説明

ガスケット及び密封構造

【課題】装着相手の接触面の表面状態の影響を受けずにシール性を発揮することが可能なガスケット及び密封構造を提供する。
【解決手段】ガスケット1が装着される一方の部材の溝41の溝底面42もしくは他方の部材の表面のうちのいずれか一方の面に密着してシール面を形成するリップ部3を複数設けてリップ部3間に凹部3aを形成するとともに、圧縮方向を高さ方向とし溝の両側面が対向する方向を幅方向として、ガスケット1を高さ方向及び幅方向に沿った断面において、該断面の輪郭のうち溝底面42もしくは他方の部材の表面のうちのいずれか他方の面とのシール面を形成する領域が、ガスケット1が2部材間で圧縮される前の状態において、他方の面に向かって凸状の曲線で構成された円弧状部2であり、円弧状部2の曲率半径raと、断面幅d0とが、
0.75≦ra/d0≦2.0
の関係を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケット及び密封構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Oリング等のガスケットは、2部材の間に挟み込まれて圧縮されることにより、2部材間の隙間を封止する。一般的に、2部材のうちの一方の部材にガスケットを装着するための溝が設けられる。この溝内に装着されたガスケットが溝の溝底面と他方の部材表面に密着することにより、2部材間の隙間が封止される。ガスケットは、2部材間で押し潰されるように変形し、2部材との接触面がシール面として機能する。
【0003】
ガスケットは、ガスケットと2部材とが互いに隙間なく密着することでシール性を発揮する。しかし、2部材の表面に凸凹などがあると、ガスケットと2部材との間に隙間が形成され、そこから密封流体の漏れを生じてしまうことがある。
【0004】
エンジン部品などのアルミダイカスト製部品は、仕上げ面に鋳巣による凹状部が発生することがある。鋳造部品は、粒子間の空隙が焼結成形後も部品内部に残留して鋳巣を形成することがある。鋳造部品の表面は、寸法精度や平面度などを高めるために切削によって仕上げられる場合があるが、このとき、部品内部の鋳巣が切削によって表面に露出して凹状部を形成することがある。この凹状部の大きさが、ガスケットのシール面の幅よりも大きい場合には、凹状部を介して密封流体が漏れてしまうことがある。
【0005】
近年、製造工程の簡略化による製造コストの低減のため、鋳造品を用いて製品を組み立てる手法を採用する場合が多い。しかし、上述の鋳巣の発生によって十分な密封性を得られないために、何段階もシールを設ける必要が生じたり、不適合品として製品を廃棄したり、鋳造材の採用を断念しなければならないような場合もある。
【0006】
従来は、シール面の凹状部に樹脂や液状ゴム(FIPG)を塗布して、ガスケットと鋳造部品との間の隙間を封止したり、鋳造部品自体を、鋳巣の影響の少ない構成のものに代えるなどして対処していた(特許文献1参照)。しかし、近年の機械設計では、スペース確保や燃費向上を目的とした小型化、軽量化等が求められ、小型化の促進によって成形が困難な製品形状が増加し、また、製造工程における欠陥の管理作業が難しくなっている。したがって、ガスケット自体にも、鋳巣対策のために何らかの工夫が必要であると考えられる。
【0007】
これまでガスケットの構成として種々のものが提案されている。例えば、特許文献2には、断面の円周の一部に凹状部を設けて、装着時の捩れ等を防止した封止材が開示されている。また、特許文献3には、断面を三叉形状とし、低荷重化や荷重変動の低減などを図った低荷重シールが開示されている。また、特許文献4には、断面を三叉形状とし、装着性の向上、装着時の姿勢の安定化などを図ったシールが開示されている。しかしながら、これらの構成は、装着時の反力低減や倒れ防止等を図ったものであり、装着相手の接触面のコンディションが悪い場合の対策については何ら考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−113404号公報
【特許文献2】特開平10−318373号公報
【特許文献3】特開2000−356267号公報
【特許文献4】特開2003−322257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、装着相手の接触面に鋳巣や傷等による凹状部または凸状部あるいはそれらが組み合わされた凸凹などが形成されているような場合であっても、そのような接触面の表面状態の影響を受けずにシール性を発揮することが可能なガスケット及び密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明におけるガスケットは、
互いを固定して組み付けられる2部材のうちの一方の部材に設けられた溝内に装着され、2部材間で圧縮されることにより、前記溝の溝底面と他方の部材の表面にそれぞれ密着するシール面を形成して2部材間の隙間を封止するガスケットであって、
前記溝の溝底面もしくは前記他方の部材の表面のうちのいずれか一方の面とのシール面を形成するリップ部を複数有することにより、隣接するリップ部間に前記一方の面から離間する凹部を形成するとともに、
圧縮方向を高さ方向とし前記溝の両側面が対向する方向を幅方向として、ガスケットを高さ方向及び幅方向に沿って切った断面において、該断面の輪郭のうち前記溝の溝底面もしくは前記他方の部材の表面のうちのいずれか他方の面とのシール面を形成する領域が、ガスケットが前記2部材間で圧縮される前の状態において、前記他方の面に向かって凸状の曲線で構成された円弧状部であり、
前記円弧状部を構成する曲線の曲率半径raと、前記断面の幅d0とが、
0.75≦ra/d0≦2.0
の関係を満たすことを特徴とするガスケット。
【0011】
本発明によれば、円弧状部の曲率半径raと断面幅d0とが上記関係を満たすことで、装着時のガスケットの反力の増加を抑制しつつ、他方の面とのシール面の拡大を図ることができる。
【0012】
ra/d0≦2.0を満たすこと、及び、複数のリップ部で一方の面とのシール面を形成するとともにリップ部間に凹部を形成することにより、装着時の反力の増大を抑制することができる。
【0013】
例えば、2部材の組み付けがガスケットと他方の部材とを摺動させて行なわれる場合には、曲率半径raを大きくし過ぎない、すなわち、円弧状部を直線状にし過ぎないようにすることで、ガスケットと他方の部材との間の摺動抵抗の増大を抑制することができる。
【0014】
また、一方の面との間では、複数のリップ部が一方の面に接触することで、複数のシール面が形成されるように構成されている。これにより、圧縮時のガスケットの反力の増大が抑制される。
【0015】
また、0.75≦ra/d0を満たすこと、すなわち、直径をd0とする円形断面のガスケットを想定した場合において、かかるガスケットの円形の曲率よりも円弧状部の曲率を小さくすることにより、高さ方向に円形断面のガスケットと略同等のつぶし量で、ガスケットが2部材間で圧縮されたときに他方の面と接触する領域(シール面)の幅が大きくなる。ここで、つぶし量とは、2部材による圧縮前のガスケット断面の高さと、該高さ方向における溝底面と他方の部材表面との間の距離(2部材による圧縮後のガスケット断面の高さ)との差をいう。これにより、相手部材の接触面のコンディションによるシール性
への影響が低減される。すなわち、他方の面に凸凹がある場合でも、拡大されたシール面が凸凹を覆うことで凸凹を介しての漏れを抑制することができる。
【0016】
ここで、円弧状部が接触する溝底面または他方の部材表面に凹状部や凸状部あるいはそれらが組合された凸凹などが生じる場合としては、例えば、円弧状部が接触する部材が鋳造品であり、さらに、これを切削加工してガスケットとの接触面に鋳巣による凹状部が形成された場合が考えられる。また、例えば、円弧状部が接触する溝底面または他方の部材表面に切削やブラストによる表面仕上げ等により傷ができることで凸凹が形成される場合も考えられる。なお、円弧状部との接触面に凸凹が生じる場合としては、これらの場合に限定されるものではない。
【0017】
したがって、本発明におけるガスケットは、
前記2部材のいずれかが鋳造品であり、
前記円弧状部が接触する他方の面が、前記2部材のうちの鋳造品である部材の表面であると好適である。
【0018】
また、前記円弧状部が接触する他方の面が、切削もしくはブラストにより表面が仕上げられていると好適である。また、鋳造品の場合にあっては、鋳巣による凹状部が形成されていると好適である。
【0019】
すなわち、本発明のガスケットは、相手部材の接触面が従来のガスケットでは十分にシールすることが困難な表面状態となっている場合でも好適に使用することができる。また、このように、本発明のガスケットによれば装着相手部材として鋳造品を採用することによる不具合の解消を図ることができるので、鋳造品の積極的な採用が可能となり、工程数の削減、不適合品の削減、管理作業の削減等に寄与することができる。
【0020】
上記目的を達成するために、本発明における密封構造は、
互いを固定して組み付けられる2部材と、
前記2部材間の隙間を封止する上記ガスケットと、
を備えることを特徴とする。
【0021】
また、前記2部材のいずれかが鋳造品であり、前記ガスケットの前記円弧状部が接触する他方の面が、前記2部材のうちの鋳造品である部材の表面であると好適である。また、前記ガスケットの前記円弧状部が接触する他方の面が、切削もしくはブラストにより表面が仕上げられていると好適である。また、鋳造品の場合にあっては、鋳巣による凹状部が形成されていると好適である。
【0022】
上述したように、ガスケットの円弧状部との接触面に鋳巣による凹状部が形成された場合でも、拡大されたガスケットのシール面が凹状部を覆うことで凹状部を介しての漏れを抑制することができる。したがって、上述の鋳造品を採用することによる不具合が解消され、工程数の削減、不適合品の削減、管理作業の削減等に寄与することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、装着相手の接触面に鋳巣や傷等による凹状部または凸状部あるいはそれらが組み合わされた凸凹などが形成されているような場合であっても、そのような接触面の表面状態の影響を受けずにシール性を発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係るガスケットの模式的断面図である。
【図2A】本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
【図2B】本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
【図3A】本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
【図3B】本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
【図4】つぶし量を説明する模式図である。
【図5】つぶし率を説明する模式図である。
【図6】本発明の変形例に係るガスケットの模式的断面図である。
【図7】本発明の実施例に係るガスケットと比較例との性能比較の検証結果を示す表である。
【図8】本発明の実施例に係るガスケットと比較例との性能比較の検証結果を示す表である。
【図9】本発明の実施例に係るガスケットの断面形状における寸法設定例である。
【図10】本発明の実施例に係るガスケットの性能検証結果を示す表である。
【図11】本発明の実施例に係るガスケットの性能検証結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0026】
(実施例)
図1〜図11を参照して、本発明の実施例に係るガスケット及び密封構造について説明する。図1は、本発明の実施例に係るガスケットの模式的断面図である。図2A及び図2Bは、本発明の実施例に係る密封構造(平面固定用シール)の模式的断面図である。図3A及び図3Bは、本発明の実施例に係る密封構造(円筒面固定用シール)の模式的断面図である。図4は、つぶし量を説明する模式図である。図5は、つぶし率を説明する模式図である。図6は、本発明の変形例に係るガスケットの模式的断面図である。図7は、本発明の実施例に係るガスケットと比較例との性能比較の検証結果を示す表である。図8は、本発明の実施例に係るガスケットと比較例との性能比較の検証結果を示す表である。図9は、本発明の実施例に係るガスケットの断面形状における寸法設定例である。図10及び図11は、本発明の実施例に係るガスケットの性能検証結果を示す表である。
【0027】
<ガスケット>
本実施例に係るガスケット1は、ゴム状弾性体により構成される。このゴム状弾性体の素材の具体例としては、アクリル系ゴムやニトリル系ゴム、フッ素系ゴムなどを好適例として挙げることができる。
【0028】
本実施例に係るガスケット1は、自動車部品や産業機器などの各種機器に用いられる。より具体的には、インレットマニホールド用、フィルターブランケット用、シリンダーヘッドカバー用、タイミングベルトカバー用、燃料電池のセパレータ用など、各種用途に用いられる。特に、接触面に鋳巣による凹状部が形成されるようなアルミダイカスト製品等の鋳造部品のシール、鋳肌面のシール、ブラスト面のシール、切削加工面のシールに好適である。
【0029】
ガスケット1は、上記各種機器において、互いに対向する対向面を有する2部材の対向面間に挟み込まれて圧縮され、2部材間の隙間を封止する。一般的に、2部材のうちの一方の部材の対向面にガスケット1を装着するための溝が設けられる。ガスケット1は、この溝内に装着され、溝底面と他方の部材表面に密着することにより、2部材間の隙間を封止する。
【0030】
図1に示すように、ガスケット1は、高さ方向及び幅方向に沿って切った断面において、他方の部材とのシール面を形成する円弧状部2と、溝底面とのシール面を形成する複数のリップ部3と、圧縮荷重を吸収するための凹部3aとを備える断面形状を有している。ここで、高さ方向は、ガスケットが装着時に2部材間で圧縮される方向とし、幅方向は、ガスケットが装着される溝の両側面が互いに対向する方向としている。ガスケット1の断面形状は、高さ方向に延びる断面の中心軸Xを中心として幅方向に左右対称に構成されている。
【0031】
円弧状部2は、ガスケット1と製品幅を同じくする略真円断面の従来のガスケット(Oリング)における円弧状部よりも曲率が小さい。すなわち、円弧状部2は、略真円断面のガスケットの半径(d0/2)よりも大きな曲率半径raで構成されている。したがって、本実施例に係るガスケット1と略真円断面のガスケットとが高さ方向に同じ量だけ圧縮されたときに形成されるシール面の接触幅は、本実施例に係るガスケット1の方が広くなる。
【0032】
リップ部3は、溝底面42に向かって突出しており、凸状の曲線で構成された円弧状の断面形状を有している。リップ部3は一対で設けられており、これらが溝底面42に接触することで、ガスケット1と溝底面43との間には一対のシール面が形成される。なお、リップ部3を設ける数は特に限定されるものではなく、3つ以上設けてもよい。
【0033】
一対のリップ部3の間には、凹状の曲線で構成された円弧状の凹部3aが設けられている。凹部3aは、溝底面42から離間して溝底面42との間に隙間を形成する。2部材間で圧縮されると、ガスケット1は凹部3aによる溝底面42との隙間が減少するように(凹部3aがつぶれるように)変形して、その断面形状が溝41の断面形状に近い略矩形となる。かかる変形により、圧縮による反力の増大が低減されるとともに、シール時における溝41に対する充填率が高められる。したがって、シール面が拡大されることによるガスケット1の反力の増加が抑制されるとともに、溝空間を有効に利用することができる。
【0034】
<密封構造>
図2A〜図3Bを参照して、本実施例に係る密封構造について説明する。本実施例に係る密封構造は、2部材間、すなわち、一方の部材4と他方の部材5との間の隙間6をガスケット1によって密封する構造である。ガスケット1のシール面2と接触する部材は鋳造品であり、ガスケット1が密着する面が切削により寸法や平面度を調整して仕上げられている。これら一方の部材4と他方の部材5は、不図示の手段(例えば、嵌合、ねじによる締結、接着などの公知の手段)により互いに組み付けられて固定される。なお、図中の矢印は、密封対象領域からガスケット1に作用する密封流体の印加圧方向を示している。また、図2A及び図3Aは、他方の部材5の表面に凹状部51が形成される可能性がある条件(例えば、他方の部材5が鋳造品である場合)におけるガスケット1の装着例を示している。一方、図2B及び図3Bは、一方の部材4の溝41の溝底面42に凹状部44が形成される可能性がある条件(例えば、一方の部材4が鋳造品である場合)におけるガスケット1の装着例を示している。すなわち、図示のように、本実施例に係るガスケット1は、円弧状部2が鋳造品と接触するように装着される。
【0035】
本実施例に係るガスケット1は、図2A及び図2Bに示すように平面状の対向面間の隙間を封止する場合と、図3A及び図3Bに示すように円筒面状の対向面間の隙間を封止する場合とがある。ガスケット1の全体形状は、相手部材(2部材)の構成に応じて異なる。例えば、図2A及び図2Bに示す密封構造の場合には、ガスケット1の平面形状(各図において上下方向に見た形状)は、ガスケットが適用される対象製品に応じて円形や多角形など多種多様であり、一般的には、端部を有しない無端状の形状となる。また、図3A及び図3Bに示す密封構造の場合には、ガスケット1はリング状に構成される。
【0036】
図2A及び図2Bに示す密封構造について説明する。この密封構造では、2部材は平面状の互いに対向する対向面を有している。これら2部材のうちの一方の部材4には、他方の部材5との対向面40にガスケット1を装着するための溝41が設けられている。ガスケット1は、溝41に装着され、溝底面42と他方の部材5の対向面50との間で押し潰されるように圧縮変形し、2部材間の隙間6を封止する。なお、図2A及び図2Bでは、ガスケット1を2部材によって圧縮される前の状態で図示している。実際には、図5に示すように、隙間6が図示の状態よりも狭くなり、ガスケット1は溝底面42と対向面50とによって2部材の対向方向に圧縮される。
【0037】
図3A及び図3Bに示す密封構造について説明する。この密封構造では、2部材は円筒面状の互いに対向する対向面を有している。これら2部材は、例えば、一方の部材4は軸であり、他方の部材5は軸が挿入される軸孔を有するハウジングである。一方の部材4の対向面(外周面)40には、ガスケット1を装着するための環状の溝41が設けられている。ガスケット1は、溝41に装着され、溝底面42と他方の部材5の対向面(軸孔内周面)50との間で径方向に押し潰されるように圧縮変形し、2部材間の隙間6を封止する。この密封構造では、まずガスケット1が軸の溝41に装着され、その後、軸がハウジングの軸孔に挿通されることにより組み付けられる。したがって、軸がハウジングに組み付けられる際、ガスケット1は円弧状部2と軸孔内周面(対向面50)とが摺動することになる。なお、図3A及び図3Bも、図2A及び図2Bと同様に、ガスケット1を2部材によって圧縮される前の状態で図示している。実際には、図5に示すように、隙間6が図示の状態よりも狭くなり、ガスケット1は溝底面42と対向面50とによって2部材の対向方向に圧縮される。
【0038】
<ガスケットの寸法設定>
本実施例に係るガスケット1の断面の各寸法は、次のように設定される。
【0039】
図1に示すように、ガスケット1の製品高さh0と製品幅d0とは略同等に設定されており、本実施例に係るガスケット1は、直径をd0とする従来の略真円断面のガスケットと高さが略同等である。
【0040】
また、本実施例では、円弧状部2を構成する曲線の曲率半径ra[mm]と、製品幅(ガスケットの断面幅)d0[mm]とが、以下の関係を満たすように各寸法が設定される。
0.75≦ra/d0≦2.0
【0041】
0.75≦ra/d0を満たすことにより、対向面50とのシール面の拡大を図ることができる。すなわち、直径をd0とする真円形断面の従来のガスケットを想定した場合において、かかるガスケットの円形の曲率(2/d0)よりも円弧状部2の曲率(1/ra)を小さくすることにより、従来のガスケットと同等のつぶし量で圧縮されたときに、本実施例のガスケット1には従来のガスケットよりも接触幅の大きなシール面が形成される。ここで、つぶし量とは、図4に示すように、2部材による圧縮前のガスケット1の製品高さh0と、該高さ方向における溝底面42から対向面50までの距離(圧縮後のガスケット1の製品高さ)との差をいう。また、つぶし率とは、図5に示すように、つぶし量を製品高さh0で割ったもの、すなわち、製品高さh0と圧縮(シール)時の製品高さh0′との差を製品高さh0で割ったものをいう。
つぶし率=(h0−h0′)/h0
【0042】
また、ra/d0≦2.0を満たすことにより、装着時の反力の増大を抑制することができる。また、図3Aの構成のように、2部材の組み付けがガスケット1と対向面50と
を摺動させて行なわれる場合には、曲率半径raを大きくし過ぎない、すなわち、円弧状部2を直線状にし過ぎないようにすることで、ガスケット1と対向面50との間の摺動抵抗の増大を抑制することができる。
【0043】
また、圧縮時の座屈や対向面50との摺動による倒れ、反力の増大を抑制するため、製品高さh0と製品幅d0は、断面形状のアスペクト比(製品高さh0/製品幅d0)が以下の範囲で設定される。
0.8≦h0/d0≦2.0
【0044】
なお、さらなる反力の低減等を図るべく、図6に示す変形例に係るガスケット1′のように、円弧状部2の中央に平坦部2aを設けてもよい。平坦部2aの幅d0′は、製品幅d0に対して以下の関係となる。
d0>d0′>0
【0045】
図7は、本実施例に係るガスケットと、比較例としてのD字状断面を有するガスケットとの性能比較の検証結果を示している。この検証では、図2Aに示す平面固定用ガスケットについて、本実施例に係るガスケットとして、硬度70度相当のゴム材からなり、内径が21.8mm、h0が2.4mm、d0が2.4mmのガスケット形状を用いた。本実施例として採用したガスケットの断面形状における具体的な寸法設定例を、図9に示す。また、比較例のガスケットとして、本実施例のガスケットと同ゴム材、同内径で、本実施例のガスケットのような凹部を有しておらず、かつ、円弧状部の曲率半径と製品幅とが本実施例と同様の上記関係を満たす断面略D字状のガスケットを用いた。これらのガスケットは、いずれもra/d0=0.83である。これらのガスケットをつぶし率8%でそれぞれ圧縮した時のシール接触幅、単位長さ当たりの反力、最大面圧をFEM解析から算出した。
【0046】
図7に示すように、本実施例に係るガスケットは、シール面の接触幅が、比較例のガスケットとほぼ同等でありながら、反力と最大面圧が大きく低減されている。したがって、反力が同等となるように設計した場合、接触面に凹状部が形成された2部材間の隙間の封止において、比較例のガスケットに比べてより大きな凹状部をカバーして封止できる。
【0047】
図8は、つぶし率を25%とし、それ以外の条件は、上述した図7に示す検証と同じ条件で圧縮した場合の両ガスケットの性能比較の検証結果を示している。図8に示すように、つぶし率が変化しても、シール面の接触幅、反力および最大面圧についての両者の傾向は変化していないことがわかる。
【0048】
図10に示す表は、図9に示すガスケット形状を基本形状として、曲率半径raのみを変化させ、それに伴うシール接触幅と反力の変化を調べた検証結果である。検証結果に示されるように、raを大きくするとシール接触幅の増加とともに反力も増加している。しかしながら、反力が比較的ゆっくりと増加して飽和するのに対して、シール接触幅は比較的大きく増加する。したがって、ra=1.2mmを基準にすると、ra/d0=0.75付近からシール接触幅の増大効果が顕著となる。一方、ra/d0=2.00を超えると反力の数値が基準値の1.5倍になって、実使用に耐えられなくなり、シール接触幅の増大効果が頭打ちとなる。
【0049】
図11に示す表は、h0/d0の変化による座屈と倒れの有無を調べた検証結果である。この検証に用いたガスケットは、ra/d0=0.83である。座屈は、主に、図2A及び図2Bに示すような平面固定用のガスケットにおいて生じる現象であり、ガスケットを溝に装着後、2部材間で圧縮してつぶすときに、設計通りに上下につぶれず、左右に歪みを生じる現象である。この現象が生じると規定通りのシール性が得られず、実用に耐え
られなくなる。また、倒れは、主に、図3A及び図3Bに示すような円筒面固定用のガスケットにおいて生じる現象であり、一方の部材にガスケットを固定した後、他方の部材の所定位置に摺り入れるときに、固定したガスケットが摺動抵抗によって一部分が倒れ、ガスケットがねじれた状態で固定されてしまう現象である。この現象が生じると規定通りのシール性が得られなくなるばかりか、最悪の場合、ねじれによってガスケットが損傷してしまうこともある。
【0050】
検証結果に示されるように、座屈現象は、h0/d0=2.0以下では生じなかったが、2.3になると100%生じるようになった。また、倒れ現象は、h0/d0=0.8未満で顕著となった。したがって、両現象の発生を回避できる形状は、h0/d0=0.8〜2.0の範囲に絞られることになる。
【0051】
<本実施例の優れた点>
本実施例によれば、円弧状部2の曲率半径raと断面幅d0とが上記関係を満たすこと、及び、複数のリップ部3を設けて凹部3aを形成することにより、装着時のガスケットの反力の増加を抑制しつつ相手部材の接触面のコンディションによるシール性への影響を低減することができる。すなわち、図2Aや図3Aに示すガスケットにおいては、他方の部材表面50に凹状部51が形成されている場合でも、図2Bや図3Bに示すガスケットにおいては、装着溝41の溝底面42に凹状部44が形成されている場合でも、それぞれ、円弧状部2による拡大されたシール面が凹状部44、51を覆うことで凹状部44、51を介しての密封流体等の漏れを抑制することができる。
【0052】
なお、相手部材の接触面のコンディションが悪い場合としては、上述のように鋳巣によって溝底面42または他方の部材表面50に凹状部44、51が形成される場合だけに限られるものではない。例えば、溝底面42または他方の部材表面50に切削やブラストによる表面仕上げ等により傷ができることで凹状部や凸状部が形成されたり、あるいはそれらが組み合わされた凸凹が形成される場合もある。
【0053】
また、凹部3aが形成されることで反力の増加が抑制される。ガスケット1の反力の増加が抑制されることで、特に、2部材の両方またはいずれかが、金属製部材と比して変形を生じやすい樹脂製部材の場合に好適である。
【0054】
なお、2部材の表面に凹状部が形成されていない場合でも従来と同様のガスケットとして適用できる。
【0055】
本実施例によれば、鋳造品を採用することによる不具合の解消を図ることができる。したがって、鋳造品の積極的な採用が可能となり、工程数の削減、不適合品の削減、管理作業の削減等に寄与することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ガスケット
2 円弧状部
3 リップ部
3a 凹部
4 一方の部材
40 表面
41 溝
42 溝底面
43 溝側面
5 他方の部材
50 表面
51 凹状部
6 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いを固定して組み付けられる2部材のうちの一方の部材に設けられた溝内に装着され、2部材間で圧縮されることにより、前記溝の溝底面と他方の部材の表面にそれぞれ密着するシール面を形成して2部材間の隙間を封止するガスケットであって、
前記溝の溝底面もしくは前記他方の部材の表面のうちのいずれか一方の面とのシール面を形成するリップ部を複数有することにより、隣接するリップ部間に前記一方の面から離間する凹部を形成するとともに、
圧縮方向を高さ方向とし前記溝の両側面が対向する方向を幅方向として、ガスケットを高さ方向及び幅方向に沿って切った断面において、該断面の輪郭のうち前記溝の溝底面もしくは前記他方の部材の表面のうちのいずれか他方の面とのシール面を形成する領域が、ガスケットが前記2部材間で圧縮される前の状態において、前記他方の面に向かって凸状の曲線で構成された円弧状部であり、
前記円弧状部を構成する曲線の曲率半径raと、前記断面の幅d0とが、
0.75≦ra/d0≦2.0
の関係を満たすことを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記2部材のいずれかが鋳造品であり、
前記円弧状部が接触する他方の面が、前記2部材のうちの鋳造品である部材の表面であることを特徴とする請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記円弧状部が接触する他方の面は、切削もしくはブラストにより表面が仕上げられていることを特徴とする請求項1に記載のガスケット。
【請求項4】
前記円弧状部が接触する他方の面は、鋳巣による凹状部が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のガスケット。
【請求項5】
互いを固定して組み付けられる2部材と、
前記2部材間の隙間を封止する請求項1に記載のガスケットと、
を備えることを特徴とする密封構造。
【請求項6】
前記2部材のいずれかが鋳造品であり、
前記ガスケットの前記円弧状部が接触する他方の面が、前記2部材のうちの鋳造品である部材の表面であることを特徴とする請求項5に記載の密封構造。
【請求項7】
前記ガスケットの前記円弧状部が接触する他方の面は、切削もしくはブラストにより表面が仕上げられていることを特徴とする請求項5に記載の密封構造。
【請求項8】
前記ガスケットの前記円弧状部が接触する他方の面は、鋳巣による凹状部が形成されていることを特徴とする請求項6または7に記載の密封構造。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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