説明

カーボンナノチューブの製造装置および製造方法

【課題】触媒を担持した粒状基材を積層した粒状基材の集合体の触媒から効率良く、CNTを合成できるCNTの製造装置および製造法を提供する。
【解決手段】合成炉と、合成炉に連通するガス供給管およびガス排気管と、合成炉内を所定温度に加熱するための加熱手段とを備え、ガス供給管を介して供給される原料ガスを、加熱手段により加熱された合成炉の加熱領域内に供給して、粒状基材に担持された触媒からカーボンナノチューブを成長させ、ガス排気管より、原料ガスを排気するカーボンナノチューブの製造装置であって、合成炉内に設けられ、触媒を担持した粒状基材の集合体を保持し、かつ原料ガスを通過させるための複数の細孔を有する保持具と、保持具に運動を与え、粒状基材を動かす保持具揺動具と、保持具に対向して配設された、ガス供給管から供給される原料ガスを複数の方向に分配するガス流形成手段と、を備えるカーボンナノチューブ製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造装置および製造方法に関する。特に、粒状基材の集合体の触媒から効率良く、カーボンナノチューブを合成できるカーボンナノチューブの製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料、および生体関連材料などの機能性新素材へのカーボンナノチューブ(以下、CNTとも称する)の展開が期待されており、その用途、品質、および量産性などに対する検討が精力的に進められている。
【0003】
CNTの中でも単層CNTは、電気的特性(極めて高い電流密度)、熱的特性(ダイアモンドに匹敵する熱伝導度)、光学的特性(光通信帯波長域での発光)、水素貯蔵能、および金属触媒担持能などの各種特性に優れている上、半導体と金属との両特性を備えているため、電子デバイス蓄電デバイスの電極、MEMS部材、および機能性材料のフィラーなどの材料として注目されている。
【0004】
CNTの製造方法の一つに、化学気相成長法(以下、CVD合成法とも称する)が知られている(非特許文献1、特許文献1、2参照)。CVD合成法は、約500℃〜1000℃の高温雰囲気下で炭素化合物などの原料ガスを触媒の触媒微粒子と接触させることを特徴としており、触媒の種類や配置、あるいは原料ガスの種類や、還元ガス、キャリアガス、合成炉や反応条件といった態様を様々に変化させた中でのCNTの製造が可能であり、CNTの大量生産に適したものとして注目されている。
【0005】
また、CVD合成法は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)とのいずれも製造可能である上、触媒を担持した基材を用いることで、基材面に配向した多数のCNTを製造することができる、という利点を備えている。
【0006】
しかしながら、従来のCVD合成法では、CNTの合成過程で発生する炭素系不純物が触媒微粒子を被覆し、触媒が容易に失活し、CNTが効率良く成長できなかった。触媒の活性は通常数パーセント程度で、寿命は1分程度であった。
【0007】
本発明者らは、反応雰囲気中に水分などの触媒賦活物質を極微量存在させることにより触媒効率が劇的に向上するのを見出し、より高効率で、高純度、高比表面積の単層CNT集合体を製造することが可能であることを非特許文献1において報告した。
【0008】
この方法では、CNTの合成雰囲気中に添加した触媒賦活物質が、触媒微粒子を覆った炭素系不純物を取り除いて、触媒の地肌を清浄化する結果、著しく触媒の活性が向上するとともに寿命が延びる。この触媒賦活物質の添加により、触媒の活性が高められ、且つ寿命が延長した結果、従来は高々2分間程度で終了した単層CNTの成長が数十分間継続する上、触媒活性は従来の高々数パーセントから、84%にも改善することになった。
【0009】
この結果、従来の高々4μmの高さから、その高さが数百倍著しく増大した(非特許文献1においては、高さ2.5ミリで、4μmから625倍の改善)単層CNT集合体が得られることとなった。これは、触媒賦活物質存在下においては、触媒活性が著しく向上するため、高炭素濃度環境下においても、触媒は活性を失わず、長時間のCNTの成長が可能となるとともに、成長速度が著しく向上するためである。ここで、高炭素濃度環境下とは、原料ガス、雰囲気ガス、および触媒賦活物質を含む原料含有ガスに対する原料ガスの割合が2%〜20%程度の成長雰囲気のことを言う。
【0010】
CNTを合成する基材には、平板状の基材や粒状の基材が知られているが、粒状の基材は触媒を均一に塗布し易く取り扱いが容易であり、しかも体積の割に表面積を大きくとれるので、基材として好適である。さらには、粒状の基材を積層させた積層体は、大量にCNTを生産する上で好ましい。
【0011】
CVD合成法を用い、粒状の基材からCNTを製造する方法としては、炭素含有化合物と搬送装置に保持した、固体担体表面に触媒金属を担持した粉末または顆粒状の固体触媒を加熱炉内に連続的に供給し、加熱炉内の500〜940℃に加熱された温度帯域にて搬送装置に保持した固体触媒と炭素含有化合物を接触させCNTを生成し、加熱炉内を通過して出てきた搬送装置に保持されたCNTを連続的に回収する方法が提案されている(特許文献1)。
【0012】
また、炭素源の蒸気を触媒粉末に接触させることにより該炭素源蒸気を熱分解させてCNTを生成するCNT製造方法であって、触媒粉末と炭素源蒸気との接触は、軸の一端側たる上流側よりも他端側たる下流側が低くなるように傾斜させて配置された筒体の内側に形成されたチャンバのうち軸方向の少なくとも一部範囲に設定された反応ゾーンにおいて行われ、反応ゾーンに面する筒体の内周壁には凸部が設けられており、筒体を軸回りに回転させることにより、内周壁上にある触媒粉末を凸部に引っ掛けて持ち上げること、およびその持ち上げられた触媒粉末をチャンバの内部空間において炭素源蒸気を含む雰囲気に接触させつつ落下させることを繰り返しながら触媒粉末を上流側から下流側に移動させるCNT製造方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3772754号公報
【特許文献2】特開2010−37113号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Kenji Hata et al, Water-Assisted Highly Efficient Synthesis of Impurity-Free Single-Walled Carbon Nanotubes, SCIENCE, 2004.11.19, vol.306, p.1362-136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
原料ガスおよび/または触媒賦活物質を、触媒を担持した粒状基材を積層した集合体中の触媒に接触させてCNTを合成する場合、原料ガスと触媒賦活物質を粒状基材の集合体全体に渡って均一に触媒に供給するのが困難であるという問題がある。これは、原料ガスおよび/または触媒賦活物質は、複数回、粒状基材の集合体中を拡散する際に、触媒および粒状基材と複数回接触するが、原料ガスおよび/または触媒賦活物質は触媒および粒状基材と接触する度に消費されるためである。
【0016】
このような問題点に鑑み、本発明の主な目的は、触媒を担持した粒状基材を積層した粒状基材の集合体の触媒に、均一に原料ガスおよび/または触媒賦活物質を接触させ、触媒から効率良く、CNTを合成できるCNTの製造装置および製造法を提供することを課題とする。
【0017】
また、形成されたCNTへの炭素不純物の付着を抑制し、高純度、高比表面積のCNT集合体を製造する装置および製造法を提供することを別の目的とする。
【0018】
さらには、本発明の別の課題は、合成炉中で原料ガスの分解を促進、最適化し、CNT成長に最適な形態の原料ガスを触媒に接触させ、高効率で、高純度、高比表面積のCNT集合体を製造する装置および方法を提供することを目的とする。
【0019】
なお、本明細書で言う「CNT集合体」とは、粒状基材から一定の方向に成長した複数のCNTの集合体を言い、このCNT集合体をまとめて粒状基材から剥離して得られた物体でも良い。その場合、CNT集合体は粉体状であっても良い。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ製造装置は、合成炉と、前記合成炉に連通するガス供給管およびガス排気管と、前記合成炉内を所定温度に加熱するための加熱手段とを備え、前記ガス供給管を介して供給される原料ガスを、前記加熱手段により加熱された前記合成炉の加熱領域内に供給して、粒状基材に担持された触媒からカーボンナノチューブを成長させ、前記ガス排気管より、原料ガスを排気するカーボンナノチューブの製造装置であって、前記合成炉内に設けられ、触媒を担持した前記粒状基材の集合体を保持し、かつ前記原料ガスを通過させるための複数の細孔を有する保持具と、前記保持具に運動を与え、前記粒状基材を動かす保持具揺動具と、前記保持具に対向して配設された、前記ガス供給管から供給される原料ガスを複数の方向に分配するガス流形成手段と、を備える。
【0021】
前記カーボンナノチューブ製造装置において、前記保持具揺動具は、前記保持具に回動、振動、篩動作の少なくとも1つの運動を付与する。
【0022】
前記カーボンナノチューブ製造装置において、前記ガス排気管は、前記保持具に対して前記ガス流形成手段の反対側に、前記保持具に対向して配設される。
【0023】
前記カーボンナノチューブ製造装置において、前記保持具が直線状に延びる軸を有しており、軸を横倒しにして、軸方向の上流側の一端側よりも下流側の他端側の方が低くなるように、前記保持具が傾斜している。
【0024】
前記カーボンナノチューブ製造装置において、前記触媒を担持した粒状基材を前記合成炉に導入する触媒供給部と、カーボンナノチューブが成長した前記触媒を担持した粒状基材を抜き出す回収部とをさらに備え、前記合成炉内に前記触媒を担持した粒状基材を連続的に供給して、カーボンナノチューブを製造する。
【0025】
前記カーボンナノチューブ製造装置において、前記保持具が多段に設けられている。
【0026】
前記カーボンナノチューブ製造装置において、前記保持具に担持された前記触媒を担持した粒状基材の表面に前記原料ガスを略均一の量で、かつ略等しい滞留時間をもって接触させる滞留時間調整手段を備えている。
【0027】
前記カーボンナノチューブ製造装置において、前記滞留時間調整手段は、乱流抑制手段を備えている。
【0028】
前記カーボンナノチューブ製造装置において、前記合成炉、前記保持具、前記留時間調整手段、前記ガス流形成手段、前記乱流抑制手段の何れか少なくとも一つが耐熱合金で形成されている。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、触媒を担持した粒状基材から効率良く、CNTを合成できるCNTの製造装置および製造方法が提供される。また、形成されたCNTへの炭素不純物の付着を抑制し、高純度、高比表面積のCNT集合体を製造する装置および製造方法が提供される。さらに、原料ガスの分解を促進、最適化し、CNT成長に最適な形態の原料ガスを触媒に接触させ、高効率で、高純度、高比表面積のCNT集合体を製造する装置および製造方法が提供される。本発明の製造装置および製造方法によると、高収量で、高比表面積、高純度のCNT集合体を製造できるため、産業界への利用が十分に期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造装置100の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るガス流形成手段123の形状・形態の一例を示す模式図である。
【図3】粒状基材の集合体11の模式図である。
【図4】本発明の一実施例に係る製造装置200を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施例に係る製造装置300を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施例に係る製造装置400を示す模式図である。
【図7】本発明の一実施例に係る製造装置500を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明のカーボンナノチューブの製造装置および製造方法について添付の図面を参照して詳細に説明する。本発明のカーボンナノチューブの製造装置および製造方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0032】
本発明が適用される本実施形態の製造装置の一例を図1に示す。製造装置100は、例えば石英ガラス等からなる合成炉110と、合成炉110と連通するガス供給管120と、合成炉110と連通するガス排気管130と、合成炉110を外囲して設けられた例えば抵抗発熱コイルなどからなる加熱手段140と、炉内温度を所定の温度に調整するための加熱温度調整手段143と、加熱手段140と加熱温度調整手段143により、所定温度に加熱された合成炉110内の加熱領域145と、を備える。合成炉110の上流側および下流側の開口は、上流蓋151および下流蓋153によって塞がれている。
【0033】
合成炉110内には、触媒を担持した粒状基材10を積層した粒状基材の薄膜状の集合体11を保持することができ、かつガス供給管120から供給される気体を通過させることができる細孔を備える保持具160が配置されている。保持具160には、保持具揺動具163が接続されており、保持具160に、揺動、回動、振動、篩動作、周期運動などの運動を与える。本実施形態においては、揺動、振動、篩動作、周期運動等の運動により、粒状基材の集合体11中の粒状基材10を動かして、揺動、振動、篩動作、周期運動、および攪拌、および/または移動を与えることができる。保持具160および粒状基材の集合体11の上方または下方の加熱領域145内には、ガス供給管120から供給される原料ガスを分配・分散させ、複数の方向へ流れる原料ガス流を形成させる、ガス流形成手段123が配置されている。ガス流形成手段123は、保持具160、および/または、粒状基材の集合体11に対して、対向して配設されていて、保持具160に対向する面の面内の複数の方向に原料ガスの流れを形成することが好ましい。またガス流形成手段123には、保持具160に対して略垂直方向の原料ガス流を形成する複数のガス噴出手段125が設けられている。ここで、ガス排気管130は保持具160および粒状基材の集合体11に対して、ガス流形成手段123の反対側に、保持具160に対向して合成炉10内に配設するものとする。(ガス流形成手段123が保持具160の上方に配設されている場合、ガス排気管130は、保持具160の下方に配設する。)
【0034】
このような保持具160と、それと対向するガス流形成手段123を用いることにより、ガス供給管120から供給された原料ガスを、保持具160と対向する面に展開・分散してから、粒状基材の集合体11表面の垂直方向から触媒に供給し、触媒と接触させることができる。原料ガスは粒状基材の集合体11と、保持具160を通過して、反対側に設けられた、ガス排気管130より、排気される。このような、製造装置100の構成は、原料ガスを、粒状基材の集合体11の触媒に均一に原料ガス、および/または、触媒賦活物質を接触させることに効果がある。
【0035】
さらには、製造装置100は、触媒を担持した粒状基材10を合成炉110に導入する触媒供給部170と、カーボンナノチューブの製造された粒状基材10を抜き出す回収部175を設けても良い。このようにすれば、合成炉110内に触媒を担持した粒状基材10を連続的に供給、回収することができる。
【0036】
製造装置100は、CNTの原料となる炭素化合物を収容する原料ガスボンベ181、触媒賦活物質を収容する触媒賦活物質ボンベ183、原料ガスや触媒賦活物質のキャリアガスを収容する雰囲気ガスボンベ185、および触媒を還元するための還元ガスボンベ187を備えており、これらのボンベからのそれぞれのガスの供給量をガスフロー装置で制御可能な炭素重量フラックス調整手段180を備えている。ガス供給管120に接続する炭素重量フラックス調整手段180は最適化された量の原料ガスを触媒に接触させるために好適である。
【0037】
ガス供給管120、ガス排気管130、並びに各ボンベに接続した供給部の適所には、逆止弁、流量制御弁、および流量センサが設けられており、図示されていない制御装置からの制御信号によって各流量制御弁を適宜に開閉制御することにより、所定流量の原料ガス、触媒賦活物質、雰囲気ガス、並びに還元ガスが、ガス供給管120から反応プロセスに応じて連続的にあるいは間欠的に合成炉110内に供給されるようになっている。
【0038】
〔合成炉〕
合成炉とは、粒状基材の集合体11を受容し、CNTの合成を行う炉のことを指す。合成炉110の材質は、CNTの成長を阻害せず、成長温度で粒状基材の集合体11を受容することができ、炉内の均熱性を保ち得るものとすると良い。合成炉110は、直管状に(すなわち、軸が直線状に延びるように)形成されており、その断面形状は、四角もしくは、円形、楕円形、卵型、長円形等の丸みを帯びた形状であることが好ましい。
【0039】
合成炉110は、軸を横倒しにして、軸方向の上流側の一端側よりも下流側の他端側のほうが低くなるように、水平から所定の角度だけ傾斜して配置しても良い。この傾斜角(合成炉110の軸と水平とのなす角)の大きさは、製造装置100の構成(合成炉110の内径、加熱領域145の長さ等)や運転条件、CNTの生成効率等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されない。通常は、傾斜角が0°を超えて凡そ30°以下となるように配置することが適当であり、傾斜角を凡そ1°以上15°以下(例えば凡そ3°〜7°)とすることが好ましい。このようにすれば、触媒を担持した粒状基材10は攪拌を繰り返しつつ加熱領域145を次第に上流側から下流側へと移動するため、連続的にCNTを合成することができる。合成炉110は、粒状基材10を連続的に供給・取り出しを行うシステムを装備していてもよい。
【0040】
〔ガス供給管〕
ガス供給管は炭素重量フラックス調整手段180から供給された原料ガス、触媒賦活物質、雰囲気ガス、還元ガスなどを、合成炉110内、および/またはガス流形成手段123に供給する配管を指す。なお、ガス供給管120は、ガスのみならず、液体を供給してもよい。ガス供給管120は、合成炉110の上壁、および/または、側壁に設けられた、開口から合成炉110内へ挿設するのが、原料ガスを縦(鉛直)方向から供給するために好ましい。配管の一部は合成炉110の中に挿入されていてもよく、加熱領域145内にその末端が設けられていてもよい。合成炉110の中に挿入されている配管は各種ガスと反応せず、高熱下においてもその品質、形状を保ち得るものであればよく、石英、各種金属材料などが挙げられる。
【0041】
〔ガス排気管〕
ガス排気管は、合成炉110から、雰囲気ガス、触媒賦活物質、還元ガス、原料ガス等を排気する配管、ダクト等の手段を指す。なお、ガス排気管130は、ガスのみならず、液体を排気してもよい。ガス排気管130の材料は各種ガスと反応せず、その品質、形状を保ち得るものであればよく、石英、各種金属材料などが挙げられる。ガス排気管130は、合成炉110の下壁、および/または、ガス供給管120より下側の側壁に設けられた、開口から合成炉110内へ挿設するのが好ましい。このように、ガス供給管120とガス排気管130を配設すれば、合成炉110内で原料ガスが縦(鉛直)方向から触媒に供給され、後述するように、乱流を抑制し、粒状基材の集合体11表面に、原料ガスを均一の量で、かつ等しい滞留時間をもって接触させるのに好ましい。
【0042】
〔加熱手段および加熱領域〕
加熱手段は、合成炉110を外囲するように設けられた合成炉110を加熱するための装置を指す。電熱線を用いるもの、赤外線を用いるものなど既存の加熱手段を用いることができる。なお、本明細書で言う加熱領域とは、加熱手段140により、加熱された合成炉110の内部の空間を言う。
【0043】
〔ガス流形成手段〕
ガス流形成手段とは、ガス供給管120から供給される原料ガスを、複数の方向に分配する手段のことである。ガス流形成手段123は、原料ガスを複数の方向に分配・分散することができれば、材質、形状等は特に制限されず、公知のものを適宜用いることができる。ガス流形成手段123の形状・形態としては、図2に示すように、円盤状(図2(a))、円筒状(図2(b))、平面上で中空構造を有するものや、パイプ状の配管を用いるもの、複数の枝分かれするパイプ状の配管(図2(c)及び図2(d))や、これらの組み合わせを例示できる。ガス流形成手段123を用いれば、ガス供給管120から点状に供給される原料ガスを、平面状に分配・分散させ、粒状基材の集合体11表面の単位面積あたりの供給量を均一にしてかつ等しい滞留時間をもって接触させるために格段の効果を奏する。
【0044】
ガス流形成手段123を用いて、複数の方向に分配される原料ガスは、異なる方向に流れる原料ガス流を形成する。原料ガス流の流れる方向の軸線の間の最大角度が、90度以上(より好ましくは180度以上)になることが、ガス供給管120から点状に供給される原料ガスを、平面状に分配・分散させるためには好ましい。また、ガス流形成手段123が対称軸を有し、対称軸上にガス供給管120が連通されていることは、ガス供給管120から点状に供給される原料ガスを、平面状に分配・分散させるためには好ましい。また、粒状基材の集合体11表面に対して略平行方向な複数の方向に原料ガス流を形成するガス流形成手段123は、上記効果を得るために好ましい。
【0045】
略平行方向とは、ガス流形成手段123により、複数の方向に分配・分散された原料ガスが流れる方向の軸線が粒状基材の集合体11の表面の法線と成す角が45以上135°未満となるような方向を示す。ここで、均一の供給量とは、本発明の効果が得られる程度に、原料ガスの供給が均一であることを意味する。すなわち、粒状基材の集合体11のおおよそ全面からCNTが合成できる程度であればよい。
【0046】
〔ガス噴出手段〕
ガス噴出手段とは、ガス供給管120から合成炉110内に供給された、原料ガス、触媒賦活物質、雰囲気ガス、還元ガス等を合成炉110内で噴出する手段である。ガス噴出手段125としては、配管、中空部材などから構成されるガス流形成手段123に配設された噴出孔や、ノズル、実質的な噴出孔が無数にあるようなポーラス材料を例示できるが、上記の効果があれば、適宜の形態の物を用いることができる。
【0047】
ガス噴出手段125は複数、ガス流形成手段123に設けるのが、上記効果を得るために好ましい。ガス噴出手段125の配置は、複数のガス噴出手段125から噴出されるガスが、均一な原料ガス流を形成するようにすることが好ましい。均一とは、原料ガス流の断面平面を、原料ガスが均一の量で流れることを示す。粒状基材の集合体11表面に対して略垂直方向の原料ガス流を形成するように配設された、複数のガス噴出手段125は、上記効果を得るために好ましい。また、複数のガス噴出手段125が、粒状基材の集合体11表面に対して、略平行な同一面内に配設されていることは、上記効果を得るために好ましい。
【0048】
略垂直方向とは、ガス噴出手段125の、噴射軸線が粒状基材の集合体11表面の法線と成す角が0以上45°未満となるような方向を示す。つまりガス噴出手段125から噴出するガス流の方向が、粒状基材の集合体11に鉛直方向から接触するようにされていることを指す。
【0049】
ガス噴出手段125とガス供給管120との間の角度の最大値が、90度以上(より好ましくは180度以上)になることが、ガス供給管120から点状に供給される原料ガスを、平面状に分配・分散させるためには好ましい。
【0050】
〔触媒〕
本発明の実施において粒状基材10に担持される触媒としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができるが、具体的には、鉄・ニッケル・コバルト・モリブデン、およびこれらの塩化物並びに合金や、これらがさらにアムミニウム・アルミナ・チタニア・窒化チタン・酸化シリコンと複合化、または重層化したものでもよい。
【0051】
本発明の実施形態における触媒の存在量は、これまでのCNT製造に実績のある範囲内であればよいが、例えば鉄やニッケルの金属薄膜を用いる場合、その厚さは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がより好ましく、0.8nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0052】
〔触媒形成法〕
粒状基材10への触媒の形成は、ウェットプロセスまたはドライプロセスのいずれをも適用することができる。具体的には、スパッタリング蒸着法や、金属微粒子を適宜な溶媒に分散させた液体の塗布・焼成法などを適用することができる。
【0053】
〔粒状基材〕
粒状基材とは、CNTを成長させる触媒を担持することのできる部材であり、最低限400℃以上の高温でも形状を維持できるものであれば適宜のものを用いることができる。粒状とは、顆粒状、粉末状、薄片状、ブロック状などの形態を含む広い意味で解釈する。すなわち、粒状基材10は、積層させることができ、かつ、積層体中を原料ガス等の気体が拡散でき、かつ、攪拌することができる形態であればよい。
【0054】
粒状基材10を構成する材質としては、シリコン・石英・マグネシア・スピネル・カルシア・ドロマイト・クロミア、ジルコニア・チタニア・ムライ・ガラス・マイカ・グラファイト・アルミナ・マグネシア、酸化マグネシウム・チタン酸カリウム・酸化ジリコニウム・ゼオライト・シリカ・酸化チタン・ダイヤモンドなどの非金属、鉄・ニッケル・クロム・モリブデン・タングステン・チタン・アルミニウム・マンガン・コバルト・銅・銀・金・白金・ニオブ・タンタル・鉛・亜鉛・ガリウム・インジウム・ゲルマニウム・砒素・燐・アンチモンなどの金属、並びにこれらの金属を含む合金および酸化物、並びにセラミックおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0055】
粒状基材10を構成する材質の好適例として、アルミナ、シリカ、ゼオライト、マグネシア、チタニア、ジルコニアなどの無機酸化物を挙げることができる。粒状基材10としては、アルミナ・シリカがCNTを効率良く成長させるためには好ましい。
【0056】
粒状基材10のサイズに格別な制限はないが、粒状基材10の平均径を著しく凌駕する高さのCNT集合体を製造することは容易ではないため、粒状基材10の平均径は101μm以上10cm以下であり、より好ましくは200μm以上5cm以下、さらに好ましくは200μm以上3cm以下である。
【0057】
この範囲に平均径がある粒状基材10を用いた場合には、数十μm以上の高さのCNT集合体を製造することができる。これに対し、粒状基材10の平均径が101μm未満の場合には、保持具160上に粒状基材10を保持することが困難となる。粒状基材10の平均径が200μm以下、および/または、3cm以上の場合には、積層体全体にわたり、CNT集合体を製造することが困難となる。また、粒状基材10の平均径が10cmを超える場合には、ガス流形成手段123などを用いて原料ガスおよび触媒賦活物質を供給する場合に、粒状基材10の表面全体に均一に原料ガスおよび触媒賦活物質を供給することが困難となるため、CNT集合体を製造することが困難になる。
【0058】
〔粒状基材の集合体〕
図3は、粒状基材の集合体11の模式図である。粒状基材の集合体11に含まれる粒状基材10の表面に担持した触媒からCNT1が合成され、粒状基材10の触媒表面にはCNT集合体が形成される。触媒を担持した粒状基材10を積層させた積層体を粒状基材の集合体11として用いることは、大量にCNT集合体を生産する上で好ましい。触媒を担持した粒状基材10を積層させ、積層体とした場合には、触媒賦活物質、および原料ガスは、複数回、触媒、および粒状基材10と接触する。触媒賦活物質および原料ガスは、触媒および/または粒状基材10と接触する度に消費されるため、均一で最適な量の触媒賦活物質および原料ガスを積層体全体に渡って供給することが著しく困難となる。
【0059】
そのため、粒状基材の集合体11を薄膜状にし、原料ガスおよび触媒賦活物質が積層体の厚み方向を拡散・通過するようにすることが好ましい。粒状基材の集合体11の形態をこのようにすれば、触媒賦活物質および原料ガスは、過大に消費される前に、粒状基材の集合体11を通過するため、均一で最適な量の触媒賦活物質および原料ガスを粒状基材の集合体11全体に渡って供給することが容易になる。
【0060】
薄膜状の粒状基材の集合体11の好ましい厚みは、10cm以下、好ましくは8cm以下、更に好ましくは5cm以下である。粒状基材の集合体11の厚みが厚いと原料ガスおよび触媒賦活物質が、粒状基材の集合体11を通過する間に消費され、粒状基材の集合体11の上側と下側で不均一に供給されてしまう。
【0061】
〔保持具〕
保持具とは、粒状基材の集合体11を保持でき、かつ原料ガス等の気体を通過させることで原料ガス等の気体を粒状基材の集合体11から排気することができる細孔を備える手段のことである。さらには、保持具は、少なくともその一部が回動、振動、篩動作、周期運動等の運動をすることができ、運動により、粒状基材の集合体11中の粒状基材10を動かしたり、攪拌したりすることができる。保持具160の形態としては、粒状基材10を載せるか、あるいは内部に保持できるような把持体であれば特にその形状等は問わない。
【0062】
保持させるとは、保持具160上に置く、配設する等の広い意味で解釈する。保持具160の形態として、多孔質、網目、メッシュを例示でき、加工の容易性から、網目、メッシュが好ましい。保持具160の材質としては、CNTの成長を阻害せず、成長温度で粒状基材の集合体11を受容することができ、炉内の均熱性を保ち得るものとすると良い。保持具160の材質として、金属細線、金属酸化物繊維、セラミックス多孔質が好ましい。
【0063】
保持具160の形状としては、粒状基材の集合体11を薄膜状に保持できる形状が好ましい。また、保持具160を運動させるために、保持具160は直線状に延びる軸を有することが好ましい。
【0064】
保持具160が、揺動、振動する場合には、保持具160は平面状に形成されていることが効率良く揺動、振動させるために好ましい。また、保持具160が回転する場合には、保持具160は直管状に(すなわち、軸が直線状に延びるように)形成されていることが好ましく、その断面形状は、円形、楕円形、卵型、長円形等の丸みを帯びた形状であることが好ましい。
【0065】
保持具160の少なくとも一部は、原料ガス等の気体が実質的に通過可能で、保持具160を介して、原料ガス等の気体を排気する。これにより、保持具160に保持された粒状基材の集合体11の厚み方向へ気体が拡散し、それにより粒状基材の集合体11に担持された触媒と気体とが接触できる。そのため、保持具160は多数の細孔を有する形態であることが好ましい。
【0066】
保持具160の細孔は、少なくとも保持具160の一部領域で、粒状基材10がこぼれ落ちず、また、粒状基材10が細孔を塞がない、サイズ、形状とする。そのため、細孔径は、粒状基材10の平均径と同程度、もしくは、より小さくする必要がある。また、小さな細孔は粒状基材10により塞がれて、気体が保持具160を通過しない可能性がある。また、細孔のサイズが均一で、かつ規則正しく配置されていることが好ましい。細孔のサイズが不均一であると、大きな細孔から、粒状基材10がこぼれ落ちる可能性がある。保持具160の細孔は供給される原料ガスを通過させ、排気管から排出される。
【0067】
保持具160の細孔径、細孔ピッチ、厚み等は上述した理由で、概ね適正な細孔径としては0.05mm以上2cm以下、好ましくは0.1mm以上10mm以下の範囲がよい。適正な細孔ピッチは細孔径の1.5倍以上10倍以下、好ましくは1.5倍以上5倍以下がよい。適正な保持具160の厚みは0.1mm以上50mm以下、好ましくは0.5mm以上10mm以下の範囲にするのがよい。
【0068】
保持具160として網を用いる場合、網は、平織金網、綾織金網、ロッククリンプ金網、フラットトップ金網など、網目が格子状の網であれば、その種類を問わない。網の網目の大きさおよび枚数は、保持すべき粒状基材10の大きさを考慮して決定される。
【0069】
保持具160は、保持具揺動具163と接続される。保持具揺動具163は、保持具160に回動、振動、篩動作、周期運動などの運動を付与できれば、モーター、バイブレーター、カム等公知の何れの手段を用いてもよい。保持具160を運動させることにより、粒状基材10を動かし、回動、振動、篩動作、周期運動、および攪拌、および/または移動させることができるものとする。粒状基材10を攪拌させることにより、原料ガス、および/または、触媒賦活物質を均一に粒状基材の集合体11の触媒に接触させることができ好ましい。
【0070】
保持具160は、軸を横倒しにして、軸方向の上流側の一端側よりも下流側の他端側のほうが低くなるように、水平から所定の角度だけ傾斜して配置してもよい。この傾斜角(保持具160の軸と水平とのなす角)の大きさは、保持具160の運動により粒状基材10が、上流から下流に移動するように、設定する。このようにすれば、連続的に、CNTを生産することができ、大量のCNTを製造する上で著しい効果がある。
【0071】
なお、保持具160は、多段に設けてもよい。保持具160を多段に設けると、合成炉により、多くの触媒を導入することができる。各保持具160に対向してガス流形成手段を多段で設けてもよい。
【0072】
〔触媒供給部〕
触媒供給部170は、触媒と担持した粒状基材10を貯めておく触媒貯留槽171と、触媒貯留槽171から合成炉110の上流蓋151を貫通して設けられたスクリューフィーダ173とを備える。スクリューフィーダ173は、合成炉110の上流側から下流に向かって該合成炉110の軸と略平行に延び、スクリューフィーダ173の先端は加熱領域145の上流側近傍に至っていることが好ましい。粒状基材10は、触媒貯留槽171からスクリューフィーダ173を介して所定の速度で送り出され、スクリューフィーダ173の先端に設けられた触媒供給口174から合成炉110内の保持具160に供給される。
【0073】
〔回収部〕
合成炉110の下流側を塞ぐ下流蓋153には、加熱領域145を通って合成炉110内を上流側から下流側へと送られてきた粒状基材の集合体11(典型的には、生成したCNTが粒状基材の集合体11に付着している。以下、これを「CNT付き粒状基材13」という。)を回収する回収部175が連結されている。回収部175は、CNT付き粒状基材の集合体15に塊(凝集)がある場合に塊をほぐす解砕装置176を備える。
【0074】
合成炉110の下流端に到達したCNT付き触媒基材13は、下流端から落下して解砕装置176に導入される。解砕装置176としては、粉体の塊をほぐす目的で使用される一般的な解砕機(例えば、表面に多数の解砕ピンが植え込まれた二つの円筒体を近接配置して逆方向に回転させ、これら円筒体の間に被処理物を導入して解砕する方式のもの等)を適宜選択して用いることができる。解砕装置176を経たCNT付き粒状基材13は、移送管177内を通って冷却されつつ取出口178へと送られる。
【0075】
移送管177としては、例えば、中空の管内に同軸のスクリューが収容された構成のものを用いることができる。取出口178は、間隔をあけて配置された二つのバルブ179を備える。バルブ179を開閉することにより、装置の運転を止めることなく(すなわち、装置を連続運転しつつ)CNT付き粒状基材13を外部に取り出すことができる。なお、移送管177は空冷により内容物(CNT付き粒状基材の集合体15)が冷却されるように構成されてもよく、あるいは該内容物を強制的に冷却する手段(例えば、一般的なロータリークーラ)を備えてもよい。CNT付き粒状基材13を冷却する前に解砕装置176を通すことにより、塊を適切に(例えば、CNTの損傷を抑えて)ほぐすことができる。
【0076】
〔製造装置の材質〕
製造装置の一部、保持具160、ガス流形成手段123、ガス噴出手段125の材質は、その機能を発現できるものであればよく、公知の物を適宜用いることができる。このような、生産装置の一部、保持具160、ガス流形成手段123、ガス噴出手段125の材質は耐熱合金とすると良い。耐熱合金は、加工性、機械的強度に優れるために、構造が複雑な形状を生産装置の一部の作るために好ましい。耐熱合金としては、耐熱鋼、ステンレス鋼、ニッケル基合金等が挙げられる。
【0077】
なお、鉄(Fe)を主成分として他の合金濃度が50%以下のものが耐熱鋼と一般に呼ばれる。また、Feを主成分として他の合金濃度が50%以下であり、クロム(Cr)を約12%以上含有する鋼は一般にステンレス鋼と呼ばれる。また、ニッケル基合金としては、ニッケル(Ni)にモリブデン(Mo)、CrおよびFe等を添加した合金が挙げられる。
【0078】
具体的には、SUS310、インコネル600、インコネル601、インコネル625、インコロイ800、MCアロイ、Haynes230アロイなどが耐熱性、機械的強度、化学的安定性、コストなどの点から好ましい。
【0079】
〔浸炭防止層〕
製造装置の一部、特にガス流形成手段123、ガス噴出手段125の表面又は裏面の少なくともいずれか一方には、浸炭防止層を形成してもよい。もちろん、表面および裏面の両面に浸炭防止層が形成されていることが望ましい。この浸炭防止層は、製造装置100の一部と原料ガスの化学反応を抑制するために好ましい。また、原料ガスの分解により、製造装置100の一部が浸炭されて変形してしまうのを防止するために好ましい。
【0080】
浸炭防止層は、単独で触媒活性を示さない金属元素又はその化合物によって構成されることが望ましい。その材料としては、例えばアルミナ(Ai)、酸化ケイ素(SiO)、ジルコニア(ZrO)、酸化マグネシウム(MgO)等の金属酸化物、銅やアルミニウム等の金属を適用することができる。
【0081】
〔炭素重量フラックス調整手段〕
炭素重量フラックス調整手段は、ガスフロー装置等により、CNTの原料となる炭素化合物となる原料ガスの供給量および原料ガスや触媒賦活物質のキャリアガスである雰囲気ガスの供給量をそれぞれ調整し、任意の炭素重量フラックスを炉内に供給する手段である。炭素重量フラックスとは、広義には、単位時間当たりに単位面積当たりの粒状基材の集合体11に接触する炭素の重量を表したものである。このような炭素重量フラックス調整手段180を用いることにより、炭素重量フラックスを調整でき、最適な量の炭素を触媒に供給することが可能になり、本発明の効果を得ることができる。
【0082】
(CNTの製造方法)
本発明に係るCNT集合体の製造には、公知の合成法を適用することができる。これは、触媒を担持した粒状基材10の積層体から複数のCNTから成るCNT集合体を化学気相成長(合成)させるものである。
【0083】
図1を参照しながら説明すると、先ず、雰囲気ガス(例えば窒素ガス)が満たされた合成炉110内に、触媒(例えばアルミナ−鉄薄膜)を別工程で予め成膜した粒状基材10(例えばシリカ微粒子)を間欠的もしくは連続的に保持具160上に搬入し、粒状基材の集合体11として保持具160上に保持する。触媒供給口174から間欠的、または連続的に、粒状基材10を保持具160に供給してもよい。
【0084】
次いでガス供給管120から合成炉110内に還元ガス(例えば水素)を供給しながら、合成炉110内を所定の温度(例えば750℃)に加熱し、その状態を所望の時間保持するフォーメーション工程を行う。この還元ガスにより、触媒が微粒子化され、CNTの触媒として好適な状態に調整される。フォーメーション工程においては、必要に応じて触媒賦活物質を添加してもよい。
【0085】
次いで炭素重量フラックス調整手段180を用いてガス供給管120からの還元ガスおよび雰囲気ガスの供給を所望(反応条件)に応じて停止あるいは低減すると共に、原料ガス(例えばエチレン)と、雰囲気ガスと、触媒賦活物質(例えば水)とを、ガス供給管120から供給する。ガス供給管120から供給されたこれらのガスは、ガス流形成手段123により、保持具160と対向する面に展開・分散してから、ガス噴出手段125により粒状基材の集合体11の垂直方向から粒状基材の集合体11に供給され、触媒と接触する。この際、保持具160は回動、振動、篩動作、周期運動等の運動をし、粒状基材10は攪拌される。また、粒状基材の集合体11に接触した後には、これらのガスは速やかに保持具160を通過し、保持具160の反対側に設けられた、ガス排気管130より、合成炉110から排気され、炭素不純物の発生は最小限に抑えられる。
【0086】
CNTの生産終了後、合成炉110内に残余する、原料ガス、触媒賦活物質、それらの分解物、または合成炉110内に存在する炭素不純物等がCNT集合体へ付着することを抑制するために、粒状基材の集合体11に雰囲気ガスのみを流し、CNT集合体への不純物の接触を抑制することは、高比表面積のCNT集合体を得るために好ましい。
【0087】
このようにして、粒状基材10から同時に成長した複数のCNT1は、粒状基材10表面に直交する向きに成長して、複数のCNTがほぼ同一の方向に配向し、高比表面積、高純度のCNT集合体を構成する。
【0088】
合成炉110、および/または、保持具160が上流側よりも下流側が低くなるように傾けて配置されている場合には、粒状基材10は攪拌を繰り返しつつ加熱領域145を次第に下流側へと移動し、さらに合成炉110の下流端からこぼれ落ちて回収部175に導入される。触媒供給口174から合成炉110に供給された触媒を担持した粒状基材10が加熱領域145の下流端に至るまでの時間(すなわち、粒状基材10が加熱領域145に滞留する時間)は特に限定されないが、通常は凡そ1分〜30分とすることが適当であり、凡そ5分〜20分(例えば10分程度)とすることが好ましい。滞留時間が短すぎると触媒の利用効率が低下しがちとなり、該滞留時間が長すぎると、成長したCNTに付着する炭素不純物が増加し、比表面積が低下傾向となる場合がある。
【0089】
〔本発明のメカニズム〕
本発明では、薄膜状に積層された触媒を担持した粒状基材10を、粒状基材10がこぼれ落ちないが、気体は通過させるような細孔を有する保持具160に保持し、保持具160と対応するガス流形成手段123から、粒状基材の集合体11表面の全面に渡って均一に、原料ガス、および/または、触媒賦活物質を供給する。このような製造装置100の構成により、原料ガス等のガス流形成手段123から供給された気体が、粒状基材の集合体11中の触媒に効率良く、かつ均一に接触しながら、粒状基材の集合体11中を拡散して、保持具160中の細孔を通過してから、ガス流形成手段123と反対側に配置された、ガス排気管130を介して排気される。
【0090】
さらには、保持具160を回動、振動、篩動作、周期運動などの運動を与える保持具揺動具163に接続することにより、粒状基材10を攪拌することで、原料ガスおよび/または触媒賦活物質が触媒および粒状基材10と接触する度に消費されても、粒状基材の集合体11中に均一に、原料ガス、および/または、触媒賦活物質を供給することができる。このような方法でCNTを合成することは、大量に高比表面積、高純度のCNTを合成する上で効果がある。
【0091】
以下、これらの各種条件について詳述する。
〔フォーメーション工程〕
フォーメーション工程とは、粒状基材10に担持された触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に、触媒または還元ガスの少なくとも一方を加熱する工程である。この工程により、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、および触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄粒状基材の集合体11は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの触媒微粒子が多数形成される。
【0092】
〔成長工程〕
成長工程とは、CNTの生産に好適な触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に、触媒または原料ガスの少なくとも一方を加熱することにより、CNT集合体を成長させる工程のことを意味する。フォーメーション工程の後に成長工程を行うことはCNT集合体の生産に好適である。
【0093】
〔炭素不純物付着抑制工程〕
炭素不純物付着抑制工程とは、CNTの生産終了後、合成炉110内に残余する、原料ガス、触媒賦活物質、それらの分解物、または合成炉110内に存在する炭素不純物等がCNT集合体へ付着することを抑制する工程のことであり、かかる効果があれば、どのような形態、工程でもよい。炭素不純物付着抑制工程として、CNTの生産終了後に、粒状基材の集合体11に雰囲気ガスを一定時間流したり(フラッシュ工程)、合成炉110内に残余する原料ガス、触媒賦活物質、それらの分解物、または炭素不純物等がない領域に粒状基材10を移送したりすることが例示できる。粒状基材10を移送する際には、炭素不純物が多い合成炉110の下流ではなく、上流に向けて粒状基材10を移送すると好ましい。
【0094】
CNTを生産すると、炭素不純物が合成炉110内、特に粒状基材10周辺、および合成炉110下流に発生する。CNT集合体は極めて比表面積が大きいため、CNTの生産終了後、粒状基材10周辺に、原料ガス、炭素不純物等が存在すると、CNT集合体に炭素不純物として付着し、比表面積が著しく低下してしまう。そのため、炭素不純物付着抑制工程を用いて、CNTの生産終了後に、CNT集合体への不純物の接触を抑制することは、高比表面積のCNT集合体を得るために効果がある。
【0095】
〔冷却工程〕
冷却工程とは、CNT集合体、触媒、および粒状基材10を、成長工程後に冷却する工程のことである。成長工程後のCNT集合体、触媒、および粒状基材10は高温状態にあるため、酸素存在環境下に置かれると酸化してしまうおそれがある。それを防ぐために冷却ガス環境下でCNT集合体、触媒、および粒状基材10を、好ましくは400℃以下、より好ましくは200℃以下に冷却する。冷却ガスとしては、CNTと反応しないガスでればよく、不活性ガスが好ましく、特に安全性、経済性、およびパージ性などの点から窒素が好ましい。
【0096】
〔還元ガス〕
フォーメーション工程で用いる還元ガスは、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、および触媒の活性向上の少なくとも一つの効果を持つガスである。本発明の実施に用いる還元ガスとしては、これまでのCNTの製造に実績のある還元性を有するガスであれば適宜のものを用いることができるが、例えば水素・アンモニア・水、およびそれらの混合ガスを適用することができる。
【0097】
〔不活性ガス(雰囲気ガス)〕
化学気相成長の雰囲気ガス(キャリアガス)としては、CNTの成長温度で不活性であり、成長するCNTと反応しないガスであればよく、本発明の実施に用いる雰囲気ガスとしては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができる。一般的には、不活性ガスが好ましく、ヘリウム・アルゴン・水素・窒素・ネオン・クリプトン・二酸化炭素・塩素などや、これらの混合ガスが挙げられ、特に窒素・ヘリウム・アルゴン・水素、およびこれらの混合ガスが好適である。
【0098】
〔原料(原料ガス)〕
本発明の実施においてCNTの製造に用いる原料としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば、成長温度において原料炭素元素を含み、酸素元素を含まない適宜な物質を用いることができる。
【0099】
原料ガスとしては、芳香族化合物・飽和炭化水素・不飽和炭化水素・不飽和鎖式炭化水素・飽和鎖式炭化水素・環状不飽和炭化水素・環状飽和炭化水素などのガス状炭素化合物を例示できる。中でも、メタン・エタン・プロパン・ブタン・ペンタン・ヘキサン・ヘプタン・プロピレン・エチレン・ブタジエン・ポリアセチレン・アセチレンなどの炭化水素が好適である。これらの原料ガスが成長工程において触媒と接触することにより、触媒表面にCNTが生成される。
【0100】
〔雰囲気圧力〕
CNTを成長させる雰囲気の圧力は、10Pa以上、10Pa(100気圧)以下が好ましく、5×10Pa以上、2×10Pa(2大気圧)以下がさらに好ましく、9×10Pa以上、1.1×10Pa以下が特に好ましい。9×10Pa以上、1.1×10Paの間で、真空や高圧を用いない、大気圧や大気圧に近い圧力下では、CNTの製造効率は非常に良好である。また、シャッターやバルブを用いない開放系の製造装置が使用可能となるので量産の観点からも好ましい。
【0101】
〔触媒賦活物質の添加〕
CNTの成長工程において、触媒賦活物質を添加するとよい。触媒賦活物質の添加により、触媒の寿命を延長し、且つ活性を高め、結果としてCNTの生産効率向上や高純度化を推進することができる。ここで用いる触媒賦活物質としては、酸素もしくは、硫黄などの酸化力を有する物質であり、且つ成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であればよく、水・酸素・オゾン・酸性ガス、および酸化窒素・一酸化炭素・二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物、またはエタノール・メタノール・イソプロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトンなどのケトン類、アルデヒドロ類・酸類・塩類・アミド類・エステル類、並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水・酸素・二酸化炭素・一酸化炭素・エーテル類・アルコール類が好ましいが、特に、極めて容易に入手できる水が好適である。
【0102】
〔触媒賦活物質および原料の条件〕
成長工程において触媒賦活物質と原料とを用いてCNTを製造する際には、(1)原料は炭素を含み酸素を含まず、(2)触媒賦活物質は酸素を含むことが、CNTを高効率で製造するために好適である。
【0103】
〔反応温度〕
CNTを成長させる反応温度は、金属触媒、原料炭素源、および反応圧力などを考慮して適宜に定められるが、触媒失活の原因となる副次生成物を排除するために触媒賦活剤を添加する工程を含む場合は、その効果が十分に発現する温度範囲に設定することが望ましい。
【0104】
つまり、最も望ましい温度範囲としては、アモルファスカーボンやグラファイトなどの副次生成物を触媒賦活物質が除去し得る温度を下限値とし、主生成物であるCNTが触媒賦活物質によって酸化されない温度を上限値とすることである。
【0105】
具体的には、触媒賦活物質として水を用いる場合は、好ましくは400℃以上1000℃以下とすることである。400℃未満では触媒賦活物質の効果が発現せず、1000℃を超えると触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
【0106】
また触媒賦活物質として二酸化炭素を用いる場合は、400℃以上1100℃以下とすることがより好ましい。400℃未満では触媒賦活物質の効果が発現せず、1100℃を超えると触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
【0107】
〔高炭素濃度環境〕
CNTの成長速度は、触媒に接触する原料ガスに含まれる炭素原子の数に比例する。つまり、全流量に対する原料ガスの割合(原料濃度)が高ければ高いほど成長速度が高くなるので、CNTの生産効率が向上する。
【0108】
触媒賦活物質を添加する本発明の製造方法によれば、触媒賦活物質の存在下においては、触媒活性が著しく向上するため、全流量に対する原料ガスの割合が1%を超える2%〜20%程度の原料濃度(高炭素濃度環境)においても、触媒は活性を失わず、長時間のCNTの成長が可能である。この高炭素濃度環境下においては、CNTの成長速度が著しく向上し、高純度、高比表面積のカーボンナノチューブ集合体を製造するのに好適である。
【0109】
〔CNT集合体〕
上記した生産装置、および製造法により、高炭素環境化・触媒賦活物質含有雰囲気で、粒状基材10上の触媒から原料ガスを用いて、高効率でCNTを成長させることができ、触媒から成長した複数のCNT1は粒状基材10と垂直方向に配向し、CNT集合体を形成する。CNT集合体とは粒状基材10から剥離して得られた物体でも良い。その場合、CNT集合体は粉体状であっても良い。
【0110】
炭素不純物がCNT集合体に付着すると、CNT集合体の比表面積が低下する。本発明に係わるCNT集合体は、炭素不純物の発生が抑制されているために、単層CNT集合体の場合、比表面積は800m/g〜2600m/gと非常に大きい。CNT集合体の比表面積は、液体窒素の77Kでの吸脱着等温線の計測によって求めることができる。このように大きな比表面積は、触媒の担持体やエネルギー・物質貯蔵材として有効であり、スーパーキャパシタやアクチュエータなどの用途に好適である。
【0111】
単層CNT集合体の比表面積が800m/gに満たない未開口のもの、もしくは1300m/gに満たない開口したものは、炭素不純物を重量の数十%(40%程度)含んでいる可能性があり、CNT本来の機能を発現することが困難になる。
【0112】
大きい比表面積を得るためには、CNTが可能な限り高純度であることが望ましい。ここでいう純度とは、炭素純度である。炭素純度とは、CNT集合体の重量の何パーセントが炭素で構成されているかを示し、蛍光X線を用いた元素分析等から求めるとよい。大きな比表面積を得る上での炭素純度に上限はないが、製造上の都合から、99.9999%以上の炭素純度を有するCNT集合体を得ることは困難である。炭素純度が95%に満たないと、未開口CNTの場合、800m/gを超える比表面積を得ることが困難となる。
【0113】
〔配向性〕
CNT集合体の配向性の評価は、例えばヘルマンの配向係数に基づいて行う。例えば、θ−2θ法またはラウエ法で得られたX線回折強度または、SEM画像または原子間力顕微鏡(以下、AFMとも称す)画像を高速フーリエ変換(FFT変換)して得られたFFT画像から得た強度プロフィールを用いて計算したヘルマンの配向係数が、CNT集合体において0.1より大きく1より小さいCNT集合体は、良好な電気特性、良好な機械的特性、良好な熱特性を示し、且つ熱力学的、電気的、機械的な異方性もあり、様々な用途に好適である。
【0114】
配向の方向は、CNT集合体を構成する個々のCNTの方向ベクトルの平均となる。そのため、CNT集合体の場所、配向性を評価する領域のサイズにより、配向の方向は異なる可能性がある。定量的に配向の向きを決めるためにはCNT集合体のSEM画像等を高速フーリエ変換した、FFT画像を用いると良い。配向性を有するCNT集合体のFFT画像は、扁平な楕円状をなし、楕円が扁平であるほど配向性が高い。楕円の長軸方向は、配向性に起因するCNTの周期性が最大となる方向であり、楕円の短軸方向は、FFT画像の元画像の視野における、配向の向きとなる。ヘルマン配向係数を計算する参照方位は、楕円の長軸方向とする。
【0115】
CNT集合体の配向は以下の1から3の少なくともいずれか1つの方法によって評価することができる。すなわち、
1. CNTの長手方向に平行な第1方向と、第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、第2方向からの反射強度が、第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ第1方向からの反射強度が、第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
2. CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
3. ヘルマンの配向係数が、θ−2θ法またはラウエ法で得られたX線回折強度を用いると0.1より大きく1より小さいこと。より好ましくは0.25以上1未満であること。
【実施例】
【0116】
以下に実施例を挙げて本発明に係るカーボンナノチューブの製造装置および製造方法を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0117】
図4は、製造装置100の変形例である製造装置200を示す模式図である。製造装置200は、製造装置100において、ガス流形成手段123が保持具160の下方に配設されている。製造装置200においては、ガス排気管130は、保持具160の上方に、ガス流形成手段123に対向するように配設する。
【0118】
本実施例においては、保持具160に接続された保持具揺動具163により、揺動、振動、篩動作、周期運動等の運動により、粒状基材の集合体11中の粒状基材10を攪拌、および/または移動することができる。保持具160および粒状基材の集合体11の下方の加熱領域145内には、ガス供給管120から供給される原料ガスを分配・分散させ、複数の方向へ流れる原料ガス流を形成させる、ガス流形成手段123が配置されている。
【0119】
保持具160および粒状基材の集合体11の下方に配設されたガス流形成手段123は、ガス供給管120から点状に供給される原料ガスを、平面状に分配・分散させ、粒状基材の集合体11表面の単位面積あたりの供給量を均一にしてかつ等しい滞留時間をもって接触させるために格段の効果を奏する。また、ガス流形成手段123に配設されたガス噴出手段125は、粒状基材の集合体11表面に対して略垂直方向の原料ガス流を形成する。
【0120】
また、ガス排気管130は、保持具160および粒状基材の集合体11に対して、ガス流形成手段123の反対側であるに保持具160の上方に配設する。製造装置200は、このような構成を有することにより、保持具160および粒状基材の集合体11の下方から上方への略垂直方向の原料ガス流を形成することができる。したがって、ガス供給管120から供給された原料ガスを、保持具160と対向する面に展開・分散してから、粒状基材の集合体11表面の垂直方向から触媒に供給し、触媒と接触させることができる。原料ガスは粒状基材の集合体11と、保持具160を通過して、反対側に設けられた、ガス排気管130より、排気される。
【0121】
このような、製造装置200の構成は、原料ガスを、粒状基材の集合体11の触媒に均一に原料ガス、および/または、触媒賦活物質を接触させることに効果がある。他の構成は、製造装置100と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、図4においては、原料ガスボンベ181、触媒賦活物質ボンベ183、雰囲気ガスボンベ185、還元ガスボンベ187、および炭素重量フラックス調整手段180を図示しないが、その構成は製造装置100と同様である。
【0122】
上述の製造装置100および製造装置200においては、保持具160に接続された保持具揺動具163により、揺動、振動、篩動作、周期運動等の運動により、粒状基材の集合体11中の粒状基材10を攪拌、および/または移動する例を説明した。図5に、回転運動により、粒状基材の集合体11中の粒状基材10を攪拌、および/または移動する変形例を示す。図5は、本発明の実施例に係る製造装置300を示す模式図である。製造装置300は、保持具160に代わり、筒状の保持具360を有する。保持具360の外側には歯車363が配設され、保持具360を回転させる。
【0123】
保持具360の少なくとも一部は、原料ガス等の気体が実質的に通過可能で、保持具360を介して、原料ガス等の気体を排気する。これにより、保持具360に保持された粒状基材の集合体11の厚み方向へ気体が拡散し、それにより粒状基材の集合体11に担持された触媒と気体とが接触できる。そのため、保持具360は多数の細孔を有する形態であることが好ましい。
【0124】
保持具360の細孔は、少なくとも保持具360の一部領域で、粒状基材10がこぼれ落ちず、また、粒状基材10が細孔を塞がない、サイズ、形状とする。そのため、細孔径は、粒状基材10の平均径と同程度、もしくは、より小さくする必要がある。また、小さな細孔は粒状基材10により塞がれて、気体が保持具160を通過しない可能性がある。また、細孔のサイズが均一で、かつ規則正しく配置されていることが好ましい。細孔のサイズが不均一であると、大きな細孔から、粒状基材10がこぼれ落ちる可能性がある。保持具360の細孔は供給される原料ガスを通過させ、排気管から排出される。
【0125】
保持具360の細孔径、細孔ピッチ、厚み等は上述した理由で、概ね適正な細孔径としては0.05mm以上2cm以下、好ましくは0.1mm以上10mm以下の範囲がよい。適正な細孔ピッチは細孔径の1.5倍以上10倍以下、好ましくは1.5倍以上5倍以下がよい。適正な保持具360の厚みは0.1mm以上50mm以下、好ましくは0.5mm以上10mm以下の範囲にするのがよい。
【0126】
保持具360としては多孔質、網目、メッシュを例示でき、網を用いる場合、網は、平織金網、綾織金網、ロッククリンプ金網、フラットトップ金網など、網目が格子状の網であれば、その種類を問わない。網の網目の大きさおよび枚数は、保持すべき粒状基材10の大きさを考慮して決定される。
【0127】
保持具360の外側には歯車363が配設され、保持具360を回転させることにより、粒状基材10を攪拌、および/または移動させることができるものとする。粒状基材10を攪拌させることにより、原料ガス、および/または、触媒賦活物質を均一に粒状基材の集合体11の触媒に接触させることができる。
【0128】
保持具360は、軸を横倒しにして、軸方向の上流側の一端側よりも下流側の他端側のほうが低くなるように、水平から所定の角度だけ傾斜して配置してもよい。この傾斜角(保持具360の軸と水平とのなす角)の大きさは、保持具360の運動により粒状基材10が、上流から下流に移動するように設定する。このようにすれば、連続的に、CNTを生産することができ、大量のCNTを製造する上で著しい効果がある。
【0129】
保持具360が回転する場合、邪魔板を複数枚取り付けることにより、保持具360上に導入した固体触媒が邪魔板によって十分に撹拌され、原料ガス、および/または、触媒賦活物質との接触が均一となり、CNTがより効率的に生成できる。邪魔板の形状や大きさ、取り付ける角度を変えることで反応管内の固体触媒の撹拌効率を自在に調節することができる。保持具360の回転数は少ないと保持具360を傾斜した場合、触媒の滞留時間が長くなるために触媒との接触時間が十分となり、触媒の利用率が向上する。反応管の回転数が多いと触媒の撹拌効率が向上し、触媒がより均一に原料ガスと接触できるようになる。ただし、回転数が大きすぎるとその遠心力によって触媒が撹拌しなくなるので、1〜120回転/分の範囲の回転数が好ましく、より好ましくは1〜60回転/分である。
【0130】
このような、製造装置300の構成は、原料ガスを、粒状基材の集合体11の触媒に均一に原料ガス、および/または、触媒賦活物質を接触させることに効果がある。他の構成は、製造装置100と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、図5においては、原料ガスボンベ181、触媒賦活物質ボンベ183、雰囲気ガスボンベ185、還元ガスボンベ187、および炭素重量フラックス調整手段180を図示しないが、その構成は製造装置100と同様である。なお、製造装置300において、製造装置200で説明した、保持具360の下方にガス流形成手段123を配設し、保持具160の上方に、ガス流形成手段123に対向するようにガス排気管130を配設する構成を適用することもできる。
【0131】
上述の製造装置においても説明したように、保持具は、軸を横倒しにして、軸方向の上流側の一端側よりも下流側の他端側のほうが低くなるように、水平から所定の角度だけ傾斜して配置することができる。図6は、台座491が合成炉110の傾斜角を調節する角度調節機493を備える(すなわち傾斜角可変である)変形例である製造装置400を示す模式図である。
【0132】
製造装置400は、台座491および角度調節機493を備えることにより、保持具160の傾斜角を任意に変化させることができるため、触媒と原料ガスの接触時間も自由に調節できる。傾斜角が小さくなれば粒状基材10の加熱領域145内の滞留時間が長くなり、触媒との接触が十分起こり、触媒の利用率が向上する。また、傾斜角が大きくなればなるほど合成炉110内に導入された触媒の加熱領域145内の滞留時間が短くなり、必要以上に触媒と原料ガスの接触を防止することができる。しかし、傾斜角が大きすぎると触媒が反応管中にとどまることができなくなるために傾斜角には最適値があり、反応管の傾斜角は0°〜30°が好ましく、より好ましくは0°〜7°である。
【0133】
〔角度調節機〕
角度調節機とは、台座491上に配設した合成炉110の傾斜角を調節する装置である。角度調節機493は、合成炉110の傾斜角を調節することが可能な機構を有する装置であればよく、公知のものを用いることが出来る。本実施例においては、角度調節機として、ジャッキを例示することができる。ジャッキには、機械式、液体作動式または空気式があり、本実施例の角度調節機493には、何れを用いることもできる。機械式ジャッキとしては、普通形ねじジャッキ、ラチェット式ねじジャッキ、軸受付ねじジャッキやラック駆動ジャッキが例示できる。液体作動式ジャッキとしては、ポンプ一体型の油圧ジャッキやポンプ分離型の油圧ジャッキが例示できる。また、空気式のエアージャッキを用いてもよい。
【0134】
製造装置400は、このような構成を備えることにより、触媒を担持した粒状基材10は攪拌を繰り返しつつ加熱領域145を次第に上流側から下流側へと移動するため、連続的にCNTを合成することができる。他の構成は、製造装置100と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、図6においては、原料ガスボンベ181、触媒賦活物質ボンベ183、雰囲気ガスボンベ185、還元ガスボンベ187、および炭素重量フラックス調整手段180を図示しないが、その構成は製造装置100と同様である。
【0135】
なお、製造装置400において、製造装置200で説明した、保持具360の下方にガス流形成手段123を配設し、保持具160の上方に、ガス流形成手段123に対向するようにガス排気管130を配設する構成を適用することもできる。また、製造装置400において、製造装置300で説明した、回転運動により、粒状基材の集合体11中の粒状基材10を攪拌、および/または移動する構成を適用することもできる。
【0136】
上述した製造装置においては、保持具160および粒状基材の集合体11に対向して配設されたガス流形成手段123が、ガス供給管120から点状に供給される原料ガスを平面状に分配・分散させ、ガス噴出手段125により、粒状基材の集合体11の表面に対して略垂直方向の原料ガス流を形成する構成を説明した。図7においては、ガス流形成手段123およびガス噴出手段125に滞留時間調整手段を配設する例を説明する。図7は、滞留時間調整手段を有する変形例である製造装置500を示す模式図である。
【0137】
製造装置500は、ガス噴出手段125と粒状基材の集合体11の間に、滞留時間を増加および/または調整するために、意図的に増加および/または調整された加熱体積と、ガス流形成手段123と接続かつ連通された、複数枚の複数の孔を備える、板状の整流板からなる乱流抑制手段528から構成される滞留時間調整手段527を備える。
【0138】
また、合成炉110に供給されるガスは、滞留時間調整手段527によって、増加・調整された加熱体積を流れ、最適化された滞留時間を経た後に、炭素重量フラックス調整手段180を用いて最適化された量で粒状基材の集合体11の表面に接触してもよい。
【0139】
ガス噴出手段125を複数、適宜ガス流形成手段123および/または滞留時間調整手段527に分散・配設することで、触媒に接触する原料ガスの量を均一化する、および/または、触媒に接触する原料ガスの滞留時間を等しくすることに効果がある。
【0140】
〔滞留時間調整手段〕
滞留時間調整手段とは、滞留時間を意図的に増加、および/または調整させることで、原料ガスの滞留時間を増加・調整し、最適化する手段のことである。しかるに滞留時間調整手段527には、原料ガスの滞留時間を調整、最適化できる手段であれば、形状形態を問わず、公知の何らかの手段を適宜用いることができる。滞留時間調整手段527を用いると、従来は長くすることを検討されることのなかった滞留時間を、長くする方向に調整し、最適化することができ、触媒賦活物質含有、高炭素濃度環境下で、高収量、高速成長で効率良くCNT集合体を製造することに効果がある。
【0141】
滞留時間調整手段527が、加熱領域145内で加熱される原料ガスの加熱体積を意図的に、増加および/または調整する手段を有することは上記効果を得るために好ましい。また、加熱体積を増加させるための手段としては、加熱領域145内で、粒状基材の集合体11の表面と、粒状基材の集合体11の表面に対向して設けられたガス噴出手段125との距離が40mm以上に設置すること、大きな加熱体積を有する中空状の構造体を原料ガス流路に設けることが例示できる。このような滞留時間調整手段527においては、粒状基材の集合体11表面と、該触媒表面に対向して設けられたガス噴出手段125との距離を調整すること、大きな加熱体積を有する中空状の構造体中に加熱体積を減少させるブロック等を設置すること、または、加熱領域145内のガス配管の長さを調整することにより、滞留時間を調整することできる。
【0142】
さらには、雰囲気ガスの流量を増減させることにより、滞留時間を微調整することも可能である。滞留時間調整手段527としては、原料ガスの流路の断面積が大きい形態が望ましい。そのため、滞留時間調整手段527をガス流形成手段123の後に連通させ、ガス流形成手段123により、複数の方向に分配・分散し、大きな流路断面積で流れる原料ガスを、滞留時間調整手段527中に流すのが好ましい。
【0143】
さらに、原料ガスは加滞留時間調整手段527によって増加・調整された加熱体積を流れ、最適化された滞留時間を経た後に、炭素重量フラックス調整手段180を用いて最適化された量で粒状基材の集合体11に接触し、粒状基材10に被着した触媒微粒子から高速にかつ高収量で効率良くでCNTが成長させることもできる。この場合、原料ガスの炭素化合物の分解効率や時間/単位面積あたりの量を最適化され、原料ガスが効率良く触媒と反応しCNTに転換し、CNTの高速成長が実現する。また、収量も大幅に改善されると同時に、CNTに触れる炭素化合物の量も減少するため、高純度、高比表面積のCNTを合成することが可能となる。
【0144】
〔乱流抑制手段〕
乱流抑制手段とは、原料ガスが、ガス供給管120から合成炉110内の加熱領域145に供給されてから、触媒に接触するまでの間に乱流となることを抑制する手段であればよく、形状等はとくに制限されず、形状、材質等、整流板、ハニカム等、公知の方法を適宜用いることができる。また、乱流が発生しにくいガス配管を用いても良い。
【0145】
このような乱流抑制手段528を用いると、粒状基材の集合体11に接触する際の滞留時間を、略等しくすることに格段の効果を奏する。特に滞留時間調整手段527は、一般的に大きな加熱体積を有するため、乱流が発生しやすいため、滞留時間調整手段527に乱流抑制手段528を備えるとよい。乱流が発生すると、原料ガスの滞留時間が等しくならず、粒状基材の集合体11表面に、原料ガスを等しい滞留時間をもって接触させることが困難となる。
【0146】
本発明において、等しい滞留時間とは、本発明の効果が得られる程度に、滞留時間が等しければよい。本実施例において、本発明の効果を得るためには、滞留時間が4秒以上30秒以下の範囲に滞留時間があれば好ましく、より好ましくは、7秒以上15秒以下の範囲である。すなわち、多少の乱流などにより、原料ガスの滞留時間にばらつきがあっても、本発明の効果を得ることができればよい。
【0147】
滞留時間調整手段527および乱流抑制手段528の材質は、その機能を発現できるものであればよく、公知の物を適宜用いることができ、例えば耐熱合金とすると良い。耐熱合金は、加工性、機械的強度に優れるために、構造が複雑な滞留時間調整手段527および乱流抑制手段528を作るために好ましい。耐熱合金としては、耐熱鋼、ステンレス鋼、ニッケル基合金等が挙げられる。
【0148】
なお、Feを主成分として他の合金濃度が50%以下のものが耐熱鋼と一般に呼ばれる。また、Feを主成分として他の合金濃度が50%以下であり、Crを約12%以上含有する鋼は一般にステンレス鋼と呼ばれる。また、ニッケル基合金としては、NiにMo、CrおよびFe等を添加した合金が挙げられる。
【0149】
具体的には、SUS310、インコネル600、インコネル601、インコネル625、インコロイ800、MCアロイ、Haynes230アロイなどが耐熱性、機械的強度、化学的安定性、コストなどの点から好ましい。
【0150】
〔滞留時間〕
滞留時間とは、加熱手段140により加熱された合成炉110内の加熱領域145において、ガス供給管120より合成炉110内の加熱領域145にガスが供給されてから粒状基材の集合体11に接触するまでの時間を表す。
【0151】
効率良くCNTを製造するためには、通常の合成環境の炉内滞留時間1〜2秒よりも、滞留時間を長くすることが望ましい。そのためには、滞留時間調整手段527により、滞留時間を通常よりも長くすることが好ましい。特に、原料ガスが加熱される体積を調整する滞留時間調整手段527により、加熱体積を通常よりも増加させ、滞留時間を長くすることが好ましい。
【0152】
好適な滞留時間の範囲に上限はないが、成長工程の加熱温度が600℃〜1000℃の範囲にある場合、4秒〜30秒の範囲が好ましい。滞留時間が1秒未満の場合には、十分に原料ガスの分解が進んでおらず、高速にかつ高収量で効率良くCNTを製造することが困難である。また、滞留時間が30秒よりも長いと、原料ガスの分解が進みすぎ、大量の炭素不純物が大量に発生し、合成炉110および製造されたCNTに付着してしまう
【0153】
〔滞留時間の規定法〕
滞留時間は、加熱体積をガスが通過する時間で規定される。ガス供給量を制御する炭素重量フラックス調整手段180での流量設定が、室温で計算されている場合、加熱された炉内における原料ガスの流量は、(加熱された炉内における原料ガスの流量)=(室温(25℃)で供給された流量)×{(293+T)/298}1/2となる。
【0154】
そのため、滞留時間tは、以下のように規定される。
滞留時間t=(加熱体積)/(原料ガスの流量×{(293+T)/298}1/2
【0155】
合成炉110内の原料ガスの滞留時間を滞留時間調整手段527によって予め、CNTの成長に最適になるように調整してもよい。
【0156】
〔浸炭防止層〕
上述した各製造装置の一部、特に滞留時間調整手段527、ガス流形成手段123、ガス噴出手段125、乱流抑制手段528の表面又は裏面の少なくともいずれか一方には、浸炭防止層が形成してもよい。もちろん、表面および裏面の両面に浸炭防止層が形成されていることが望ましい。この浸炭防止層は、製造装置の一部と原料ガスの化学反応を抑制するために好ましい。また、原料ガスの分解により、生産装置の一部が浸炭されて変形してしまうのを防止するために好ましい。
【0157】
浸炭防止層は、単独で触媒活性を示さない金属元素又はその化合物によって構成されることが望ましい。その材料としては、例えばアルミナ(Ai)、酸化ケイ素(SiO)、ジルコニア(ZrO)、酸化マグネシウム(MgO)等の金属酸化物、銅やアルミニウム等の金属を適用することができる。
【0158】
製造装置500は、このような構成を備えることにより、触媒に接触する原料ガスの量を均一化する、および/または、触媒に接触する原料ガスの滞留時間を等しくすることに効果を有する。他の構成は、製造装置100と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、図7においては、原料ガスボンベ181、触媒賦活物質ボンベ183、雰囲気ガスボンベ185、還元ガスボンベ187、および炭素重量フラックス調整手段180を図示しないが、その構成は製造装置100と同様である。
【0159】
なお、製造装置500において、製造装置200で説明した、保持具360の下方にガス流形成手段123を配設し、保持具160の上方に、ガス流形成手段123に対向するようにガス排気管130を配設する構成を適用することもできる。また、製造装置500において、製造装置300で説明した、回転運動により、粒状基材の集合体11中の粒状基材10を攪拌、および/または移動する構成を適用することもできる。さらに、製造装置500において、製造装置400で説明した、台座491が合成炉110の傾斜角を調節する角度調節機493を適用することもできる。
【0160】
(実施例1)
図1に示したCNTの製造装置100を用いて、実施形態に記載の製造装置と同様の方法を採用して、CNT集合体を製造した。以下、図1を参照しながら説明する。
【0161】
合成炉110としては、円筒等の石英管(内径50mm)を用いた。合成炉110の上流蓋151の開口に水平方向に挿入された耐熱合金からなるガス供給管120を設け、また上流蓋151に設けられた開口に水平方向に挿入されたガス排気管130を設けた。合成炉110を外囲して設けられた抵抗発熱コイルからなる加熱手段140と加熱手段140と加熱温度調整手段143を設けた。
【0162】
保持具160としては、インコネル601製の金網メッシュ(メッシュ数100inch、線径0.1mm、目開き0.154mm、開口率36.8%)を用いた。このメッシュを保持具160として使用した。保持具160は、薄膜状の粒状基材の集合体11を保持できるとともに、保持具160に運動を与えても、粒状基材が保持具160からこぼれ落ちないよう、端面を折り曲げ箱状とした。
【0163】
ガス流形成手段123として、扁平な中空の箱状をなすシャワーヘッド(表面サイズ:60.0mm×16.7mm)を保持具160から1cm離間させて保持具160と対向する位置に配置した。シャワーヘッドには、ガス噴出手段として、複数のガス噴出孔が粒状基材の集合体11および保持具160に対して臨む位置に設けられ(噴出孔径:0.4mm、噴出孔数:17行×6列等間隔)、粒状基材の集合体11および保持具160に対して略垂直方向から原料ガスを触媒に吐出させることができる。臨む位置とは、噴出孔の噴射軸線が粒状基材の集合体11および保持具160の法線と成す角が0以上45°未満となるような配置を示す。ガス排気管130は、保持具160に対して、ガス流形成手段123と反対側に配設した。
【0164】
このようにして、ガス供給管120から点状に合成炉110に供給される原料ガスは、拡散・分配され粒状基材の集合体11に対して平行面の360度に渡る全方向に原料ガス流を形成した後に、原料ガスは粒状基材の集合体11に対して垂直方向から粒状基材の集合体11に接触し、粒状基材の集合体11中の触媒に接触しながら、拡散した後、保持具160を通過し、反対側に設けられた、ガス排気管130から合成炉110の外へ排気される。
【0165】
炭素重量フラックス調整手段180はCNTの原料となる炭素化合物となる原料ガスボンベ181、必要に応じて触媒賦活物質ボンベ183、原料ガスや触媒賦活物質のキャリアガスである雰囲気ガスボンベ185、ならびに触媒を還元するための還元ガスボンベ187をそれぞれガスフロー装置に接続して構成し、それぞれ供給量を独立に制御しながら、ガス供給管120に供給することで、原料ガスの供給量を制御した。
【0166】
粒状基材10としては、平均径が300μmの球形状のシリカ粒子を用いた。粒状基材10を攪拌しながら、Alを10nm、Feを1.8nmスパッタリングし、触媒とした。
【0167】
触媒を担持した粒状基材10を合成炉110中に搬入し、保持具160上に、厚さ5ミリまで平面状に積層させ薄膜状の粒状基材の集合体11とした。この場合、シリカ粒状基材10は数十層積層するため、触媒賦活物質および原料ガスは、粒状基材の集合体11中を拡散する間に複数回、触媒、および粒状基材10と接触することになる。保持具160と接続された運動具を振動させ、保持具160を振動させ、粒状基材10を攪拌させた。
【0168】
次いで、還元ガスとしてHe:200sccm、H:1800sccmの混合ガス(全流量:2000sccm)を導入しながら、炉内圧力を1.02×10Paとした合成炉110内を、加熱手段140を用いて合成炉110内温度を室温から15分かけて810℃まで上昇させて、さらに810℃に保持した状態で3分間、粒状基材の集合体11を加熱した(フォーメーション工程)。これにより、触媒は還元されて単層CNTの成長に適合した状態の微粒子化が促進され、ナノメートルサイズの触媒微粒子が粒状基材10に多数形成された。
【0169】
次いで、炉内圧力を1.02×10Pa(大気圧)とした合成炉110の温度を810℃とし、炭素重量フラックスが192g/cm/minとなるように、総流量2000sccm、雰囲気ガスHe:総流量比84%(1680sccm)、原料ガスであるC:総流量比10%(200sccm)、触媒賦活物質としてHO含有He(相対湿度23%):総流量比6%(120sccm)を10分間供給した(成長工程)。
【0170】
これにより、単層CNT1が粒状基材10の表面に形成された各触媒微粒子から成長し(成長工程)、配向した単層CNTの集合体が得られた。このようにして、触媒賦活物質含有かつ高炭素環境下で、CNTを粒状基材10上より成長させた。
【0171】
成長工程の後、3分間、雰囲気ガス(総流量4000sccm)のみを供給し、残余の原料ガス、発生した炭素不純物、触媒賦活剤を排除した(炭素不純物付着抑制工程・フラッシュ工程)。
その後、粒状基材の集合体11を400℃以下に冷却した後、合成炉110内から取り出す(冷却・基板取り出し工程)ことにより、一連の単層CNT集合体の製造工程を完了させた。
【0172】
また本実施例での収量は15mg/cmであり、従来の平面基材を用いた製造装置、製造法での収量が1.5〜2.0mg/cm程度であるのに比較して、本発明の装置構成と製造法は、高効率でCNT集合体を製造するのに著しく効果があることが分かる。また、粒状基材の集合体11中の粒状基材10の全面に渡って、均一に高比表面積のCNT集合体を製造することができ、本発明のCNTの製造装置と製造方法は、効率よくCNT集合体を製造するのに著しく効果があることが分かる。
【0173】
〔実施例1で製造されるCNTの特性〕
単層CNT集合体の特性は、製造条件の詳細に依存するが、実施例1の製造条件では、典型値として、単層CNT含有率99%(2層CNT、多層CNTに対する単層CNTの本数割合であり、合成した単層CNT集合体を透過型電子顕微鏡で観察し画像から求める)、重量密度:0.03g/cm、BET−比表面積:900m/g、炭素純度99.9%、ヘルマンの配向係数0.6である。
【0174】
〔CNT集合体のラマンスペクトル評価〕
実施例1により得られたCNT集合体のラマンスペクトルを計測した。鋭いGバンドピークが1590カイザー近傍で観察され、これより本発明のCNT集合体を構成するCNTにグラファイト結晶構造が存在することが分かる。
【0175】
また欠陥構造などに由来するDバンドピークが1340カイザー近傍で観察されているため、CNTに有意な欠陥が含まれていることを示している。複数の単層CNTに起因するRBMモードが低波長側(100〜300カイザー)に観察されたことから、このグラファイト層が単層CNTであることが分かる。
【0176】
〔CNT集合体の比表面積〕
基板から剥離したCNT集合体から50mgの塊を取り出し、これをBELSORP−MINI( BR>博ョ会社日本ベル製)を用いて77Kで液体窒素の吸脱着等温線を計測した(吸着平衡時間は600秒とした)。この吸脱着等温線からBrunauer, Emmett, Teller(BETともいう)の方法で比表面積を計測したところ、900m/gであった。
【0177】
未開口のCNT集合体の吸脱着等温曲線は、相対圧が0.5以下の領域において高い直線性を示した。αプロットも1.5以下の領域において、直線性を示した。これらの計測結果は、CNT集合体を構成するCNTが未開口であることを示している。
【0178】
〔CNT集合体の純度〕
CNT集合体の炭素純度は、蛍光X線を用いた元素分析結果より求めた。基板から剥離したCNT集合体を蛍光X線によって元素分析したところ、炭素の重量パーセントは99.98%、鉄の重量パーセントは0.013%であり、その他の元素は計測されなかった。この結果から、炭素純度は99.98%と計測された。
【0179】
〔比較例1〕
保持具160として、メッシュでなく、インコネルシートの薄膜を用いた(細孔がない)。製造工程、ならびに用いた粒状基材10、触媒は、実施例1の製造条件と同様である。細孔がない保持具160でCNTを積層した粒状基材10上で製造した場合は、粒状基材の集合体11全面からCNT集合体を製造できなかった。
【符号の説明】
【0180】
1:CNT、10:粒状基材、11:粒状基材の集合体、13:CNT付き粒状基材、15:CNT付き粒状基材の集合体、100:本発明に係る製造装置、110:合成炉、120:ガス供給管、123:ガス流形成手段、125:ガス噴出手段、130:ガス排気管、140:加熱手段、143:加熱温度調整手段、145:加熱領域、151:上流蓋、153:下流蓋、160:保持具、163:保持具揺動具、170:触媒供給部、171:触媒貯留槽、173:スクリューフィーダ、174:触媒供給口、175:回収部、176:解砕装置、177:移送管、178:取出口、179:バルブ、180:炭素重量フラックス調整手段、181:原料ガスボンベ、183:触媒賦活物質ボンベ、185:雰囲気ガスボンベ、187:還元ガスボンベ、200:本発明に係る製造装置、300:本発明に係る製造装置、360:保持具、363:歯車、400:本発明に係る製造装置、491:台座、493:角度調節機、500:本発明に係る製造装置、527:滞留時間調整手段、528:乱流抑制手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成炉と、前記合成炉に連通するガス供給管およびガス排気管と、前記合成炉内を所定温度に加熱するための加熱手段とを備え、
前記ガス供給管を介して供給される原料ガスを、前記加熱手段により加熱された前記合成炉の加熱領域内に供給して、粒状基材に担持された触媒からカーボンナノチューブを成長させ、前記ガス排気管より、原料ガスを排気するカーボンナノチューブの製造装置であって、
前記合成炉内に設けられ、触媒を担持した前記粒状基材の集合体を保持し、かつ前記原料ガスを通過させるための複数の細孔を有する保持具と、
前記保持具に運動を与え、前記粒状基材を動かす保持具揺動具と、
前記保持具に対向して配設された、前記ガス供給管から供給される原料ガスを複数の方向に分配するガス流形成手段と、
を備えるカーボンナノチューブ製造装置。
【請求項2】
前記保持具揺動具は、前記保持具に回動、振動、篩動作の少なくとも1つの運動を付与することを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【請求項3】
前記ガス排気管は、前記保持具に対して前記ガス流形成手段の反対側に、前記保持具に対向して配設されることを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【請求項4】
前記保持具が直線状に延びる軸を有しており、軸を横倒しにして、軸方向の上流側の一端側よりも下流側の他端側の方が低くなるように、前記保持具が傾斜していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【請求項5】
前記触媒を担持した粒状基材を前記合成炉に導入する触媒供給部と、カーボンナノチューブが成長した前記触媒を担持した粒状基材を抜き出す回収部とをさらに備え、前記合成炉内に前記触媒を担持した粒状基材を連続的に供給して、カーボンナノチューブを製造することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【請求項6】
前記保持具が多段に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【請求項7】
前記保持具に担持された前記触媒を担持した粒状基材の表面に前記原料ガスを略均一の量で、かつ略等しい滞留時間をもって接触させる滞留時間調整手段を備えることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【請求項8】
前記滞留時間調整手段は、乱流抑制手段を備えることを特徴とする請求項7に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【請求項9】
前記合成炉、前記保持具、前記留時間調整手段、前記ガス流形成手段、前記乱流抑制手段の何れか少なくとも一つが耐熱合金で形成されることを特徴とする請求項8に記載のカーボンナノチューブ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−140266(P2012−140266A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293151(P2010−293151)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】