説明

カーボンナノチューブ繊維製造方法およびカーボンナノチューブ繊維製造装置

【課題】 任意のカーボンナノチューブ配向膜からカーボンナノチューブ繊維を製造する技術を提供する。
【解決手段】
カーボンナノチューブ繊維製造装置1は、CNT配向膜10を保持する基板20と、紡糸治具30と、電源装置40と、容器50と、からなる。容器50は、その中に熱硬化性樹脂を溶解させてなる有機溶媒からなる溶液3を保持している。
上記装置を用いて、まず、CNT配向膜10を溶液3に浸漬し、CNT配向膜10のCNT束11を紡糸治具30に保持させる。
次に、紡糸治具30を配向方向上側に向かって引き上げると同時に、電源装置40によりCNT配向膜10と紡糸治具30との間に電流を印加する。紡糸治具30に保持されるCNT束11と、CNT配向膜10に残るCNT束11と、の接触する面積が所定の値より小さくなったときに、熱硬化性樹脂によりCNT束11同士が接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のカーボンナノチューブが配向してなるカーボンナノチューブ配向膜からカーボンナノチューブ繊維を製造するカーボンナノチューブ繊維製造方法,および,カーボンナノチューブ繊維製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTという)は、グラファイトシートを筒状に巻いた形状を有する炭素の結晶であり、1層に巻いた形状の単層CNTと、多層に巻いた形状の多層CNTとに分類できる。CNTは、軽量、高強度、高弾性、高電気伝導性、高熱伝導性などの優れた特性を持ち、エレクトロニクス、医療を始め多くの分野での応用が期待されている。
【0003】
CNTの製造方法としては、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学的気相成長法(CVD法)などが知られており、その中でも比較的高品質なCNTを安価に製造する方法としてCVD法が用いられることが多い。
【0004】
上述した各手法を用いてCNTを製造した場合、そのCNTの長さは通常数百ミクロンであり、長くてもmmオーダーに止まっているため、CNTを繊維として利用するためには2次加工が必要である。
【0005】
従来、CNTを用いた繊維を製造する方法として、樹脂とCNTとを混合する方法が提案されている。例えば、樹脂材料とCNTを混合して紡糸する方法がある(特許文献1参照)。このように、樹脂とCNTとを混合すると、CNTが本来有する高熱伝導性、高電気伝導性が阻害されてしまい、機械的強度のみしか期待できない繊維となってしまう。
【0006】
また、上述した問題を発生しない技術としては、CNTのみから紡糸する技術が提案されている。例えば、多数のCNTが配向してなるカーボンナノチューブ配向膜(炭素ナノチューブマトリックス、炭素系微細構造物)をCVD法を用いて製造し、引出し具にて、複数のCNTを含むカーボンナノチューブ束(炭素ナノチューブ束、CNTロープ)を引き出し、ファンデルワールス力により連続的に結合させてロープ状に紡糸する技術が提案されている(特許文献2、特許文献3参照)
【特許文献1】特開2007−154007号公報
【特許文献2】特開2004−107196号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/102924号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献2および特許文献3に記載された技術は、限定された構成のカーボンナノチューブ配向膜にのみ適応可能な手法であり、任意のカーボンナノチューブ配向膜に適応することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、任意のカーボンナノチューブ配向膜からカーボンナノチューブ繊維を製造するカーボンナノチューブ繊維製造方法,および,カーボンナノチューブ繊維製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、多数のカーボンナノチューブが配向してなるカーボンナノチューブ配向膜からカーボンナノチューブ繊維を製造するカーボンナノチューブ繊維製造方法である。
【0010】
このカーボンナノチューブ繊維製造方法では、図1(a),(b)に示すように、まず、カーボンナノチューブ配向膜10における1本以上のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ束11(11A)を、カーボンナノチューブ配向膜10から上記カーボンナノチューブの配向方向(図中のA方向)に沿って移動させる。それにより、図1(c)に示すように、上記移動するカーボンナノチューブ束11Aにおける移動の方向と反対方向(図中のB方向)の端部である第1の端部13と、そのカーボンナノチューブ束11Aと隣接するカーボンナノチューブ束11Bにおける上述した移動の方向側の端部である第2の端部14と、が近接した所定の位置関係となる。そのときに、図1(d)に示すように、上記移動するカーボンナノチューブ束11Aと、隣接するカーボンナノチューブ束11Bと、を接合する。
【0011】
このようなカーボンナノチューブ繊維製造方法であれば、カーボンナノチューブの配向方向に沿ってカーボンナノチューブ束同士を接合することができ、カーボンナノチューブ配向膜におけるカーボンナノチューブの長さよりも長く繋がったカーボンナノチューブ繊維を製造することができる。また、図1(d)からさらにカーボンナノチューブ束11Aを配向方向に移動させ、図1(e)に示すように、連続的にカーボンナノチューブ束11(11A、11B、11C…)を接合していくことで、非常に長いカーボンナノチューブ繊維を製造することができる。
【0012】
上記カーボンナノチューブ繊維製造方法では、従来のようにカーボンナノチューブ同士のファンデルワールス力を十分発揮するように、カーボンナノチューブの太さ、厚さ、配置の密度などを限定する必要がない。よって、任意のカーボンナノチューブ配向膜からカーボンナノチューブを製造することができ、その結果、従来よりも多くの性質を有するカーボンナノチューブ繊維を製造することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法において、カーボンナノチューブ配向膜を、熱硬化性樹脂溶液、有機溶媒、金属メッキ溶液、カーボンナノチューブ分散溶液からなる群のいずれかに浸漬しておき、その状態で上述した移動するカーボンナノチューブ束と、それに隣接するカーボンナノチューブ束と、の間に電流を印加することで、カーボンナノチューブ束同士の接合を実現することを特徴とする。
【0014】
このようなカーボンナノチューブ繊維製造方法であれば、電流の発熱による熱硬化性樹脂の硬化、電流の発熱による有機溶媒の気化に伴うカーボンナノチューブの凝集、電界の発生による金属メッキ液からの金属のブリッジ、電界の発生によるカーボンナノチューブ分散溶液からのカーボンナノチューブのブリッジ、のうちのいずれかにより、カーボンナノチューブ束を接合することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法において、カーボンナノチューブ配向膜を、熱硬化性樹脂溶液、有機溶媒からなる群のいずれかに浸漬しておき、上記第1の端部と上記第2の端部とが近接したときに、第1の端部と、前記第2の端部と、を含む領域に向けてレーザ光を照射することで、カーボンナノチューブ束同士の接合を実現することを特徴とする。
【0016】
このようなカーボンナノチューブ繊維製造方法であれば、レーザ光を照射した部分の温度上昇による熱硬化性樹脂の硬化、レーザ光を照射した部分の温度上昇による有機溶媒の気化に伴うカーボンナノチューブの凝集、のうちのいずれかにより、カーボンナノチューブ束を接合することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法において、接合を行うタイミングにおけるカーボンナノチューブ束の移動速度を、接合を行わないタイミングにおける移動速度よりも小さくすることを特徴とする。
【0018】
このようなカーボンナノチューブ繊維製造方法であれば、接合を行う際の移動速度が小さくなることから、接合が完了しないうちにカーボンナノチューブ束同士が乖離してしまうことを抑制でき、接合の失敗を低減できる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、多数のカーボンナノチューブが配向してなるカーボンナノチューブ配向膜からカーボンナノチューブ繊維を製造するカーボンナノチューブ繊維製造装置である。このカーボンナノチューブ繊維製造装置は、保持手段と、移動手段と、接合手段と、を備えている。
【0020】
保持手段は、カーボンナノチューブ配向膜を保持する。移動手段は、カーボンナノチューブ配向膜における1本以上のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ束を配向方向に移動させる。そして、接合手段は、移動するカーボンナノチューブ束における移動の方向と反対方向の端部である第1の端部と、移動するカーボンナノチューブ束と隣接するカーボンナノチューブ束における移動の方向側の端部である第2の端部と、が所定の位置関係となったときに、移動するカーボンナノチューブ束と、それに隣接するカーボンナノチューブ束と、を接合する。
【0021】
このように構成されたカーボンナノチューブ繊維製造装置であれば、請求項1に記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法を用いた場合と同様のカーボンナノチューブ繊維を製造することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置において、保持手段が、熱硬化性樹脂溶液、有機溶媒、金属メッキ溶液、カーボンナノチューブ分散溶液からなる群のいずれかにカーボンナノチューブ配向膜を浸漬した状態で保持するものであり、接合手段が、移動するカーボンナノチューブ束と、それに隣接するカーボンナノチューブ束と、の間に電流を印加するものであることを特徴とする。
【0023】
このように構成されたカーボンナノチューブ繊維製造装置であれば、請求項2に記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法を用いた場合と同様のカーボンナノチューブ繊維を製造することができる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置において、移動手段が、導体にて形成され、上記移動するカーボンナノチューブ束と接触する接触領域を有することを特徴とする。
【0025】
このように構成されたカーボンナノチューブ繊維製造装置であれば、電流の印加に必要な2つの電極のうちいずれかを上述した接触領域に接続することで、上述した移動するカーボンナノチューブ束に電流を印加することができるため、カーボンナノチューブ束に直接接続する必要がなくなり操作が容易になる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項5に記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置において、保持手段が、熱硬化性樹脂溶液、有機溶媒からなる群のいずれかに前記カーボンナノチューブ配向膜を浸漬した状態で保持するものであり、接合手段が、上記第1の端部と上記第2の端部とが近接したときに、第1の端部と第2の端部とを含む領域に向けてレーザ光を照射するものであることを特徴とする。
【0027】
このように構成されたカーボンナノチューブ繊維製造装置であれば、請求項3に記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法を用いた場合と同様のカーボンナノチューブ繊維を製造することができる。
【0028】
請求項9に記載の発明は、請求項5から請求項8のいずれかに記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置において、移動手段が、上記カーボンナノチューブ束を、接合手段が接合するタイミングにおいて、前記接合を行わないタイミングにおける移動速度よりも小さい速度で移動させることを特徴とする。
【0029】
このように構成されたカーボンナノチューブ繊維製造装置であれば、請求項3に記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法を用いた場合と同様に、カーボンナノチューブ束同士の接合を確実に行うことができる。
【0030】
請求項10に記載の発明は、請求項5から請求項8のいずれかに記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置であって、移動手段が、カーボンナノチューブ束のうち、少なくとも1本以上のカーボンナノチューブを絡め取ることでカーボンナノチューブ束を保持することを特徴とする。
【0031】
このように構成されたカーボンナノチューブ繊維製造装置であれば、カーボンナノチューブを移動手段に絡めることで、カーボンナノチューブ配向膜からカーボンナノチューブ束を分離して移動させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
[第1の実施形態]
(1)カーボンナノチューブ繊維製造装置の全体構成
本実施形態におけるカーボンナノチューブ繊維製造装置1は、多数のカーボンナノチューブ(以降、CNTという)が配向してなるCNT配向膜からCNT繊維を製造するための装置であって、図2に示すように、CNT配向膜10を保持する基板20と、紡糸治具30と、電源装置40と、容器50と、からなる。
【0033】
CNT配向膜10とは、CNTが高密度に集合してなる膜状の構造体である。CNT配向膜10におけるCNTは、膜の拡がる面と直交する方向に配向している。このCNT配向膜10は、例えば、化学的気相成長法(CVD法:基材に配置された金属触媒と、炭化水素ガスとを高温条件で反応させる)にて生成することができる。本実施形態において、CNT繊維の製造は、このCNT配向膜10から、1本以上のCNTの束であるCNT束11を引き抜き、その引き抜いたCNT束11と、CNT配向膜10に残るCNT束11と、を接合し、さらにその接合したCNT束11を引き抜く、という作業を連続的に行うことで実現する。
【0034】
基板20は、CNT配向膜10の配向方向が基板20の主たる面と直交するように、CNT配向膜10を保持する板状の部材である。この基板20としては、例えば、上述したCVD法にてCNT配向膜が形成されてなる金属触媒を担持する基材を用いることができる。なお、この基板20が、本発明における保持手段に該当する。
【0035】
紡糸治具30は、導体で形成された棒状の部材と、図示しない動力装置とからなり、棒状の部材における一方の端部31に、CNT配向膜10からCNT束11の上側(図2におけるC方向側)の端部12を絡め取って保持するものである。なお、絡め取る部分は端部12に限定されず、例えばCNT束11の中心付近であってもよい。
【0036】
この紡糸治具30は、棒状の部材の中心軸がCNTの配向方向(図2におけるC−D方向)に沿って配置される。そして、動力装置により、棒の中心軸を回転軸とする回転動作(図2におけるE方向の動作)と、配向方向への移動動作(図2におけるC方向の動作)とを行うことができる。なお、この紡糸治具30が、本発明における移動手段に該当する。
【0037】
電源装置40は、基板20に保持されるCNT配向膜10と、紡糸治具30に保持されるCNT束11と、間に直流電流を印加する装置であって、正極41がCNT配向膜10に接続され、負極42が紡糸治具30に接続される。この電源装置40が、本発明における接合手段に該当する。
【0038】
なお、この電源装置40は、CNT配向膜10と紡糸治具30以外に電極を接続する構成であってもよい。例えば紡糸治具30を介さず、紡糸治具30が保持するCNT束11に直接印加してもよい。また、印加する電流は交流であってもよい。
【0039】
容器50は、その中に熱硬化性樹脂を溶解させてなる有機溶媒からなる溶液3を保持している。
本実施形態では、基板20としてシリコン製の板を用い、紡糸治具30としてタングステンワイヤを用いた。また、溶液3として、ポリアクリルアミド3%トルエン溶液を用いた。なお、各構成要素の材質および溶液3の組成は一例であって、上述した作用、機能を有するものであれば特に限定されない。
(2)CNT繊維製造操作
CNT繊維を製造する際の製造操作を説明する。
【0040】
まず、CNT配向膜10を、容器50に保持される溶液3に浸漬する。そのCNT配向膜10の外周縁部分における配向方向上側(図2におけるC方向)の端部に紡糸治具30の端部31を接触させた状態で紡糸治具30を回転させ、CNT配向膜10のCNT束11のうち、少なくとも1本以上のCNTを絡め取るようにしてCNT束11を紡糸治具30に保持させる。
【0041】
なお、先に紡糸治具30にCNT束11を保持させ、次にその状態を維持したままCNT配向膜10を溶液3に浸漬することとしてもよい。また、紡糸治具30の端部31が接触する位置は、CNT配向膜10における外周縁より内側の領域であってもよい。
【0042】
次に、紡糸治具30を回転させると共に、配向方向上側(図2におけるC方向)に向かって引き上げる移動動作を行う。同時に、電源装置40によりCNT配向膜10と紡糸治具30との間に電流を印加する。そして、紡糸治具30に保持されるCNT束11と、CNT配向膜10に残るCNT束11と、の接触する面積が所定の値より小さくなったときに、CNT束11同士が接合し、CNT繊維が製造されるが、その具体的なCNT繊維の製造原理は後述する。なお、CNT束11同士の接触する面積が上述した所定の値以下になったとき、紡糸治具30の移動速度が一旦小さくなり、接合完了後にもとの速度に戻る。なお、上記接触する面積が所定の値以下になること、および、接合が完了したことは、電源装置40が印加する電流の電圧値の変化、紡糸治具30の移動動作の経過時間、紡糸治具30の配向方向上側への移動量などから判断することができる。
【0043】
本実施形態において、電源装置40は0.5mA一定の直流電流を印加する。また、紡糸治具30の引き上げ速度は10ミクロン/秒とする。なお、電流値および引き上げ速度は一例であって、上述したものに何ら限定されず、CNT配向膜10の性質や、目的とするCNT繊維の性質に合せて適宜変更することができる。
(3)CNT繊維の製造原理
CNT繊維の製造原理を図1に基づいて説明する。紡糸治具30に保持されたCNT束11Aは、紡糸治具30が配向方向上側に移動すると、図1(a),(b)に示すように、CNT配向膜10から分離し、隣接するCNT束11Bの表面を滑りながら配向方向に沿って移動する。
【0044】
このとき、CNT束11AとCNT束11Bとの間には、電源装置40から印加された電流が流れる。
そして、そのまま紡糸治具30が移動を続けると、図1(c)に示すように、紡糸治具30に保持されて移動するCNT束11Aにおける移動の方向と反対方向(図1(c)におけるB方向)の端部である第1の端部13と、隣接するCNT束11Bにおける移動の方向(図1(c)におけるA方向)側の端部である第2の端部14と、が近接し、CNT束11AとCNT束11Bとの接触面積が減少する。この接触面積が所定の値まで減少すると、電流密度が増大してCNT束11AとCNT束11Bとの接触部分が発熱し、周囲の溶液3中に含まれる熱硬化性樹脂が加熱され熱硬化する。この熱硬化した樹脂60を介して、図1(d)に示すように、CNT束11AとCNT束11Bとが接合する。
【0045】
更に紡糸治具30が配向方向上側に移動すると、樹脂60により接合されたCNT束11Bが、CNT配向膜10から分離してA方向に移動し、上記と同様の作用により、図1(e)に示すように、CNT束11Bと隣接するCNT束11Cが、熱硬化性樹脂によりCNT束11Bと接合する。このように、CNT配向膜10のCNT束11(11A,11B,11C…)を連続的に分離して接合することで、CNT繊維を製造する。
(4)発明の効果
上述したCNT繊維製造装置1であれば、電流の発熱による熱硬化性樹脂の硬化により、CNTの配向方向に沿ってCNT束11を連続的に接合してなるCNTの繊維を製造することができる。
【0046】
従来、CNT束11同士を接合するためには、CNT同士が適切に絡み合い、また、十分なファンデルワールス力を発揮するように、予めCNTの構造体を調整して製造する必要があった。よって、限定された構造のCNT繊維しか製造することができなかった。
【0047】
しかしながら、上記CNT繊維製造装置1によれば、従来のように、CNT同士の絡み合いやファンデルワールス力のみに依存して接合を行わないので、従来の方法とは異なり、任意の構造を有するカーボンナノチューブ配向膜を利用することができる。
【0048】
また、上記CNT繊維製造装置1にて製造されるCNT繊維は、CNT束11同士が直接的に接合しているで、CNTの有する高熱伝導性、高電気伝導性を維持することができる。従来から、樹脂繊維にCNTを配合することで、樹脂繊維の機械的強度を上げる技術が提案されているが、その方法では高熱伝導性や高電気伝導性が阻害される。しかし、上記実施形態ではそのような虞がない。
【0049】
また、上記CNT繊維製造装置1であれば、接合を行う際の移動速度が小さくなることから、接合が完了しないうちにCNT束11同士が乖離してしまうことを抑制でき、接合の失敗を低減できる。
【0050】
また、上記CNT繊維製造装置1であれば、紡糸治具30の回転により、撚りを加えながらCNT繊維を製造することができる。また、紡糸治具30をCNT束11Aに絡めることでCNT束11Aを保持していることから、紡糸治具30とCNT束11Aとが直接接触する結果、紡糸治具30に電極を接続することでCNT束11Aへの通電が実現でき、CNT束11に直接電極を接続して通電する必要が無い。なお、CNT繊維に撚りを加えたくない場合には、紡糸治具30の回転動作を行わないようにすればよい。
[第2の実施形態]
(1)CNT繊維製造装置1の全体構成
第2の実施形態におけるCNT繊維製造装置1の構成は、基本的には第1の実施形態と同様であるが、容器50が溶液3として有機溶媒を保持するものである点で相違する。容器50が保持する有機溶媒として、イソプロピルアルコールを用いた。
【0051】
なお、有機溶媒はイソプロピルアルコールに限定されず、例えば、エタノール、アセトン、トルエンなどを用いることができる。
(2)CNT繊維製造操作
第2の実施形態におけるCNT繊維製造操作は、第1の実施形態と同様である。
(3)CNT繊維の製造原理
第2実施形態におけるCNT繊維の製造原理は、第1の実施形態と比較して、CNT束11同士が接合する原理が異なるため、その点について説明する。
【0052】
図1(c)のように、CNT束11AがA方向に移動し、CNT束11AとCNT束11Bとの接触面積が減少すると、電流密度の増大により発熱し、周囲の溶液3中に含まれる有機溶媒が加熱され気化する。このとき、毛細管現象と、ファンデルワールス力によりCNTが凝集し、その結果、CNT束11AとCNT束11Bとが接合する。
【0053】
なお、有機溶媒の気化によってCNTを凝集させる方法は、例えば特許4003476号公報に記載されている方法を用いることができる。
(4)発明の効果
上述したCNT繊維製造装置1であれば、電流の発熱による有機溶媒の気化に伴うCNTの凝集により、CNTの配向方向に沿ってCNT束11を連続的に接合してなるCNTの繊維を製造することができる。
【0054】
そして、このようなCNT繊維製造装置1であれば、樹脂などを用いることなく接合を実現しているので、第1の実施形態におけるCNT繊維製造装置1にて製造されるCNT繊維と同様の特性を有すると共に、より高純度であるCNT繊維を製造することができる。
[第3の実施形態]
(1)CNT繊維製造装置1の全体構成
第3の実施形態におけるCNT繊維製造装置1の構成は、基本的には第1の実施形態と同様であるが、容器50が溶液3として金属メッキ液を保持するものである点で相違する。容器50が保持する金属メッキ液として、硫酸銅水溶液を用いた。なお、メッキ金属は銅に限定されず、ニッケル,クロム,金,白金,銀,パラジウムなど、電気メッキに使用できるものであればよい。
(2)CNT繊維製造操作
第3の実施形態におけるCNT繊維製造操作は、前記第1の実施形態と同じであるが、電源装置40が印加する電流は直流に限定される。
(3)CNT繊維の製造原理
第3実施形態におけるCNT繊維の製造原理は、第1の実施形態と比較して、CNT束11同士が接合する原理が異なるため、その点について説明する。
【0055】
図1(c)のように、CNT束11AがA方向に移動し、CNT束11AとCNT束11Bとが離れると、CNT束11AとCNT束11Bとの間隙に電界が集中し、その間隙をブリッジするように金属が析出する。このブリッジした金属を介して、CNT束11AとCNT束11Bとが接合する。
(4)発明の効果
上述したCNT繊維製造装置1であれば、電界の発生による金属メッキ液からの金属のブリッジにより、CNTの配向方向に沿ってCNT束11を連続的に接合してなるCNTの繊維を製造することができる。
【0056】
そして、このようなCNT繊維製造装置1であれば、第1の実施形態におけるCNT繊維製造装置1にて製造されるCNT繊維と同様の特性に加え、金属を用いて強固に接合され、高熱伝導性と高電気伝導性とを保つCNT繊維を製造することができる。
[第4の実施形態]
(1)CNT繊維製造装置1の全体構成
第4の実施形態におけるCNT繊維製造装置1の構成は、基本的には第1の実施形態と同様であるが、容器50が溶液3としてCNT分散溶液を保持するものである点で相違する。容器50が保持するCNT分散溶液として、CNT3%をエタノールに分散させたものを用いた。なお、CNT分散溶液の組成は上述したものに何ら限定されず、CNT配向膜10の性質や、目的とするCNT繊維の性質に合せて適宜変更することができる。
(2)CNT繊維製造操作
第4の実施形態におけるCNT繊維製造操作は、第1の実施形態と同様である。
(3)CNT繊維の製造原理
第4実施形態におけるCNT繊維の製造原理は、第1の実施形態と比較して、CNT束11AとCNT束11Bとが接合する原理が異なるため、その点について説明する。
【0057】
図1(c)のように、CNT束11AがA方向に移動し、CNT束11AとCNT束11Bとが離れると、CNT束11AとCNT束11Bとの間隙に電界が集中し、その間隙をブリッジするようにCNT分散溶液中のCNTが析出する。このブリッジしたCNTを介して、CNT束11AとCNT束11Bとが接合する。
(4)発明の効果
上述したCNT繊維製造装置1であれば、電界の発生によるCNT分散溶液からのCNTのブリッジにより、CNTの配向方向に沿ってCNT束11を連続的に接合してなるCNTの繊維を製造することができる。
【0058】
そして、このようなCNT繊維製造装置であれば、第1の実施形態におけるCNT繊維製造装置1にて製造されるCNT繊維と同様の特性を有するCNT繊維を製造できるうえ、樹脂などを用いることなくCNTをブリッジさせることで接合を実現しているので、より高純度であるCNT繊維を製造することができる。
[第5の実施形態]
(1)CNT繊維製造装置1の全体構成
第5の実施形態におけるCNT繊維製造装置1の構成は、基本的には第1の実施形態と同様であるが、電源装置40に替えて、レーザ照射装置70を備える点において相違する。以下では、その相違点を中心に説明する。
【0059】
本実施形態におけるCNT繊維製造装置1は、図3に示すように、CNT配向膜10を保持する基板20と、紡糸治具30と、レーザ照射装置70と、容器50と、からなる。これらのうち、基板20、紡糸治具30、および容器50は、第1の実施形態と同様の構成である。
【0060】
レーザ照射装置70は、後述する所定の領域にレーザ光を照射する装置である。
(2)CNT繊維製造操作
まず、第1の実施形態と同様の操作により、CNT配向膜10を溶液3に浸漬し、紡糸治具30によりCNT束11を保持する。
【0061】
次に、紡糸治具30を配向方向上側(図3におけるC方向側)に向かって引き上げ移動させると、図4(a)に示すように、保持されたCNT束11Aの下側(図中のB方向側)の端部である第1の端部13と、CNT配向膜10に残るCNT束11Bの上側(図中のA方向側)の端部である第2の端部14と、が近接する。そして、図4(b)に示すように、保持されたCNT束11Aが所定の距離を移動した時点で、第1の端部13と第2の端部14とを含む領域71にレーザ光を照射する。
【0062】
なお、本実施形態において、レーザ照射装置70としては、YAGレーザを用い、照射時間1ms、投入エネルギー0.1J、照射面積20μmとした。また、上記所定の距離とは、CNTの配向方向の長さの80%とした。
(3)CNT繊維の製造原理
第5実施形態におけるCNT繊維の製造原理は、第1の実施形態と比較して、熱硬化性樹脂の加熱方法が異なるため、その点について説明する。
【0063】
レーザ光が照射されると、照射された領域の温度が上昇し、その領域の溶液3中に含まれる熱硬化性樹脂が加熱され熱硬化する。この熱硬化した樹脂を介して、CNT束11同士が接合する。
(4)発明の効果
上述したCNT繊維製造装置1であれば、レーザ光の照射に伴う発熱による熱硬化性樹脂の硬化により、CNTの配向方向に沿ってCNT束11を連続的に接合してなるCNTの繊維を製造することができる。
【0064】
そして、このようなCNT繊維製造装置1であれば、第1の実施形態におけるCNT繊維製造装置にて製造されるCNT繊維と同様の特性を有するCNT繊維を製造できるうえ、製造段階において電流を印加する必要がなくなるため、電流を用いて接合することが適当でない場合であってもCNTの繊維を製造することができる。
[第6の実施形態]
(1)CNT繊維製造装置1の全体構成
第6の実施形態におけるCNT繊維製造装置1の構成は、基本的には第5の実施形態と同様であるが、容器50が溶液3として有機溶媒を保持するものである点で相違する。容器50が保持する有機溶媒として、イソプロピルアルコールを用いた。
【0065】
なお、有機溶媒はイソプロピルアルコールに限定されず、例えば、エタノール、アセトン、トルエンなどを用いることができる。
(2)CNT繊維製造操作
第6の実施形態におけるCNT繊維製造操作は、第5の実施形態と同じである。
(3)CNT繊維の製造原理
第6の実施形態におけるCNT繊維の製造原理は、第5の実施形態と比較して、CNT束11AとCNT束11Bとが接合する原理が異なるため、その点について説明する。
【0066】
レーザ光が照射されると、照射された部分の温度が上昇し、周囲の溶液3中に含まれる有機溶媒が加熱され気化する。このとき、毛細管現象と、ファンデルワールス力により凝集し、その結果CNT束11AとCNT束11Bとが接合する。
(4)発明の効果
上述したカーボンナノチューブ繊維製造装置1であれば、有機溶媒の気化に伴うカーボンナノチューブの凝集により、CNTの配向方向に沿ってCNT束11を連続的に接合してなるCNTの繊維を製造することができる。
【0067】
このようなCNT繊維製造装置であれば、樹脂などを用いることなく接合を実現しているので、第1の実施形態におけるCNT繊維製造装置1にて製造されるCNT繊維と同様の特性を有すると共に、より高純度であるCNT繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】カーボンナノチューブ繊維の製造原理を概念的に表した説明図
【図2】第1の実施形態のカーボンナノチューブ製造装置を示す側面図
【図3】第5の実施形態のカーボンナノチューブ製造装置を示す側面図
【図4】カーボンナノチューブ繊維の製造原理を概念的に表した説明図
【符号の説明】
【0069】
1…カーボンナノチューブ(CNT)繊維製造装置、3…溶液、10…カーボンナノチューブ(CNT)配向膜、11,11A,11B,11C…カーボンナノチューブ(CNT)束、12…端部、13…第1の端部、14…第2の端部、20…基板、30…紡糸治具、31…端部、40…電源装置、41…正極、42…負極、50…容器、60…樹脂、70…レーザ照射装置、71…領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のカーボンナノチューブが配向してなるカーボンナノチューブ配向膜からカーボンナノチューブ繊維を製造するカーボンナノチューブ繊維製造方法であって、
前記カーボンナノチューブ配向膜における1本以上のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ束を、前記カーボンナノチューブ配向膜から前記配向方向に沿って移動させ、前記移動するカーボンナノチューブ束における前記移動の方向と反対方向の端部である第1の端部と、前記移動するカーボンナノチューブ束と隣接するカーボンナノチューブ束における前記移動の方向側の端部である第2の端部と、が所定の位置関係となったときに、前記移動するカーボンナノチューブ束と、前記隣接するカーボンナノチューブ束と、を接合する
ことを特徴とするカーボンナノチューブ繊維製造方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ配向膜は、熱硬化性樹脂溶液、有機溶媒、金属メッキ溶液、カーボンナノチューブ分散溶液からなる群のいずれかに浸漬されており、
前記接合は、前記移動するカーボンナノチューブ束と、前記隣接するカーボンナノチューブ束と、の間に電流を印加することで実現する
ことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ配向膜は、熱硬化性樹脂溶液、有機溶媒からなる群のいずれかに浸漬されており、
前記接合は、前記第1の端部と前記第2の端部とが近接したときに、前記第1の端部と、前記第2の端部と、を含む領域に向けてレーザ光を照射することで実現する
ことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法。
【請求項4】
前記接合を行うタイミングにおける前記カーボンナノチューブ束の移動速度が、前記接合を行わないタイミングにおける前記移動速度よりも小さい速度である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ繊維製造方法。
【請求項5】
多数のカーボンナノチューブが配向してなるカーボンナノチューブ配向膜からカーボンナノチューブ繊維を製造するカーボンナノチューブ繊維製造装置であって、
前記カーボンナノチューブ配向膜を保持する保持手段と、
前記カーボンナノチューブ配向膜における1本以上のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ束を前記配向方向に移動させる移動手段と、
前記移動するカーボンナノチューブ束における前記移動の方向と反対方向の端部である第1の端部と、前記移動するカーボンナノチューブ束と隣接するカーボンナノチューブ束における前記移動の方向側の端部である第2の端部と、が所定の位置関係となったときに、前記移動するカーボンナノチューブ束と、前記隣接するカーボンナノチューブ束と、を接合する接合手段と、を備える
ことを特徴とするカーボンナノチューブ繊維製造装置。
【請求項6】
前記保持手段は、熱硬化性樹脂溶液、有機溶媒、金属メッキ溶液、カーボンナノチューブ分散溶液からなる群のいずれかに前記カーボンナノチューブ配向膜を浸漬した状態で保持するものであり、
前記接合手段は、前記移動するカーボンナノチューブ束と、前記隣接するカーボンナノチューブ束と、の間に電流を印加するものである
ことを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置。
【請求項7】
前記移動手段は、導体にて形成され、前記移動するカーボンナノチューブ束と接触する接触領域を有する
ことを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置。
【請求項8】
前記保持手段は、熱硬化性樹脂溶液、有機溶媒からなる群のいずれかに前記カーボンナノチューブ配向膜を浸漬した状態で保持するものであり、
前記接合手段は、前記第1の端部と前記第2の端部とが近接したときに、前記第1の端部と、前記第2の端部と、を含む領域に向けてレーザ光を照射するものである
ことを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置。
【請求項9】
前記移動手段は、前記カーボンナノチューブ束を、前記接合手段が接合するタイミングにおいて、前記接合を行わないタイミングにおける前記移動速度よりも小さい速度で移動させる
ことを特徴とする請求項5から請求項8のいずれかに記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置。
【請求項10】
前記移動手段は、前記カーボンナノチューブ束のうち、少なくとも1本以上のカーボンナノチューブを絡め取ることで、前記カーボンナノチューブ束を保持する
ことを特徴とする請求項5から請求項9のいずれかに記載のカーボンナノチューブ繊維製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−220209(P2009−220209A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66136(P2008−66136)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】