説明

カーボンナノチューブ組成物用一時的粘度及び安定調整剤

本発明は、粘度および安定性を増加させたカーボンナノチューブ含有組成物に関する。特に、本発明は、電気的特性が優れたカーボンナノチューブ膜及びカーボンナノチューブ層の製造方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度及び安定性を増加させたカーボンナノチューブを含む組成物を対象とする。本発明は、特に、優れた電気的特性を提供するカーボンナノチューブ膜及びカーボンナノチューブ層を製造する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
(関連出願の相互参照)
本発明は、2004年4月7日に出願された“Increased Viscosity and Stability of Carbon Nanotube Ink(カーボンナノチューブインクの粘度および安定性の増加)”と題する米国仮出願第60/560019号に基づく優先権を伴っており、引用することによってその開示内容全体を本明細書に含めることとする。
【0003】
(背景技術)
カーボンナノチューブは、分子構造の炭素族の、成長する一員として、最近加えられたものである。カーボンナノチューブは、黒鉛シートが巻き上げられてナノスケールのチューブ形態が形成され、いわゆる単層カーボンナノチューブ(SWNT)が生成されたものとみなすことができ、このような事項は、Harris、P.F.“Carbon nanotubes and Related Strustures New Materials for the Twenty−first Century(カーボンナノチューブおよび関連する構造、21世紀の新素材)”、ケンブリッジ大学出版局、ケンブリッジ、1999年に記載されている。コアとなるSWNTの周りには、更なる炭素チューブが存在して、多層カーボンナノチューブ(MWNT)を形成している場合もある。これらの細長いナノチューブは、数オングストローム〜数十ナノメータの範囲の直径、及び数ミクロン〜数ミリメートルの長さを有する。チューブの両端は、五角形のようなフラーレン状の構造体によって覆われていてもよい。
【0004】
カーボンナノチューブとしては、真っ直ぐおよび/または曲がった多層ナノチューブ(NWNT)、真っ直ぐおよび/または曲がった二重壁ナノチューブ(DWNT)、または真っ直ぐおよび/または曲がった単層ナノチューブ(SWNT)、及びこれらの組み合わせ、及びこれらの混合物が挙げられる。また、CNTは、これらのナノチューブ形態の様々な組成物、及び米国特許第6333016号及び国際公開第01/92381号に記載されるような、ナノチューブ調製品に含まれる一般的な副生成物を含んでいてもよい。また、カーボンナノチューブは、化学物質または化合物を組込むために、化学的に修飾されてもよく、また、有効で有用な分子配向を生成し(米国特許第6265466号参照。)、又はナノチューブの物理的構造を調節するために、物理的に修飾されてもよい。
【0005】
SWNTは、炭素ターゲットのレーザ切除(レーザーアブレーション)、炭化水素の分解、又は2つのグラファイト電極間にアーク放電を生じさせる等の多くの技術によって形成することができる。例えば、Bethuneらの米国特許第5424054号には、コバルト触媒と炭素蒸気を接触させることによって、単層カーボンナノチューブを生成するプロセスが記載されている。炭素蒸気は、固体炭素のアーク加熱によって生成され、この固体炭素は、非晶質炭素、黒鉛、活性炭、脱色炭、またはそれらの組み合わせとすることができる。炭素加熱の他の技術としては、レーザー加熱、電子ビーム加熱およびRF誘導加熱などが検討されている。Smalley(Guo,T.,Nikoleev,P.,Thess,A.,Colbert,D.T.,and Smally,R.E.,Chem,Phys.Lett.243:1〜12(1995年))らは、この文献において、単層カーボンナノチューブを生成する製造方法について記載しており、この中で、黒鉛ロッド及び遷移金属が、高温レーザーによって同時に蒸発されることが記載されている。Smalley(Thess,A.,Lee,R.,Nikolaev,P.,Dai,H.,Petit,P.,Robert,J.,Xu,C.,Lee,Y.H.,Kim,S.G.,Rinzler,AG.,Colbert,D.T.,Scuseria,G.E.,Tonarek,D.,Fischer,J.E.,and Smalley,R.E.,Scinece,273:483〜487(1996年))らはまた、この文献において、単層カーボンナノチューブの製造プロセスについて記載しており、この中で、少量の遷移金属を含む黒鉛ロッドが、約1200℃でオーブン中でレーザー蒸発されることが記載されている。単層ナノチューブは、70%以上の収率で生成されることが報告されている。米国特許第6221330号には、ガス状の炭素原料及び担持されていない触媒を用いる、単層カーボンナノチューブの製造方法について記載されている。
【0006】
カーボンナノチューブは、多くの公知の用途(Imperial College Press、London U.K.の1998年のR.Saito、G.Dresselhaus氏、M.S.Dresselhaus氏の“Physical Properties of Carbon Nanotubes(カーボンナノチューブの物理特性)”、または1996年のAdvanced Materials、8、p443のA.Zettl氏の“Non−Carbon Nanotubes(非カーボンナノチューブ)”を参照。)を有している。カーボンナノチューブは、半導体的挙動や金属的挙動を示すことができる(Dai,L.;Amu, A.W.M.Adv.Matter.2001年,13899)。また、カーボンナノチューブは、高い表面積(ナノチューブ「ペーパー」で400m/g)(Niu,C.;Sichel.E.K.;Hoch,R.;Moy,D.;Tennent,H.“High power electro chemical capacitors based on carbon carbon nanotube electrodes(カーボンナノチューブ電極に基づく高電力電気化学コンデンサー)”、Apply.Phys.Lett.1997,70,1480〜1482)、高い電気伝導度(5000S/cm)(Dresselhaus,M.Phys.World 1996年9月18日)、高い熱伝導率(6000W/mk)及び安定性(真空で2800℃まで安定)(Collins,P.G.;Avouris.P.“Nanotubes for electronics(エレクトロニクス用ナノチューブ)”,Sci.Am.2000年12月、62〜69)、及び良好な機械的特性(引っ張り強さ450億パスカル)を有する。
【0007】
カーボンナノチューブからなる膜は、10Ω/□程度の低い表面抵抗を有することが知られている。“Method for Disentangling Hollow Carbon Microfibers,Electrically Conductive Transparent Carbon Microfibers Aggregation Film and Coating for Forming Such Film(中空炭素マイクロファイバーをほぐす方法、電気導電性の透明炭素マイクロファイバー凝集膜、およびそのような膜の形成のための被覆”と題する米国特許第5853877号には、導電性カーボンナノチューブ膜の形成について記載されている。“Processing for Producing Single Wall Nanotubes Using Unsupported Metal Catalyst(担持されていない金属触媒を使用する単層ナノチューブを生成するための処理)”と題する米国特許第6221330号は、一般に、導電性膜を形成するためのカーボンナノチューブの生産について記載されている。しかし、カーボンナノチューブを含む膜をパターニングする方法に関しては、前記技術には報告がない。
【0008】
カーボンナノチューブ含有膜等の、カーボンナノチューブからなる被覆物は、既に公知となっている(米国特許出願第10/105623号参照)。このような膜は、10Ω/□程度の低さの表面抵抗及び95%程度の高さの全光透過率を有する。これらの膜中におけるカーボンナノチューブの含有量は、50%程度の高さである。カーボンナノチューブは、また、透明導電性被覆物を形成するために、透明プラスチック膜上に堆積されてもよい。
【0009】
表面上に、薄い被覆物または膜として堆積されたカーボンナノチューブは、導電体(電気的コンダクタ)又は電極、触媒部位、又は化学薬品、エネルギー、運動もしくは接触を検出するセンサー(タッチ・スクリーンでのように)として機能することができ、また、この新しい形態を有する炭素材料のユニークな特性を活用して、他の機能も得られている。しかし、ナノチューブの薄い被覆物を最大限の適用範囲で(ほとんどの用途での)利用するためには、ナノチューブの被覆物は、パターンまたは回路として形成されて、ナノチューブの活性領域を定義し、1つまたは複数の不活性領域からその領域を分離するものとされることが必要である。
【0010】
抵抗型タッチ・スクリーンの電極としての機能する、ナノチューブ被覆物の形成のためには、電極は、絶縁基板上に、電気的にパターン化されなければならない。例えば、ポリエチレン・テレフタレートPETのようなポリマー膜は、電気導電性回路およびスイッチを形成するナノチューブ被覆物の一部として定義することができる。被覆物は、第2の電極に押しつけられると、次いで、操作者の接触に応答する。
【0011】
商業的に最も多く生成される透明電極は、例えば真空蒸着、化学蒸着、化学浴析出、スパッタリング、蒸発、パルス蒸気蒸着、ゾル・ゲル法、電気めっきまたはスプレイ熱分解によって、光学的透明基板に、金属または金属酸化物被覆物を被覆塗布して製造される。必要に応じ、これらの被覆物は、高価な写真平板述(photolithographic)技術によってパターン化することができる。このプロセスは、困難で高価である。電極の大きな領域を覆うために、上記被覆物の生成を拡大すると、大抵、値段がひどく高くなる。さらに、被覆物は、柔軟性のない金属酸化膜に基づくので、他の方法であれば可能であるような、プラスチックディスプレイ、プラスチック太陽電気、および着用可能な電気回路等の基板に対して適用する、柔軟性を生かした適用を行うことは不可能である。
【0012】
水又は他の一般的な溶媒中のカーボンナノチューブ(CNT)分散液は、熱力学的に不安定であり、これは、これらがロープ構造に自己集合する高い傾向を有することを意味する。時間の経過とともに、これらのロープは、直径が増加し、または凝集して、最終的に、不安定な分散液をもたらすが、これは、表面上にCNTの薄膜を、均一な厚みで被覆形成することに対して、望ましくないものである。導電性被覆物を形成するためには、表面上に膜が形成され、溶媒が取り除かれるまでは、分散液中で、CNT粒子は、径の小さいロープ(約30nm未満)としての構造を維持することが望ましい。一旦、表面上に液状膜が形成されたら、その後は、ロープの自己集合を促進し、これにより、他のすべての材料を取り除いて、表面にロープの導電性ネットワークを形成することが望ましい。しかし、被覆溶液中で、即ち、膜を形成する前に、ロープが、その大きさが大きくなったり、又は凝集して集合したりすることによって、成長した場合、膜における更なる集合は、低い程度に抑えられ、その結果、乾燥して得られる被覆物は、単位面積当たりの所定の集合堆積と比較して、より低い表面抵抗率を示すこととなる。更に、小さな粒子およびCNTの分散液は、一般的に、溶媒と、界面活性剤、又は高分子化合物のような他の添加物のような、分散助剤とから形成される。しかし、添加物は、溶媒を蒸発させるときに被覆物中に堆積され、導電性ネットワークの形成を阻害する。これは、得られる薄膜の電子性能に対し、最適の状態から落ちた性能をもたらす。
【0013】
溶媒キャリアーは別として、界面活性剤又は他の添加物を使用しないと、CNT分散液は、非常に低濃度(約100mg/L未満)の場合にも、高濃度(約3000mg/Lより大きい)の場合にも、動力学的に「安定である」ことが分かっている。低濃度範囲は、大部分が、水やアルコールのような溶媒である液相(一般的に約1cP)の粘度を有する。高濃度範囲は、「ペースト」または「ゲル」の粘度を有する。濃度領域の両端では、CNT分散液は、界面活性剤や粘度調整剤などの添加物を必要とすることなく、有用な保存期間(約8時間より長い)を有する。
【0014】
低濃度範囲は、広範囲のシート抵抗(一般的に、10〜10Ω/□)にわたって、透明(及び不透明)導電性膜の噴霧被覆を行うのに適している。また、低濃度範囲は、様々な連続ウェブ被覆技術(例えば、グラビア、マイヤー棒、リバースロールなど)に適しているが、シート抵抗範囲は、より高いシート抵抗値(約10Ω/□より大きい)に制限される。後者についての制限は、低粘度被覆形成における液状被覆物の厚みの実際的な限界(一般的に、約50μm未満)によるものであり、非常に低濃度であれば、表面上に一回または多数回塗布を行って十分な量の材料を堆積させるためには、比較的厚い液状被覆が必要となるためである。
【0015】
高濃度範囲は、様々な連続ウェブ被覆技術(例えば、グラビア、マイヤー棒、リバースロールなど)に適しているが、この濃度は高すぎるので、より高いシート抵抗値(約10Ω/□より大きい)を許容することができず、その結果、低濃度範囲の溶液から、単位面積当たり同量のCNTを堆積させて作製された被覆物と比較して、電気的特性及び光学的特性において劣る被覆物をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、有用な安定性を有する十分な濃度範囲(10〜3000mg/L程度)にわたってCNTの分散液の調製を可能にして、従来の被覆形成(コーティング)工程による堆積を可能とする被覆形成能が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、広範囲の濃度にわたって優れた電気的性能を有する層や膜を形成することが可能なカーボンナノチューブの組成物を広義に対象とし、特に、それらの製造方法を対象とする。
【0018】
本発明の一実施形態は、溶媒中に均一に分散されたカーボンナノチューブから成る安定分散液を対象とし、この分散液内のカーボンナノチューブは、12時間を越える時間凝集しない。分散液中のカーボンナノチューブの濃度は、10mg/L〜3000mg/Lであることが好ましく、分散液の粘度を増加または減少させる一時的粘度調整剤を含むことが好ましい。
【0019】
好ましい一時的粘度調整剤としては、水可溶ゴム、キサンタン、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、シリカ、メチルセルロース、感光性アクリル樹脂、ポリウレタン添加物、ポリビニルアルコール、ゼラチン、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。また、一時的粘度調整剤は、分散液の粘度を増加させ、また、カーボンナノチューブの分子構造に悪影響を及ぼさない温度で、完全に又はほとんど完全に取り除かれ得るものであることが好ましい。
【0020】
本発明の他の実施形態は、カーボンナノチューブを含む溶媒と、一時的粘度調整剤とを含む溶液を、表面に塗布するステップと、溶媒を取り除き、カーボンナノチューブの導電性ネットワークを形成するステップとを有する、カーボンナノチューブの導電性ネットワークを形成する方法を対象とする。溶媒を取り除くステップは、一時的粘度調整剤もまた取り除くことが好ましい。溶媒を取り除く好ましい方法は、熱分解、蒸発、昇華、分解、アブレーション(ablation)又は、同じ又は他の溶媒を用いた洗い流しが挙げられるが、それらに限定されない。また、溶媒及び一時的粘度調整剤の除去は、カーボンナノチューブの分子構造に影響を与えないことが好ましい。また、一時的粘度調整剤は、基板への堆積(deposition)および乾燥中における溶媒中へのカーボンナノチューブの分散に役立つことが好ましい。
【0021】
本発明の他の実施形態および利点は、後の明細書に具体的に記載され、この記載から具体的に明らかとなり、または本発明を実行して分かるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
濃度範囲が中間程度である従来のCNT分散液は、その安定性が劣るので、これに対する重要な挑戦及び機会が示される。また、低濃度CNT分散液からCNT被覆物を生成させるためには、基板上に、分散液の非常に厚い層を堆積させることが要求される。低粘度では、乾燥中、及びその他後の堆積工程の間において、そのような層をコントロールすることは困難である。組成物中に、一時的粘度調整剤を含ませることによって、分散液中におけるCNT濃度が広範囲のものに関して、被覆処理されて膜を形成するものとすることができる。
【0023】
本発明は、分散液を処理し、液状被覆物としての分散液を堆積させ、更に液状被覆物を乾燥させるのに十分な期間、CNT粒子の流動性を抑制することによって、例えば分散液といったCNT組成物を安定化させることを含む。これは、被覆物の形成の粘度を著しく増加させることによって行うことができ、これは、乾燥中、又はその後の洗浄又は分解工程において被覆層から取り除くことができる添加物を用いて行うことが好ましい。CNTロープは、約3000mg/Lを越えると、直接互いにからみ合うことによって「ゲル」構造を形成するので、分散液中のCNTロープの流動性は、この濃度を越えても生じさせることができることに留意する。ゲル構造は、CNT粒子サイズの成長、即ち、より大きな直径のロープへ成長する成長速度を抑制し、これにより、最終膜の光電子的(optoelectronic)特性が向上する。しかし、中間濃度範囲(100〜3000mg/L)、または低濃度範囲(<100mg/L)において、同様の安定性を達成するために、液相の粘度を著しく増加させることができる(10〜10cPの範囲で)。一時的粘度調整剤は、CNT分散液を安定性させるだけでなく、乾燥工程中において、厚い液状層の堆積が安定状態を維持することを可能とすることによって、連続ウェブ被覆工程を、より強固なもの(多くの被覆技術では、より高粘度を好む。)とするという働きを併せ持つ。
【0024】
本発明の一実施形態は、安定性を有したCNT分散液を対象とする。安定性を有したCNT分散液は、時間が経過しても変化しない(例えば、集合しないことが困難または集合できない可能性のある小さな塊に凝集、集合する)溶液に均一に分散された、カーボンナノチューブ含有溶液から構成される。溶液が安定性を維持したままの状態とする好ましい時間としては、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間、3日、5日、一週間、またはさらに長い期間が挙げられる。更に、安定したCNT分散液においては、液体(例えば、液状)被覆物を流出させることなく、この分散液内に存在する溶媒及び又は粘度調整剤の一部又は大部分が取り除かれ得る。溶媒および/または粘度調整剤は、蒸発または分解するので、前記分散液は、CNTロープが固まってロープのネットワークを形成する直前に、不安定になるだけである。上記安定性を有したCNT分散液は、1つ又はそれ以上の一時的粘度調整剤を含んでいてもよい。一時的粘度調整剤は、多様な溶媒中で、また、広範囲のCNT濃度で機能することが好ましい。CNT濃度は、1mg/L未満から、5000mg/Lを越える分散範囲に及ぶ。一時的粘度調整剤が作用する好ましい範囲は、1mg/L〜100mg/L、50mg/L〜2000mg/L、100mg/L〜1000mg/L、10mg/L〜3000mg/L、100mg/L〜3000mg/L、1000mg/L〜3000 mgL、2000mg/L〜5000mg/L、2000mg/L〜4000mg/Lである。
【0025】
一時的粘度調整剤は、溶媒に添加され、溶液に対する粘度(所望の粘度から決定される)を増加または低減させ(例えば、粘度原材料、粘度調整剤、粘度低減剤)、好ましくは、溶液に対して分散安定性を与え、これによって、溶媒を取り除いた後、またはその取り除く間に除去されることが可能な材料(有機または無機)である。調整剤及び/又は溶媒の除去は、熱分解、蒸発、昇華、分解、アブレーション、1つまたは複数の溶媒での膜からの洗浄、または他の従来の工程、またはそれらの任意の組み合わせによって、取り除くことが好ましい。特定のCNT溶液を作成するための調整剤の量は、広く変化するが、当業者であれば、例えば調整剤の分子量(例 特に、高分子化合物に関して)、調整剤の機能性(例えば、存在する官能基の数)、窒素含有量、及び/又はpH等から、この調整剤の量を容易に決定することができる。多くの特定の一般的なタイプの一時的粘度調整剤を、表1、2に示し、また、一時的粘度調整剤としては、粘土、増粘剤、タンパク質、ゲル化剤、硬化剤、界面活性剤、懸濁化剤、フィラー、糊、可溶化剤、潤滑剤、賦形剤、キレート剤およびこれらの任意の組み合わせ(例えば、MichaelおよびIrene Ash作成のHandbook of Industrial Chemical Additives、第二版、John Wiley & Sons Inc.刊行、2000年、(ISBN 1−890595−06−3)参照。これは、引用することによって、その開示内容全体を含めるものとする)が挙げられる。
【0026】
本発明の他の実施例は、非一時的粘度調整剤を含む本発明の組成物を対象とする。膜または被覆物を形成するときに調整剤を取り除くことが必要でない場合、そのような調整剤を利用してもよい。
【0027】
(形成)
(添加物または主要な溶媒として、IPA/水より高い粘度を有する溶媒)
溶媒を使用することの少なくとも1つの利点は、乾燥の間に蒸発し、カーボンナノチューブの膜構造に存在しなくなるということである。有用な溶媒としては、1,3ブタンジオール(130cP)、グリセリン(150cP)、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、セロソルブ(商標)およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において有用な他の溶媒は、当業者に公知であり、市販されている。粘度は温度に依存するので、溶媒系を十分に冷却することによって、ほとんどの溶媒の粘度が増加される。
【0028】
(水のような低粘度溶媒を含む増粘剤)
分散液中において、乾燥の間にCNTが固まるときに、 カーボンナノチューブ上の官能基は、緩く結合、またはからんで、カーボンナノチューブロープ(図4参照)を形成する。高分子材料を使用して、著しく粘度を増加させてもよいが、その濃度は、CNTネットワーク形成またはカーボンナノチューブ膜のR/T特性に影響しない程度の濃度とすることが必要である。好ましい材料としては、表1、2に記載されたものが挙げられるが、それらに限定されない。
【0029】
最も一般的な光学膜(例えば、PETおよびポリカーボネート)と互換性をもたせるためには、上記のより粘度の高い溶媒または増粘剤を、比較的低温(約150℃)で飛び去らせるものとするかまたは、これを適切な溶媒(CNT膜を残して)によって洗浄することが好ましい。理想的な添加物は、粘度を増加させると共に、被覆後、低温でこれが完全に又はほとんど完全に(すなわち、塗布する目的のために必要な程度に)除去され、これにより被覆表面上にはカーボンナノチューブが残されて、ロープのネットワークを形成させることができるものである。
CNT含有溶液の粘度を増加させる化合物は、被覆基板の温度より低い温度でガスに分解するものであることが好ましい。これにより、ネットワーク形成を妨げることなく、CNT導電性ネットワークの形成を可能とすることができる。空気中において、CNTが高い熱的安定性を有することにより、多くの高分子化合物および有機化合物は、CNT層がダメージを受ける前に分解する。CNT分散液の粘度を増加させるために、種々様々の化合物が使用可能であり、また、これらは、その後CNT層から完全に取り除くことができる。あるいは、1つまたは複数の増粘剤を、最終膜の特性に過度に影響を及ぼさない程度の低濃度で添加してもよい。
【0030】
被覆工程を施し、更に乾燥して溶媒および粘度調整剤を取り除いた後、CNT膜は、ディッピング法又はミスティング(misting)によって適正量の溶媒(例えば、水)に膜をさらすことによって、「さらに集合させる」ことができる。このさらなる集合は、CNTネットワークの濡れに起因して、CNT流動性が一時的に向上することによって付与される。CNT膜は、2度目に乾燥するときに、ファンデルワールス力(分子間力)によって再び十分に集合され(または、固められ)得る。最初の乾燥速度が非常に速い場合は常に、または最初の乾燥または分解工程の間に行われる粘度調整剤の除去後において、この第2の濡らし工程及び乾燥工程は有利である。次いで、この構造を固定化し、また、CNT層を更に周辺環境から保護するために、高分子保護膜を設けてもよい。
【0031】
図1で示される工程は、複雑であるが、噴霧被覆で行う場合より、より広い範囲の製品を、より良好な工程経済で製造することが可能となる。
【実施例】
【0032】
以下の実施例は、本発明の実施例を示すが、本発明の範囲を限定するものとして見るべきではない。
【0033】
(基礎条件)
ペースト濃度=1900〜3500ppm
インク濃度=10〜50ppm
目標濃度=600〜1000ppm
粘度=100cP
シート抵抗(Rs)=1500〜10000Ω/□、基準透明性(90%)を有する
R/T性能を下げることなく粘度を増加
【0034】
(溶液)
(IPA(/水)より粘度の高い溶媒の使用)
1,3ブタンジオール(130cP)
グリセリン(1500cP)
セロソルブ(メチル、ブチル)
【0035】
(表3に記載された粘度増加剤の1つまたは複数の利用)
実施例: キサンタンガムを使用するCNT分散液の粘度増加
アークを適用する2つの実験試験によって、ガラス基板に単層カーボンナノチューブ(SWCnT)スータ(soot)被覆物が生成し、公知の増粘剤によって粘度を増加させることにより、CNT分散液の安定性が提供され、また電気シート抵抗及び光透過率(R/T)性能(light transmittance performance)を著しく下げることなく、これを取り除くことができることが示された。購入されたSWNTは、酸還流、水洗浄、遠心分離および精密ろ過を含む工程段階によって浄化する。次いで、浄化したSWNTを、イソプロピルアルコール(IPA)および水の3:1溶液に混合して、カーボンナノチューブ塗布液を形成する(スータは、およそ50〜60%のカーボンナノチューブを含み、145±15℃で、18時間、3Mの硝酸溶液中で還流することにより浄化し、次いで、洗浄、遠心分離、ろ過した。)。浄化した混合物は、99%を越える単層カーボンナノチューブを、0.059g/Lの濃度で含むインク溶液を生成する(インク溶液「A」)。
【0036】
行った試験において、塗布による被覆形成では、#16マイヤーロッドを利用した。 塗布及びその後の処理工程の後、CNT被覆物のシート抵抗(R)は、Loresta ESP4点プローブを使用して測定し、光透過率(T)は、550nnの波長で分光測光器を使用して測定した。
【0037】
第1試験(図4)
0.5%キサンタンガム原液 2ml
インク溶液「A」0.059g/L 4ml
ガラス基板150mm×200mm
#16マイヤー棒
【0038】
約0.15wt%のキサンタンガム溶液は、インク溶液「A」4ml中に、0.5%キサンタンガム原液2mlを分散させることにより生成した。キサンタンガム溶液は、ガラス基板と#16マイヤー棒との塗布界面に沿って分散させた。マイヤー棒は、ガラス基板(200mm)の長さに設定された。被覆物は、75℃のホットプレート上に塗布し、1分間空気乾燥し、次いで加熱したエアドライヤ(130℃)を使用して加熱した。シート抵抗および透過率割合(R/T性能)は、以下それぞれの工程後に測定した。
(1) 75℃のホットプレート上で#16マイヤー棒を使用して塗布
(2) 1分間、D.I.水中で洗浄
(3) 300℃で30分間焼成
(4) 1分間、D.I.水中で洗浄
【0039】
図4のグラフは、各工程でのシート抵抗および光透過率に対する影響を示す。グラフ上の点線は、ガラス基板上のCNT被覆物の理論性能(経験データに基づく)を表わす。
(結論)
300℃で30分間加熱した後のコントロール(control)に対するR/T性能への重大な影響はない。R/T曲線上にとどまることによって、塗布の間、CNT分散液は、その状態を維持される。抵抗は、基準(control)より低く、これは、洗浄によってCNTの損失があったことを示す。第2の洗浄後は、著しい向上はみられなかった。これは、最初の乾燥段階の後に、良好なネットワーク構造が得られていたことを示す。
【0040】
第2試験
300℃で30分間の焼成後、洗浄を一回だけ行うこととしたこと以外は、上記と同じ実験である(図5参照)。次の工程では、各工程後に、R/T性能を測定した。
(1) 75℃のホットプレート上で#16マイヤー棒を使用して塗布
(2) 300℃で30分間焼成
(3) D.I.水中で1分間洗浄
【0041】
(結論)
300℃、30分間加熱後のコントロール(control)に対するR/T性能への重大な影響はない。
抵抗は、コントロールより低い。これは、CNTの損失があることを示すが、この損失は前工程ほどではない。
第2の洗浄後においては、著しい向上はない。
【0042】
本発明の他の実施形態および用途は、本明細書に開示した本発明の詳細および実施を検討して、当業者に明らかとなる。本明細書に引用された引例は、すべて、全ての出版物、米国および外国特許および特許出願を含み、引用することによって、特に完全にその開示内容全体を本明細書に含めることとする。明細書および実施例は、単に例示であると考えることを意図する。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2−1】

【0045】
【表2−2】

【0046】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態の工程のフローチャートである。
【図2】噴霧被覆工程と対比させた図1の工程である。
【図3】概念理論の概略説明図である。
【図4】R/T特性に対するキサンタンガムの影響である(第1試験)。
【図5】R/T特性に対するキサンタンガムの影響である(第2試験)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブが溶媒に均一に分散された安定分散液であって、
カーボンナノチューブは、12時間を越える時間内には凝集しない安定分散液。
【請求項2】
カーボンナノチューブの濃度は、10mg/L〜3000mg/Lである請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
分散液の粘度を増加または減少させる一時的粘度調整剤を含有する請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
増加または減少した粘度は、10〜10cPである請求項3に記載の分散液。
【請求項5】
一時的粘度調整剤は、水溶性ゴム、キサンタン、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、シリカ、メチルセルロース、感光性アクリル樹脂、ポリウレタン添加物、ポリビニルアルコール、ゼラチン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項3に記載の分散液。
【請求項6】
前記分散液内のカーボンナノチューブは、24時間以内には凝集しないものである請求項1から5のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
前記一時的粘度調整剤は、分散液の粘度を増加させ、カーボンナノチューブの分子構造に悪影響を与えない温度で、完全に、またはほとんど完全に取り除かれるものである請求項3に記載の分散液。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブの分子構造は、溶媒を取り除いた場合、導電性ネットワークを構成する請求項7に記載の分散液。
【請求項9】
前記温度は、150℃未満である請求項7に記載の分散液。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二重壁カーボンナノチューブ、又は多層カーボンナノチューブである請求項1から9のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項11】
溶媒は、水、アルコール、1,3ブタノール、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリコール、ゼラチンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される13請求項1から10のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項12】
カーボンナノチューブを含む溶媒と、一時的粘度調整剤とを含む溶液を表面に塗布するステップと、
溶媒を取り除き、カーボンナノチューブの導電性ネットワークを形成するステップとを有するカーボンナノチューブの導電性ネットワークを形成する方法。
【請求項13】
前記溶液は、10mg/L〜3000mg/Lのカーボンナノチューブの分散液である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記溶媒を取り除くステップでは、さらに、一時的粘度調整剤を取り除く請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記溶媒を、熱分解、蒸発、昇華、分解、切除、または同一または異なる溶媒を用いた洗い流しによって取り除く請求項12から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
水洗浄又はpHバランス洗浄によって溶媒を取り除く請求項12から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒および一時的粘度調整剤を、カーボンナノチューブの分子構造に影響を与えずに取り除く請求項12から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒中におけるカーボンナノチューブの濃度は、3000mg/Lより大きいか、又は10mg/L未満である請求項12から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記溶媒は、水、アルコール、1,3ブタノール、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリコール、ゼラチン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項12から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記一時的粘度調整剤は、基板への堆積及び乾燥中における溶媒中でのカーボンナノチューブの分散を助ける請求項12から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法は、更に、高分子保護膜を塗布するステップを含む請求項12から20のいずれか1項に記載の方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−534588(P2007−534588A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507472(P2007−507472)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/011657
【国際公開番号】WO2006/073420
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(503351685)エイコス・インコーポレーテッド (11)
【Fターム(参考)】