説明

カーボンナノチューブ分散液およびその製造方法、並びにその利用

【課題】本発明は、簡便に、かつ短時間で製造可能な、CNTが安定に分散したCNT分散液およびその製造方法、並びにその利用を提供する。
【解決手段】可溶化剤として、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面状分子を含有する可溶化剤を用いる。該可溶化剤と、カーボンナノチューブとを粉砕した粉砕混合物に、有機溶媒を添加する。こうして得られる有機溶媒溶液中では、上記平面状分子が超分子錯体の状態で存在する。該超分子錯体は、上記カーボンナノチューブと相互作用し、有機溶媒中に、カーボンナノチューブを安定に分散させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液およびその製造方法、並びにその利用に関するものであって、特に、水素結合により形成された超分子錯体を用いてカーボンナノチューブが可溶化されているカーボンナノチューブ分散液およびその製造方法、並びにその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)は、大きなπ共役系をもつ比較的剛直で1次元に伸びた、非常に興味深い構造を有する化合物である。CNTに関して、具体的には、グラフェンシートが一枚だけ円筒状に巻かれた構造を有する単層CNTと、グラフェンシートが同心円状に略等間隔に何重にも重なった構造を有する多層CNTとの2種類のCNTが知られている。また、CNTは、上記構造に起因して、特異な性質を有している。そのため、上記特性を活かして、CNTのナノテクノロジーの分野をはじめ、様々な分野への応用が期待されている。例えば、単層カーボンナノチューブは、その比表面積が比較的大きいことから、水素等などのガスの吸蔵材または電極部材等の用途に適すると考えられている。
【0003】
このように、CNTは、ナノ材料として注目されているが、分散性(溶解性)が低いため、取り扱いが非常に困難であるという問題を抱えている。具体的には、例えば、CNTの精製では、一般的に酸性溶液中でCNTを超音波処理した後(非特許文献1を参照)、中和して希釈することによって混合物を得る。しかし、その混合物は、CNTを安定的に含んでいない。すなわち、上記混合物では、溶媒に対してCNTが時間的に安定して分散しておらず、時間の経過に伴ってCNTが凝集および/または沈殿してしまう。それゆえ、上記混合物を溶液として扱うことが困難であり、その結果、CNTの応用範囲が必然的に制限されてしまうことになる。
【0004】
このようなCNT分散液の安定性にかかる問題を解決すべく、これまでに、CNTを可溶化するための技術の開発が進められている。具体的には、例えば、CNTを非共有結合的に可溶化剤と混合することによって、長期間安定なCNT分散液が得られることが報告されている。また、単層CNTのアルコール分散液を得るために、可溶化剤としてビニルピリジンを用いる方法(非特許文献2を参照)、および可溶化剤として非イオン性界面活性剤及びポリビニルピロリドンを用いて、単層CNTのアミド系極性有機溶媒分散液を製造する方法(特許文献1を参照)が開示されている。
【0005】
また、本発明者らは、高速振動粉砕法により、可溶化剤とCNTとを固体のまま混合することによって、簡便に、かつ、短時間で、CNTのバンドルを少なくとも部分的に解離させ、CNTを溶媒に分散させることができることをすでに見出している(特許文献2、非特許文献2〜4を参照)。具体的には、特許文献2および非特許文献3に開示される方法では、まず、バンドル状のCNTを含む混合物を凍結乾燥に付して、乾燥したCNTを得る。次に、該乾燥したCNT、可溶化剤および硬球を容器内に供した後、該容器を振動させる。そして、振動に付された後のCNTに水を加える。これにより、CNTを安定的に含む水溶液が得られる。また、特許文献2および非特許文献2には、上記可溶化剤として、シクロデキストリン、水溶性の生体高分子および水溶性の合成高分子が例示されている。
【0006】
また、非特許文献3には、上記特許文献2および非特許文献2に開示される方法において、上記可溶化剤として、プリン環を有するヌクレオチドを用いる方法が開示されている。
【0007】
さらに、非特許文献4には、上記特許文献2および非特許文献2に開示される方法において、上記可溶化剤として、共役ポリマーであるポリチオフェン誘導体を用いることにより、有機溶媒にCNTを分散させることができることが開示されている。
【特許文献1】特開2005−154630号公報(平成17(2005)年6月16日公開)
【特許文献2】特開2005−213108号公報(平成17(2005)年8月11日公開)
【非特許文献1】Jie Liu, Andrew G. Rinzler, et al., Science, 280, 1253 (1998)
【非特許文献2】A. Ikeda, K. Hayashi, T. Konishi, J. Kikuchi, Chem. Commun., 1334 (2004)
【非特許文献3】A. Ikeda, T. Hamano, K. Hayashi, J. Kikuchi, Org. Lett., 8, 1153 (2006)
【非特許文献4】A. Ikeda, Nobusawa, T. Hamano, J. Kikuchi, Org. Lett., 8, 5489 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、CNT分散液を製造する方法については、様々な研究がなされているものの、実用レベルで考えた場合、安定にCNTが分散したCNT分散液を高い生産性でかつ安価に製造するという観点からは、いまだ十分とはいえない。例えば、上記特許文献2に開示される方法では、6時間にも及ぶ超音波処理が必要であるため、CNT分散液の生産効率が非常に悪く、実用的ではないという問題がある。また、上記特許文献1に開示される方法では、非イオン性界面活性剤の添加が必須であるため、CNT分散液の用途によっては、非イオン性界面活性剤が悪影響を及ぼす可能性がある。また、上記特許文献1に開示される方法でも、1時間の超音波処理が必要であるため、CNT分散液の生産効率が非常に悪く、実用的ではないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、簡便に、かつ短時間で製造可能な、CNTが安定に分散したCNT分散液およびその製造方法、並びにその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面構造を有する分子を含有する可溶化剤を用いることによって、カーボンナノチューブを有機溶媒中に可溶化できることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、産業上有用な以下の発明を包含する。
【0011】
(1)カーボンナノチューブおよび可溶化剤を粉砕してカーボンナノチューブ混合物を取得する工程と、該カーボンナノチューブ混合物に有機溶媒を加えて、上記カーボンナノチューブを該有機溶媒に分散させる工程とを含み、上記可溶化剤は、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面構造を有する分子を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0012】
(2)上記平面構造を有する分子は、少なくとも水素結合を行なう部位が平面構造を有有し、該平面構造内の芳香環もしくは複素環の数は2個以下であることを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0013】
(3)上記超分子錯体は、上記平面構造を有する分子が互いに2本または3本の水素結合で結合されることにより形成されることを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0014】
(4)上記可溶化剤は、単一種の上記平面構造を有する分子を含有することを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0015】
(5)上記可溶化剤は、複数種の上記平面構造を有する分子を含有することを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0016】
(6)上記可溶化剤は、バルビツール酸およびその誘導体、並びにシアヌル酸を含む類縁体からなる群より選択される少なくとも1つの平面構造を有する分子と、メラミンおよびその誘導体、並びにトリアミノピリミジン誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの平面構造を有する分子とを含有することを特徴とする(5)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0017】
(7)上記可溶化剤は、複数種の上記平面構造を有する分子を等モルずつ含有することを特徴とする(5)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0018】
(8)高速振動粉砕法により、上記カーボンナノチューブおよび可溶化剤を粉砕することを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0019】
(9)カーボンナノチューブと、可溶化剤と、有機溶媒とを含み、上記可溶化剤は、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面構造を有する分子を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【0020】
(10)(9)に記載のカーボンナノチューブ分散液を用いて形成されることを特徴とするカーボンナノチューブ膜。
【0021】
(11)(10)に記載のカーボンナノチューブ膜を備えることを特徴とする部材。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかるカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、以上のように、可溶化剤が、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面構造を有する分子を含有するため、該可溶化剤およびカーボンナノチューブを粉砕して、有機溶媒を添加するだけで、カーボンナノチューブを該有機溶媒中に安定して、可溶化することができる。それゆえ、カーボンナノチューブが安定に分散したカーボンナノチューブ分散液を、簡便に、かつ短時間で製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明にかかる実施形態について、説明すると以下の通りであるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
<I.カーボンナノチューブ分散液>
本発明にかかるカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)と、可溶化剤と、有機溶媒とを含み、該CNTが有機溶媒中に分散しているものである。上記CNTは、束(バンドル)が少なくとも部分的に解離したCNTであればよく、単層CNTでもよいし、多層CNTでもよい。上記可溶化剤は、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面構造を有する分子(以下、「平面状分子」ともいう)を含有する。また、本発明にかかるCNT分散液中において、上記平面状分子の少なくとも一部は、互いに水素結合することにより、超分子錯体を形成している。なお、上記CNT分散液中では、上記平面状分子は、全て超分子錯体を形成していてもよい。
【0025】
上記可溶化剤の組成、および平面状分子の構造の詳細は、後述の<II.カーボンナノチューブ分散液の製造方法>の記載の通りであるので、ここでは説明を省略するが、上記平面状分子は、少なくとも水素結合を行なう部位が平面構造を有し、該平面構造内の芳香環もしくは複素環の数は2個以下であることが好ましい。このような平面状分子を用いれば、該CNT分散液を用いて形成したCNT膜を透明性の高いものにすることができる。なお、「平面構造内の芳香環もしくは複素環の数は2個以下」とは、平面構造内の芳香環もしくは複素環の数が1個または2個、または、平面構造内に、芳香環もしくは複素環を有しないことを意味する。
【0026】
また、上記平面状分子は、上記平面構造内の芳香環もしくは複素環の数が3個以上であってもよいが、その場合、上記平面状分子は、上記超分子錯体を形成しないとCNTを可溶化できないものであることが好ましい。
【0027】
さらに、例えば、基材表面上に本発明にかかるCNT分散液を塗布し、乾燥させることによって、該基材表面にCNT膜を形成させる場合、該CNT膜には、上記平面状分子が残存する。このような場合であっても、少なくとも水素結合を行なう部位が平面構造を有し、該平面構造内の芳香環もしくは複素環の数が2個以下である平面状分子のように、低分子量の平面状分子であれば、洗浄により、容易に該平面状分子を、上記CNT膜中から除去することができる。したがって、上記平面状分子として、少なくとも水素結合を行なう部位が平面構造を有し、該平面構造内の芳香環もしくは複素環の数が2個以下である平面状分子を用いることによって、本発明にかかるCNT分散液の用途の幅を広げることができる。
【0028】
上記有機溶媒は、上記可溶化剤を用いて、束状のCNTを束が解離したCNTにする、すなわち、CNTを可溶化することを可能にする有機溶媒であればよい。このような有機溶媒は、上記可溶化剤の組成に応じて、適宜変更されるものである。一般的には、上記有機溶媒として、例えば、エーテル系有機溶媒、およびアミド系有機溶媒を挙げることができる。なお、本明細書において、「CNTを可溶化する」とは、CNTを分散可能な状態にすることを意図するものであり、また、CNTを溶解可能な状態にすることを包含するものである。
【0029】
本発明にかかるCNT分散液は、上記構成を備えているため、CNTが有機溶媒中で時間的に安定して分散している。そのため、長期保存性に優れている。つまり、本発明にかかるCNT分散液は、長期保存しても、CNTの凝集/沈殿が生じない分散液である。本発明にかかるCNT分散液において、CNTが安定して分散している時間は、特に限定されるものでないが、少なくとも1週間、安定して分散していることが好ましく、少なくとも2週間、安定して分散していることがより好ましく、少なくとも3週間、安定して分散していることがさらに好ましい。このようなCNT分散液では、CNTが溶媒に分散していると表現することもできるし、CNTが溶媒に溶解していると表現することもできる。つまり、本明細書において、「分散」なる用語は、「溶解」と置き換え可能に用いられるものである。
【0030】
また、本発明にかかるCNT分散液は、長期保存安定性を有するため、溶液として取り扱うことができ、様々な用途に好適に用いることができる。なお、本発明にかかるCNT分散液の利用については、後述の<III.カーボンナノチューブ分散液の利用>で説明するので、ここでは詳細は省略する。
【0031】
<II.カーボンナノチューブ分散液の製造方法>
本発明にかかるCNT分散液の製造方法は、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面状分子を用いて、CNTを有機溶媒に対して可溶化することによって、CNT分散液を製造する方法である。上記構成によれば、上記平面状分子は、CNTの可溶化の過程で、水素結合により形成された超分子錯体として作用する。該超分子錯体は、高分子のように振舞い、CNTを安定に有機溶媒中に分散させることができる。また、上記超分子錯体は、高分子のように振舞うため、少量の可溶化剤の添加によって、CNTを可溶化することができる。したがって、得られるCNT分散液への可溶化剤の混入を最小限に抑えることができる。また、本発明にかかるCNT分散液の製造方法では、上記平面状分子の構造を変化させることによって、該平面状分子を含有する可溶化剤のCNTに対する可溶化能を制御することができる。したがって、本発明にかかるCNT分散液の製造方法は、様々な用途のCNT分散液を製造するのに、幅広く用いることができる。また、該CNT分散液の製造方法は、上述した本発明にかかるCNT分散液を製造するために、好適に用いることができる。
【0032】
ここで、本発明にかかるCNT分散液の製造方法の構成について、具体的に説明する。
【0033】
本発明にかかるCNT分散液の製造方法は、CNTおよび可溶化剤を粉砕してCNT混合物を取得する工程(以下、「粉砕工程」ともいう)と、該CNT混合物に有機溶媒を加えて、上記CNTを該有機溶媒に分散させる工程(以下、「分散工程」ともいう)とを含んでいればよくその他の具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、上記粉砕工程および分散工程に加えて、上記分散工程において得られた溶液から、不溶成分を取り除く工程(以下、「不溶成分除去工程」ともいう)を含んでいてもよい。
【0034】
上記粉砕工程、分散工程、不溶成分除去工程について、詳細に説明する。なお、以下、不溶成分除去工程についても説明するが、不溶成分除去工程を含まない実施形態とすることも可能であることを繰り返し記載しておく。
【0035】
(A)粉砕工程
上記粉砕工程では、CNTおよび可溶化剤を粉砕してCNT混合物を取得する。上記CNTは、特に限定されるものではなく、単層CNTでもよいし、多層CNTでもよい。また、その形状も特に限定されるものではなく、例えば、束(バンドル)状のCNTを用いることができる。このようなCNTは、従来公知の方法、例えば、アーク放電法、レーザー蒸発法、レーザーアプレーション法、およびCVD(Chemical Vapor Deposition)法等によって製造することができる。また、本発明では、上記CNTとして、上記束(バンドル)状のCNTを精製したもの、またはその精製したものをさらに凍結乾燥処理したものを用いてもよい。
【0036】
上記可溶化剤は、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面状分子を含有していればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。上記平面状分子は、上記の通り、水素結合により超分子錯体を形成可能なものであればよいが、本発明では、少なくとも水素結合を行なう部位が平面構造を有し、該平面構造内の芳香環もしくは複素環の数が2個以下である平面状分子であることが好ましく、加えて、低分子量であることがより好ましい。このような平面状分子は、合成が容易であり、安価に取得することができる。しかし、従来、このような低分子量の分子を用いて、CNTを可溶化することは困難であった(Y. Tomonari, H. Murakami and N. Nakashima, Chem. Eur. J. 12, 4027 (2006)を参照)。これに対し、本発明者らは、鋭意検討し、低分子量の分子であっても、水素結合により超分子錯体の形成が可能な分子とすることにより、CNTの可溶化に用いることができることを独自に見出したのである。したがって、本発明によれば、低コストで、安定にCNTが分散したCNT分散液を製造することができる。
【0037】
本発明にかかるCNT分散液の製造方法では、上記平面状分子は、CNTを可溶化する過程で、水素結合により形成される超分子錯体として作用する。上記超分子錯体は、上記平面状分子が互いに水素結合により結合されることにより形成される。上記平面状分子の超分子錯体形成は、上記粉砕工程において起こってもよいし、後述する分散工程で起こってもよい。また、可溶化剤中で、すでに超分子錯体を形成していてもよい。さらに、上記可溶化剤に含有される上記平面状分子の全てが超分子錯体を形成してもよいし、上記平面状分子の一部が超分子錯体を形成してもよい。
【0038】
本発明において、上記超分子錯体は、該超分子錯体自体が平面構造を有することが好ましい。なお、上記超分子錯体は、CNTを可溶化する過程およびCNT分散液中において、平面をなしていてもよいが、平面構造が曲がって、曲面をなしたり、円筒状のような形状になったりしていてもよい。
【0039】
上記平面状分子が水素結合により超分子錯体を形成する際、上記平面状分子は、互いに水素結合によって結合されればよいが、平面状分子と平面状分子とが2本の水素結合によって結合されることが好ましく、3本の水素結合によって結合されることがさらに好ましい。このように、平面状分子と平面状分子とを結合する水素結合の数が増加すると、超分子錯体の安定性が増す。それゆえ、得られるCNT分散液において、CNTがより安定に有機溶媒中に分散することができる。なお、本発明では、平面状分子と平面状分子とが4本以上の水素結合で結合されてもよい。
【0040】
また、本発明において、上記可溶化剤は、単一種の平面状分子を含有していてもよいし、複数種の平面状分子を組み合わせて含有していてもよい。つまり、本発明では、水素結合により超分子錯体が形成されるように、より好ましくは、平面構造を有する超分子錯体が形成されるように設計された平面状分子を、単独で、または複数を組み合わせて、上記可溶化剤に含有させればよい。このような平面状分子は、水素を供与可能な基(以下、「水素ドナー」ともいう)と、水素を受容可能な基(以下、「水素アクセプター」ともいう)を所望に組み合わせて配置させた分子を設計することにより得ることができる。本発明における平面状分子の具体的な構造については、後述するが、本発明は、後述する平面状分子に限定されるものではない。つまり、上記超分子錯体を形成できるように設計された平面状分子であれば、いかなる構造の平面状分子でも用いることができる。このような平面状分子を設計することは、当業者にとって容易になしうるものである。
【0041】
また、上記可溶化剤が、複数種の平面状分子を組み合わせて含有する場合、各平面状分子の含有量は特に限定されるものではないが、各平面状分子が等モルずつ含有されることが好ましい。
【0042】
さらに、本発明にかかる可溶化剤に含有される平面状分子は、上記の水素ドナーおよび水素アクセプター以外の置換基を有していてもよい。具体的には、可溶化剤によるCNTの有機溶媒に対する可溶化能を向上させる置換基や、本発明にかかるCNT分散液を用いて基材表面上にCNT膜を形成させたときに、該基材への密着性を向上させる置換基等を有していてもよい。上記可溶化剤のCNTに対する可溶化能を向上させる置換基としては、例えば、アルキル基を挙げることができる。特に、炭素鎖が長いアルキル基ほど、上記可溶化能を向上させることができる。換言すれば、アルキル基の鎖長を変更することにより、上記可溶化能を所望に制御することができる。また、上記基材への密着性を向上させる置換基としては、例えば、シロキサン構造、およびチオール基を挙げることができる。このような置換基を上記平面状分子に付与することにより、得られるCNT分散液から形成されるCNT膜の基材への密着性を向上させることができる。これにより、本発明にかかるCNT分散液の用途の幅を広げることができる。
【0043】
以下、本発明にかかる可溶化剤の組成および該可溶化剤に含有される平面状分子の構造について、具体的に説明する。なお、これらの説明は、本発明の理解を容易とするために例示的に記載するものである。したがって、本発明にかかる可溶化剤および平面状分子は、これら例示するものに限定されるものではない。
【0044】
上記平面状分子は、水素結合により上記超分子錯体を形成するために、水素ドナーおよび水素アクセプターを有する。上記平面状分子が有する水素ドナーおよび水素アクセプターの数は、上記可溶化剤に含有される平面状分子の種類の数、および平面状分子と平面状分子との結合に用いられる水素結合の数等に応じて、適宜設定されるものである。また、上記平面状分子は、1つの水素ドナーまたは水素アクセプターを用いて、1本の水素結合を形成してもよいし、複数本の水素結合を形成してもよい。このように、本発明において用いることが可能な平面状分子の構造には、様々なバリエーションが含まれる。本発明では、これらいずれの構造の平面状分子を用いてもよい。なお、上記水素ドナーは、水素結合の形成において、水素ドナーとなりうる基であればよく、特に限定されるものではない。例えば、下記式群(1)
【0045】
【化1】

【0046】
(式中、Rは、アルキル基、アリール基、アルキル基とアリール基が組み合わされた複合基、またはこれらの置換基にエーテル結合、エステル結合もしくはカルボニル基が導入された置換基である。)
で表される置換基を挙げることができる。また、上記水素アクセプターは、水素結合の形成において、水素アクセプターとなりうる基であればよく、特に限定されるものではない。例えば、下記式群(2)
【0047】
【化2】

【0048】
(式中、Rは、アルキル基、アリール基、アルキル基とアリール基が組み合わされた複合基、またはこれらの置換基にエーテル結合、エステル結合もしくはカルボニル基が導入された置換基である。)
で表される置換基を挙げることができる。
【0049】
上記平面状分子は、上記例示した水素ドナーと水素アクセプターとを所望に組み合わせて備えることにより、例えば、下記式(3)〜(6)
【0050】
【化3】

【0051】
(式中、RおよびRは、それぞれ、独立して、アルキル基、アリール基、アルキル基とアリール基が組み合わされた複合基、またはこれらの基にエーテル基、エステル結合もしくはカルボニル基が導入された置換基である。)
で表される3本の水素結合を形成し、超分子錯体を形成することができる。
【0052】
本発明にかかる可溶化剤について、より具体的に例示すると、2種類の平面状分子を組み合わせて含有する可溶化剤として、例えば、下記式群(7)
【0053】
【化4】

【0054】
(式中、Rは、水素またはアルキル基である。)
で表される平面状分子から選択される1つの平面状分子と、下記式群(8)
【0055】
【化5】

【0056】
(式中、Rは、水素またはアルキル基を表す。)
で表される平面状分子とを組み合わせて含有する可溶化剤を挙げることができる。このような可溶化剤では、平面状分子と平面状分子とは、3本の水素結合で結合することにより、超分子錯体を形成することができる。
【0057】
上記式群(7)のうち、下記式群(9)
【0058】
【化6】

【0059】
(式中、Rは、水素またはアルキル基を表す。)
で表される平面状分子から選択される1つの平面状分子と、上記式群(8)で表される平面状分子とを組み合わせて用いることが好ましい。このような構成によれば、上記可溶化剤に、低分子量の平面状分子のみを用いるため、上記可溶化剤を、容易に製造したり、安価に入手したりすることができる。それゆえ、CNT分散液を低コストで製造することが可能となる。
【0060】
また、1種類の平面状分子を含有する可溶化剤としては、例えば、2つのカルボキシル基を有する平面状分子を含有する可溶化剤を挙げることができる。このような分子によれば、カルボキシル基は、水素アクセプターとして機能する部分と、水素ドナーとして機能する部分を有しているため、平面状分子間で、下記式(10)
【0061】
【化7】

【0062】
で表される2本の水素結合を形成し、超分子錯体を形成することができる。さらに、別の例として、下記式(11)
【0063】
【化8】

【0064】
(式中、Rは、水素またはアルキル基を表す。)
で表される平面状分子を含有する可溶化剤を挙げることができる。このような分子によれば、単独の分子においてお互いに分子間で、3本の水素結合を形成し、超分子錯体を形成することができる。
【0065】
上記粉砕工程において、上記容器に入れるCNTと可溶化剤との比率は、特に限定されるものではなく、用いるCNTおよび可溶化剤の種類および量によって、適宜変更すればよい。一般的には、例えば、上記可溶化剤を10mg用いる場合、上記容器に入れる可溶化剤とCNTとの質量比は、10:1〜1:200とすることが好ましく、5:1〜1:100とすることがより好ましく、1:1〜1:50とすることがさらに好ましい。このように、本発明によれば、従来よりも少ない添加量の可溶化剤により、CNTを可溶化することができる。
【0066】
上記粉砕工程において、CNTおよび可溶化剤を粉砕する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の粉砕方法を用いればよい。具体的には、例えば、高速振動法、および超音波照射法を挙げることができる。中でも、高速振動法を用いることが好ましい。高速振動法によれば、CNTおよび可溶化剤を、迅速に粉砕することができるため、CNT分散液の生産効率をより向上させることができる。
【0067】
上記粉砕工程において、高速振動法を用いて、CNTおよび可溶化剤を粉砕する場合、その粉砕条件は、特に限定されるものではないが、例えば、以下に記載する条件で粉砕することができる。
【0068】
まず、CNTおよび可溶化剤を、硬球と共に容器内に入れ、該容器を振動させる。上記容器は、特に限定されるものではないが、CNTおよび可溶化剤と、硬球とを外界雰囲気から遮断して密閉できる容器であることが好ましい。また、その密閉状態は、該容器を振動させている間も維持されることが好ましい。さらに、密閉状態を生み出すために、容器、より詳細には容器本体と蓋とを、外部からホルダーで固定してもよい。また、上記容器の材料は、振動により生じる衝撃、例えば、容器内で往復運動する硬球が容器内壁と衝突することによって生じる衝撃に耐えうるものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ステンレス等の硬い材料から製造される容器を挙げることができる。
【0069】
さらに、上記容器は、振動中に、上記硬球が往復運動できる形状およびサイズの中空部
を備えるが、該中空部の形状およびサイズについては、特に限定されるものではない。上記形状については、具体的には、例えば、円筒形状で、該容器の振動中に、上記硬球が、該円筒形状の一方の端ともう一方の端との間を、長手方向に往復運動できる形状を挙げることができる。このような形状の中空部を備える容器は、上記CNTおよび可溶化剤の高速振動法による粉砕に好適に用いることができる。また、上記サイズについては、該容器の振動に用いる装置や、CNT分散液の生産規模に応じて、適宜選択すればよい。
【0070】
上記硬球の形状は、特に限定されるものではなく、上記容器の中空部内において、往復運動するのに適した形状であればよい。例えば、球形を挙げることができる。また、上記硬球の大きさは、上記容器の中空部のサイズに合わせて、適宜選択すればよい。例えば、上記中空部のサイズが底面直径12mm、長手方向長さ50mmである容器と、球形の硬球とを用いる場合、該硬球の直径は、2〜10mmであることが好ましく、4〜6mmであることがより好ましく、5mmであることが特に好ましい。上記条件によれば、CNTおよび可溶化剤を、高速振動法により、効率よく粉砕することができる。
【0071】
また、上記硬球は、上記容器の振動中に、該容器の中空部において、該硬球が往復運動し、その結果、CNTが粉砕されるような硬さを有することが好ましい。なお、CNTは、上記硬球と上記容器の中空部の壁部との間で粉砕されることが好ましい。このような硬さを有する硬球としては、例えば、メノウ、スレンレス、アルミナ、ジルコニア、タングステンカーバイド、クロム鋼およびテフロン(登録商標)からなる群より選択される材料から形成される硬球を挙げることができる。
【0072】
上記粉砕工程において、上記容器には、少なくとも1個の上記硬球を入れればよく、該容器に入れる硬球の数は、特に限定されるものではないが、複数個の硬球を上記容器に入れることが好ましい。これにより、往復運動する硬球間においても、CNTおよび可溶化剤が粉砕されるため、上記粉砕工程における粉砕効率を向上させることができる。具体的には、上記溶液内に入れる硬球の数は、上記容器の振動中に、該容器の中空部にて硬球が往復運動し、CNTおよび可溶化剤を粉砕するのに適した数、および/またはCNTと可溶化剤とが混ざるのに適した数となるように、適宜設定されるものである。一般的には、1〜6個であることが好ましく、1〜4個であることがより好ましく、2個であることがさらに好ましい。
【0073】
上記粉砕工程において、上記容器を振動させる振動数は、特に限定されるものではなく、上記容器の振動中に、該容器の中空部において、該硬球が往復運動し、その結果、CNTおよび可溶化剤が粉砕される振動数であればよい。具体的には、上記容器の振動中に、該容器の中空部にて硬球が往復運動し、CNTおよび可溶化剤を粉砕するのに適した振動数および/またはCNTと可溶化剤とが混ざるのに適した振動数で、上記容器を振動させればよい。一般的には、上記容器を振動させる振動数は、3〜120s−1であることが好ましく、10〜60s−1であることがより好ましく、20〜50s−1であることがさらに好ましい。
【0074】
また、上記容器を振動させる方向は、特に限定されるものではなく、上記硬球が上記容器の中空部で往復運動する方向に振動すればよい。具体的には、上記容器および/またはその中空部の形態、または容器の振動機への設置の仕方等に応じて振動させる方向を適宜変更すればよい。一般的に、上記容器の振動方向は、容器中空部の長手方向であり、上記容器の中空部の長手方向が水平方向となるように上記容器を振動機に設置する場合には、その水平方向にて上記容器を左右に往復するように振動させることが好ましい。
【0075】
上記容器を振動させる振幅もまた、特に限定されるものではなく、上記容器の振動中に、該容器の中空部において、該硬球が往復運動し、その結果、CNTおよび可溶化剤が粉砕される振幅であればよい。具体的には、上記容器の振動中に、該容器の中空部にて硬球が往復運動し、CNTおよび可溶化剤を粉砕するのに適した振幅および/またはCNTと可溶化剤とが混ざるのに適した振幅で、上記容器を振動させればよい。例えば、底面直径20mm、長手方向長さ65mmの容器(中空部の底面直径12mm、中空部の長手方向長さ50mm)を用い、該容器を中空部長手方向に振動させる場合、振幅は、5〜100mmとすることが好ましく、10〜80mmとすることがより好ましく、20〜50mmとすることがさらに好ましい。なお、ここでいう「振幅」とは、振動に付される容器が振動の中心点を基準にして最大に変位した場合において、中心点から最大変位点までの長さをいう。
【0076】
さらに、上記粉砕工程において、上記容器を振動させる時間もまた、特に限定されるものではないが、振動時間が短すぎると、CNTおよび可溶化剤を粉砕、および/または、CNTと可溶化剤との混合が十分に行えない傾向がある。一方、振動時間が長すぎると、得られるCNT分散液中のCNT濃度が低下する傾向がある。したがって、上記振動時間は、そのような不都合が生じないように、上記振動数および振幅等、上述したその他の粉砕条件に応じて、適宜設定することが好ましい。一般的には、上記振動時間は、5〜60分間とすることが好ましく、10〜30分間とすることが好ましい。
【0077】
上記例示したような条件で、粉砕工程を行うことにより、粉砕されたCNTおよび可溶化剤を含有するCNT混合物を、簡便な方法で、かつ短時間で、取得することができる。
【0078】
(B)分散工程
上記分散工程では、上記粉砕工程において取得されたCNT混合物に有機溶媒を加えて、CNTを該有機溶媒に分散させ、CNTの抽出を行う。これにより、CNT分散液が得られる。
【0079】
上記有機溶媒は、特に限定されるものではなく、用いる可溶化剤に応じて、適宜選択して用いればよい。上記分散工程において好適に用いることが可能な有機溶媒としては、例えば、エーテル系有機溶媒、およびアミド系有機溶媒を挙げることができる。上記エーテル系有機溶媒としては、ジエチルエーテル、およびテトラヒドロフランを例示できる。また、上記アミド系有機溶媒としては、1−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」ともいう)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」ともいう)を例示できる。上記エーテル系有機溶媒、およびアミド系有機溶媒は、いずれも極性が高い有機溶媒である。また、上記有機溶媒は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
(C)不溶成分除去工程
上記不溶成分除去工程では、上記分散工程で得られたCNT分散液から、沈殿物を除去する。これにより、沈殿物を含有しないCNT分散液を得ることができる。なお、上述したように、本発明にかかるCNT分散液の製造方法において、上記不溶成分除去工程は、必ずしも行わなくてもよい。
【0081】
上記沈殿物とは、上記有機溶媒に可溶化しなかったCNT、および上記有機溶媒に分散しなかった、CNT以外の成分を意味するものである。
【0082】
上記不溶成分除去工程において、上記CNT分散液から沈殿物を除去する方法は、特に限定されるものではなく、溶液または分散液から、不溶成分を除去することが可能な従来公知の方法を用いればよい。そのような方法としては、例えば、遠心分離法を挙げることができる。また、遠心分離法を用いる場合、その条件は、特に限定されるものではない。除去する沈殿物の種類等に応じて、回転数、遠心分離時間、および温度を適宜設定すればよい。
【0083】
本発明にかかるCNT分散液の製造方法は、以上のような構成を備えているため、CNTが安定に分散するCNT分散液を、簡便に、かつ短時間で製造することができる。また、本発明にかかるCNT分散液の製造方法では、可溶化剤として、1つまたは2つの芳香環もしくは複素環を含む平面状分子を用いることができる。そのため、高分子合成をしたり、複雑な構造を有する化合物を合成したりする必要がない。それゆえ、低コストで、簡便にCNTが安定に分散するCNT分散液を製造することができる。
【0084】
<III.カーボンナノチューブ分散液の利用>
本発明にかかるCNT分散液は、少なくとも部分的に束が解離したCNTがほぼ均一に有機溶媒中に存在する。その結果、本発明にかかるCNT分散液を上記基材表面に塗布して乾燥することにより得られるCNT膜は、CNTをほぼ一様に含んだ膜となる。また、CNTは、溶媒中で束となっているよりも、束が解離しているほうがCNTの比表面積が増大する。このCNTの比表面積は、束が解離される程度に比例して増大するものと考えられる。したがって、本発明にかかるCNT分散液によれば、束状のCNTを用いる場合よりも比表面積が大きいCNT膜を形成させることができる。本発明には、このような本発明にかかるCNT分散液を用いて形成されたCNT膜も含まれる。
【0085】
さらに、本発明にかかるCNT膜は、様々な部材に設けることができる。そのような部材としては、例えば、ガス吸蔵品または電極等を挙げることができる。本発明にかかるCNT分散液をガス吸蔵品に用いる場合、上述したように、本発明にかかるCNT分散液を用いて形成されるCNT膜は、束状のCNTを用いて形成されるCNT膜よりも比表面積が大きい。それゆえ、ガス吸蔵量が増加し、より理論値に近いガス吸蔵量を有するガス吸蔵品を製造することができる。また、本発明にかかるCNT分散液を電極に用いる場合、束状のCNTを用いるよりも、電極表面との接触面積を増加させることができる。それゆえ、電極の効率が向上し、より理論値に近い効率を有する電極を製造することができる。なお、ここでいう「理論値」とは、該部材に含まれる全てのCNTについて、束が解離しているとの仮定に基づく理想状態の水素吸蔵量または電極効率をいう。
【0086】
また、こうして得られたガス吸蔵品は、例えば、車、船舶等の水素ガス燃料を保存するために用いることができ、また、電極は、例えば、リチウム二次電池などの負極等として用いることができる。本発明には、このような本発明にかかるCNT膜を備える部材、並びに該部材を備えるデバイスおよび装置も含まれる。
【0087】
本発明にかかる部材は、具体的には、基材表面に、本発明にかかるCNT分散液を塗布し、乾燥させることにより、CNT膜を形成させて製造することができる。上記基材は、その形状、および材料は特に限定されるものではない。例えば、ガス吸蔵品または電極等に適当な基板または支持板等を挙げることができる。
【0088】
また、本発明にかかるCNT分散液は、ガス吸蔵品および電極以外の用途に用いることもできる。例えば、従来公知のメンブランフィルターを用いて、本発明にかかるCNT分散液を濾別することによって、そのCNT分散液中に含まれるCNTのみを単独に取り出すことができる。このように取り出されたCNTは、電界放出ディスプレイ(Field Emission Display、「FED」ともいう)用エミッター、光電変換素子、複合材料(プラスティック、ゴムもしくは樹脂等を補強するために混ぜられる材料)または化粧品等の用途に用いることができる。
【0089】
さらに、本発明にかかるCNT分散液は、CNTを含有する有機高分子材料に用いることができる。具体的には、例えば、本発明にかかるCNT分散液を、有機高分子材料と混合することによって、CNTの特性を生かした有機高分子材料とすることができる。このような有機高分子材料は、コーティング剤や帯電防止剤など、様々な用途に用いることができる。また、本発明にかかるCNT分散液を有機高分子と混合し、従来公知の各種方法を用いて、該混合物を成型し、CNTを含有する部材を製造することができる。このような部材は、導電性が向上した電極など、様々な用途に用いることができる。
【0090】
さらに、本発明にかかるCNT分散液は、該CNT分散液から、所望の特性を有するCNTを精製するために用いることができる。CNTは、その製造過程において、特性の異なるCNTが複数混合した混合物として得られる。そのため、CNTの用途によっては、所望の特性を有するCNTのみ精製する必要がある。本発明にかかるCNT分散液によれば、このような所望の特性を有するCNTのみを選択的に取り出すことができる。具体的には、本発明にかかるCNT分散液に含有させる有機溶媒を選択することによって、光または熱などを照射することによって、CNT分散液中のCNTを再沈殿させることができる。例えば、本発明にかかるCNT分散液において、上記有機溶媒としてNMPを用いると、該CNT分散液は、光または熱の照射により、CNTが再沈殿する性質を有する。このように、本発明にかかるCNT分散液によれば、該CNT分散液中に含まれるCNTを再沈殿させることにより、精製されたCNTを得ることができる。換言すれば、本発明は、CNTを精製するために用いることができる。したがって、本発明には、上述した可溶化剤および有機溶媒を用いてCNTを精製する方法も含まれる。
【0091】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0092】
本発明について、実施例および比較例、並びに図1および図2に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、実施例および比較例において、CNT分散液の紫外−可視吸収スペクトル、およびCNT分散液中のCNT濃度は以下の方法に従い、評価した。
【0093】
〔紫外−可視吸収スペクトル測定〕
CNT分散液を、NMPで10倍に希釈した後、該CNT分散液の250nm〜800nmまでの紫外−可視吸収スペクトルを分光光度計を用いて測定した。
【0094】
〔CNT濃度の検定〕
CNT分散液を、NMPで10倍に希釈した後、該CNT分散液の可視吸収スペクトルにおける500nmの波長の光の吸光度(A500)を測定した。吸光度測定では、1mmセルを用いた。そして、測定されたA500の値を以下の式に代入し、該CNT分散液におけるCNT濃度を測定した。なお、CNT濃度(mg/ml)とは、CNT分散液1ml当たりに含まれるCNTの質量(mg)を意味する。
CNT濃度(mg/ml)=A500[−]/(ε500[cm/g]×0.1[cm]×10-4[−])
なお、CNT分散液中のCNTの500nmの波長の光に対数する分子吸光係数ε500は、4.56×10cm/gとして計算した。
【0095】
〔実施例1:カーボンナノチューブ分散液の製造〕
1mgの単層CNT、0.66mgのバルビツール酸、0.63mgのTP、および2個のメノウボール(球直径5mm)を20mmの底面直径、65mmの長手方向長さを有する円筒形状の密閉容器(該容器に形成される円筒形中空部:底面直径12mm、長手方向長さ50mm)に仕込んだ。なお、TPは、メラミン誘導体であり、上記式(8)において、Rが水素原子である化合物である。
【0096】
その後、該密閉容器を、振動機(レッチェ(Retsch)製、MM200)において、密閉容器中空部の長手方向をほぼ水平にした状態で、約30mmの振幅、約30s−1の振動数で該密閉容器を水平方向に振動させた。
【0097】
約20分間振動させた後、該密閉容器中空部から黒色粉末を取り出した。こうして得られた黒色粉末、約2.3mgに約1mlのNMPを加え、遠心分離機(ベックマン・コールター(Bechman Coulter)社製、マイクロフュージ22アール(Microfuge 22R)により、回転数14000rpmで20分間遠心分離を行った。その後、上清を分取して単層CNTを安定に含むCNT分散液を得た。得られたCNT分散液は、図1(a)に示すように、黒色であった。これにより、単層CNTがNMPに分散していることが確認された。次に、得られたCNT分散液の紫外−可視吸収スペクトルを、上記の方法に従い、測定した。その結果を図2に示す。図2に示すように、単層CNTによる吸収が250nm〜800nmの全ての範囲で観測された。これにより、単層CNTが分散していることが確認された。
【0098】
また、上記CNT分散液について、CNT濃度を測定し、単層CNTのNMPへの抽出率を評価した。その結果を表1に示す。さらに、上記CNT分散液を室温で放置したところ、少なくとも4週間までは、単層CNTの凝集および沈殿は見られなかった。
【0099】
【表1】

【0100】
〔実施例2〜3:カーボンナノチューブ分散液の製造〕
0.63mgのTPの代わりに、0.93mgのB−TP(実施例2)または1.5mgのD−TP(実施例3)を用いたことを除いて、実施例1と同様の方法により、CNT分散液を製造した。なお、B−TPおよびD−TPは、メラミン誘導体であり、上記式(8)において、Rが、それぞれ、C、およびC1225である化合物である。
【0101】
得られたCNT分散液について、上記の方法に従い、紫外−可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図2に示す。図2に示すように、実施例2および実施例3のCNT分散液は、いずれも、単層CNTによる吸収が250nm〜800nmの全ての範囲で観測された。これにより、単層CNTが分散していることが確認された。さらに、実施例2および実施例3のCNT分散液について、CNT濃度を測定し、単層CNTのNMPへの抽出率を評価した。その結果を表1に示す。表1に示すように、用いるメラミン誘導体の側鎖のアルキル基の長さが長くなるにつれて、抽出率が向上した。さらに、その結果、実施例2および実施例3のCNT分散液を室温で放置したところ、いずれのCNT分散液も、少なくとも4週間までは、単層CNTの凝集および沈殿は見られなかった。
【0102】
〔比較例1〜2〕
0.66mgのバルビツール酸と0.63mgのTPとを用いる代わりに、2.2mgのバルビツール酸(比較例1)または2.1mgのTP(比較例2)を用いることを除いて、実施例1と同様の方法により、CNT分散液を製造した。その結果、図1(b)に示すように、比較例1の分散液は、無色透明であった。同様に、図1(c)に示すように、比較例2の分散液も、無色透明であった。これにより、比較例1および比較例2の分散液には、単層CNTが分散していないことが分かった。
【0103】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上のように、本発明は、水素結合により超分子錯体を形成可能な低分子量の平面状分子を含有する可溶化剤を用いるため、有機溶媒中に、該カーボンナノチューブを安定に分散させることができる。したがって、本発明は、電極などの導電性材料や、帯電防止剤、コーティング剤、ガス吸蔵品、電界放出ディスプレイ用エミッタ、光電変換素子、プラスティック、ゴム、または樹脂などに混合される複合材料、化粧品等の部材や製品およびそれらの製造分野に用いることができる。また、溶液状のカーボンナノチューブを用いる様々な部品や製品、およびその製造分野に幅広く利用することができる。さらに、上記部品や製品を用いて構成される装置や機器およびそれら製造にかかる産業分野、並びにそれら装置、機器を使用する産業分野にも広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、本発明にかかる実施例および比較例のCNT分散液を示す図であり、図1(a)は、本発明にかかる実施例のCNT分散液を示し、図1(b)および(c)は、比較例のCNT分散液を示す。
【図2】図2は、本発明にかかる実施例のCNT分散液の紫外−可視吸収スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブおよび可溶化剤を粉砕してカーボンナノチューブ混合物を取得する工程と、
該カーボンナノチューブ混合物に有機溶媒を加えて、上記カーボンナノチューブを該有機溶媒に分散させる工程とを含み、
上記可溶化剤は、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面構造を有する分子を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項2】
上記平面構造を有する分子は、少なくとも水素結合を行なう部位が平面構造を有し、
該平面構造内の芳香環もしくは複素環の数は2個以下であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項3】
上記超分子錯体は、上記平面構造を有する分子が互いに2本または3本の水素結合で結合されることにより形成されることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項4】
上記可溶化剤は、単一種の上記平面構造を有する分子を含有することを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項5】
上記可溶化剤は、複数種の上記平面構造を有する分子を含有することを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項6】
上記可溶化剤は、バルビツール酸およびその誘導体、並びにシアヌル酸を含む類縁体からなる群より選択される少なくとも1つの平面構造を有する分子と、メラミンおよびその誘導体、並びにトリアミノピリミジン誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの平面構造を有する分子とを含有することを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項7】
上記可溶化剤は、複数種の上記平面構造を有する分子を等モルずつ含有することを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項8】
高速振動粉砕法により、上記カーボンナノチューブおよび可溶化剤を粉砕することを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項9】
カーボンナノチューブと、可溶化剤と、有機溶媒とを含み、
上記可溶化剤は、水素結合により超分子錯体を形成可能な平面構造を有する分子を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【請求項10】
請求項9に記載のカーボンナノチューブ分散液を用いて形成されることを特徴とするカーボンナノチューブ膜。
【請求項11】
請求項10に記載のカーボンナノチューブ膜を備えることを特徴とする部材。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−169094(P2008−169094A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5225(P2007−5225)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】