説明

カーボンナノチューブ電極転写方法および転写装置

【課題】本発明は、CNT電極転写装置および転写方法に関し、転写体の生産性を向上可能なCNT電極転写方法および転写装置を提供することを目的とする。
【解決手段】冷却ローラ30a,30bの間を移動した後、CNT基板36が従動ローラ16の設置位置まで移動すると、基板36bは、従動ローラ16に吸着されるので、CNT基板36は、樹脂フィルム18側に転写されたCNT膜36aと、基板36bとに分離する。分離後のCNT膜36aは、樹脂フィルム18と共に巻き取りロール22方向に移動する。一方、基板36bは、スライダー機構32を経由して基板回収装置40に移動する。従って、CNT膜36aを樹脂フィルム18側に転写した後に、基板36bソフトかつ連続的に剥離できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)電極転写方法および転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、CNTが表面に形成された基板と、導電性シートとの重ね合わせ体を搬送するためのテーブルと、このテーブル上の重ね合わせ体を挟みながら加熱する加熱ゾーンと、この加熱ゾーンの下流に隣接し、加熱状態の重ね合わせ体を冷やす冷却ゾーンと、を備えたCNT電極転写装置が開示されている。この装置によれば、加熱ゾーンによって上記基板と導電性シートとを熱圧着でき、その後、冷却ゾーンによってこれらを冷却できる。従って、CNTを導電性シートに連続的に密着させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−193359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記基板は、CNTを成長させるために用いたものである。そのため、CNTを導電性シートに密着させた後、不要となった基板は、転写体から剥離しなければならない。しかしながら、この基板の剥離に関し、上記特許文献1には、基板から導電性シートが剥がされるとだけある。そのため、CNTを導電性シートに連続的に密着できたとしても、転写体から基板が連続的に剥離できない可能性がある。また、基板の剥離が良好に行われなければ、不良品を選別するための手間が生じる。従って、転写体の生産性が低下する可能性があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、転写体の生産性を向上可能なCNT電極転写方法および転写装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、カーボンナノチューブ電極転写方法であって、
磁性体基板上に形成させたカーボンナノチューブ電極を樹脂フィルムに転写した後に、前記磁性体基板を吸着しながら回転する磁石製のローラを用いて前記カーボンナノチューブ電極と前記磁性体基板とを剥離することを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、上記の目的を達成するため、カーボンナノチューブ電極転写装置であって、
カーボンナノチューブ電極が表面に形成された磁性体基板を搬送可能な無端ベルトと、
前記無端ベルト上、基板搬送方向と平行な方向に樹脂フィルムを供給する樹脂フィルム供給手段と、
前記樹脂フィルム供給手段よりも基板搬送方向下流側に設けられ、前記カーボンナノチューブ電極を前記樹脂フィルムに転写する転写手段と、
前記転写手段よりも基板搬送方向下流側に設けられ、前記カーボンナノチューブ電極が転写された前記樹脂フィルムを回収する樹脂フィルム回収手段と、
前記無端ベルトの基板搬送方向下流側の端部に設けられ、前記転写手段と前記樹脂フィルム回収手段との間を搬送される前記磁性体基板を吸着しながら回転することで前記カーボンナノチューブ電極と前記磁性体基板とを剥離可能な磁石製のローラと、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第2の発明において、
磁石製のローラよりも基板搬送方向下流側に、前記磁性体基板を回収する磁性体基板回収手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、磁性体基板上のCNT電極を樹脂フィルムに転写した後、磁性体基板を磁石製のローラを用いて剥離できる。磁石製のローラは、磁性体基板を吸着しながら回転するので、単に基板を引き剥がす場合に比べてソフトに剥離できる。また、磁石製のローラを用いれば、磁性体基板を連続的に剥離できる。従って、CNT電極の転写後、磁性体基板をソフトかつ連続的に剥離できるので、転写体の生産性を向上できる。
【0010】
第2の発明によれば、無端ベルト上を搬送する磁性体基板付きCNT電極を樹脂フィルムに転写し、転写後の樹脂フィルムを回収する前に、無端ベルトの基板搬送方向下流側の端部に設けられた磁石製のローラを用いて磁性体基板を剥離できる。磁石製のローラは、磁性体基板を吸着しながら回転するので、単に基板を引き剥がす場合に比べてソフトに剥離できる。また、磁石製のローラを用いれば、磁性体基板を連続的に剥離できる。従って、CNT電極の転写後、磁性体基板をソフトかつ連続的に剥離できるので、転写体の生産性を向上できる。
【0011】
支持ローラの表面に吸着させた磁性体基板は、支持ローラの回転により重力によって落下する。第3の発明によれば、磁石製の支持ローラよりも基板搬送方向下流側に磁性体基板回収手段を設けることができる。従って、磁性体基板回収手段により、落下した磁性体基板を連続的に回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態のCNT電極転写装置10の断面構成図である。
【図2】従動ローラ16の拡大模式図である。
【図3】CNT基板36の拡大模式図である。
【図4】図1のA部分を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜4を参照しながら、本発明の実施の形態のCNT電極転写装置および転写方法について説明する。先ず、図1を参照しながら、本実施形態のCNT電極転写装置の構成を説明する。図1は、本実施形態のCNT電極転写装置10の断面構成図である。なお、図1のCNT電極転写装置10は、固体高分子形燃料電池の膜電極接合体を製造する際に好適に用いられるものである。
【0014】
CNT電極転写装置10は、搬送ベルト12を備えている。搬送ベルト12は、駆動ローラ14、従動ローラ16の間に架け渡され、図示しない駆動機構により駆動ローラ14を回転させることにより、図面矢印方向に無端移動する。搬送ベルト12の上方には、樹脂フィルム18を巻いた樹脂フィルムロール20、転写済みの樹脂フィルム18を巻き取るための巻き取りロール22がそれぞれ設けられている。また、樹脂フィルムロール20、巻き取りロール22の間には、固定ローラ24,26が設けられている。固定ローラ24,26は、搬送ベルト12の搬送面から等しい距離にそれぞれ設けられている。
【0015】
固定ローラ24,26の間の樹脂フィルム18の上方には、樹脂フィルム18の移動方向上流から順に、加熱ローラ28a、冷却ローラ30aがそれぞれ設けられている。また、搬送ベルト12の下方には、加熱ローラ28a、冷却ローラ30aのそれぞれに対向するように、加熱ローラ28b、冷却ローラ30bが設けられている。加熱ローラ28a,28bは、図示しない加熱機構に接続されており、樹脂フィルム18を構成する高分子電解質のガラス転移温度よりも高い温度まで昇温可能となっている。同様に、冷却ローラ30a,30bは、図示しない冷却機構に接続されており、転写直後の樹脂フィルム18を同ガラス転移温度よりも低い温度まで冷却可能となっている。
【0016】
また、駆動ローラ14の上方には、スライダー機構32を有するCNT基板フィーダ34が設けられている。CNT基板フィーダ34には、CNT膜が表面に形成された枚葉のCNT基板36が収納されている。一方、従動ローラ16の下方には、スライダー機構38を有する基板回収装置40が設けられている。
【0017】
樹脂フィルム18は、樹脂フィルムロール20から連続的に供給され、巻き取りロール22に巻き取られる。この間に、CNT基板フィーダ34からCNT基板36を供給すると、CNT基板36は、スライダー機構32を経由して搬送ベルト12上に移動し、加熱ローラ28a,28bの間を移動する間(例えば、10分間)に、樹脂フィルム18との間で加圧加熱(例えば、140℃、10MPa)され、その直後、冷却ローラ30a,30bの間を移動する間に加圧冷却(例えば、40℃、10MPa)される。このように、加圧加熱した後、荷重を抜かずに直ぐに加圧冷却すれば、転写性を向上できる。
【0018】
冷却ローラ30a,30bの間を移動した後、CNT基板36が従動ローラ16の設置位置まで移動すると、CNT基板36は、樹脂フィルム18側に転写されたCNT膜36aと、基板36bとに分離する。分離後のCNT膜36aは、樹脂フィルム18と共に巻き取りロール22方向に移動する。一方、基板36bは、スライダー機構32を経由して基板回収装置40に移動する。
【0019】
図2は、従動ローラ16の拡大模式図である。図2に示すように、従動ローラ16は、ローラ本体(φ100mm、幅150mm)の外周に、所定間隔を隔てて複数のネオジム磁石(長さ20mm×幅10mm×高さ10mm、吸着力7.1kgf/cm)が配置された構成となっている。また、ネオジム磁石は、ローラ本体の回転軸方向に沿っても同様に配置されている。このような磁石配置の構成とすることで、従動ローラは磁気ローラとして機能する。
【0020】
図3は、CNT基板36の拡大模式図である。図3に示すように、CNT基板36は、フェライト系ステンレス(SUS430、厚さ50μm×幅120mm×長さ350mm)からなる基板36bの表面に、CNT膜36a(厚さ60μm)が形成された構成となっている。CNT膜36aは、基板36bの表面に対して垂直に配向された無数のCNTを備え、そのCNTの表面に、白金触媒と高分子電解質とが設けられた構造となっている。なお、このような構造のCNT膜を基板上に形成させる方法は公知であるため、本明細書においてはその説明を省略する。
【0021】
図4は、図1のA部分を拡大した図である。図4を参照して、CNT基板36がCNT膜36aと基板36bとに分離する際の様子を詳細に説明する。冷却ローラ30a,30bの間を通過した後、従動ローラ16上に差し掛かると、基板36bは、従動ローラ16の吸着力によって従動ローラ16に固定される。そして、従動ローラ16が回転すると、基板36bは、従動ローラ16に固定されたまま移動する。つまり、従動ローラ16の外周に吸着した状態で図面左下方向へ移動する。一方、CNT膜36aは、加圧加熱、加圧冷却を経て樹脂フィルム18側に密着しているので、樹脂フィルム18と共に、固定ローラ26方向に移動する。
【0022】
ここで、CNT基板36のうち、基板36bのみを従動ローラ16に固定して移動させるためには、CNT膜36aと基板36bとの間の密着力及びネオジム磁石の吸着力の間に、次式(1)が関係するような組み合わせとすればよい。
吸着力>密着力 ・・・(1)
上記式(1)における吸着力は、オートグラフを利用し、基板36bに従動ローラ16を吸着させ、基板36bに対して垂直に従動ローラ16を引っ張り、基板36bから離れた瞬間の引張力を測定することにより得たものである。また、同式における密着力は、CNT膜36aを基板36bから引き剥がすのに必要な力を実際に測定することにより得たものである。なお、基板36bのみを従動ローラ16に固定して移動させるためには、密着力の他に、基板36bの弾性力を考慮する必要もある。しかし、ローラ本体の径がφ100mmの場合、この弾性力は0.0163kgf/cmで十分に小さいため考慮していない。
【0023】
図4の状態から従動ローラ16が更に回転すると、基板36bは重力によって落下する。スライダー機構32は、基板36bの落下地点付近に設けられている。そのため、落下した基板36bは、スライダー機構32上を移動し、基板回収装置40に自動的に回収される。
【0024】
以上、本実施の形態によれば、従動ローラ16の回転に併せて基板36bを剥離できるので、基板36bを単に引き剥がす場合に比べてソフトに剥離できる。従って、基板剥離時にCNT膜36aの構造が崩れるといった不具合を防止できる。また、本実施の形態によれば、CNT膜36aを樹脂フィルム18側に転写した後に、基板36bを連続的に剥離できる。これらのことから、生産性を向上させることができる。また、本実施の形態によれば、基板36bの落下地点付近にスライダー機構32を設けたので、重力によって落下した基板36bを連続的に回収できる。従って、基板36bを効率的に再利用できることに繋がる。
【0025】
なお、本実施の形態においては、樹脂フィルムロール20、固定ローラ24が上記第2の発明における「樹脂フィルム供給手段」に、加熱ローラ28a,28b、冷却ローラ30a,30bが上記第2の発明における「転写手段」に、巻き取りロール22、固定ローラ26が上記第2の発明における「樹脂フィルム回収手段」に、従動ローラ16が上記第2の発明における「磁気手段」に、それぞれ相当する。
【0026】
また、本実施の形態においては、スライダー機構38、基板回収装置40が上記第3の発明における「磁性体基板回収手段」に相当する。
【0027】
なお、本実施の形態においては、従動ローラ16にネオジム磁石を用いて基板36bを吸着させたが、従動ローラ16、基板36bは、それぞれ他のサイズのものを用いてもよいし、他の磁石(磁石材料、磁石配列)や、他の磁性体基板を用いてもよい。即ち、上記式(1)を満たすように従動ローラ16、基板36bを組み合わせれば、基板36bをソフトかつ連続的に剥離できるので、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0028】
12 搬送ベルト
14 駆動ローラ
16 従動ローラ
18 樹脂フィルム
20 樹脂フィルムロール
22 巻き取りロール
24,26 固定ローラ
28a,28b 加熱ローラ
30a,30b 冷却ローラ
32,38 スライダー機構
34 CNT基板フィーダ
36 CNT基板
36a CNT膜
36b 基板
40 基板回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体基板上に形成させたカーボンナノチューブ電極を樹脂フィルムに転写した後に、前記磁性体基板を吸着しながら回転する磁石製のローラを用いて前記カーボンナノチューブ電極と前記磁性体基板とを剥離することを特徴とするカーボンナノチューブ電極転写方法。
【請求項2】
カーボンナノチューブ電極が表面に形成された磁性体基板を搬送可能な無端ベルトと、
前記無端ベルト上、基板搬送方向と平行な方向に樹脂フィルムを供給する樹脂フィルム供給手段と、
前記樹脂フィルム供給手段よりも基板搬送方向下流側に設けられ、前記カーボンナノチューブ電極を前記樹脂フィルムに転写する転写手段と、
前記転写手段よりも基板搬送方向下流側に設けられ、前記カーボンナノチューブ電極が転写された前記樹脂フィルムを回収する樹脂フィルム回収手段と、
前記無端ベルトの基板搬送方向下流側の端部に設けられ、前記転写手段と前記樹脂フィルム回収手段との間を搬送される前記磁性体基板を吸着しながら回転することで前記カーボンナノチューブ電極と前記磁性体基板とを剥離可能な磁石製のローラと、
を備えることを特徴とするカーボンナノチューブ電極転写装置。
【請求項3】
前記磁石製のローラよりも基板搬送方向下流側に、前記磁性体基板を回収する磁性体基板回収手段を設けたことを特徴とする請求項2に記載のカーボンナノチューブ電極転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−87016(P2012−87016A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235610(P2010−235610)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】