カーボン材料に金属微粒子が担持された金属微粒子担持体およびその製造方法
【課題】金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体およびその簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】カーボン材料を含有する一方、金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤を含有しない溶液5中に、1対の放電電極1・1を配置する。グロー放電により放電電極1・1間にプラズマを発生させることによって、放電電極1・1を融解して金属微粒子を形成すると共に、形成された金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する。
【解決手段】カーボン材料を含有する一方、金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤を含有しない溶液5中に、1対の放電電極1・1を配置する。グロー放電により放電電極1・1間にプラズマを発生させることによって、放電電極1・1を融解して金属微粒子を形成すると共に、形成された金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン材料に金属微粒子が担持された金属微粒子担持体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン材料は、多種多様な産業において欠かすことのできない、極めて重要な物質である。特に、カーボンナノ材料は、電気的特性、機械的特性(強度)などに優れているため、電子デバイス産業、電気化学産業などにおいて利用されている。さらに、カーボンナノ材料は、ナノカプセルや配合成分として、医療産業および化粧品産業などへも応用されている。
【0003】
また、カーボン材料の表面を修飾すれば、カーボン材料が有さない別の機能を付与することができる。これにより、カーボン材料の用途が多様化する。例えば、カーボン材料の表面に金属微粒子を担持させれば、カーボン材料に導電性や触媒機能などの新たな機能を付与することができる。カーボン材料への金属微粒子の担持は、金属微粒子とカーボン材料とを含む水溶液を混合して加熱することによって通常行われる。
【0004】
しかし、カーボンナノ材料は疎水性が高いため、親水性溶媒に溶解しにくい。このため、カーボン材料の水溶液中への分散性を高めるために、可溶化処理が行われる。可溶化処理には、例えば、化学的手法と物理的手法とがある。化学的手法は、酸処理によってカーボン材料の表面に、酸性官能基を導入する方法である。一方、物理的手法は、界面活性剤等の分散剤によってカーボン材料の表面をラッピングする方法である。また、特許文献1には、カーボンナノ材料を過酸化水素水溶液に混入し、水中パルスストリーマ放電を行うことにより、カーボンナノ材料を過酸化水素水溶液へ可溶化することが記載されている。
【0005】
一方、金属微粒子の製造方法として、火炎法やプラズマ法等の気相法、ゾルゲル法等の液相法などが知られている。しかし、気相法も液相法も、工業的に金属微粒子を製造するには問題点がある。そこで近年、金属微粒子を製造する方法として、液中放電によりプラズマを発生させ、その還元作用により金属微粒子を製造する方法が注目されている。このような液体中のプラズマは、主に溶液中で利用されるので「ソリューションプラズマ」と呼ばれる。
【0006】
ソリューションプラズマは、溶液中に対向配置された2つの放電電極間に電圧(高電場)を印加することにより、放電電極間に発生するプラズマである。発生したプラズマの周囲には気泡が発生し、その気泡がプラズマを取り囲んでおり、その気泡の周囲を溶液が取り囲んでいる。つまり、ソリューションプラズマには、プラズマ/気相,気相/液相という2つの界面が存在するという特徴がある。このように、ソリューションプラズマは、プラズマによる「高エネルギー状態」を溶液内に閉じ込めるという状態を実現している。これにより、プラズマの周囲の気相、液相またはその界面で様々な化学反応が促進される。
【0007】
例えば、特許文献2には、ソリューションプラズマを用いた金属ナノ粒子の製造方法が記載されている。具体的には、導電率を調整した金属塩水溶液中に設けられた1対の放電電極間に高電圧を印加してプラズマを発生させることによって、金属塩水溶液中に含まれる金属イオンを還元し、金属ナノ粒子が製造されている。
【0008】
また、特許文献3には、水中に配置された消耗電極間に断続的に強いアーク放電(数十ボルト,数百アンペア)を起こして消耗電極を蒸発気化させることによって、金属微粒子を製造する方法が記載されている。また、特許文献4には、高圧水中において、アーク放電により、元素金属の電極と対極との間でプラズマ水中放電して生ずる金属イオン蒸気を水と接触させて粉末化させることにより、金属粉末を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2007/83681(2007年7月26日公開)
【特許文献2】特開2008−013810号公報(2008年1月24日公開)
【特許文献3】特開平2−166202号公報(1990年6月26日公開)
【特許文献4】WO2003/37553(2003年5月8日公開)
【特許文献5】特開2010−9993号公報(2010年1月14日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2〜4に記載の方法を金属微粒子担持体の製造方法に適用した場合、金属微粒子担持体を簡便に製造することはできないという問題がある。
【0011】
具体的には、金属微粒子の粒子径が小さくなると、金属微粒子が凝集しやすい。特に、粒子径が100nm以下のいわゆる金属ナノ粒子は、著しく凝集しやすい。このため、特許文献2に記載の方法では、形成された金属微粒子(金属ナノ粒子)が時間の経過と共に凝集するのを避けるために、金属塩水溶液へのゼラチン等の分散溶解剤の添加が必要不可欠である。
【0012】
しかし、金属塩水溶液に分散溶解剤を添加した場合、金属塩水溶液中には、分散溶解剤が不純物として残存することになる。このため、金属微粒子をカーボン材料に担持させる前に、分散溶解剤を除去するための処理が必要になる。しかし、金属微粒子を凝集させずに分散溶解剤を除去することは困難である。さらに、分散溶解剤を添加した場合、分散溶解剤が金属微粒子に吸着してしまう。このため、金属微粒子に吸着した分散溶解剤を完全に除去することはできない。このように、分散溶解剤を添加した場合、金属微粒子の凝集を避けることはできるものの、分散溶解剤を除去するための煩雑な処理(工程)が必要になる。従って、特許文献2に記載の方法を金属微粒子担持体の製造方法に適用した場合、金属微粒子担持体を簡便に製造することはできない。
【0013】
また、特許文献3,4に記載の方法は、いずれもアーク放電によりプラズマを発生させることが前提となっている。しかし、アーク放電は、放電電極間に非常に大きな電流が流れるため、放電電極の消耗が著しく激しい。また、金属微粒子を製造する溶液中にカーボン材料を混入し、放電電極を振動させたとしても、カーボン材料が放電電極に焼きついてしまう。そのため、長時間(数十分間)プラズマ状態を維持できるとは到底考えられない。従って、特許文献3,4に記載の方法は、金属微粒子を製造することはできたとしても、その金属微粒子をカーボン材料に担持させることは困難である。つまり、特許文献3,4に記載の方法を金属微粒子担持体の製造方法に適用することは困難である。
【0014】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡便に製造することのできる金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体およびその製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、上記の課題を解決するために、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体の製造方法において、溶液中に配置された同一材料からなる1対の放電電極間に、グロー放電によりプラズマを発生させることにより、放電電極を融解して放電電極を構成する金属からなる金属微粒子を形成すると共に、上記金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する金属微粒子担持体形成工程を含み、上記溶液は、カーボン材料を含有する一方、上記金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤を含有しないことを特徴としている。
【0016】
上記の発明によれば、グロー放電により放電電極間にプラズマを発生させると、放電電極が融解する。その結果、放電電極を構成する金属からなる金属微粒子が形成され、溶液中に分散する。溶液中には分散溶解剤が不純物として含まれていないため、金属微粒子が分散した溶液は、そのまま利用可能である。一方、溶液中にはカーボン材料が含まれているため、溶液中の金属微粒子は、プラズマによってカーボン材料に担持される。これにより、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体が形成される。このように、本発明にかかる金属微粒子担持体の製造方法では、金属微粒子の形成と、その金属微粒子のカーボン材料への担持(金属微粒子担持体の形成)とを、同時に(ワンポットで)行うことができる。
【0017】
さらに、上記の発明によれば、分散溶解剤が溶液中に添加されていないにも拘らず、金属微粒子の凝集が抑制される。このため、分散溶解剤が不純物として溶液中残存することはなく、分散溶解剤を溶液から除去するための煩雑な処理も必要ない。また、分散溶解剤が、金属微粒子担持体の機能発現を阻害することもない。
【0018】
また、上記の発明によれば、グロー放電によってプラズマを発生させるため、放電電極間に流れる電流が、アーク放電の場合よりも大幅に小さい。このため、放電電極が消耗しにくい。また、カーボン材料が放電電極に焼きつくこともない。従って、長時間(数十分間)プラズマ状態を維持し、金属微粒子担持体を安定して製造することができる。
【0019】
このように、本発明によれば、グロー放電により溶液中に発生させたソリューションプラズマによって、金属微粒子を形成しつつ、形成された金属微粒子をカーボン材料に担持する。従って、金属微粒子担持体を簡便に製造することができる。
【0020】
なお、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、放電電極を融解することにより、放電電極を構成する金属からなる金属微粒子が形成される。つまり、金属微粒子の原料は、放電電極から供給される。このため、放電電極は、プラズマによって融解されやすい金属から構成される。これに対し、特許文献2に記載の方法は、金属塩水溶液中の金属イオンを還元することにより、金属塩を構成する金属微粒子を形成する。つまり、金属微粒子の原料は、金属塩水溶液から供給される。このため、放電電極は、プラズマによって融解されにくい金属から構成される。
【0021】
しかも、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、分散溶解剤を添加せずに、金属微粒子の凝集が抑制されている。これに対し、特許文献2に記載の方法では、金属微粒子の凝集を抑制するために、分散溶解剤の添加が必須である。
【0022】
このように、本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、金属微粒子の原料の由来、放電電極を構成する金属、および、分散溶解剤を添加しなくても金属微粒子の凝集を抑制できる点が、特許文献2に記載の方法とは大きく異なる。
【0023】
さらに、グロー放電とアーク放電とでは、放電電極間に流れる電流だけでなく、電界強度(kV/m),温度(K),電子密度(m−3)もが大きく異なる。すなわち、グロー放電(低温プラズマ)の電界強度は、アーク放電(熱プラズマ)の電界強度よりも大きく、グロー放電の温度および電子密度は、アーク放電の温度および電子密度よりも低い(小さい)。このため、プラズマの化学的作用も異なる。従って、金属微粒子の粒子径、金属微粒子の分散性、金属微粒子担持体の生成等も異なる。このように、本願発明のようにグロー放電により発生させたプラズマと、特許文献3,4のようにアーク放電により発生させたプラズマとでは、プラズマの状態が全く異なる。
【0024】
また、上記の発明によれば、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が、カーボン材料に担持された金属微粒子担持体が製造される。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少する。しかし、粒子径の小さい金属微粒子がカーボン材料から脱離したとしても、粒子径の大きい金属微粒子は脱離しない。従って、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体を製造することができる。
【0025】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、上記溶液中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を含み、上記分散工程の後に、上記金属微粒子担持体形成工程を行うことが好ましい。
【0026】
上記の発明によれば、プラズマを発生させる前に、予め溶液中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を行う。これにより、より多くのカーボン材料が、溶液中に分散する。従って、金属微粒子をカーボン材料に担持させる時間を短縮することができる。従って、金属微粒子担持体をより簡便かつ効率的に製造することができる。
【0027】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記分散工程は、上記溶液を、超音波処理または熱処理することが好ましい。
【0028】
上記の発明によれば、分散工程において、カーボン材料を含有する溶液を、超音波処理または熱処理する。従って、簡単な処理によって、より多くのカーボン材料を、溶液中に分散させることができる。
【0029】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記分散工程は、上記溶液を還流条件下で加熱することが好ましい。
【0030】
上記の発明によれば、カーボン材料を含有する溶液を、還流条件下で加熱する。従って、簡単な処理によって、より多くのカーボン材料を、溶液中に分散させることができる。
【0031】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記金属微粒子担持体形成工程前または金属微粒子担持体形成工程中に、上記溶液のpHを、5.5〜7.0に調整するpH調整工程を含むことが好ましい。
【0032】
上記の発明によれば、溶液のpHを5.5〜7.0に調整した後、金属微粒子担持体形成工程を行うか、金属微粒子担持体形成工程中に、溶液のpHを5.5〜7.0に調整する。これにより、カーボン材料への金属微粒子の吸着性を高めることができる。
【0033】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記溶液は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、および硫黄の原子、分子、およびイオンを含有しないことが好ましい。
【0034】
上記の発明によれば、形成された金属微粒子の表面に化学吸着または物理吸着しやすいハロゲンおよび硫黄の各原子、各分子、または各イオンが、溶液中に存在しない。つまり、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する成分(不純物)が、溶液中に存在しない。これにより、金属微粒子のカーボン材料への担持が容易になる。従って、より効率的に金属微粒子担持体を製造することができる。また、ハロゲン、硫黄等が、金属微粒子担持体の機能発現を阻害することもない。
【0035】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記溶液は、過酸化水素水溶液であることが好ましい。
【0036】
上記の発明によれば、水素および酸素から構成される単純な分子の過酸化水素水溶液が溶液として用いられる。つまり、金属微粒子の表面に吸着し、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する成分(ハロゲン、硫黄など)、金属、および金属酸化物などの不純物が、溶液中に存在しない。従って、高純度の金属微粒子担持体を製造することができる。さらに、過酸化水素が分解されたとしても、発生するのは水と酸素のみであるため、安全性の高い金属微粒子担持体の製造方法を実現することができる。
【0037】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記溶液に、上記放電電極を構成する金属と同一金属からなる添加用金属微粒子が分散した溶液を添加した後、上記金属微粒子担持体形成工程を行ってもよい。
【0038】
上記の発明によれば、プラズマを発生させる前に、予め溶液中に添加用金属微粒子が分散した溶液が添加される。添加用金属微粒子が分散した溶液中の添加用金属微粒子は、放電電極を構成する金属と同一金属から形成されている。これにより、金属微粒子担持体形成工程において、放電電極が十分に融解するまで、主に予め添加された添加用金属微粒子が分散した溶液に由来する金属微粒子(添加用金属微粒子)がカーボン材料に担持され、金属微粒子担持体が形成される。従って、金属微粒子担持体の担持効率が良くなる。
【0039】
本発明の金属微粒子担持体は、上記の課題を解決するために、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体であって、上記金属微粒子は、透過型電子顕微鏡による粒度分布が1〜10nm(1nm以上〜10nm以下)の範囲に存在し、かつ、粒子径が1nm以上〜3nm未満の金属微粒子と、3nm以上〜10nm以下の金属微粒子とを含むことを特徴としている。
【0040】
上記の発明によれば、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が、カーボン材料に担持されている。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少する。しかし、粒子径の小さい1nm以上〜3nm未満の金属微粒子がカーボン材料から脱離したとしても、粒子径の大きい3nm以上〜10nm以下の金属微粒子は脱離しない。従って、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体を提供することができる。また、本発明の金属微粒子担持体は、上述した本発明の金属微粒子担持体の製造方法によって、簡便に製造することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、以上のように、溶液中に配置された同一材料からなる1対の放電電極間に、グロー放電によりプラズマを発生させることにより、放電電極を融解して放電電極を構成する金属からなる金属微粒子を形成すると共に、上記金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する金属微粒子担持体形成工程を含み、上記溶液は、カーボン材料を含有する一方、上記金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤を含有しない方法である。それゆえ、金属微粒子を形成しつつ、形成された金属微粒子をカーボン材料に担持するため、金属微粒子担持体を簡便に製造することができるという効果を奏する。
【0042】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、以上のように、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体であって、上記金属微粒子は、透過型電子顕微鏡による粒度分布が1〜10nmの範囲に存在し、かつ、粒子径が1nm以上〜3nm未満の金属微粒子と、3nm以上〜10nm以下の金属微粒子とを含むものである。それゆえ、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の金属微粒子担持体の製造方法に用いられるソリューションプラズマ放電装置を示す概略図である。
【図2】実施例1で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図3】実施例2で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図4】実施例3で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図5】実施例4で製造された白金担持カーボンブラック(Pt−BC)のTEM画像を示す図である。
【図6】実施例5で製造された白金担持カーボンブラック(Pt−BC)のTEM画像を示す図である。
【図7】(a)〜(f)は、実施例6における過酸化水素水溶液の経時変化を示す図である。
【図8】実施例7で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図9】実施例8で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図10】従来の白金担持カーボンブラック(Pt−Vulcan)のTEM画像を示す図である。
【図11】実施例8で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)、実施例9で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)、および比較例の白金担持カーボンブラック(Pt−Vulcan)の特性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の一実施形態について、図1〜図11に基づいて説明する。ただし、本発明の範囲は以下の説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。つまり、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0045】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、グロー放電により溶液中に発生させたプラズマ(ソリューションプラズマ)を用いて金属微粒子を形成しつつ、形成された金属微粒子を、カーボン材料に担持させることによって、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体を製造する。
【0046】
具体的には、本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、溶液中に配置された同一材料からなる1対の放電電極間に、グロー放電によりプラズマを発生させることにより、放電電極を融解して放電電極を構成する金属からなる金属微粒子を形成すると共に、この金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する工程(金属微粒子担持体形成工程)を含んでいる。しかも、溶液中には、カーボン材料が添加されている一方、金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤が添加されていない。
【0047】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、溶液中でグロー放電を行うと、溶液中にプラズマ(ソリューションプラズマ)が発生する。その結果、プラズマにより放電電極が融解し、溶液中にコロイド状の金属微粒子が形成される。さらに、溶液中にはカーボン材料が混入しているため、溶液中に形成された金属微粒子は、プラズマによって、カーボン材料に担持される。このように、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、グロー放電により溶液中に発生させたプラズマによって、金属微粒子の形成と、金属微粒子のカーボン材料への担持とを同時に行い、金属微粒子担持体が形成される。
【0048】
なお、本発明において、「カーボン材料」とは、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンナノホーン、カーボンナノカプセル、フラーレンなどを示す。カーボン材料の形状およびサイズは、特に限定されない。
【0049】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、例えば、図1に示すようなソリューションプラズマ放電装置10を用いて行うことができる。図1は、本発明の金属微粒子担持体の製造方法に用いられるソリューションプラズマ放電装置を示す概略図である。図1に示すように、ソリューションプラズマ放電装置10は、容器6内の溶液5中に設けられた1対の放電電極1と、放電電極1を被覆するセラミックチューブ2と、放電電極1に電圧を印加するプラズマ発生電源3と、プラズマ発生電源3に接続されたアース4とを備えている。
【0050】
放電電極1は、いずれも、カーボン材料への担持を目的とする金属微粒子を構成する金属から構成されている。つまり、1対の放電電極1・1は、同一材料から構成されている。各放電電極1は、溶液5中に露出する部分を有するように、セラミックチューブ2で覆われている。セラミックチューブ2は、放電電極1を固定する役割を果たすが、セラミックチューブ2は用いなくてもよい。また、セラミックチューブ2の代わりに、プラズマにより発熱した気泡の温度に耐えられる材料(例えば、シリコンゴムチューブ等)を使用することもできる。なお、セラミックの耐熱温度は、含有成分によって異なるが、約1500〜1900℃である。また、代表的なシリコンゴムの耐熱温度は、約200℃である。放電電極1・1の、電極間距離,大きさなどは、特に限定されるものではない。
【0051】
放電電極1は、グロー放電によって生じたプラズマによって融解する電極材料(導電性材料)であって、カーボン材料への担持を目的とする金属微粒子を構成する金属から構成されていれば特に限定されるものではない。例えば、放電電極1を構成する金属としては、Au(金),Pt(白金),Ag(銀),パラジウム(Pd),ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),ルテニウム(Ru),オスミウム(Os),Mo(モリブデン)Cu(銅),Zn(亜鉛)などが挙げられる。これにより、放電電極1を構成する金属材料に応じた、単体の金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体を製造することができる。また、金、白金、および銀は、特にプラズマによって融解しやすい。このため、放電電極1は、金、白金、または銀から構成されていることが好ましい。これにより、金微粒子、白金微粒子、銀微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体を効率よく製造することができる。
【0052】
プラズマ発生電源3は、放電電極1に、グロー放電を起こすための電圧を供給する。これにより、放電電極1・1間の領域Aには、グロー放電によりプラズマが発生する。なお、プラズマ発生電源3の条件は、グロー放電によりプラズマが発生する条件であれば、特に限定されるものではない。すなわち、プラズマ発生電源3の電圧値、パルス幅,パルス周波数,パルス波形などは、グロー放電を起こすことができれば特に限定されるものではない。
【0053】
溶液5は、グロー放電によりプラズマを発生させることができれば、特に限定されるものではない。ただし、上述のように、本発明では、従来のソリューションプラズマを用いた金属微粒子の製造方法(特許文献2参照)において、金属微粒子の凝集を抑制するために必須であった分散溶解剤が、溶液5中に添加されていない。溶液5の詳細は後述する。
【0054】
ソリューションプラズマ放電装置10は、プラズマ発生電源3から放電電極1間に、グロー放電を起こすための電圧(好ましくは800V以上)が印加されると、放電電極1・1間の領域Aにプラズマが発生する。さらに、このグロー放電の際、放電電極1・1間に流れる電流により、溶液5が加熱される。これにより、溶液5中、特にプラズマの周囲には、気泡が発生する。電圧印加中に発生した気泡は、プラズマを取り囲み、プラズマ状態が気泡内部で安定化して維持される。プラズマ発生領域である領域Aには、プラズマと、プラズマを内包する気相とからなっている。このように、プラズマ(プラズマ相)の周囲を気相が取り囲み、さらにその気相の周囲を液相が取り囲んでいる。そして、このようなプラズマ状態が放電電極1の融解を促進し、溶液5中に金属微粒子が形成される。さらに、溶液5中には、カーボン材料が含まれているため、溶液5中の金属微粒子は、プラズマによってカーボン材料に担持される。これにより、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体が形成される。
【0055】
なお、容器6内に複数対の放電電極1を設ければ、金属微粒子および金属微粒子担持体の合成速度(製造効率)を上げることが可能である。また、放電電極1の露出長を長くしたり、放電電極3を太くした場合も、溶液5と接触する領域が広がるため、金属微粒子および金属微粒子担持体の合成速度を上げることが可能である。また、金属微粒子担持体を長時間にわたって安定して製造するためには、溶液5の温度や濃度を調整するための装置を付加しておくことが望ましい。また、本発明の金属微粒子担持体の製造方法には、ソリューションプラズマ放電装置10に限らず、公知のソリューションプラズマ放電装置を用いることができる。例えば、本願発明者等によって開示された、特許文献5に記載のソリューションプラズマ放電装置を適用することもできる。
【0056】
以上のように、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、溶液5中に設けられた放電電極1・1に電圧を印加し、グロー放電により放電電極1・1間の領域Aにプラズマを発生させると、放電電極1・1が融解する。その結果、放電電極1・1を構成する金属からなる金属微粒子が形成され、溶液5中に分散する。溶液5中には分散溶解剤が不純物として含まれていないため、金属微粒子が分散した溶液5は、そのまま利用可能である。一方、溶液中にはカーボン材料が含まれているため、溶液中の金属微粒子は、プラズマによってカーボン材料に担持される。これにより、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体が形成される。このように、本発明にかかる金属微粒子担持体の製造方法では、金属微粒子の形成と、その金属微粒子のカーボン材料への担持(金属微粒子担持体の形成)とを、同時に(ワンポットで)行うことができる。さらに、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、分散溶解剤が溶液5中に添加されていないにも拘らず、金属微粒子の凝集が抑制される。このため、分散溶解剤が不純物として溶液中残存することはなく、分散溶解剤を溶液5から除去するための煩雑な処理も必要ない。また、分散溶解剤が、金属微粒子担持体の機能発現を阻害することもない。また、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、グロー放電によってプラズマを発生させるため、放電電極1・1間に流れる電流が、アーク放電の場合よりも大幅に小さい。このため、放電電極1が消耗しにくい。また、カーボン材料が放電電極1に焼きつくこともない。従って、長時間(数十分間)プラズマ状態を維持し、金属微粒子担持体を安定して製造することができる。
【0057】
このように、本発明の金属微粒子担持体の製造方法によれば、グロー放電により溶液5中に発生させたソリューションプラズマによって、金属微粒子を形成しつつ、形成された金属微粒子をカーボン材料に担持する。従って、金属微粒子担持体を簡便に製造することができる。
【0058】
なお、この金属微粒子担持体は、沈殿、濾過、乾燥などの工程を経て取り出す(単離する)ことができる。また、得られた金属微粒子または金属微粒子担持体の結晶や粒径を調整するため、さらに熱処理を加えてもよい。また、本発明において金属微粒子が凝集しない理由としては、溶液5中に分散している金属微粒子または金属コロイドが、プラスまたはマイナスに帯電しており、その周囲を逆の電荷を持つ粒子(例えば、陽イオン、陰イオン、ラジカル、溶媒和電子、水酸化物イオンなど)が取り巻いて熱運動(ブラウン運動)しているためであると考えられる。
【0059】
ところで、カーボン材料は疎水性が高いため、親水性溶媒に溶解しにくい。そこで、特に溶液5が親水性溶媒を含んでいる場合には、溶液5中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を行うことが好ましい。分散工程は、溶液5中にカーボン材料を可溶化するための可溶化処理であるともいえる。分散工程は、例えば、カーボン材料を含有する溶液5を、超音波処理または熱処理することによって、効果的にカーボン材料を溶液5に分散させることができる。分散工程は、カーボン材料の溶液5への分散性を高める処理であるため、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に行えばよい。つまり、分散工程は、上述した金属微粒子担持体を形成する工程前の前処理として行えばよい。
【0060】
このように、プラズマを発生させる前に、予め溶液5中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を行うことによって、より多くのカーボン材料が、溶液5中に分散する。従って、金属微粒子をカーボン材料に担持させる時間を短縮することができる。従って、金属微粒子担持体をより簡便かつ効率的に製造することができる。また、分散工程は、超音波処理または熱処理のような簡単な処理によって、より多くのカーボン材料を、溶液中に分散させることができる。
【0061】
なお、分散工程における熱処理は、溶液5の溶媒の沸点未満で溶液5を加熱すればよい。また、分散工程における熱処理は、溶液5を還流条件下で加熱してもよい。還流条件は、溶液5の溶媒の種類に応じて適宜設定すればよい。溶液5の熱処理は、超音波処理によって溶液5中へのカーボン材料の分散性を高めた後に行うことが好ましい。これにより、簡単な処理によってカーボン材料を溶液5に効果的に分散させることができる。また、分散工程の処理時間は、カーボン材料および溶液5の種類によって変動するため、カーボン材料の分散度合いを考慮して適宜設定すればよい。また、分散工程中は、放電電極1・1を容器6内(溶液5中)に設置せず、分散工程後に放電電極1・1溶液を容器6内(溶液5中)に設置すればよい。
【0062】
また、溶液5のpHは、金属微粒子担持体形成工程前または金属微粒子担持体形成工程中に、5.5〜7.0(中性付近)に調整することが好ましい(pH調整工程)。これにより、カーボン材料への金属微粒子の吸着性を高めることができる。なお、pH調整後の溶液5は、静置することが好ましい。これにより、pH調整後の溶液5のpHが安定する。
【0063】
ところで、本発明の金属微粒子担持体の製造方法によって製造される金属微粒子担持体は、金属微粒子によってカーボン材料が表面修飾されることによって、様々な機能がカーボン材料に付与される。例えば、カーボン材料の表面に金属微粒子を担持させれば、カーボン材料に導電性や触媒機能などの新たな機能を付与することができる。
【0064】
このため、溶液5は、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する特定の成分を含有しないことが好ましい。例えば、溶液5は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、および硫黄の原子、分子、およびイオンを含有しないことが好ましい。この場合、形成された金属微粒子の表面に化学吸着または物理吸着しやすいハロゲンおよび硫黄の各原子、各分子、または各イオンが、溶液中に存在しない。つまり、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する成分(不純物)が、溶液中に存在しない。これにより、金属微粒子のカーボン材料への担持(金属微粒子担持体の形成)が容易になる。従って、より効率的に金属微粒子担持体を製造することができる。また、ハロゲン、硫黄等が、金属微粒子担持体の機能発現を阻害することもない。
【0065】
より具体的には、溶液5としては、過酸化物溶液を例示することができる。ここで、「過酸化物溶液」とは、過酸化物が溶媒中に溶解または分散した液体を示す。「過酸化物」は、例えば、ペルオキシド構造(−O−O−)、ヒドロペルオキシド構造(−O−O−H)、または過カルボン酸構造(−C(=O)−O−O−)を分子内に有する有機化合物、または、過酸化物イオン(O22−)またはヒドロペルオキシド構造(−O−O−H)を分子内に有する無機化合物である。「過酸化物」は、過酸の塩または誘導体とも言い換えられる。また、「過酸化物」は、イオン性過酸化物であることが好ましい。「イオン性過酸化物」は、水や酸などによって、過酸化水素に分解される過酸化物を示す。
【0066】
なお、「過酸化物」の範疇には、過酸化水素(H−O−O−H)も含むものとする。つまり、「過酸化物溶液」とは、過酸化物または過酸化水素が溶媒中に溶解または分散した液体を示す。
【0067】
過酸化物を分散または溶解させる溶媒は、水が一般的であるが、過酸化物を分散または溶解させることができれば有機溶媒や無機酸等を使用することも可能である。
【0068】
このような過酸化物溶液は、金属微粒子の表面に吸着し、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する成分(ハロゲン、硫黄など)などの不純物を含有しない。つまり、過酸化物溶液の成分が金属微粒子の表面に吸着したとしても、金属微粒子のカーボン材料への担持は妨害されにくい。これにより、金属微粒子のカーボン材料への担持(金属微粒子担持体の形成)が容易になる。従って、より効率的に金属微粒子担持体を製造することができる。特に、過酸化水素水溶液は、水素および酸素から構成される単純な分子である。従って、不純物の少ない高純度の金属微粒子担持体を製造することができる。さらに、過酸化水素が分解されたとしても、発生するのは水と酸素のみであるため、安全性の高い金属微粒子担持体の製造方法を実現することができる。
【0069】
溶液5が過酸化物溶液である場合、溶液5中における過酸化物の含有量(過酸化物溶液の濃度)は、特に限定されるものではない。しかし、一般的に濃度が高いほど合成速度や効率が上昇するので、溶液5の濃度(過酸化物の濃度)は飽和濃度に達しない範囲で高い方が望ましい。ただし、濃度が高すぎると不安定になり、金属微粒子が凝集を生じる場合もあるので、溶液5中の過酸化物の含有量は0.01w/w%以上、35.5w/w%以下の範囲内であることが好ましい。これにより、過酸化物溶液中に金属微粒子が凝集を生じることなく金属微粒子担持体を製造することができる。
【0070】
なお、溶液5には、過酸化物溶液以外に、例えば、溶液5の導電性を調整するための電解質等の各種添加剤を含んでいてもよい。しかし、溶液5が添加剤や金属塩等を含有していると、最終的に溶液5から添加剤を除去する処理(工程)が必要になったり、添加剤の成分が金属微粒子の表面に化学吸着または物理吸着したりする可能性がある。また、金属微粒子(特に金属ナノ粒子)としての特性が著しく損なわれる可能性もある。このため、高純度の金属微粒子担持体を簡便に製造するためには、溶液5への添加剤や金属塩等の添加は極力避けることが好ましい。
【0071】
一方、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、上述のように、グロー放電により発生させたプラズマによって、放電電極を融解して金属微粒子が形成される。このため、金属微粒子の生成量はそれほど多くない。そこで、プラズマを発生させる前に、予め溶液5に、放電電極1を構成する金属と同一金属からなる添加用金属微粒子が分散した溶液を添加することが好ましい。すなわち、添加用金属微粒子が分散した溶液を溶液5に添加した後、上述した金属微粒子担持体を形成する工程を行うことが好ましい。添加用金属微粒子は、カーボン材料への担持を目的とする金属微粒子と同一金属から形成されている。このようにプラズマを発生させる前(金属微粒子担持体を形成する前)に、予め溶液5中に添加用金属微粒子が分散した溶液を添加すれば、金属微粒子担持体を形成する工程において、放電電極1が十分に融解するまでは、主に予め添加された添加用金属微粒子が分散した溶液に由来する金属微粒子(添加用金属微粒子)がカーボン材料に担持され、金属微粒子担持体が形成される。また、放電電極1の融解が十分進めば、放電電極1に由来する金属微粒子がカーボン材料に担持され、金属微粒子担持体が形成される。このように、予め添加用金属微粒子が分散した溶液を溶液5に添加しておけば、溶液5中の金属微粒子濃度が上昇する。従って、金属微粒子担持体の担持効率が良くなる。なお、プラズマ発生中(金属微粒子担持体を形成中)に、溶液5中に添加用金属微粒子が分散した溶液を添加した場合も金属微粒子濃度が上昇するため、金属微粒子担持体の担持効率が良くなる。
【0072】
添加用金属微粒子が分散した溶液は、ハロゲンおよび硫黄を含有しない溶媒を用いることが好ましく、溶液5と同一の溶液(ただしカーボン材料を含まない)であることがより好ましい。添加用金属微粒子が分散した溶液の製造方法は、特に限定されるものではないが、溶液5にカーボン材料が添加されていないこと以外は同条件である別のソリューションプラズマ放電装置(便宜上ソリューションプラズマ放電装置10Aとする)を用いて製造することが好ましい。具体的には、ソリューションプラズマ放電装置10Aを用いて、グロー放電により発生させたプラズマにより放電電極1を融解する。これにより、溶液5に金属微粒子が分散した金属微粒子分散溶液が形成される。そして、この金属微粒子分散溶液を、そのまま添加用金属微粒子が分散した溶液として、ソリューションプラズマ放電装置10に添加し、金属微粒子担持体を形成する工程を行う。これにより、金属微粒子担持体の担持効率が良くなり、効率よく金属微粒子担持体を製造することができる。
【0073】
なお、添加用金属微粒子が分散した溶液の添加は、プラズマを発生させて金属微粒子担持体を形成する前であればよい。すなわち、上述の分散工程を行う場合、分散工程前または分散工程後に添加用金属微粒子が分散した溶液を添加すればよい。
【0074】
以上のように、溶液5は、グロー放電によりプラズマを発生させることができる溶液であればよいが、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する特定成分を含有しないことが好ましい。言い換えれば、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害しない原子(例えば、C,H,O,および金属から選択される原子)のみで構成された単純な分子の水溶液であることが好ましい。具体的には、溶液5は、過酸化水素水溶液であることが好ましい。また、溶液5には、予め放電電極1を構成する金属と同一金属からなる添加用金属微粒子が分散した溶液を添加することが好ましい。
【0075】
なお、溶液5を構成する溶質と溶媒との組み合わせ,溶液5の濃度,導電率,pHなどは、目的に応じて設定すればよく、特に限定されるものではない。また、溶液5の種類によってプラズマの発生させやすさが異なる場合や、金属微粒子の種類によって溶液5への分散性が異なる場合がある。このため、溶液5の濃度は、プラズマの発生させやすさ、金属微粒子の種類、金属微粒子の溶液5への分散性を考慮して設定すればよい。また、溶液5の温度も限定されるものではないが、一般的に溶液5の温度が高いほど合成速度や効率が上昇するので、25℃以上沸点以下の範囲内であることが好ましい。
【0076】
最後に、本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、製造過程で形成される金属微粒子は、平均粒子径が500nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。一方、金属微粒子の平均粒子径の下限値は、50nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、1nm以上であることが特に好ましい。これにより、バルク金属とは異なる特異的な性質を有する金属微粒子(金属ナノ粒子)が形成され、その金属微粒子がカーボン材料に担持した金属微粒子担持体を製造することができる。上述した本発明の金属微粒子担持体の製造方法によれば、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が形成され、その金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体が製造される。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少する。このような金属微粒子担持体において、粒子径の小さい金属微粒子がカーボン材料から脱離したとしても、粒子径の大きい金属微粒子は脱離しない。従って、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体を製造することができる。
【0077】
すなわち、本発明の金属微粒子担持体は、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体であって、上記金属微粒子は、透過型電子顕微鏡による粒度分布が1〜10nmの範囲に存在し、かつ、粒子径が1nm以上〜3nm未満の金属微粒子と、3nm以上〜10nm以下の金属微粒子とを含むものである。粒度分布は、金属微粒子の種類によっても異なるが、1nm以上、25nm以下であることが好ましく、1nm以上、10nm以下であることがより好ましい。
【0078】
本発明の金属微粒子担持体は、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が、カーボン材料に担持されている。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少する。しかし、粒子径の小さい1nm以上〜3nm未満の金属微粒子がカーボン材料から脱離したとしても、粒子径の大きい3nm以上〜10nm以下の金属微粒子は脱離しない。すなわち、上記金属微粒子担持体において、粒子径の小さい金属微粒子の含有率が高い場合、金属微粒子の表面積が大きくなる反面、金属微粒子がカーボン材料から脱離しやすい。その結果、金属微粒子担持体の電気特性が低下する。一方、粒子径の大きい金属微粒子の含有率が高い場合、金属微粒子がカーボン材料から脱離しにくい。このため、金属微粒子担持体の電気特性は低下しない。このように、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が、カーボン材料に担持された金属微粒子担持体は、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子担持体となる。また、本発明の金属微粒子担持体は、上述した本発明の金属微粒子担持体の製造方法によって、簡便に製造することができる。
【0079】
このような金属微粒子担持体は、燃料電池の電極用触媒、自動車などの排ガス浄化用、電子材料などの分野において好適に利用することができる。なお、金属微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)観察によって確認することができる。また、金属微粒子の平均粒子径は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)によるAFM像によっても確認することもできる。さらに、溶液5および金属微粒子の種類によっては、金属微粒子が分散した溶液5の色から、金属微粒子の粒子径を確認することができる。
【実施例】
【0080】
以下に、本発明の金属微粒子担持体およびその製造方法について、実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明の金属微粒子担持体およびその製造方法は、以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液100mLにCNT180mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0082】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の超音波処理を3分行った。次に、超音波処理を行った溶液5中に、放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、25分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。図2は、実施例1で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0083】
〔実施例2〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液100mLにCNT200mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0084】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の加熱処理(52℃程度)を10分行った。次に、熱処理を行った溶液5中に、放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、40分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。図3は、実施例2で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0085】
〔実施例3〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液50mLにCNT200mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0086】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の超音波処理を3分行った。この超音波処理後の溶液5を、「A液」とする。
【0087】
一方、溶液5にカーボン材料が添加されていないこと以外は同条件である別のソリューションプラズマ放電装置(便宜上ソリューションプラズマ放電装置10Aとする)を準備した。ソリューションプラズマ放電装置10Aの溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液50mLを用い、放電電極(白金電極)1・1を溶液5中に配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、10分間液中プラズマにより白金ナノ粒子を製造した。その結果、120mgの放電電極1が消耗され、白金ナノ粒子が溶液5に分散した白金ナノ粒子分散溶液が形成された。この白金ナノ粒子分散溶液を、B液とする。
【0088】
次に、上記B液をA液に添加し、混合溶液を撹拌した。そして、この混合溶液中に放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、25分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。図4は、実施例3で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0089】
〔実施例4〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンブラック(BC)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持カーボンブラック(Pt−BC)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として2.3w/w%の過酸化水素水溶液150mLにBC200mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびBC以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0090】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の超音波処理を20分行った。次に、超音波処理を行った溶液5中に、放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、25分間液中プラズマによるBCへの白金担持を行った。図5は、実施例4で製造された白金担持カーボンブラック(Pt−BC)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるBCに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0091】
〔実施例5〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンブラック(BC)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持カーボンブラック(Pt−BC)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として2.3w/w%の過酸化水素水溶液150mLにBC200mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびBC以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0092】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の加熱処理(70℃以下)を15分行った。次に、熱処理を行った溶液5中に、放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、25分間液中プラズマによるBCへの白金担持を行った。図6は、実施例5で製造された白金担持カーボンブラック(Pt−BC)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるBCに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0093】
〔実施例6〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液100mLにCNT150mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。さらに、本実施例では、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、上述した各実施例のような溶液5の前処理(超音波処理、熱処理)を行わなかった。
【0094】
まず、溶液5中に、放電電極1・1を配置した。次に、放電電極1・1間に25分間電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。
【0095】
図7の(a)〜(f)は実施例6における過酸化水素水溶液(溶液5)の経時変化を示す図である。図7の(a)は過酸化水素水溶液のみ、(b)はCNTの添加後、プラズマ発生前の過酸化水素水溶液、(c)はプラズマ発生から1分後の過酸化水素水溶液、(d)はプラズマ発生から2分後の過酸化水素水溶液、(e)はプラズマ発生から6分後の過酸化水素水溶液、(f)はプラズマ発生から10分後の過酸化水素水溶液を示している。
【0096】
図7の(a)のように、過酸化水素水溶液は透明である。図7の(b)のように、過酸化水素水溶液に添加したCNTは、浮いた状態にあり、過酸化水素水溶液に分散していない。つまり、疎水性の高いCNTが過酸化水素水溶液に溶解しにくいことが分かる。一方、図7の(c)のように、プラズマ発生から1分後には、放電電極付近の溶液の色が薄い褐色がかり、白金の融解が確認された。さらに、CNTが徐々に過酸化水素水溶液に親水化し始め、過酸化水素水溶液の底部に溜まっている。図7の(d)のように、プラズマ発生から2分後には、底部のCNTが対流し、プラズマが確認できる程度に、過酸化水素水溶液全体が黒味を帯びている。つまり、過酸化水素水溶液へのCNTの可溶化が促進されていることが分かる。図7の(e)および(f)のように、プラズマ発生から6分以降は、CNTの可溶化がさらに促進され、プラズマが確認できない程、過酸化水素水溶液が黒味を帯びている。このように、疎水性の高いCNTが、プラズマによって、過酸化水素水溶液に分散されることが確認された。さらに、ソリューションプラズマは、プラズマによる高エネルギー状態を過酸化水素水溶液内に閉じ込めており、プラズマの周囲で化学反応が促進される。本実施例では、白金がCNTに担持される反応が促進され、白金担持CNTが製造されている。
【0097】
〔実施例7〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として7w/w%の過酸化水素水溶液70mL(pH5.2)にCNT220mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。さらに、本実施例では、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、上述した各実施例のような溶液5の前処理(超音波処理、熱処理)を行わなかった。
【0098】
まず、溶液5中に、放電電極1・1を配置した。次に、放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、4分間液中プラズマによりCNTの可溶化処理を行った。可溶化処理後の溶液をC液とする。
【0099】
一方、溶液5にカーボン材料(CNT)が添加されていないこと以外は同条件である別のソリューションプラズマ放電装置(便宜上ソリューションプラズマ放電装置10Aとする)を準備した。ソリューションプラズマ放電装置10Aの溶液5として1mMのNaOH水溶液100mLを用い、放電電極(白金電極)1・1を溶液5中に配置した。放電電極1・1間にグロー放電によりプラズマを発生させ16分間電圧を印加し、液中プラズマにより白金ナノ粒子を製造した。その結果、26.6mgの放電電極1が消耗され、白金ナノ粒子が溶液5に分散した白金ナノ粒子分散溶液が形成された。この白金ナノ粒子分散溶液のpHは、9.85であった。この白金ナノ粒子分散溶液を、D液とする。
【0100】
次に、C液にプラズマを発生させた状態で、上記D液100mLをC液に5分間かけて添加し、混合溶液を撹拌した。そして、15分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を2回行った。なお、液中プラズマ処理中、ガラス棒で適宜混合溶液を撹拌した。図8は、実施例7で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。さらに、図8のTEM画像から、粒子径約1.9nm〜約4.4nmの白金ナノ粒子が、CNTに担持されていることが確認された。
【0101】
〔実施例8〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として10.5w/w%の過酸化水素水溶液85mLを用い、放電電極(白金電極)1・1を溶液5中に配置した。溶液5中には、過酸化水素水以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。放電電極1・1間にグロー放電によりプラズマを発生させ16分間電圧を印加し、液中プラズマにより白金ナノ粒子を製造した。その結果、27mgの放電電極1が消耗され、白金ナノ粒子が溶液5に分散した白金ナノ粒子分散溶液が形成された。この白金ナノ粒子分散溶液に、25mMのNaOH水溶液を0.2mL加えた。NaOH水溶液添加後の溶液5のpHは、6.42であった。白金ナノ粒子分散溶液を24時間静置した後、CNT220mgを添加した。
【0102】
次に、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の超音波処理を30分行った。次に、超音波処理を行った溶液5を撹拌しながら、90℃〜95℃の還流条件下で2時間還流した。続いて、放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、15分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。なお、液中プラズマ処理中、ガラス棒で適宜混合溶液を撹拌した。図9は、実施例8で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。さらに、図9のTEM画像から、粒子径約2.7nm〜約5.0nmの白金ナノ粒子が、CNTに担持されていることが確認された。
【0103】
〔実施例8,9の白金担持体と従来の白金担持体との比較〕
上述のように、実施例8のPt−CNTは、図8のTEM画像から、粒子径約1.9nm〜約4.4nmの白金ナノ粒子が、カーボン材料に担持されている。また、実施例9のPt−CNTは、図9のTEM画像から、粒子径約2.7nm〜約5.0nmの白金ナノ粒子が、カーボン材料に担持されている。
【0104】
これに対し、図10は、比較例としての従来の白金担持カーボンブラック(市販の20%Pt−Vulcan;E−TEK社製)のTEM画像を示す図である。図10のTEM画像から、粒子径約2.7nm〜約5.0nmの白金ナノ粒子が、カーボン材料に担持されている。
【0105】
このように、液中プラズマを利用してCNTへの白金担持を行った場合、白金の粒子径は不均一である。これに対し、従来の白金担持カーボンブラックは、特許文献2の方法(金属塩水溶液を利用する方法)で製造されていると考えられるため、白金の粒子径が均一になっていると考えられる。
【0106】
図11は、図8〜10の白金担持体の特性を比較したグラフである。具体的には、図11は、Ptリング−GC(Glassy Carbon)ディスク電極の分極曲線での0.95Vにおける実表面積当たりの電流値(縦軸)を、経時時間ごと(横軸)にプロットしたグラフである。この電気化学測定(回転リングディスク電極測定)は、従来の3電極法を用い、0.05M硫酸水溶液中で測定した。参照電極にはRHE(Reversible Hydrogen Electrode:可溶化水素電極)、対極にはAu線を用い、掃引速度は5mVs−1とした。
【0107】
その結果、図11に示すように、実施例8,9のはPt−CNTは、比較例に比べて、実表面積当たりの電流値が優れていることが確認された。
【0108】
このような結果が得られたのは、比較例では、粒子径が約3nm程度と比較的小さい白金粒子が均一に担持されている。このため、白金粒子がカーボン材料から脱離しやすい。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少するためである。これに対し、実施例8,9のPt−CNTでは、均一な白金粒子ではなく、3nm未満の白金粒子と、3nm以上(3nm〜5nm程度)の白金粒子とが混在している。その結果、凝集する白金粒子が少なくなっているため、実表面積当たりの電流値が比較例を上回っていると結論付けられる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によって製造された金属微粒子担持体は、燃料電池の電極用触媒、自動車などの排ガス浄化用、電子材料などの分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 放電電極
2 セラミックチューブ
3 プラズマ発生電源
4 アース
5 溶液
6 容器
10 ソリューションプラズマ放電装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン材料に金属微粒子が担持された金属微粒子担持体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン材料は、多種多様な産業において欠かすことのできない、極めて重要な物質である。特に、カーボンナノ材料は、電気的特性、機械的特性(強度)などに優れているため、電子デバイス産業、電気化学産業などにおいて利用されている。さらに、カーボンナノ材料は、ナノカプセルや配合成分として、医療産業および化粧品産業などへも応用されている。
【0003】
また、カーボン材料の表面を修飾すれば、カーボン材料が有さない別の機能を付与することができる。これにより、カーボン材料の用途が多様化する。例えば、カーボン材料の表面に金属微粒子を担持させれば、カーボン材料に導電性や触媒機能などの新たな機能を付与することができる。カーボン材料への金属微粒子の担持は、金属微粒子とカーボン材料とを含む水溶液を混合して加熱することによって通常行われる。
【0004】
しかし、カーボンナノ材料は疎水性が高いため、親水性溶媒に溶解しにくい。このため、カーボン材料の水溶液中への分散性を高めるために、可溶化処理が行われる。可溶化処理には、例えば、化学的手法と物理的手法とがある。化学的手法は、酸処理によってカーボン材料の表面に、酸性官能基を導入する方法である。一方、物理的手法は、界面活性剤等の分散剤によってカーボン材料の表面をラッピングする方法である。また、特許文献1には、カーボンナノ材料を過酸化水素水溶液に混入し、水中パルスストリーマ放電を行うことにより、カーボンナノ材料を過酸化水素水溶液へ可溶化することが記載されている。
【0005】
一方、金属微粒子の製造方法として、火炎法やプラズマ法等の気相法、ゾルゲル法等の液相法などが知られている。しかし、気相法も液相法も、工業的に金属微粒子を製造するには問題点がある。そこで近年、金属微粒子を製造する方法として、液中放電によりプラズマを発生させ、その還元作用により金属微粒子を製造する方法が注目されている。このような液体中のプラズマは、主に溶液中で利用されるので「ソリューションプラズマ」と呼ばれる。
【0006】
ソリューションプラズマは、溶液中に対向配置された2つの放電電極間に電圧(高電場)を印加することにより、放電電極間に発生するプラズマである。発生したプラズマの周囲には気泡が発生し、その気泡がプラズマを取り囲んでおり、その気泡の周囲を溶液が取り囲んでいる。つまり、ソリューションプラズマには、プラズマ/気相,気相/液相という2つの界面が存在するという特徴がある。このように、ソリューションプラズマは、プラズマによる「高エネルギー状態」を溶液内に閉じ込めるという状態を実現している。これにより、プラズマの周囲の気相、液相またはその界面で様々な化学反応が促進される。
【0007】
例えば、特許文献2には、ソリューションプラズマを用いた金属ナノ粒子の製造方法が記載されている。具体的には、導電率を調整した金属塩水溶液中に設けられた1対の放電電極間に高電圧を印加してプラズマを発生させることによって、金属塩水溶液中に含まれる金属イオンを還元し、金属ナノ粒子が製造されている。
【0008】
また、特許文献3には、水中に配置された消耗電極間に断続的に強いアーク放電(数十ボルト,数百アンペア)を起こして消耗電極を蒸発気化させることによって、金属微粒子を製造する方法が記載されている。また、特許文献4には、高圧水中において、アーク放電により、元素金属の電極と対極との間でプラズマ水中放電して生ずる金属イオン蒸気を水と接触させて粉末化させることにより、金属粉末を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2007/83681(2007年7月26日公開)
【特許文献2】特開2008−013810号公報(2008年1月24日公開)
【特許文献3】特開平2−166202号公報(1990年6月26日公開)
【特許文献4】WO2003/37553(2003年5月8日公開)
【特許文献5】特開2010−9993号公報(2010年1月14日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2〜4に記載の方法を金属微粒子担持体の製造方法に適用した場合、金属微粒子担持体を簡便に製造することはできないという問題がある。
【0011】
具体的には、金属微粒子の粒子径が小さくなると、金属微粒子が凝集しやすい。特に、粒子径が100nm以下のいわゆる金属ナノ粒子は、著しく凝集しやすい。このため、特許文献2に記載の方法では、形成された金属微粒子(金属ナノ粒子)が時間の経過と共に凝集するのを避けるために、金属塩水溶液へのゼラチン等の分散溶解剤の添加が必要不可欠である。
【0012】
しかし、金属塩水溶液に分散溶解剤を添加した場合、金属塩水溶液中には、分散溶解剤が不純物として残存することになる。このため、金属微粒子をカーボン材料に担持させる前に、分散溶解剤を除去するための処理が必要になる。しかし、金属微粒子を凝集させずに分散溶解剤を除去することは困難である。さらに、分散溶解剤を添加した場合、分散溶解剤が金属微粒子に吸着してしまう。このため、金属微粒子に吸着した分散溶解剤を完全に除去することはできない。このように、分散溶解剤を添加した場合、金属微粒子の凝集を避けることはできるものの、分散溶解剤を除去するための煩雑な処理(工程)が必要になる。従って、特許文献2に記載の方法を金属微粒子担持体の製造方法に適用した場合、金属微粒子担持体を簡便に製造することはできない。
【0013】
また、特許文献3,4に記載の方法は、いずれもアーク放電によりプラズマを発生させることが前提となっている。しかし、アーク放電は、放電電極間に非常に大きな電流が流れるため、放電電極の消耗が著しく激しい。また、金属微粒子を製造する溶液中にカーボン材料を混入し、放電電極を振動させたとしても、カーボン材料が放電電極に焼きついてしまう。そのため、長時間(数十分間)プラズマ状態を維持できるとは到底考えられない。従って、特許文献3,4に記載の方法は、金属微粒子を製造することはできたとしても、その金属微粒子をカーボン材料に担持させることは困難である。つまり、特許文献3,4に記載の方法を金属微粒子担持体の製造方法に適用することは困難である。
【0014】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡便に製造することのできる金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体およびその製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、上記の課題を解決するために、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体の製造方法において、溶液中に配置された同一材料からなる1対の放電電極間に、グロー放電によりプラズマを発生させることにより、放電電極を融解して放電電極を構成する金属からなる金属微粒子を形成すると共に、上記金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する金属微粒子担持体形成工程を含み、上記溶液は、カーボン材料を含有する一方、上記金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤を含有しないことを特徴としている。
【0016】
上記の発明によれば、グロー放電により放電電極間にプラズマを発生させると、放電電極が融解する。その結果、放電電極を構成する金属からなる金属微粒子が形成され、溶液中に分散する。溶液中には分散溶解剤が不純物として含まれていないため、金属微粒子が分散した溶液は、そのまま利用可能である。一方、溶液中にはカーボン材料が含まれているため、溶液中の金属微粒子は、プラズマによってカーボン材料に担持される。これにより、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体が形成される。このように、本発明にかかる金属微粒子担持体の製造方法では、金属微粒子の形成と、その金属微粒子のカーボン材料への担持(金属微粒子担持体の形成)とを、同時に(ワンポットで)行うことができる。
【0017】
さらに、上記の発明によれば、分散溶解剤が溶液中に添加されていないにも拘らず、金属微粒子の凝集が抑制される。このため、分散溶解剤が不純物として溶液中残存することはなく、分散溶解剤を溶液から除去するための煩雑な処理も必要ない。また、分散溶解剤が、金属微粒子担持体の機能発現を阻害することもない。
【0018】
また、上記の発明によれば、グロー放電によってプラズマを発生させるため、放電電極間に流れる電流が、アーク放電の場合よりも大幅に小さい。このため、放電電極が消耗しにくい。また、カーボン材料が放電電極に焼きつくこともない。従って、長時間(数十分間)プラズマ状態を維持し、金属微粒子担持体を安定して製造することができる。
【0019】
このように、本発明によれば、グロー放電により溶液中に発生させたソリューションプラズマによって、金属微粒子を形成しつつ、形成された金属微粒子をカーボン材料に担持する。従って、金属微粒子担持体を簡便に製造することができる。
【0020】
なお、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、放電電極を融解することにより、放電電極を構成する金属からなる金属微粒子が形成される。つまり、金属微粒子の原料は、放電電極から供給される。このため、放電電極は、プラズマによって融解されやすい金属から構成される。これに対し、特許文献2に記載の方法は、金属塩水溶液中の金属イオンを還元することにより、金属塩を構成する金属微粒子を形成する。つまり、金属微粒子の原料は、金属塩水溶液から供給される。このため、放電電極は、プラズマによって融解されにくい金属から構成される。
【0021】
しかも、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、分散溶解剤を添加せずに、金属微粒子の凝集が抑制されている。これに対し、特許文献2に記載の方法では、金属微粒子の凝集を抑制するために、分散溶解剤の添加が必須である。
【0022】
このように、本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、金属微粒子の原料の由来、放電電極を構成する金属、および、分散溶解剤を添加しなくても金属微粒子の凝集を抑制できる点が、特許文献2に記載の方法とは大きく異なる。
【0023】
さらに、グロー放電とアーク放電とでは、放電電極間に流れる電流だけでなく、電界強度(kV/m),温度(K),電子密度(m−3)もが大きく異なる。すなわち、グロー放電(低温プラズマ)の電界強度は、アーク放電(熱プラズマ)の電界強度よりも大きく、グロー放電の温度および電子密度は、アーク放電の温度および電子密度よりも低い(小さい)。このため、プラズマの化学的作用も異なる。従って、金属微粒子の粒子径、金属微粒子の分散性、金属微粒子担持体の生成等も異なる。このように、本願発明のようにグロー放電により発生させたプラズマと、特許文献3,4のようにアーク放電により発生させたプラズマとでは、プラズマの状態が全く異なる。
【0024】
また、上記の発明によれば、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が、カーボン材料に担持された金属微粒子担持体が製造される。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少する。しかし、粒子径の小さい金属微粒子がカーボン材料から脱離したとしても、粒子径の大きい金属微粒子は脱離しない。従って、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体を製造することができる。
【0025】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、上記溶液中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を含み、上記分散工程の後に、上記金属微粒子担持体形成工程を行うことが好ましい。
【0026】
上記の発明によれば、プラズマを発生させる前に、予め溶液中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を行う。これにより、より多くのカーボン材料が、溶液中に分散する。従って、金属微粒子をカーボン材料に担持させる時間を短縮することができる。従って、金属微粒子担持体をより簡便かつ効率的に製造することができる。
【0027】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記分散工程は、上記溶液を、超音波処理または熱処理することが好ましい。
【0028】
上記の発明によれば、分散工程において、カーボン材料を含有する溶液を、超音波処理または熱処理する。従って、簡単な処理によって、より多くのカーボン材料を、溶液中に分散させることができる。
【0029】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記分散工程は、上記溶液を還流条件下で加熱することが好ましい。
【0030】
上記の発明によれば、カーボン材料を含有する溶液を、還流条件下で加熱する。従って、簡単な処理によって、より多くのカーボン材料を、溶液中に分散させることができる。
【0031】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記金属微粒子担持体形成工程前または金属微粒子担持体形成工程中に、上記溶液のpHを、5.5〜7.0に調整するpH調整工程を含むことが好ましい。
【0032】
上記の発明によれば、溶液のpHを5.5〜7.0に調整した後、金属微粒子担持体形成工程を行うか、金属微粒子担持体形成工程中に、溶液のpHを5.5〜7.0に調整する。これにより、カーボン材料への金属微粒子の吸着性を高めることができる。
【0033】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記溶液は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、および硫黄の原子、分子、およびイオンを含有しないことが好ましい。
【0034】
上記の発明によれば、形成された金属微粒子の表面に化学吸着または物理吸着しやすいハロゲンおよび硫黄の各原子、各分子、または各イオンが、溶液中に存在しない。つまり、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する成分(不純物)が、溶液中に存在しない。これにより、金属微粒子のカーボン材料への担持が容易になる。従って、より効率的に金属微粒子担持体を製造することができる。また、ハロゲン、硫黄等が、金属微粒子担持体の機能発現を阻害することもない。
【0035】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記溶液は、過酸化水素水溶液であることが好ましい。
【0036】
上記の発明によれば、水素および酸素から構成される単純な分子の過酸化水素水溶液が溶液として用いられる。つまり、金属微粒子の表面に吸着し、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する成分(ハロゲン、硫黄など)、金属、および金属酸化物などの不純物が、溶液中に存在しない。従って、高純度の金属微粒子担持体を製造することができる。さらに、過酸化水素が分解されたとしても、発生するのは水と酸素のみであるため、安全性の高い金属微粒子担持体の製造方法を実現することができる。
【0037】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、上記溶液に、上記放電電極を構成する金属と同一金属からなる添加用金属微粒子が分散した溶液を添加した後、上記金属微粒子担持体形成工程を行ってもよい。
【0038】
上記の発明によれば、プラズマを発生させる前に、予め溶液中に添加用金属微粒子が分散した溶液が添加される。添加用金属微粒子が分散した溶液中の添加用金属微粒子は、放電電極を構成する金属と同一金属から形成されている。これにより、金属微粒子担持体形成工程において、放電電極が十分に融解するまで、主に予め添加された添加用金属微粒子が分散した溶液に由来する金属微粒子(添加用金属微粒子)がカーボン材料に担持され、金属微粒子担持体が形成される。従って、金属微粒子担持体の担持効率が良くなる。
【0039】
本発明の金属微粒子担持体は、上記の課題を解決するために、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体であって、上記金属微粒子は、透過型電子顕微鏡による粒度分布が1〜10nm(1nm以上〜10nm以下)の範囲に存在し、かつ、粒子径が1nm以上〜3nm未満の金属微粒子と、3nm以上〜10nm以下の金属微粒子とを含むことを特徴としている。
【0040】
上記の発明によれば、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が、カーボン材料に担持されている。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少する。しかし、粒子径の小さい1nm以上〜3nm未満の金属微粒子がカーボン材料から脱離したとしても、粒子径の大きい3nm以上〜10nm以下の金属微粒子は脱離しない。従って、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体を提供することができる。また、本発明の金属微粒子担持体は、上述した本発明の金属微粒子担持体の製造方法によって、簡便に製造することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、以上のように、溶液中に配置された同一材料からなる1対の放電電極間に、グロー放電によりプラズマを発生させることにより、放電電極を融解して放電電極を構成する金属からなる金属微粒子を形成すると共に、上記金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する金属微粒子担持体形成工程を含み、上記溶液は、カーボン材料を含有する一方、上記金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤を含有しない方法である。それゆえ、金属微粒子を形成しつつ、形成された金属微粒子をカーボン材料に担持するため、金属微粒子担持体を簡便に製造することができるという効果を奏する。
【0042】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、以上のように、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体であって、上記金属微粒子は、透過型電子顕微鏡による粒度分布が1〜10nmの範囲に存在し、かつ、粒子径が1nm以上〜3nm未満の金属微粒子と、3nm以上〜10nm以下の金属微粒子とを含むものである。それゆえ、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の金属微粒子担持体の製造方法に用いられるソリューションプラズマ放電装置を示す概略図である。
【図2】実施例1で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図3】実施例2で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図4】実施例3で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図5】実施例4で製造された白金担持カーボンブラック(Pt−BC)のTEM画像を示す図である。
【図6】実施例5で製造された白金担持カーボンブラック(Pt−BC)のTEM画像を示す図である。
【図7】(a)〜(f)は、実施例6における過酸化水素水溶液の経時変化を示す図である。
【図8】実施例7で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図9】実施例8で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。
【図10】従来の白金担持カーボンブラック(Pt−Vulcan)のTEM画像を示す図である。
【図11】実施例8で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)、実施例9で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)、および比較例の白金担持カーボンブラック(Pt−Vulcan)の特性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の一実施形態について、図1〜図11に基づいて説明する。ただし、本発明の範囲は以下の説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。つまり、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0045】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、グロー放電により溶液中に発生させたプラズマ(ソリューションプラズマ)を用いて金属微粒子を形成しつつ、形成された金属微粒子を、カーボン材料に担持させることによって、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体を製造する。
【0046】
具体的には、本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、溶液中に配置された同一材料からなる1対の放電電極間に、グロー放電によりプラズマを発生させることにより、放電電極を融解して放電電極を構成する金属からなる金属微粒子を形成すると共に、この金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する工程(金属微粒子担持体形成工程)を含んでいる。しかも、溶液中には、カーボン材料が添加されている一方、金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤が添加されていない。
【0047】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、溶液中でグロー放電を行うと、溶液中にプラズマ(ソリューションプラズマ)が発生する。その結果、プラズマにより放電電極が融解し、溶液中にコロイド状の金属微粒子が形成される。さらに、溶液中にはカーボン材料が混入しているため、溶液中に形成された金属微粒子は、プラズマによって、カーボン材料に担持される。このように、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、グロー放電により溶液中に発生させたプラズマによって、金属微粒子の形成と、金属微粒子のカーボン材料への担持とを同時に行い、金属微粒子担持体が形成される。
【0048】
なお、本発明において、「カーボン材料」とは、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンナノホーン、カーボンナノカプセル、フラーレンなどを示す。カーボン材料の形状およびサイズは、特に限定されない。
【0049】
本発明の金属微粒子担持体の製造方法は、例えば、図1に示すようなソリューションプラズマ放電装置10を用いて行うことができる。図1は、本発明の金属微粒子担持体の製造方法に用いられるソリューションプラズマ放電装置を示す概略図である。図1に示すように、ソリューションプラズマ放電装置10は、容器6内の溶液5中に設けられた1対の放電電極1と、放電電極1を被覆するセラミックチューブ2と、放電電極1に電圧を印加するプラズマ発生電源3と、プラズマ発生電源3に接続されたアース4とを備えている。
【0050】
放電電極1は、いずれも、カーボン材料への担持を目的とする金属微粒子を構成する金属から構成されている。つまり、1対の放電電極1・1は、同一材料から構成されている。各放電電極1は、溶液5中に露出する部分を有するように、セラミックチューブ2で覆われている。セラミックチューブ2は、放電電極1を固定する役割を果たすが、セラミックチューブ2は用いなくてもよい。また、セラミックチューブ2の代わりに、プラズマにより発熱した気泡の温度に耐えられる材料(例えば、シリコンゴムチューブ等)を使用することもできる。なお、セラミックの耐熱温度は、含有成分によって異なるが、約1500〜1900℃である。また、代表的なシリコンゴムの耐熱温度は、約200℃である。放電電極1・1の、電極間距離,大きさなどは、特に限定されるものではない。
【0051】
放電電極1は、グロー放電によって生じたプラズマによって融解する電極材料(導電性材料)であって、カーボン材料への担持を目的とする金属微粒子を構成する金属から構成されていれば特に限定されるものではない。例えば、放電電極1を構成する金属としては、Au(金),Pt(白金),Ag(銀),パラジウム(Pd),ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),ルテニウム(Ru),オスミウム(Os),Mo(モリブデン)Cu(銅),Zn(亜鉛)などが挙げられる。これにより、放電電極1を構成する金属材料に応じた、単体の金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体を製造することができる。また、金、白金、および銀は、特にプラズマによって融解しやすい。このため、放電電極1は、金、白金、または銀から構成されていることが好ましい。これにより、金微粒子、白金微粒子、銀微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体を効率よく製造することができる。
【0052】
プラズマ発生電源3は、放電電極1に、グロー放電を起こすための電圧を供給する。これにより、放電電極1・1間の領域Aには、グロー放電によりプラズマが発生する。なお、プラズマ発生電源3の条件は、グロー放電によりプラズマが発生する条件であれば、特に限定されるものではない。すなわち、プラズマ発生電源3の電圧値、パルス幅,パルス周波数,パルス波形などは、グロー放電を起こすことができれば特に限定されるものではない。
【0053】
溶液5は、グロー放電によりプラズマを発生させることができれば、特に限定されるものではない。ただし、上述のように、本発明では、従来のソリューションプラズマを用いた金属微粒子の製造方法(特許文献2参照)において、金属微粒子の凝集を抑制するために必須であった分散溶解剤が、溶液5中に添加されていない。溶液5の詳細は後述する。
【0054】
ソリューションプラズマ放電装置10は、プラズマ発生電源3から放電電極1間に、グロー放電を起こすための電圧(好ましくは800V以上)が印加されると、放電電極1・1間の領域Aにプラズマが発生する。さらに、このグロー放電の際、放電電極1・1間に流れる電流により、溶液5が加熱される。これにより、溶液5中、特にプラズマの周囲には、気泡が発生する。電圧印加中に発生した気泡は、プラズマを取り囲み、プラズマ状態が気泡内部で安定化して維持される。プラズマ発生領域である領域Aには、プラズマと、プラズマを内包する気相とからなっている。このように、プラズマ(プラズマ相)の周囲を気相が取り囲み、さらにその気相の周囲を液相が取り囲んでいる。そして、このようなプラズマ状態が放電電極1の融解を促進し、溶液5中に金属微粒子が形成される。さらに、溶液5中には、カーボン材料が含まれているため、溶液5中の金属微粒子は、プラズマによってカーボン材料に担持される。これにより、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体が形成される。
【0055】
なお、容器6内に複数対の放電電極1を設ければ、金属微粒子および金属微粒子担持体の合成速度(製造効率)を上げることが可能である。また、放電電極1の露出長を長くしたり、放電電極3を太くした場合も、溶液5と接触する領域が広がるため、金属微粒子および金属微粒子担持体の合成速度を上げることが可能である。また、金属微粒子担持体を長時間にわたって安定して製造するためには、溶液5の温度や濃度を調整するための装置を付加しておくことが望ましい。また、本発明の金属微粒子担持体の製造方法には、ソリューションプラズマ放電装置10に限らず、公知のソリューションプラズマ放電装置を用いることができる。例えば、本願発明者等によって開示された、特許文献5に記載のソリューションプラズマ放電装置を適用することもできる。
【0056】
以上のように、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、溶液5中に設けられた放電電極1・1に電圧を印加し、グロー放電により放電電極1・1間の領域Aにプラズマを発生させると、放電電極1・1が融解する。その結果、放電電極1・1を構成する金属からなる金属微粒子が形成され、溶液5中に分散する。溶液5中には分散溶解剤が不純物として含まれていないため、金属微粒子が分散した溶液5は、そのまま利用可能である。一方、溶液中にはカーボン材料が含まれているため、溶液中の金属微粒子は、プラズマによってカーボン材料に担持される。これにより、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体が形成される。このように、本発明にかかる金属微粒子担持体の製造方法では、金属微粒子の形成と、その金属微粒子のカーボン材料への担持(金属微粒子担持体の形成)とを、同時に(ワンポットで)行うことができる。さらに、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、分散溶解剤が溶液5中に添加されていないにも拘らず、金属微粒子の凝集が抑制される。このため、分散溶解剤が不純物として溶液中残存することはなく、分散溶解剤を溶液5から除去するための煩雑な処理も必要ない。また、分散溶解剤が、金属微粒子担持体の機能発現を阻害することもない。また、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、グロー放電によってプラズマを発生させるため、放電電極1・1間に流れる電流が、アーク放電の場合よりも大幅に小さい。このため、放電電極1が消耗しにくい。また、カーボン材料が放電電極1に焼きつくこともない。従って、長時間(数十分間)プラズマ状態を維持し、金属微粒子担持体を安定して製造することができる。
【0057】
このように、本発明の金属微粒子担持体の製造方法によれば、グロー放電により溶液5中に発生させたソリューションプラズマによって、金属微粒子を形成しつつ、形成された金属微粒子をカーボン材料に担持する。従って、金属微粒子担持体を簡便に製造することができる。
【0058】
なお、この金属微粒子担持体は、沈殿、濾過、乾燥などの工程を経て取り出す(単離する)ことができる。また、得られた金属微粒子または金属微粒子担持体の結晶や粒径を調整するため、さらに熱処理を加えてもよい。また、本発明において金属微粒子が凝集しない理由としては、溶液5中に分散している金属微粒子または金属コロイドが、プラスまたはマイナスに帯電しており、その周囲を逆の電荷を持つ粒子(例えば、陽イオン、陰イオン、ラジカル、溶媒和電子、水酸化物イオンなど)が取り巻いて熱運動(ブラウン運動)しているためであると考えられる。
【0059】
ところで、カーボン材料は疎水性が高いため、親水性溶媒に溶解しにくい。そこで、特に溶液5が親水性溶媒を含んでいる場合には、溶液5中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を行うことが好ましい。分散工程は、溶液5中にカーボン材料を可溶化するための可溶化処理であるともいえる。分散工程は、例えば、カーボン材料を含有する溶液5を、超音波処理または熱処理することによって、効果的にカーボン材料を溶液5に分散させることができる。分散工程は、カーボン材料の溶液5への分散性を高める処理であるため、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に行えばよい。つまり、分散工程は、上述した金属微粒子担持体を形成する工程前の前処理として行えばよい。
【0060】
このように、プラズマを発生させる前に、予め溶液5中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を行うことによって、より多くのカーボン材料が、溶液5中に分散する。従って、金属微粒子をカーボン材料に担持させる時間を短縮することができる。従って、金属微粒子担持体をより簡便かつ効率的に製造することができる。また、分散工程は、超音波処理または熱処理のような簡単な処理によって、より多くのカーボン材料を、溶液中に分散させることができる。
【0061】
なお、分散工程における熱処理は、溶液5の溶媒の沸点未満で溶液5を加熱すればよい。また、分散工程における熱処理は、溶液5を還流条件下で加熱してもよい。還流条件は、溶液5の溶媒の種類に応じて適宜設定すればよい。溶液5の熱処理は、超音波処理によって溶液5中へのカーボン材料の分散性を高めた後に行うことが好ましい。これにより、簡単な処理によってカーボン材料を溶液5に効果的に分散させることができる。また、分散工程の処理時間は、カーボン材料および溶液5の種類によって変動するため、カーボン材料の分散度合いを考慮して適宜設定すればよい。また、分散工程中は、放電電極1・1を容器6内(溶液5中)に設置せず、分散工程後に放電電極1・1溶液を容器6内(溶液5中)に設置すればよい。
【0062】
また、溶液5のpHは、金属微粒子担持体形成工程前または金属微粒子担持体形成工程中に、5.5〜7.0(中性付近)に調整することが好ましい(pH調整工程)。これにより、カーボン材料への金属微粒子の吸着性を高めることができる。なお、pH調整後の溶液5は、静置することが好ましい。これにより、pH調整後の溶液5のpHが安定する。
【0063】
ところで、本発明の金属微粒子担持体の製造方法によって製造される金属微粒子担持体は、金属微粒子によってカーボン材料が表面修飾されることによって、様々な機能がカーボン材料に付与される。例えば、カーボン材料の表面に金属微粒子を担持させれば、カーボン材料に導電性や触媒機能などの新たな機能を付与することができる。
【0064】
このため、溶液5は、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する特定の成分を含有しないことが好ましい。例えば、溶液5は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、および硫黄の原子、分子、およびイオンを含有しないことが好ましい。この場合、形成された金属微粒子の表面に化学吸着または物理吸着しやすいハロゲンおよび硫黄の各原子、各分子、または各イオンが、溶液中に存在しない。つまり、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する成分(不純物)が、溶液中に存在しない。これにより、金属微粒子のカーボン材料への担持(金属微粒子担持体の形成)が容易になる。従って、より効率的に金属微粒子担持体を製造することができる。また、ハロゲン、硫黄等が、金属微粒子担持体の機能発現を阻害することもない。
【0065】
より具体的には、溶液5としては、過酸化物溶液を例示することができる。ここで、「過酸化物溶液」とは、過酸化物が溶媒中に溶解または分散した液体を示す。「過酸化物」は、例えば、ペルオキシド構造(−O−O−)、ヒドロペルオキシド構造(−O−O−H)、または過カルボン酸構造(−C(=O)−O−O−)を分子内に有する有機化合物、または、過酸化物イオン(O22−)またはヒドロペルオキシド構造(−O−O−H)を分子内に有する無機化合物である。「過酸化物」は、過酸の塩または誘導体とも言い換えられる。また、「過酸化物」は、イオン性過酸化物であることが好ましい。「イオン性過酸化物」は、水や酸などによって、過酸化水素に分解される過酸化物を示す。
【0066】
なお、「過酸化物」の範疇には、過酸化水素(H−O−O−H)も含むものとする。つまり、「過酸化物溶液」とは、過酸化物または過酸化水素が溶媒中に溶解または分散した液体を示す。
【0067】
過酸化物を分散または溶解させる溶媒は、水が一般的であるが、過酸化物を分散または溶解させることができれば有機溶媒や無機酸等を使用することも可能である。
【0068】
このような過酸化物溶液は、金属微粒子の表面に吸着し、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する成分(ハロゲン、硫黄など)などの不純物を含有しない。つまり、過酸化物溶液の成分が金属微粒子の表面に吸着したとしても、金属微粒子のカーボン材料への担持は妨害されにくい。これにより、金属微粒子のカーボン材料への担持(金属微粒子担持体の形成)が容易になる。従って、より効率的に金属微粒子担持体を製造することができる。特に、過酸化水素水溶液は、水素および酸素から構成される単純な分子である。従って、不純物の少ない高純度の金属微粒子担持体を製造することができる。さらに、過酸化水素が分解されたとしても、発生するのは水と酸素のみであるため、安全性の高い金属微粒子担持体の製造方法を実現することができる。
【0069】
溶液5が過酸化物溶液である場合、溶液5中における過酸化物の含有量(過酸化物溶液の濃度)は、特に限定されるものではない。しかし、一般的に濃度が高いほど合成速度や効率が上昇するので、溶液5の濃度(過酸化物の濃度)は飽和濃度に達しない範囲で高い方が望ましい。ただし、濃度が高すぎると不安定になり、金属微粒子が凝集を生じる場合もあるので、溶液5中の過酸化物の含有量は0.01w/w%以上、35.5w/w%以下の範囲内であることが好ましい。これにより、過酸化物溶液中に金属微粒子が凝集を生じることなく金属微粒子担持体を製造することができる。
【0070】
なお、溶液5には、過酸化物溶液以外に、例えば、溶液5の導電性を調整するための電解質等の各種添加剤を含んでいてもよい。しかし、溶液5が添加剤や金属塩等を含有していると、最終的に溶液5から添加剤を除去する処理(工程)が必要になったり、添加剤の成分が金属微粒子の表面に化学吸着または物理吸着したりする可能性がある。また、金属微粒子(特に金属ナノ粒子)としての特性が著しく損なわれる可能性もある。このため、高純度の金属微粒子担持体を簡便に製造するためには、溶液5への添加剤や金属塩等の添加は極力避けることが好ましい。
【0071】
一方、本発明の金属微粒子担持体の製造方法では、上述のように、グロー放電により発生させたプラズマによって、放電電極を融解して金属微粒子が形成される。このため、金属微粒子の生成量はそれほど多くない。そこで、プラズマを発生させる前に、予め溶液5に、放電電極1を構成する金属と同一金属からなる添加用金属微粒子が分散した溶液を添加することが好ましい。すなわち、添加用金属微粒子が分散した溶液を溶液5に添加した後、上述した金属微粒子担持体を形成する工程を行うことが好ましい。添加用金属微粒子は、カーボン材料への担持を目的とする金属微粒子と同一金属から形成されている。このようにプラズマを発生させる前(金属微粒子担持体を形成する前)に、予め溶液5中に添加用金属微粒子が分散した溶液を添加すれば、金属微粒子担持体を形成する工程において、放電電極1が十分に融解するまでは、主に予め添加された添加用金属微粒子が分散した溶液に由来する金属微粒子(添加用金属微粒子)がカーボン材料に担持され、金属微粒子担持体が形成される。また、放電電極1の融解が十分進めば、放電電極1に由来する金属微粒子がカーボン材料に担持され、金属微粒子担持体が形成される。このように、予め添加用金属微粒子が分散した溶液を溶液5に添加しておけば、溶液5中の金属微粒子濃度が上昇する。従って、金属微粒子担持体の担持効率が良くなる。なお、プラズマ発生中(金属微粒子担持体を形成中)に、溶液5中に添加用金属微粒子が分散した溶液を添加した場合も金属微粒子濃度が上昇するため、金属微粒子担持体の担持効率が良くなる。
【0072】
添加用金属微粒子が分散した溶液は、ハロゲンおよび硫黄を含有しない溶媒を用いることが好ましく、溶液5と同一の溶液(ただしカーボン材料を含まない)であることがより好ましい。添加用金属微粒子が分散した溶液の製造方法は、特に限定されるものではないが、溶液5にカーボン材料が添加されていないこと以外は同条件である別のソリューションプラズマ放電装置(便宜上ソリューションプラズマ放電装置10Aとする)を用いて製造することが好ましい。具体的には、ソリューションプラズマ放電装置10Aを用いて、グロー放電により発生させたプラズマにより放電電極1を融解する。これにより、溶液5に金属微粒子が分散した金属微粒子分散溶液が形成される。そして、この金属微粒子分散溶液を、そのまま添加用金属微粒子が分散した溶液として、ソリューションプラズマ放電装置10に添加し、金属微粒子担持体を形成する工程を行う。これにより、金属微粒子担持体の担持効率が良くなり、効率よく金属微粒子担持体を製造することができる。
【0073】
なお、添加用金属微粒子が分散した溶液の添加は、プラズマを発生させて金属微粒子担持体を形成する前であればよい。すなわち、上述の分散工程を行う場合、分散工程前または分散工程後に添加用金属微粒子が分散した溶液を添加すればよい。
【0074】
以上のように、溶液5は、グロー放電によりプラズマを発生させることができる溶液であればよいが、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害する特定成分を含有しないことが好ましい。言い換えれば、金属微粒子のカーボン材料への担持を妨害しない原子(例えば、C,H,O,および金属から選択される原子)のみで構成された単純な分子の水溶液であることが好ましい。具体的には、溶液5は、過酸化水素水溶液であることが好ましい。また、溶液5には、予め放電電極1を構成する金属と同一金属からなる添加用金属微粒子が分散した溶液を添加することが好ましい。
【0075】
なお、溶液5を構成する溶質と溶媒との組み合わせ,溶液5の濃度,導電率,pHなどは、目的に応じて設定すればよく、特に限定されるものではない。また、溶液5の種類によってプラズマの発生させやすさが異なる場合や、金属微粒子の種類によって溶液5への分散性が異なる場合がある。このため、溶液5の濃度は、プラズマの発生させやすさ、金属微粒子の種類、金属微粒子の溶液5への分散性を考慮して設定すればよい。また、溶液5の温度も限定されるものではないが、一般的に溶液5の温度が高いほど合成速度や効率が上昇するので、25℃以上沸点以下の範囲内であることが好ましい。
【0076】
最後に、本発明の金属微粒子担持体の製造方法において、製造過程で形成される金属微粒子は、平均粒子径が500nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。一方、金属微粒子の平均粒子径の下限値は、50nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、1nm以上であることが特に好ましい。これにより、バルク金属とは異なる特異的な性質を有する金属微粒子(金属ナノ粒子)が形成され、その金属微粒子がカーボン材料に担持した金属微粒子担持体を製造することができる。上述した本発明の金属微粒子担持体の製造方法によれば、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が形成され、その金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体が製造される。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少する。このような金属微粒子担持体において、粒子径の小さい金属微粒子がカーボン材料から脱離したとしても、粒子径の大きい金属微粒子は脱離しない。従って、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子をカーボン材料に担持させた金属微粒子担持体を製造することができる。
【0077】
すなわち、本発明の金属微粒子担持体は、金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体であって、上記金属微粒子は、透過型電子顕微鏡による粒度分布が1〜10nmの範囲に存在し、かつ、粒子径が1nm以上〜3nm未満の金属微粒子と、3nm以上〜10nm以下の金属微粒子とを含むものである。粒度分布は、金属微粒子の種類によっても異なるが、1nm以上、25nm以下であることが好ましく、1nm以上、10nm以下であることがより好ましい。
【0078】
本発明の金属微粒子担持体は、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が、カーボン材料に担持されている。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少する。しかし、粒子径の小さい1nm以上〜3nm未満の金属微粒子がカーボン材料から脱離したとしても、粒子径の大きい3nm以上〜10nm以下の金属微粒子は脱離しない。すなわち、上記金属微粒子担持体において、粒子径の小さい金属微粒子の含有率が高い場合、金属微粒子の表面積が大きくなる反面、金属微粒子がカーボン材料から脱離しやすい。その結果、金属微粒子担持体の電気特性が低下する。一方、粒子径の大きい金属微粒子の含有率が高い場合、金属微粒子がカーボン材料から脱離しにくい。このため、金属微粒子担持体の電気特性は低下しない。このように、粒子径が不均一な(粒度分布にばらつきのある)金属微粒子が、カーボン材料に担持された金属微粒子担持体は、従来よりも電気特性に優れた金属微粒子担持体となる。また、本発明の金属微粒子担持体は、上述した本発明の金属微粒子担持体の製造方法によって、簡便に製造することができる。
【0079】
このような金属微粒子担持体は、燃料電池の電極用触媒、自動車などの排ガス浄化用、電子材料などの分野において好適に利用することができる。なお、金属微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)観察によって確認することができる。また、金属微粒子の平均粒子径は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)によるAFM像によっても確認することもできる。さらに、溶液5および金属微粒子の種類によっては、金属微粒子が分散した溶液5の色から、金属微粒子の粒子径を確認することができる。
【実施例】
【0080】
以下に、本発明の金属微粒子担持体およびその製造方法について、実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明の金属微粒子担持体およびその製造方法は、以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液100mLにCNT180mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0082】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の超音波処理を3分行った。次に、超音波処理を行った溶液5中に、放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、25分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。図2は、実施例1で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0083】
〔実施例2〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液100mLにCNT200mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0084】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の加熱処理(52℃程度)を10分行った。次に、熱処理を行った溶液5中に、放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、40分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。図3は、実施例2で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0085】
〔実施例3〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液50mLにCNT200mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0086】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の超音波処理を3分行った。この超音波処理後の溶液5を、「A液」とする。
【0087】
一方、溶液5にカーボン材料が添加されていないこと以外は同条件である別のソリューションプラズマ放電装置(便宜上ソリューションプラズマ放電装置10Aとする)を準備した。ソリューションプラズマ放電装置10Aの溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液50mLを用い、放電電極(白金電極)1・1を溶液5中に配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、10分間液中プラズマにより白金ナノ粒子を製造した。その結果、120mgの放電電極1が消耗され、白金ナノ粒子が溶液5に分散した白金ナノ粒子分散溶液が形成された。この白金ナノ粒子分散溶液を、B液とする。
【0088】
次に、上記B液をA液に添加し、混合溶液を撹拌した。そして、この混合溶液中に放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、25分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。図4は、実施例3で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0089】
〔実施例4〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンブラック(BC)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持カーボンブラック(Pt−BC)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として2.3w/w%の過酸化水素水溶液150mLにBC200mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびBC以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0090】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の超音波処理を20分行った。次に、超音波処理を行った溶液5中に、放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、25分間液中プラズマによるBCへの白金担持を行った。図5は、実施例4で製造された白金担持カーボンブラック(Pt−BC)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるBCに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0091】
〔実施例5〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンブラック(BC)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持カーボンブラック(Pt−BC)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として2.3w/w%の過酸化水素水溶液150mLにBC200mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびBC以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。
【0092】
まず、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の加熱処理(70℃以下)を15分行った。次に、熱処理を行った溶液5中に、放電電極1・1を配置した。放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、25分間液中プラズマによるBCへの白金担持を行った。図6は、実施例5で製造された白金担持カーボンブラック(Pt−BC)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるBCに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。
【0093】
〔実施例6〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として3.5w/w%の過酸化水素水溶液100mLにCNT150mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。さらに、本実施例では、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、上述した各実施例のような溶液5の前処理(超音波処理、熱処理)を行わなかった。
【0094】
まず、溶液5中に、放電電極1・1を配置した。次に、放電電極1・1間に25分間電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。
【0095】
図7の(a)〜(f)は実施例6における過酸化水素水溶液(溶液5)の経時変化を示す図である。図7の(a)は過酸化水素水溶液のみ、(b)はCNTの添加後、プラズマ発生前の過酸化水素水溶液、(c)はプラズマ発生から1分後の過酸化水素水溶液、(d)はプラズマ発生から2分後の過酸化水素水溶液、(e)はプラズマ発生から6分後の過酸化水素水溶液、(f)はプラズマ発生から10分後の過酸化水素水溶液を示している。
【0096】
図7の(a)のように、過酸化水素水溶液は透明である。図7の(b)のように、過酸化水素水溶液に添加したCNTは、浮いた状態にあり、過酸化水素水溶液に分散していない。つまり、疎水性の高いCNTが過酸化水素水溶液に溶解しにくいことが分かる。一方、図7の(c)のように、プラズマ発生から1分後には、放電電極付近の溶液の色が薄い褐色がかり、白金の融解が確認された。さらに、CNTが徐々に過酸化水素水溶液に親水化し始め、過酸化水素水溶液の底部に溜まっている。図7の(d)のように、プラズマ発生から2分後には、底部のCNTが対流し、プラズマが確認できる程度に、過酸化水素水溶液全体が黒味を帯びている。つまり、過酸化水素水溶液へのCNTの可溶化が促進されていることが分かる。図7の(e)および(f)のように、プラズマ発生から6分以降は、CNTの可溶化がさらに促進され、プラズマが確認できない程、過酸化水素水溶液が黒味を帯びている。このように、疎水性の高いCNTが、プラズマによって、過酸化水素水溶液に分散されることが確認された。さらに、ソリューションプラズマは、プラズマによる高エネルギー状態を過酸化水素水溶液内に閉じ込めており、プラズマの周囲で化学反応が促進される。本実施例では、白金がCNTに担持される反応が促進され、白金担持CNTが製造されている。
【0097】
〔実施例7〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持CNT(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として7w/w%の過酸化水素水溶液70mL(pH5.2)にCNT220mgを添加した溶液を用いた。溶液5中には、過酸化水素水およびCNT以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。さらに、本実施例では、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、上述した各実施例のような溶液5の前処理(超音波処理、熱処理)を行わなかった。
【0098】
まず、溶液5中に、放電電極1・1を配置した。次に、放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、4分間液中プラズマによりCNTの可溶化処理を行った。可溶化処理後の溶液をC液とする。
【0099】
一方、溶液5にカーボン材料(CNT)が添加されていないこと以外は同条件である別のソリューションプラズマ放電装置(便宜上ソリューションプラズマ放電装置10Aとする)を準備した。ソリューションプラズマ放電装置10Aの溶液5として1mMのNaOH水溶液100mLを用い、放電電極(白金電極)1・1を溶液5中に配置した。放電電極1・1間にグロー放電によりプラズマを発生させ16分間電圧を印加し、液中プラズマにより白金ナノ粒子を製造した。その結果、26.6mgの放電電極1が消耗され、白金ナノ粒子が溶液5に分散した白金ナノ粒子分散溶液が形成された。この白金ナノ粒子分散溶液のpHは、9.85であった。この白金ナノ粒子分散溶液を、D液とする。
【0100】
次に、C液にプラズマを発生させた状態で、上記D液100mLをC液に5分間かけて添加し、混合溶液を撹拌した。そして、15分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を2回行った。なお、液中プラズマ処理中、ガラス棒で適宜混合溶液を撹拌した。図8は、実施例7で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM画像を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。さらに、図8のTEM画像から、粒子径約1.9nm〜約4.4nmの白金ナノ粒子が、CNTに担持されていることが確認された。
【0101】
〔実施例8〕
図1のソリューションプラズマ放電装置10を用い、カーボンナノチューブ(CNT)に白金ナノ粒子を担持させた金属微粒子担持体として、白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)を製造した。具体的には、各放電電極1として純度99.9%、直径1mmの白金電極を用い、放電電極間1・1間距離を0.5mmとし、溶液5として10.5w/w%の過酸化水素水溶液85mLを用い、放電電極(白金電極)1・1を溶液5中に配置した。溶液5中には、過酸化水素水以外に、分散溶解剤等の添加剤が添加されていない。放電電極1・1間にグロー放電によりプラズマを発生させ16分間電圧を印加し、液中プラズマにより白金ナノ粒子を製造した。その結果、27mgの放電電極1が消耗され、白金ナノ粒子が溶液5に分散した白金ナノ粒子分散溶液が形成された。この白金ナノ粒子分散溶液に、25mMのNaOH水溶液を0.2mL加えた。NaOH水溶液添加後の溶液5のpHは、6.42であった。白金ナノ粒子分散溶液を24時間静置した後、CNT220mgを添加した。
【0102】
次に、放電電極1・1間にプラズマを発生させる前に、溶液5の超音波処理を30分行った。次に、超音波処理を行った溶液5を撹拌しながら、90℃〜95℃の還流条件下で2時間還流した。続いて、放電電極1・1間に電圧を印加しグロー放電によりプラズマを発生させ、15分間液中プラズマによるCNTへの白金担持を行った。なお、液中プラズマ処理中、ガラス棒で適宜混合溶液を撹拌した。図9は、実施例8で製造された白金担持カーボンナノチューブ(Pt−CNT)のTEM写真を示す図である。同図に示すように、担体であるCNTに、小さな黒点で示される白金ナノ粒子が担持されていることが確認された。さらに、図9のTEM画像から、粒子径約2.7nm〜約5.0nmの白金ナノ粒子が、CNTに担持されていることが確認された。
【0103】
〔実施例8,9の白金担持体と従来の白金担持体との比較〕
上述のように、実施例8のPt−CNTは、図8のTEM画像から、粒子径約1.9nm〜約4.4nmの白金ナノ粒子が、カーボン材料に担持されている。また、実施例9のPt−CNTは、図9のTEM画像から、粒子径約2.7nm〜約5.0nmの白金ナノ粒子が、カーボン材料に担持されている。
【0104】
これに対し、図10は、比較例としての従来の白金担持カーボンブラック(市販の20%Pt−Vulcan;E−TEK社製)のTEM画像を示す図である。図10のTEM画像から、粒子径約2.7nm〜約5.0nmの白金ナノ粒子が、カーボン材料に担持されている。
【0105】
このように、液中プラズマを利用してCNTへの白金担持を行った場合、白金の粒子径は不均一である。これに対し、従来の白金担持カーボンブラックは、特許文献2の方法(金属塩水溶液を利用する方法)で製造されていると考えられるため、白金の粒子径が均一になっていると考えられる。
【0106】
図11は、図8〜10の白金担持体の特性を比較したグラフである。具体的には、図11は、Ptリング−GC(Glassy Carbon)ディスク電極の分極曲線での0.95Vにおける実表面積当たりの電流値(縦軸)を、経時時間ごと(横軸)にプロットしたグラフである。この電気化学測定(回転リングディスク電極測定)は、従来の3電極法を用い、0.05M硫酸水溶液中で測定した。参照電極にはRHE(Reversible Hydrogen Electrode:可溶化水素電極)、対極にはAu線を用い、掃引速度は5mVs−1とした。
【0107】
その結果、図11に示すように、実施例8,9のはPt−CNTは、比較例に比べて、実表面積当たりの電流値が優れていることが確認された。
【0108】
このような結果が得られたのは、比較例では、粒子径が約3nm程度と比較的小さい白金粒子が均一に担持されている。このため、白金粒子がカーボン材料から脱離しやすい。金属微粒子の粒子径が小さくなると溶解速度が増えて解けやすくなり、移動しやすくなるため時間経過とともに凝集して表面積が減少するためである。これに対し、実施例8,9のPt−CNTでは、均一な白金粒子ではなく、3nm未満の白金粒子と、3nm以上(3nm〜5nm程度)の白金粒子とが混在している。その結果、凝集する白金粒子が少なくなっているため、実表面積当たりの電流値が比較例を上回っていると結論付けられる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によって製造された金属微粒子担持体は、燃料電池の電極用触媒、自動車などの排ガス浄化用、電子材料などの分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 放電電極
2 セラミックチューブ
3 プラズマ発生電源
4 アース
5 溶液
6 容器
10 ソリューションプラズマ放電装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体の製造方法において、
溶液中に配置された同一材料からなる1対の放電電極間に、グロー放電によりプラズマを発生させることにより、放電電極を融解して放電電極を構成する金属からなる金属微粒子を形成すると共に、上記金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する金属微粒子担持体形成工程を含み、
上記溶液は、カーボン材料を含有する一方、上記金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤を含有しないことを特徴とする金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項2】
上記溶液中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を含み、
上記分散工程の後に、上記金属微粒子担持体形成工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項3】
上記分散工程は、上記溶液を、超音波処理または熱処理することを特徴とする請求項2に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項4】
上記分散工程は、上記溶液を還流条件下で加熱することを特徴とする請求項3に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項5】
上記金属微粒子担持体形成工程前または金属微粒子担持体形成工程中に、上記溶液のpHを、5.5〜7.0に調整するpH調整工程を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項6】
上記溶液は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、および硫黄の原子、分子、およびイオンを含有しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項7】
上記溶液は、過酸化水素水溶液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項8】
上記溶液に、上記放電電極を構成する金属と同一金属からなる添加用金属微粒子が分散した溶液を添加した後、上記金属微粒子担持体形成工程を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項9】
金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体であって、
上記金属微粒子は、透過型電子顕微鏡による粒度分布が1〜10nmの範囲に存在し、かつ、粒子径が1nm以上〜3nm未満の金属微粒子と、3nm以上〜10nm以下の金属微粒子とを含むことを特徴とする金属微粒子担持体。
【請求項1】
金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体の製造方法において、
溶液中に配置された同一材料からなる1対の放電電極間に、グロー放電によりプラズマを発生させることにより、放電電極を融解して放電電極を構成する金属からなる金属微粒子を形成すると共に、上記金属微粒子をカーボン材料に担持させて金属微粒子担持体を形成する金属微粒子担持体形成工程を含み、
上記溶液は、カーボン材料を含有する一方、上記金属微粒子の凝集を抑制する分散溶解剤を含有しないことを特徴とする金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項2】
上記溶液中へのカーボン材料の分散性を高める分散工程を含み、
上記分散工程の後に、上記金属微粒子担持体形成工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項3】
上記分散工程は、上記溶液を、超音波処理または熱処理することを特徴とする請求項2に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項4】
上記分散工程は、上記溶液を還流条件下で加熱することを特徴とする請求項3に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項5】
上記金属微粒子担持体形成工程前または金属微粒子担持体形成工程中に、上記溶液のpHを、5.5〜7.0に調整するpH調整工程を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項6】
上記溶液は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、および硫黄の原子、分子、およびイオンを含有しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項7】
上記溶液は、過酸化水素水溶液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項8】
上記溶液に、上記放電電極を構成する金属と同一金属からなる添加用金属微粒子が分散した溶液を添加した後、上記金属微粒子担持体形成工程を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属微粒子担持体の製造方法。
【請求項9】
金属微粒子がカーボン材料に担持された金属微粒子担持体であって、
上記金属微粒子は、透過型電子顕微鏡による粒度分布が1〜10nmの範囲に存在し、かつ、粒子径が1nm以上〜3nm未満の金属微粒子と、3nm以上〜10nm以下の金属微粒子とを含むことを特徴とする金属微粒子担持体。
【図1】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−129201(P2012−129201A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255479(P2011−255479)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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