説明

カーボンナノチューブの製造方法

【課題】CVD法を用いたカーボンナノチューブの製造工程において、触媒金属の触媒活性の低下を抑制して、カーボンナノチューブを効率的に生成できる技術を提供する。
【解決手段】水素をプロトンとして伝導する水素伝導部40と、酸素を酸素イオンとして伝導する酸素伝導部13とが交互に配列された第1と第2の面11,12を有する成長用基板10を準備し、第1の面11にCNT触媒21を担持させる。第1の面11側に原料ガスを供給し、カーボンナノチューブ5を成長させるとともに、副生成物である水素を、水素伝導部40において、電圧を利用して、第2の面12側へと移動させる。カーボンナノチューブ5を採取した後に、第2の面12側に酸素を供給し、酸素伝導部30において、酸素イオンを第1の面11側へと伝導させ、残留カーボン7と反応させて発電することにより、残留カーボン7を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノチューブの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの製造方法としては、化学気相成長法(CVD法)が知られている(特許文献1等)。CVD法では、例えば、外表面にニッケル(Ni)やコバルト(Co)などの触媒金属が担持されたシリコン基板を加熱炉内に配置し、加熱炉を700℃〜1300℃程度の高温に昇温した上で、炭化水素などの原料ガスを基板に供給する。すると、原料ガスから熱分解された炭素原子が円筒状に連なるように合成され、触媒金属が担持された基板面から上方向に向かって多数の配列されたカーボンナノチューブが成長していく。成長したカーボンナノチューブは、基板から採取される。採取されたカーボンナノチューブは、例えば、撚糸されることにより、カーボンナノチューブの紡糸繊維を構成する。
【0003】
ところで、カーボンナノチューブが採取された後にも、基板上には、触媒金属が担持されたまま残存する。しかし、一般に、カーボンナノチューブが採取された後の触媒金属は、その外表面にカーボンナノチューブの一部が残留してしまうため、その触媒活性が低下してしまう場合がある。カーボンナノチューブを効率的に生成するためには、触媒金属の触媒活性の低下を抑制することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−027947号公報
【特許文献2】特開2003−277031号公報
【特許文献3】特開2005−330175号公報
【特許文献4】特開2006−232607号公報
【特許文献5】特開平8−100328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、CVD法を用いたカーボンナノチューブの製造工程において、触媒金属の触媒活性の低下を抑制して、カーボンナノチューブを効率的に生成できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
化学気相成長法によって、カーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法であって、
(a)水素をプロトンとして伝導するプロトン伝導層と、酸素イオンを伝導する酸素イオン伝導層とが交互に配列された第1と第2の面を有する成長用基板を準備し、前記成長用基板の第1の面に、カーボンナノチューブの生成を促進するための触媒を担持する工程と、
(b)前記第1の面側に炭素原子と水素原子とを含む原料ガスを供給し、カーボンナノチューブを成長させるとともに、前記プロトン伝導層の前記第1と第2の面に電位差を生じさせることにより、前記カーボンナノチューブの副生成物である水素を、前記プロトン伝導層において、プロトンとして、前記第1の面側から前記第2の面側へと移動させる工程と、
(c)成長した前記カーボンナノチューブを採取した後に、前記第2の面側に酸素を供給して、前記酸素イオン伝導層において、前記第2の面側から前記第1の面側へと酸素イオンを伝導させ、前記第1の面側に残留しているカーボンと反応させて発電することにより、前記カーボンを除去する工程と、
を備える、製造方法。
このカーボンナノチューブの製造方法によれば、カーボンナノチューブの生成工程において、副生成物である水素を除去することができるため、カーボンナノチューブの成長を促進させることができる。また、成長したカーボンナノチューブを採取した後に第1の面側に残留しているカーボンを、第2の面側から供給する酸素との発電反応に供することによって除去し、触媒の触媒活性を回復させることができる。従って、CVD法を用いたカーボンナノチューブの製造工程において、触媒金属の触媒活性の低下を抑制して、カーボンナノチューブを効率的に生成することができる。
【0008】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、CVD法においてカーボンナノチューブを成長させるための成長用基板、その成長用基板を用いたカーボンナノチューブの製造方法および製造装置、それらの製造方法または製造装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】カーボンナノチューブの成長用基板の準備工程を説明するための模式図。
【図2】カーボンナノチューブの生成工程を説明するための模式図。
【図3】触媒層の触媒活性を回復させる工程を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.実施例:
図1〜図3は本発明の一実施例としてのカーボンナノチューブの製造工程を工程順に説明するための模式図である。このカーボンナノチューブの製造工程では、CVD法を用いてカーボンナノチューブを生成する。図1は、カーボンナノチューブを成長させるための成長用基板10の準備工程(第1工程)を示す模式図である。図1には、触媒粒子21,22が担持された成長用基板10の厚み方向における断面の一部が図示されている。
【0011】
成長用基板10は、その2つの面11,12に沿った方向に互いに交互に配列された、酸素伝導部30と、水素伝導部40とを有する。酸素伝導部30は、酸素イオンを伝導する酸素イオン導電体13によって構成されている。水素伝導部40は、プロトンを伝導するプロトン導電体15と、水素を選択的に透過する2つの電極板14とを備える。プロトン導電体15は、2つの電極板14によって、成長用基板10の厚み方向から狭持されている。なお、プロトン導電体15は、成長用基板10の2つの面11,12が略平坦となるように、酸素イオン導電体13より、2つの電極板14の厚みの分だけ薄型化されている。
【0012】
酸素イオン導電体13は、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、酸化セリウム(CeO2)系の酸化物、ランタンガレート(LaGaO3)系の電解質(例えば、La0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.23等)によって構成できる。プロトン導電体15は、例えば、BaCeO3系、SrCeO3系、SrZrO3系のペロブスカイト型の酸化物によって構成できる。2つの電極板14は、パラジウム(Pd)やパラジウム合金などの水素透過性金属によって構成できる。
【0013】
なお、成長用基板10は、例えば、以下の方法により製造することが可能である。
(i)酸素イオン導電体13を1枚の薄板部材として準備し、複数に切断・細分化する。
(ii)プロトン導電体15を1枚の薄板部材として準備し、そのプロトン導電体15を基材として、その両面に、例えばスパッタ法によって電極板14を形成する。そして、電極板14が形成されたプロトン導電体15を、複数に切断・細分化する。あるいは、一方の電極板14を基材として準備し、プロトン導電体15と、他方の電極板14とを、スパッタ法により形成した後、電極板14が形成されたプロトン導電体15を複数に切断・細分化するものとしても良い。
(iii)工程(i)において細分化された酸素イオン導電体13と、工程(ii)において電極板14と一体的に細分化されたプロトン導電体15とを交互に配列して接合する。接合方法としては、セラミックス接着剤を用いるものとしても良く、活性ロウ付けを行うものとしても良い。また、各部材を加熱して溶融させることにより接合するものとしても良く、締結部材などによって外力を加えて、各部材が配列された状態を保持するものとしても良い。
【0014】
上記のように準備された成長用基板10の第1の面11には、さらに、カーボンナノチューブの生成を促進するための触媒金属の粒子21(以後、「CNT触媒21」と呼ぶ)を担持させる。具体的には、触媒金属の薄膜をスパッタ法によって形成し、当該薄膜を加熱することによって、触媒金属を粒子化させて、分散させる。また、第2の面12には、酸素分子の解離とイオン化を促進するための触媒粒子22(以後、「酸素イオン化触媒22」と呼ぶ)を含む触媒層を、例えば、スパッタ法によって形成する。
【0015】
ここで、CNT触媒21としては、ニッケル系触媒や、鉄(Fe)系触媒を用いることができる。また、これらの他に、コバルトやパラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)などの遷移金属の単体や、これらの遷移金属が2種以上含まれる合金を用いることができる。一方、酸素イオン化触媒22としては、LaSrCoO3(LSC)系や、LaSrMnO3(LSM)系のペロブスカイト材料を用いることが可能である。また、酸素イオン化触媒22としては、他に、La0.9Ca0.1MnO3や、PrCoO3を用いることが可能である。
【0016】
なお、第1と第2の面11,12に形成される各触媒層は、導電性を有するように構成されることが好ましい。具体的には、各触媒層に用いられるCNT触媒21や酸素イオン化触媒22として、電子伝導性を有する触媒を用いるものとしても良いし、各触媒層に、CNT触媒21や酸素イオン化触媒22とともに導電フィラーを混入させるものとしても良い。これによって、各触媒層を、成長用基板10の各面11,12において、各水素伝導部40の電極板14同士を電気的に接続させるための導電パスとして機能させることができる。また、後述する触媒活性の回復工程において、各触媒層を成長用基板10の第1と第2の面11,12に設けられた電極層として機能させることができる。
【0017】
図2は、成長用基板10の第1の面11側にカーボンナノチューブ5を成長させる工程(第2工程)を説明するための模式図である。図2は、成長するカーボンナノチューブ5が図示されている点と、第1と第2の面11,12に設けられた各電極板14と電気的に接続された直流電源50が図示されている点と、ガスの流れる方向を示す2つの矢印が図示されている点以外は、図1とほぼ同じである。
【0018】
この第2工程では、成長用基板10を、反応容器(図示せず)の内部に配置し、ヒータ部(図示せず)によって、約700℃〜1300℃の温度範囲で加熱し、CNT触媒21を活性化する。そして成長用基板10の第1の面11側に向かって、原料ガスを供給する。図には、原料ガスの供給方向を白抜き矢印によって図示してある。なお、原料ガスとしては、メタン(CH4)や、アセチレン(C22)、エタン(C26)、プロパン(C38)、ブタン(C410)などの脂肪族炭化水素を用いることができる。また、ベンゼン(C66)などの芳香族環(6員環)を有する環式炭化水素や、これらの炭化水素ガスが2種以上混合された混合ガスを用いるものとしても良い。さらに、原料ガスとしては、上記の炭化水素に換えてエタノール(C25OH)などのアルコールを用いることも可能である。
【0019】
原料ガスが供給されると、原料ガスから熱分解された炭素原子が、CNT触媒21の外表面において5員環や6員環を連続的に形成する。これによって、各CNT触媒21を根本として、配列されたカーボンナノチューブ5が、第1の面11に対してほぼ垂直(図の矢印方向)に成長していく。
【0020】
ここで、カーボンナノチューブ5が成長するのに伴って、カーボンナノチューブ5の根本では、原料ガスに含まれる水素原子によって、副生成物として水素が生成される。一般に、カーボンナノチューブの根本(反応場)における原料ガスの濃度(以下、単に「原料ガス濃度」と呼ぶ)が著しく低下したときに、カーボンナノチューブの成長は停止する(参考文献:J.Phys.Chem.C,Vol.112,No.13,2008参照)。従って、反応場において副生成物として生成された水素の濃度を低減して、原料ガス濃度の低下を抑制することにより、カーボンナノチューブ5の成長を促進させることができる。また、反応場における水素の濃度を低減することにより、原料ガスからの水素の生成を促進させることができ、カーボンナノチューブ5の生成反応の速度を向上させることができる。
【0021】
そこで、この工程では、原料ガスを供給するとともに、直流電源50によって、各水素伝導部40の2つの電極板14の間に、第1の面11側を陽極として電位差を生じさせる。これによって、第1の面11側で生成された水素が、プロトンとして、当該電位差に従って、プロトン導電体15を伝導し、第2の面12側へと移動する。従って、反応場における水素濃度を低下させることができ、カーボンナノチューブ5の成長を促進させることができる。この工程では、さらに、第2の面12側に、水素をパージ(追放)するためのパージガスが供給される。図には、パージガスの供給方向がハッチングを付した矢印によって図示されている。
【0022】
上記第2工程の後、成長用基板10を反応容器から取り出して、カーボンナノチューブ5を刈り取るように採取する。しかし、このとき、CNT触媒21の外表面には、カーボンナノチューブ5の一部のカーボンが付着したまま残留してしまう。以後、本明細書では、CNT触媒21の外表面に残留したカーボンを「残留カーボン」と呼ぶ。このように残留カーボンが存在すると、CNT触媒21の触媒活性は低下してしまう。そこで、本実施例では、以下に説明する工程によって、CNT触媒21の触媒活性を回復させる。
【0023】
図3は、CNT触媒21の触媒活性を回復させる工程(第3工程)を説明するための模式図である。図3は、以下の点以外は、図2とほぼ同じである。即ち、図3には、カーボンナノチューブ5に換えて、残留カーボン7が図示されており、直流電源50に換えて、成長用基板10に電気的に接続された外部負荷100が電球の図記号によって図示されている。また、図3には、原料ガスおよびパージガスの供給方向を示す矢印に換えて、酸素の供給方向を示す白抜き矢印が図示されている。
【0024】
この第3工程では、成長用基板10の第1と第2の面11,12と外部負荷100とを導電線101を介して電気的に接続した上で、反応容器(図示せず)に収容する。そして、成長用基板10を、ヒータ部(図示せず)によって約700℃〜1300℃の温度範囲で加熱し、第2の面12側に酸素を供給する。すると、供給された酸素が、第2の面12においてイオン化して、酸素イオン導電体13の内部を、第2の面12側から第1の面11側へと伝導し、CNT触媒21に付着した残留カーボン7と反応する。より具体的には、この成長用基板10では、酸素と残留カーボン7とで下記の反応式(1),(2)で表される発電反応が発生する。
2+4e-→2O2- …(1)
C+2O2-→CO2+4e- …(2)
即ち、成長用基板10は、残留カーボン7を燃料として、いわゆるリチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池として機能する。
【0025】
この成長用基板10における発電反応によって、残留カーボン7がCNT触媒21の外表面から除去され、CNT触媒21の触媒活性が回復するとともに、発電された電力が、導電線101を介して外部負荷100へと供給される。なお、外部負荷100は、電球の図記号によって図示されているが、例えば、成長用基板10を加熱するためのヒータ部であるとしても良いし、電力を蓄えるためのバッテリであるものとしても良い。
【0026】
この第3工程を経ることにより、触媒活性が回復された成長用基板10を用いて、再び、カーボンナノチューブ5を効率よく生成することが可能となる。また、第3工程において発電された電力を利用することにより、カーボンナノチューブの製造工程におけるエネルギ効率を向上させることができる。このように、本実施例の製造工程によれば、CVD法を用いたカーボンナノチューブの製造工程において、触媒金属の触媒活性の低下を抑制して、カーボンナノチューブを効率的に生成できる。
【符号の説明】
【0027】
5…カーボンナノチューブ
10…成長用基板
11…第1の面
12…第2の面
13…酸素イオン導電体
14…電極板
15…プロトン導電体
21…CNT触媒
22…酸素イオン化触媒
30…酸素伝導部
40…水素伝導部
50…直流電源
100…外部負荷
101…導電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長法によって、カーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法であって、
(a)水素をプロトンとして伝導するプロトン伝導層と、酸素イオンを伝導する酸素イオン伝導層とが交互に配列された第1と第2の面を有する成長用基板を準備し、前記成長用基板の第1の面に、カーボンナノチューブの生成を促進するための触媒を担持する工程と、
(b)前記第1の面側に炭素原子と水素原子とを含む原料ガスを供給し、カーボンナノチューブを成長させるとともに、前記プロトン伝導層の前記第1と第2の面に電位差を生じさせることにより、前記カーボンナノチューブの副生成物である水素を、前記プロトン伝導層において、プロトンとして、前記第1の面側から前記第2の面側へと移動させる工程と、
(c)成長した前記カーボンナノチューブを採取した後に、前記第2の面側に酸素を供給して、前記酸素イオン伝導層において、前記第2の面側から前記第1の面側へと酸素イオンを伝導させ、前記第1の面側に残留しているカーボンと反応させて発電することにより、前記カーボンを除去する工程と、
を備える、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248006(P2010−248006A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96591(P2009−96591)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】