説明

カーボンナノチューブ製造装置

【課題】触媒を担持する単体にダメージを与えることなく高品質なカーボンナノチューブを合成できるようにすること。
【解決手段】筒状の反応管221と、そのほぼ全長にわたってその周りに配され、上記反応管内の雰囲気を加熱するための加熱機構222と、上記反応管の長手方向に延在する熱伝導性送気管223と、を有する電気炉22を備え、上記電気炉内に設置した上記触媒に対して上記原料ガスをフローしてカーボンナノチューブを合成するカーボンナノチューブ製造装置において、上記加熱機構を、第1ステージ221の方を第2ステージ222よりも高温に設定した2つのステージを一体的に構成したものとし、触媒を上記第2ステージに対応する位置に設置して、上記第1ステージ側で上記熱伝導性送気管内を流れる原料ガスを加熱した上で上記触媒に流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを合成するカーボンナノチューブ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、非特許文献1に示すように1991年に発見されたものであり、近年、そのようなカーボンナノチューブには、様々な応用が期待されている。
【0003】
例えば、電位窓が広いことを利用して、チャネル部分にナノ炭素材料を用いた電界効果トランジスタは、トランジスタのゲート部分に付着した蛋白質やDNAを検知するバイオセンサとしての応用が期待されている。チャネルに用いる炭素材料は、カーボンナノチューブが有望である。
【0004】
このようなカーボンナノチューブは他にも、燃料電池の電極、キャパシタ、ドラッグデリバリシステム(DDS)、イメージング(DDSによるMRI等の造影剤の輸送)、水素やメタンの貯蔵、触媒担体、フィールドエミッション、不安定な分子の保存、電子顕微鏡観察に用いるナノサイズの試験管など、幅広い用途が期待されている。電子顕微鏡観察に用いるナノサイズの試験管は、カーボンナノチューブの内部に不安定な物質を入れて固定して電子顕微鏡で観察する技術である。カーボンナノチューブ内部では分子の動きが制限され、また、電子線によるダメージも緩和されるため、電子顕微鏡観察が難しい物質も観察でき、さらに原子の動きも観察することが可能となる。
【0005】
このようなカーボンナノチューブの合成法としては、電気炉に触媒(触媒はシリコン基板やゼオライト等の単体に担持されている)を設置し、原料ガス(ハイドロカーボン(HC)、アルコール、アセチレン等)をフローして、またはアルゴン等のフローガスと混合フローして、カーボンナノチューブを合成するCVD法が一般的である。このとき、触媒の被毒防止として、酸化剤(例えば水蒸気)や還元剤(水素)を混合して流すことで、カーボンナノチューブの収率が向上する。
【非特許文献1】S.Iijima、 Nature Vol.354 p.56 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなCVD法によりカーボンナノチューブを合成する場合、触媒はシリコン基板の単体に担持されるものであるが、例えばカーボンナノチューブをチャンネルとして用いる電界効果トランジスタ(CNT−FET)を製造する際に、単体は既にデバイス化されているため、熱はできるだけ加えないことが望ましい。しかしながら、流す原料ガスの温度が低いと、アモルファスカーボンのような不純物が生成されてしまい、高品質なカーボンナノチューブを合成することができない。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、触媒を担持する単体にダメージを与えることなく高品質なカーボンナノチューブを合成可能なカーボンナノチューブ製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカーボンナノチューブ製造装置の一態様は、触媒を設置する筒状の反応管と、上記反応管のほぼ全長にわたって上記反応管の周りに配され、上記反応管内の雰囲気を加熱するための加熱機構と、上記反応管の外部から供給された原料ガスを、上記加熱機構によって加熱された雰囲気により加熱して上記触媒近傍に導入するため、上記反応管の長手方向に延在する熱伝導性送気管と、を有する電気炉を備え、上記電気炉内に設置した上記触媒に対して上記原料ガスをフローしてカーボンナノチューブを合成するカーボンナノチューブ製造装置において、
上記電気炉の加熱機構は、それぞれ独立して温度制御可能な2つのステージが一体的に構成され、一方のステージの方が他方のステージよりも高温に設定され、
上記触媒は上記他方のステージに対応する位置に設置され、
上記熱伝導性送気管は、上記原料ガスが供給される側が上記一方のステージ側であり、上記原料ガスの吹き出し口が上記他方のステージ側となるように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原料ガスを高温に加熱し、触媒側はそれよりも低温に設定できるので、触媒を担持する単体にダメージを与えることなく高品質なカーボンナノチューブを合成可能なカーボンナノチューブ製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、カーボンナノチューブ(以下、CNTと略記する)を製造及び加工する、本発明の一実施形態に係るCNT製造加工装置10の構成を示す図である。このCNT製造加工装置10は、パージボックス12、2つの定量ポンプ14−1,14−2、2つの気化器16−1,16−2、5つの三方バルブ18−1〜18−5、4つの真空ポンプ20−1〜20−4、電気炉22、圧力弁24、及びコントローラ26を備えている。なお、図1では、各部間を接続する配管は実線で示し、コントローラ26による制御線は破線で示している。また、図面の簡略化のために、各配管途中のバルブや、混合フローのためのアルゴンガスの供給源等、本発明の特徴部以外の構成については、図示を省略してある。
【0012】
パージボックス12は、原料タンク121と酸化剤タンク122を収容するもので、純粋な原料又は酸化剤が供給できるように、窒素ガスが充填されている。これは、該パージボックス12内の原料タンク121及び酸化剤タンク122に液体状の原料(例えばエタノール)及び液体状の酸化剤(例えば水)をそれぞれ補給した後、図示しない真空ポンプで該パージボックス12内の空気を吸い出して真空にし、図示しない窒素ガス供給源より該パージボックス12内に窒素ガスを注入することにより実現される。
【0013】
定量ポンプ14−1,14−2は、上記パージボックス12の原料タンク121内の液体状の原料及び酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を、一定量ずつ、後段の気化器16−1,16−2に供給する。なお、この一定量は、コントローラ26の制御によって任意の量とすることができる。
【0014】
気化器16−1,16−2は、供給された液体状の原料及び酸化剤を加熱することで気化して、純粋な原料ガス及び酸化剤ガスを発生する。ここで、一定量の原料及び酸化剤が供給されるので、これら気化器16−1,16−2からは、一定量の原料ガス及び酸化剤ガスが排出されることとなる。
【0015】
三方バルブ18−1は、該CNT製造加工装置10に接続された酸化剤ガス供給源28から必要に応じて供給される酸化剤ガス(例えば酸素や二酸化炭素)、又は、同じく該CNT製造加工装置10に接続された還元剤ガス供給源30から必要に応じて供給される還元剤ガス(例えば水素)を、三方バルブ18−2に供給する。なお、これら酸化剤ガス供給源28及び還元剤ガス供給源30からのガスの供給は、コントローラ26によって管理される図示しないバルブの開閉により制御される。三方バルブ18−2は、上記三方バルブ18−1からの酸化剤ガス又は還元剤ガスを真空ポンプ20−1又は電気炉22内に導入する。真空ポンプ20−1は、コントローラ26によって駆動制御され、必要に応じて上記三方バルブ18−1から酸化剤ガス又は還元剤ガスを吸引して排気することで、その酸化剤ガス又は還元剤ガスの電気炉22内への導入を停止させる。
【0016】
三方バルブ18−3は、該CNT製造加工装置10に接続された原料ガス供給源32から必要に応じて供給される原料ガス(例えばHC)又は上記気化器16−1で気化された原料ガスを、三方バルブ18−4に供給する。三方バルブ18−4は、上記三方バルブ18−3からの原料ガスを真空ポンプ20−2又は電気炉22内に導入する。真空ポンプ20−2は、コントローラ26によって駆動制御され、必要に応じて上記三方バルブ18−4から原料ガスを吸引して排気することで、その原料ガスの電気炉22内への導入を停止させる。
【0017】
三方バルブ18−5は、上記気化器16−2で気化された酸化剤ガスを真空ポンプ20−3又は電気炉22内に導入する。真空ポンプ20−3は、コントローラ26によって駆動制御され、必要に応じて上記三方バルブ18−5から酸化剤ガスを吸引して排気することで、その酸化剤ガスの電気炉22内への導入を停止させる。
【0018】
真空ポンプ20−4は、コントローラ26によって駆動制御され、電気炉22内のガスを吸引して排気する。但しこのとき、圧力弁24によって、電気炉22内の圧力が一定に保たれるようにされている。
【0019】
電気炉22は、反応管221、加熱機構222、及び複数の送気管223から構成される。反応管221は、例えば円筒形状を有し、その前端側から反応ガス(原料ガス、酸化剤ガス、還元剤ガス)が導入され、その後端側から上記圧力弁24を介して反応ガスが排出されるようになっている。そして、該反応管221内の後端近傍位置に図示しない台座が形成され、その上に触媒又は試料34が設置される。
【0020】
また、加熱機構222は、例えば上記反応管221の周りに巻回された電熱線等で形成されるものであるが、本実施形態においては、反応管221の長手方向に沿って2つのステージ2221,2222に分割されている。但し、第1ステージ2221と第2ステージ2222とが間を開けて別体に構成されるものではなく、一つの加熱機構222として一体的に形成されている。各ステージ2221,2222は独立してコントローラ26によって制御され、それぞれ異なる温度に反応管221を加熱することができる。
【0021】
複数の送気管223は、熱伝導性の良い例えば石英管で構成され、上記三方バルブ18−2,18−4,18−5に接続されている。これら送気管223は、触媒又は試料34近傍まで配管されており、その触媒又は試料34に向けて加熱された反応ガスを流すことができる。なお、電気炉22は、その中心(軸部分)が所定の温度になるように設計されているので、送気管223は、反応管221の中心部を通るように配管することが好ましい。
【0022】
次にこのような構成のCNT製造加工装置10の動作を説明する。
【0023】
[CNT合成時]
まず、CNTを製造するCNT合成時の動作について説明する。
【0024】
(運転パターン1)
電気炉22には、シリコン基板やゼオライト等の単体に担持された触媒を設置する。
【0025】
原料ガス供給源32からの原料ガス、又は、原料タンク121内の液体状の原料を気化器16−1で気化させて得た原料ガスを、送気管223より連続で流しながら、被毒防止のために、酸化剤ガス供給源28からの酸化剤ガス又は還元剤ガス供給源30からの還元剤ガス、あるいは、酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を気化器16−2で気化させて得た酸化剤ガスを、送気管223より連続で流す。
【0026】
このとき、原料タンク121内の液体状の原料を気化器16−1で気化させて得た原料ガスを流す場合であっても、定量ポンプ14−1により一定量の液体状原料を汲み上げて、気化器16−1で気化するので、電気炉22に導入される原料ガスの濃度を管理することができる。
【0027】
同様に、酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を気化器16−2で気化させて得た酸化剤ガスを流す場合であっても、定量ポンプ14−2により一定量の液体状酸化剤を汲み上げて、気化器16−2で気化するので、電気炉22に導入される酸化剤ガスの濃度を管理することができる。
【0028】
即ち、従来は液体状の原料や酸化剤からバブリングによって原料ガスや酸化剤ガスを得ていたので電気炉22に導入されるガスの濃度管理ができず所望のCNTを合成することが難しかったが、このように定量ポンプ14−1,14−2と気化器16−1,16−2を使用することでガス濃度を管理でき、所望のCNTを合成することが可能となる。
【0029】
また、電気炉22においては、加熱機構222の第1ステージ2221によって、反応管221の対応する前半部分の雰囲気を例えば約900℃に、また、第2ステージ2222によって、反応管221の対応する後半部分の雰囲気を例えば約800℃に、それぞれ加熱する。
【0030】
即ち、予め反応ガス(原料ガス、酸化剤ガス、還元剤ガス)を高い温度に充分に加熱しておくことで、従来よりも低い温度でCNTを合成できるようになる。触媒は、シリコン基板の単体に担持されるものであるが、これは例えばCNTをチャンネルとして用いる電界効果トランジスタ(CNT−FET)を製造する際に、単体は既にデバイス化されているため、熱はできるだけ加えないことが望ましい。しかしながら、流す反応ガスの温度が低いと、アモルファスカーボンのような不純物が生成されてしまう。このように2ステージの加熱機構222を用いることで、流す反応ガスは高温にし、触媒自体は温度を下げることが可能となるので、触媒を担持する単体にダメージを与えることなく、不純物を少なく高品質なCNTを合成することが可能となる。
【0031】
なお、2台の加熱機構を併設すると、それらの間で温度が下がってしまうが、一体的に複数のステージを並べた1台の加熱機構222とすることで、そのような問題は生じない。
【0032】
(運転パターン2)
電気炉22には、シリコン基板やゼオライト等の単体に担持された触媒を設置する。
【0033】
原料ガス供給源32からの原料ガス、又は、原料タンク121内の液体状の原料を気化器16−1で気化させて得た原料ガスを、送気管223より連続で流しながら、被毒防止のために、酸化剤ガス供給源28からの酸化剤ガス又は還元剤ガス供給源30からの還元剤ガス、あるいは、酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を気化器16−2で気化させて得た酸化剤ガスを、1秒おきに0.1秒間、送気管223より流す。この断続的な酸化剤ガスの流れは、真空ポンプ20−1又は20−3によって、上記0.1秒間以外の間、酸化剤ガスを吸引することで、電気炉22側には導入されないようにすることで実現できる。
【0034】
即ち、図2に示すように、原料ガスを流すとCNTが成長されていくが、同時に、生成される不純物も増えていき、これが触媒の表面に被毒として残って原料ガスが当たるのを妨げるため、時間と共にCNTの成長量の伸びが鈍っていく。そこで酸化剤ガス又は還元剤ガスを0.1秒間流すと、その触媒表面の不純物が剥がれ、原料ガスが再び当たるようになって、CNTの成長量が増加する。
【0035】
このような0.1秒間の酸化剤ガス又は還元剤ガスのフローを、所望の成長量が得られるまで、1秒間隔で繰り返す。
【0036】
このように、酸化剤ガスや還元剤ガスを定期的にパルス的に導入することで触媒の被毒を除去することができ、且つ、それ以外のときには添加しないのでCNTの成長を阻害しない。従って、高品質なカーボンナノチューブを高収率に合成することが可能となる。
【0037】
なお、酸化剤ガス又は還元剤ガスをあまりにも短時間流しただけでは、不純物を剥がすことができず、制御安定性のためには上記のように少なくとも0.1秒間は流す必要がある。また、上限は特に定めないが、長くなればなるほど原料ではなく酸化剤又は還元剤が触媒に当たる確率が上がるのでCNTの成長を阻害することとなり、所望の成長量のCNTを得るまでの時間が長くなってしまうため、短い方が好ましい。
【0038】
また、この例では1秒間隔で繰り返すものとしているが、この間隔は、原料ガスの濃度に応じて適宜変更する。即ち、原料ガスの濃度が濃いと被毒が厚くなってしまうので、頻繁に酸化剤ガス又は還元剤ガスを流す必要がある。ここでは、最も濃い場合を想定して1秒間隔としているが、それよりも薄い場合には、この繰り返し間隔はより長くする。
【0039】
なお、上記運転パターン1で説明したように、定量ポンプ14−1,14−2と気化器16−1,16−2を使用することでガス濃度を管理することができる。
【0040】
また、上記運転パターン1で説明したように、2ステージの加熱機構222を用いて、反応ガスを高温にし且つ触媒自体は温度を下げることを、同時に行うことがより好ましい。
【0041】
(運転パターン3)
電気炉22には、シリコン基板やゼオライト等の単体に担持された触媒を設置する。
【0042】
原料ガス供給源32からの原料ガス、又は、原料タンク121内の液体状の原料を気化器16−1で気化させて得た原料ガスを、送気管223より1秒間パルス的に導入して、1秒置いた後、被毒防止のために、酸化剤ガス供給源28からの酸化剤ガス又は還元剤ガス供給源30からの還元剤ガス、あるいは、酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を気化器16−2で気化させて得た酸化剤ガスを、0.1秒間、送気管223より流して、1秒間時間を空ける。これを連続的に繰り返す。
【0043】
なお、上記断続的な原料ガスの流れは、真空ポンプ20−2によって、上記1秒間の導入時以外の間、原料ガスを吸引することで、電気炉22側には導入されないようにすることで実現できる。
【0044】
このように、原料ガス、及び、酸化剤ガスや還元剤ガスを定期的にパルス的に導入することで触媒の被毒を除去しつつCNTを成長させていくことができる。
【0045】
また、上記運転パターン1で説明したように、定量ポンプ14−1,14−2と気化器16−1,16−2を使用することでガス濃度を管理することができる。
【0046】
なお、上記運転パターン1で説明したように、2ステージの加熱機構222を用いて、反応ガスを高温にし且つ触媒自体は温度を下げることを、同時に行うことがより好ましい。
【0047】
[CNT加工時]
次に、CNTの壁面にディフェクトや孔を導入するCNT加工時の動作について説明する。
【0048】
(運転パターン4)
電気炉22には、被加工物としてのCNTが合成された試料を設置する。
【0049】
酸化剤ガス供給源28からの酸化剤ガス、あるいは、酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を気化器16−2で気化させて得た酸化剤ガスを、加熱機構222によって加熱された雰囲気を持つ電気炉22の反応管221内に、送気管223より連続で流すことにより、CNTが酸化して孔が形成される。
【0050】
このとき、酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を気化器16−2で気化させて得た酸化剤ガスを流す場合であっても、定量ポンプ14−2により一定量の液体状酸化剤を汲み上げて、気化器16−2で気化するので、電気炉22に導入される酸化剤ガスの濃度を管理することができる。
【0051】
即ち、従来は液体状の酸化剤からバブリングによって酸化剤ガスを得ていたので電気炉22に導入されるガスの濃度管理ができずCNTの壁面にディフェクトや孔を制御して導入することが難しかったが、このように定量ポンプ14−2と気化器16−2を使用することでガス濃度を管理でき、ディフェクトや孔を制御して導入することが可能となる。
【0052】
なお、電気炉22の加熱雰囲気は、酸化剤ガスとして酸素を用いる場合には、発熱反応であるので300℃以上、また酸化剤ガスとして水蒸気又は二酸化炭素を用いる場合には、吸熱反応を利用するため700℃以上とする。
【0053】
この場合、酸素による酸化は発熱反応であり、酸素が供給される限り酸化が進むため、一気に温度を上げてしまうと反応が止まらず、ディフェクトや孔だけでなく、過剰反応によるデブリを生じてしまうので、5〜6時間かけてゆっくりと温度を上げていくことが必要である。
【0054】
また、水蒸気や二酸化炭素による酸化は吸熱反応であるので加熱しない限り酸化が行われず、よって熱制御により酸化反応を制御できるため、酸素による酸化よりも制御し易い。但し、それでも酸素による酸化と同様、加熱しすぎると過剰反応によるデブリを生じるので、熱制御を厳密に行う必要がある。
【0055】
なお、このCNT加工においては、上記CNT合成時に発生してしまった不純物がCNTに付着していたとしても、CNTよりも不純物の方が反応性が高いため、不純物の方が先に酸化し、その後に孔があいていくこととなるので、不純物の除去が行えるという副次的な効果を持つ。
【0056】
(運転パターン5)
電気炉22には、被加工物としてのCNTが合成された試料を設置する。
【0057】
加熱機構222によって加熱された雰囲気を持つ電気炉22の反応管221内に、酸化剤ガス供給源28からの酸化剤ガス(例えば酸素又は二酸化炭素)、あるいは、酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を気化器16−2で気化させて得た酸化剤ガス(例えば水蒸気)を、1秒おきに0.1秒間、送気管223より流す。
【0058】
このようにパルス的に酸化剤ガスをフローすることにより、酸化反応が連続的に行われず断続的に進めることができる、即ち酸化反応を制御できるので、デブリが生じず、高精度にディフェクトや孔を導入することができる。
【0059】
ここで、電気炉22の加熱雰囲気は、上記運転パターン4と同様、酸化剤ガスとして、酸素を用いる場合には300℃以上、水蒸気又は二酸化炭素を用いる場合には700℃以上とする。
【0060】
但し、本運転パターンでは、酸化剤ガスとして酸素を用いた場合であっても、酸素を断続的に流すことで酸化を制御できるので、上記運転パターン4のように長時間かけてゆっくりと温度を上げていく必要はなく、処理時間の短縮化が達成できる。
【0061】
また、酸化剤ガスとして酸素や二酸化炭素を用いた場合には、酸化は吸熱反応であるため、酸素を用いた場合よりも制御がし易いことは上述した通りである。
【0062】
なお、定量ポンプ14−2と気化器16−2を使用して酸化剤ガス濃度を管理できることは、上記運転パターン4で説明した通りである。
【0063】
また、酸化剤ガスをあまりにも短時間流しただけでは、酸化反応を起こすことができず、制御安定性のためには上記のように少なくとも0.1秒間は流す必要がある。また、上限は特に定めないが、長くなればなるほど過剰反応が発生する確率が高まるので、短い方が好ましい。
【0064】
また、この例では1秒間隔で繰り返すものとしているが、この間隔は、酸化反応が確実に停止するのを待つためであり、酸化剤ガスの濃度に応じて適宜変更することが好ましい。
【0065】
(運転パターン6)
電気炉22には、被加工物としてのCNTが合成された試料を設置する。
【0066】
加熱機構222によって加熱された雰囲気を持つ電気炉22の反応管221内に、酸化剤ガス供給源28からの酸化剤ガス(例えば二酸化炭素)と酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を気化器16−2で気化させて得た酸化剤ガス(例えば水蒸気)とを混合して、1秒おきに0.1秒間、送気管223より流す。
【0067】
このように、異なる酸化剤ガスを混合して断続的に流すようにしても、上記運転パターン5の場合と同様の効果が得られる。
【0068】
(運転パターン7)
電気炉22には、被加工物としてのCNTが合成された試料を設置する。
【0069】
加熱機構222によって加熱された雰囲気を持つ電気炉22の反応管221内に、酸化剤ガス供給源28からの酸化剤ガス(例えば二酸化炭素)と、酸化剤タンク122内の液体状の酸化剤を気化器16−2で気化させて得た酸化剤ガス(例えば水蒸気)とを、1秒おきに0.1秒間、交互に送気管223より流す。
【0070】
このように、異なる酸化剤ガスを交互に断続的に流すようにしても、上記運転パターン5の場合と同様の効果が得られる。
【0071】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0072】
例えば、上記実施形態では、製造加工装置を説明したが、適宜切り分けて、製造装置、加工装置を構成しても良い。また、上述した複数の運転パターンを切り替えられるようにしても良いし、1つだけに絞った専用の装置として構成しても構わない。
【0073】
なお、原料としてはエタノール,エチレン,アセチレン,メタン,メタノールが、酸化剤としては酸素,水蒸気,二酸化炭素が、還元剤としては水素が使用できるが、それらに限定するものではない。また、図1では、各ガス供給源及び各タンクをそれぞれ一つずつしか示していないが、それぞれ複数種類用意し、バルブの開閉等により適宜選択使用できるようにしても良いことは勿論である。
【0074】
(付記)
前記の具体的実施形態から、以下のような構成の発明を抽出することができる。
【0075】
(1) 触媒を設置する筒状の反応管と、上記反応管のほぼ全長にわたって上記反応管の周りに配され、上記反応管内の雰囲気を加熱するための加熱機構と、上記反応管の外部から供給された原料ガスを、上記加熱機構によって加熱された雰囲気により加熱して上記触媒近傍に導入するため、上記反応管の長手方向に延在する熱伝導性送気管と、を有する電気炉を備え、上記電気炉内に設置した上記触媒に対して上記原料ガスをフローしてカーボンナノチューブを合成するカーボンナノチューブ製造装置において、
上記電気炉の加熱機構は、それぞれ独立して温度制御可能な2つのステージが一体的に構成され、一方のステージの方が他方のステージよりも高温に設定され、
上記触媒は上記他方のステージに対応する位置に設置され、
上記熱伝導性送気管は、上記原料ガスが供給される側が上記一方のステージ側であり、上記原料ガスの吹き出し口が上記他方のステージ側となるように配置されていることを特徴とするカーボンナノチューブ製造装置。
【0076】
(2) 液体状の原料を収容した原料タンクから一定量ずつ原料を汲み上げる定量ポンプと、
上記定量ポンプで汲み上げた原料を加熱することで気化して原料ガスを生成し、上記電気炉内に導入する気化器と、
を更に具備することを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【0077】
(3) 液体状の酸化剤又は還元剤を収容した酸化剤タンク又は還元剤タンクから一定量ずつ酸化剤又は還元剤を汲み上げる第2の定量ポンプと、
上記第2の定量ポンプで汲み上げた酸化剤又は還元剤を加熱することで気化して酸化剤ガス又は還元剤ガスを生成し、上記電気炉内に導入する第2の気化器と、
を更に具備することを特徴とする(2)に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【0078】
(4) 上記電気炉内に酸化剤ガス又は還元剤ガスを断続的に投入する手段を更に具備することを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【0079】
(5) 上記断続的に投入する酸化剤ガス又は還元剤ガスを、少なくとも0.1秒間投入することを特徴とする(4)に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【0080】
(6) 上記酸化剤ガス又は還元剤ガスを、少なくとも1秒間の間隔を空けて投入することを特徴とする(4)又は(5)に記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【0081】
(7) 更に、上記原料ガスも断続的にフローすることを特徴とする(4)乃至(6)の何れかに記載のカーボンナノチューブ製造装置。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るCNT製造加工装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、酸化剤ガス又は還元剤ガスを断続的に添加する際のタイミングチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0083】
10…CNT製造加工装置、 12…パージボックス、 14−1,14−2…定量ポンプ、 16−1,16−2…気化器、 18−1〜18−5…三方バルブ、 20−1〜20−4…真空ポンプ、 22…電気炉、 24…圧力弁、 26…コントローラ、 28…酸化剤ガス供給源、 30…還元剤ガス供給源、 32…原料ガス供給源、 34…触媒又は試料、 121…原料タンク、 122…酸化剤タンク、 221…反応管、 222…加熱機構、 223…送気管、 2221…第1ステージ、 2222…第2ステージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を設置する筒状の反応管と、上記反応管のほぼ全長にわたって上記反応管の周りに配され、上記反応管内の雰囲気を加熱するための加熱機構と、上記反応管の外部から供給された原料ガスを、上記加熱機構によって加熱された雰囲気により加熱して上記触媒近傍に導入するため、上記反応管の長手方向に延在する熱伝導性送気管と、を有する電気炉を備え、上記電気炉内に設置した上記触媒に対して上記原料ガスをフローしてカーボンナノチューブを合成するカーボンナノチューブ製造装置において、
上記電気炉の加熱機構は、それぞれ独立して温度制御可能な2つのステージが一体的に構成され、一方のステージの方が他方のステージよりも高温に設定され、
上記触媒は上記他方のステージに対応する位置に設置され、
上記熱伝導性送気管は、上記原料ガスが供給される側が上記一方のステージ側であり、上記原料ガスの吹き出し口が上記他方のステージ側となるように配置されていることを特徴とするカーボンナノチューブ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−57244(P2009−57244A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225906(P2007−225906)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】