説明

カーボンナノチューブを含有するインク

【課題】低粘度かつ高分散性のカーボンナノチューブを含有するインク、特にインクジェットに適するインクを提供することを目的とする。
【解決手段】カーボンナノチューブ、有機溶剤、バインダ、分散剤からなり、かつ前記分散剤はポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする。また、前記カーボンナノチューブは長さ5μm以下とする。さらに、前記インクは、粘度が15cp以下、表面張力が25dyn以上40dyn以下を満たすものである。これにより、分散性が良好で低粘度のカーボンナノチューブを含有するインクを提供することができ、このインクを用い、インクジェット法によりインクを塗布することで、カーボンナノチューブの微細パターニングを安定的に実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含有するインクに関するもので、特にカーボンナノチューブを含むインクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、高電気伝導性、電子放出性、優れた機械的性質など、これまでにない優れた特性を示す素材であり、広範な分野でその応用、実用化に向けた研究が進められている。
【0003】
通常、カーボンナノチューブは凝集体として得られるため、上記応用を行うためには、この凝集体をほぐし、分散体とする必要性があるが、カーボンナノチューブは一般に分散が困難であることが知られており、今までに様々な方法でその分散、インク化が試みられている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、カーボンナノチューブを応用し、実用化する上では、カーボンナノチューブを任意の位置に配置すること、すなわちパターニングして形成することが重要な課題の一つである。カーボンナノチューブを任意の位置に配置する場合、カーボンナノチューブを直接任意の場所に成長させるのではなく、製造されたカーボンナノチューブをパターニングするには一般に印刷技術が用いられ、スクリーン印刷やインクジェット法などが検討されている。このうち、インクジェット法は微細パターニングに適しており、現在までに数々の検討が行われている。
【特許文献1】特開2007−297255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクジェット法は、通常その特性上、低粘度のインクしか用いることができず、かつインクへの高い分散性が要求される。粘度が高いインクを用いた場合、例えばインクジェットに用いられるピエゾ素子ではインクジェットのノズルから吐出することができず、パターニングできない。また、分散性が低い場合、インクジェットのノズルは数十μm径しかないため、ノズルの目詰まりを発生させてしまう。
【0006】
ここで、カーボンナノチューブを含有するインクをインクジェット法を用いてパターニングを実施する場合、カーボンナノチューブは分散が困難なため、低粘度と分散性の両立が非常に困難であり、いまだ十分な分散性ならびに分散安定性と低粘度が両立されたインクジェット用インクが得られてはいなかった。
【0007】
本発明は上記課題を解消し、低粘度かつ高分散性のカーボンナノチューブを含有するインク、特にインクジェット法に適するインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明のインクは、カーボンナノチューブ、有機溶剤、バインダ、分散剤からなり、かつ前記分散剤はポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする。
【0009】
また、前記カーボンナノチューブは長さ5μm以下であることを特徴とする。さらに、前記インクは、粘度が15cp以下、表面張力が25dyn以上40dyn以下を満たすものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分散性が良好で低粘度のカーボンナノチューブを含有するインクを提供することができる。このインクを用い、インクジェット法によりインクを塗布することで、カーボンナノチューブの微細パターニングを安定的に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態によるカーボンナノチューブを含有するインクについて説明するが、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
まず、本発明によるカーボンナノチューブを含有するインクは、カーボンナノチューブ、有機溶剤、バインダ、分散剤から構成されるものであり、それぞれの構成要素について、詳細に説明する。
【0013】
(カーボンナノチューブ)
本発明に用いられるカーボンナノチューブの種類は特に限定されるものではなく、用途に応じて単層、2層、多層といった全てのカーボンナノチューブを使用することができる。分散しやすさの点からは2層、もしくは多層が好ましい。さらにカーボンナノチューブの直径も特に限定はないが、好ましくは0.5nm〜200nmが好ましい。カーボンナノチューブの長さについては、少なくともインクジェットに用いられるノズルより小さいことが求められ、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。カーボンナノチューブの製造方法は、特に限定されないが、触媒を用いて製造したカーボンナノチューブの場合は触媒を除去していることが好ましい。
【0014】
(有機溶剤)
本発明に用いられる有機溶剤としては、一般的な有機溶剤を用いることができるが、後述するバインダおよび分散剤の溶解性が高いものが好ましい。また、インクジェット法に用いる場合、限定はされないが、その表面張力が20dyn以上であることが好ましい。具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールのアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のアルキレングリコールのアルキルエーテルアセテート類、ターピネオール等のテルペン類が好ましいものとして挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種もしくはそれ以上の混合でもよい。
【0015】
(バインダ)
本発明に用いられるバインダは、特には限定されず、種々の樹脂からなるバインダを用いることができる。具体的にはアクリル系樹脂やセルロース系樹脂が好ましく、特にエチルセルロースが好ましい。
【0016】
(分散剤)
本発明に用いられる分散剤はポリオキシエチレンアルキルエーテルからなることを特徴とする。具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられ、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが特に好ましい。
【0017】
(インク組成)
本発明に用いられるインク組成は、前記カーボンナノチューブ、有機溶剤、バインダ、分散剤を含み、分散性が良好であれば特に限定されないが、好ましい範囲としては以下の範囲があげられる。なお、「%」は分散液全体に対しての質量%である。
【0018】
カーボンナノチューブ 0.01〜5%
有機溶剤 80〜99%
バインダ 0.1〜10%
分散剤 0.1〜5%
また、特に好ましい範囲としては
カーボンナノチューブ 0.01〜1%
有機溶剤 90〜99%
バインダ 0.1〜5%
分散剤 0.1〜5%
である。
【0019】
カーボンナノチューブの量は多すぎると分散性を阻害する場合がある。一方低濃度過ぎると、分散性は良好であるが、利用価値の低いインクとなる。
【0020】
バインダの量は多すぎると粘度が増大し、インクジェット法での塗布が困難になる場合がある。分散剤についても同様の傾向がある。
【0021】
本発明のインクは、インクジェット法に最適にするため、上記組成割合を粘度が15cp以下、表面張力が25dyn以上40dyn以下の範囲を満たすように組成を調合することが好ましい。
【0022】
なお、本発明のインクには、更に酸化防止剤や難燃剤、フィラー等を含むことができるが、このときも前記粘度、表面張力にすることが好ましい。
【0023】
(分散方法)
分散方法については特に限定はなく、公知の方法が用いられる。具体的には、ビーズミル分散法、超音波分散法、ロールミル分散法などが好ましく、このうち分散安定性、カーボンナノチューブの形状安定性から超音波分散法が特に好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明による実施例ならびに比較例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0025】
まず、本発明の実施例1として、次のように調製したインク1を作製した。有機溶剤としてブチルカルビトールアセテート18g、α−ターピネオール12gを混合し、よく攪拌した後、バインダとしてエチルセルロース300mgを加え、溶解させた。完全に溶解した後、分散剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルを1ml加え、よく攪拌した。これにカーボンナノチューブ75mgを加え、超音波分散機を用いて分散を行った。このとき用いたカーボンナノチューブは多層構造の直径10−30nm、長さ1−2μmのものである。
【0026】
次に、本発明の実施例2−4、および比較例5,6として、インク1に使用した各成分を表1に示す成分に変えた以外は、インク1と同様に調製してインク2−6を得た。
【0027】
【表1】

【0028】
このようにして作製したインク1−6について、次のような評価を行った。すなわち、分散後、一晩インクを放置し、デカンテーションにてインク上部を取り出したインク1−6について、カーボンナノチューブの分散性をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製LA−910)で、粒度分布を測定することで行った。また、インクジェット装置を用い、1時間連続吐出したときのノズル目詰まりの評価を行った。この結果を表2ならびに図1に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2ならびに図1の結果より、分散剤にポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いた本発明によるインク1−4は、分散剤を用いなかったインク5ならびに他の分散剤を使ったインク6よりも分散性が高く、十分インクジェット法に用いることが可能であることがわかった。
【0031】
このように本発明によれば、インクジェット法に適した粘度や表面張力を有するカーボンナノチューブを含有するインクを提供することができ、これによりカーボンナノチューブを任意のパターンに印刷することが可能となり、導電パターンや、電子放出源、等のエレクトロニクス用途に広く利用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように本発明は、インクジェット法に適したカーボンナノチューブを含有するインクを提供する上で有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例ならびに比較例のインク1−6の粒度分布を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、有機溶剤、バインダ、分散剤からなり、かつ前記分散剤はポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とするカーボンナノチューブを含有するインク。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは、長さ5μm以下であることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブを含有するインク。
【請求項3】
粘度が15cp以下、表面張力が25dyn以上40dyn以下を満たすものであることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブを含有するインク。

【図1】
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【公開番号】特開2010−174083(P2010−174083A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16176(P2009−16176)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】