説明

カーボンブラック水分散体およびその製造方法

【課題】 分散性能およびインキ性能に優れたインクジェットプリンター用などの水性黒色インクとして好適なカーボンブラック水分散体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 カーボンブラック、表面化学修飾剤および水性媒体からなるスラリーを、加圧下にノズルから噴射して噴射流を相互衝突あるいは壁面衝突させてなり、カーボンブラック粒子凝集体の最大粒径は1μm以下であることを特徴とするカーボンブラック水分散体。その製造方法は、カーボンブラックおよび表面化学修飾剤を水性媒体中に混合してスラリーを作製し、該スラリーを加圧してノズルから噴射し、噴射流を相互に衝突させるかあるいは壁面へ衝突させてカーボンブラック粒子凝集体を解砕すると共に化学修飾してカーボンブラックを水性媒体中に微分散させることを特徴とし、カーボンブラック粒子凝集体の最大粒径が1μm以下に解砕、微分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンター用をはじめ水性黒色インキとして好適なカーボンブラック水分散体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは疎水性で水に対する濡れ性が低いために水中に高濃度で安定に分散させることは極めて困難である。これはカーボンブラック表面に存在する水分子との親和性が高い官能基、例えばカルボキシル基やヒドロキシル基などの親水性の水素含有官能基が極めて少ないことに起因する。そこで、カーボンブラックを酸化処理して表面に親水性の官能基を形成することによりカーボンブラックの水中への分散性能を改良することは古くから知られている。
【0003】
例えば、特許文献1にはカーボンブラックを次亜ハロゲン酸塩の水溶液で酸化処理する方法が、また、特許文献2にはカーボンブラックを低温酸素プラズマによって酸化処理する方法が開示されている。しかしながら、低温プラズマによる酸化処理は大量のカーボンブラックに対して均一な反応を進めることが難しい難点がある。
【0004】
軽い酸化処理を施したカーボンブラックにカップリング剤あるいは界面活性剤などを用いて水への分散性の向上を図る水性インキの製造方法(例えば、特許文献3など)も知られているが、温度変化および経時的変化による界面活性剤などの酸化や分解による変質から分散性能を長期間、安定に維持することは困難である。また、分散性を高めながらカーボンブラックを表面処理する方法としてカーボンブラックを水中でガラスビーズで微粉砕して次亜ハロゲン酸塩で酸化する方法(特許文献4)も提案されているが、水中におけるガラスビーズによる粉砕は浮力により粉砕効果が減殺する欠点がある。
【0005】
また、特許文献5には水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インキにおいて、該カーボンブラックが1.5mmol/g以上の表面活性水素含有量を有する水性顔料インキおよび水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インキの製造方法において、(a)酸性カーボンブラックを得る工程と、(b)前記酸性カーボンブラックを水中で次亜ハロゲン酸塩で更に酸化する工程とを、包含する水性顔料インキの製造方法が、特許文献6には吸油量100ml/100g以下のカーボンブラックを水性媒体中に微分散する工程;および次亜ハロゲン酸塩を用いて該カーボンブラックを酸化する工程;を包含する水性顔料インキの製造方法が開示されている。
【0006】
上記の特許文献5および特許文献6では、カーボンブラックを酸化して表面に親水性の官能基である活性水素を多く含有させることにより、水分散性が良好で、長期間の分散安定性に優れた水性顔料インキを得るものである。しかしながら、カーボンブラックが水中に分散して安定な分散状態を維持するためには、カーボンブラック粒子表面と水分子との接触界面に存在する親水性の官能基量が大きな機能を果たし、単にカーボンブラック単位重量当たりの官能基量では分散性の良否を的確に判断することは困難である。
【0007】
そこで、本出願人は分散性能の良否を的確に判断する新たな指標としてカーボンブラック単位表面積当たりに存在する親水性の水素含有官能基量に着目し、酸化処理により改質されたカーボンブラックであって、表面に存在する水素含有官能基のうちカルボキシル基とヒドロキシル基の総和量が、単位表面積当たり3μeq/m2 以上であることを特徴とする易水分散性カーボンブラック(特許文献7)を開発した。
【0008】
更に、カーボンブラック表面に親水性の官能基を形成するのみでは水中へのカーボンブラックの分散性を高め、長期に亘る分散安定性を維持するためには限界があることから、更に研究を進めた結果、水中への易分散性や分散安定性などの分散性能はカーボンブラック粒子の凝集形態と密接な関係があることを見出し、窒素吸着比表面積(N2SA)が80m2 /g以上、DBP吸油量が70ml/100g以下のカーボンブラックを酸化処理したカーボンブラックであって、アグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とアグロメレートの平均粒径Dupa(nm)との比Dupa/Dstの値が1.5〜2.0の特性を備える易水分散性カーボンブラック(特許文献8)を開発、提案した。
【0009】
一方、特許文献9には少なくとも200秒-1の有効剪断速度を与える少なくとも1つの分散混合操作を顔料に施しながら、同時に水性環境中でオゾンを用いて顔料を酸化させる工程を含むことを特徴とする自己分散型顔料の製造方法が提案されている。この方法は、顔料の粉砕と酸化とを同時に行うものであるが、オゾンガスは水への溶解度が低いために酸化処理が不十分となる難点がある。
【特許文献1】特開昭48−018186号公報
【特許文献2】特開昭57−159856号公報
【特許文献3】特開平04−189877号公報
【特許文献4】特開平08−319444号公報
【特許文献5】特開平08−003498号公報
【特許文献6】特開平08−319444号公報
【特許文献7】特開平11−148027号公報
【特許文献8】特開平11−148026号公報
【特許文献9】特表2003−535949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者らはカーボンブラック水分散体の分散性能およびインキ性能を更に改良すべく鋭意研究を行った結果、カーボンブラックを水性媒体中に分散させる際にカーボンブラックと表面化学修飾剤を水中に混合してスラリーを形成し、このスラリーを加圧して噴射し、噴射流を相互に衝突させたり壁面に衝突させると、噴射流中でカーボンブラックの微粒化ならびにカーボンブラック粒子表面へ均一に化学修飾基が形成されることを見出した。
【0011】
本発明は、この知見に基づいて開発に至ったもので、その目的は普通紙、専用紙、OHPシート、アート紙などに印字する場合に、優れた紙定着濃度、印字品位、吐出安定性、耐光性、保存安定性などをバランスよく有するインクジェットプリンター用をはじめ水性黒色インクなどとして好適なカーボンブラック水分散体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明に係るカーボンブラック水分散体は、カーボンブラック、表面化学修飾剤および水性媒体からなるスラリーを、加圧下にノズルから噴射して、噴射流を相互衝突あるいは壁面衝突させてなることを構成上の特徴とする。
【0013】
また、上記のカーボンブラック水分散体において、カーボンブラック粒子凝集体の最大粒径は1μm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るカーボンブラック水分散体の製造方法は、カーボンブラックおよび表面化学修飾剤を水性媒体中に混合してスラリーを作製し、該スラリーを加圧してノズルから噴射し、噴射流を相互に衝突させるかあるいは壁面へ衝突させてカーボンブラック粒子凝集体を解砕すると共に化学修飾して、カーボンブラックを水性媒体中に微分散させることを構成上の特徴とする。
【0015】
また、上記のカーボンブラック水分散体の製造方法において、カーボンブラックを水性媒体中にカーボンブラック粒子凝集体の最大粒径が1μm以下に微分散させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水中に容易に分散することができ、かつ長期に亘って分散状態を安定に維持し得る優れた分散性能を有し、更に、黒色度、濾過性などに優れ、紙定着濃度、吐出安定性、保存安定性などをバランスよく有し、水分散性能およびインキ性能に優れたインクジェットプリンター用をはじめ水性黒色インキなどとして好適なカーボンブラック水分散体を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、水分散性能およびインキ性能の優れた、このカーボンブラック水分散体の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において適用されるカーボンブラックは特に制限はなく、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどいずれも適用することができる。
【0018】
表面化学修飾剤はカーボンブラックを化学修飾して、カーボンブラック粒子表面にカルボキシル基やヒドロキシル基などの親水性の官能基を形成するために機能するもので、例えば、ペルオキソ硫酸、ペルオキソ炭酸、ペルオキソリン酸などのペルオキソ2酸あるいはその塩類、などの酸化剤が例示される。なお、塩類としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウムなどの金属あるいはアンモニウム塩などが挙げられる。また、ジアゾカップリング反応により親水性の官能基を形成してもよい。なお、オゾンガスは水への溶解度が低いため親水性の官能基の形成量が少ないため好ましくない。
【0019】
水性媒体としては水が主体となるものであるが、好ましくは安価で安全性の面から水、とくに脱イオン水が好適である。
【0020】
本発明のカーボンブラック水分散体は、上記のカーボンブラック、表面化学修飾剤および水性媒体からなるスラリーを加圧下にノズルから噴射して、高速流体として噴射されたスラリーを相互衝突あるいは壁面衝突させたものである。この衝突の際の衝撃や噴射時のせん断力によりスラリー中のカーボンブラック粒子凝集体は解砕され、また、衝突時やせん断の際に生じる摩擦熱により表面化学修飾剤は活性化されてカーボンブラック粒子表面が均一かつ効率よく化学修飾される。
【0021】
この場合、カーボンブラック水分散体中のカーボンブラック粒子凝集体の最大粒径は、1μm以下にまで解砕されたものであることが好ましい。なお、カーボンブラック粒子凝集体とは、カーボンブラックの一次粒子が強固に融着結合した一次凝集体が絡み合って二次的に凝集した凝集体(アグロメレート)を意味する。
【0022】
このカーボンブラック水分散体は、カーボンブラックおよび表面化学修飾剤を水性媒体中に混合してスラリーを作製し、該スラリーを加圧してノズルから噴射し、噴射流を相互に衝突させるかあるいは壁面へ衝突または噴射時にせん断させてカーボンブラック粒子凝集体を解砕すると共に化学修飾して、カーボンブラックを水性媒体中に微分散させることにより製造される。
【0023】
カーボンブラック、表面化学修飾剤および水性媒体を適宜な量比に混合したスラリー中において、カーボンブラックは液相酸化されて、カーボンブラック粒子凝集体の表面にはカルボキシル基やヒドロキシル基などの親水性の官能基が生成する。スラリーの衝突あるいはせん断の際に生じる摩擦熱により表面化学修飾剤を活性化させる温度は40〜90℃が好ましい。スラリーの温度は、衝突あるいはせん断の際に生じる摩擦熱により調節されるが、必要であればノズルを構成する部位を加熱または冷却して調節される。40℃未満であると、活性化が乏しく表面修飾が進みづらく、また、90℃を越えると一挙に反応が進行し、温度制御が難しくなるうえに機械的損傷が生じる場合がある。より好ましい温度は60〜90℃である。
【0024】
この場合、カーボンブラックを予め湿式あるいは乾式酸化しておくとスラリー中にカーボンブラックを効率よく分散させることができるので、均一かつ効果的に化学修飾することができる。なお、湿式酸化はオゾン水、過酸化水素水、ペルオキソ2酸あるいはその塩類による酸化である。また、乾式酸化はオゾン、酸素、NOX 、SOX などのガス雰囲気にカーボンブラックを曝すことにより行われる。
【0025】
また、スラリー中にカーボンブラックを均一に分散させるために界面活性剤の添加も好ましく、界面活性剤としてはアニオン系、ノニオン系、カチオン系いずれも使用することができる。
【0026】
例えば、アニオン系界面活性剤としては脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩などが、ノニオン系界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルなどが、カチオン系界面活性剤としてはアルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩などが例示される。
【0027】
スラリーは加圧されてノズルから噴射流が相互に衝突するかあるいは壁面へ衝突するように高速噴射させる。この衝突あるいはせん断力によりスラリー中のカーボンブラック粒子の凝集体は解砕され、また、衝突時あるいはせん断時の摩擦熱により表面化学修飾剤は活性化されてカーボンブラック粒子凝集体を均一かつ効率よく化学修飾する。すなわち、カーボンブラック凝集体が解砕されて新たに生じたカーボンブラック粒子表面を効果的に化学修飾することができる。
【0028】
スラリーをノズルから噴射して噴射流を相互に衝突させるかあるいは壁面へ衝突させてスラリー中のカーボンブラック粒子凝集体を解砕する手段としては、市販されている各種の解砕機を用いることができ、これらの解砕機としては、例えばマイクロフルイダイザー〔マイクロフルイディスク社製、商品名〕、アルティマイザー〔スギノマシン(株)製、商品名〕、ナノマイザー〔(株)東海製、商品名〕や高圧ホモジナイザーなどの解砕機を例示することができる。
【0029】
この製造プロセスを図1に示した製造フローチャートに基づいて説明する。カーボンブラック、表面化学修飾剤を水中(好ましくは脱イオン水)に所定の量比に混合して、混合攪拌槽中で適宜な温度、例えば室温〜90℃の温度で十分に攪拌混合してスラリーを作製する。
【0030】
スラリーは高圧ポンプにより例えば50MPa〜250MPa程度に加圧されて解砕機に移送され、噴射ノズルから高速噴射流として噴射して相互に衝突させるかあるいは壁面へ衝突させるかまたは噴射の際セン断させる。この場合、解砕機の系内が閉塞しないように混合攪拌槽内のスラリーの攪拌混合を継続して、スラリーの分散状態を維持する。
【0031】
解砕機により解砕されたスラリーは、貯槽混合攪拌槽に移送され、攪拌されながら更に解砕機に再度移送されて、カーボンブラック粒子が所望の凝集体に解砕され、化学修飾される。このような循環操作を繰り返し行って相互に衝突あるいは壁面へ衝突させ、所望の状態に達したら精製装置に移送して、本発明のカーボンブラック水分散体が製造される。また、貯槽混合攪拌槽を介さずに、解砕機により処理されたスラリーを直接混合攪拌槽に移送する循環操作を繰り返し行ってもよい。
【0032】
この相互に衝突あるいは壁面へ衝突させる、またはせん断時の衝撃によりスラリー中のカーボンブラック粒子凝集体は解砕されて、好ましくは凝集体の最大粒径が1μm以下にまで解砕する。また、衝突時に発生する摩擦熱により表面化学修飾剤は活性化され、カーボンブラックの表面を効率よく、均一に化学修飾することができ、解砕されたカーボンブラック粒子凝集体表面にカルボキシル基やヒドロキシル基などの官能基が形成される。
【0033】
なお、カーボンブラック粒子凝集体の最大粒径は下記の方法で測定した値である。
スラリー中のカーボンブラック濃度を0.1〜0.5kg/cm3 に調整し、ヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、UPA mode1 9340) を用いて測定した。この測定装置は、懸濁液中においてブラウン運動している粒子にレーザ光を当てると、ドップラー効果により散乱光の周波数が変調する。その周波数の変調度合いから、ブラウン運動の激しさ、すなわち粒子径を測定するものである。このようにして測定したカーボンブラック粒子の凝集体の粒径からその累積度数分布曲線を作成し、この累積度数分布曲線の99%累積度数の値をカーボンブラック粒子凝集体の最大粒径(Dupa99%、nm)とする。
【0034】
この製造プロセスによりスラリー中のカーボンブラック粒子凝集体を効率よく解砕し、また化学修飾することができるので、スラリー中のカーボンブラック濃度を高濃度に設定でき、能率よく効率的に処理することが可能となる。スラリー中のカーボンブラック濃度は3〜25wt%、好ましくは5〜15wt%に設定される。更に、スラリー中の表面化学修飾剤の割合を減らすことも可能であり、目的に応じて含有濃度は0.1〜50wt%に調整する。
【0035】
このようにして、カーボンブラックが水性媒体中に微分散したカーボンブラック水分散体を製造することができる。このカーボンブラック水分散体は用途に応じて中和、残塩除去、分級、濃度調整などの処理を行って、例えばインクジェットプリンター用インキなどの水性黒色インキが製造される。
【0036】
中和;化学修飾によりカーボンブラック粒子表面にはカルボキシル基やヒドロキシル基が形成され、良好な水分散性を示すが用途によっては中和してもよい。中和剤としては水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ塩類、アンモニア、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、第4級アミンなどの有機アミン類が例示される。中和は常温で行ってもよいが、中和剤を攪拌槽中のスラリーに投入し、温度;95〜105℃、時間;2〜5時間、攪拌を行うと完全に中和が進行するので好ましい。
【0037】
残塩除去;化学修飾により生成した還元塩や中和により生成した塩類を除去すると水分散性が向上し、またカーボンブラックの再凝集を抑制することができる。還元塩の除去手段は、限外濾過膜(UF)、逆浸透膜(RO)、電気透析膜などの分離膜を用いることが好ましい。
【0038】
分級;カーボンブラック水分散体には大きな未分散塊や粗粒が存在する場合があり、インクジェットプリンター用ノズルの目詰まりなどを防止するために遠心分離や濾過などの方法により分級除去する。
【0039】
濃度調整;黒色インキとして適宜な濃度、例えば0.1〜20wt%に調整する。濃度調整は水分の添加や除去により行われる。
【0040】
このようにして製造されたカーボンブラック水分散体は、防腐剤、粘度調整剤、樹脂などの常用されるインキ調製剤を必要に応じて添加することにより、分散性能およびインキ性能に優れた水性黒色インキが調製される。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例
カーボンブラックとしてトーカブラック7550F〔東海カーボン(株)製〕を、表面化学修飾剤にはペルオキソ2硫酸ナトリウムを用いて、脱イオン水と共に混合攪拌槽に、下記の割合で配合し、十分に攪拌混合してスラリーを作製し、攪拌混合を継続した。
カーボンブラック;10重量部
ペルオキソ2硫酸ナトリウム;10重量部
脱イオン水;80重量部
【0043】
解砕機にはアルティマイザー〔スギノマシン(株)製〕を用い、スラリーをアルティマイザーに供給して、245MPaの圧力でスラリーを噴射して噴射流を衝突させた。噴射衝突後のスラリーは一旦貯槽混合攪拌槽に移送して、攪拌しつつ冷却した後、混合攪拌槽に再送した。このようにスラリーを衝突させる操作を10回繰り返し行ってスラリーを解砕した。なお、噴射衝突時の摩擦熱によりスラリー温度は初期の45℃から90℃に上昇した。
【0044】
この処理を施したスラリーは、限外濾過膜〔旭化成(株)製、AHV−1010〕によりスラリー中の塩を除去し、次いで、スラリーを100℃に保ちアンモニアで2時間攪拌して中和した。その後、上記の限外濾過膜でカーボンブラック固形分濃度が4wt%の状態で200μS/cm以下に精製し、更にカーボンブラックの分散濃度が20wt%のカーボンブラック水分散体を製造した。
【0045】
比較例
実施例1と同じ割合で、カーボンブラック、ペルオキソ2硫酸ナトリウム、脱イオン水を配合し、攪拌混合して作製したスラリーを、アルティマイザーによる解砕処理を行うことなく、攪拌槽に入れて300rpmの回転速度で10時間攪拌混合して、スラリーの解砕処理を行った。次いで、実施例1と同じ方法で限外濾過膜による塩の除去、アンモニアによる中和および精製処理を行って、カーボンブラックの分散濃度が20wt%のカーボンブラック水分散体を製造した。
【0046】
このようにして製造したカーボンブラック水分散体について水分散性能やインキ性能などを評価するために、下記の方法により粘度、カーボンブラック粒子凝集体の最大粒径、濾過性、印字濃度などを測定した。
【0047】
粘度の測定;
サンプルを密閉容器に入れ、70℃の温度に保持して1〜4週間の粘度変化を回転振動式粘度計〔山一電機(株)製、VM−100−L〕により測定した。
【0048】
カーボンブラック粒子凝集体の最大粒径;
上記の粘度を測定した各サンプルについて、ヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、UPA model 9340)を用いてカーボンブラック粒子凝集体の粒径を測定して累積度数分布曲線を作成して、カーボンブラック粒子凝集体の最大粒径(Dupa99%、nm)を求めた。
【0049】
濾過性;
サンプル200g を90φのNo.2濾紙、膜孔3μm、0.8μm、0.65μm、0.45μmの各フィルターを用いて、2666.4Paの減圧下で濾過試験を行い、濾過通過量を測定した。
【0050】
印字濃度;
カーボンブラック水分散体を希釈してカーボンブラック濃度を4wt%に調整し、印字用紙としてXEROX4024紙に#6バーコータにより印字して、マクベス濃度計(コルモーゲン社製、RD−927)を用いて光学濃度を測定した。
【0051】
得られた結果を、表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果から、実施例のカーボンブラック水分散体は1〜4週間に亘って粘度変化がなく安定しているが、比較例では初期においては粘度変化がないものの3週間ほど経過すると粘度が上昇することが分かる。また、水分散体中におけるカーボンブラック粒子の凝集による凝集体の最大粒径の変化は、実施例では全く認められないのに対し、比較例では次第に増大し、最大粒径自体も大きく、分散安定性に劣るものであり、濾過試験の結果も悪いものであることが分かる。また、印字濃度も実施例は比較例に比べて高位にあり、黒色度に優れていることが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のカーボンブラック水分散体の製造プロセスを例示したフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、表面化学修飾剤および水性媒体からなるスラリーを、加圧下にノズルから噴射して、噴射流を相互衝突あるいは壁面衝突させてなることを特徴とするカーボンブラック水分散体。
【請求項2】
カーボンブラック粒子凝集体の最大粒径が1μm以下である、請求項1記載のカーボンブラック水分散体。
【請求項3】
カーボンブラックおよび表面化学修飾剤を水性媒体中に混合してスラリーを作製し、該スラリーを加圧してノズルから噴射し、噴射流を相互に衝突させるかあるいは壁面へ衝突させてカーボンブラック粒子凝集体を解砕すると共に化学修飾して、カーボンブラックを水性媒体中に微分散させることを特徴とするカーボンブラック水分散体の製造方法。
【請求項4】
カーボンブラック粒子凝集体の最大粒径が1μm以下である、請求項3記載のカーボンブラック水分散体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−152012(P2006−152012A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340094(P2004−340094)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】