説明

カーボンナノチューブ成形体の製造法

【課題】白熱電球のフィラメント等の導電性材料として好適に用いられるカーボンナノチューブ成形体の製造法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ類および炭化し得る賦形物質の混合物を所定形状に賦形した後、減圧雰囲気中または不活性雰囲気中で800〜1500℃で加熱処理してカーボンナノチューブ成形体を製造する。本発明方法により、一般に直径が約0.5〜10nm程度、長さが約1μm程度で長いものであっても約10μm程度以下のものであるカーボンナノチューブ類を賦形することにより、長さが短いため、それ自体では導電性はあっても導電体としては使用し得ないカーボンナノチューブを、本発明方法により一般に直径が約0.5〜5mm程度、長さが約20cm程度迄またはそれ以上の大きさを有する導電性材料として得ることを可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ成形体の製造法に関する。さらに詳しくは、白熱電球のフィラメント等の導電性材料として好適に用いられるカーボンナノチューブ成形体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
白熱電球は、ウォルフラム(タングステン)のような融点の高い金属をフィラメントとして用い、酸化を防ぐためにこれをガラス製の真空管または適当な気体を封入した管(ガス入り電球)内に封入して構成されている。しかしながら、従来から用いられているタングステンの場合、これは資源的にみて貴重な金属であり、これの使用を続けることは、資源の有効利用という観点から問題がある。また、消費電力や明るさの効率などの点にも、未だ課題がみられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、白熱電球のフィラメント等の導電性材料として好適に用いられるカーボンナノチューブ成形体の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
かかる本発明の目的は、カーボンナノチューブ類および炭化し得る賦形物質の混合物を所定形状に賦形した後、減圧雰囲気中または不活性雰囲気中で800〜1500℃で加熱処理してカーボンナノチューブ成形体を製造することによって達成される。
【発明の効果】
【0005】
本発明方法により、一般に直径が約0.5〜10nm程度、長さが約1μm程度で長いものであっても約10μm程度以下のものであるカーボンナノチューブ類を賦形することにより、電圧印加による発光性、導電性、強度、耐摩擦・摩耗特性、耐熱性などの向上やコンポジットの軽量化などが達成されるので、白金電球のフィラメントを始め、軽量で送電効率の高い配線材料や送電線材料等として好適に用いられるカーボンナノチューブ成形体を得ることができる。このように、長さが短いため、それ自体では導電性はあっても導電体としては使用し得ないカーボンナノチューブを、本発明方法により一般に直径が約0.5〜5mm程度、長さが約20cm程度迄またはそれ以上の大きさを有する導電性材料として得ることを可能としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
カーボンナノチューブ類としては、多層または単層のカーボンナノチューブ、ナノホーン、コクーン、カーボンナノコイル、フラーレン等が用いられ、これらはアーク放電法、レーザー蒸発法、化学的気相成長(CVD)法などで製造される。
【0007】
これらのカーボンナノチューブ類と混合される賦形物質としては、加熱処理で炭化し得る合成樹脂、ゴムまたは熱可塑性エラストマーが好んで用いられる。合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ASB樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、メタクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル樹脂(PBT樹脂、PET樹脂等)、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン類、液晶ポリマー、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド類、非熱可塑性ポリイミド等のエンジニアリングプラスチック、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。ゴムとしては、NBR、水素化NBR、SBR、アクリルゴム、フッ素ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム等が用いられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、1,2-ポリブタジエン系のもの等が用いられる。
【0008】
これらの賦形物質は、用いられる賦形物質の種類によっても異なるが、カーボンナノチューブ類を混合し、賦形し得る量、例えばカーボンナノチューブ類に対して重量で約2〜100倍量程度用いられ、所望の形状、例えば線状に賦形(ゴムの場合は加硫成形)され、炭化温度である約800〜1500℃、好ましくは約1000〜1500℃で加熱処理される。加熱処理は、約0.05MPa以下の減圧雰囲気中または窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性雰囲気中で行われ、賦形物質の燃焼を防止する。このような加熱処理によって、賦形された混合物の形状は若干収縮するが、ほぼ原形状を保持しており、細さとして約2mm程度の線状物を形成し得る。
【0009】
なお、カーボンナノチューブ類と賦形物質との混合は、加熱溶融、オープンロール、ニーダ等を用いて行われ、その際各種カーボンブラックの添加はカーボンナノチューブを良好に分散させ、また加熱処理後の導電性の確保にとって有効である。
【0010】
加熱処理されたカーボンナノチューブ成形体は、導電性材料として用いられ、その線状導電性材料は白熱電球のフィラメント等として用いられる。フィラメントとして用いる場合には、これを白熱電球の電極端子に取付け、電球内を真空引きした後融着して閉じ、電球が製作される。このフィラメントの発光には、約1〜10V、好ましくは約2〜6Vの電圧が負荷される。
【実施例】
【0011】
次に、実施例について本発明方法を説明する。
【0012】
実施例
水素化NBR(日本ゼオン製品ゼットポール2010)100g、SRFカーボンブラック(東海カーボン製品シーストGS)60gおよびジクミルパーオキサイド(ゼオン化成製品)を予めロールで混練したものに、多層カーボンナノチューブ20gをロールで混練、混合し、これの線状賦形物(2×2×15mm)を180℃、6分間プレス加硫した後、150℃、1時間の二次加硫を行った。
【0013】
加硫成形された線状加硫物を、真空電気炉(真空度0.01MPa)中で、1000℃、6時間の加熱処理を行った。得られた線状物(ほぼ原寸法を維持している)を、フィラメントとして白熱電球の電極端子に取付け、電球内を真空引きした後融着して閉じ、電球を製作した。この電球の発光は、フィラメントに6Vの電圧を負荷することにより行われ、発光前の状態と発光後の状態はそれぞれ図1および図2の写真に示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】発光前のカーボンナノチューブ配合フィラメント電球の写真である。
【図2】発光後のカーボンナノチューブ配合フィラメント電球の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ類および炭化し得る賦形物質の混合物を所定形状に賦形した後、減圧雰囲気中または不活性雰囲気中で800〜1500℃で加熱処理することを特徴とするカーボンナノチューブ成形体の製造法。
【請求項2】
多層または単層のカーボンナノチューブ類が用いられる請求項1記載のカーボンナノチューブ成形体の製造法。
【請求項3】
カーボンナノチューブ類がカーボンナノチューブ、ナノホーン、コクーン、カーボンナノコイルまたはフラーレンである請求項1または2記載のカーボンナノチューブ成形体の製造法。
【請求項4】
アーク放電法、レーザー蒸発法または化学的気相成長(CVD)法で製造されたカーボンナノチューブ類が用いられる請求項1、2または3記載のカーボンナノチューブ成形体の製造法。
【請求項5】
炭化し得る賦形物質が合成樹脂、ゴムまたは熱可塑性エラストマーである請求項1記載のカーボンナノチューブ成形体の製造法。
【請求項6】
0.05MPa以下の減圧雰囲気中で加熱処理が行われる請求項1記載のカーボンナノチューブ成形体の製造法。
【請求項7】
請求項1記載の方法で製造されたカーボンナノチューブ成形体。
【請求項8】
導電性材料として用いられる請求項7記載のカーボンナノチューブ成形体。
【請求項9】
導電性材料が線状材料である請求項8記載のカーボンナノチューブ成形体。
【請求項10】
線状導電性材料がフィラメントである請求項9記載のカーボンナノチューブ成形体。
【請求項11】
請求項10記載のフィラメントを用いた白熱電球。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−193354(P2006−193354A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4927(P2005−4927)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】