説明

ガスセンサ

【課題】シール材を圧縮した際に、そのシール材がホルダ部とセンサ部との間の隙間に入り込むのを抑制して、センサ部とホルダ部との間のシール性を向上することのできるガスセンサを得る。
【解決手段】シール材収納スペース10内に充填したセラミック粉20と、そのセラミック粉20の充填側に配置した押圧部材19と、を備えてシール部11を構成する。セラミック粉20とセンサ部3のうちセンサ部3側に、そのセラミック粉20が圧縮されることによりセラミック粉20のズレを抑制するズレ防止部材34を設ける。これにより、セラミック粉20を圧縮したときに、ズレ防止部材34によってセラミック粉20のズレを抑制でき、セラミック粉20がホルダ部8とセンサ部3との間の隙間に入り込むのを抑制して、センサ部3とホルダ部8との間のシール性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスセンサとして、自動車の内燃機関を制御するために排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサがある。
【0003】
そして、このような酸素センサとして、酸素濃度を検出するセンサ部をホルダ部に嵌挿して支持し、ホルダ部の一端部にセンサ部のガス測定部を覆うプロテクタを装着するとともに、他端部にセンサ部の接点部を覆うケーシングを装着し、ホルダ部とセンサ部の外周との間にシール部を設けて気密にシールしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1では、シール部は、ホルダ部の内周に形成したシール材収納スペース内に充填したセラミック粉と、スペースの開口部を閉止するスペーサと、を備えており、シール材収納スペースの開口部を加締めた時の加締め力でスペーサを押圧してセラミック粉を圧縮し、圧縮したセラミック粉によってホルダ部とセンサ部との間をシールするようにしている。
【特許文献1】特開2005−241346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の技術では、センサ部をホルダ部に嵌挿させやすくするためにホルダ部に形成したセンサ部の挿通孔をセンサ部の外径よりも若干大径に形成しているため、ホルダ部にセンサ部を嵌挿した状態では、それら両者間に所定の隙間が形成されてしまう。
【0006】
そのため、セラミック粉を圧縮した際に、セラミック粉がホルダ部とセンサ部との隙間に入り込んでしまい、セラミック粉の内部圧縮応力が減少してシール性が低下するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、シール材を圧縮した際に、そのシール材がホルダ部とセンサ部との間の隙間に入り込むのを抑制して、センサ部とホルダ部との間のシール性を向上することのできるガスセンサを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ガス成分を検出するセンサ部と、前記センサ部を挿入する挿入孔を有し、当該センサ部を嵌挿するホルダ部と、前記ホルダ部の挿入孔の外周に設けられたシール材収納スペース内に圧縮されたシール材を充填することで、前記センサ部の外周と前記ホルダ部との間をシールするシール部と、を備えたガスセンサにおいて、前記シール材および前記センサ部のうちの少なくとも一方に、前記センサ部に対するシール材のズレを抑制するズレ防止部材を設けたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シール材およびセンサ部のうちの少なくとも一方にズレ防止部材を設けたことにより、シール材を圧縮したときにセンサ部に対するシール材のズレを抑制することができるため、シール材がホルダ部とセンサ部との間の隙間に入り込むのが抑制され、センサ部とホルダ部との間のシール性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具現化した実施形態について図面を参照して説明する。ここでは、内燃機関を搭載した自動車の排気管に装着された空燃比検出用の酸素センサを例示する。
【0011】
図1は、本実施形態にかかるガスセンサの縦断面図、図2は、センサ部を示す図であって、(a)は、センサ部の側面図、(b)は、図2(a)のA−A断面図、図3は、センサ部の構成を示す分解斜視図、図4は、シール部の拡大断面図であって、(a)は、シール材の圧縮前の状態を示す拡大断面図、(b)は、シール材の圧縮状態を示す拡大断面図、図5は、多孔質材の焼失剤と気孔率の関係をグラフで示す説明図である。
【0012】
本実施形態にかかる酸素センサ(ガスセンサ)1は、図1に示すように、長尺円柱状のセンサ部3と、端子部7およびリード線4が組み付けられた筒状の絶縁碍子5とを備えている。
【0013】
センサ部3の軸方向一方側(図1中下側)には、ガス検知部2が形成されている。また、センサ部3の軸方向他方側(図1中上側)の表面としての外周面3bには、電極部6が露出して設けられている。この電極部6は、ガス検知部2に電気的に接続されている。
【0014】
絶縁碍子5の軸方向一方側の端面5cには、軸方向他方側に向けて凹む凹部5fが形成されている。この凹部5fの内周面5aに沿って、端子部7の鉤状に屈曲された部分が複数配置され、これら複数の端子部7の間にセンサ部3の接続端部3aが嵌合されるようになっている。
【0015】
すなわち、センサ部3と絶縁碍子5とが組み付けられた状態では、端子部7の鉤状に屈曲された部分が、絶縁碍子5の凹部5fの内周面5aと接続端部3aの外周面3bとの間に形成される空間部Sに配置され、当該内周面5aと外周面3b上に露出した電極部6との間に挟持されるようになっている。
【0016】
端子部7は、このように挟持されて生じる反発力によって電極部6に圧接され、以て、当該電極部6と電気的に接続される。そして、この端子部7は、軸方向他方側で、結合部14を介してリード線4内の芯線4aに電気的に接続されている。すなわち、ガス検知部2は、電極部6、端子部7、および結合部14を介して、リード線4内の芯線4aと電気的に接続されている。
【0017】
また、センサ部3はホルダ部8の挿入孔8aに嵌挿されている。このとき、センサ部3のガス検知部2はホルダ部8の一方側(図1中下側)に露出している。一方、センサ部3の接続端部3aはホルダ部8の他方側(図1中上側)に露出しており、この接続端部3aが絶縁碍子5の底面5gに対して軸方向に空隙部S1をあけて挿入されるようになっている。よって、センサ部3と絶縁碍子5との組み付け時、または組み付け後に例えば車両の振動等によってセンサ部3が移動した場合においても、絶縁碍子5の底面5gにセンサ部3が接触することが無い。また、センサ部3と絶縁碍子5とが組み付けられた状態では、ホルダ部8と絶縁碍子5とが軸方向に相互に突き当てられ、ホルダ部8の軸方向他方側の端面8cと絶縁碍子5の軸方向一方側の端面5cとが相互に当接するようになっている。
【0018】
さらに、本実施形態では、ホルダ部8の挿入孔8aは、センサ部3をスムーズに嵌挿できるように、センサ部3の径よりも若干大径に形成されており、挿入孔8aにセンサ部3を嵌挿した状態で、挿入孔8aの内周とセンサ部3の外周との間に所定の隙間が形成されるようになっている。
【0019】
ガス検知部2は、ホルダ部8に溶接(9g)や加締め等で固定された二重管9a,9bで構成された有底円筒状のプロテクタ9で覆われている。
【0020】
プロテクタ9は、例えば金属材料、セラミックス材料等によって形成された内側プロテクタ9aおよび外側プロテクタ9bを有している。このプロテクタ9は、ホルダ部8の先端側に配置され、その内周側に、ホルダ部8から突出するセンサ部3の突出端側が挿入されている。
【0021】
外側プロテクタ9bの先端側9eは、内側プロテクタ9aに向けて径方向内向きに縮径されており、この縮径部位に、内側プロテクタ9aの外周側に隙間嵌めで嵌合される円形状の嵌合開口9fが設けられている。
【0022】
このように、内側プロテクタ9aおよび外側プロテクタ9bによってセンサ部3の突出端側を覆うことで、ガス検知部2を排気ガス中の異物等から保護することができる。
【0023】
この内側プロテクタ9aの一方側(図1中下側)の端部9dには、ガス流通用の流通孔9cが形成されている。検出ガスはその流通孔9cを経由してプロテクタ9内に進入して、ガス検知部2の周囲に到達する。
【0024】
また、ホルダ部8の軸方向他端側(図1中上側)には、挿入孔8aを拡径させたシール材収納スペース10が形成されている。このシール材収納スペース10の軸方向一端(図1中下側)には、軸方向一方側(図1中下側)に向けて小径となる傾斜面10aと、軸方向に垂直な底面10bとが形成されている。そして、このシール材収納スペース10に、例えばステアタイトまたはタルクと呼ばれる耐熱性のセラミック粉20を充填することでシール部11が形成され、当該シール部11によってセンサ部3と挿入孔8aとの間の隙間の気密が保持されるようになっている。
【0025】
そして、シール材収納スペース10内に配置された押圧部材19を加締め部8dによってセンサ部3の径方向内側へ向けて全周加締め等の手段を用いて曲げ加工することで、充填材が加圧状態で充填され、センサ部3をホルダ部8に位置決めすることができる。また、シール部11は、ホルダ部8とセンサ部3との間の隙間等を塞ぎ、ホルダ部8内に外部の水分等が浸入するのを遮断するとともに、排気管内の排気ガス等がケーシング13側に侵入するのを遮断する機能を有している。
【0026】
絶縁碍子5の凹部5fの底部5bには、端子部7の固定部7bを挿入する取付穴12が周方向に等間隔をもって複数(本実施形態では4箇所)形成されている。このように複数の端子部7を周方向に等分配して配置することで、これら複数の端子部7の間に挟持されるセンサ部3を凹部5fの中心に配置しやすくしている。
【0027】
絶縁碍子5の外周は略筒状のケーシング13で覆われている。このケーシング13の軸方向一端(図1中下端)側の開口部13aは、ホルダ部8の外周面に嵌着され、レーザー溶接等で一体に結合されて密閉されている(13d)。一方、ケーシング13の他端(図1中上端)側は延長されて複数のリード線4の結合部14を覆い、その端部はそれらリード線4を加締め部13cによって気密状態で挿通するフッ素ゴム等の耐熱性のシールラバー15を径方向内向きに縮径させることによって閉塞されている。
【0028】
なお、絶縁碍子5と接続端部3aとの間に設けた空間部Sは、シール部11、シールラバー15およびケーシング13とホルダ部8との嵌着部分13dによってほぼ気密性が保持されるが、リード線4の芯線4aと被覆材4bとの微少な隙間のみを介して外部と連通し、ケーシング13の内部に酸素濃度検出に用いる基準大気が導入されるようになっている。
【0029】
ガス検知部2は、酸素濃度検出部とヒータとを備えている。これら酸素濃度検出部およびヒータには、それぞれに一対の電極が設けられるため、電極部6、端子部7、およびリード線4はそれぞれ2対づつの合計4つずつが設けられている。
【0030】
端子部7の一端部7aは、リード線4の結合部14から突出するリード板14aにスポット溶接されている。
【0031】
また、端子部7の軸方向他方側(図1中下側)に設けた鉤状のばね部分は、絶縁碍子5の凹部5fの内周面5aと電極部6との間で挟持されて当該電極部6に圧接されている。このとき、端子部7は、接触部P5で電極部6に接触している。
【0032】
固定部7bは、帯幅方向に拡幅して断面略C字状に丸めて形成されており、絶縁碍子5の取付穴12に嵌挿されるようになっている。
【0033】
また、上記構成の酸素センサ1は、ホルダ部8の一端部に形成したねじ部8bを排気管18のねじ穴18aに螺入することで取り付けられ、この状態で、プロテクタ9で覆われたガス検知部2がその排気管18内に突出する。なお、ホルダ部8と排気管18の外周面との間はガスケット16によってシールされる。
【0034】
そして、排気管内を流通する排気ガスがプロテクタ9の流通孔9cから内部に流入すると、そのガス中の酸素濃度がガス検知部2によって電気信号として検知され、その電気信号の情報が2対のうちの1対の電極部6、端子部7、結合部14、およびリード線4を介して外部に取り出される。なお、残りの1対の電極部6、端子部7、結合部14、およびリード線4はガス検知部2内のヒータの加熱用として用いられる。
【0035】
また、接続端部3aと絶縁碍子5とを組み付けるにあたっては、それら接続端部3aと絶縁碍子5とをセンサ部3の軸方向に相互に近接する方向に、絶縁碍子5の端面5cがホルダ部8の端面8cに突き当たる組付位置(図1)まで相対移動させる。このとき接続端部3aは、凹部5f内に挿入されるとともに、当該凹部5fの内周面5aに沿って配置された複数(本実施形態ではセンサ部3の周方向に90°おきに配置された四つ)の端子部7によって挟持されることになる。
【0036】
なお、本実施形態では、センサ部3の接続端部3aの先端にはその全周に亘って面取り3cが施されている。これにより、接続端部3aの先端と端子部7との接触角度が浅くなって、当該先端あるいは端子部7の損傷が抑制される。
【0037】
また、本実施形態では、図1に示すように、ケーシング13と絶縁碍子5との間に、弾性部材として、断面C字状のCリング17を介在させている。Cリング17は、本実施形態では、円環状に形成され、絶縁碍子5にその外周を取り囲むようにして嵌着される。また、Cリング17の断面形状は、端部を切り欠かれた略C字状となっている。
【0038】
このCリング17は、絶縁碍子5とケーシング13との間に挟持されて弾性的または弾塑性的な反発力を生じさせ、絶縁碍子5をケーシング13に対してホルダ部8側、すなわち軸方向一方側(図1中下側)に押し付ける力を生じさせている。これにより、絶縁碍子5はホルダ部8の端面8cに強固に固定されている。
【0039】
また、このCリング17は、絶縁碍子5の外周とケーシング13の内周との間に挟持されているため、絶縁碍子5の中心軸の直交方向(図1中上下方向)への振動を抑制することができる。排気管18から伝達される振動のレベルが大きい場合、特に2輪車のような高周波の振動が生じる場合には、絶縁碍子5および端子部7の変位が増大し、端子部7がへたり易くなる虞があるが、本実施形態では、このCリング17によって、絶縁碍子5の振動を抑制するとともに端子部7による絶縁碍子5の振動抑制効果と協働して、より端子部7のへたりを抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態では、絶縁碍子5の外周の、軸方向一方側の端面5cと他方側の端面5dの間となる位置に、ホルダ部8の反対側(軸方向他方側、図1中上側)に向けて小径となる段差部5eを設けてある。そして、ケーシング13にも、ホルダ部8の反対側に向けて小径となる段差部13bを設け、段差部5eにCリング17を装着して、当該段差部5eと段差部13bとによってCリング17を挟持するようにしてある。
【0041】
酸素センサ1は、ホルダ部8の一端部に形成したねじ部8bを排気管18のねじ穴18aに螺入することで取り付けられる。酸素センサが車両の排気管18に搭載された場合、排気管18から伝達される振動の振幅は排気管18から離間するほど(すなわちリード線4側ほど)大きくなって、排気管18に近付くほど(固定端ほど)小さくなる。本実施形態では、段差部5eを設けてCリング17を排気管18側により近付けて配置することができる分、振幅がより小さい位置で振動の抑制を図ることができるため、振動抑制効果をより増大させることができ、Cリング17もより小型化したものを使用することができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、Cリング17を、複数の端子部7を取り囲むように、これら端子部7に対してセンサ部3の中心軸の径方向外側に配置している。
【0043】
また、本実施形態では、段差部5eに、軸方向に対して傾斜する傾斜面(軸方向一方側へ向かうほど拡径されるテーパ面)を設け、この傾斜面にCリング17を装着してある。このため、Cリング17によって、絶縁碍子5に軸方向ならびに径方向の双方に弾性力を作用させることができ、比較的簡素な構成によって絶縁碍子5のホルダ部8への押し付けと振動抑制との双方の効果を得ることができる。
【0044】
次に、センサ部3の構成について説明する。
【0045】
本実施形態にかかるセンサ部3は、基体部28を有しており、この基体部28は、図2および図3に示すように、細長いロッド状に形成された心棒部となるヒータ部であるとともに、例えばアルミナ等のセラミックス材料により小径の中実ロッド状に形成された芯ロッドとしてのヒータコア21と、ヒータパターン22と、絶縁性のヒータ被覆層23とを備えている。
【0046】
ここで、ヒータパターン22は、例えばアルミナを混合した白金等の発熱性導体材料からなり、ヒータコア21の外周面に曲面印刷等の手段を用いて形成されている。また、ヒータパターン22は、ヒータコア21の先端側から基端側に向けて延びる一対のリード部22a,22aを有しており、これらのリード部22a,22aは、ヒータコア21の基端側で各端子部7に接続されている。
【0047】
このヒータパターン22は、外部のヒータ電源(図示せず)から各リード部22a,22aを介して給電されることにより、例えばヒータコア21の温度が約720℃〜800℃程度の温度となるように当該ヒータコア21を発熱させるものである。
【0048】
また、ヒータ被覆層23は、ヒータパターン22をリード部22a,22aと一緒に径方向外側から保護するために、例えばアルミナ等のセラミックス材料を曲面印刷等の手段でヒータコア21の外周側に厚膜印刷することにより形成されている。
【0049】
また、図2に示すように、基体部28の表面上には前述のヒータパターン22とは別の位置に形成された緩和層27を含んで順次積層された機能層30および当該機能層30の外面を全体的に覆う保護層31等が曲面印刷等の手段を用いて積層化するように形成されている。
【0050】
機能層30は、図2および図3に示すように、酸素イオン伝導性を有する固体電解質層24と、この固体電解質層24の基体部28側に位置する内側電極層25と、この内側電極層25に対して固体電解質層24の反対側に位置する外側電極層26と、固体電解質層24の基体部28側に位置し、固体電解質層24に向けて基準ガスである外気(大気)を導く緩和層27とを含んでいる。
【0051】
固体電解質層24は、例えばジルコニアの粉体中に所定重量%のイットリアの粉体を混合させたペースト状物により形成されている。そして、この固体電解質層24は、内側電極層25と外側電極層26との間で、周囲の酸素濃度差に応じた起電力を発生させ、その厚さ方向に酸素イオンを輸送するものである。すなわち、固体電解質層24と一対の電極である内側電極層25および外側電極層26とで、酸素濃度を電気信号として取り出す酸素測定部29が形成されている。また、図2に示すように、固体電解質層24は、その一部がヒータコア21や後述する緩和層27に接するように形成されている。このように、緩和層27は、少なくとも基体部28(本実施形態ではヒータコア21)と固体電解質層24との界面に形成されるものである。
【0052】
内側電極層25および外側電極層26は、それぞれ導電性を有し、かつ酸素が通過できる材料(例えば白金等)により形成されている。そして、内側電極層25および外側電極層26にはそれぞれリード線部25a,26aが一体的に延設されており、これらのリード線部25a,26aによって内側電極層25と外側電極層26との間に生じた出力電圧を検出できるようになっている。
【0053】
また、機能層30とヒータパターン22とは基体部28の表面上の径方向の対向位置に設けられている。
【0054】
緩和層27は、例えばアルミナの粉体(所定重量のジルコニアの粉体を混合してもよい)からなるペースト状物を曲面印刷等の手段を用いて基体部28(本実施形態ではヒータコア21)の表面の外周側に厚膜印刷することで図2に示すような円弧状に形成されている。
【0055】
そして、緩和層27は連続気泡からなる空孔を有する多孔質構造に形成されており、センサ部3の周囲を流れる被測定ガスの一部を、図3に示す後端部の端面から矢示A方向(軸方向)へと移動させて緩和層27の内部に拡散させつつ、この被測定ガスを前述の内側電極層25に向けて透過させる機能を有している。
【0056】
なお、本実施形態では、緩和層27は、固体電解質層24の面積よりも小さく形成されるとともに、絶縁性材料(例えばアルミナ)と固体電解質(例えばジルコニア)とのセラミック混合体により形成されており、当該緩和層27は、固体電解質層24の焼結時に固体電解質層24とヒータコア21との間に生じる応力差を緩和する機能も有している。
【0057】
さらに、固体電解質層24を除いた機能層30の外面(リード線部25a,26aおよび緩和層27の一部外面)には、保護層31が形成されており、この保護層31の外面には、拡散層32が保護層31や固体電解質層24を覆うように形成されており、この拡散層32の外面には、スピネル保護層33が拡散層32の外面を含めた領域を覆うように形成されている。
【0058】
保護層31は、測定ガス中の酸素が内面側に透過できない材料、例えば、アルミナ等のセラミック材料によって形成されている。そして、この保護層31は、固体電解質層24の一部外面および両電極層25,26の領域を除いて、例えば外側電極層26が露出するように形成されている。
【0059】
拡散層32は、外部に露出される外側電極層26を外側から覆い、測定ガス中の有害ガス、ダスト等は内面側に通過できないが、測定ガス中の酸素は通過できる材質、例えば、アルミナと酸化マグネシウムの混合物の多孔質構造体によって形成されている。
【0060】
スピネル保護層33は、測定ガス中の酸素を通過できる多孔質構造をしており、保護層31より荒い多孔質体によって形成されている。
【0061】
さらに、本実施形態にかかるセンサ部3の、当該センサ部3とホルダ部8との嵌挿部分をシールするシール部11に対応する部位には、セラミック粉20の圧縮時にセラミック粉20がズレてしまうのを抑制するズレ防止部材34としての多孔質材35が形成されている。本実施形態では、この多孔質材35は、多孔質層(ポーラス層)36として拡散層32と同一面上に形成されている。
【0062】
ここで、多孔質層36(多孔質材35)は、例えばアルミナとジルコニアとからなる混合材料の粉体に、空孔形成剤としてのカーボン粉(平均粒径2〜16μm)等を10〜55重量パーセント程度添加したペースト状物を保護層31の外周側に印刷し、センサ部3の焼成時にカーボン粉(空孔形成剤)を焼き飛ばすことで形成されており、センサ部3の焼成時に、多孔質層36(多孔質材35)の内部に連続気泡となる空孔が形成されることになる。
【0063】
次に、センサ部3の製造方法を説明する。
【0064】
上述したセンサ部3は、一連の印刷工程で形成される。まず、アルミナ等のセラミック材料を射出成形してヒータコア21を製造した後、このヒータコア21を回転させつつ、ヒータコア21の外面の略半分領域(図3中下側)に、ヒータパターン22,ヒータ被覆層23を曲面スクリーン印刷して形成する。
【0065】
次に、ヒータコア21の外面で、かつ、ヒータパターン22の領域とは逆の半分領域(図3中上側)に、緩和層27を曲面スクリーン印刷によって形成する。
【0066】
そして、ヒータコア21の外面に緩和層27の上から白金等からなる導電性ペーストを曲面スクリーン印刷して内側電極層25及びそのリード線部25aを一体に形成する。
【0067】
次に、内側電極層25及び緩和層27の上面に例えば、ジルコニアとイットリアとからなるペースト状物を曲面スクリーン印刷して緩和層27の面積よりも大きく酸素イオン伝導性を有する固体電解質層24を形成する。
【0068】
その後、固体電解質層24の外面に白金等からなる導電性ペーストを曲面スクリーン印刷して外側電極層26及びそのリード線部26aを一体に形成する。
【0069】
こうして機能層30を形成するとともに、機能層30の外面(外側電極層26及び固体電解質層24の外面を除いた領域)に例えば、アルミナと酸化マグネシウムからなるペースト状物を曲面スクリーン印刷して保護層31を形成する。
【0070】
ここで、保護層31は、両電極25,26のリード線部25a,26a及び緩和層27の一部を覆うように形成されており、リード線部25a,26aを保護するとともに、緩和層27をシールする機能を有している。
【0071】
このように、保護層31で両電極25,26のリード線部25a,26a及び緩和層27の一部を覆うことで、緩和層27に導入される空気の漏れを確実に防止できるようにしている。
【0072】
次いで、固体電解質層24の全領域、及び保護層31の一部外面を覆うように拡散層32が形成される。
【0073】
拡散層32は、焼成後に多孔質構造となり、固体電解質層24を保護するとともに、被測定ガスを外側電極層26に拡散する機能を有している。
【0074】
また、拡散層32と同一面上の印刷工程において、保護層31の外面に、アルミナとジルコニアとからなる混合材料の粉体に空孔形成剤としてのカーボン粉等を10〜55重量パーセント程度添加したペースト状物を曲面スクリーン印刷して多孔質層36を形成する。
【0075】
次いで、多孔質層36を除いた領域で外側電極層26及び固体電解質層24の外面のみならずヒータ被覆層23の外面、つまり、ヒータコア21の外面の円周方向の全領域に亘って、例えば、アルミナと酸化マグネシウムからなるペースト状物を曲面スクリーン印刷してスピネル保護層33を形成し、円柱状作成物を形成することで曲面スクリーン印刷工程を終了する。
【0076】
そして、一連の印刷工程を終えた円柱状作成物を高熱(例えば1400℃から1500℃)で焼成することにより一体的に焼結されたセンサ部3を得ることができる。
【0077】
このとき、緩和層27及び多孔質層36は、ジルコニアとアルミニウムの混合材料に、さらに例えばカーボン等の空孔形成剤(焼失剤)を加えて混合した物をパターニングし、それを焼成することで多孔質構造としている。
【0078】
また、内側電極層25の材料として、貴金属材料(例えば白金等)に例えばテオブロミン等の空孔形成剤(焼失剤)を加えて混合した物を用いることで、焼成時に空孔形成剤(焼失剤)が焼き飛ばされて電極内に空孔ができ、内側電極層25を多孔質構造とすることができる。
【0079】
なお、緩和層27は、固体電解質層24を通じて内側電極層25へ輸送されてくる酸素を図持しない経路によって逃散させるガス逃散路としての機能もある。とくに、本実施形態にかかる緩和層27は、セラミック混合体に空孔形成剤を混合した材料を用いて形成されているため、焼成時に空孔形成剤が焼き飛ばされて層内に空孔ができ、緩和層27を多孔質構造にすることができる。その結果、内側電極層25から供給された余剰酸素を検出素子部へ排出することができるようになり、酸素の圧力の上昇による素子割れを防止することが可能になる。
【0080】
さらに、本実施形態では、多孔質層36は、セラミック粉20が圧縮されることによりセラミック粉20に係合する係合部としての微細な凹凸部36aを有している。そして、セラミック粉20と多孔質層36の凹凸部36aとによって発生する摩擦力により、圧縮したセラミック粉20のセンサ部3に対するズレを抑制するようにしている。すなわち、多孔質層36は摩擦部材としての機能も有している。
【0081】
このように、ズレ防止部材34を多孔質構造の多孔質層36とすることにより、セラミック粉20を圧縮した場合に、そのセラミック粉20が多孔質層36の空孔内に入り込みやすくなり、両者がより密に結合してシール性をより一層向上することができる。この場合、上記空孔を係合部としての凹凸部36aとして用いることができる。
【0082】
ところで、多孔質層36は、図4(a)に示すように、シール材収納スペース10の底面10bに当接しており、この状態でセラミック粉20を多孔質層36とシール材収納スペース10の内周との間に充填するようになっている。
【0083】
そして、図4(b)に示すように、押圧部材19を押圧してセラミック粉20を圧縮することにより、セラミック粉20はシール材収納スペース10の傾斜面10a側に押し付けられる。このとき、底面10bには多孔質層36が当接しており、ホルダ部8とセンサ部3との隙間が堰止めされているため、セラミック粉20がホルダ部8の挿入孔8a内に流入するのを阻止することができる。
【0084】
また、本実施形態では、セラミック粉20を圧縮した状態で当該セラミック粉20が多孔質層36の上端を覆っているため、多孔質層36の内部を通過するガス(矢印aで示す)をセラミック粉20で遮断することができる。
【0085】
なお、多孔質層36(多孔質材35)は、いわゆるアンカー効果を十分に発揮するためにその気孔率が30パーセント以上80パーセント以下となるように設定されている。
【0086】
ここで、図5に示す空孔形成剤の添加量と気孔率との関係を見ると、多孔質層36に添加される空孔形成剤の量の増大に伴って当該多孔質層36に形成される気孔率が増加することが理解される。また、アンカー効果を十分に発揮するためには多孔質層36の気孔率は30〜80パーセントに収めることが好ましく、その時の空孔形成剤の含有率は、図4よりほぼ10重量パーセント以上55重量パーセント以下とする必要があることが理解される。
【0087】
この空孔形成剤はセンサ部3の焼成時に焼き飛ばされて多孔質層36の内部に連続気泡となる空孔を形成するものである。
【0088】
上述したように、本実施形態では、多孔質層36は、例えばアルミナとジルコニアとからなる混合材料の粉体に、空孔形成剤としてのカーボン粉(平均粒径2〜16μm)等を10〜55重量パーセント程度添加したペースト状物を保護層31の外周側に印刷することにより形成されている。
【0089】
これにより、多孔質層36の内部にある程度大きな空孔を形成することができる。
【0090】
なお、空孔形成剤の含有量が10重量パーセント未満である場合には、空孔を連続的に形成することが困難であり、セラミック粉20を圧縮した場合に空孔内への入り込みが不十分となりセラミック粉20との付着強度を確保することができなくなる。
【0091】
また、空孔形成剤の含有量を55重量パーセント以上とした場合は空孔の数が多くなり、多孔質層36自体の強度が低下してしまう。
【0092】
ところで、本実施形態では、多孔質層36(多孔質材35)の気孔率が30パーセント以上80パーセント以下となるように、空孔形成剤(焼失剤)の含有率を10重量パーセント以上55重量パーセント以下に設定しているが、多孔質層36(多孔質材35)の気孔率をその範囲内(30パーセント以上80パーセント以下)に確実に収めるためには、空孔形成剤(焼失剤)の含有率を15重量パーセント以上50重量パーセント以下に設定するのがより好ましい。
【0093】
以上の本実施形態によれば、セラミック粉20とセンサ部3のうちセンサ部3側に、そのセラミック粉20が圧縮されることによりセラミック粉20のズレを抑制するズレ防止部材34を設けたので、セラミック粉20を圧縮したときにズレ防止部材34によりそのセラミック粉20のズレを抑制できる。つまり、本実施形態ではセラミック粉20がズレ防止部材34である多孔質層36の微細な凹凸部36aに入り込むことによってセラミック粉20のズレを抑制できる。このようにして、ズレを抑制したセラミック粉20がホルダ部8とセンサ部3との間の隙間に入り込むのを抑制して、センサ部3とホルダ部8との間のシール性を向上することができる。
【0094】
また、本実施形態によれば、ズレ防止部材は、セラミック粉20とセンサ部3との間に介装した摩擦部材となる多孔質層36(多孔質材35)によって構成されるので、多孔質層36(多孔質材35)の多孔質部分によってセラミック粉20のズレ抑制効果をより一層高めることができる。
【0095】
さらに、本実施形態によれば、摩擦部材とした多孔質層36は、セラミック粉20が圧縮されることによりセラミック粉20に係合する係合部としての微細な凹凸部36aを有しているため、当該凹凸部36aによって圧縮したセラミック粉20のズレを効率良く抑制できる。
【0096】
さらにまた、多孔質材35を、センサ部3の最外側に設けられる多孔質層36として形成したので、多孔質材35をセンサ部3と一体化してシール効果をより高めることができる。
【0097】
また、本実施形態によれば、例えばアルミナとジルコニアとからなる混合材料の粉体に、空孔形成剤としてのカーボン粉(平均粒径2〜16μm)等を10〜55重量パーセント程度添加したペースト状物を保護層31の外周側に印刷し、センサ部3の焼成時にカーボン粉(空孔形成剤)を焼き飛ばして多孔質層36(多孔質材35)の内部に連続気泡となる空孔を形成することで、多孔質層36(多孔質材35)を形成したので、微細な凹凸部36aを容易に形成することができ安価な製品を提供することができる。
【0098】
さらに、焼失剤の添加量をほぼ10〜55重量パーセントとしたことにより、アンカー効果を十分に発揮できる気孔率(30〜80パーセント)を有する多孔質層36(多孔質材35)を提供することができる。
【0099】
ところで、本発明のガスセンサは上記実施形態を例示して説明したが、上記実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【0100】
例えば、上記実施形態では、ガスセンサとして酸素センサを例示したが、これに限ることなく、他のガス成分を検出するセンサであっても本発明を実施できる。
【0101】
また、摩擦部材をセンサ部の外周に設けた多孔質層として形成したが、センサ部外周の全周に亘って摩擦部材を設ける必要はなく、シール材収納スペースの形状に応じて様々な形状とすることも可能である。また、使用環境によっては、例えば、金属やプラスチックによって摩擦部材を形成することも可能である。
【0102】
さらに、摩擦部材はシール材とセンサ部のうちセンサ部側に設けたが、シール材側に摩擦部材を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の一実施形態にかかるガスセンサの縦断面図。
【図2】センサ部を示す図であって、(a)は、センサ部の側面図、(b)は、図2(a)のA−A断面図。
【図3】本発明の一実施形態にかかるセンサ部の構成を示す分解斜視図
【図4】本発明の一実施形態にかかるシール部の拡大断面図であって、(a)は、シール材の圧縮前の状態を示す拡大断面図、(b)は、シール材の圧縮状態を示す拡大断面図。
【図5】本発明の一実施形態にかかるガスセンサに用いる多孔質材の焼失剤と気孔率の関係をグラフで示す説明図。
【符号の説明】
【0104】
1 ガスセンサ
2a ガス測定部
3 センサ部
8 ホルダ部
8a 挿入孔
9 プロテクタ
10 シール材収納スペース
11 シール部
13 ケーシング
20 セラミック粉(シール材)
34 ズレ防止部材
35 多孔質材(摩擦部材)
36 多孔質層
36a 微細な凹凸部(係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス成分を検出するセンサ部と、
前記センサ部を挿入する挿入孔を有し、当該センサ部を嵌挿するホルダ部と、
前記ホルダ部の挿入孔の外周に設けられたシール材収納スペース内に圧縮されたシール材を充填することで、前記センサ部の外周と前記ホルダ部との間をシールするシール部と、を備えたガスセンサにおいて、
前記シール材および前記センサ部のうちの少なくとも一方に、前記センサ部に対するシール材のズレを抑制するズレ防止部材を設けたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記ズレ防止部材は、前記シール材と前記センサ部との間に介装した摩擦部材であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記摩擦部材は、前記シール材が圧縮されることにより該シール材に係合する係合部を有することを特徴とする請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記摩擦部材は、前記センサ部の外周面に設けられる多孔質材であることを特徴とする請求項2または3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記多孔質材は、センサ部の最外側に設けられる多孔質層として形成されることを特徴とする請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記多孔質材は、セラミック材料に焼失剤を含有させて焼成することにより形成されることを特徴とする請求項4または5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記焼失剤の含有率を10重量パーセント以上55重量パーセント以下に設定したことを特徴とする請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記多孔質材における気孔の含有率を体積比で30パーセント以上80パーセント以下に設定したことを特徴とする請求項4〜7のうちいずれか1項に記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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