説明

カーボンナノチューブ分散物の製造方法

【課題】短時間で良好な分散物を得ることができるカーボンナノチューブ分散物の製造方法を提供する。
【解決手段】有機溶媒に高分子化合物(好ましくは、アクリル系又はエポキシ系ポリマー)を溶解し、必要により分散して、粘度が20〜30000cPである高分子化合物溶液を調製し、該高分子化合物溶液にカーボンナノチューブを添加して、超音波分散、高剪断分散等の方法により分散することを特徴とするカーボンナノチューブ分散物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料に好適な絶縁樹脂の製造方法に関し、より詳細には、カーボンナノチューブが良好に分散したカーボンナノチューブ分散物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは様々な分野における機械的及び機能的材料として期待されており、これら材料を製造する際には、カーボンナノチューブが均一に分散された溶媒を用いることが有益である。例えば、カーボンナノチューブが均一に分散された溶媒にポリマーを溶かすことによってカーボンナノチューブがポリマーマトリックスに均一に分散したナノコンポジットを製造することができる。また、カーボンナノチューブが均一に分散された溶媒の有する低い散乱性を利用して光学機器として用いることができる。さらに分散液の精製によってトランジスタ等の電子装置、電子放出装置や二次電池を製造する際にも利用される。例えば、炭素微粒子を用いたエミッタの形成方法としては、炭素微粒子を溶媒に分散した懸濁液を作製し、キャスト、スクリーン印刷、インクジェットなどの印刷技術を用いて基板となる支持部材上に懸濁液のパターンを形成した後、溶媒を乾燥して所望の形状を得ている。
【0003】
ここで、前記のようにカーボンナノチューブを溶媒中に分散する方法として、カーボンナノチューブを含有し、更にポリマー、光重合性化合物、光重合開始剤を含んでなる感光性樹脂組成物において、当該組成物の調製段階で溶剤に溶解・分散する方法が示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、誘電率を制御した複合材料誘電体を提供するため、ポリマーマトリクス中に複数のカーボンナノチューブを分散する方法があり、分散においては様々な装置が用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、カーボンナノチューブとマトリックス材料との濡れ性や接着性を向上させるために、カーボンナノチューブに脱脂処理や洗浄処理等の表面処理を施す方法が試され、多量のカーボンナノチューブが容易に分散混合可能であるとされている(例えば、特許文献3参照)。
また、カーボンナノチューブをフィルム化する場合にあっては、カーボンナノチューブを溶媒中に混入し超音波をかけて分散させる方法が示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
更には、カーボンナノチューブを、アミド系極性有機溶媒、非イオン性界面活性剤及びポリビニルピロリドン(PVP)と共に超音波処理して分散を行うカーボンナノチューブ分散溶液が試されている(例えば、特許文献5及び6参照)。
【特許文献1】特開2005−24893号公報
【特許文献2】特表2005−500648号公報
【特許文献3】特開2002−273741号公報
【特許文献4】特許第3049019号公報
【特許文献5】特開2005−154630号公報
【特許文献6】特開2005−162877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、未だ、十分にカーボンナチューブを溶媒に分散する方法は確立されていない。これはカーボンナノチューブ相互の凝集力(ファンデルワールス力)によって、束状及び縄状に凝集してしまうためである。また、カーボンナノチューブの原子レベルでの滑らかな表面が溶媒に対する親和性を低下させる要因となっている。したがって、カーボンナノチューブの特異で有用な性質にもかかわらず、これを均一に分散したポリマー系ナノコンポジットなどを製造することは極めて困難であり、カーボンナノチューブの各種用途への応用を事実上困難にしている。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑み、短時間で良好な分散物を得ることができるカーボンナノチューブ分散物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来における課題は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明のカーボンナノチューブ分散物の製造方法は、
<1> 有機溶媒に高分子化合物を溶解して、粘度が20〜30000cPである高分子化合物溶液を調製し、該高分子化合物溶液にカーボンナノチューブを添加、分散することを特徴とするカーボンナノチューブ分散物の製造方法である。
<2> 前記高分子化合物の重量平均分子量が1000〜10万であることを特徴とする前記<1>に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法である。
<3> 前記高分子化合物が非水溶性ポリマーであることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法である。
<4> 前記高分子化合物がアクリル系ポリマー又はエポキシ系ポリマーであることを特徴とする前記<1>〜<3>の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法である。
<5> 前記高分子化合物が側鎖に感光性基を有することを特徴とする前記<1>〜<4>の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法である。
<6> 前記高分子化合物がアルカリ現像可能であることを特徴とする前記<1>〜<5>の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法である。
<7> 前記カーボンナノチューブの高分子化合物溶液中への分散が、超音波分散及び高剪断分散の少なくとも一方により行われることを特徴とする前記<1>〜<6>の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短時間で良好な分散物を得ることができるカーボンナノチューブ分散物の製造方法を提供することができ、本発明の製造方法によって得られるカーボンナノチューブ分散物は、特に樹脂組成物に用いた場合に、優れた引っ張り強度と小さい熱膨張係数の材料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のカーボンナノチューブ分散物の製造方法は、まず、高分子化合物を有機溶媒に溶解して粘度が20〜30000cPである高分子化合物溶液を調製し、この高分子化合物溶液にカーボンナノチューブを添加、分散することを特徴とする。
当該製造方法によれば、カーボンナノチューブの分散時に十分なせん断力がかかるため、短時間で良好な分散物が得られる。また、カーボンナノチューブが均一且つほぐれた状態で高分子マトリックスとのナノコンポジット構造を形成するため、高分子マトリックスの引っ張り強度が強化される。
以下、本発明のカーボンナノチューブ分散物の製造方法を順を追って説明する。
【0011】
<高分子化合物溶液の調製>
本発明における高分子化合物溶液は、前記の通り粘度が20〜30000cPであることを必須の要件とする。
前記高分子化合物溶液の粘度が20cP未満である場合、カーボンナノチューブの分散時にカーボンナノチューブ自体に及ぼされる剪断力が不十分なため凝集しているカーボンナノチューブはその凝集が解れず、良好な分散物が得られない。一方30000cPを超える場合、分散機の出力が十分高くないと内容物を攪拌できず、また分散機の可動部分に不要な力が働くため分散機が故障しやすくなるという実際的な欠点がある。
尚、分散物の取り扱い性(取り出しやすさなど)や、分散時間を短くできるという観点から、前記粘度は100〜10000cPであることがより好ましく、500〜3000cPであることが特に好ましい。
【0012】
ここで、前記高分子化合物溶液の粘度測定は、測定装置として回転粘度計(英弘精機株式会社製、商品名:ビスコテスター VT550共軸二重円筒タイプ)を用い、測定条件を、温度40℃、剪断速度200(1/sec)として行った。
【0013】
高分子化合物を有機溶媒に溶解した直後には、溶解が均一でないため粘度が数万を超えることがある。その場合には、前記高分子化合物溶液の粘度を上記範囲とするため、高分子化合物を有機溶媒に均一に溶解した後に分散工程を設けることが好ましい。また、十分に溶解していない粒子等を除去するために、ろ過することも好ましい。
尚、前記高分子化合物溶液の分散は、攪拌器、ホモジナイザー、コロイドミル、フロージェットミキサー、ディゾルバー、マントン乳化装置、超音波装置等の分散装置を用いて乳化分散することにより行うことができる。また、公知の粉砕化手段、例えば、ボールミリング(ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル等)、サンドミリング、コロイドミリング、ジェットミリング、ローラーミリング等によって処理することによっても分散できる。更に、顔料分散に用いられる、縦型あるいは横型のアジテーターミル、アトライター、コロイドミル、ボールミル、3本ロールミル、パールミル、スーパーミル、インペラー、デスパーサー、KDミル、ダイナトロン、加圧ニーダー等の分散機を用いることも出来る。
また、前記ろ過の方法としては、ろ材はセルロース系、合成高分子系、無機系、金属系などの材質のメンブレンフィルタ、アルミナ、シリカ、珪藻土などの粒状素材により構成されたろ床、硝子繊維やセルロース等の高分子繊維を用いたカートリッジフィルター等を用い、自然ろ過、加圧ろ過、真空吸引等のろ過方法を用いることができる。尚、ろ過速度の観点から、カートリッジフィルターと真空ろ過の組み合わせが特に好ましい。
【0014】
−高分子化合物−
次いで、高分子化合物溶液に用いられる高分子化合物(ポリマー)について説明する。
なお、以下において(メタ)アクリル酸とはアクリル酸及びそれに対応するメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレートとはアクリレート及びそれに対応するメタクリレートを意味し、(メタ)アクリロイル基とはアクリロイル基及びそれに対応するメタクリロイル基を意味する。
【0015】
上記高分子化合物(ポリマー)としては、例えば、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、アミド系ポリマー、アミドエポキシ系ポリマー、アルキド系ポリマー、フェノール系ポリマー、セルロース系ポリマー等が挙げられる。尚、本発明のカーボンナノチューブ分散物を用いて樹脂層を膜状に形成する場合には、アルカリ現像性を有していることが好ましく、その見地からは、カルボキシル基を有するポリマーであることが好ましく、例えば、アクリル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、セルロース系ポリマー等が製造容易性の点で好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
上記アクリル系ポリマーは、例えば、重合性単量体をラジカル重合させることにより製造することができる。該重合性単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン等の重合可能なスチレン誘導体、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニル−n−ブチルエーテル等のビニルアルコールのエステル類、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、α−ブロモ(メタ)アクリル酸、α−クロル(メタ)アクリル酸、β−フリル(メタ)アクリル酸、β−スチリル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノイソプロピル等のマレイン酸モノエステル、フマール酸、ケイ皮酸、α−シアノケイ皮酸、イタコン酸、クロトン酸、プロピオール酸などが挙げられる。
尚、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルやこれらの構造異性体等が挙げられる。
【0017】
これらアクリル系ポリマーの中でも、カーボンナノチューブとの親和性の点で好適であることから、より好ましいものとしては、重合可能なスチレン誘導体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0018】
前記セルロース系ポリマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル・カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレートなどが挙げられ、膜形成能、アルカリ現像性等の点から、セルロースアセテートフタレートが好ましい。
【0019】
また、硬化後の膜強度等の点から、ポリマーは側鎖に炭素−炭素二重結合等の感光性基を有することが好ましく、例えば、
1.(a)カルボキシル基を有するカルボキシルモノマーと、(b)該カルボキシルモノマーと共重合可能な共重合モノマーと、の共重合体に、(c−1)二重結合及びヒドロキシル基を有するヒドロキシルモノマーを反応させてなるポリマー(以下「二重結合性ポリマー1」という)、
2.(a)カルボキシル基を有するカルボキシルモノマーと、(b)該カルボキシルモノマーと共重合可能な共重合モノマーと、の共重合体に、(c−2)二重結合及びグリシジル基を有するグリシジルモノマーを反応させてなるポリマー(以下「二重結合性ポリマー2」という)
等が挙げられる。
【0020】
前記二重結合性ポリマー1は、カルボキシルモノマーと共重合モノマーとの共重合で生じたポリマーにおける、側鎖のカルボキシル基と、ヒドロキシルモノマーのヒドロキシル基との反応により生じたポリマーであり、二重結合がエステル結合を介して側鎖に導入されたポリマーである。一方、二重結合性ポリマー2は、カルボキシルモノマーと共重合モノマーとの共重合で生じたポリマーにおける、側鎖のカルボキシル基と、グリシジルモノマーのエポキシ基との反応により生じたポリマーであり、二重結合性ポリマー1と同様に、二重結合がエステル結合を介して側鎖に導入されたポリマーである。
【0021】
二重結合性ポリマー1又は2の合成に用いられる前記カルボキシルモノマーとしては、例えば、前述した(メタ)アクリル酸、α−ブロモ(メタ)アクリル酸、α−クロル(メタ)アクリル酸、β−フリル(メタ)アクリル酸、β−スチリル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノイソプロピル等のマレイン酸モノエステル、フマル酸、ケイ皮酸、α−シアノケイ皮酸、イタコン酸、クロトン酸、プロピオール酸などが挙げられる。これらのなかでは、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。上記カルボキシルモノマーは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
二重結合性ポリマー1又は2の合成に用いられる共重合モノマーとしては、例えば、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0023】
二重結合性ポリマー1の合成に用いられるヒドロキシルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられ、係る化合物は、例えば下記一般式で表すことができる。
【0024】
【化1】

【0025】
式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基を示す。なお、Rは直鎖状構造でも、枝分かれ構造でも、環状構造を有していてもよい。Rとしては、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましい。
前記ヒドロキシルモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0026】
二重結合性ポリマー2の合成に用いられるグリシジルモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ基含有不飽和化合物、1,2−エポキシシクロへキシルメチル(メタ)アクリレート等の脂環式エポキシ基含有不飽和化合物等が例示でき、なかでも、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
前記高分子化合物溶液に用いられるエポキシ系ポリマーとしては、例えば、特開平11−240930号公報に記載されるような酸変性ビニル基含有エポキシ樹脂などが挙げられる。
具体的には、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ化合物、複素環式エポキシ化合物、ジグリシルエステル系エポキシ化合物等が挙げられる。
これらエポキシ系ポリマーの中でも硬化反応後の特性を向上させるためにエポキシ基を1分子内に2個以上持つことが好ましい。例えば1分子中に2個のエポキシ基を持つビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、レゾルシノール、ジヒドロキナフタレン、ジシクロペンタジエンジフェノール、ジハイドロキシビフェニル等のジグリシジルエーテル、1分子中に3個以上のエポキシ基を持つエポキシ化フェノールノボラック、エポキシ化クレゾールノボラック、エポキシ化トリスフェニロールメタン、エポキシ化テトラフェニロールエタン、ジシクロペンタジエン型エポキシ等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0028】
前記高分子化合物の酸価は、特に後述のように光硬化後のアルカリ性水溶液による現像性を付与する場合においては、30〜200mgKOH/gであることが好ましく、45〜150mgKOH/gであることがより好ましい。この酸価が30mgKOH/g未満では現像時間が長くなる傾向があり、200mgKOH/gを超えると光硬化したレジストの耐現像液性が低下する傾向がある。また、現像工程として溶剤現像を行う場合は、カルボキシル基を有する重合性単量体を少量に調製することが好ましい。
【0029】
また、前記高分子化合物の重量平均分子量は、1000〜100万であることが好ましく、4000〜20万であることがより好ましい。
この重量平均分子量が1000以上であることにより、分散液の粘度を上げるという効果があり、一方100万以下であることにより、ポリマーの溶解が容易という効果がある。
【0030】
尚、前記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、標準ポリスチレンを用いた検量線により換算して求めた。また、測定温度、条件等は、その高分子に応じて、既知の適切な条件を選んで行った。
【0031】
−有機溶媒−
本発明に用いる有機溶媒(即ち、前記高分子化合物溶液の調製に用いる有機溶媒)としては、特に限定されるわけではないが、前記高分子化合物溶液の粘度を実現する観点から、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル等やこれらの混合溶剤を好ましく用いることができる。
また、これらの中でも、用いる高分子の良溶媒を用いることが好ましく、例えばエポキシ樹脂を用いる場合はアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が好ましい。
これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0032】
<カーボンナノチューブの分散>
本発明においては、前記のようにして得た粘度が20〜30000cPの高分子化合物溶液にカーボンナノチューブを添加・分散しカーボンナノチューブ分散物を得る。尚、得られた分散物を塗布等するため粘度を下げる必要がある場合には溶剤で希釈することもでき、更に粘度を上げるためポリマーを追加することによって、使用目的に応じた適度な粘度に調整することができる。
【0033】
カーボンナノチューブの添加に際しては、凝集物をほぐしつつ再度の凝集を防止しながら分散することによって良好な分散物が得られ、そのためには分散時に十分なせん断力が与えられることが好ましい。本発明のカーボンナノチューブ分散物の製造方法によれば、所望の粘度に調整した高分子化合物溶液中にカーボンナノチューブを分散するため、分散時に十分なせん断力を与えることができ、前記のような良好な分散物を製造することができる。尚、カーボンナノチューブの充填レベルを設定しながら分散を行ってもよいし、また凝集を判断するために光学顕微鏡によって溶液を監視しながら分散を行ってもよい。
【0034】
カーボンナノチューブの分散に用いることの出来る装置としては、超音波混合技術または高剪断混合技術を用いたものが特に好ましく、攪拌器、ホモジナイザー、コロイドミル、フロージェットミキサー、ディゾルバー、マントン乳化装置、超音波装置等の分散手段によって乳化分散して分散物を得ることができる。また、公知の粉砕化手段、例えば、ボールミリング(ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル等)、サンドミリング、コロイドミリング、ジェットミリング、ローラーミリング等によって処理することによっても分散することができる。また、顔料分散に用いられる、縦型あるいは横型のアジテーターミル、アトライター、コロイドミル、ボールミル、3本ロールミル、パールミル、スーパーミル、インペラー、デスパーサー、KDミル、ダイナトロン、加圧ニーダー等の分散機を用いることも出来る。
【0035】
−カーボンナノチューブ−
カーボンナノチューブは、非常に規則正しく、アスペクト比が高いとともに、機械的特性、電気的特性及び熱的特性が極端なカーボンの形態である。
現在、カーボンナノチューブは、グラム単位の量で簡単に合成される。カーボンナノチューブは、基本的に、チューブ状に巻回される単一のグラファイト層であり、同心の幾つかの層を形成するように巻き付けられる多層ナノチューブ(MWNT)または単層ナノチューブ(SWCNT)として存在する。SWCNTは、六角形状に結合されたグラフェンシートの単層から成る(グラファイトは、グラフェンシートをパンケーキ状に積み重ねることによって形成される)。典型的なフラーレンC60と同様に、SWCNTは、空間を2つの容積に分割する。すなわち、前記空間は、化学的に丈夫な1原子厚の不透過膜によって、内側空間と外側空間とに分離される。このグラフェン膜の結合の完全性により、導電性が銅や金等の金属と同等であり、チューブ軸に沿う熱伝導率が任意の他の材料と同等もしくはそれ以上であり、引張強度が任意の他の材料よりも高いと考えられ、例えば1/6の質量でスチールの強度の30〜100倍の強度を持ち、極めて高い剛性を持ちつつ、完全な弾性をもって度合いの高い曲げ、座屈、ねじり及び/又は圧縮の繰り返しに耐えることができる能力を兼ね備えている等といった際立った特性を持つ、そのようなフラーレンカーボンナノチューブが得られる。
【0036】
カーボンナノチューブは、考えられる技術的な用途において、3つの主な利点、すなわち、(1)電気的特性、(2)熱的特性、(3)極めて高い機械的強度を有している。
多層ナノチューブおよび単層ナノチューブの湿潤は、当技術分野において一般的なことである。ナノチューブの湿潤は、分散における基準である。2つの材料の界面で生じる表面張力が、分散された材料を湿らせるための臨界表面張力を下回っている場合には、一方の材料が他方の材料を湿らせる。殆どの有機化合物および樹脂系は、単層ナノチューブおよび多層ナノチューブの両方を湿らせる。殆どの一般的な有機溶媒、モノマー、医薬は、ナノチューブの中空の内部をも湿らせる。カーボンナノチューブのその他の性質や用途については「カーボンナノチューブの材料科学入門(斎藤弥八(編集),坂東俊治(2005/03)コロナ社刊)」等に記載されている。
【0037】
本発明におけるナノチューブにおいては、導電性を高めるために、ナノチューブの表面に金属コーティングを施してもよい。金属コーティングは、これらに限定されないが、銀、金、銅、ニッケル、アルミニウムを含む、電子機器の実装において導体として一般に使用される任意の金属から選択されてもよい。例えば、米国特許第6,013,206号は、脂質細管を合成するとともに、細管に金属をコーティングして導電性を与えるプロセスについて論じている。細管は、脂質から自己組織化する微細で中空の円筒体である。一般的な寸法は、直径が〜0.5μmであり、L/Dが〜100である。金属コーティングが無いと、脂質細管は導電性を有さない。これらの金属化された細管を非常に高い充填率でポリマーと混合することにより、細管は、興味深い誘電特性を有する高分子複合材料を形成することができた。複合材料中において充填密度が高い金属化された細管は、非常に高い誘電応答を生じ、これにより、マイクロ波エネルギを案内して吸収することができる。
金属コーティングはナノチューブの導電性を高め、これにより、金属化されていないナノチューブを使用する場合よりもより高い誘電率を得ることができる。これらの複合材料は、幾何学的な検討材料により、金属化された脂質細管に勝る利点を有しているはずである。例えば、ナノチューブは、直径が〜1nmと非常に小さく、より十分に高いアスペクト比(>1000)を有しており、また、本来、金属化しなくても導電性を有していることを考えると、十分に高い導電率を有している。
【0038】
また、ナノチューブは、例えば従来の高分子化合物加工法を使用して、剪断工程、引き伸ばし工程、または、延伸工程を膜に施すことにより、方向付けを施すことができる。そのような剪断タイプの加工とは、膜中への流れすなわち剪断を生じさせる力を使用して、離間、アライメント、再方向付けを行ない、ナノチューブ自体またはナノチューブと高分子材料との混合物のみにより形成されるナノチューブにおいて達成される場合よりも大きくナノチューブ同士のもつれを解くことである。方向付けられたナノチューブは、例えば、米国特許第6,265,466号に開示されており、その全体の内容は、これを参照することによって本願に組み込まれる。このようなナノチューブ同士のもつれ解きは、押出し成形技術により行なうことができる。この押出し成形技術では、例えば、剪断処理を行なって、変動するが制御された速度で、押出されたプラークを引き、押出されたプラークに加えられる剪断および伸びの大きさを制御することにより、複合材料の異なる表面に差異の力を加え、または、複合材料の表面と略平行に圧力を加える。
【0039】
方向付けは、ナノチューブの軸方向で行なわれる。方向付けの利点は、例えば、“エポキシマトリクス中のニッケルコーティングされたグラファイト繊維のX帯域周波数での誘電率”Y.-S.HoおよびP.Schoen,J.Matl.Research,9,246〜251頁(1994)において論じられている。ここで、著者は、エポキシマトリクス中に分散されたニッケルコーティングされたグラファイト繊維、および、誘電率が高い複合材料への手掛かりを明らかにしている。充填されていないエポキシにおける2.8の値と比べて、75の誘電率が得られる。電場と垂直に方向付けられた繊維において考えられる最大の繊維充填が、電場と平行に方向付けられた繊維を含む複合材料の誘電率の半分にも満たない誘電率を呈することを示すことにより、電場と平行な繊維配向が明らかとなる。最後に、この引例は、分散を容易にするとともに、繊維同士の物理的な接触を防止する物的障壁として機能するように、非導電性の無機充填材を系に加える利点について論じている。その結果として得られた複合材料は、ヒュームド・シリカが無い複合材料よりも誘電損失が低かった。
【0040】
ナノチューブは、電場と平行に方向付けられることが好ましい。この種の方向付けは有益であり、その理由は、ナノチューブが1000を上回るアスペクト比を有していることから、カーボンナノチューブが従来使用されていた繊維よりも高いアスペクト比を有するためである。これに対し、従来のニッケルコーティングされたグラファイト繊維におけるアスペクト比は100以下である。誘電損失が低いカーボン充填高分子複合材料を用いると、高い誘電率を実現できる。高い誘電率は、小さい直径や十分に高いアスペクト比等の幾何学的な検討材料に起因していると考えられる。
本発明者等は、マトリクス内におけるカーボンナノチューブ等の懸濁化した細長い導電体が、プラスチック等の絶縁マトリクス材料の誘電率を高めることを発見した。導電ナノチューブの分極率は、複合材料の誘電率kcを高める。しかしながら、前記導電体の体積充填率が高すぎる場合には、導電体が接触し始め、これにより、マトリクスの容積内に導電経路が形成される。これは、パーコレーションとして知られるプロセスである。パーコレーション材料は、十分に大きな値の導電率を有しており、したがって、静電放電または電磁シールドの用途において使用できる。しかしながら、一般に、パーコレーション材料は、損失が非常に大きいため、コンデンサを形成するために使用することができない。損失は、損失タンジェント:tanδ=kc”/kc’によって与えられる。この損失タンジェントは、コンデンサの用途においては、十分低いことが好ましい。
【0041】
<カーボンナノチューブ分散物の用途>
前記より得られる本発明のカーボンナノチューブ分散物は、例えば、サンドブラスト用レジスト、ソルダマスク、カバーレイ等の永久マスク用レジスト、回路形成用レジスト、表示材料用リブ形成、表示材料用スペーサー形成、表示材料、太陽電池等の基材を補強するための補強膜形成、等の用途に使用することができる。
これらの用途に使用する場合には、前記カーボンナノチューブ分散物と、他の組成物とを混合し、感光性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物等を調製して、当該用途に用いられる。
ここでは、好ましい用途の一つである感光性樹脂組成物について説明する。
【0042】
<感光性樹脂組成物>
本発明における感光性樹脂組成物は、前記カーボンナノチューブ分散物と共に、必要により下記の組成物を混合することにより調製することができる。
−光重合性化合物−
光重合性化合物としては、分子内に少なくとも一つのエチレン性不飽和基を有す光重合性化合物が好ましく、例えば、エチレン基の数が2〜14であるポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレン基の数が2〜14であるポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレン基の数が2〜14であり、プロピレン基の数が2〜14であるポリエチレン・ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO,PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物、2,2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリプロポキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリブトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリエトキシポリプロポキシ)フェニル)プロパン等のビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物、グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物、分子内にウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物等のウレタンモノマー、ノニルフェノキシポリエチレンオキシアクリレート、γ−クロロ−β−ヒドロキシプロピル−β’−(メタ)アクリロイルオキシエチル−o−フタレート、β−ヒドロキシアルキル−β’−(メタ)アクリロイルオキシアルキル−o−フタレート等のフタル酸系化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられ、分子内に少なくとも一つのビスフェノール骨格を有するビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物又は分子内に少なくとも一つのウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物を必須成分とすることが好ましい。また、特開平8−305017号公報の一般式(I)に記載されるようなウレタンモノマーも好適に使用できる。
【0043】
これらの光重合性化合物の分子量は機械強度等の点で1000以上であることが好ましく、1500以上であることがより好ましく、2000以上であることが特に好ましい。また、硬化膜の架橋密度等の点で分子内に少なくとも二つのエチレン性不飽和基を有することが好ましく、分子内に少なくとも三つのエチレン性不飽和基を有することがより好ましく、分子内に少なくとも四つのエチレン性不飽和基を有することが特に好ましい。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0044】
−光重合開始剤−
また、光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、N,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)等のN,N’−テトラアルキル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパノン−1等の芳香族ケトン、アルキルアントラキノン等のキノン類、ベンゾインアルキルエーテル等のベンゾインエーテル化合物、ベンゾイン、アルキルベンゾイン等のベンゾイン化合物、ベンジルジメチルケタール等のベンジル誘導体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体、9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9,9’−アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体、N−フェニルグリシン、N−フェニルグリシン誘導体、クマリン系化合物などが挙げられる。また、2つの2,4,5−トリアリールイミダゾールのアリール基の置換基は同一で対象な化合物を与えてもよいし、相違して非対称な化合物を与えてもよい。また、密着性及び感度の見地からは、2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体がより好ましい。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0045】
ここで、(A)高分子化合物、(B)光重合性化合物、(C)光重合開始剤、(D)カーボンナノチューブのそれぞれの好ましい配合量について述べる。
前記(A)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対し、40〜80質量部とすることが好ましく、45〜70質量部とすることがより好ましい。
【0046】
前記(B)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対し、20〜60質量部とすることが好ましく、30〜55質量部とすることがより好ましい。
【0047】
前記(C)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.2〜10質量部であることがより好ましい。
【0048】
前記(D)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対し、0.001〜10質量部であることが好ましく、0.002〜2質量部であることがより好ましい。
【0049】
−その他の添加剤−
前記感光性樹脂組成物には、必要に応じて、分子内に少なくとも1つのカチオン重合可能な環状エーテル基を有する光重合性化合物(オキセタン化合物等)、カチオン重合開始剤、マラカイトグリーン等の染料、トリブロモフェニルスルホン、ロイコクリスタルバイオレット等の光発色剤、熱発色防止剤、p−トルエンスルホンアミド等の可塑剤、顔料、充填剤、消泡剤、難燃剤、安定剤、密着性付与剤、レベリング剤、剥離促進剤、酸化防止剤、香料、イメージング剤、熱架橋剤などを(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対して各々0.01〜20質量部程度含有することができる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0050】
前記感光性樹脂組成物は、銅、銅系合金、鉄、鉄系合金等の金属面、ガラス面などの面を有する基材上に、感光性樹脂組成物の溶液として塗布・乾燥することにより膜を形成し、必要に応じて保護フイルムを被覆した、感光性エレメントの形態で好適に用いることができる。
【0051】
また、基材上に膜として形成させた感光性樹脂組成物の層の厚み及び感光性エレメントの感光性樹脂組成物の層の厚みは、用途により異なるが、乾燥後の厚みで1〜100μm程度であることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。上記保護フイルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体フイルムなどが挙げられる。
【0052】
上記感光性エレメントは、例えば、支持体として、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル等の重合体フイルム上に感光性樹脂組成物を塗布、乾燥することにより得ることができる。
【0053】
これらの重合体フイルムの厚みは、1〜100μmとすることが好ましい。これらの重合体フイルムの一つは感光性樹脂組成物層の支持体として、他の一つは感光性樹脂組成物の保護フイルムとして感光性樹脂組成物層の両面に積層してもよい。保護フイルムとしては、感光性樹脂組成物層及び支持体の接着力よりも、感光性樹脂組成物層及び保護フイルムの接着力の方が小さいものが好ましい。
【0054】
また、前記感光性エレメントは、感光性樹脂組成物層、支持体及び保護フイルムの他に、クッション層、接着層、光吸収層、ガスバリア層等の中間層や保護層を有していてもよい。
【0055】
上記感光性エレメントは、例えば、前記の保護フイルムが存在している場合には、保護フイルムを除去後、感光性樹脂組成物層を70〜130℃程度に加熱しながら基材に0.1〜1MPa程度(1〜10kgf/cm程度)の圧力で圧着することにより積層することができ、減圧下で積層することも可能である。積層される表面は、通常金属面やガラス面であるが、特に制限はない。
【0056】
このようにして積層が完了した感光性樹脂組成物膜は、例えば、必要に応じて、ネガ又はポジマスクパターンを通して活性光線が画像状に照射され光硬化され、感光性樹脂組成物硬化膜となる。上記活性光線の光源としては、公知の光源、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、高圧水銀灯、キセノンランプ等の紫外線、可視光などを有効に放射するものが用いられる。また、レーザー直接描画露光法によっても画像状に光硬化することが可能である。
【0057】
次いで、光硬化後、感光性樹脂組成物硬化膜上に支持体や保護フイルムが存在しており、後の工程において該支持体や該保護フイルムが不要な場合には、該支持体や該保護フイルムを除去することができる。感光性樹脂組成物膜が画像状に光硬化された場合には、アルカリ性水溶液、水系現像液、有機溶剤等の現像液によるウエット現像、ドライ現像等で未硬化部を除去して現像し、硬化膜パターンを製造することができる。上記アルカリ性水溶液としては、例えば、0.1〜5質量%炭酸ナトリウムの希薄溶液、0.1〜5質量%炭酸カリウムの希薄溶液、0.1〜5質量%水酸化ナトリウムの希薄溶液等が挙げられる。上記アルカリ性水溶液のpHは9〜11の範囲とすることが好ましく、その温度は、感光性樹脂組成物層の現像性に合わせて調節される。また、アルカリ性水溶液中には、表面活性剤、消泡剤、有機溶剤等を混入させてもよい。上記現像の方式としては、例えば、ディップ方式、スプレー方式、ブラッシング、スラッピング等が挙げられる。
現像後の処理として、必要に応じて60〜250℃程度の加熱又は0.2〜10J/cm程度の露光を行うことにより硬化膜をさらに硬化して用いてもよい。
【0058】
前記感光性樹脂組成物を回路形成用レジスト用途に使用し、プリント配線板を製造する場合、現像された硬化膜パターンをマスクとして、基材の金属面を、エッチング、めっき等の公知方法で処理する。上記エッチングには、例えば、塩化第二銅溶液、塩化第二鉄溶液、アルカリエッチング溶液等を用いることができる。上記めっき法としては、例えば、銅めっき、はんだめっき、ニッケルめっき、金めっき等がある。次いで、後の工程において硬化膜パターンが不要な場合には、該硬化膜パターンは、例えば、現像に用いたアルカリ性水溶液よりさらに強アルカリ性の水溶液で剥離することができる。上記強アルカリ性の水溶液としては、例えば、1〜10質量%水酸化ナトリウム水溶液、1〜10質量%水酸化カリウム水溶液等が用いられる。上記剥離方式としては、例えば、浸漬方式、スプレイ方式等が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。尚、下記実施例中においては「部」は質量基準である。
【0060】
[カーボンナノチューブ分散液の調製]
(実施例1)
メチルエチルケトン(MEK)100部にエポキシ樹脂(エピコート4007、重量平均分子量2万、ジャパンエポキシレジン(株)製)を20部加え加温溶解し、攪拌機として「商品名:同心二軸デスパMC-30(浅田鉄工(株)社製)」を用いて2時間分散し、高分子化合物溶液を調製した。この高分子化合物溶液の粘度を前述の方法により測定したところ1500cPであった。この高分子化合物溶液に、カーボンナノチューブ1部を加えて、攪拌機として「あわとり練り太郎((株)シンキー製)」を用いて1時間分散し、カーボンナノチューブ分散液(1)を得た。
このカーボンナノチューブ分散液(1)は、30日間静置後もカーボンナノチューブが凝集沈殿することなく安定に存在した。また、カーボンナノチューブ分散液(1)の光散乱性を動的光散乱測定装置(堀場製作所製、商品名:LB-550)によって確認したところ、極めて単分散性の高い分散物になっていることが確認できた。
【0061】
(比較例1)
メチルエチルケトン(MEK)100部にカーボンナノチューブ1部を加え、攪拌機として「あわとり練り太郎((株)シンキー製)」を用いて1時間分散後、エポキシ樹脂(エピコート4007、ジャパンエポキシレジン(株)製)を20部加えて加温溶解し、カーボンナノチューブ分散液(2)を得た。
このカーボンナノチューブ分散液(2)は、7日間静置後にカーボンナノチューブの凝集沈殿が観察された。
【0062】
[熱硬化性組成物の調製]
(実施例2)
実施例1で調製したカーボンナノチューブ分散液(1)1部に、下記の樹脂ワニスAを添加し熱硬化性組成物を作製した。
<樹脂ワニスAの調製>
・エポキシ樹脂(エピコート806、ジャパンエポキシレジン(株)製) 10部
・フェノライトLA7052(固形分62%MEK分散品、大日本インキ化学工業(株)製) 4部
・フェノキシ樹脂YP-50EK30(固形分35%MEK、東都化成(株)) 20部
・硬化剤(2−エチル−4−イミダゾール) 0.1部
・メチルエチルケトン(MEK) 13部
上記組成で、40℃加温溶解後、下記のシリカを添加した。
・微粉砕シリカ(アエロジル) 7部
【0063】
(比較例2)
比較例1で調製したカーボンナノチューブ分散液(2)1部に、上記実施例2で調製した樹脂ワニスAを添加し熱硬化性組成物を作製した。
【0064】
(実施例3)
実施例1で調製したカーボンナノチューブ分散液(1)1部に、下記の樹脂ワニスBを添加し熱硬化性組成物を作製した。
<樹脂ワニスBの調製>
・エポキシ樹脂(エピコート828EL、ジャパンエポキシレジン(株)製) 20部
・エポキシ樹脂(YD−500、東都化成(株)製) 20部
・エポキシ樹脂(エピクロンN−673、大日本インキ化学(株)製) 20部
・末端エポキシ化ポリブタジエンゴム 15部
(デナレックスR−45EPTナガセ化成工業(株)製)
上記組成物をメチルエチルケトン120部に加熱溶解後、下記組成物を添加した。
・フェノキシ樹脂(YPB−40−PXM40、 50部
固形分40質量%、東都化成(株)製)
・エポキシ硬化剤:2,4−ジアミノ−6−(2−メチル−1−イミダ
ゾリルエチル)−1,3,5−トリアジン・イソシアヌル酸付加物 4部
・微粉砕シリカ(アエロジル) 1.5部
・溶融球型シリカ(平均粒径1.5μm、10μm以上の粗粒を 100ppm以下に分級したもの) 16部
【0065】
(比較例3)
比較例1で調製したカーボンナノチューブ分散液(2)1部に、上記実施例3で調製した樹脂ワニスBを添加し熱硬化性組成物を作製した。
【0066】
<評価>
実施例2と3並びに比較例2と3で得られた熱硬化性組成物の溶液を、16μm厚のポリエチレンテレフタレートフイルム(ヘーズ:1.7%、商品名GS−16、帝人(株)製)上に均一に塗布し、100℃の熱風対流式乾燥機で10分間乾燥した後、ポリエチレン製保護フイルム(フイルム長手方向の引張強さ:16Mpa、フイルム幅方向の引張強さ:12Mpa、商品名:NF−15,タマポリ(株)製)で保護し熱硬化性樹脂エレメントを得た。樹脂組成物層の乾燥後の膜厚は、50μmであった。
【0067】
−熱膨張係数の評価−
前記により得られた熱硬化性樹脂エレメントを170℃で90分熱硬化させた。硬化物のサンプルから、ポリエチレン製保護フイルムとポリエチレンテレフタレートフイルムを剥離し、幅5mm、長さ15mmの試験片とし、理学電機(株)製熱機械分析装置(TMA)を使用して、引張モードでTMA測定を行った。荷重1g、昇温速度5℃/分にて2回測定を行った。下記表1に、2回目の測定における室温(23℃)から150℃までの平均線膨張率を示す。
【0068】
−引っ張り強度の評価−
前記により得られた熱硬化性樹脂エレメントを170℃で90分熱硬化させた。硬化物のサンプルから、ポリエチレン製保護フイルムとポリエチレンテレフタレートフイルムを剥離し、熱硬化性樹脂エレメント1枚の両側に銅箔を積層し、真空プレス装置にて圧力2MPa、温度220℃で1時間加熱加圧成形を行い、銅箔を全面エッチングし絶縁シート硬化物を得た。
この試料を用い、JIS−K7161に準拠して、試験速度50mm/minで引っ張り試験を行った。結果を下記表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1から、本発明の製造方法を用いて得たカーボンナノチューブ分散液を用いることにより、熱膨張率が低く、引っ張り強度に優れたシートが得られることが明らかとなった。
【0071】
[感光性樹脂組成物の調製]
(実施例4)
実施例1で調製したカーボンナノチューブ分散液(1)1部に、下記の樹脂ワニスCを添加し感光性組成物を作製した。
<樹脂ワニスCの調製>
・EHPE(ダイセル化学工業製)と
メルカプトメチルジメチルメトキシシランとの反応物 100部
・1,4−HFAB(セントラル硝子製) 20部
・SP−170(旭電化工業製) 2部
・メチルイソブチルケトン 100部
・ジグライム 100部
【0072】
(比較例4)
比較例1で調製したカーボンナノチューブ分散液(2)1部に、上記実施例4で調製した樹脂ワニスCを添加し感光性組成物を作製した。
【0073】
(実施例5)
実施例1で調製したカーボンナノチューブ分散液(1)1部に、下記の樹脂ワニスDを添加し感光性組成物を作製した。
<樹脂ワニスDの調製>
・メチルエチルケトン/イソプロパノール(質量比8/2)の混合溶剤 100部
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA) 20部
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(重量平均分子量(Mw)4000,
ジャパンエポキシレジン社製,180S70) 30部
・クレゾールノボラック型エポキシアクリレートテトラヒドロ無水フタル酸
付加物樹脂(酸価100KOHmg/g、重量平均分子量5000) 50部
・ビスフェノールF型エポキシアクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物樹脂
(カヤラッドZFR−1122(日本化薬製),
酸価100KOHmg/g、重量平均分子量4000) 50部
・2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2
−モルホリノ−1−プロパノン 12部
・2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−
テトラフェニルビイミダゾール 4部
・タルク 10部
・硫酸バリウム 20部
・フタロシアニンブルー 2部
【0074】
(比較例5)
比較例1で調製したカーボンナノチューブ分散液(2)1部に、上記実施例5で調製した樹脂ワニスDを添加し感光性組成物を作製した。
【0075】
<評価>
実施例2と同様に、感光性樹脂組成物の溶液を、ポリエチレンテレフタレートフイルム上に均一に塗布・乾燥した後、ポリエチレン製保護フイルムで保護し感光性樹脂エレメントを得た。樹脂組成物層の乾燥後の膜厚は、50μmであった。
【0076】
−熱膨張係数の評価−
前記により得られた感光性樹脂エレメントを露光(キャノン製MPA−600使用、2000mJ/cm)後、170℃で90分熱硬化させた。硬化物のサンプルから、ポリエチレン製保護フイルムとポリエチレンテレフタレートフイルムを剥離し、幅5mm、長さ15mmの試験片とし、理学電機(株)製熱機械分析装置(TMA)を使用して、引張モードでTMA測定を行った。荷重1g、昇温速度5℃/分にて2回測定を行った。下記表2に、2回目の測定における室温(23℃)から150℃までの平均線膨張率を示す。
【0077】
−引っ張り強度の評価−
前記により得られた感光性樹脂エレメントを、露光(キヤノン製MPA−600使用、2000mJ/cm)後、ホットプレート上120℃にて180秒間熱硬化させた。硬化物のサンプルから、ポリエチレン製保護フイルムとポリエチレンテレフタレートフイルムを剥離し、感光性樹脂エレメント1枚の両側に銅箔を積層し、真空プレス装置にて圧力2MPa、温度220℃で1時間加熱加圧成形を行い、銅箔を全面エッチングし絶縁シート硬化物を得た。
この試料を用い、JIS−K7161に準拠して、試験速度50mm/minで引っ張り試験を行った。結果を下記表2に示す。
【0078】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒に高分子化合物を溶解して、粘度が20〜30000cPである高分子化合物溶液を調製し、該高分子化合物溶液にカーボンナノチューブを添加、分散することを特徴とするカーボンナノチューブ分散物の製造方法。
【請求項2】
前記高分子化合物の重量平均分子量が1000〜10万であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法。
【請求項3】
前記高分子化合物が非水溶性ポリマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法。
【請求項4】
前記高分子化合物がアクリル系ポリマー又はエポキシ系ポリマーであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法。
【請求項5】
前記高分子化合物が側鎖に感光性基を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法。
【請求項6】
前記高分子化合物がアルカリ現像可能であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブの高分子化合物溶液中への分散が、超音波分散及び高剪断分散の少なくとも一方により行われることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のカーボンナノチューブ分散物の製造方法。

【公開番号】特開2007−138109(P2007−138109A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337450(P2005−337450)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】