説明

カーボンブラックの製造方法

【課題】更に優れた電磁波吸収特性を有する電磁波吸収材を製造するのに有用なカーボンブラックの製造方法を提供する。
【解決手段】炭化水素と有機ホウ素化合物を含む混合ガスを、その含水率を絶対湿度で5mg/L以下に減じてから熱分解反応及び/又は燃焼反応をさせることを特徴とするカーボンブラックの製造方法。本発明において、カーボンブラックは、固溶ホウ素量が0.50質量%以上、可溶ホウ素量が0.05質量%以下、JIS K 1469による電気抵抗率が0.10Ωcm以下が好ましく、更にはJIS K 6217によるDBP吸収量が160〜240ml/100gであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素を含有するカーボンブラックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器が普及した近年において、電子回路の高集積化及び回路を伝送する電気信号の高周波数化が進み、電子機器等からの電磁波の発生及びその漏洩が問題となっている。この電磁波を抑制するため、磁性損失型や誘電損失型の電磁波吸収材で電磁波発生源となる電子機器や外部電磁波の影響を避けたい電子機器を覆う手法が採用されている(特許文献1)。誘電損失型の電磁波吸収材は、例えば樹脂又はゴムにカーボンブラックを混合したものが知られているが、通常のカーボンブラックを用いたのでは高周波になるほどその電磁波吸収特性が磁性損失型よりも劣ってしまうので、それを改善するためホウ素固溶カーボンブラックを用いることが提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−8489号公報
【特許文献2】特開2001−230587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
今日の要求は、更なる電磁波吸収特性に優れた電磁波吸収材の出現であり、本発明の目的はそれに適合するカーボンブラックの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、炭化水素と有機ホウ素化合物を含む混合ガスを、その含水率を絶対湿度で5mg/L以下に減じてから熱分解反応及び/又は燃焼反応をさせることを特徴とするカーボンブラックの製造方法である。本発明において、カーボンブラックは、固溶ホウ素量が0.50質量%以上、可溶ホウ素量が0.05質量%以下、JIS K 1469による電気抵抗率が0.10Ωcm以下が好ましく、更にはJIS K 6217によるDBP吸収量が160〜240ml/100gであることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明によって得られたカーボンブラックを樹脂又はゴムと混合し、例えば電磁波吸収材を製造すれば、電磁波吸収特性が一段と優れたものとなる。本発明の製造方法によれば、このような電磁波吸収特性の付与能力に優れるカーボンブラックを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の製造方法の特徴は、炭化水素と有機ホウ素化合物を含む混合ガスを熱分解反応及び/又は燃焼反応させる際に、混合ガスの含水率を絶対湿度で5mg/L以下に減じてから反応させることである。含水率が5mg/Lを超えると、後述するようにホウ素と酸素とが結合して可溶ホウ素の割合が増大するので好ましくない。混合ガス中の含水率の測定方法は、例えば水蒸気検知管法、カールフィッシャー法、塩化カルシウム吸収法、赤外線ガス分析法等によって行うことができる。
【0007】
本発明で製造されたカーボンブラックは、固溶ホウ素量が0.50質量%以上であることが好ましい。固溶ホウ素量は、特開平2000−281933号公報の実施例に記載されているように、炭化水素の熱分解反応時/又は燃焼反応時に存在させるホウ素源の量によって制御することができる。固溶ホウ素とは、カーボンブラック中に取り込まれ安定化したホウ素のことであり、導電性の付与に寄与する。固溶ホウ素が0.50質量%未満では十分な電磁波吸収特性を得ることができない。
【0008】
本発明で製造されたカーボンブラックの可溶ホウ素量は、0.05質量%以下が好ましく、更には0.03質量%以下、特に0.01質量%以下であることが好ましい。可溶ホウ素とは、ホウ酸等のように水に溶けやすいホウ素のことであり、後述する方法で測定されたホウ素であると定義される。可溶性ホウ素は、電気絶縁性であるので、それが多いと高抵抗化につながり、また樹脂又はゴムとの親和性が低くなって形状保持性(強度)に支障がでる恐れがある。また、高湿度環境下での可溶ホウ素溶出による電磁波吸収材の低寿命化の恐れもある。
【0009】
可溶ホウ素量を0.05質量%以下とするには、炭化水素とホウ素源の熱分解又は燃焼反応を、酸素、水分等の酸素含有化合物の不存在下、又は著しく少なくした状態で行えばよい。そのためには、炭化水素から酸素や水分等の酸素含有化合物を除去又は軽減しておくことが望ましい。水分の除去は、例えばシリカゲル、塩化カルシウム、五酸化二リン等の吸湿剤を用いる方法、0℃以下の雰囲気に通す冷却乾燥方法などによって行うことができる。
【0010】
本発明においては、反応温度が高いほどカーボンへのホウ素の固溶が大きくなるので、炭化水素としては、例えばエチレン、アセチレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン等のように、発熱反応を伴って分解反応する炭化水素を用いることが好ましい。
【0011】
また、ホウ素源としては、例えば三塩化ホウ素、ジボラン、トリエチルボロン、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル等が用いられる。ホウ素源についても酸素含有化合物酸素を除去又は軽減しておくことが好ましい。これらの中でも、取り扱いの容易さの点から、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチルが好ましい。しかし、これらは酸素含有化合物であるので、得られたカーボンブラックから可溶ホウ素を除去又は軽減しておくことが好ましく、それには水やアルコール等で洗浄処理した後、必要に応じ、脱水しておくことが好ましい。水洗を50〜100℃の温水行うとより効果的である。
【0012】
カーボンブラック中の固溶ホウ素量は、全ホウ素量から可溶ホウ素量を差し引くことによって求めることができる。全ホウ素量と可溶ホウ素量は、以下に従って測定することができる。
【0013】
全ホウ素量の測定は、試料0.5gを白金皿に取り、1.5質量%Ca(OH)溶液20ml、アセトン5mlを加え、超音波洗浄器で1時間分散させる。それをサンドバスで乾固させた後、電気炉を用い、酸素気流中、800℃で3時間かけて灰化させる。ついで、HCl(1+1)溶液10mlを加えサンドバス中で加熱して溶出させる。溶出液を100mlに定容し、ICP−AESでホウ素量を定量し、全ホウ素量とする。
【0014】
可溶ホウ素量は、試料1gを石英ガラス製三角フラスコに採り、水100mlとアセトン1mlを加える。それをウォーターバスで24時間還流させ、0.8μmメンブランフィルターで濾過する。濾液のホウ素量をICP−AESで定量し、可溶ホウ素量とする。
【0015】
本発明で製造されたカーボンブラックは、JIS K 1469による電気抵抗率が0.10Ωcm以下であることが好ましい。カーボンブラックの電気抵抗率が0.10Ωcmをこえると、十分な電磁波吸収特性を得ることができなくなる恐れがある。電気抵抗率は、固溶ホウ素量、可溶ホウ素量、DBP吸収量等によって制御することができる。
【0016】
さらに、本発明で使用されたカーボンブラックは、JIS K 6217によるDBP吸収量が160〜240ml/100gであることが好ましい。DBP吸収量が160ml/100g未満であると、樹脂又はゴムと混合した際の粘度が低く剪断力がかかりにくくなるので電磁波吸収特性にバラツキが生じやすくなる恐れがある。一方、DBP吸収量が240ml/100gをこえると、高粘度化しすぎて逆に分散しにくくなる恐れがある。DBP吸収量の制御方法は、炉形状、温度条件、原料種、流速等のカーボンブラック生成条件により左右されることから一概に言うことはできないが、同一反応炉においては、原料ガスの供給量か、流速か、またその両方を変える方法が好ましい。
【実施例】
【0017】
実施例1〜4
実施例1、2、4は、アセチレンガス(炭化水素)とホウ酸トリメチルガスとを混合し、塩化カルシウム(1kg)を充填した脱水ラインを通過させて脱水処理を行った。混合ガス中の含水率は、配管に設置したサンプリング口より水蒸気検知管(光明理化学工業株式会社製「北川式ガス検知管:水蒸気」)を用いて測定した。実施例3は、ホウ素源として、ホウ酸トリメチルガスのかわりに三塩化ホウ素ガスを用いたこと以外は実施例1と同様にした。
【0018】
これらの混合ガスをカーボンブラック製造炉(炉全長6m、炉直径1m)の炉頂に設置されたノズルから、表1の条件で噴霧し、アセチレンの熱分解反応を利用してカーボンブラックを製造した。得られたカーボンブラックを炉下部に直結されたバグフィルターから捕集した。
【0019】
比較例1〜3
比較例1、2は脱水ラインを使用しなかったこと以外は実施例1、2と同様の条件で製造した。比較例3はホウ酸トリメチルを使用せずに実施例1と同様の条件で製造した。
【0020】
得られたカーボンブラックについて、以下の分析を行った。それらの結果を表1に示す。
(1)固溶ホウ素量、可溶ホウ素量:上記の方法により測定した。
(2)DBP吸収量:JIS K 6217に従い測定した。
(3)電気抵抗率:JIS K 1469に従い測定した。
【0021】
つぎに、ポリスチレン樹脂(東洋ポリスチレン社製ポリスチレン「H700」)100質量部と上記で得られたカーボンブラック20質量部を内容量60mlの混練試験機(東洋精機社製「ラボプラストミル50MR」)に仕込み、ブレード回転数30rpm、温度180℃の条件で7分間混練し、この組成物を温度180℃の加熱下、15MPaで5分間プレスした後、5MPaで5分間冷却プレスを行い200×200×5mmのシートを成形して電磁波吸収材とした。
【0022】
この電磁波吸収材について、以下に従う特性を測定した。それらの結果を表1に示す。
(4)シート状態:以下の基準で評価した。
優:シートの表面が平滑であり厚さ斑がない。
良:シートに局所的な厚さ斑があるがシートに割れ等はない。
不可:シートに局所的な厚さ斑があり、しかも割れ等もある。
(5)引張強度:JIS K 6251に従い測定した。
(6)体積固有抵抗:SRIS2301に従い測定した。
(7)1GHzにおける電磁波吸収特性:電磁波吸収材を機械研削し、0.3mmの厚みに仕上げ、電磁波ネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「8517D」)を用い、0.1〜3GHzの周波数に対して電磁波吸収特性を測定した。電磁波吸収特性は、マイクロストリップライン法を用い、ライン上の電磁波の吸収測定結果(S21)により評価した。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から、本発明の実施例によって得られたカーボンブラックを用いて製造された電磁波吸収材は、比較例のそれに比べて、シート状態、引張強度、体積固有抵抗、電磁波吸収特性のいずれにもに優れていた。そのため、シートの厚みを薄くして、比較例と同等の物性を得ることも可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の製造方法によって得られたカーボンブラックは、各種の電磁波吸収材、例えば電子装置、移動通信機器、道路交通情報通信システム等を製造する際に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素と有機ホウ素化合物を含む混合ガスを、その含水率を絶対湿度で5mg/L以下に減じてから熱分解反応及び/又は燃焼反応をさせることを特徴とするカーボンブラックの製造方法。
【請求項2】
カーボンブラックの固溶ホウ素量が0.50質量%以上、可溶ホウ素量が0.05質量%以下、JIS K 1469による電気抵抗率が0.10Ωcm以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
カーボンブラックのJIS K 6217によるDBP吸収量が160〜240ml/100gであることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−265374(P2006−265374A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85557(P2005−85557)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】