説明

ガスタービンエンジンのロータ内の過渡熱応力を低減させる渦電流加熱

ロータ中央部(22)が外側ロータ部ほど早く加熱されないので、始動時にガスタービンロータ(20)内で過渡熱応力が発生する。このような応力は、この中央部が誘導加熱の可能な装置(40)を用いて加熱されると緩和される。装置(40)は、ロータの中央ボア(32)の表面に設けられた導電体(50,52)と、この導電体に隣接する少なくとも1つの磁界生成要素(42)と、を備える。この導電体は、好ましくは銅から作製された内側スリーブ(50)と、好ましくは鋼から作製された外側スリーブ(52)と、を備える。磁界生成要素は、好ましくは内側軸(30)の内側に配置される管状の支持構造体(44)の周りに取り付けられた永久磁石または電磁石である。内側軸(30)とロータ(20)との間の相対的な回転は、導電体(50,52)内で渦電流をもたらし、これによって、ロータ中央部(22)を加熱させる。ガスタービンエンジンロータ内の過渡熱応力を低減させる関連方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、一般にガスタービンエンジンのロータに関し、より詳細には内部の過渡熱応力を低減させる装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷えたガスタービンエンジンを始動するとき、ロータの外側部の温度は非常に急速に上昇する。一方、これらロータの中央部の周囲における材料の温度は、概して熱伝導によって緩やかに上昇するにすぎず、この結果、中央部は比較的長い運転時間の後でしか、その最高運転温度に到達しないことになる。その間、ロータの内部の温度勾配により熱応力が生成される。これら過渡熱応力により、ロータのいくつかの最も影響を受ける領域をより厚く、またはより大きく設計することが必要となる。材料の選択やロータの耐用年数もまた、これらの応力によって影響を受けることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
概して、ガスタービンエンジンのロータ内の過渡熱応力を低減させることが非常に望ましい。というのは、このような低減が、耐用年数、および/または重量、サイズもしくは形状などロータの物理特性に肯定的な影響を与えるからである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ガスタービンエンジンのロータ内の過渡熱応力は、ロータの中央部が渦電流を用いて加熱されると緩和される可能性がある。これらの渦電流は熱を生成し、この熱は次いで外向きに広がる。この加熱によりロータの内側で過渡熱応力が低くなる。
【0005】
1つの態様では、本発明は、ロータの中央部を渦電流で加熱する装置を提供し、ロータはガスタービンエンジン内で回転するように取り付けられ、この装置は、ロータの中央部の導電部に隣接する少なくとも1つの磁界生成要素と、この磁界生成要素が取り付けられる支持構造体と、を備え、この支持構造体は導電部に対して相対的に回転するように構成および配置される。
【0006】
第2の態様では、本発明は、ガスタービンエンジン内で回転するように取り付けられたロータの中央部を加熱する装置を提供し、この装置は、ロータの中央部の導電部に隣接して磁界を生成する手段と、このロータの導電部に対して磁界を移動させ、内部に渦電流を生成しロータの中央部を加熱する手段と、を備える。
【0007】
第3の態様では、本発明は、中央部を有するガスタービンエンジンロータ内の過渡熱応力を低減させる方法を提供し、この方法は、ロータの中央部の導電部に隣接して移動磁界を生成するステップと、この移動磁界によってロータの導電部内で生成された渦電流を用いて導電部を加熱するステップと、を含む。
【0008】
本発明のそれらおよび他の態様のさらなる詳細は、以下に含まれる詳細説明および図から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、亜音速飛行で使用するために設けられることが好ましいタイプのガスタービンエンジン10の例の概略図であり、一般に、直列に流体連通し、周囲空気が推進されるファン12と、この空気を加圧する多段コンプレッサ14と、高温燃焼ガスの流れを生成するためにこの圧縮空気が燃料と混合され点火される燃焼器16と、この燃焼ガスからエネルギを抽出するタービン部18と、を備える。この図は、ロータを用いることができる環境の例を示すだけのものである。
【0010】
図2は、ガスタービンエンジンロータ20の例、具体的には多段コンプレッサ14で用いられるインペラの半分の例を概略的に示す。ロータ20は、符号22で全体的に識別される中央部と、符号24で全体的に識別される外側部と、を備える。外側部24は複数のインペラブレード26を支持する。これらのブレード26は、ロータ20が高回転速度で回転するときに空気を圧縮するために用いられる。ロータ20は、主軸(図示せず)と共に回転するように取り付けられる。例示の実施例では、主軸は内部キャビティを有し、この内部キャビティ内に、内側軸30と称される第2の軸が同軸に取り付けられる。典型的には、この構成は、高圧コンプレッサおよび低圧コンプレッサを有するガスタービンエンジンで用いられる。両軸は、機械的に独立しており、通常異なる回転速度で回転する。内側軸30は、ロータ20の中央部22に設けられた中央ボア32を通って延びる。
【0011】
符号40と全体的に称される装置が、渦電流を用いてロータ20の中央部22を加熱するために設けられている。渦電流は、中央部22の導電体の表面を横切る移動磁界によって誘導される電流である。導電体は中央ボア32の表面に設けられることが好ましい。装置40はこの導電体部に隣接する少なくとも1つの磁界生成要素を備える。
【0012】
図2〜図4は、磁界生成要素として好ましくは1組の永久磁石42が設けられ、さらに好ましくは永久磁石4個が設けられた装置40を示す。これらの磁石42は、例えばサマリウムコバルトから作製される。これらの磁石は支持構造体44の周りに取り付けられ、内側軸30の内側に配置されることが好ましい。フェライトが、支持構造体44の可能な1つの材料である。支持構造体44は、管状であることが好ましく、磁石42はこの上にはめ合うように形成される。磁石42および支持構造体44は、内側軸30の内側に締まりばめで取り付けられることが好ましい。磁石42および支持構造体44の位置は、組み立てられた後で、磁石42がロータ20の導電体部に可能な限り近づいているように選択される。
【0013】
1組の磁石42および支持構造体44が内側軸30に取り付けられ、内側軸30がロータ20に対して異なる速度で一般に回転するので、磁石42は移動磁界を生成する。次いで、この磁界は、内側軸30が透磁性材料製であるならば、ロータ20の中央部の導電体部とともに磁気回路を生成する。
【0014】
同様に、移動しない支持構造体上に、ロータ20に隣接して磁石42を設けると、相対的に回転し、移動磁界が生成される。
【0015】
ロータ20の中央部22の導電体部は、例えばロータ20が導電性の良好な材料から作製された場合、中央ボア32自体の表面であってもよい。そうでない場合、またはロータ20の材料内で渦電流の生成が最適ではない場合、異なる材料から作製されたスリーブまたはカートリッジを中央ボア32の内側に追加することができる。例示の実施形態では、装置40は、2個のスリーブ50,52から作製されたカートリッジを備える。内側スリーブ50は銅または他の任意の非常に良好な導電体から作製されることが好ましい。好ましくは鋼または同様の特性を有する任意の材料から作製された外側スリーブ52が、磁路を改善し、内側スリーブ50を保持するために設けられる。この対のスリーブ50,52は、スリーブ50,52と加熱されるべきボアとの間で良好な熱接触をもたらすために、中央ボア32の内側に締まりばめで取り付けることも、他の方法で取り付けることもできる。
【0016】
使用時には、図2のロータ20は非常に高速度で回転され、空気はブレード26によって圧縮される。この圧縮により熱が生成され、この熱はブレード26、次いでロータ20の外側部24に伝達される。同時に、両者が異なる回転速度で一般に回転するのでロータ20と内側軸30との間に相対的な回転が生じる。これにより、ロータ20に取り付けられた内側スリーブ50に移動磁界が生成され、渦電流を誘導する。したがって、材料は加熱され、熱は、伝導を介して外側スリーブ52および外側部24自体に伝達される。
【0017】
理解することができるように、内側からロータ20を加熱することにより、ガスタービンエンジン10の暖機運転中に経験される過渡熱応力が緩和されることになる。ロータ20に対する応力がより小さくなるので、より軽量に、または他の方法でより効率的にするために、その設計の変更が可能である。
【0018】
上述のように、フェライトが、支持構造体44の可能な1つの材料である。フェライトは、キュリー点を有する材料である。キュリー点を有する材料は、「キュリー温度」と呼ばれる温度を超えて加熱されると磁気特性を失う。この特徴は、ロータ20の内側部22が最高運転温度に到達した後で装置40による熱生成を減少させるために用いられる。したがって、支持構造体44は、キュリー点を有するフェライトまたは任意の他の材料が用いられたときに、渦電流を減少させるように加熱させることができる。フェライトのキュリー点を制御するための熱は、ガスタービンエンジン10のより高温の部分から来る高温空気60の流れを用いて生成され、内側軸30の内側に向けて送られることが好ましい。ブリード弁62または同様の装置が、所望ならば支持構造体44を選択的に加熱するために用いられてもよい。しかし、ガスタービンエンジン10が離陸速度に加速されたときに、軸区域内の空気はエンジン速度の増加により本質的に加熱され、したがって支持構造体44は自動的に加熱され、それゆえ弁も制御部も必要とはされない。エンジンによるこの本質的な加熱は、離陸するためにエンジン10が加速されるにつれて、渦電流の加熱効果を著しく低減させる。したがって、この装置は、好ましいことに、始動後や、離陸前の暖機運転中などの仕事をするために十分なエンジンの高温空気がないときに、所望の対象を加熱するだけである。この用途での渦電流加熱は、もし磁界が常に完全に「オン」のままであるならば、この加熱効果が速度増加につれて拡大され、加熱がより早い速度では必要とされないので、使用に適さなくなるであろう。したがって、本発明の本質的な温度自動調節機能により、提示されている加熱概念がうまく運ぶ。
【0019】
上記の説明はただ例示的であることが意図され、当業者なら、開示されている本発明の範囲から逸脱することなく、説明されている実施形態に変更を加えることができることを理解するであろう。例えば、装置は、タービンロータを含めて、添付図に示したロータと異なる種類のロータとともに用いることができる。これら磁石は、示したものとは異なる数または異なる構成で設けることができる。電磁石の使用もまた可能である。磁石は、内側の代わりに内側軸30の上に取り付けることができる。渦電流加熱を引き起こすように相対的な移動をもたらす任意の構成を用いることができる。例えば、これらの磁石は回転軸上にある必要はない。フェライト以外の材料が支持構造体44に可能である。セマリウムコバルト以外の材料が磁石42に可能である。本発明の請求の範囲の中に含まれるさらなる他の変更が、本開示の説明に照らして当業者には明らかであり、これら変更は、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を用いることができる一般的な環境の例を示すための一般的なガスタービンエンジンの概略図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態による渦電流加熱器を有するガスタービンエンジンロータの実施例の切開斜視図である。
【図3】図2に示すロータおよび加熱器の半径方向断面図である。
【図4】図2および図3に示す加熱器の分解図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンエンジン内に回転するように取り付けられるロータの中央部を、渦電流で加熱する装置であって、
前記ロータの前記中央部の導電部に隣接する少なくとも1つの磁界生成要素と、
前記磁界生成要素が取り付けられる支持構造体と、
を備え、
前記支持構造体が、前記導電部に対して相対的に回転するように構成および配置されることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記磁界生成要素が永久磁石を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記導電部が、前記ロータの残りの部分の材料より高い導電性を有する材料から作製されたスリーブを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記スリーブが、銅を含む材料から作製されることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記スリーブが、異なる材料から作製された外側スリーブによって前記ロータの残りの部分に連結されることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記外側スリーブの材料が鋼を含むことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記支持構造体および前記永久磁石が、前記ロータから独立した軸の内側に配置され、前記軸と同軸に配置されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記支持構造体が、回転しないことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記支持構造体が、キュリー温度を有する材料から作製され、前記材料が前記装置の所望の停止温度に対応するキュリー温度を有するように選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記支持構造体が、フェライトから作製されることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記支持構造体をそのキュリー温度を超えて選択的に加熱する手段をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項12】
ガスタービンエンジン内に回転するように取り付けられたロータの中央部を加熱する装置であって、
前記ロータの前記中央部の導電部に隣接して磁界を生成する手段と、
前記ロータの前記導電部に対して前記磁界を移動させる手段であって、これによって渦電流を生成し、前記ロータの前記中央部を加熱する移動手段と、
を備える装置。
【請求項13】
前記磁界の生成手段が永久磁石を含むことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記導電部が、前記ロータの残りの部分の導電性より高い導電性を有する材料から作製されたスリーブを備えることを特徴とする請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
前記スリーブが銅を含む材料から作製されることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記スリーブが、異なる材料から作製された外側スリーブによって前記ロータの残りの部分に連結されることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記外側スリーブの前記材料が鋼を含むことを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記磁界の生成手段および前記磁界の移動手段が、前記ロータから独立した軸の中に配置され、前記軸と同軸に配置されることを特徴とする請求項12〜17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記磁界の生成手段が、回転しない支持構造体に取り付けられ、前記ロータが前記磁界に対して移動されることを特徴とする請求項12〜17のいずれかに記載の装置。
【請求項20】
所望の停止温度を提供し、該所望の停止温度と適合するように選定されたキュリー温度を有する材料から作製された支持構造体を含む手段をさらに備えることを特徴とする請求項12〜19のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
前記支持構造体が、フェライトから作製されることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記支持構造体をそのキュリー温度を超えて選択的に加熱する手段をさらに備えることを特徴とする請求項20または21に記載の装置。
【請求項23】
中央部を有するガスタービンエンジンロータ内の過渡熱応力を低減させる方法であって、
前記ロータの前記中央部の導電部に隣接して移動磁界を生成するステップと、
前記移動磁界によって前記ロータの前記導電部で生成された渦電流を用いて前記導電部を加熱するステップと、
を含む方法。
【請求項24】
前記エンジンが所望の温度に達したときに前記加熱が終了されることを特徴とする請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−533366(P2008−533366A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501122(P2008−501122)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000365
【国際公開番号】WO2006/096966
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(592228505)プラット アンド ホイットニー カナダ コーポレイション (99)
【氏名又は名称原語表記】Pratt & Whitney Canada Corp.
【Fターム(参考)】