説明

カーボンナノチューブ集合体

【課題】両端間にエア等の気体等の通過性に優れたカーボンナノチューブ集合体を提供する。
【解決手段】本カーボンナノチューブ集合体2は、垂直に配向した複数のカーボンナノチューブ4がマトリックス6中に埋め込まれると共にその両端が開口した状態で該マトリックス6中から露出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のカーボンナノチューブが集合してなるカーボンナノチューブ集合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、周知されるように、グラフェンシートを丸めた材料であり、直径が微細な材料である一方、機械的強度や電気的性能に優れている(特許文献1参照)。そのため、これらを多数集合させたカーボンナノチューブ集合体とすると、その内部に多数の微細な隙間が生じておりかつこれら微細な隙間が集合して大きな内蔵容積を確保することができるため、繊維素材、水素吸蔵体、キャパシタ、燃料電池の触媒電極層等、各種用途が期待されている。
【特許文献1】特開2001−303250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本出願人は、カーボンナノチューブ集合体の用途を拡大するべくカーボンナノチューブ集合体に関して鋭意研究した。この研究の過程でカーボンナノチューブ集合体を構成するカーボンナノチューブとして不純物が無いか少なくて高純度なカーボンナノチューブを得ることが望ましいこと、アスペクト比が大きくて内部隙間が微小なカーボンナノチューブを集合させて両端間にエア等の気体等の通過性に優れた多数のフィルタ通路が構成できる状態に集合させることが困難であることが判明し、さらに鋭意研究を重ねて、以下に説明する本発明を完成することができるに至った。
【0004】
すなわち、本発明は、カーボンナノチューブがアスペクト比が大きくて内部隙間が内径nmオーダーと微小であっても内部に多数の微細隙間が存在して水素等の各種気体の通過性、フィルタ性、保持性、吸蔵性に限らず、各種材料や液体、等の通過性、フィルタ性、保持性、あるいは電荷の蓄積性、等に優れたカーボンナノチューブ集合体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るカーボンナノチューブ集合体は、複数のカーボンナノチューブがマトリックス中に埋め込まれていると共にその両端が開口した状態で該マトリックス中から露出していることを特徴とするものである。
【0006】
上記カーボンナノチューブは、グラフェンシートが1枚構造の単層カーボンナノチューブ、複数枚構造の多層カーボンナノチューブのいずれも含む。
【0007】
上記の場合、複数のカーボンナノチューブのすべての両端が開口していることに限定する意義ではなく、一部のカーボンナノチューブではその両端が開口していない場合も含む意義である。
【0008】
本発明によれば、複数のカーボンナノチューブの開口した両端がマトリックス中から外部に露出した構造であるので、両端間が連通した多数の微細隙間を外部に露出させることができ、例えば繊維素材、水素吸蔵体、コンデンサ、燃料電池、フィルタ、等の各種分野で、吸着性、吸蔵性、静電容量性、気体通過性、等が要求される用途に有用なカーボンナノチューブ集合体を提供することができる。
【0009】
上記カーボンナノチューブは、マトリックス中に、形状の直進性と垂直配向性とを備え高密度に配向していることが好ましい。
【0010】
上記カーボンナノチューブは空気中における900℃熱分解後の残渣が1%以下であることが好ましい。
【0011】
上記マトリックスは、高分子材から構成されていることが好ましい。
【0012】
上記マトリックスは、金属材から構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明ではマトリックス中から複数のカーボンナノチューブの両端が開口した状態で露出しているので、カーボンナノチューブがアスペクト比が大きくて内部隙間が微小であっても気体等の通過性に優れたカーボンナノチューブ集合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ集合体を詳細に説明する。実施の形態では単層、多層を問わず説明するが、本発明ではそのいずれも含む。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1のカーボンナノチューブ集合体を示す。図1を参照して、実施の形態1のカーボンナノチューブ集合体2は、垂直に配向した複数のカーボンナノチューブ4がマトリックス6中に埋め込まれ、該マトリックス6中から上記複数のカーボンナノチューブ4の両端が露出している。この埋め込まれている意義は、上記複数のカーボンナノチューブ4がその両端以外のチューブ部分が外部に露出しておらずその両端のみが露出している状態であり、その場合、マトリックス6の形状はいかなる形状も含むものである。マトリックス6の意義はカーボンナノチューブ集合体2を構成する主たる素材のことである。マトリックス6の材料は実施の形態1では特に限定しないが、高分子材が好ましい。高分子材とは主に高分子から構成されている材料の意義であり、全体がすべて高分子で構成されている材料や、一部に高分子以外の材料を含んでもよい。
【0016】
カーボンナノチューブ4はマトリックス6内で互いに隣接した状態に並設されていると共に互いの外周面間に高分子材からなる隔壁7が形成されている。隔壁7とはカーボンナノチューブ4同士を隔てる壁の意義であり、その材料は特に限定しないが、上記意義の高分子材と同義の高分子材でもよい。隔壁7は複数のカーボンナノチューブ4をカーボンナノチューブ集合体2中で互い同士の間隔を維持したり垂直に配向することに役立つが、カーボンナノチューブ集合体7上で必ずしも必須となるものではない。
【0017】
この隔壁7によりカーボンナノチューブ7同士は直接接触していない状態となるが、隔壁7が無くカーボンナノチューブ7同士が直接接触した状態であってもよい。隔壁7が絶縁性であればカーボンナノチューブ4同士は、隔壁7で電気的に互いに対して絶縁され、隔壁7が導電性の場合、カーボンナノチューブ4同士は、互いに電気的に導通している。隔壁7を構成する高分子材とマトリックス6を構成する高分子材は同じ高分子材であっても、異なる高分子材であってもよい。
【0018】
上記複数のカーボンナノチューブ4の両端は開口しているが、すべてのカーボンナノチューブ4の両端が開口していることに限定する意義ではなく一部に一端側のみが開口しているカーボンナノチューブ4が存在していてもよい。カーボンナノチューブ4の端部開口はいかなる手段や作用で開口したものでもよい。
【0019】
上記複数のカーボンナノチューブ4の両端が開口していることは、カーボンナノチューブ4はその内部がチューブ状であるのでカーボンナノチューブ集合体2全体としては一端側と他端側とが連通し気体等の通過性によい。上記複数のカーボンナノチューブ4は好ましくは内部に触媒微粒子やその他の不純物を含有していない。この触媒微粒子はカーボンナノチューブ3を基板上に金属からなる触媒微粒子を成長の核として炭素系ガスの雰囲気中で成長させる場合に用いる当該触媒微粒子のことである。
【0020】
上記カーボンナノチューブ集合体2においては、複数のカーボンナノチューブ4の開口した両端がマトリックス6中から外部に露出した構造であるので、内部に両端間に開通した多数の微細隙間を存在させることができるので、例えば繊維素材、水素吸蔵体、コンデンサ、燃料電池、フィルタ、等の各種分野で、吸着性、吸蔵性、静電容量性等が要求される用途に有用なカーボンナノチューブ集合体を提供することができる。
【0021】
上記カーボンナノチューブ集合体2では、複数のカーボンナノチューブ4が触媒微粒子を含有していない高純度であるので、高純度が要求される用途に適合したカーボンナノチューブ集合体2を提供することができる。
【0022】
上記カーボンナノチューブ集合体2の密度は、50mg/cm3以上、好ましくは90g/cm3という高密度である。これは、上記カーボンナノチューブ集合体2は形状の直線性と垂直配向性とを共に有するカーボンナノチューブ4が多いからと考えられる。マトリックス6中に埋め込む前のカーボンナノチューブ4に対して熱分析測定を実施した。熱分析測定に用いた装置はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のEXSTAR6000 TG/DTAであり、熱分析測定条件は空気100ml/分雰囲気下、10℃/分にて900℃まで昇温後10分間保持する。一般にカーボンは結晶性が低いと加熱に弱く、結晶性が高いと加熱に強くなる。
【0023】
図2において横軸は温度(T:℃)、縦軸は熱重量変化(TG:%)である。これは温度を上昇させていきつつ空気雰囲気下でカーボンナノチューブ4の重量変化を測定している。図2でAは従来のカーボンナノチューブのTG曲線であり、Bは本発明のカーボンナノチューブ4のTG曲線である。従来のカーボンナノチューブは結晶性が低いため、TG曲線Aで示すように温度が450℃付近から分解開始し、630℃付近で分解終了した。さらに従来のカーボンナノチューブでは残渣C(629.1℃でTG=6.7%)残った。これは従来のカーボンナノチューブが低純度であることを示している。これに対して本発明のカーボンナノチューブ4は、TG曲線Bで示すように温度が600℃付近から分解開始し、760〜780℃付近で分解終了して残渣(768.3℃でTG=−0.2%)が残らなかった。これは本発明のカーボンナノチューブ4が加熱に強く高結晶性であることを示している。また、分解終了して残渣が残らなかったことから高純度であることを示している。以上から本発明のカーボンナノチューブ4は高結晶性であることに加えて高純度であることが分かる。
【0024】
(実施の形態2)
図3に実施の形態2に係るカーボンナノチューブ集合体を示す。図3で図1と対応する部分には同一の符号を付している。実施の形態2のカーボンナノチューブ集合体2は、実施の形態1のそれと同様にして、垂直に配向した複数のカーボンナノチューブ4が金属材からなるマトリックス6中に埋め込まれ、該マトリックス6中から上記複数のカーボンナノチューブ4の両端が露出している。
【0025】
これらカーボンナノチューブ4の両端は開口している。カーボンナノチューブ4は内部に触媒微粒子を含有していない。カーボンナノチューブ4はマトリックス6内で互いに隣接した状態に並設されていると共に互いの外周面間に金属材からなる隔壁7が形成されている。カーボンナノチューブ4同士は、この隔壁7により互いに電気的に導通している。実施の形態2において、上記埋め込みの意義、カーボンナノチューブ4の端部開口の意義、隔壁7の意義、触媒微粒子の意義等は実施の形態1と同様であり、説明の重複を避けるためその詳細は略する。
【0026】
上記カーボンナノチューブ集合体2においては、複数のカーボンナノチューブ4の両端がマトリックス6中から外部に露出した構造であるので、内部に両端側に開通した多数の微細隙間を存在させることができ、例えば繊維素材、水素吸蔵体、コンデンサ、燃料電池、フィルタ、等の各種分野で、吸着性、吸蔵性、静電容量性等が要求される用途に有用なカーボンナノチューブ集合体を提供することができる。上記において、両端側に開通の意義は、実施の形態1と同様である。
【0027】
上記カーボンナノチューブ集合体2では、触媒微粒子を含有していない高純度であるので、高純度が要求される用途に適合したカーボンナノチューブ集合体2を提供することができる。
【0028】
なお、実施の形態2にかかるカーボンナノチューブ集合体2の密度は、50mg/cm3以上、好ましくは90g/cm3という高密度であり、これは同カーボンナノチューブ集合体2は形状の直線性と垂直配向性とを共に有するカーボンナノチューブ4が多いからと考えられる。上記カーボンナノチューブ集合体2からシート6a,6bを外し、当該カーボンナノチューブ集合体2を構成するカーボンナノチューブ4に対して実施の形態1と同様の熱分析測定を実施したところ、実施の形態1と同様に高結晶性、高純度なカーボンナノチューブ4であることが分かった。
【0029】
ここで図4を参照して上記カーボンナノチューブ4の形状の直線性と垂直配向性とを説明する。
【0030】
図4(a)で示すように、実施の形態のカーボンナノチューブ4の形状の直線性は、最小二乗法による直線近似式(y=ax+b)で決めることができる。ここで、aは傾き、bは切片であり、これらは実験データから求めることができる。この場合、ばらつき誤差の2乗の和が最小となるよう直線を当てはめる。なお、実験条件を変えて得られた様々なyの値の変化のうち、どれだけの割合がy=ax+bの直線式で説明できているかを表す指標(決定係数)R2があり、このR2の値が1に近づくほどカーボンナノチューブ4の形状がより直線性を有するようになる。
【0031】
また、図4(b)を参照してカーボンナノチューブ4の垂直配向性はカーボンナノチューブ4の下部基端4aの位置と上部先端4bの位置との基板1表面に沿う水平方向差(P)と、カーボンナノチューブ4の上記下部基端4aから上部先端4bまでの基板1表面からの高さ寸法(Q)として、V=Q/Pを垂直配向性(V)とすることができる。
【0032】
カーボンナノチューブ4の下部基端4aの基板表面からの高さはゼロである。そして、上記水平方向差(P)がゼロに近づくほどカーボンナノチューブ4は基板表面に対して垂直配向性をより有するようになる。
【0033】
図4(c)を参照して実際のSEM写真によりカーボンナノチューブ4の形状の直線性と垂直配向性の有無を判定する指標を説明する。図4(c)はカーボンナノチューブ集合体の倍率30KのSEM写真である。ただし、この判定の指標の説明に用いるSEM写真の倍率は一例である。また、このSEM写真中で垂直配向性の判定対象とするカーボンナノチューブ4を分かりやすくするうえでSEM写真中に記入した点線で示す。
【0034】
まず、形状の直線性の指標の場合、低倍率観察で垂直方向に成長していることが確認されているカーボンナノチューブ4を対象とし、その直線性が十分に確認できる倍率(例えば30K)に拡大した例えば図4(c)のSEM写真上の1μmの範囲において、90%以上のカーボンナノチューブが、決定係数R2が、0.970以上、1.0以下、好ましくは0.980超、1.0以下の条件を満たす場合、そのカーボンナノチューブは形状の直線性を有すると判定することができる。ここで、R2とは、上記図4(a)で説明した、最小二乗法による直線近似式(y=ax+b)における決定係数である。
【0035】
垂直配向性の指標の場合、形状の直線性と同様、低倍率観察で垂直方向に成長していることが確認されているカーボンナノチューブ4を対象とし、その垂直配向性が十分に確認できる倍率(例えば30K)に拡大した例えば図4(c)のSEM写真上の1μmの範囲において、90%以上のカーボンナノチューブが、垂直配向性を示すVが8以上、好ましくは9超の条件を満たす場合、そのカーボンナノチューブは垂直配向性を有すると判定することができる。
【0036】
また、図4(b)では理論的にはカーボンナノチューブ4の下部基端4aと上部先端4bで垂直配向性V=Q/Pとなるが、SEM写真を用いた実測での垂直配向性を示すVにおいては、図4(c)のSEM写真中において例えば点線で示すカーボンナノチューブ4は、上記1μmの範囲の下限を示す水平方向ラインL1と交わる位置aと、上記1μmの範囲の上限を示す水平方向ラインL2と交わる位置bとの水平方向の差がPであり、カーボンナノチューブ4の両ラインL1,L2の垂直方向の長さがカーボンナノチューブ4の高さ寸法Qとなる。そして、Vは、SEM写真中のQ、Pを実測し、その実測した値からQ/Pを演算することにより得ることができる。
【0037】
実施の形態では複数のカーボンナノチューブ4が、形状の直線性と、基板表面に対する成長方向の垂直配向性とを備えることにより高密度に集合して成長し電子放出用材料として優れたカーボンナノチューブ集合体を提供することができる。
【0038】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で、種々な変更ないしは変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は本発明の実施の形態1に係るカーボンナノチューブ集合体を示すである。
【図2】図2は従来のカーボンナノチューブと本発明に係るカーボンナノチューブとにおける温度変化に対する熱重量変化特性を示す図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態2に係るカーボンナノチューブ集合体を示すである。
【図4】図4(a)は実施の形態1,2のカーボンナノチューブ集合体におけるカーボンナノチューブの形状の直線性を説明するための図、図4(b)はカーボンナノチューブの基板表面に対する成長方向の垂直配向性を説明するための図、図4(c)はカーボンナノチューブ集合体の倍率30KのSEM写真である。
【符号の説明】
【0040】
2 カーボンナノチューブ集合体
4 カーボンナノチューブ
6 マトリックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブがマトリックス中に埋め込まれていると共にその両端が開口した状態で該マトリックス中から露出している、ことを特徴とするカーボンナノチューブ集合体。
【請求項2】
上記カーボンナノチューブは、マトリックス中に、形状の直進性と垂直配向性とを備え高密度に配向している、ことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項3】
上記カーボンナノチューブは、空気中における900℃熱分解後の残渣が1%以下である、ことを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項4】
上記マトリックスに高分子材を用いた、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項5】
上記マトリックスに金属材を用いた、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−303240(P2008−303240A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149245(P2007−149245)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【Fターム(参考)】