説明

カーボンブラック分散液

【課題】
分散性、貯蔵安定性に優れたカーボンブラック分散体、およびこれを用いて得られる電池用電極、リチウムイオン二次電池、電子写真用シームレスベルトを提供すること。
【解決手段】
ポリビニルアセタール樹脂を分散剤としてカーボンブラックをN−メチル−2−ピロリドンに分散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性、貯蔵安定性に優れたカーボンブラック分散体に関する。また、該分散体を使用して電極合材層が形成された電池用電極、および正極および負極の少なくとも一方が該電極であるリチウムイオン二次電池に関する。さらに該分散体を使用して形成された電子写真用シームレスベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、着色顔料、遮光材料、導電材料として、印刷インキ、インクジェットインキ、筆記具用インキ、塗料、プラスチック形成材料などの幅広い分野で使用されており、一般的にこれらの用途への要求品質を満たすには、カーボンブラックを溶剤中に微分散することが重要となる。
【0003】
一方で近年、デジタルカメラや携帯電話のような小型携帯型電子機器が広く用いられるようになってきた。これらの電子機器には、容積を最小限にし、かつ重量を軽くすることが常に求められてきており、搭載される電池においても、小型、軽量かつ大容量の電池の実現が求められている。また、自動車搭載用などの大型二次電池においても、従来の鉛蓄電池に代えて、大型の非水電解質二次電池の実現が望まれている。
【0004】
そのような要求に応えるため、リチウムイオン二次電池の開発が活発に行われている。リチウムイオン二次電池の電極としては、リチウムイオンを含む正極活物質と導電助剤と有機バインダーなどからなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させた正極、及び、リチウムイオンの脱挿入可能な負極活物質と導電助剤と有機バインダーなどからなる電極合材に金属箔集電体の表面に固着させた負極が使用されている。
【0005】
一般的に、正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられているが、これらは電子伝導性が低く、単独での使用では十分な電池性能が得られない。そこで、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)等の炭素材料を導電助剤として添加することで導電性を改善し、電極の内部抵抗を低減することが試みられている。とりわけ電極の内部抵抗を低減することは、大電流での放電を可能とすることや、充放電の効率を向上させる上で非常に重要となっている。
【0006】
一方、負極活物質としては、通常グラファイト(黒鉛)が用いられている。黒鉛はそれ自身が導電性を有しているものの、黒鉛とともに導電助剤としてアセチレンブラック等のカーボンブラックを添加すると充放電特性が改善されることが知られている。これは、一般に用いられる黒鉛粒子は大きいために、黒鉛単独で使用すると電極層に充填された時の隙間が多くなってしまうが、導電助剤としてカーボンブラックを併用した場合は、微細なカーボンブラック粒子が黒鉛粒子間の隙間を埋めることで接触面積が増え、抵抗が下がるためではないかと思われる。しかしながら、この場合も導電助剤の分散が不十分であると、導電効果が低減する。この様に、とりわけ電極の内部抵抗を低減することは、大電流での放電を可能とすることや、充放電の効率を向上させる上で非常に重要な要素の一つとなっている。
【0007】
また、電子写真装置においては様々な用途でシームレスベルトが部材として用いられている。特に近年のフルカラー電子写真装置においては、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色の現像画像を、一旦中間転写媒体上に色重ねし、その後一括して紙などの転写媒体に転写する中間転写ベルト方式が用いられている。中間転写ベルトには、画像を転写するという機能を有するためその電気特性が重要な品質となっており、適切な電気特性を付与するためにカーボンブラックなどが用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カーボンブラックの分散については、各種添加剤、例えば界面活性剤などの分散剤や顔料分散樹脂を用いて分散する方法がある。しかしながら界面活性剤による分散は、電離した極性官能基同士の静電反発を利用して分散安定化を図る為、水系での分散には有利であるが、水に比べ誘電率の低い有機溶剤中での分散には不向きとされ、特許文献1、特許文献2にあるように、通常、有機溶剤中での分散においては、顔料分散樹脂を用いる方法が採られてきた。これはカーボンブラック粒子表面に分散樹脂を吸着させ、吸着樹脂同士の立体反発を利用して分散の安定化を図るというものである。但しこの場合でも、カーボンブラック表面と分散樹脂との相互作用が不十分であると樹脂の脱着が起こり、容易に再凝集してしまう。また、一般的なカーボンブラックは樹脂と相互作用する表面官能基の量が少ないことや非常に粒径が細かく比表面積が大きなものが多い為、安定化に必要な分散樹脂量が大量となること、また、分散樹脂量が多くなってしまうと、インキや塗料適性を付与する為に加える樹脂や添加剤の使用できる量に制限が生じたり、更に分散樹脂とそれら添加剤との相溶性が悪い場合は、シンニングショックによる凝集や、インキ、塗料の経時安定性が低下するという問題がある。
【0009】
そこで分散性改善を目的に、カーボンブラックを気相または液相で酸化処理し粒子表面に酸性官能基を導入する方法が検討されている。しかしながら、プラズマやオゾン処理の様な気相酸化では処理効率の低さや処理装置が高価である等の問題があり、液相処理では、硝酸や過酸化水素等の強酸を使用する為、作業安全性等に問題がある。特に硝酸処理によって酸化されたカーボンブラックについては変異原生の問題も指摘されている。
【0010】
一方、リチウムイオン二次電池に導電助剤として使用されるカーボンブラックは、ストラクチャーや比表面積が大きいため凝集力が強く、電極合材形成用スラリー中に均一混合・分散することが困難である。そして、導電助剤であるカーボンブラックの分散性や粒度の制御が不十分な場合、均一な導電ネットワークが形成さないために電極の内部抵抗の低減が図れず、その結果、活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物やグラファイトなどの性能を十分に引き出せないという問題が生じている。また、電極合材中の導電助剤の分散が不十分であると、部分的凝集に起因して電極板上に抵抗分布が生じ、電池として使用した際に電流が集中し、部分的な発熱および劣化が促進される等の不具合が生ずることがある。
【0011】
また、金属箔などの電極集電体上に電極合材層を形成する場合、多数回充放電を繰り返すと、集電体と電極合材層の界面や、電極合材内部における活物質と導電助剤界面の密着性が悪化し、電池性能が低下する問題がある。これは、充放電におけるリチウムイオンのドープ、脱ドープにより活物質および電極合材層が膨張、収縮を繰り返すために、電極合材層と集電体界面および、活物質と導電助剤界面に局部的なせん断応力が発生し界面の密着性が悪化するためと考えられている。そしてこの場合も、導電助剤の分散が不十分であると、密着低下が著しくなる。これは、粗大な凝集粒子が存在すると、応力が緩和されにくくなるためであると思われる。
【0012】
リチウムイオン二次電池製造工程において、カーボンブラックを溶剤に分散する際に、分散剤として界面活性剤を用いる例が特許文献3に記載されている。しかしながら、前述のように界面活性剤は有機溶剤中での分散には不向きであり、かつカーボンブラック表面への吸着力が弱いため、良好な分散安定性を得るには界面活性剤の添加量を多くしなければならない。この結果、含有可能な活物質の量が少なくなり、電池容量が低下してしまう。また、界面活性剤のカーボンブラックへの吸着が不十分であると、カーボンブラックが凝集してしまう。
【0013】
また、特許文献4には、カーボンブラックを溶剤に分散する際に、ビニルピロリドン系樹脂を添加することでカーボンブラック分散液の分散状態を改善し、該分散液と、活物質とを混合して、電極用合材を作製する方法が開示されている。しかしながら、この方法ではカーボンブラックの分散性は向上するものの、ビニルピロリドン系樹脂の吸湿性により電極合材形成用スラリー中や電極塗膜に水分が混入しやすく、活物質の劣化を招く場合がある。
【0014】
中間転写ベルトにおける好ましい電気抵抗としては、表面抵抗で10〜1012Ω/□、体積抵抗で、10〜1010Ω・cmが求められている。上記電気抵抗の領域では、場所によるばらつきや電圧依存性が大きくなりやすい。そのため、カーボンブラックなどの抵抗制御材料の分散の均一性が求められている。
【0015】
以上のような問題に鑑み、本発明は分散性、貯蔵安定性に優れたカーボンブラック分散体、およびこれを用いて得られる電池用電極、リチウムイオン二次電池、電子写真用シームレスベルトを提供することを目的とする。
【特許文献1】特開平7−268268号公報
【特許文献2】特開2001−192595号公報
【特許文献3】特開平8−190912号公報
【特許文献4】特開2003−157846号公報
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ポリビニルアセタール樹脂を分散剤としてカーボンブラックをN−メチル−2−ピロリドンに分散することで、分散性、貯蔵安定性に優れたカーボンブラック分散体を調製できることを見いだし、本発明に至った。
【0017】
即ち本発明は、カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアセタール樹脂と、N−メチル−2−ピロリドンとを含む、カーボンブラック分散体に関する。
また本発明は、カーボンブラックの分散粒径(D50)が0.1〜2μmである上記のカーボンブラック分散体に関する。
【0018】
さらに本発明は、上記の分散体を使用して電極合材層が形成された電池用電極に関する。
さらに本発明は、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、上記の電池用電極であるリチウムイオン二次電池に関する。
さらに本発明は、上記の分散体を使用して形成された電子写真用シームレスベルトに関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、分散性および保存安定性良好なカーボンブラック分散体が得られる。また、該分散体を用いて形成された電極やシームレスベルトでは、導電材であるカーボンブラックが十分に分散されており、かつ当該分野で一般的に使用される樹脂と良好に相溶しシンニングショックによる凝集が起こらないため、電気抵抗の場所によるばらつきが改善される。さらに、分散剤として使用するポリビニルアセタール樹脂が有する強度、接着性、架橋性などの性質により、強度や結着性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明におけるカーボンブラック分散体は、カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアセタール樹脂と、N−メチル−2−ピロリドンとを含むことを特徴とするが、以下にその詳細を説明する。
【0021】
<カーボンブラック>
本発明に用いるカーボンブラックとしては、市販のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボンブラックなども使用できる。
【0022】
カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。官能基の導入量が多くなる程カーボンブラックの導電性が低下することが一般的であるため、高抵抗での安定性が要求される電子写真用シームレスベルトに好適に用いられる。逆に高導電性を求められる電池用電極には中性カーボンブラックが好適に用いられる。
【0023】
また、カーボンブラックの粒径としては、通常のインキや塗料に用いるカーボンブラックの粒径範囲と同様に0.01〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう粒径とは電子顕微鏡などで測定された平均一次粒子径を示し、この物性値は一般にカーボンブラックの物理的特性を表すのに用いられている。
【0024】
<ポリビニルアセタール樹脂>
本発明には分散剤としてポリビニルアセタール樹脂を用いる。ポリビニルアセタール樹脂はアセタール基、アセチル基、水酸基を有するそれぞれ3種の繰り返し単位からなる高分子化合物である。
【0025】
本発明に用いるポリビニルアセタール樹脂としては、特に限定されるものではなく、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、水酸基をアシル化、ウレタン化反応などの化学修飾法により調整したものも使用することもできる。
【0026】
アセタール基の種類は特に限定されるものではなく、公知の方法で合成された各種ポリビニルアセタール樹脂を使用することができる。中でもブチラール基を有するものが最も一般的で入手しやすく、N−メチル−2−ピロリドンへの溶解性も良好なため好ましい。
【0027】
カーボンブラックの分散安定性は、ポリビニルアセタール樹脂中の水酸基を含む繰り返し単位の含有量に影響される傾向が見出された。水酸基を含む繰り返し単位の含有量は12〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がさらに好ましい。また、アセチル基を含む繰り返し単位は10重量%以下が好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0028】
また、ポリビニルアセタール樹脂のN−メチル−2−ピロリドンに対する溶解性は平均分子量もしくは平均重合度に影響される傾向が見出された。重量平均分子量が10万以下の上記樹脂であれば、本発明における添加量として十分な量がN−メチル−2−ピロリドンに溶解するため好ましく、5万以下であれば溶解速度が大きいためさらに好ましい。また、平均重合度が2000以下の上記樹脂であれば、本発明における添加量として十分な量がN−メチル−2−ピロリドンに溶解するため好ましく、800以下であれば溶解速度が大きいためさらに好ましい。
【0029】
市販のポリビニルアセタール樹脂としては、例えば、エスレックBL−1、BL−10、BM−1、BH−3(積水化学工業社製ポリビニルブチラール樹脂)、エスレックBX−1、BX−L、KS−10(同社製ポリビニルアセタール樹脂)、デンカブチラール#3000−1、#3000−K、#4000−2(電気化学工業社製ポリビニルブチラール樹脂)、モビタールLPB16H、B20H、B30T、B30H、B30HH、B45M(クラレ社製ポリビニルブチラール樹脂)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
<N−メチル−2−ピロリドン>
本発明にはN−メチル−2−ピロリドンが好適に用いられる。N−メチル−2−ピロリドンはラクタム構造を含む5員環の構造を持つ有機化合物で、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等と同じく非プロトン性極性溶媒に属する。高い溶解性を持つため、特に高分子化学の分野を中心に様々な物質に対する溶媒として用いられる。また各種繊維やレジン樹脂、金属皮膜プラスチックの表面処理時の溶媒や、ペンキはがし剤としても用いられる。
【0031】
リチウムイオン二次電池の電極製造や、電子写真用シームレスベルト製造に一般的に用いられているのもN−メチル−2−ピロリドンである。前述のようにジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなども類似の性質を示すため、これらもカーボンブラックの分散に使用することが可能である。しかしながら、本発明の想定する用途から、N−メチル−2−ピロリドンを用いるのが好ましい。
【0032】
<カーボンブラック分散体の製造方法>
本発明の分散体は、分散剤としてポリビニルアセタール樹脂を用いてカーボンブラックをN−メチル−2−ピロリドンに分散するものである。この場合、ポリビニルアセタール樹脂を、N−メチル−2−ピロリドン中に完全ないしは一部溶解させ、その溶液中にカーボンブラックを添加、混合することで上記樹脂をカーボンブラックに作用(例えば吸着)させつつ分散する。
【0033】
ポリビニルアセタール樹脂をカーボンブラックに作用(例えば吸着)させつつ、カーボンブラックをN−メチル−2−ピロリドンに分散するための装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機が使用できる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
次に、カーボンブラックのポリビニルアセタール樹脂による表面処理について説明する。上記樹脂により表面処理されたカーボンブラックを得る方法としては、乾式処理による方法が挙げられる。
【0035】
本発明における乾式処理は、常温もしくは加熱下で乾式処理装置によりカーボンブラックおよびポリビニルアセタール樹脂の混合、粉砕等を行いながら、カーボンブラック表面に上記樹脂を作用(例えば吸着)させるものである。使用する装置としては特に限定されるものではく、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、アトライター、振動ミル等のメディア型分散機、ニーダー、ローラーミル、石臼式ミル、プラネタリーミキサー、フェンシェルミキサー、ハイブリダイザー((株)奈良機械製作所)、メカノマイクロス((株)奈良機械製作所)、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン(株))等のメディアレス分散・混錬機が使用できるが、コンタミ等を考慮し、メディアレスの分散・混錬機を使用するのが好ましい。
【0036】
また、このとき処理物がゲル状にならない範囲で有機溶剤を添加してもよい。溶剤の添加によるポリビニルアセタール樹脂の濡れ、または(一部)溶解、およびカーボンブラックの上記樹脂に対する濡れが向上することで、カーボンブラックと上記樹脂の相互作用(例えば吸着)促進の効果が期待される。このとき用いる溶剤は特に限定されるものではないが、N−メチル−2−ピロリドン以外を使用する場合は処理後に乾燥することが望ましい。また、有機溶剤の添加量は用いる材料により異なるが、上記樹脂の添加量に対して0.5〜100重量%である。さらに必要に応じて窒素ガスなどを流すことで、乾式処理装置内部を脱酸素雰囲気として処理を行っても良い。
【0037】
処理時間は用いる装置によって、また希望とする混練度に応じて任意に設定できる。これら処理を行うことにより、粉状もしくは塊状の処理物を得ることができる。得られた処理物については、その後、更に乾燥、粉砕を行っても良い。
【0038】
続いて、カーボンブラック分散体の組成について説明する。分散体中におけるカーボンブラックの濃度は、使用するカーボンブラックの比表面積や表面官能基量などのカーボンブラック固有の特性値等にもよるが、1重量%以上、50重量%以下が好ましく、更に好ましくは5重量%以上、35重量%以下である。カーボンブラックの濃度が低すぎると生産効率が悪くなり、カーボンブラックの濃度が高すぎると分散体の粘度が著しく高くなり、分散効率や分散体のハンドリング性が低下する場合がある。
【0039】
ポリビニルアセタール樹脂の添加量は用いるカーボンブラックの比表面積等により決定される。一般には、カーボンブラック100重量部に対して、0.5重量部以上、40重量部以下、好ましくは1重量部以上、20重量部以下、さらに好ましくは、2重量部以上、10重量部以下である。ポリビニルアセタール樹脂の量が少ないと十分な分散効果が得られず、過剰に添加しても顕著な分散向上効果は得られない。
【0040】
カーボンブラックの分散粒径は、0.03μm以上、2μm以下、好ましくは、0.05μm以上、1μm以下、更に好ましくは0.05μm以上、0.5μm以下に微細化することが望ましい。カーボンブラックの分散粒径が0.03μm未満の組成物は、その作製が難しい場合がある。また、カーボンブラックの分散粒径が2μmを超える組成物は、塗工した際に膜欠陥を生じたり、貯蔵安定性が悪い場合がある。ここでいう分散粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0041】
<カーボンブラック分散体の用途>
本発明のカーボンブラック分散体の利用分野としては、特に制限はないが、遮光性、導電性、耐久性、漆黒性等が要求される分野、例えば、グラビアインキ、オフセットインキ、磁気記録媒体用バックコート、静電トナー、インクジェット、自動車塗料、繊維・プラスチック形成材料、電池用電極、電子写真用シームレスベルトにおいて、安定かつ均一な組成物を提供し得るものである。中でも、N−メチル−2−ピロリドンを使用すること、ポリフッ化ビニリデンやポリイミド前駆体などと良好に相溶すること、および形成される塗膜や成型物の強度、柔軟性が良好なことから、リチウムイオン二次電池用電極、電子写真用シームレスベルトに好適に用いられる。
【0042】
本発明の電池用電極やリチウムイオン二次電池は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物などの正極活物質、導電材としての本発明のカーボンブラック分散体、及びポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のバインダーを成分として用いて公知の方法によって製造することができる。また、本発明の電子写真用シームレスベルトは、導電材としての本発明のカーボンブラック分散体、ポリイミド、ポリアミドイミド等およびその前駆体を成分として用いて公知の方法によって製造することができる。
【0043】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は重量部を、%は重量%をそれぞれ表す。
【0044】
実施例及び比較例で使用したカーボンブラック、ポリビニルアセタール樹脂、分散剤、活物質、バインダー、ポリイミド前駆体溶液を以下に示す。
【0045】
<カーボンブラック>
・#30(三菱化学社製):ファーネスブラック、一次粒子径30nm、比表面積74m2/g。
・MA77(三菱化学社製):酸化処理カーボンブラック、一次粒子径23nm、比表面積130m2/g。
・デンカブラック粒状品(電気化学工業社製):アセチレンブラック、一次粒子径35nm、比表面積68m2/g、以下粒状品と略記する。
・EC−300J(アクゾ社製):ケッチェンブラック、一次粒子径40nm、比表面積800m2/g。
【0046】
<ポリビニルアセタール樹脂>
・エスレックBL−1(積水化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:25%、計算分子量:19000、以下BL−1と略記する。
・エスレックBX−L(積水化学工業社製):ポリビニルアセタール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:30%、計算分子量20000、以下BX−Lと略記する。
・デンカブチラール#3000−1(電気化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:19%、平均重合度:600、以下BL−10と略記する。
・デンカブチラール#3000−K(電気化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:12%、平均重合度:800、以下#3000−Kと略記する。
・デンカブチラール#5000−A(電気化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:16%、平均重合度:2000、以下#5000−Aと略記する。
・モビタールLPB16H(クラレ社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:18%、平均分子量15000、以下B16Hと略記する。
【0047】
<分散剤>
[界面活性剤]
・エマルゲンA−60(花王社製):ノニオン性の界面活性剤(ポリオキシエチレン誘導体)、以下EmA−60と略記する。
・デモールN(花王社製):アニオン性の界面活性剤(β−ナフタレンスルホン酸−ホルマリン縮合物のナトリウム塩)、以下DemNと略記する。
【0048】
[分散樹脂]
・アジスパーPB−821(味の素ファインテクノ社製):塩基性官能基含有共重合物、以下PB−821と略記する。
・ルビテックK30(BASF社製):ポリビニルピロリドン、平均分子量:50000、以下K30と略記する。
【0049】
<活物質>
・HLC−22(本荘ケミカル社製):正極用活物質コバルト酸リチウム(LiCoO)、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m/g、以下LCOと略記する。
・MCMB6−28(大阪ガスケミカル社製):負極用活物質メソフェーズカーボン(MFC)、平均粒径5〜7μm、比表面積4m/g、以下MFCと略記する。
【0050】
<バインダー>
・KFポリマーW1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、以下PVDFと略記する。
【0051】
<ポリイミド前駆体溶液>
・U−ワニス−A(宇部興産社製):ポリイミド前駆体N−メチル−2−ピロリドン溶液、20%、以下Uワニスと略記する。
【0052】
<表面処理カーボンブラックの調製>
粒状品を100部、BL−1を4部、N−メチル−2−ピロリドンを3部仕込み、プラネタリーミキサーにて30分間処理を行い、表面処理カーボンブラックAを得た。
【0053】
<カーボンブラック分散体の調製>
実施例、比較例で得られたカーボンブラック分散体の評価は、粘度、分散粒径の測定により行った。粘度の測定にはB型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、25℃、60rpmで行った。分散粒径の測定は、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて平均粒子径(D50の値)を測定した。測定時の希釈溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドンを用いた。貯蔵安定性の評価は、カーボンブラック分散体を40℃で10日間保存した後の粒径の変化から評価した。
【0054】
[実施例1〜実施例9]
表1に示す組成に従い、ガラス瓶にN−メチル−2−ピロリドンと各種ポリビニルアセタール樹脂を仕込み、混合溶解した後、各種カーボンブラックを加え、ジルコニアビーズをメディアとして、ペイントシェーカーで2時間分散し、各種カーボンブラック分散体を得た。いずれも低粘度かつ分散粒度が小さく、貯蔵安定性も良好であった。また、実施例3の分散体の水分を電量法水分計(三菱化学アナリテック社製「CA100」)を用いて測定したところ、0.09%であった。
【0055】
[実施例10]
表1に示す組成に従い、ガラス瓶にN−メチル−2−ピロリドンと先に調製した表面処理カーボンブラックAを仕込み、ジルコニアビーズをメディアとして、ペイントシェーカーで2時間分散し、カーボンブラック分散体を得た。低粘度かつ分散粒度が小さく、貯蔵安定性も良好であった。
【0056】
【表1】

【0057】
[比較例1〜比較例4]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にN−メチル−2−ピロリドンと各種カーボンブラックとを仕込み、ジルコニアビーズをメディアとして、ペイントシェーカーで2時間分散したが、分散体はいずれも著しく凝集していた。カーボンブラックは凝集性が強く、単独でN−メチル−2−ピロリドンに分散するのは困難である。また、比較例3の分散体の水分を電量法水分計(三菱化学アナリテック社製「CA100」)を用いて測定したところ、0.08%であった。
【0058】
[比較例5〜比較例11]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にN−メチル−2−ピロリドンと各種分散剤とを仕込み、混合溶解した後、各種カーボンブラックを加え、ジルコニアビーズをメディアとして、ペイントシェーカーで2時間分散し、各種カーボンブラック分散体を得た。いずれも実施例の分散体よりも高粘度かつ分散粒度が大きかった。また、50μmゲージで評価した比較例10の分散体の分散度は25μmであり、経時で凝集傾向であった。また、比較例7および比較例11の分散体の水分を電量法水分計(三菱化学アナリテック社製「CA100」)を用いて測定したところ、それぞれ0.12%、0.34%であった。
【0059】
【表2】

【0060】
表1および表2より、実施例の分散体は比較例の分散体に比べて、低粘度かつ分散粒度が小さく、貯蔵安定性も良好であった。また、分散体の水分はポリビニルアセタール樹脂を使用した場合と分散剤を使用しない場合とでは大差ないが、ポリビニルピロリドンを使用した場合に増加する傾向が見られた。
【0061】
<電池電極用合材の調製>
実施例、比較例で得られた電池電極用合材の評価は、PETフィルム上にドクターブレードを用いて塗布した後、乾燥し、塗膜の表面抵抗と外観により行った。表面抵抗の測定にはロレスタ−GP(三菱化学アナリテック社製)を用いた(JISK7194に準ず)。塗膜外観は目視で○:問題なし、△:斑模様あり、×:粗粒の筋引きあり、とした。
【0062】
[実施例11、実施例12、比較例12〜比較例15]
表3に示す組成に従い、LCOまたはMFCと、実施例または比較例で調製した各種分散体、およびPVDFをディスパーにて混合し、各種電池電極用合材を得た。評価結果を表3に示した。
【0063】
【表3】

【0064】
表3より、本発明の分散体を使用した実施例11、実施例12の電池電極用合材は、カーボンブラックとN−メチル−2−ピロリドンのみの分散体を使用した比較例12、比較例13に比べて塗膜の表面抵抗、外観ともに優れ、一般的な分散剤を使用した比較例14、比較例15に比べて塗膜の表面抵抗が優れることがわかる。
【0065】
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例13、比較例16、比較例17]
先に調製した電池電極用合材(実施例11、比較例12、比較例14)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの正極合材層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0066】
<リチウムイオン二次電池負極評価用セルの組み立て>
[実施例14、比較例18、比較例19]
先に調製した電池電極用合材(実施例12、比較例13、比較例15)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの負極合材層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0067】
<リチウムイオン二次電池正極特性評価>
作製した電池評価用セルを室温(25℃)で、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電サイクル特性評価(評価装置:北斗電工社製SM−8)を行った。また、評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観を目視にて確認し、部分的に合材が集電体より剥がれているのが確認された場合に×とした。評価結果を表4に示した。
【0068】
【表4】

【0069】
表4より、本発明の電極を使用した実施例13は、比較例に比べて電池容量、20サイクル容量維持率において良好な結果が得られた。比較例16は評価後、集電体から合材が剥落していた。
【0070】
<リチウムイオン二次電池負極特性評価>
作製した電池評価用セルを室温(25℃)で、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧0.5V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で電圧が1.5Vになるまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電サイクル特性評価(評価装置:北斗電工製SM−8)を行った。また、評価後のセルを分解し、電極塗膜不良の有無を目視にて確認し、部分的に合材が集電体より剥がれているのが確認された場合に×とした。評価結果を表5に示した。
【0071】
【表5】

【0072】
表5より、本発明の電極を使用した実施例14は、比較例に比べて電池容量、20サイクル容量維持率において良好な結果が得られた。比較例18は評価後、集電体から合材が剥落していた。
【0073】
<電子写真用シームレスベルトの作製>
実施例、比較例で得られたシームレスベルトの評価は体積抵抗、引き裂き強度、および耐折強度の測定により行った。体積抵抗はハイレスタ−UP(三菱化学アナリテック社製)を用いて測定し(JISC2170に準ず)、100V/10秒印加時の体積抵抗を10点測定し、その最大値の対数値と最小値の対数値の差を「体積抵抗ばらつき」として求めた。この値が、0.5以下に収まることが好ましい。引き裂き強度はオートグラフAG−IS(島津製作所製)を用いて測定した(JISK7128に準ず)。引き裂き速度は100mm/分、強度として5N/mm以上が好ましい。耐折強度はMIT耐揉試験機DA(東洋精機製)を用いて測定し(JISP8115に準ず)、その際折り曲げ角度を135度、曲げ速度を175回/分、錘を1kg、サンプル幅を15mmとした。破断までの耐折回数としては、2000回以上が好ましい。
【0074】
[実施例15]
先に調整した実施例2の分散体40部と、Uワニス59.5部とポリエーテル変性シリコーン(FZ2105;東レダウコーニング社製)のN−メチル−2−ピロリドン1%溶液0.5部を遠心式攪拌脱泡機(あわとり練太郎AR500)にて1000rpmで2分間攪拌し、1000rpmで30sec脱泡し、塗工液Aを調整した。さらに、内径100mm、長さ300mmの内面を鏡面仕上げした金属製円筒を型として用い、この円筒型を50rpm(回/分)で回転させながら、上記で作製した塗工液を円筒内面に均一に流延するように流して塗布した。所定の全量を流し終えて塗膜が満遍なく広がった時点で、回転数を100rpmに上げ、熱風循環乾燥機に投入して、110℃まで徐々に昇温して60分加熱した。さらに昇温して200℃で20分加熱、次いで、300℃で30分加熱し、回転を停止、徐冷して取り出し、形成された塗膜を円筒内面から剥離し、膜厚65μmのシームレスベルトAを得た。
【0075】
[比較例20]
塗工液Aの作製に使用する分散体を比較例2の分散体と代える他は同様にして、シームレスベルトBを得た。
【0076】
[比較例21]
塗工液Aの作製に使用する分散体を比較例6の分散体と代える他は同様にして、シームレスベルトCを得た。
【0077】
各シームレスベルトについて、体積抵抗のばらつき、引き裂き強度、耐折強度を評価した。評価結果を表6に示した。
【0078】
【表6】

【0079】
表6より、本発明の分散体を使用した実施例15のシームレスベルトは、比較例に比べて体積抵抗ばらつきが小さく、強度に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアセタール樹脂と、N−メチル−2−ピロリドンとを含む、カーボンブラック分散体。
【請求項2】
カーボンブラックの分散粒径(D50)が0.1〜2μmである請求項1記載のカーボンブラック分散体。
【請求項3】
請求項1または2記載の分散体を使用して電極合材層が形成された電池用電極。
【請求項4】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、請求項3記載の電池用電極であるリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1または2記載の分散体を使用して形成された電子写真用シームレスベルト。

【公開番号】特開2011−184664(P2011−184664A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54665(P2010−54665)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】