説明

カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物、その製造方法および繊維

【課題】カーボンナノチューブの分散性が高度に優れたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物およびその製造方法を提供するとともに、当該組成物から得られる、カーボンナノチューブの分散性が高く、機械的強度に優れたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】芳香族ポリアミド粒子の表面にカーボンナノチューブが固着した複合体を芳香族ポリアミド組成物に含めることにより、当該組成物から、カーボンナノチューブの分散性の高い成形品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物をおよびその製造方法、ならびにカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維に関する。
【0002】
さらに詳しくは、カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物におけるカーボンナノチューブの分散性に優れ、したがって、当該組成物を溶媒に溶解させたポリマードープ中におけるカーボンナノチューブの分散状態に優れることから、カーボンナノチューブの分散性の高いカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維を得ることのできるカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物およびその製造方法、ならびにカーボンナノチューブの分散性の高いカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0003】
テレフタル酸等の芳香族ジカルボン成分と芳香族ジアミン成分とからなる芳香族ポリアミドは、その高強度、高弾性率等の特性を生かして、産業資材用途や機能性衣料用途として広く利用されている。しかしながら、さらなる強度、弾性率の向上のニーズが存在することから、現在もなお、種々の検討がなされている。
【0004】
ところで、近年、樹脂への機能性を付与する目的で、カーボンナノチューブが脚光を浴びており、各種樹脂とのブレンドが種々検討されている。
例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブを含有する熱可塑性樹脂が記載されている。特許文献1によれば、カーボンナノチューブを配合することにより、熱可塑性樹脂樹脂に導電性を付与することができる。
【0005】
また、特許文献2から4には、ポリベンザゾール繊維に対して、カーボンナノチューブを複合させ、種々の機能を発現させることが記載されている。
さらには、特許文献5から8においては、ポリアミドに対してカーボンナノチューブを含有させたポリアミド組成物あるいはポリアミド繊維が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−097375号公報
【特許文献2】特開2003−327722号公報
【特許文献3】特開2003−231810号公報
【特許文献4】特開2003−119622号公報
【特許文献5】特開2003−138040号公報
【特許文献6】特開2004−067952号公報
【特許文献7】特開2004−115979号公報
【特許文献8】特表2005−521779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、カーボンナノチューブ含有樹脂組成物の機械的強度を向上させるためには、カーボンナノチューブの樹脂中における分散状態が極めて重要である。
しかしながら、特許文献1に記載のカーボンナノチューブ含有熱可塑性樹脂組成物は、上記の通りカーボンナノチューブ配合による導電性の付与を狙ったものであり、カーボンナノチューブの高度な分散性については求められていない。また、カーボンナノチューブの熱可塑性樹脂中への分散方法も、溶融混練以外は明記されておらず、溶融混練によっては、カーボンナノチューブを凝集させることなく高度に分散させることは非常に困難である。
【0008】
また、特許文献2から4においても、カーボンナノチューブの分散についての認識はなく、具体的なカーボンナノチューブの分散方法も記載されていない。このため、特許文献2から4に記載された樹脂組成物におけるカーボンナノチューブの分散状態は、機械的強度を向上させるにあたっては不十分であると予想される。
さらに特許文献5から8においては、カーボンナノチューブの分散についての認識はあるものの、その分散状態はいまだ満足できるものではなかった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、カーボンナノチューブの分散性が高度に優れたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物およびその製造方法を提供することにある。また、当該組成物から得られる、カーボンナノチューブの分散性が高く、機械的強度に優れたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、芳香族ポリアミド粒子の表面にカーボンナノチューブが固着した複合体を芳香族ポリアミド組成物に含めることにより、当該組成物から、カーボンナノチューブの分散性の高い成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、芳香族ポリアミド粒子の表面にカーボンナノチューブが固着したカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を含むカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物である。
【0012】
また別の本発明は、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物を溶媒に溶解させることによりドープを調整し、当該ドープより紡糸して得られるカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維である。
【0013】
さらに別の本発明は、芳香族ポリアミド粒子とカーボンナノチューブとを混合して混合物を得る混合物調整工程と、前記混合物に機械的エネルギーを加えることにより、前記芳香族ポリアミド粒子と前記カーボンナノチューブとを、メカノケミカル的に表面融合させたカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を含むカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物得る複合体調整工程と、を含むカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物は、カーボンナノチューブが高度に分散した芳香族ポリアミド組成物となる。このため、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物から得られるポリマードープも、カーボンナノチューブの分散性に優れたものとなり、したがって、当該ドープから紡糸して得られるカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維は、カーボンナノチューブの分散性が高度に優れたポリアミド繊維となる。このため、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維は、機械的強度に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物>
本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物は、芳香族ポリアミド粒子の表面にカーボンナノチューブが固着したカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を含む組成物である。
【0016】
なお、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物は、構成する全ての芳香族ポリアミド粒子がカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体であっても、あるいは、カーボンナノチューブと複合体を形成していない芳香族ポリアミド粒子を含むものであってもよい。
【0017】
以下に、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物の構成原料および製造方法等について説明する。
【0018】
[芳香族ポリアミド粒子]
本発明でいう芳香族ポリアミド粒子を構成する芳香族ポリアミドとは、1種又は2種以上の2価の芳香族基が、アミド結合により直接連結されているポリマーである。また、芳香族基には、2個の芳香環が酸素、硫黄、または、アルキレン基で結合されたものも含む。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、あるいは、クロル基などのハロゲン基等が含まれていてもよい。なお、2価の芳香族基を直接連結するアミド結合の位置は限定されず、パラ型、メタ型のどちらであってもよい。
【0019】
このような、芳香族ポリアミドとしては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、テレフタル酸成分と3,4’−ジアミノジフェニルエーテル成分およびパラフェニレンジアミン成分とが共重合されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド、テレフタル酸成分とフェニルベンゾイミダゾール骨格を有する芳香族ジアミン成分およびパラフェニジレンジアミン成分とが共重合されたコポリパラフェニレン・フェニルベンゾイミダゾール・テレフタルアミドなどを挙げることができる。
【0020】
また、本発明に用いられるカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を構成する芳香族ポリアミド粒子としては、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明においては、カーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を構成する芳香族ポリアミド粒子は、機械的特性に優れることから、パラ型芳香族ポリアミドを主成分とするものであることが好ましい。ここで、「主成分」とは、芳香族ポリアミド粒子全体に対して、50質量%より大きく100質量%の範囲となることを意味する。なお、本発明においては、カーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を構成する芳香族ポリアミド粒子は、パラ型芳香族ポリアミドが100質量%であることが特に好ましい。
【0022】
さらに、本発明においては、カーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を構成する芳香族ポリアミド粒子は、機械的特定に特に優れていることから、ポリパラフェニレンテレフタルアミドまたはコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミドが好ましい。
【0023】
〔芳香族ポリアミド粒子の製造方法〕
本発明に用いられるカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を構成する芳香族ポリアミド粒子は、従来公知の方法にしたがって製造することができる。具体的には、例えば、アミド系極性溶媒中において、芳香族ジカルボン酸クロライドと芳香族ジアミンとを反応せしめることにより、芳香族ポリアミド溶液を得る。
【0024】
続いて、得られた芳香族ポリアミド溶液から、本発明に用いられる芳香族ポリアミド粒子を製造することができる。具体的には、例えば、得られた芳香族ポリアミド溶液を水中に滴下することによって芳香族ポリアミドを再沈・精製することにより、芳香族ポリアミド粒子を得ることができる。
【0025】
〔芳香族ポリアミド粒子の平均粒径〕
本発明に用いられるカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を構成する芳香族ポリアミド粒子の平均粒径は、0.1μm以上500μm以下であることが好ましく、0.5μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。芳香族ポリアミド粒子の平均粒径が小さいほど、その表面に固着させて複合することのできるカーボンナノチューブの量を増加させることができ、また、組成物におけるカーボンナノチューブの分散性に優れる。一方で、平均粒径0.1μm未満の粒子は、製造することが困難であり、得られる組成物の生産性および経済性が低下するため好ましくない。
【0026】
[カーボンナノチューブ]
本発明で用いられるカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を構成するカーボンナノチューブは、炭素六角網面が円筒状に閉じた単層構造、あるいは、これらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造をした炭素系材料である。本発明においては、単層構造のみから構成されたカーボンナノチューブであっても、あるいは、多層構造のみから構成されたカーボンナノチューブであってもよく、また、単層構造と多層構造とが混在していてもかまわない。さらに、カーボンナノチューブの構造を全体的に有している必要はなく、部分的にカーボンナノチューブの構造を有している炭素材料を使用することもできる。
【0027】
また、本発明におけるカーボンナノチューブには、グラファイトフィブリルナノチューブと称されるナノチューブも含まれる。さらには、C60やC70に代表される、炭素原子が球状またはチューブ状に閉じたネットワーク構造を形成するフラーレンも含まれる。
【0028】
〔カーボンナノチューブの製造方法〕
本発明に用いられるカーボンナノチューブの製造方法としては、例えば、炭素電極間にアーク放電を発生させ、放電用電極の陰極表面に成長させる方法、シリコンカーバイドにレーザービームを照射して加熱・昇華させる方法、遷移金属系触媒を用いて炭化水素を還元雰囲気下の気相で炭化する方法などを挙げることができる。製造方法の違いによって得られるカーボンナノチューブのサイズや形態は異なるが、本発明においては、いずれの形態のカーボンナノチューブも使用することができる。また、市販のカーボンナノチューブをそのまま使用することも可能である。
【0029】
〔カーボンナノチューブの含有量〕
本発明で用いられるカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体における、芳香族ポリアミド粒子の表面に固着されるカーボンナノチューブの量は、特に制限されるものではないが、繊維、フィルムなどへの成型性の観点などから、芳香族ポリアミド粒子に対する質量比で、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。芳香族ポリアミド粒子の表面に固着されるカーボンナノチューブの量が0.1質量%未満の場合には、得られる組成物の機械的強度向上への寄与が少なく、一方で、20質量%を超える場合には、カーボンナノチューブの分散性が不十分となり、機械的強度向上への寄与が少なくなるため好ましくない。
【0030】
[カーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体の製造方法]
本発明のカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体の製造方法としては、芳香族ポリアミド粒子の表面にカーボンナノチューブを固着できるものであれば特に限定されるものではない。ここで、本発明における「固着」とは、メカノケミカル的な結合を意味し、「表面融合」と呼ばれる状態をいう。
【0031】
本発明においては、機械的エネルギーを加えることにより、メカノケミカル的に微粒子同士を結合させ、その界面で強固な結合を創成して、複合微粒子を創り出す技術を採用することができる。さらに、プラズマエネルギー等を加えることにより、カーボンナノチューブと芳香族ポリアミド粒子との結合を、さらに強固にすることも可能である。
【0032】
上記の機械的エネルギーを加えて微粒子同士を固着(表面融合)させるための基本原理としては、まず、回転容器(ロータ)内に粉体原料を投入し、遠心力により容器(ロータ)の内壁に粉体原料を押しつけて固定し、曲率半径の異なるインナーピースとの間で強力な圧縮・剪断力を与える。また、回転ロータ壁面にはスリットが設けられており、このスリットを通して粉体原料をロータ外側に送り、取り付けられた循環用ブレードによって、ロータ外側に出た粉体原料を再び回転ロータ内に戻し、再度、インナーピースによって強力な力を与える。このように、粉体原料の3元的な循環と効果的な圧縮・剪断処理を高速で繰り返すことにより、粒子同士が表面融合し、複合化が行われる。
【0033】
[その他成分]
本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物は、本発明の要旨を超えない範囲において、組成物に機能性等を付与する目的で、その他の任意成分を導入することができる。導入にあたっては、公知の方法を用いることができ、例えば、カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物に対して、乾式、または、湿式で導入する方法、芳香族ポリアミドの重合溶媒に対してビーズミル等を用いて湿式で導入した後、重合を実施する方法、さらには、これらを組み合わせることにより導入する方法等を挙げることができる。
【0034】
なお、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物には、任意成分として、芳香族ポリアミド粒子の表面に固着したカーボンナノチューブ以外に、固着していない状態のカーボンナノチューブを用いてもよい。固着していない状態のカーボンナノチューブを導入することにより、導電性等を向上することができる。
【0035】
[カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物の用途]
本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物は、カーボンナノチューブが高度に分散された芳香族ポリアミド組成物となる。このため、本発明の組成物から得られる成形品は、機械的強度の非常に優れた成形品となる。
したがって、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物から得られるフィルム、繊維等の成形品は、機械的強度が要求される分野における各種の用途に好適に用いることができる。
【0036】
<カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維>
本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維は、上記の本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物から成形して得られるものである。以下に、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維について説明する。
【0037】
[カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維の製造方法]
本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維の製造方法は、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物を原料として用いるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の紡糸方法を採用することができる。湿式紡糸、乾式紡糸、半乾半湿式紡糸、溶融紡糸等のいずれを採用することも可能であるが、本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物は融点が非常に高いことから、溶媒に溶解することによりドープを調整し、その後、ドープから紡糸を行う方法が好ましい。
ドープの調整にあたって使用する溶媒としては、公知のものを使用することができ、例えば、硫酸、N−メチル−2−ピロリドン等を挙げることができる。
【0038】
[その他成分]
本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維がドープから紡糸される場合には、繊維に機能性等を付与する目的で、本発明の要旨を超えない範囲において、添加剤等のその他の任意成分を、ドープの調整において導入することができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ドープに対して、ルーダーやミキサ等を使用してその他の任意成分を導入し、その後に紡糸することにより繊維を得ることができる。
【0039】
また、ドープの調整において、その他成分としてカーボンナノチューブを用いることにより、芳香族ポリアミド粒子に固着していない状態のカーボンナノチューブを繊維中に存在させることも可能である。
【0040】
[カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維の物性]
本発明のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維は、カーボンナノチューブが高度に分散されることから、機械的強度の高い繊維となる。具体的には、引張強度が25cN/dtex以上、かつ、引張弾性率が580cN/dtex以上であることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、その要旨を超えない限りこれらに何ら限定されるものではない。
【0042】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法によって測定・評価を実施した。
【0043】
[芳香族ポリアミド粒子の平均粒径]
イオン交換水中に芳香族ポリアミド粒子が0.3質量%となるように分散させ、回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、型番号:SALD−200V ER)を使用して、粒度分布を測定することにより求めた。
【0044】
[引張強度(単位:cN/dtex)]
[引張弾性率(モジュラス)(単位:cN/dtex)]
引張強度、引張弾性率(モジュラス)については、テンシロン万能試験機(オリエンテック社製、型番号:RTC−1210A)を用いて、ASTM法のD885に基づき測定を実施した。
【0045】
[カーボンナノチューブの分散状態]
繊維軸方向に繊維を切断し、その切断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、20μm×10μmの視野におけるカーボンナノチューブの凝集箇所の個数を数えて、以下の基準により評価を行った。
○:カーボンナノチューブの凝集物が見あたらない
△:カーボンナノチューブの凝集物が1〜3箇所
×:カーボンナノチューブの凝集物が4箇所以上
【0046】
<実施例1>
[芳香族ポリアミド粒子の製造]
窒素を内部にフローしている攪拌槽に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよびパラフェニレンジアミンが当モルとなるように秤量して投入して溶解させることにより、ジアミン溶液を得た。
得られたジアミン溶液に、テレフタル酸ジクロライドを、ジアミン総モル量と略当モルとなるように秤量し投入することにより反応を行った。
【0047】
反応終了後、得られた芳香族ポリアミド溶液を水中に滴下することにより、芳香族ポリアミドを再沈・精製し、芳香族ポリアミド粒子(コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタラミド粒子)を得た。得られた芳香族ポリアミド粒子の平均粒径は、100μmであった。
【0048】
[カーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を含む組成物の製造]
得られた芳香族ポリアミド粒子とカーボンナノチューブとを、予め窒素置換された、曲率半径の異なるインナーピースを備えた回転容器(ロータ)へ投入し、4000rpmの速度で15分間回転させることにより、インナーピースと回転容器内壁との隙間で強力な圧縮・剪弾力を与え、芳香族ポリアミド粒子の表面にカーボンナノチューブを凝集させることなく固着し、カーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を含むカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物を得た。なお、このときのカーボンナノチューブの添加量は、芳香族ポリアミド粒子に対して0.5質量%とした。
【0049】
[芳香族ポリアミドドープの調整]
得られたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物を、5質量%の塩化カルシウムを含むN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に溶解せしめることにより、カーボンナノチューブが高度に分散した芳香族ポリアミドドープを得た。このとき、カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物の質量は、ドープ総質量に対して5質量%となるように調整した。
【0050】
[カーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維の製造]
上記で得られた芳香族ポリアミドドープを、孔径0.3mm、孔数100ホールの紡糸口金から吐出し、エアーギャップ約10mmを介して、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)濃度40質量%の水溶液中に紡出し、凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥を行った。次いで、温度500℃下にて10倍に延伸した後、巻き取ることにより、カーボンナノチューブが高度に分散したカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維(コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維)を得た。
【0051】
[測定・評価]
得られたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維につき、上記の測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
<実施例2〜4>
実施例2〜4においては、カーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を含むカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物の製造における、カーボンナノチューブの添加量を、表1に示すように、芳香族ポリアミド粒子に対して1.0〜5.0質量%となるように調整した以外は、実施例1と同様にカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維(コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維)を得た。
得られたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維につき、実施例1と同様に測定評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
<比較例1>
カーボンナノチューブを芳香族ポリアミド粒子の表面に固着させることなく、また、どの工程においてもカーボンナノチューブを添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた芳香族ポリアミド繊維につき、実施例1と同様に測定評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
<比較例2>
カーボンナノチューブを芳香族ポリアミド粒子の表面に固着させるかわりに、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に対してカーボンナノチューブを分散させた後、芳香族ポリアミドドープにブレンドすることによって添加した以外は、実施例1と同様の方法でカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維を得た。
【0055】
カーボンナノチューブのNMPへの分散にあたっては、ビーズミル(浅田鉄工社製、商品名:Nano Grain Mill)を使用し、2質量%のカーボンナノチューブ/NMP分散体を調整した。なお、メディアとしては、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。また、カーボンナノチューブ/NMP分散体の芳香族ポリアミドドープへのブレンドにあたっては、プラネタリミキサ(浅田鉄工社製)を使用して実施した。
得られたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維につき、実施例1と同様に測定評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
<比較例3>
カーボンナノチューブを芳香族ポリアミド粒子の表面に固着させるかわりに、カーボンナノチューブを芳香族ポリアミドドープに添加した以外は、実施例1と同様の方法でカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維を得た。
なお、カーボンナノチューブの芳香族ポリアミドドープへのブレンドにあたっては、実比較例2で使用したプラネタリミキサを用いて実施した。
得られたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維につき、実施例1と同様に測定評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜4の何れの系でも、カーボンナノチューブを添加しない系(比較例1)と比較して、引張強度、および、引張弾性率の向上が認められた。
また、カーボンナノチューブをNMPに予め分散させ、その後、芳香族ポリアミドドープにブレンドした系(比較例2)と比較しても、実施例1〜4で得られたカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維は、補強効果に優れていた。
さらには、カーボンナノチューブを芳香族ポリアミドドープに分散、ブレンドした系(比較例3)においては、カーボンナノチューブを添加しない系(比較例1)と比較しても、補強効果は認められなかった。
【0059】
また、カーボンナノチューブの添加量としては、芳香族ポリアミドに対して5質量%以下の場合には、添加量が多いほどその補強効果に優れることが判った。
したがって、カーボンナノチューブを芳香族ポリアミド粒子の表面に固着させた、本発明のカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を含むカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物から得られる繊維は、カーボンナノチューブの分散状態が高度に優れるため、カーボンナノチューブによる補強効果が効果的に得られ、その結果、引張強度および引張弾性率が向上した繊維となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミド粒子の表面にカーボンナノチューブが固着したカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を含むカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリアミド粒子は、パラ型芳香族ポリアミドを主成分とするものである請求項1記載のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物。
【請求項3】
前記パラ型芳香族ポリアミドは、ポリパラフェニレンテレフタラミドである請求項2記載のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物。
【請求項4】
前記パラ型芳香族ポリアミドは、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタラミドである請求項2記載のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物。
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物を溶媒に溶解させることによりドープを調整し、当該ドープより紡糸して得られるカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維。
【請求項6】
引張強度が25cN/dtex以上、かつ、引張弾性率が580cN/dtex以上である請求項5記載のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド繊維。
【請求項7】
芳香族ポリアミド粒子とカーボンナノチューブとを混合して混合物を得る混合物調整工程と、
前記混合物に機械的エネルギーを加えることにより、前記芳香族ポリアミド粒子と前記カーボンナノチューブとを、メカノケミカル的に表面融合させたカーボンナノチューブ・芳香族ポリアミド複合体を含むカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物を得る複合体調整工程と、
を含むカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項8】
前記芳香族ポリアミド粒子は、パラ型芳香族ポリアミド粒子を主成分とするものである請求項7記載のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項9】
前記パラ型芳香族ポリアミドは、ポリパラフェニレンテレフタラミドである請求項8記載のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項10】
前記パラ型芳香族ポリアミドは、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタラミドである請求項8記載のカーボンナノチューブ含有芳香族ポリアミド組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−302781(P2007−302781A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132431(P2006−132431)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】