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質材料を含む原料を、高周波誘導加熱法で加熱することにより得られるカーボンオニオン。
【請求項2】
炭素質材料が、ダイヤモンドクラスタ、カーボンブラック、ダイヤモンド微粒子、すす、グラファイト微粒子のうちいずれか一種またはいずれか二種以上の混合物である請求項1記載のカーボンオニオン。
【請求項3】
炭素質材料が、ダイヤモンドクラスタ、カーボンブラック、またはダイヤモンド微粒子である請求項1記載のカーボンオニオン。
【請求項4】
加熱温度が、1500〜2500℃の範囲内にある請求項1記載のカーボンオニオン。
【請求項5】
炭素質材料を含む原料を、高周波誘導加熱法により加熱しカーボンオニオンを製造する、カーボンオニオンの製造方法。
【請求項6】
炭素質材料が、ダイヤモンドクラスタ、カーボンブラック、ダイヤモンド微粒子、すす、グラファイト微粒子のうちいずれか一種またはいずれか二種以上の混合物である請求項5記載のカーボンオニオンの製造方法。
【請求項7】
炭素質材料が、ダイヤモンドクラスタ、カーボンブラック、またはダイヤモンド微粒子である請求項5記載のカーボンオニオンの製造方法。
【請求項8】
加熱温度が、1500〜2500℃の範囲内にある請求項5記載のカーボンオニオンの製造方法。
【請求項9】
イオン性液体中にカーボンオニオンを含むゲル組成物。
【請求項10】
イオン性液体が、イミダゾリウム系イオン性液体またはピリジニウム系イオン性液体である請求項9記載のゲル組成物。
【請求項11】
イオン性液体が、1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム−テトラフルオロボレートである請求項9記載のゲル組成物。
【請求項12】
イオン性液体中にカーボンオニオンを混合させる、ゲル組成物の製造方法。
【請求項13】
イオン性液体が、イミダゾリウム系イオン性液体またはピリジニウム系イオン性液体である請求項12記載のゲル組成物の製造方法。
【請求項14】
イオン性液体が、1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム−テトラフルオロボレートである請求項12記載のゲル組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−201604(P2008−201604A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37246(P2007−37246)
【出願日】平成19年2月17日(2007.2.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月4日 社団法人 精密工学会発行の「2006年度精密工学会秋季大会 学術講演会講演論文集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】