説明

ガスクロマトグラフ用検出器

【課題】 分解管の内部で酸素化合物を一酸化炭素に変換するとともに、炭化水素を効率よく炭化することができるガスクロマトグラフ用検出器を提供する。
【解決手段】 試料がカラム5を介して導入される分解管31aと、分解管31aを加熱する分解炉31bとを有し、分解炉31bによって分解管31aを加熱することにより、分解管31aの内部で酸素化合物を一酸化炭素に変換するとともに、炭化水素を炭化する酸化反応部31と、一酸化炭素が導入される触媒管32aと、触媒管32aを加熱する触媒炉32bとを有し、触媒炉32bによって触媒管32aを加熱することにより、触媒管32aの内部で一酸化炭素をメタンに変換する還元反応部32と、メタンを検出する水素炎イオン化検出器33とを備えるガスクロマトグラフ用検出器30であって、分解管31aの内部には、担体に白金化合物を担持させた粒子34が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素化合物を検出するガスクロマトグラフ用検出器(以下、「含酸素化合物選択的検出器」ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の試料を分析するために、ガスクロマトグラフが使用されている。このようなガスクロマトグラフの検出器として、水素炎イオン化検出器(FID)や、熱伝導度検出器(TCD)や、熱イオン化検出器(TID又はFTD)等が用いられている。特に、FIDは、水素炎中で有機化合物をイオン化し、そのイオン電流を計測する機構であり、1mg以下の微量の試料で、かつ、数十ppb単位の感度で有機化合物を分析することができる。
【0003】
そこで、FIDを用いたガスクロマトグラフによって、ガソリン(試料)中に含まれる酸素化合物(例えば、アルコール、エステル等)を分析することが行われている(例えば、特許文献1参照)。図2は、ガスクロマトグラフの一例を示す概略構成図である。図3は、図2における含酸素化合物選択的検出器(ガスクロマトグラフ用検出器)の一例を示す概略構成図である。
ガスクロマトグラフは、ガソリンが導入される試料気化部2と、含酸素化合物選択的検出器130と、試料気化部2と含酸素化合物選択的検出器130とを接続するキャピラリカラム5と、ガスクロマトグラフ全体の制御を行う制御部(図示せず)とを備える。
試料気化部2は、ガソリンが導入されるとともに、Heガス(キャリアガス)が酸素(O)トラップ2aを介して導入されるようになっている。
含酸素化合物選択的検出器130は、酸化反応部131と、メタナイザ(還元反応部)32と、FID33とを備える。
【0004】
酸化反応部131は、キャピラリカラム5を介してガソリンが導入される分解管131aと、分解管131aを加熱する分解炉131bと、Oリング131cと、キャピラリカラム5と分解管131aとを接続する接続部131dとを有する。
分解管131aは、長さが10cmである円筒状管であり、その材質は、白金パラジウム合金(Pt−Pd)で形成されている。
接続部131dは、キャピラリカラム5と分解管131aとを接続するためのものであり、一端部から他端部に向かって内径が一度小さくなる段差構造を有する円筒状である。これにより、外周にフェラルを装着したキャピラリカラム5が接続部131dの他端部から挿入される。一方、外周にOリング131cを装着した分解管131aが接続部131dの一端部から一度目の段差構造まで挿入されることで、Oリング131cが圧縮されることにより、試料が漏れにないように、分解管131aと接続部131dとが接続される。なお、接続部131dの一端部から一度目の段差構造には、メイクアップガス供給流路131eが形成されており、メイクアップガス供給流路131eから供給されたメイクアップガスがキャピラリカラム5の外周面と分解管131aの内周面との間を通過するようになっている。
【0005】
このような酸化反応部131において、分解炉131bによって分解管131aを1000℃に加熱することにより、白金パラジウム合金製の分解管131a自体が触媒となり、分解管131aの内部で下記式(1)に示すように酸素化合物を一酸化炭素(CO)に変換するとともに、下記式(2)に示すように炭化水素(C)を炭化するようになっている。
→zCO+(y/2)H+(x−z)C・・・(1)
→nC+(m/2)H・・・(2)
【0006】
メタナイザ32は、分解管131aの内部を通過した一酸化炭素が導入される触媒管32aと、触媒管32aを加熱する触媒炉32bと、Hガス(還元ガス)が供給される還元ガス供給流路33cとを有する。触媒管32aは、円筒状管であり、その材質は、ステンレススチールで内部にニッケル(Ni)担持触媒が充填されている。
そして、触媒炉32bによって触媒管32aを400℃に加熱することにより、下記式(3)に示すように触媒管32aの内部で一酸化炭素をメタン(CH)に変換するようになっている。
CO+3H→CH+HO・・・(3)
FID33は、触媒管32aの内部を通過したメタンを水素炎中でイオン化し、そのイオン電流を計測する。
【0007】
しかしながら、酸化反応部131における分解管131aは、白金パラジウム合金で形成されており、分解管131a自体が触媒となるが、1000℃の加熱では全ての炭化水素を炭化することができないことがあった。つまり、炭化水素を触媒無の状態で炭化するには2100℃程度の加熱が必要であるが、1000℃に加熱した白金パラジウム合金製の分解管131aでは、触媒作用が不充分であるため、下記式(4)に示すように一部の炭化水素が炭化されずにメタンに変換されるという副反応が起こった。このような副反応で生成したメタンは、分解管131aの内部で式(2)に示すように炭化されてはいくが、一部のメタンは、分解管131aの内部を通過する距離が短く炭化されずにFID33で検出されることになった。
→nCH+(m/2−2n)H・・・(4)
【0008】
そこで、分解管131aの内部で副反応が起こらないようにするために、キャリアガスとしてペンタン(C12)等の炭化水素を分解管131aの内部に導入することで、下記式(5)に示すように分解管131aの内部でクラッキング反応を起こさせることにより、分解管131aの内部における炭化水素を炭化する効率を向上させている。
12→5C+6H・・・(5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−265810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したような方法では、キャリアガスとしてペンタン等の炭化水素を分解管131aの内部に導入するので、この炭化水素によりFID33のバックグランドレベルが上昇し、さらに分解管131aの内部における炭化水素を炭化する効率を安定化させることに時間がかかるという問題があった。
また、分解管131aの内部でクラッキング反応を起こさせるので、分解管131aの内部に分解生成物が蓄積されるという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本件発明者らは、上記課題を解決するために、酸化反応部における分解管について検討を行った。炭化水素が分解管の内部を通過する際には、分解管の内周面と接触することになる。これにより、分解管は、白金パラジウム合金で形成されているので、分解管自体が触媒となり、炭化水素を炭化している。そこで、炭化水素が触媒と接触する面積を、分解管の内周面より大きくすることで、炭化水素を炭化する効率を向上させることを見出した。具体的には、活性炭に白金を担持させた粒子を内部に充填した分解管を用いて、炭化水素を粒子の表面と接触させた。その結果、炭化水素が分解管の内部を通過することで、炭化水素を効率よく炭化することができた。
【0012】
さらに、白金パラジウム合金製の分解管は、高価であるため、白金パラジウム合金以外の材質の分解管を用いても、活性炭に白金を担持させた粒子を内部に充填していれば、炭化水素を効率よく炭化することができるので、分解管の材質について検討を行った。
まず、石英ガラス(SiO)製の分解管を用いたが、酸化反応部において分解管は1000℃で加熱されるので、石英ガラス製の分解管では白化現象や局部加熱による劣化等が生じた。さらに、石英ガラス製の分解管自体が酸素(O)を放出する酸素供給作用を示すので、分解管の内部で下記式(6)に示すような反応が生じ、その結果、FID33でゴーストピークが検出された。
+O→2CO+(n−2)C+(m/2)H・・・(6)
【0013】
次に、ニッケル(Ni)製の分解管を用いたが、ニッケル製の分解管自体が酸素を取り込み、酸化物として表面に保持する酸素蓄積作用を示すので、炭化水素と分解管内面に蓄積された酸素とで式(6)に示すような反応が生じ、その結果、炭化水素に対してFID33でゴーストピークが検出されてしまった。そこで、分解管の材質として、耐熱性に優れるとともに、酸素供給作用と酸素蓄積作用とを示さないものが必要であることも見出した。例えば、分解管の材質として、アルミナ(Al)等が好適である。
【0014】
すなわち、本発明のガスクロマトグラフ用検出器は、酸素化合物と炭化水素とが混合された試料がカラムを介して導入される分解管と、当該分解管を加熱する分解炉とを有し、当該分解炉によって分解管を加熱することにより、前記分解管の内部で酸素化合物を一酸化炭素に変換するとともに、炭化水素を炭化する酸化反応部と、前記分解管の内部を通過した一酸化炭素が導入される触媒管と、当該触媒管を加熱する触媒炉とを有し、当該触媒炉によって触媒管を加熱することにより、前記触媒管の内部で一酸化炭素をメタンに変換する還元反応部と、前記触媒管の内部を通過したメタンを検出する水素炎イオン化検出器とを備えるガスクロマトグラフ用検出器であって、前記分解管の内部には、担体に白金化合物を担持させた粒子が充填されているようにしている。
【0015】
ここで、「白金化合物」としては、例えば、白金(Pt)や、白金パラジウム合金(Pt−Pd)等が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガスクロマトグラフ用検出器によれば、分解管の内部には、担体に白金化合物を担持させた粒子が充填されていることにより、炭化水素を白金化合物と充分に接触させることができるので、分解管の内部で炭化水素を効率よく炭化することができる。よって、ペンタン等の炭化水素を分解管の内部に導入する必要もなくなるので、炭化水素によるFIDのバックグランドレベルの上昇がなく、その結果、検出可能下限値を下げることができる。また、白金パラジウム合金製の分解管を用いる必要もなくなるので、コストを下げることができる。
【0017】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、上記の発明において、前記分解管は、酸素を透過させず、かつ、保持しない材質で形成されているようにしてもよい。
そして、上記の発明において、前記酸化反応部は、空気を透過させない材質で形成された空気遮蔽管を有し、前記空気遮蔽管の内部に、前記分解管が配置されるようにしてもよい。
分解管の内部に空気が混入すると、分解管の内部で式(6)や下記式(7)、(8)に示すような反応が生じ、その結果、ゴーストピークが検出されるので、本発明のガスクロマトグラフ用検出器によれば、ゴーストピークが検出されることを確実に防止することができる。
+HO→CO+(n−1)C+(m/2+1)H・・・(7)
+CO→2CO+(n−1)C+(m/2)H・・・(8)
【0018】
さらに、上記の発明において、前記カラムの先端部は、前記分解炉によって分解管が加熱される位置に、かつ、前記粒子が充填された位置に配置されるようにしてもよい。
本発明のガスクロマトグラフ用検出器によれば、カラムの先端部は、分解炉によって分解管が加熱される位置に、かつ、粒子が充填された位置に配置されるので、副反応が起こることを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る含酸素化合物選択的検出器の一例を示す概略構成図である。
【図2】ガスクロマトグラフの一例を示す概略構成図である。
【図3】従来の含酸素化合物選択的検出器の一例を示す概略構成図である。
【図4】ガソリン中に含まれる酸素化合物を分析した測定結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
図1は、実施形態に係る含酸素化合物選択的検出器(ガスクロマトグラフ用検出器)の一例を示す概略構成図である。なお、含酸素化合物選択的検出器130と同様のものについては、同じ符号を付している。含酸素化合物選択的検出器30は、酸化反応部31と、メタナイザ(還元反応部)32と、FID33とを備える。
【0021】
酸化反応部31は、キャピラリカラム5を介してガソリン(試料)が導入される分解管31aと、分解管31aを加熱する分解炉31bと、2個のOリング31cと、キャピラリカラム5と分解管31aとを接続する接続部31dと、空気遮蔽管31fとを有する。
分解管31aは、円筒状管であって、長さが15cmであり、その内径は、キャピラリカラム5の外形より大きくなっている。
分解管31aの内部には、活性炭(担体)に白金を30重量%で担持させた粒子34が10cmの距離で充填されている。粒子34の粒径は、100/120メッシュである。分解管31aの材質は、アルミナで形成されており、分解管31aは、耐熱性に優れるとともに、酸素蓄積作用を示さない。
そして、このような分解管31aの内部に、キャピラリカラム5が挿入され、キャピラリカラム5の先端部は、分解炉31bによって分解管31aが加熱される位置に、かつ、粒子34が充填された位置に配置されるようになっている。これにより、副反応が起こることを確実に防止することができる。
【0022】
空気遮蔽管31fは、円筒状管であって、長さが15cmであり、その内径は、分解管31aの外形より大きくなっている。空気遮蔽管31fの材質は、石英ガラスで形成されており、空気遮蔽管31fは、酸素供給作用を示さない。そして、このような空気遮蔽管31fの内部に、分解管31aが挿入されるようになっている。
接続部31dは、キャピラリカラム5と分解管31aとを接続するためのものであり、一端部から他端部に向かって内径が三度小さくなる段差構造を有する円筒状である。
これにより、外周にフェラルを装着したキャピラリカラム5が接続部31dの他端部から挿入される。一方、外周にOリング31cを装着した分解管31aが接続部31dの一端部から三度目の段差構造まで挿入されることで、Oリング31cが圧縮されることにより、試料が漏れにないように、分解管31aと接続部31dとが接続される。このとき、分解管31aの内部に、キャピラリカラム5の先端部が配置されることになる。さらに、外周にOリング31cを装着した空気遮蔽管31fが接続部31dの一端部から一度目の段差構造まで挿入されることで、Oリング31cが圧縮されることにより、空気が漏れないように、空気遮蔽管31fと接続部31dとが接続される。このとき、空気遮蔽管31fの内部に、分解管31aが配置されることになる。
【0023】
接続部31dの一端部から四度目の段差構造には、メイクアップガス供給流路31eが形成されており、メイクアップガス供給流路31eから供給されたメイクアップガスがキャピラリカラム5の外周面と分解管31aの内周面との間を通過するようになっている。さらに、接続部31dの一端部から一度目の段差構造には、不活性パージガス供給流路31gが形成されており、不活性パージガス供給流路31gから供給された不活性パージガスが分解管31aの外周面と空気遮蔽管31fの内周面との間を通過するようになっている。
【0024】
このような酸化反応部31において、メイクアップガス供給流路31eからメイクアップガスを供給し、不活性パージガス供給流路31gから不活性パージガスを供給するとともに、分解炉31bによって分解管31aを1000℃に加熱しながら、分解管31aの内部にキャピラリカラム5を介してガソリンを導入することになる。分解管31aの内部には、活性炭に白金を担持させた粒子34が充填されているので、炭化水素は白金と充分に接触する。よって、分解管31aの内部で、酸素化合物を一酸化炭素に変換するとともに、炭化水素を効率よく炭化する。なお、図4は、含酸素化合物選択的検出器30を用いたガスクロマトグラフによって、ガソリン中に含まれる酸素化合物を分析した測定結果の一例である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、酸素化合物を検出するガスクロマトグラフ用検出器に利用することができる。
【符号の説明】
【0026】
5 キャピラリカラム
30、130 含酸素化合物選択的検出器(ガスクロマトグラフ用検出器)
31、131 酸化反応部
31a、131a 分解管
31b、131b 分解炉
32 メタナイザ(還元反応部)
32a 触媒管
32b 触媒炉
33 FID(水素炎イオン化検出器)
34 粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素化合物と炭化水素とが混合された試料がカラムを介して導入される分解管と、当該分解管を加熱する分解炉とを有し、当該分解炉によって分解管を加熱することにより、前記分解管の内部で酸素化合物を一酸化炭素に変換するとともに、炭化水素を炭化する酸化反応部と、
前記分解管の内部を通過した一酸化炭素が導入される触媒管と、当該触媒管を加熱する触媒炉とを有し、当該触媒炉によって触媒管を加熱することにより、前記触媒管の内部で一酸化炭素をメタンに変換する還元反応部と、
前記触媒管の内部を通過したメタンを検出する水素炎イオン化検出器とを備えるガスクロマトグラフ用検出器であって、
前記分解管の内部には、担体に白金化合物を担持させた粒子が充填されていることを特徴とするガスクロマトグラフ用検出器。
【請求項2】
前記分解管は、酸素を透過させず、かつ、保持しない材質で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフ用検出器。
【請求項3】
前記酸化反応部は、空気を透過させない材質で形成された空気遮蔽管を有し、
前記空気遮蔽管の内部に、前記分解管が配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスクロマトグラフ用検出器。
【請求項4】
前記カラムの先端部は、前記分解炉によって分解管が加熱される位置に、かつ、前記粒子が充填された位置に配置されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のガスクロマトグラフ用検出器。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−216850(P2010−216850A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61214(P2009−61214)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)