説明

ガスセンサの評価方法及びガスセンサの評価装置

【課題】 ガスセンサの測定電極に塗布された卑金属の状態を評価するガスセンサの評価方法及び評価装置を提供する。
【解決手段】 マスフロー・コントローラ112,113,114により流量を調整されたプロパンガス、酸素ガス、窒素ガスからなる混合ガスが、被測定ガスとして、ガスセンサ1が設置された反応炉部120の配管115に供給される。プロパンガスボンベ102から供給されるプロパンガスの流量を一定とし、酸素ガスボンベ103から供給される酸素ガスの流量を増減させ、窒素ガスボンベ104から供給される窒素ガスの量をプロパンガスの量に応じて増減させ、ガス供給部110から配管115に供給される混合ガスの全体の流量を一定とする。このような雰囲気におけるガスセンサ1の出力値を測定し、ガスセンサ1の測定電極に塗布された卑金属の状態を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサの評価方法及び評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関の燃焼制御のために、排気ガス中の酸素濃度を検出するガスセンサが用いられている。このガスセンサは、酸素イオン伝導性を有するジルコニア等のセラミックよりなる固体電解質体と、その固体電解質体の一方の表面に設けられ、被測定ガスに曝される白金等からなる測定電極と、固体電解質体の他方の表面に設けられ、基準ガスに接する白金等からなる基準電極とから構成されている。さらに、ガスセンサがより早い段階から動作して排気ガス中の酸素濃度をできるだけ早くフィードバックできるように、ガスセンサを低温においても安定して動作させるべく、測定電極に鉛や亜鉛等の卑金属を含有させているものもある。
【0003】
そして、このガスセンサは、被測定ガス中の酸素濃度に応じて固体電解質体に発生する起電力を、基準電極と測定電極とから取り出し、この起電力の値(以下、「出力値」とも言う。)を用いて酸素濃度を検出するものである。
【0004】
ところで、近年の排気ガス規制の強化に対応するため、より精密な内燃機関の燃焼制御が要求されている。このため、上記ガスセンサにもより高度な測定精度が求められている。そして、ガスセンサがいかに精度よくその出力を行ないうるかを評価するための評価装置も要望されることとなる。このようなガスセンサの評価装置としては、例えば、特許文献1に記載のように、流量の等しい還元性ガスと酸化性ガスを交互に切替えたガスを被測定ガスとみなしてガスセンサに供給し、これに対するガスセンサの出力によりガスセンサの応答性を評価するものがある。
【特許文献1】特開2003−185621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のガスセンサの評価装置は、ガスセンサの出力自体である応答性を評価するものであり、ガスセンサの良否を判断できるものの、応答性が悪かった場合にガスセンサのどの部分に不具合があるのかを特定することができなかった。特に、ガスセンサ素子の測定電極に鉛や亜鉛等の卑金属が塗布されている場合、その量や酸化度合い等の状態はガスセンサの応答性を変化させる一つの要因となるが、ガスセンサの応答性から卑金属の状態を直接評価することは困難であった。
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、ガスセンサ素子の測定電極に塗布された卑金属の状態を評価するガスセンサの評価方法及び評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載のガスセンサの評価方法は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に、被測定ガスに曝される測定電極と該測定電極に対向する基準電極とを配設したガスセンサ素子の特性を評価するガスセンサの評価方法であって、少なくともプロパンガス及び酸化性ガスを用い、これらのいずれか一方の流量を固定し、他方を変化させて作成する雰囲気に前記ガスセンサ素子を曝したとき、前記ガスセンサが出力する出力値により前記測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に記載のガスセンサの評価方法は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記卑金属の状態として、前記卑金属の塗布量を評価することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に記載のガスセンサの評価方法は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記卑金属の状態として、前記卑金属の酸化の度合いを評価することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に記載のガスセンサの評価方法は、前記卑金属が、鉛又は亜鉛の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の請求項5に記載のガスセンサの評価装置は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に、被測定ガスに曝される測定電極と該測定電極に対向する基準電極とを配設したガスセンサ素子に、少なくともプロパンガス及び酸化性ガスから構成される雰囲気を供給するガス供給手段と、当該ガス供給手段により供給される前記プロパンガス又は前記酸化性ガスのいずれか一方の流量を固定し、他方を変化させる流量調整手段と、当該流量調整手段により調整された前記雰囲気にガスセンサ素子を曝すことで該ガスセンサ素子を備えるガスセンサが出力する出力値を測定する出力測定手段と、当該出力測定手段により測定された出力値に基づき前記測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価する評価手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6に記載のガスセンサの評価装置は、請求項5に記載の発明の構成に加え、前記評価手段が、前記卑金属の塗布量を評価することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項7に記載のガスセンサの評価装置は、請求項5に記載の発明の構成に加え、前記評価手段が、前記卑金属の酸化の度合いを評価することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項8に記載のガスセンサの評価装置は、請求項5に記載の発明の構成に加え、前記卑金属が鉛又は亜鉛の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に記載のガスセンサの評価方法は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に、被測定ガスに曝される測定電極と該測定電極に対向する基準電極とを配設したガスセンサ素子を、少なくともプロパンガス及び酸化性ガスを用い、これらのいずれか一方の流量を固定し、他方を変化させて作成する雰囲気に曝すため、この雰囲気に対してガスセンサが出力する出力値により、塗布量や酸化度合い等の測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価することができる。従って、ガスセンサの静特性からの評価のみで、他の要因に左右されずに測定電極に塗布されている卑金属の状態を直接評価できる。また、ガスセンサを破壊検査しなくても、測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価できるので、評価対象のガスセンサを再使用したい場合にも有効である。
【0016】
また、本発明の請求項2に記載のガスセンサの評価方法は、請求項1に記載の発明の効果に加え、卑金属の状態として、卑金属の塗布量を評価する。具体的には、プロパンガスは、測定電極を形成する白金等の触媒の働きにより酸化性ガス中の酸素と反応する。その結果、ガスセンサは還元雰囲気での起電力の出力値と、酸化雰囲気での起電力の出力値との差が大きく異なる。ここで、測定電極に卑金属が塗布されていると、測定電極の触媒活性がより低下するため、プロパンガスと酸素との反応が進まず、還元雰囲気(リッチ)であってもガスセンサから起電力の出力値が低く抑えられる。よって、卑金属の塗布量が多くなるほど、測定電極の触媒活性が低下し、反応する酸素の量が少なくなるため、還元雰囲気における起電力の出力値が低くなり、酸化雰囲気における起電力の出力値との差が小さくなる。このように、測定電極への卑金属の塗布量の変化に応じて起電力の値が変化することから、ガスセンサのリッチ側での応答性が悪い場合に、塗布されている卑金属に原因があるかどうかを特定することができる。さらに、卑金属の塗布量までを評価することができる。
【0017】
また、本発明の請求項3に記載のガスセンサの評価方法は、請求項1に記載の発明の効果に加え、卑金属の状態として、卑金属の酸化の度合いを評価する。測定電極に卑金属が塗布されていても、その卑金属が既に酸化してしまっている場合、触媒活性を低下させることがないので、卑金属が塗布されていない測定電極の場合と同様の出力となる。このようなガスセンサ素子を、還元雰囲気に曝した後に、再度本発明のガスセンサの評価方法を実施すれば、卑金属が塗布されている場合には酸化されていた卑金属が元に戻るため、正常に機能する結果、測定電極の触媒活性が低下し、反応する酸素の量が少なくなるため、還元雰囲気における起電力の値が低くなる。このように、還元雰囲気に曝すことと組み合わせることで、卑金属の酸化度合いも評価することができる。
【0018】
また、本発明の請求項4に記載のガスセンサの評価方法は、請求項1に記載の発明の効果に加え、卑金属が、鉛又は亜鉛の少なくとも一方を含んでいる。鉛又は亜鉛がガスセンサの測定電極に含有される卑金属として使用されることが多く、効果的に本発明の評価方法で塗布量や酸化度合い等の測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価できる。
【0019】
さらに、本発明の請求項5に記載のガスセンサの評価装置は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に、被測定ガスに曝される測定電極と該測定電極に対向する基準電極とを配設したガスセンサ素子を、少なくともプロパンガス及び酸化性ガスを用い、これらのいずれか一方の流量を固定し、他方を変化させて作成する雰囲気に曝すため、この雰囲気に対してガスセンサが出力する出力値により、塗布量や酸化度合い等の測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価することができる。従って、ガスセンサの静特性からの評価のみで、他の要因に左右されずに測定電極に塗布されている卑金属の状態を直接評価できる。また、ガスセンサを破壊検査しなくても、測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価できるので、評価対象のガスセンサを再使用したい場合にも有効である。
【0020】
また、本発明の請求項6に記載のガスセンサの評価装置は、請求項5に記載の発明の効果に加え、卑金属の状態として、卑金属の塗布量を評価する。具体的には、プロパンガスは、測定電極を形成する白金等の触媒の働きにより酸化性ガス中の酸素と反応する。その結果、還元雰囲気での起電力の出力値と、酸化雰囲気での起電力の出力値との差が大きく異なる。ここで、測定電極に卑金属が塗布されていると、測定電極の触媒活性がより低下するため、プロパンガスと酸素との反応が進まず、還元雰囲気(リッチ)であってもガスセンサから起電力の出力値が低く抑えられる。よって、卑金属の塗布量が多くなるほど、測定電極の触媒活性が低下し、反応する酸素の量が少なくなるため、還元雰囲気における起電力の出力値が低くなり、酸化雰囲気における起電力の出力値との差が小さくなる。このように、測定電極への卑金属の塗布量の変化に応じて起電力の値が変化することから、ガスセンサのリッチ側での応答性が悪い場合に、塗布されている卑金属に原因があるかどうかを特定することができる。さらに、卑金属の塗布量までを評価することができる。
【0021】
また、本発明の請求項7に記載のガスセンサの評価装置は、請求項5に記載の発明の効果に加え、卑金属の状態として、卑金属の酸化の度合いを評価する。測定電極に卑金属が塗布されていても、その卑金属が既に酸化してしまっている場合、触媒活性を低下させることがないので、卑金属が塗布されていない測定電極の場合と同様の出力となる。このようなガスセンサ素子を、還元雰囲気に曝した後に、再度本発明のガスセンサの評価方法を実施すれば、卑金属が塗布されている場合には酸化されていた卑金属が元に戻るため、正常に機能する結果、測定電極の触媒活性が低下し、反応する酸素の量が少なくなるため、還元雰囲気における起電力の値が低くなる。このように、還元雰囲気に曝すことと組み合わせることで、卑金属の酸化度合いも評価することができる。
【0022】
また、本発明の請求項8に記載のガスセンサの評価装置は、請求項5に記載の発明の効果に加え、卑金属が、鉛又は亜鉛の少なくとも一方を含んでいる。鉛又は亜鉛がガスセンサの測定電極に含有される卑金属として使用されることが多く、効果的に本発明の評価方法で塗布量や酸化度合い等の測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。図1は、ガスセンサの評価装置100全体のシステム構成を概略的に示すブロック図である。図2は、ガスセンサ1の全体構成を示す断面図である。図1に示すように、評価装置100は、ガスを供給するガス供給部110と、評価対象となるガスセンサ1を設置する反応炉部120とから構成されている。
【0024】
ガス供給部110には、プロパンガスが充填されたプロパンガスボンベ102、酸素ガスが充填された酸素ガスボンベ103、及び窒素ガスが充填された窒素ガスボンベ104の3つのガスボンベが設けられている。プロパンガスボンベ102には、ここから供給されるプロパンガスの流量を調整するためのマスフロー・コントローラ(MFC)112が接続されている。また、酸素ガスボンベ103には、ここから供給される酸素ガスの流量を調整するためのマスフロー・コントローラ113が接続されている。さらに、窒素ガスボンベ104には、ここから供給される窒素ガスの流量を調整するためのマスフロー・コントローラ114が接続されている。なお、酸素ガスボンベ103から供給される酸素ガスが本発明の酸化性ガスであるが、酸素ガスの他、NOガスやNO2ガスも酸化性ガスとして用いることができる。
【0025】
ガス供給部110は、配管115に接続されており、各マスフロー・コントローラ112,113,114により流量を調整されたプロパンガス、酸素ガス、窒素ガスからなる混合ガスが被測定ガスとして配管115に供給される。本実施形態では、プロパンガスボンベ102から供給されるプロパンガスの流量を一定とし、酸素ガスボンベ103から供給される酸素ガスの流量を増減させ、窒素ガスボンベ104から供給される窒素ガスの量を酸素ガスの量に応じて増減するようにマスフロー・コントローラ114により調整し、ガス供給部110から配管115に供給される混合ガスの全体の流量を一定としている。なお、流量を一定にするガスを酸素ガスとし、プロパンガスの流量を増減させ、その流量に応じて窒素ガスの流量を調整するようにしてもよい。
【0026】
反応炉部120は、ガス供給部110から各ガスが供給される配管115に接続された配管121内に、ガスセンサ1、空燃比センサ125、ヒータ124を設けている。ガスセンサ1からの出力は、反応炉部120の外に設けられたコンピュータからなる計測部123により測定される。電気式のヒータ124は、配管115に供給される混合ガスを加熱するためのものであり、ヒータ124の通電を制御することにより、ガスセンサ1に供給されるガスの温度がほぼ一定に保たれるようになっている。また、配管121には、モニタ用の空燃比センサ125が設けられ、この空燃比センサ125の出力は空燃比(A/F)計126に測定され、計測部123に入力される。なお、配管121に供給される混合ガスの割合は、ガスアナライザ127により分析され、適正割合が担保されるようになっている。
【0027】
ここで、評価装置100において評価される対象となるガスセンサ1について図2を参照して説明する。図2に示すように、ガスセンサ1は、先端部が閉じた有底筒状をなすセンサ素子2、センサ素子2の有底孔25に挿入されるセラミックヒータ3と、センサ素子2を自身の内側にて保持する主体金具5を備える。なお、本実施形態において、図2に示すセンサ素子2の軸に沿う方向のうち、測定対象ガス(排気ガス)に曝される先端部に向かう側(閉じている側、図中の下側)を「先端側」とし、これと反対方向(図中上側)に向かう側を「後端側」として説明する。
【0028】
このセンサ素子2は、イットリアを安定化剤として固溶させた部分安定化ジルコニアを主成分とする酸素イオン伝導性を有する固体電解質体28と、その固体電解質体28の有底孔25の内面に、そのほぼ全面を覆うようにPtまたはPt合金により多孔質状に形成された内部電極層27(本発明の基準電極に相当する)と、固体電解質体28の外面に、内部電極層27と同様に多孔質状に形成された外部電極層26(本発明の測定電極に相当する)を有している。そして外部電極層26には、卑金属である鉛が塗布されている。なお、本実施形態では、卑金属として鉛を塗布したが、その他の卑金属として、亜鉛、スズ等が挙げられる。
【0029】
また、センサ素子2には、外部電極層26を被覆する多孔質状の電極保護層99がさらに設けられている。この保護層は、アルミナマグネシアスピネル等の耐熱性セラミックよりなり、触媒金属粒子を担持している。また、このセンサ素子2の軸線方向の略中間位置には、径方向外側に向かって突出する係合フランジ部92が設けられている。また、セラミックヒータ3は、棒状に形成されると共に、内部に発熱抵抗体を有する発熱部42を備えている。このセラミックヒータ3は、後述するヒータ用リード線19,22を介して通電されることにより発熱部42が発熱することになり、センサ素子2を活性化させるべく当該センサ素子2を加熱する機能を果たす。
【0030】
主体金具5は、ガスセンサ1を排気管の取り付け部に取り付けるためのネジ部66と、排気管の取付部への取り付け時に取付工具をあてがう六角部93を有している。また、主体金具5は、センサ素子2を先端側から支持するアルミナ製の支持部材51と、支持部材51の後端側に充填される滑石粉末からなる充填部材52と、充填部材52を後端側から先端側に向けて押圧するアルミナ製のスリーブ53とを内部に収納可能に構成されている。
【0031】
主体金具5には、先端側内周に径方向内側に向かって突出した金具側段部54が設けられており、この金具側段部54にパッキン55を介して支持部材51を係止させている。なお、センサ素子2は、係合フランジ部92が支持部材51上に支持されることにより、主体金具5に支持される。支持部材51の後端側における主体金具5の内面とセンサ素子2の外面との間には、充填部材52が配設され、さらにこの充填部材52の後端側にスリーブ53及び環状リング15が順次同軸状に内挿された状態で配置される。
【0032】
また、主体金具5の後端側内側にはSUS304Lからなる内筒部材14の先端側が挿入されている。この内筒部材14は、先端側の拡径した開口端部(先端開口端部59)を環状リング15に当接させた状態で、主体金具5の金具側後端部60を内側先端方向に加締めることで、主体金具5に固定されている。なお、ガスセンサ1においては、主体金具5の金具側後端部60を加締めることを通じて、充填部材52がスリーブ53を介して圧縮充填される構造になっており、これによりセンサ素子2が筒状の主体金具5の内側に気密状に保持されている。
【0033】
内筒部材14は、軸線方向における略中間位置に内筒段付き部83が形成されており、内筒段付き部83よりも先端側が内筒先端側胴部61として形成され、内筒段付き部83よりも後端側が内筒後端側胴部62として形成される。内筒後端側胴部62は、内筒先端側胴部61よりも内径、外径がともに小さく形成され、その内径は後述するセパレータ7のセパレータ本体部85の外径よりも若干大きく形成されている。また、内筒後端側胴部62には、周方向に沿って所定の間隔で複数の大気導入孔67が形成されている。
【0034】
外筒部材16は、SUS304Lの板材を深絞り加工することにより筒状に成型されており、後端側に外部から内部に通じる開口を含む外筒後端側部63、先端側に内筒部材14に対して後端側から同軸状に連結される外筒先端側部64、外筒後端側部63と外筒先端側部64とを繋ぐ外筒段部35が形成される。なお、外筒後端側部63には、弾性シール部材11を気密状に固定するための加締め部88が形成されている。
【0035】
また、主体金具5の先端側外周には、センサ素子2の主体金具5の先端から突出する先端部を覆うとともに、複数のガス取入れ孔を有する金属製の二重のプロテクタ81,82が溶接によって取り付けられている。
【0036】
さらに、内筒部材14の内筒後端側胴部62の外側には、大気導入孔67から水が侵入するのを防止するための筒状のフィルタ68が配置されている。なお、フィルタ68は、例えばポリテトラフルオロエチレンの多孔質繊維構造体(商品名:ゴアテックス(ジャパンゴアテックス(株))のように、水を主体とする液体の透過は阻止する一方、空気などの気体の透過は許容する撥水性フィルタとして構成される。
【0037】
外筒部材16の外筒先端側部64は、フィルタ68が配置された内筒部材14(詳細には内筒後端側胴部62)を外側から覆う形状に形成されており、外筒先端側部64のうち、フィルタ68に対応する位置には周方向に沿って所定の間隔で複数の大気導入孔84が形成されている。
【0038】
なお、外筒部材16と内筒部材14とは、外筒部材16の外筒先端側部64のうちで大気導入孔84よりも後端側の少なくとも一部を、フィルタ68を介して径方向内側に加締めることで形成した第1加締め部56と、大気導入孔84よりも先端側の少なくとも一部を、同じくフィルタ68を介して径方向内側に加締めることで形成した第2加締め部57とによって固定されている。このとき、フィルタ68は、外筒部材16と内筒部材14との間で気密状に保持されることになる。また、外筒部材16の外筒先端側部64は内筒先端側胴部61に対し外側から重なりを生じるように配置されており、その重なり部の少なくとも一部が周方向の内側に向けて加締められることで、連結加締め部75が形成されている。
【0039】
これにより、基準ガスとしての大気は、大気導入孔84,フィルタ68および大気導入孔67、内筒部材14の内部に導入され、センサ素子2の有底孔25に導入される。一方、水滴はフィルタ68を通過することができないため、内筒部材14の内側への侵入が阻止される。
【0040】
外筒部材16の後端内側(外筒後端側部63)に配置される弾性シール部材11は、センサ素子2に電気的に接続される2本の素子用リード線20、21と、セラミックヒータ3に電気的に接続される2本のヒータ用リード線19、22とを挿通するための4つのリード線挿通孔17が、先端側から後端側にかけて貫通するように形成されている。
【0041】
また、内筒部材14の内筒後端側胴部62に自身の先端側が挿入配置されるセパレータ7は、素子用リード線20、21と、ヒータ用リード線19,22とを挿通するためのセパレータリード線挿通孔71が先端側から後端側にかけて貫通するように形成されている。また、セパレータ7には、先端面に開口する有底状の保持孔95が軸線方向に形成されている。この保持孔95内には、セラミックヒータ3の後端部が挿入され、セラミックヒータ3の後端面が保持孔95の底面に当接することでセパレータ7に対するセラミックヒータ3の軸線方向の位置決めがなされる。
【0042】
このセパレータ7は、内筒部材14の後端内側に挿入されるセパレータ本体部85を有するとともに、セパレータ本体部85の後端部から周方向外側に延設されたセパレータフランジ部86を有している。つまり、セパレータ7は、セパレータ本体部85が内筒部材14に挿入されるとともに、セパレータフランジ部86が内筒部材14の後端面にフッ素ゴムからなる環状シール部材40を介して支持される状態で、外筒部材16の内側に配置される。
【0043】
また、素子用リード線20、21及びヒータ用リード線19、22は、セパレータ7のセパレータリード線挿通孔71、弾性シール部材11のリード線挿通孔17を通じて、内筒部材14及び外筒部材16の内部から外部に向かって引き出されている。なお、これら4本のリード線19、20、21、22は外部において、図示しないコネクタに接続される。そして、このコネクタを介してECU等の外部機器と各リード線19、20、21、22とは電気信号の入出力が行なわれることになる。
【0044】
また、各リード線19、20、21、22は、詳細は図示しないが、導線を樹脂からなる絶縁皮膜にて被覆した構造を有しており、導線の後端側がコネクタに設けられるコネクタ端子に接続される。そして、素子用リード線20の導線の先端側は、センサ素子2の外面に対して外嵌される端子金具43の後端部と加締められ、素子用リード線21の導線の先端側は、センサ素子2の内面に対して圧入される端子金具44の後端部と加締められる。これにより、素子用リード線20は、センサ素子2の外部電極層26と電気的に接続され、素子用リード線21は、内部電極層27と電気的に接続される。他方、ヒータ用リード線19、22の導線の先端部は、セラミックヒータ3の発熱抵抗体と接合された一対のヒータ用端子金具と各々接続される。
【0045】
そして、セパレータ7の後端側には、耐熱性に優れるフッ素ゴム等からなる弾性シール部材11が、外筒部材16を加締め、加締め部88を形成することにより、外筒部材16に固定されている。この弾性シール部材11は、本体部31、本体部31の先端側の側周面から径方向外側に向けて延びるシール部材鍔部32を有している。そして、この本体部31を軸線方向に貫くように4つのリード線挿通孔17が形成されている。
【0046】
次に、評価装置100により、センサ素子2の外部電極層26に塗布されている卑金属の状態を評価する方法について以下の実施例により説明する。
【0047】
[実施例]
ガスセンサ1について、卑金属として鉛をセンサ素子2の外部電極層26に塗布した量の異なる3種類を用意して、ガスセンサ1の出力値を測定した。鉛の塗布量は、0μ/cm,3μ/cm,及び50μ/cmとした。また、センサ素子2の温度は600℃に調整した。なお、センサ素子2の温度としては、280℃〜900℃の間に調整することが好ましい。さらに、ガス供給部110から供給される被測定ガスの全体流量は毎分40L、被測定ガスの温度は450度に設定した。被測定ガスのうち、プロパンガスボンベ102から供給されるプロパンガスの濃度を1000ppmで固定し、酸素ガスボンベ103から供給される酸素ガスの流量を少量から多量に変化させ、残量を窒素ガスボンベ104から供給される窒素ガスにて調整して全体流量が常に一定になるようにした。なお、本実施例では、プロパンガスの濃度を1000ppmに固定したが、1000ppm以下の濃度でも十分に測定することができる。以上の条件で、ガスセンサ1が発生する起電力を測定した。その測定結果を図3に示す。図3は、鉛の塗布量とガスセンサの出力値の関係を示すグラフである。
【0048】
図3に示すように、鉛の塗布量が0μ/cmのガスセンサ1では、リッチ側では起電力が800mV前後の出力があり、リーン側では100mV前後の出力値になっている。これに対し、鉛の塗布量が3μ/cmのガスセンサ1では、リッチ雰囲気下での起電力が約600mVからリーン側での出力値である100mV前後までなだらかに出力値が低下していく。さらに、鉛の塗布量が50μ/cmのガスセンサ1では、リッチ→リーンに雰囲気が変化してもほぼ100mV前後の一定の出力値となっている。このように、鉛の塗布量が増加するに従って、リッチ雰囲気での起電力の出力値が低下し、リーン雰囲気での起電力の出力値との差が小さくなる。従って、本実施形態の評価装置100を用いて、プロパンガス濃度を固定し、酸素ガス濃度を変化させる被測定ガスにガスセンサ1のセンサ素子2を曝し、ガスセンサ1の出力値を測定することにより、ガスセンサ1のセンサ素子2の外部電極層26に塗布されている卑金属(鉛)の量を評価することができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の評価装置100によれば、測定電極に塗布された卑金属の量のようなガスセンサ1の測定電極に塗布された卑金属の状態を直接評価することができる。破壊検査をする必要がなく、他の要因による評価結果への影響がないため、効果的に測定電極に塗布された卑金属の状態のみを評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ガスセンサの評価装置100全体のシステム構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】ガスセンサ1の全体構成を示す断面図である。
【図3】鉛の塗布量とガスセンサの出力値の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 ガスセンサ
2 センサ素子
26 外部電極層
27 内部電極層
28 固体電解質体
100 評価装置
102 プロパンガスボンベ
103 酸素ガスボンベ
104 窒素ガスボンベ
110 ガス供給部
112 マスフロー・コントローラ
113 マスフロー・コントローラ
114 マスフロー・コントローラ
123 計測部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に、被測定ガスに曝される測定電極と該測定電極に対向する基準電極とを配設したガスセンサ素子の特性を評価するガスセンサの評価方法であって、
少なくともプロパンガス及び酸化性ガスを用い、これらのいずれか一方の流量を固定し、他方を変化させて作成する雰囲気に前記ガスセンサ素子を曝したとき、前記ガスセンサが出力する出力値により前記測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価することを特徴とするガスセンサの評価方法。
【請求項2】
前記卑金属の状態として、前記卑金属の塗布量を評価することを特徴とする請求項1に記載のガスセンサの評価方法。
【請求項3】
前記卑金属の状態として、前記卑金属の酸化の度合いを評価することを特徴とする請求項1に記載のガスセンサの評価方法。
【請求項4】
前記卑金属は、鉛又は亜鉛の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサの評価方法。
【請求項5】
酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に、被測定ガスに曝される測定電極と該測定電極に対向する基準電極とを配設したガスセンサ素子に、少なくともプロパンガス及び酸化性ガスから構成される雰囲気を供給するガス供給手段と、
当該ガス供給手段により供給される前記プロパンガス又は前記酸化性ガスのいずれか一方の流量を固定し、他方を変化させる流量調整手段と、
当該流量調整手段により調整された前記雰囲気にガスセンサ素子を曝すことで該ガスセンサ素子を備えるガスセンサが出力する出力値を測定する出力測定手段と、
当該出力測定手段により測定された出力値に基づき前記測定電極に塗布されている卑金属の状態を評価する評価手段とを備えたことを特徴とするガスセンサの評価装置。
【請求項6】
前記評価手段は、前記卑金属の塗布量を評価することを特徴とする請求項5に記載のガスセンサの評価装置。
【請求項7】
前記評価手段は、前記卑金属の酸化の度合いを評価することを特徴とする請求項5に記載のガスセンサの評価装置。
【請求項8】
前記卑金属は、鉛又は亜鉛の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項5に記載のガスセンサの評価装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate