説明

カーボンナノ材料の製造方法およびカーボンナノ材料の製造装置

【課題】十分な流動性を確保し、カーボンナノ材料と流動材との分離工程を必要とせず、効率よく純度の高いカーボンナノ材料を製造できるカーボンナノ材料の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】流動床反応器内で炭素原料と触媒と流動材とを流動させた状態でカーボンナノ材料を製造する方法であって、前記流動材が炭素材料であることを特徴とするカーボンナノ材料の製造方法である。カーボンナノ材料を製造するカーボンナノ材料製造装置であって、炭素原料と触媒と流動材とを流動させて反応を行う流動床反応器11と、炭素原料を前記流動床反応器へ供給する炭素原料供給装置12と、触媒を前記流動床反応器へ供給する触媒供給装置13と、生成されたカーボンナノ材料を前記流動床反応器から回収する回収装置14とを有し、前記回収されたカーボンナノ材料の一部を前記触媒供給装置13へと搬送し流動材として用いるカーボンナノ材料製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ材料の製造方法およびカーボンナノ材料の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多層カーボンナノチューブは1991年に飯島によりアーク放電法の陰極に堆積した炭素の塊の中に存在することが発見された。
【0003】
カーボンナノチューブの代表的な製造方法として、アーク放電法やレーザー蒸発法、化学気相成長法などがあり、化学気相成長(CVD)による方法はカーボンナノチューブの有効な大量生産法として知られている。通常400℃から1000℃の高温下において、鉄やニッケルなどの金属微粒子と炭素含有ガス原料とを接触させることでカーボンナノチューブを合成する。
【0004】
CVD法においては、担体の構造を利用し、金属触媒を担持させる方法(触媒CVD)がある。触媒CVD法の担体としてはシリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、珪酸塩、珪藻土、アルミナシリケート、シリカチタニア、ゼオライトなどが用いられる。これら担体を用いた固体触媒はカーボンナノチューブ合成の際、通常、粉末のまま使用される。
【0005】
触媒CVD法による合成装置として、流動床によるカーボンナノチューブの合成(特許文献1)や、反応終了後のカーボンナノファイバーと流動材とを分離装置にて分離し、流動材は再循環させて、反応に用いる方法(特許文献2)、金属触媒を担持した担体を、バインダーを介して合成してなる触媒兼流動剤を用いて流動床でカーボンナノチューブを合成する方法(特許文献3)、さらにカーボンナノチューブ合成に対して不活性でなおかつ流動しない担体に流動材を加えることによって、流動床もしくはロータリーキルン等でもカーボンナノチューブを合成可能とする方法(特許文献4)、などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3369996号公報
【特許文献2】特許4064758号公報
【特許文献3】特開2003−342840号公報
【特許文献4】特開2008−56523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
触媒CVD法での担体使用は触媒金属粒子の粒子径制御が主目的となるが、選ばれた担体は必ずしも流動床に採用できるとは限らない。たとえ、カーボンナノチューブの生成効率が飛躍的に向上する固体触媒が開発された場合においても、流動性が悪い場合には工業的な生産に有利な装置に採用することは困難である。
【0008】
流動性が悪い場合、固体触媒と原料ガスの充分な接触をとることができず、生産効率が低下する。その結果として反応に使用されずに装置外に排出される原料ガスの比率が多くなり、コストが高くなる。また、固体触媒と原料ガス等の流動性が悪い場合には、装置の閉塞が短期間で起こりうる。このような理由から固体触媒と原料ガス等の流動性を確保することは、流動床反応を用いた触媒CVD法のキーファクターといえる。
【0009】
そこで、上記特許文献について検討すると、まず、特許文献1においては流動床との記載はあるが具体的な方法に関しての開示はない。特許文献2においては、分離装置にて製品と流動材との分離を行うが、完全な分離は実質的に不可能であると考えられ、製品中に不純物として流動材が混入し、製品の純度が低下してしまう。特許文献3においては、流動性確保のために、固体触媒をバインダーなどを用いて成型することが提案されたが、バインダーの分解温度以上ではカーボンナノチューブを合成できない。また、触媒の作製に多段階の工程が必要となり、コスト高は必至となる。特許文献4では、流動しづらい担体、または流動しない担体に対して、マグネシア、アルミナ、酸化チタンなどの流動材を加えることによって容易に流動させる方法が提案されているが、特許文献2と同様に流動材とカーボン材料の分離工程が必要となる。
【0010】
以上の事情を鑑み、本発明では、接触反応時に触媒や炭素原料などが十分な流動性を確保し、生成されたカーボンナノ材料と流動材との分離工程を必要とせず、効率よくかつ純度の高いカーボンナノ材料を製造することができるカーボンナノ材料の製造方法および製造装置を提供することを課題とする。
【0011】
なお、本発明における「カーボンナノ材料」とは、ナノもしくはミクロン単位のカーボン材料を指し、好ましくは径がナノメートルオーダーであり、長さが数ミクロンから数百ミクロンオーダーのカーボン材料で、供給された炭素原料が触媒に作用することによって得られる、例えばファイバー形状、チューブ形状等の種々の形状を有するカーボンをいう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者は下記本発明に想到し、当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記の通りである。
【0013】
[1]流動床反応器内で炭素原料と触媒と流動材とを流動させた状態でカーボンナノ材料を製造する方法であって、前記流動材が炭素材料であることを特徴とするカーボンナノ材料の製造方法である。
[2]前記炭素材料が、別途、上記[1]に記載の方法で得られたカーボンナノ材料である[1]に記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[3]前記炭素材料がカーボンナノチューブである[1]または[2]に記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[4]前記流動床反応器内に流動ガスを供給する[1]〜[3]のいずれかに記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[5]カーボンナノ材料の生成反応の開始前に、予め前記流動床反応器内で前記流動材を流動させた状態とする[1]〜[4]のいずれかに記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[6]前記流動床反応器内へ供給する前に、前記炭素原料と前記流動ガスとを予熱する[4]又は[5]に記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[7]前記流動材として使用する炭素材料のBET比表面積が10m2/g以上1500m2/g以下である[1]〜[6]のいずれかに記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[8]前記流動材として使用する炭素材料が、黒鉛層を有する[1]〜[7]のいずれかに記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[9]前記流動材として用いる炭素材料の体積平均粒子径が10μm以上1000μm以下である[1]〜[8]のいずれかに記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[10]前記流動材として用いる炭素材料の真密度が1.70g/cm3以上である[1]〜[9]のいずれかに記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[11]前記流動材として用いる炭素材料が造粒されている[1]〜[10]のいずれかに記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[12]前記流動材が繊維状の炭素材料である[1]〜[8]および[10]のいずれかに記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[13]前記繊維状炭素材料のアスペクト比が1000以上である[12]に記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
[14]前記流動床反応器内に導入する前に、前記触媒と前記流動材とを予め混合しておき、前記触媒および前記流動材の全質量に対して、該流動材の占める割合が40質量%以上90質量%以下である[1]〜[13]のいずれかに記載のカーボンナノ材料の製造方法である。
【0014】
[15][1]〜[14]のいずれかに記載の製造方法により、カーボンナノ材料を製造するカーボンナノ材料製造装置であって、炭素原料と触媒と流動材とを流動させて反応を行う流動床反応器と、炭素原料を前記流動床反応器へ供給する炭素原料供給装置と、触媒を前記流動床反応器へ供給する触媒供給装置と、生成されたカーボンナノ材料を前記流動床反応器から回収する回収装置と、を有し、前記回収されたカーボンナノ材料の一部を前記触媒供給装置へと搬送し、流動材として用いるカーボンナノ材料製造装置である。
[16]前記触媒供給装置が、流動材と触媒粒子との混合物をニューマ搬送で前記流動床反応器内に搬送するニューマ搬送手段を備える[15]に記載のカーボンナノ材料製造装置である。
[17]前記回収装置が鉛直方向に上下動する回収管を具備する[15]または[16]に記載のカーボンナノ材料製造装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接触反応時に触媒や炭素原料などが十分な流動性を確保し、生成されたカーボンナノ材料と流動材との分離工程を必要とせず、効率よくかつ純度の高いカーボンナノ材料を製造することができるカーボンナノ材料の製造方法および製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のカーボンナノ材料製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】実施例1で製造されたカーボンナノ材料(カーボンナノチューブ)の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のカーボンナノ材料の製造方法は、流動床反応器内で炭素原料と触媒と流動材とを流動させた状態でカーボンナノ材料を製造する方法であり、流動材として炭素材料を使用する。
【0018】
本発明は、流動床を形成する流動材として一般的なケイ砂やアルミナ等用いるものではなく、反応によって生成される炭素材料を流動材として用いる。それゆえ、流動材にアルミナやケイ砂等を用いた場合に必要とされていた生成カーボンナノ材料と流動材の分離工程を省略できるだけではなく、純度の高いカーボンナノ材料を得ることができる。特に、炭素材料としては前記流動床反応器内で、別途反応して得られた反応生成物であるカーボンナノ材料を再度使用することが好ましい。
【0019】
触媒CVD法のキーファクターである固体触媒の流動性は、流動材である炭素材料を使用することで確保できる。特に、当該炭素材料と触媒の適当な混合比を選ぶことによって反応に好適な流動床を形成することが可能である。この結果、流動床反応器内では流動材による激しい攪拌が起こり、触媒は均一に存在し、炭素原料との接触効率が良好となり、均一な反応を行うことが可能となる。
【0020】
本発明のカーボンナノ材料の製造方法に好適に用いられるカーボンナノ材料製造装置の一例を図1に示し、本発明について詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、本発明のカーボンナノ材料製造装置は、炭素原料と触媒と流動材とを流動させて反応を行う流動床反応器11と、炭素原料を流動床反応器11へ供給する炭素原料供給装置12と、触媒を流動床反応器11へ供給する触媒供給装置13と、生成されたカーボンナノ材料を前記流動床反応器から回収する回収装置14とを有する。
【0022】
当該装置を用いて本発明のカーボンナノ材料の製造方法を実施するには、まず、炭素原料供給装置12から炭素原料を、触媒供給装置13から触媒を、流動床反応器11へ供給する。このとき流動材は、予め流動床反応器11内に充填しておいてもよく、触媒供給装置13内に所定の質量比で含有させておき触媒と共に流動床反応器11へ供給してもよい。
なお、このとき、カーボンナノ材料の生成反応の開始前に、予め流動床反応器11内で流動材を流動させた状態としておいてもよい。具体的には、流動材を、予め炭素材料及び触媒の供給前に流動床反応器11内で流動ガスにより流動させられた状態としたり、さらに予熱部17で加熱された流動ガスにより流動させられた状態としたりすることが好ましい。
【0023】
流動床反応器11へ供給された炭素原料および触媒は、ヒーター15により加熱されて所定温度とされるが、これらは流動床反応器11へ供給される前にヒーター16を備えた予熱部17で加熱処理が施されていることが好ましい。
【0024】
流動床反応器11へ供給され、所定の温度とされた炭素原料、触媒および流動材は、公知の方法で流動化され、流動床反応器11の下部(流動反応部)で接触反応が起こる。流動化するための手段としては特に限定はないが例えば、流動ガス供給装置18から流動ガスを流動床反応器11へ供給することで上記材料を流動させた状態とすることができる。
なお、流動床反応器内へ供給する前に、炭素原料と流動ガスとを予熱することが好ましい。予熱の温度は後述のような温度とすることが好ましい。
【0025】
反応生成物であるカーボンナノ材料は、流動床反応器11の上方から回収装置14に回収される。当該回収装置による回収手段としては種々の手段が適用できるが、例えば、流動床反応器11内で鉛直方向に上下動する回収管14aを用いることが好ましい。回収されたカーボンナノ材料は、分離装置19にて排ガスと分離されて製品として回収される。このとき、一部のカーボンナノ材料は流動材として用いるため、中間ホッパ20などを介しながら触媒供給装置13へと搬送され、触媒と混合されて流動床反応器11内に再搬送される。
【0026】
上記流動床反応器11の流動床反応形式には、気泡型流動床と噴流型流動床があるが、本発明ではどちらを用いてもよい。本発明の実施形態として、流動床反応器11は、その下部には流動状態で接触反応が起こる流動反応部を有し、その上部にはフリーボード部が存在する。ここで、フリーボード部は流動反応部よりも流路断面積が大きいほうが好ましい。これにより飛散粒子量の低減化が図りやすくなる。
【0027】
上記フリーボードの流路断面積は流動反応部のそれよりも大きいことが好ましいが、フリーボード部と流動反応部の接合については、回収するカーボンナノ材料の安息角よりも大きい傾斜をつけることが好ましい。安息角よりも大きくすることで、飛散粒子が傾斜面に堆積したまま、固化することを防ぐことができる。
【0028】
上記炭素原料供給装置12より供給される炭素原料については、炭素を含有する化合物であればいずれのものでもよく、カーボンナノチューブ合成条件下において、気体である炭化水素類、アルコールなども使用することができる。
【0029】
特に限定するわけではないが、例として、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、イソプロピレン、n−ブタン、ブタジエン、1−ブテン、2−ブテン、2−メチルプロパン、n−ペンタン、2−メチルブタン、1−ペンテン、2−ペンテン、シクロペンタン、シクロペンタジエン、n−ヘキサン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、n−オクタン、イソオクタン、シクロオクタン、1,1−ジメチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1−オクテン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチルペンタン、n−ノナン、イソプロピルシクロヘキサン、1−ノネン、プロピルシクロヘキサン、2,3−ジメチルヘプタン、n−デカン、ブチルシクロヘキサン、シクロデカン、1−デセン、ピネン、ピナン、リモネン、n−ウンデカン、1−ウンデセン、n−ドデカン、シクロドデセン、1−ドデセン、n−トリデカン、1−トリデセン、n−テトラデカン、1−テトラデセン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−オクタデカン、n−ノナデカン、エイコサン、ドコサン、テトラコサン、ペンタコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ビニルトルエン、メシチレン、プソイドクメン、スチレン、クメン、ビニルスチレン又はこれらの混合物が挙げることができる。また、C、Hの他に、S成分やCl成分を含有する有機化合物を用いるようにしてもよい。
【0030】
炭素原料は、窒素、アルゴン、水素、ヘリウムなどの不活性ガスとの混合状態で用いることができる。このように不活性ガスと炭素原料との併用は、炭素原料の濃度コントロールを可能にする。また、不活性ガスはキャリアガスとしての効果も発揮するため好ましい。
【0031】
また、接触反応においては水素分圧10%乃至90%の混合ガス中、上記炭素原料を一定時間触媒に接触させることで、カーボンナノ材料を得るようにすることが好ましい。反応時に水素を供給するのは、上記のようにキャリアガスとしての効果と触媒に成長したカーボン材料の成長をより促進させる効果のためである。
【0032】
流動床反応器11内の空塔速度は、触媒粒径や流動材の粒径、流通させる流体によって異なるが、流動床として機能するようにガス流速を調整する必要がある。すなわち、粒子の流動化開始速度よりもガス流速は大きく、終末速度よりもガス流速は小さいという範囲内で操作する。
【0033】
通常ガス流速は流動化開始速度を基準として、2倍から8倍の範囲内で収まるように最適値を選択して選ぶようにしている。すなわち、空塔速度は流動化開始速度の2倍から8倍の範囲のガス流速となる。ガス流速は一定値に制御できるようにしており、選択した最適値を一定に維持できる。
【0034】
原料となる炭素原料は、予熱部17で予熱することが好ましいが、その予熱温度としては、炭素原料が分解しない温度が好ましく、例えば800℃以下とすることが好ましい。これにより、従来のように室温状態で炭素原料を導入する場合に比べて、流動床反応器11内の温度制御が容易となり、また触媒と炭素原料が接触した場合に効率良く反応が進行し、純度が高いカーボンナノ材料を生成させることができる。
【0035】
流動材として用いる炭素材料は特に限定はされず、活性炭、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、グラファイト微粉、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、黒鉛化カーボンファイバー等が挙げられる。上記のなかでも、反応生成物と同一のものであることが好ましい。また、流動材は繊維状の炭素材料であることが好ましい。流動材が繊維状の炭素材料である場合、そのアスペクト比が1000以上であることが好ましく、3000以上であることがより好ましい。アスペクト比が1000以上であることで、少量の添加で複合材料の表面抵抗値を帯電防止レベルにまで容易に調整することができる。さらに、炭素材料は黒鉛層を有することが好ましい。
【0036】
流動材としてカーボンナノチューブを用いる場合、その形態として単層ナノチューブ、二層ナノチューブ、多層ナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カップスタック型等が挙げられるが特に限定されない。また、形状としてはプレートレット、チューブラー、ヘリンボーン、フィッシュボーン、バンブー構造等が挙げられるが、特に構造は限定されない。
【0037】
流動材のBET比表面積は10〜1500m2/gの範囲にあることが好ましく、50〜1000m2/gの範囲であることがより好ましく、100〜500m2/gの範囲であることがさらに好ましい。BET比表面積は窒素吸着によるBET法にて測定する。
【0038】
流動材の体積平均粒子径は、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、25μm以上800μm以下であることがより好ましく、45μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。1000μm以下とすることで良好な流動性を確保し、10μm以上とすることで、流動材の系外への飛散を防ぐことができる。体積平均粒子径はレーザー回折法にて測定する。当該測定には、例えば、日機装(株)製のマイクロトラックHRAを使用することが好ましい。
また、炭素材料の真密度は1.70g/cm3以上であることが好ましく、1.90g/cm3以上であることがより好ましい。黒鉛の真密度の理論値は2.26570g/cm3となっているが、この値に近づくほど、得られる製品の黒鉛化度も高くなると考えられ、結晶性が高くなり、導電性を示しやすくなると考えられるためである。
【0039】
触媒としては、特には限定されないが、3〜12族の金属、特に5〜11族、なかでも、V、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、W、Cu等を含有する触媒が好ましい。更に好ましくはFe、Co、Niである。これらの金属がカーボンナノチューブ合成に好適であるのは公知のとおりである。
【0040】
上記触媒は、担体に担持されてなることが好ましい。触媒を担持する担体の種類については、公知のアルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、珪酸塩、珪藻土、アルミナシリケート、シリカチタニア、ゼオライト等の酸化物粒子、またはカーボン材料を用いることができる。またその粒子径としては、0.02〜2mmの範囲のものを用いることが好ましい。
【0041】
カーボンを担体に用いる場合、材料として特に限定されないが、活性炭、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、グラファイト微粉、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、黒鉛化カーボンファイバー等を用いることができる。また、これら材料の形状は特に限定されることはないが、例えば、粒子状、りん片状、塊状、繊維状等を用いることができる。
【0042】
触媒は1種類のみ担持させても、2種類以上を担持させてもよいが、好ましくは2種類以上を担持させる方がよく、2種類以上の触媒を担持させる場合には、Fe、Ni、Co、Pt、Rhと他の金属の組み合わせが好ましい。さらにはFeとNi、Co、V、Mo、Pdの1種以上と組み合わせる場合がもっとも好ましい。
【0043】
触媒の前駆体の種類は特に限定されないが、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩などの無機塩類;エチレンジアミン4酢酸錯体やアセチルアセトナート錯体のような錯塩;金属ハロゲン化物;有機錯塩;などが用いられる。
【0044】
担持方法は特に限定されない。例えば、担持したい金属(触媒)の塩(前駆体)を溶解させた非水溶液(例えばメタノール溶液)中又は水溶液中に固体担体を含浸し、充分に分散混合した後乾燥させ、担体上に触媒成分を担持する(含浸法)方法を用いることができる。その他の方法として平衡吸着法、イオン交換法などが用いられる。
【0045】
担体のBET比表面積は10m2/g以上であることが好ましく、50〜500m2/gであることがより好ましく、100〜300m2/gであることがさらに好ましい。担体の比表面積が大きいほうが触媒を担持しやすいからである。比表面積は窒素吸着によるBET法で測定する。金属(触媒)の担持量は、0.5質量%〜30質量%の範囲に含まれることが好ましい。
【0046】
担持触媒の粒子径の範囲は特に限定はされないが、0.01mm〜5mmの範囲に収まることが好ましく、0.04mm〜2mmの範囲に収まることがより好ましい。0.01mm以上であることで触媒の系外への飛散を防止することができる。また5mm以下とすることで流動性を良好なものとすることができる。またこの粒径範囲においては、流動床内を激しく攪拌することができ、結果として均一な反応場を形成させることが可能となる。
【0047】
触媒と流動材を加えた全質量に対して、流動材の占める割合(配合割合)は40%以上90%以下の範囲とすることが好ましい。この範囲で流動床反応器内に導入する前に流動材を添加することによって、流動性を確保することができるだけでなく、触媒の性能を保ったまま製品の製造が可能となる。
【0048】
既述の通り、流動材は反応開始前に予め流動させておくことが好ましいが、触媒と流動材を流動床反応器11に導入する前に触媒供給装置13内で予め混合しておいてもよい。混合方法については特に限定されず、公知の混合手法により、触媒と流動材を混合すればよい。上記流動ガスには窒素、水素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0049】
触媒供給装置13から固体触媒と流動材(炭素材料)とを、流動床反応器11へと投入する場合は、例えば流動ガスによる流動手段によってニューマ搬送することが好ましい。本発明において特に限定されることはないが、ニューマ搬送の際の流動ガスの流速は、固体触媒の最小流動化開始速度の20倍以上が好ましい。輸送の際の流動ガスの流速を前記20倍以上とすることで、触媒と流動材と円滑に搬送することができ、触媒と流動材の正確な投入量を把握することができる。
【0050】
カーボンナノ材料の合成温度範囲としては、400〜1300℃であることが好ましく、500〜1000℃であることがより好ましく、600〜900℃であることがさらに好ましい。炭素原料を一定時間触媒に接触させることで、カーボンナノ材料を合成している。また、滞留時間を一定に保つことで品質を安定化させることが可能となる。
【0051】
炭素原料は、流動床反応器11へガス状で供給し、流動材である炭素材料による攪拌により均一な反応が行われ、カーボンナノ材料を成長させている。なお、図1では所定の流動条件となるように、炭素原料供給装置12から導入される炭素材料とは別途、流動ガス供給装置18により流動ガスを導入している。
【0052】
このようにして得られたカーボンナノ材料の繊維外径は通常100nm以下であるが、80nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。これは、例えば、カーボンナノ材料と樹脂等を混練して成型物を作製した場合、単位体積当たりに充填される繊維の本数は繊維径が細いほど増加するため、導電性を向上させる効果が見込まれるためである。
【0053】
カーボンナノ材料の回収方法は、回収管14aを用いて流動床反応器11の上方からの回収が行われ、合成したほぼ全量のカーボンナノ材料を回収することができる。合成されたカーボンナノ材料は通常造粒された状態で回収される。例えば回収管は、ステンレス製で直管状のものを使用することができる。
【0054】
カーボンナノ材料を回収する際に回収管14a内を流通する流動ガスの流速は、カーボンナノ材料の最小流動化開始速度の少なくとも20倍以上の流速であることが好ましく、50倍以上の流速であることがより好ましい。流動ガスの流速が小さい場合、カーボンナノ材料は搬送されず、回収できない場合があるからである。20倍以上とすることで、固体触媒と流動材と円滑に搬送することができ、触媒と流動材の正確な投入量を把握することができる。
【0055】
回収装置14から、流動材として用いられるカーボンナノ材料は一部、中間ホッパ20に搬送される。中間ホッパ20への搬送法については、公知の供給器、例えばスクリューフィーダーなどを用いればよく、供給量把握の観点から定量供給機能を具備するものが好ましい。
【0056】
回収装置14から分離装置19へのカーボンナノ材料の搬送法についても、ニューマ搬送が利用できる。
【0057】
分離装置19では、排ガスとカーボンナノ材料の分離を行う。分離方法は公知の手法、すなわち、サイクロン、バグフィルタ、セラミックスフィルタ、篩等の手法を用いることができる。
【0058】
最終的に得られたカーボンナノ材料については必要に応じて、粉砕等の粉体化処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の好適な実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
(担持触媒の調製)
硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬製特級試薬)1.81質量部をメタノール0.95質量部に溶解し触媒調製液を得た。市販のアルミナ(ヒュームドアルミナ[Deggusa社製「AEROSILTM AluC(商品名)」]BET=100m2/g)1質量部に触媒調製液を滴下混練し、ペースト状の混合物を得た。ペースト状の混合物を100℃の真空乾燥機で24時間乾燥させた後、粉砕後45μm〜250μmに分級し担持触媒(Fe担持量:20質量%)を調製した。
【0061】
[実施例1]
流動床反応装置の反応器(径480mm、長さ1440mm)内に、先に調製した担持触媒720gと予め製造しておいた流動材としてのカーボンナノチューブ(直径:13nm、長さ1.3μm)3600gとニューマ搬送にて反応器に投入し、すぐさま流動ガス(水素 流量:216L/min)および炭素原料(エチレン 流量:216L/min)を供給しながら流動させた状態で、550℃で30分間反応させた。
カーボンナノチューブの配合割合(カーボンナノチューブ/(カーボンナノチューブ+担持触媒))は0.83であり、水素とエチレンの供給体積比(C24/H2)は1であった。
【0062】
反応終了後、反応ガスを窒素ガス216L/minに切り替え、反応器を冷却し、カーボンナノチューブを装置に設置された鉛直方向に上下動する回収管を用いてカーボンナノチューブを回収した。生成したカーボンナノチューブの不純物量を蛍光X線により測定したところ、2.5質量%であった。得られたカーボン材料の顕微鏡写真を図2に示す。
【0063】
[実施例2,3]
実施例1で使用した流動材としてのカーボンナノチューブの配合割合を下記表1のようにした以外は実施例1と同様にして、反応を行ない不純物量を測定した。結果を下記表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
[比較例1]
流動床反応装置の反応器(径480mm、長さ1440mm)内に、先に調製した担持触媒720gと流動材として市販品のアルミナ(平均粒子径100μm)を3600gとをニューマ搬送にて反応器に投入し、すぐさま流動ガス(水素 流量:216L/min)および炭素原料(エチレン 流量:216L/min)を供給しながら、流動させた状態で、550℃で30分反応させた(触媒と流動材の比率は[実施例1]と同一とした)。水素とエチレンの供給体積比(C24/H2)は1であった。
【0066】
反応終了後、反応ガスを窒素ガス216L/minに切り替え、反応器を冷却し、カーボンナノチューブを装置に設置された鉛直方向に上下動する回収管を用いてカーボンナノチューブを回収した。生成したカーボンナノチューブの不純物量を蛍光X線により測定したところ、Alの濃度が実施例1の1.5倍となった。流動材にカーボンナノチューブではなく、アルミナを用いたために、カーボンナノチューブと流動材(アルミナ)の分離工程が必要で、この結果となったと考えられる。
【0067】
[実施例4]
流動床反応装置の反応器(径480mm、長さ1440mm)内に、先に調製した担持触媒720gと実施例1で使用したカーボンナノチューブ3600gとをニューマ搬送にて反応器に投入し、すぐさま流動ガス(水素流量:216L/min)および炭素原料(エチレン:216L/min)を供給しながら、流動させた状態で、550℃で30分間反応させた。カーボンナノチューブのアスペクト比をそれぞれ下記表2のようにし(それぞれ材料1、2、3という)、反応終了後に得られる材料が流動材と同一物性が得られるように触媒も仕込んだ。カーボンナノチューブの配合割合は(カーボンナノチューブ/(カーボンナノチューブ+担持触媒))は0.83であり、水素とエチレンの供給体積比(C24/H2)は1であった。
【0068】
反応終了後、反応ガスを窒素ガス216L/minに切り替え、反応器を冷却し、カーボンナノチューブを装置に設置された鉛直方向に上下動する回収管を用いてカーボンナノチューブを回収した。
この後得られたそれぞれのカーボンナノチューブを市販のポリカーボネート樹脂に混練した樹脂複合材の表面抵抗値が帯電防止レベル(106〜109Ω/□)を示すまでに必要な添加量を測定した。結果を下記表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
[実施例5]
流動床反応装置の反応器(径480mm、長さ1440mm)内に、先に調製した担持触媒と実施例1で使用した流動材を、触媒と流動材を加えた全重量に対して、流動材の占める割合(配合割合)を表3のように変化させてニューマ搬送にて反応器に投入し、それぞれの水準においてすぐさま流動ガス(水素流量:216L/min)および炭素原料(エチレン:216L/min)を供給しながら、流動させた状態で、550℃で30分間反応させた。
【0071】
反応終了後、反応ガスを窒素ガス216L/minに切り替え、反応器を冷却し、カーボンナノチューブを装置に設置された鉛直方向に上下動する回収管を用いてカーボンナノチューブを回収した。得られた結果についても併せて下記表3に示す。なお、収得量比率は配合比50%を1とした値である。
【0072】
【表3】

【0073】
配合割合が25%の場合、流動状態が良好に維持されず、生成物は固着した状態で回収された。
【0074】
[実施例6]
流動床反応装置の反応器(径480mm、長さ1440mm)内に、先に調製した担持触媒720gと流動材として予め製造しておいた実施例1で使用したカーボンナノチューブ3600gとをニューマ搬送にて反応器に投入し、窒素ガス216L/min中で2分間流動させた後、流動ガス(水素流量:216L/min)および炭素原料(エチレン:216L/min)を供給しながら、流動させた状態で、550℃で30分間反応させた。
【0075】
反応終了後、反応ガスを窒素ガス216L/minに切り替え、反応器を冷却し、カーボンナノチューブを装置に設置された鉛直方向に上下動する回収管を用いてカーボンナノチューブを回収した。
【0076】
[実施例1]と比較して、1.1倍の収量を得ることができた。事前に混合したことによって、触媒が反応に好適な温度まで暖められて、反応が起こりやすくなったためだと考えている。また、カーボンナノチューブ中の不純物量は、2.0質量%であり良好な結果であった。
【符号の説明】
【0077】
11・・・流動床反応器
12・・・炭素原料供給装置
13・・・触媒供給装置
14・・・回収装置
14a・・・回収管
15,16・・・ヒーター
17・・・予熱部
18・・・流動ガス供給装置
19・・・分離装置
20・・・中間ホッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動床反応器内で炭素原料と触媒と流動材とを流動させた状態でカーボンナノ材料を製造する方法であって、
前記流動材が炭素材料であることを特徴とするカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項2】
前記炭素材料が、別途、請求項1に記載の方法で得られたカーボンナノ材料である請求項1に記載のカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭素材料がカーボンナノチューブである請求項1または2に記載のカーボンナノ材料の製造方法
【請求項4】
カーボンナノ材料の生成反応の開始前に、予め前記流動床反応器内で前記流動材を流動させた状態とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項5】
前記流動床反応器内へ供給する前に、前記炭素原料と流動ガスとを予熱する請求項4に記載のカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項6】
前記流動材として使用する炭素材料のBET比表面積が10m2/g以上1500m2/g以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項7】
前記流動床反応器内に導入する前に、前記触媒と前記流動材とを予め混合しておき、前記触媒および前記流動材の全質量に対して、該流動材の占める割合が40質量%以上90質量%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載のカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により、カーボンナノ材料を製造するカーボンナノ材料製造装置であって、
炭素原料と触媒と流動材とを流動させて反応を行う流動床反応器と、
炭素原料を前記流動床反応器へ供給する炭素原料供給装置と、
触媒を前記流動床反応器へ供給する触媒供給装置と、
生成されたカーボンナノ材料を前記流動床反応器から回収する回収装置と、を有し、
前記回収されたカーボンナノ材料の一部を前記触媒供給装置へと搬送し、流動材として用いるカーボンナノ材料製造装置。
【請求項9】
前記回収装置が鉛直方向に上下動する回収管を具備する請求項8に記載のカーボンナノ材料製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−30887(P2010−30887A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154621(P2009−154621)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】