説明

ガスタービン翼の中間加工品、ガスタービン翼及びガスタービン、並びに、ガスタービン翼の中間加工品の製造方法及びガスタービン翼の製造方法

【課題】外面加工及び内部加工とも所望の精度を確保して行うことが可能なガスタービン翼の中間加工品及びその製造方法、ガスタービン翼及びその製造方法、並びに、ガスタービンを提供する。
【解決手段】ガスタービン翼の中間加工品20は、外面に設けられ、外面の形状を機械加工する際に位置決めをするための複数の第一の基準点21からなる第一の基準点群と、外面に設けられ、穴を機械加工する際に位置決めするための複数の第二の基準点22からなり、その内の少なくとも一箇所が第一の基準点21と異なる位置に設けられた第二の基準点群とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外面形状等の機械加工を行う前のガスタービン翼の中間加工品及びその製造方法、ガスタービン翼及びその製造方法、並びにガスタービン翼を備えたガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンにおいては、翼形状を有するガスタービン翼を備え、該ガスタービン翼に作用する流体からの力により回転軸を回転させてトルクを発生させている。詳しくは、ガスタービンでは、ガスタービン翼として、ロータに設けられた動翼と、ロータ外周に配されたケーシングに固定された静翼とが軸方向に交互に複数段配されている。また、各段において、動翼及び静翼は、それぞれ複数環状に配列しており、互いに連結されている。例えば、動翼は、翼形状を有する翼本体と、翼本体の基端に設けられてロータ側に固定される翼根と、翼本体の先端に設けられて隣り合う動翼同士で連結されるシュラウドとを備える。また、静翼は、翼形状を有する翼本体と、翼本体の基端及び先端にそれぞれ設けられて隣り合う静翼同士で連結されるシュラウドとを備える。そして、この動翼と静翼との間を流通する流体である燃焼ガスにより、翼形状を有する動翼の翼本体は周方向の力を受けて、これによりロータを回転させることが可能となっている。また、このようなガスタービンの動翼及び静翼などでは、燃焼ガスにより周辺温度が高温となるため、内部に冷却流路を有し、この冷却流路に冷却用空気を流通させて冷却させながら稼働させている。
【0003】
このようなガスタービン翼は、一般的に一次加工により概略ガスタービン翼の外形を有する中間加工品を製造した後に、二次加工として、精細な機械加工を行うことで所望の形状に製造する。例えば、上記のガスタービンの動翼の例では、一次加工として鋳造により、翼本体、翼根及びシュラウドとして概略予定する外形に形成された中間加工品を製造する。そして、当該中間加工品の寸法検査等を行って、二次加工により所望の形状に加工可能か否かの検査を行った後に、二次加工を行う。二次加工としては、ガスタービン翼としての機能を確保しつつロータや隣り合う動翼同士と組み付けることが可能となるように外面、特に翼根やシュラウドの加工を行う外面加工と、冷却流路となる冷却孔など内部構造を形成する内部加工とを行う。
【0004】
ここで、二次加工で所定の形状に機械加工するために、一次加工の際に位置決めをするための基準点を複数設け、二次加工の際には該基準点で位置決めして機械加工を行う。このように基準点で位置決めして機械加工を行うことで、基準点を基準として所定の形状に機械加工を行うことが可能となる(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−828号公報
【特許文献2】特開2002−32107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2の方法では、二次加工として内部加工を行う際に、外面との間に十分な肉厚を確保できず、極端な場合には加工して形成された空洞が予定しない箇所で外部に開口してしまう壁破れと呼ばれる不具合が生じてしまう問題があった。これは、外面を加工する外面加工と、内面を加工する内部加工とでは、精度や、精度が要求される箇所が異なり、外面加工を所望の精度で実施できたとしても、内部加工としては必要な箇所で必要な精度を確保することができないことによる。
特に、ガスタービンにおいては、ガスタービン自身の性能、また、コンバインドプラントとしての性能の向上のため、タービンガス温度の上昇が行われている。このため、従来はガス温度が低くて冷却不要だった後方段の長大翼について冷却が必要になってきた。さらに、ガスタービン性能向上のため翼の長翼化も行われている。そしてこのような長翼に二次加工において内面加工として冷却穴加工する場合、外面加工として実施する一般機械加工用の公差に入っている中間加工品でも、冷却穴加工により上記壁破れが起こることがあり、中間加工品の廃却率が高くなってしまうという問題があった。特に歪取りができず高価な一方向性凝固(DS)翼では、歪取りによって冷却穴加工を可能とすることができずに廃却率が高くなってしまう。そして、この問題を回避するためには、従来は翼の肉厚を厚くして冷却穴加工を可能とするのと引き換えに、翼の空力性能を犠牲にせざるを得なかった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、外面加工及び内部加工とも所望の精度を確保して行うことが可能なガスタービン翼の中間加工品及びその製造方法、ガスタービン翼及びその製造方法、並びに、ガスタービンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明は、外面に開口する穴を有するガスタービン翼の前記外面の形状及び前記穴を機械加工する前のガスタービン翼の中間加工品であって、前記外面に設けられ、前記外面の形状を機械加工する際に位置決めをするための複数の第一の基準点からなる第一の基準点群と、前記外面に設けられ、前記穴を機械加工する際に位置決めするための複数の第二の基準点からなり、その内の少なくとも一箇所が前記第一の基準点と異なる位置に設けられた第二の基準点群とを備えることを特徴としている。
【0009】
この構成によれば、外面の形状を機械加工する際に位置決めをするための第一の基準点が外面に複数設けられていることで、第一の基準点で位置決めすることで、所望の位置、向きとして外面を加工することができる。また、穴を機械加工する際に位置決めするための第二の基準点が外面に複数、その内の少なくとも一箇所が第一の基準点と異なる位置に設けられていることで、第二の基準点で位置決めすることで、第一の基準点で位置決めした場合と異なる位置及び向きとして穴を加工することができる。すなわち、外面の加工、及び、穴の加工とも、それぞれ対応する第一の基準点及び第二の基準点により、それぞれ所望の精度を確保できるように位置決めして加工することができる。
【0010】
また、本発明のガスタービン翼は、上記のガスタービン翼の中間加工品の前記第一の基準点で位置決めして、前記外面の形状が加工されるとともに、前記中間加工品の前記第二の基準点で位置決めして前記穴が加工されたことを特徴としている。
【0011】
この構成によれば、第一の基準点で位置決めして外面の形状が加工されていることで、外面として所望の精度を有しているとともに、第二の基準点で位置決めして穴を加工していることで、穴として所望の精度を有するものとすることができる。
【0012】
また、本発明は、外面に開口する穴を有するガスタービン翼の前記外面の形状及び前記穴を機械加工する前のガスタービン翼の中間加工品の製造方法であって、前記外面の形状を機械加工する際に位置決めをするための複数の第一の基準点からなる第一の基準点群、及び、前記穴を機械加工する際に位置決めをするための複数の第二の基準点からなる第二の基準点群を、前記第一の基準点と前記第二の基準点とが互いに少なくとも一箇所で異なる位置として設けた被加工体を形成する一次加工工程と、前記第一の基準点及び前記第二の基準点のそれぞれと、前記被加工体の前記外面との相対位置を測定する位置測定工程と、該位置測定工程の測定結果に基づいて、前記第一の基準点で位置決めした際に前記被加工体が前記外面の形状を機械加工可能な位置及び向きに位置決めされるように、前記被加工体に対する各前記第一の基準点の相対位置を調整する第一の基準点加工工程と、前記位置測定工程の測定結果に基づいて、前記第二の基準点で位置決めした際に前記被加工体が前記穴を機械加工可能な位置及び向きに位置決めされるように、前記第二の基準点を加工する第二の基準点加工工程とを備えることを特徴としている。
【0013】
この方法によれば、一次加工工程で第一の基準点及び第二の基準点を有して形成された被加工体について位置測定工程を実施することで、第一の基準点及び第二の基準点のそれぞれと、被加工体の外面との相対位置を測定することができる。次に、第一の基準点加工工程として、位置測定工程での測定結果に基づいて、第一の基準点で位置決めした際に被加工体が外面の形状を機械加工可能な位置及び向きに位置決めされるように、第一の基準点が加工される。さらに、第二の基準点加工工程として、位置測定工程での測定結果に基づいて、第二の基準点で位置決めした際に被加工体が穴を機械加工可能な位置及び向きに位置決めされるように、第二の基準点が加工される。そして、以上の工程により、外面の形状を機械加工する際に位置決めをするための第一の基準点が外面に複数設けられることで、第一の基準点で位置決めすることにより、被加工体を所望の位置、向きとして所望の精度を確保するようにして外面を加工することができる。また、穴を機械加工する際に位置決めするための第二の基準点が外面に複数、その内の少なくとも一箇所が第一の基準点と異なる位置に設けられることで、第二の基準点で位置決めすることにより、被加工体を第一の基準点で位置決めした場合と異なる位置及び向きとして所望の精度を確保するようにして穴を加工することができる。
【0014】
また、上記のガスタービン翼の中間加工品の製造方法において、前記位置測定工程は、前記被加工体を前記第一の基準点で位置決めして、前記被加工体の前記外面の位置を測定する第一のステップと、前記被加工体を前記第二の基準点で位置決めして、前記被加工体の前記外面の内、前記穴と対応する位置を測定する第二のステップとを有し、前記第一の基準点加工工程は、前記第一のステップでの測定結果に基づいて、前記被加工体に対する各前記第一の基準点の相対位置を調整し、前記第二の基準点加工工程は、前記第二のステップでの測定結果に基づいて前記第二の基準点を加工することが好ましい。
【0015】
この方法によれば、位置測定工程において第一のステップとして被加工体の外面の位置を測定し、第一の基準点加工工程では、第一のステップでの測定結果に基づいて第一の基準点の被加工体に対する相対位置を調整することで、外面全体の形状を考慮して第一の基準点の相対位置を調整することができる。また、位置測定工程において第二のステップとして被加工体の外面の内、穴と対応する位置を測定し、第二の基準点加工工程では、第二のステップでの測定結果に基づいて第二の基準点を加工することで、穴を加工する位置での外面形状を特に考慮して第二の基準点を加工することができ、上記壁破れの発生を防ぐことができる。
【0016】
また、上記のガスタービン翼の中間加工品の製造方法において、前記位置測定工程の結果に基づいて、前記被加工体の前記外面を機械加工することにより、許容範囲内となるように該外面を加工可能か否かの判定を行う第一の判定工程と、前記位置測定工程の結果に基づいて、前記被加工体の前記穴を機械加工することにより、許容範囲内となるように該穴を加工可能か否かの判定を行う第二の判定工程とを備え、前記第一の判定工程で加工可能と判定された場合のみ前記第一の基準点加工工程を実施し、前記第二の判定工程で加工可能と判定された場合のみ第二の基準点加工工程を実施することが好ましい。
【0017】
この方法によれば、第一の判定工程で位置測定工程の結果に基づいて、許容範囲内となるように外面を加工可能か否かの判定を行い、第一の判定工程で加工可能と判定された場合のみ第一の基準点加工工程を実施する。このため、外面を機械加工して許容範囲とならないような被加工体に第一の基準点加工工程や外面の機械加工を実施して作業ロスが発生してしまうのを防止することができる。また、第二の判定工程で位置測定工程の結果に基づいて、許容範囲内となるように穴を加工可能か否かの判定を行い、第二の判定工程で加工可能と判定された場合のみ第二の基準点加工工程を実施する。このため、穴を機械加工して許容範囲とならないような被加工体に第二の基準点加工工程や穴の機械加工を実施して作業ロスが発生してしまうのを防止することができる。
【0018】
また、上記のガスタービン翼の中間加工品の製造方法において、前記一次加工工程では、前記被加工体として前記第一の基準点の少なくとも一つの代わりをなす補助基準点が設けられたものを形成し、前記第一の基準点加工工程では、前記第一の基準点の少なくとも一つに代えて、前記補助基準点を加工することで、該補助基準点を新たな第一の基準点の一つとして構成させることが好ましい。
【0019】
この方法によれば、第一の基準点加工工程で、第一の基準点の少なくとも一つに代えて補助基準点を加工することで、位置測定工程では位置測定に適した箇所を第一の基準点として選択することができるとともに、第一の基準点加工工程以降では第一の基準点を位置決めして外面を機械加工するのに適した箇所を第一の基準点として選択することができる。
【0020】
また、本発明のガスタービン翼の製造方法は、上記のガスタービン翼の中間加工品の製造方法で製造された前記中間加工品を、前記第一の基準点で位置決めして前記外面の形状を機械加工する外面加工工程と、前記中間加工品を前記第二の基準点で位置決めして前記穴を機械加工する内部加工工程とを備えることを特徴としている。
【0021】
この方法によれば、外面加工工程として、第一の基準点で位置決めして外面の形状を加工することで、所望の精度を確保して外面を加工することができる。また、内部加工工程として、第二の基準点で位置決めして穴を加工することで、所望の精度を確保して穴を加工することができる。
【0022】
また、本発明のガスタービンは、上記ガスタービン翼を備えることを特徴とする。
また、本発明のガスタービンは、上記のガスタービン翼の製造方法で製造されたガスタービン翼を備えることを特徴とする。
これらの構成によれば、それぞれ所望の精度を確保して外面及び穴が形成されるので、加工精度を考慮して部材断面を大きく確保する必要がない。このため、ガスタービン翼を、性能を確保する上で最小限の大きさとすることができ、該ガスタービン翼を備えたガスタービンとして性能向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガスタービン翼の中間加工品によれば、外面加工及び内部加工とも所望の精度を確保して行うことができる。このため、ガスタービン翼製造に伴う廃却率の低減を図ることができる。また、内部加工による壁破れの防止のために翼の肉厚を必要以上に確保するような断面形状とする必要がなく、当該中間加工品から最小限の肉厚を有するガスタービン翼を製造することができ、空力性能の向上を図ることができる。
本発明のガスタービン翼の中間加工品の製造方法によれば、外面加工及び内部加工とも二次加工として所望の精度を確保して行うことが可能な中間加工品を製造することができる。このため、ガスタービン翼製造に伴う廃却率の低減を図ることができる。また、内部加工による壁破れの防止のために翼の肉厚を必要以上に確保するような断面形状とする必要がなく、製造された当該中間加工品から最小限の肉厚を有するガスタービン翼を製造することができ、空力性能の向上を図ることができる。
また、本発明のガスタービン翼によれば、外面及び穴とも、所望の精度を有するものとし、最小限の肉厚とした断面形状として空力性能の向上を図ることができる。また、製造に伴う廃却率の低減により低コストのものとすることができる。
また、本発明のガスタービン翼の製造方法によれば、外面及び穴とも、所望の精度を有するものとし、最小限の肉厚とした断面形状で製造することができ、空力性能の向上を図ることができる。また、製造に伴う廃却率の低減により低コストのものを製造することができる。
また、本発明のガスタービンによれば、ガスタービン翼の空力性能向上によりタービン効率が向上するため、高い熱効率を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態のガスタービンの全体図である。
【図2】本発明の実施形態のガスタービンのタービン動翼の詳細を示す斜視図である。
【図3】図2の切断線A−Aにおける断面図である。
【図4】図2のタービン動翼を先端側から基端側へ径方向視した詳細図である。
【図5】図2の切断線B−Bにおける断面図である。
【図6】図2のタービン動翼を基端側から先端側へ径方向視した詳細図である。
【図7】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、第一の工程を示すフロー図である。
【図8】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、第二の工程を示すフロー図である。
【図9】本発明の実施形態のタービン動翼の中間加工品の詳細を示す斜視図である。
【図10】図9の切断線C−Cにおける断面図である。
【図11】図9の中間加工品を先端側から基端側へZ軸方向視した詳細図である。
【図12】図9の切断線D−Dにおける断面図である。
【図13】図9の中間加工品を基端側から先端側へZ軸方向視した詳細図である。
【図14】図9の中間加工品の翼根部分をY軸方向視した詳細図である。
【図15】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、位置測定工程の第一のステップで中間加工品を第一の基準点で位置決めした状態を説明する説明図である。
【図16】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、第一の判定工程の詳細を示すフロー図である。
【図17】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、第一の判定工程での判定手順の詳細を説明する説明図である。
【図18】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、第一の判定工程での判定手順の詳細を説明する説明図である。
【図19】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、位置測定工程の第二のステップで中間加工品を第二の基準点で位置決めした状態を説明する説明図である。
【図20】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、第二の判定工程の詳細を示すフロー図である。
【図21】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、第二の判定工程での判定手順の詳細を説明する説明図である。
【図22】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、最終検査工程の詳細を示すフロー図である。
【図23】本発明の実施形態のタービン動翼の製造工程において、外面加工工程で中間加工品を第一の基準点で位置決めした状態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、本発明のガスタービン翼の例としてガスタービンのタービン動翼を例に挙げて説明をする。図1は、ガスタービンの概要を示している。図1に示すように、ガスタービン1は、圧縮空気を生成する圧縮機3と、圧縮機3から供給される圧縮空気に燃料を供給して燃焼ガスGを生成する燃焼器4と、燃焼器4から供給される燃焼ガスGにより回転駆動するタービン5とを備える。圧縮機3は、ロータ2の外周に配された圧縮機ケーシング3aと、ロータ2に固定されて環状に配列された複数の圧縮機動翼3bと、圧縮機ケーシング3aに支持されて環状に配列された複数の圧縮機静翼3cとを備え、圧縮機動翼3b及び圧縮機静翼3cは、タービン軸方向Pに複数段交互に配されている。また、タービン5は、ロータ2の外周に配されて内部を燃焼ガス流路Fとするタービンケーシング5aと、ロータ2に固定され環状に配列された複数のタービン動翼5bと、タービンケーシング5aに支持されて環状に配列された複数のタービン静翼5cとを備え、タービン動翼5b及びタービン静翼5cは、タービン軸方向Pに複数段交互に配されている。
【0026】
次に、タービン動翼5bの詳細について説明する。図2から図6に示すように、タービン動翼5bは、燃焼ガス流路F内に配される翼本体10と、翼本体10の基端10aから張り出すように設けられたプラットフォーム11と、プラットフォーム11から基端側へと突出した翼根12と、翼本体10の先端10bに設けられたシュラウド13とを備える。なお以下においては、タービン動翼5bをロータ2に取り付けた際に、タービン軸方向Pに沿う軸をX軸とし、また、タービン動翼5bが取り付けた位置での接線方向に沿う軸をY軸、径方向に沿う軸をZ軸として説明するものとする。
【0027】
翼本体10は、X軸方向に沿って燃焼ガス流路F上流側となる前縁10cから下流側となる後縁10dにかけてY軸方向一方側へ凸となるように湾曲して正圧面10f及び負圧面10eが形成された所謂翼形状の断面を有している。
【0028】
また、翼根12は、X軸方向に沿ってセレーション12aが複数形成されており、該セレーション12aがロータ2に形成された図示しない翼溝に嵌合することで、X軸方向がタービン軸方向Pに一致し、Y軸方向がロータ2の周面接線方向に一致し、また、Z軸方向が径方向に一致するようにしてロータ2に取り付けられる。また、プラットフォーム11は、略板状で、各タービン動翼5bの翼根12がロータ2に取り付けられた状態で、隣り合うタービン動翼5bのプラットフォーム11の縁端11a同士が近接対向することで、燃焼ガス流路Fの内周側壁面を構成している。また、シュラウド13は略板状で外周面13aには、タービン動翼5bがロータ2に取り付けられた状態で周方向となるY軸方向に沿うようにして略板状のフィン14が突出している。
【0029】
また、プラットフォーム11同様に、各タービン動翼5bの翼根12がロータ2に取り付けられた状態で、隣り合うタービン動翼5bのシュラウド13の縁端13b同士が当接することで円環状のリングを構成している。さらに、フィン14の縁端14a同士が当接することで、シュラウド13とタービンケーシング5aとの間におけるX軸方向のシール構造が構成されることとなる。
【0030】
また、タービン動翼5bの内部には、燃焼ガス流路F内で燃焼ガスGに曝されて高温となる翼本体10を冷却するための穴である冷却孔15が形成されている。冷却孔15は、翼本体10の内部に翼高さ方向となるZ軸方向に沿って形成されており、基端側ではタービン動翼5bの外面の一部である翼根12の底面12bに開口し、また、先端側ではタービン動翼5bの外面の一部であるシュラウド13の外周面13aに開口している。そして、冷却孔15の一方の開口から冷却空気を流入させて内部を流通させ、他方の開口から流出させるようにすることで翼本体10を冷却することが可能となっている。また、図3に示すように、このような冷却孔15は、翼本体10の内部において翼断面の中心線に沿って間隔を空けて複数設けられており、本実施形態では5箇所に設けられている。
【0031】
ここで、タービン動翼5bを構成する翼本体10、プラットフォーム11、翼根12、シュラウド13及びフィン14は、それぞれ長さ、幅、厚さなどの寸法が所定の許容範囲内となっているとともに、全体の重心位置も所定の許容範囲内となるように形成されている。また、冷却孔15は、互いの間隔が所定の許容範囲内となっているとともに、翼本体10の外面との間の壁厚T1、T2が所定の必要壁厚Tc以上となるように形成されている。
【0032】
次に、このように各諸元が許容範囲内となるように加工を行ってタービン動翼5bを製造する製造工程の詳細について説明する。本実施形態のタービン動翼5bの製造工程は、大きく分けて、中間加工品20を製造する図7に示す第一の工程S10と、中間加工品20を機械加工することでタービン動翼5bを製造する図8に示す第二の工程S20とで構成されている。
【0033】
図7に示すように、中間加工品20を製造する第一の工程S10は、タービン動翼5bとして概略予定される外形を有する被加工体30を形成する一次加工工程S11と、被加工体30の位置測定を行う位置測定工程S12と、位置測定結果に基づいて加工の可否の判定を行う第一の判定工程S13及び第二の判定工程S14と、位置測定結果に基づいて後述する第一の基準点21及び第二の基準点22のそれぞれを加工する第一の基準点加工工程S15及び第二の基準点加工工程S16と、最終検査を実施する最終検査工程S17とを備える。また、図8に示すように、第二の工程S20は、中間加工品20の内部構造である冷却孔15を加工する内部加工工程S21と、中間加工品20の外面の形状を機械加工する外面加工工程S22とを備える。以下、第一の工程S10及び第二の工程S20のそれぞれの詳細を説明する。
【0034】
第一の工程S10においては、まず一次加工工程S11を実施する。一次加工工程S11では、図9から図14に示すように、鋳造によりタービン動翼5bの外形を概略有する被加工体30を成型する(ステップS110)。ここで、被加工体30は、突起状の複数の第一の基準点21で構成された第一の基準点群及び突起状の複数の第二の基準点22で構成された第二の基準点群を有するとともに、軸状の補助基準点23を有している。
【0035】
第一の基準点21は、後述するように外面加工工程S22において中間加工品20の外面の形状を機械加工する際に当該中間加工品20を位置決めするための基準点である。本実施形態では、第一の基準点21は、一つの基端側軸方向支持点21a、二つの基端側周方向支持点21b、21c、一つの基端側径方向支持点21d、一つの先端側軸方向支持点21e、及び、一つの先端側周方向支持点21fとで構成されている。基端側軸方向支持点21aは、翼根12のX軸方向一端面12eに設けられてX軸方向に当接支持可能となっている。また、二つの基端側周方向支持点21b、21cは、翼根12のY軸方向一側面12dに、X軸方向に間隔を有して設けられてY軸方向に当接支持可能となっている。基端側径方向支持点21dは、プラットフォーム11の外周面11bにおいて翼本体10の負圧面10f側に設けられて、Z軸方向に当接支持可能となっている。先端側軸方向支持点21eは、フィン14のY軸方向一端部に設けられX軸方向に当接支持可能となっている。また、先端側周方向支持点21fは、翼本体10の負圧面10fに設けられY軸方向に当接支持可能となっている。なお、本実施形態では、第一の基準点21で位置決めされた中間加工品20を該位置で安定支持するために、一つの第一の補助支持点24aを有している。第一の補助支持点24aは、翼本体10の正圧面10eに設定されており、Y軸方向に当接支持可能となっている。また、補助基準点23は、翼根12のX軸方向両端面12e、12fに、それぞれ同軸として突出した軸体であり、後述するように第一の基準点21の内、基端側周方向支持点21b、21c、基端側径方向支持点21d及び先端側周方向支持点21eと置き換えて使用可能なものである。
【0036】
また第二の基準点22は、後述するように内部加工工程S21において中間加工品20に冷却孔15を機械加工する際に当該中間加工品20を位置決めするための基準点である。本実施形態では、第二の基準点22は、二つの基端側軸方向支持点22a、22b、二つの基端側周方向支持点22c、22d、一つの基端側径方向支持点22e、一つの先端側周方向支持点22f、及び、一つの先端側軸方向支持点22gとで構成されている。基端側軸方向支持点22a、22bは、翼根12のX軸方向一端面12eに設けられてX軸方向に当接支持可能となっている。また、二つの基端側周方向支持点22c、22dは、翼根12のY軸方向一側面12dに、X軸方向に間隔を有して設けられてY軸方向に当接支持可能となっている。また、先端側周方向支持点22fは、フィン14のY軸方向一端部に設けられY軸方向に当接支持可能となっている。さらに、先端側軸方向支持点22gは、シュラウド13の縁端に設けられてX軸方向に当接支持可能となっている。なお、本実施形態では、第二の基準点22で位置決めされた中間加工品20を該位置で安定支持するために、一つの第二の補助支持点25aを有している。補助支持点25aは、プラットフォーム11の外周面11bにおいて翼本体10の負圧面10f側に設定されており、X軸方向に当接支持可能となっている。また、本実施形態では、第一の基準点21と第二の基準点22とは、互いの基端側径方向支持点21d、22eが位置を同じくして共通している一方、他の基準点はそれぞれ位置を異なるものとしている。
【0037】
そして、このようにして鋳造により成型された被加工体30について、第一熱処理(ステップS111)を行った後に、第一欠陥検査(ステップS112)において、非破壊検査を実施して欠陥の有無を判定する。非破壊検査としては、例えば放射線探傷検査や超音波探傷検査などが挙げられる。
そして、欠陥が検出されない場合には歪除去を実施する(ステップS113)。まず、被加工体30において、翼本体10となる部分において断面形状を計測する。断面形状の計測には、例えば予定される断面形状と対応する形状を有するゲージを利用し、該ゲージとの離間距離を各位置で測定することで行われる。そして、計測した断面形状と予定される断面形状とが許容値より大きい差を有して異なる場合には、歪取りを実施する。そして、これを繰り返して、計測した断面形状が予定される断面形状に対して許容値以内となったら次工程に移行する。
【0038】
次に、位置測定工程S12として、被加工体30の外面の位置を測定する。ここでは、まず第一のステップS121として、第一の基準点21で位置決めして(ステップ121a)、第一の基準点21に対する被加工体30の外面の相対位置を測定する(ステップS121b)。すなわち、図15に示すように、第一の基準点21のそれぞれを各支持ピン40で支持することで、被加工体30は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に位置決めされることとなる。この際、補助支持点24aにも支持ピン40を当接させて支持させる。この状態で、三次元計測機を利用して予め設定された外面上の測定点で位置測定を行う。測定点は、翼本体10、プラットフォーム11、翼根12、シュラウド13及びフィン14のそれぞれに複数点設定される。本実施形態では、翼本体10では、測定点M10a〜M10jがZ軸方向に沿って複数断面でそれぞれ設定されている。図10に示すように、測定点M10a〜M10jは、各断面において、正圧面10e及び負圧面10fのそれぞれに、冷却孔15と対向する位置でY軸方向の位置を測定可能に設定されている。
【0039】
また、図11に示すように、シュラウド13では、測定点M13a〜M13iが外周面及び側面において、それぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のそれぞれの位置を測定可能に設定されている。また、フィン14では、測定点M14a〜M14cが側面においてX軸方向の位置を測定可能に設定されている。
【0040】
図12から図14に示すように、プラットフォーム11では、測定点M11a〜M11pが外周面及び側面において、それぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のそれぞれの位置を測定可能に設定されている。また、翼根12では、測定点M12a〜M12hが両端面、両側面及び底面において、それぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のそれぞれの位置を測定可能に設定されている。また、本ステップでは、さらに補助基準点23の位置も測定しておく。なお、図10から図14に示す各図において、各測定点を示す矢印は、測定を行う方向を示しており、点表示されている測定点では紙面奥行き方向に測定することを示している。
【0041】
次に、第一の判定工程S13として、被加工体30の外面を機械加工することにより、外面の形状を許容範囲内となるように加工可能な否かの判定を行う。具体的には、図16に示すように、まず位置測定工程S12の第一のステップS121で測定された位置測定結果に基づいて、現在の被加工体30の形状をモデル化する。一方、タービン動翼5bとして設計された形状を基準として許容値だけ変形させた基準形状を予めモデル化しておく。
そして、図17に示すように、被加工体30の形状N30において、翼本体10の測定点M10a〜M10jが設定された各断面で、基準形状N31における翼本体10の対応する断面との間で、周面位置のずれ量Uを求め、該ずれ量Uが許容値以内か否か判断する(ステップS131)。そして、各断面の各測定点M10a〜M10jにおける各ずれ量Uがいずれも許容値内である場合には、加工可能と判定する。次に、図18に示すように、被加工体30の形状N30をX軸方向、Y軸方向に移動させるとともに、Z軸回りに回転させて位置調整することで、基準形状N31が被加工体30の形状N30内に納まる場合には、機械加工により基準形状N31から許容範囲となる形状に加工することが可能となると判断する(ステップS132)。
【0042】
また、この際、基準形状N31が被加工体30の形状N31に納まった状態におけるX軸方向及びY軸方向の移動量、Z軸回りの回転角度を記録し、当該移動量及び回転角度から、各第一の基準点21として必要となる調整量を算出する(ステップS133)。一方、各断面の各測定点におけるずれ量Uのいずれかで許容値外である場合、及び、どのように位置調整をしても、基準形状N31が被加工体30の形状からはみ出す場合には、加工不能と判定して、一次加工工程S11の歪取りから再度実施する。
【0043】
次に、図7に示すように、第二熱処理S114として、歪取り焼鈍を実施し、鋳造(ステップS110)時に生じた歪を除去する。そして、次に第二欠陥検査として、第一欠陥検査工程(ステップS112)と同様に非破壊検査を行って欠陥を検出する(ステップS115)。そして、欠陥が検出されなかった場合には位置測定工程S12の第二のステップS122に移行する。
【0044】
位置測定工程S12の第二のステップS122では、まず第二の基準点22で位置決めして(ステップS122a)、第二の基準点22に対する被加工体30の外面の相対位置を測定する(ステップS122b)。すなわち、図19に示すように、第二の基準点22のそれぞれを各支持ピン50で支持することで、被加工体30は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向にそれぞれ位置決めされることとなる。この際、補助支持点25aにも支持ピン50を当接させて支持させる。この状態で、三次元計測機を利用して予め設定された外面上の測定点で位置測定を行う。本工程では、冷却孔15と対応する位置として、図10に示す翼本体10の複数断面のそれぞれに設定された測定点M10a〜M10jのみで行われる。
【0045】
そして、次に、第二の判定工程S14として、被加工体30に冷却孔15を機械加工することにより、許容範囲内となるように冷却孔15を加工可能か否かの判定を行う。具体的には、図20に示すように、第一の判定工程S13同様に位置測定工程S12の第二のステップS122で測定された位置測定結果に基づいて、現在の被加工体30の翼本体10となる部分の形状をモデル化する。そして、被加工体30の形状N32をX軸方向、Y軸方向に移動させるとともに、Z軸回りに回転させて位置調整することで、翼本体10の部分において、基準形状N31が被加工体30の形状N32内に納まるか否か判定する(ステップS141)。さらに、図21に示すように、翼本体10の測定点M10a〜M10jが設定された各断面において、基準形状N31における翼本体10の対応する断面との間で、周面位置のずれ量Vを求めて、該ずれ量Vが許容値内か否か判定する(ステップS142)。そして、どのように位置調整をしても、基準形状N31が被加工体30の形状N32からはみ出す場合、及び、各断面の各測定点におけるずれ量Vがいずれかで許容値外であるには、加工不能と判定して、一次加工工程S11の歪取りから再度実施する。一方、基準形状N32が被加工体30の形状内に納まり、かつ、各断面の各測定点におけるずれ量Vがいずれも許容値以内である場合には、その状態におけるX軸方向及びY軸方向の移動量、Z軸回りに回転角度を記録し、当該移動量及び回転角度から、各第二の基準点22として必要となる調整量を算出する(ステップS143)。
【0046】
次に、この状態で冷却孔15を加工した際に、各冷却孔15と被加工体30の翼本体10となる部分の外周面との間に形成される壁厚T1、T2を算出する(ステップS144)。そして、算出した壁厚T1、T2が予め設定された必要壁厚Tc以上である場合には、加工可能と判定して次工程に移行する。一方、算出した壁厚T1、T2が予め設定された必要壁厚Tc未満である場合には、加工不能と判定して、一次加工工程S11から再度実施する。
【0047】
次に、図7に示すように、第一の基準点加工工程S15を実施する。すなわち、第一の判定工程S13で各第一の基準点21について算出した調整量だけ、切削、研削等により一部を除去し、あるいは、キャップを嵌め込む等により嵩上げさせる。ここで、本実施形態では、位置測定工程S12の第一のステップS121で使用した第一の基準点21の内、基端側周方向支持点21b、21c、基端側径方向支持点21d及び先端側周方向支持点21eに代えて、補助基準点23を第一の基準点21として採用し、加工を行う。補助基準点23は、軸状に形成されてX軸と平行となるように突出している。このため、補助基準点23を摺動可能に把持することで、X軸方向に沿って進退可能、かつ、X軸回り回動可能とする一方、X軸と交差するY軸方向及びZ軸方向の移動を規制して位置決めすることができ、これにより二方向に支持する基端側周方向支持点21b、21c、基端側径方向支持点21d及び先端側周方向支持点21eに代えて補助基準点23を採用することが可能となっている。なお、第一の基準点21の全てを加工する必要はなく、必要に応じて一部の加工を省略するものとしても良い。例えば、タービン翼の組立精度としては、軸方向及び周方向の精度に対して、径方向の精度は相対的に低くても十分に許容され、それ故に、基端側径方向支持点21dの加工を省略するものとしても良い。また、周方向支持点は、基端側周方向支持点21b、21c及び先端側周方向支持点21fと三つあり、それ故にその内の一つ、例えば先端側周方向支持点21fの加工を省略するものとして良い。また、本実施形態では、上記の理由により加工を省略するものとしているが故に、基端側径方向支持点21d(基端側径方向支持点22e)及び先端側周方向支持点21fは凸状に形成されておらずタービン翼としての最終仕上面に直接当接する構成としている。
【0048】
次に、図7に示すように、第二の基準点加工工程S16を実施する。すなわち、第二の判定工程S14で各第二の基準点22について算出した調整量だけ、切削、研削等により一部を除去し、あるいは、キャップを嵌め込む等により嵩上げさせる。なお、第二の基準点22についても全てを加工する必要はなく、必要に応じて一部の加工を省略するものとしても良い。すなわち同様の理由により、基端側径方向支持点22eの加工を省略するものとしても良い。以上のように、第一の基準点加工工程S15及び第二の基準点加工工程S16を完了することで、調整された第一の基準点21及び第二の基準点22を有する中間加工品20が形成されることとなる。ここで、本実施形態では、さらに最終検査工程S17を実施する。
【0049】
すなわち、図22に示すように、最終検査工程S17では、第一の位置確認工程S171として、中間加工品20を第一の基準点21で位置決めして(ステップS171a)、外面を三次元計測する(ステップS171b)。そして、第三の判定工程S172として、第一の判定工程S13同様に、第三の位置確認工程S171の測定結果に基づいて、中間加工品20のモデル化した形状内に予め設定された基準形状が納まるか否か判定する。ここで、中間加工品20のモデル化した形状内に予め設定された基準形状が納まらないと判定された場合には、再度第一の基準点加工工程S15を実施し、納まると判定された場合には、次に移行する。
【0050】
次に、第二の位置確認工程S173として、中間加工品20を第二の基準点22で位置決めして(ステップS173a)、翼本体10となる部分の外面を三次元測定する(S173b)。そして、第四の判定工程S174として、冷却孔15を形成した場合の壁厚T1、T2を算出し、算出した壁厚T1、T2が必要壁厚Tc以上かどうかを判定する。そして、算出した壁厚T1、T2が必要壁厚Tc未満であった場合には、再度第二の基準点加工工程S16を実施し、必要壁厚Tc以上であった場合には、第一の工程S10が完了して中間加工品20が完成する。
【0051】
次に、図8に示すように、第二の工程S20として、中間加工品20を機械加工してタービン動翼5bを製造する。
すなわち、まず内部加工工程S21として冷却孔15を形成する。冷却孔15は、例えば、硝酸電解加工や放電加工により形成される。より具体的には、まず中間加工品20を第二の基準点22で位置決めして(ステップS21a)、例えば硝酸電解加工機に設置する。この状態で、冷却孔15と対応する径、長さ、形状を有し、通電された状態の電極棒を冷却孔15の開口となる位置に向かって進出させながら、電極棒の先端から電解液となる硝酸ソーダを供給させる。これにより電極棒と、中間加工品20との間に電解作用が生じ、電極棒の周囲で中間加工品20が溶解し冷却孔15となる穴が形成されていくこととなる(ステップS21b)。この際、中間加工品20は予め加工して調整された第二の基準点22で位置決めされているが、第二の基準点22の調整は、位置測定工程S12の第二のステップS122において壁厚T1、T2が薄くなる翼本体10の外面の位置を測定し、この測定結果に基づいて壁厚T1、T2を評価した後に加工を行っていることから、必要壁厚Tcを確実に確保した状態で冷却孔15を形成することができる。さらに、位置測定工程S12の第二のステップS122では、単に翼本体10の外面の位置を測定するのではなく、冷却孔15となる位置と対向する位置で外面の位置を測定していることから、より確実に壁厚T1、T2を確保することができる。
【0052】
次に、外面加工工程S22として、外面の加工を行い、シュラウド13、フィン14、プラットフォーム11及び翼根12について所望の形状となるように加工を行う。具体的には、図23に示すように、中間加工品20を第一の基準点21で位置決めして(ステップS22a)、例えば研削機に設置する。この状態で、予め設定されたタービン動翼5bの形状となるように、シュラウド13、フィン14、プラットフォーム11及び翼根12を研削していく。また、翼根12についてはセレーション12aを形成していく(ステップS22b)。ここで、第一の基準点21の調整がタービン動翼5bの翼本体10、シュラウド13、フィン14、プラットフォーム11及び翼根12の各部外面形状を計測した結果に基づいて行われていることから、全体の重心位置、ロータ2に組み付けた際のロータ2に対する組み付け状態、及び、他の構成、すなわち周方向に隣り合うタービン動翼5bや、タービン軸方向Pに隣り合うタービン静翼5cとの取り付け状態を考慮してタービン動翼5bを形成することができる。そして、最後に、第一の基準点21及び第二の基準点22を切断して表面を仕上ることでタービン動翼5bが完成する。
【0053】
以上のように、本実施形態のタービン動翼5bの製造方法では、まず機械加工前の中間加工品20を製造する際に、機械加工用の基準点として第一の基準点21と第二の基準点22と、二種類の基準点をそれぞれ複数設けている。そして、第一の基準点21は、外面加工工程S22実施用として、位置測定工程S12の第一のステップS121で、タービン動翼5bとする被加工体30の各部の外面を位置測定した結果に基づいて調整量を算出し、調整している。このため、調整後の第一の基準点21で位置決めすることで、外面加工工程S22では、各部の外面の形状を考慮し、また、全体の重心位置を考慮して、中間加工品20を所望の位置及び向きとして所望の精度を確保するようにして外面を加工することができる。また、第二の基準点22は、内部加工工程S21実施用として、位置測定工程S12の第二のステップS122で、タービン動翼5bとする被加工体30のうち、冷却孔15を必要壁厚を確保するようにして形成される翼本体10となる部分の外面のみを位置測定した結果に基づいて調整量を算出し、調整している。このため、調整後の第二の基準点22で位置決めすることで、内部加工工程S21では、冷却孔15加工時において公差の厳しい翼本体10となる部分の外面の形状を考慮し、中間加工品20を所望の位置及び向きとして所望の精度を確保するようにして冷却孔15を加工することができる。特に、位置測定工程S12では、翼本体10における測定点M10a〜M10jを、冷却孔15と対向する位置に設定していることから、より正確に翼本体10となる部分の外面の形状と冷却孔15との関係を考慮して第二の基準点22を調整し、より確実に必要壁厚Tcを確保して冷却孔15の加工を行うことができる。
【0054】
また、本実施形態では、第一の判定工程S13で位置測定工程S12の第一のステップS121の結果に基づいて、許容範囲内となるように外面を加工可能か否かの判定を行い、第一の判定工程S13で加工可能と判定された場合のみ第一の基準点加工工程S15を実施している。このため、外面加工工程S22において外面を機械加工して許容範囲とならないような被加工体30に対して、第一の基準点加工工程S15や外面加工工程S22を実施して作業ロスが発生してしまうのを防止することができる。また、第二の判定工程S14で位置測定工程S12の第二のステップS122の結果に基づいて、許容範囲内となるように冷却孔15を加工可能か否かの判定を行い、第二の判定工程S14で加工可能と判定された場合のみ第二の基準点加工工程S16を実施している。このため、内部加工工程S21において冷却孔15を加工して許容範囲とならないような被加工体30に対して、第二の基準点加工工程S16や内部加工工程S21を実施して作業ロスが発生してしまうのを防止することができる。
【0055】
また、本実施形態では、一次加工工程S11において、第一の基準点21及び第二の基準点22とともに補助基準点23を形成している。そして、位置測定工程S12の第一のステップS121では、形成した第一の基準点21をそのまま利用して位置測定を実施する一方、第一の基準点加工工程S15では、補助基準点23を一部の第一の基準点21に置き換えて、これ以降の工程を実施している。このため、置き換えられる第一の基準点21を位置測定に適した位置に設定することで、位置測定工程S12の第一のステップS121では外面の各測定点の測定を好適に実施することができる。また、補助基準点23を外面加工工程S22を実施するのに適した位置に設定することで、外面加工工程S22では、外面の加工を好適に実施することができる。さらに、本実施形態では、補助基準点23が軸状に形成されていていることで、補助基準点23に公差する二軸で位置決めすることができる。このため、補助基準点23を第一の基準点21として使用した場合には、当接支持される第一の基準点21のみを使用した場合と比較して基準点の数を削減することができる。このため、第一の基準点21に当接する支持ピン60数を削減して、支持ピン60が支障とならずにより好適に外面加工を実施することができるようになる。
【0056】
また、以上のような製造方法により製造されたタービン動翼5bでは、上記のとおり精度良く外面加工工程S22と内部加工工程S21をそれぞれ実施することができるので、冷却孔15の位置での壁厚を確保するために翼本体10の断面形状を不必要に大きくする必要がない。このため、本実施形態のタービン動翼5bでは空力性能を向上させることができ、タービン動翼5bを備えたガスタービン1では性能向上を図ることができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0058】
なお、上記実施形態では、第一の基準点21及び第二の基準点22は、それぞれ突起状に設けられているものとしたが、これに限るものではなく、中間加工品20(被加工体30)の表面と面一となっていても良く、また、表面から凹んだ状態となっていても良い。少なくとも、形状、マーキング等の表示から基準点であることが特定することができるとともに、治具を当接させる位置を、切削、嵩上げなどの加工により調整可能であれば良い。
【0059】
また、ステップS111、S114で熱処理を実施し、また、ステップS112、S115で欠陥検査を実施するものとしたが、省略するものとしても良い。また、一次加工工程S11において被加工体30は鋳造により成形されるものとしたが他の方法、例えば鍛造で成形されるものとしても良い。
【0060】
また、位置測定工程S12を構成する第一のステップS121と第二のステップS122とは、他の工程を挟んで実施するものとしたが、連続して実施しても良い。また、第一のステップS121と第二のステップ122とを別々の測定手順で実施せず一回の位置測定で行うものとしても良い。すなわち、第一の基準点21または第二の基準点22の一方の基準点で位置決めして、他方の基準点は外面とともに位置測定するようにすれば、測定結果から他方の基準点と外面との相対位置を求めることは可能である。
【0061】
また、第一の基準点加工工程S15では、位置測定工程S12での測定結果に基づいて第一の基準点21を直接切削、嵩上げ等するものとしたが、これに限るものではなく、被加工体30全体の歪取りを実施するなどして、少なくとも被加工体30に対する各第一の基準点21の相対位置関係を調整することが可能であれば良い。
【0062】
また、上記においては、内部加工工程S21では冷却孔15を加工するものとしたが、これに限るものではなく、外面のいずれかの位置から内部構造を形成する工程において、精度良く加工を行うことができ有効である。また、外面加工工程S22においては、プラットフォーム11、翼根12、シュラウド13及びフィン14の外面を加工する一方、翼本体10の外面については加工しないものとしたが、翼本体10についても加工するものとしても良い。
【0063】
また、本実施形態では、ガスタービン翼としてタービン動翼5bを例に挙げたが、これに限るものではなく、タービン静翼5cにも当然に適用可能であり、また、タービン5に限らず、圧縮機2の圧縮機動翼2b及び圧縮機静翼2cにも適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 ガスタービン
5b タービン動翼(ガスタービン翼)
20 中間加工品
21 第一の基準点
22 第二の基準点
23 補助基準点
30 被加工体
S11 一次加工工程
S12 位置測定工程
S121 第一のステップ
S122 第二のステップ
S13 第一の判定工程
S14 第二の判定工程
S15 第一の基準点加工工程
S16 第二の基準点加工工程
S21 内部加工工程
S22 外面加工工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に開口する穴を有するガスタービン翼の前記外面の形状及び前記穴を機械加工する前のガスタービン翼の中間加工品であって、
前記外面に設けられ、前記外面の形状を機械加工する際に位置決めをするための複数の第一の基準点からなる第一の基準点群と、
前記外面に設けられ、前記穴を機械加工する際に位置決めするための複数の第二の基準点からなり、その内の少なくとも一箇所が前記第一の基準点と異なる位置に設けられた第二の基準点群とを備えることを特徴とするガスタービン翼の中間加工品。
【請求項2】
請求項1に記載のガスタービン翼の中間加工品の前記第一の基準点で位置決めして、前記外面の形状が加工されるとともに、前記中間加工品の前記第二の基準点で位置決めして前記穴が加工されたことを特徴とするガスタービン翼。
【請求項3】
請求項2に記載のガスタービン翼を備えることを特徴とするガスタービン。
【請求項4】
外面に開口する穴を有するガスタービン翼の前記外面の形状及び前記穴を機械加工する前のガスタービン翼の中間加工品の製造方法であって、
前記外面の形状を機械加工する際に位置決めをするための複数の第一の基準点からなる第一の基準点群、及び、前記穴を機械加工する際に位置決めをするための複数の第二の基準点からなる第二の基準点群を、前記第一の基準点と前記第二の基準点とが互いに少なくとも一箇所で異なる位置として設けた被加工体を形成する一次加工工程と、
前記第一の基準点及び前記第二の基準点のそれぞれと、前記被加工体の前記外面との相対位置を測定する位置測定工程と、
該位置測定工程の測定結果に基づいて、前記第一の基準点で位置決めした際に前記被加工体が前記外面の形状を機械加工可能な位置及び向きに位置決めされるように、前記被加工体に対する各前記第一の基準点の相対位置を調整する第一の基準点加工工程と、
前記位置測定工程の測定結果に基づいて、前記第二の基準点で位置決めした際に前記被加工体が前記穴を機械加工可能な位置及び向きに位置決めされるように、前記第二の基準点を加工する第二の基準点加工工程とを備えることを特徴とするガスタービン翼の中間加工品の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のガスタービン翼の中間加工品の製造方法において、
前記位置測定工程は、前記被加工体を前記第一の基準点で位置決めして、前記被加工体の前記外面の位置を測定する第一のステップと、
前記被加工体を前記第二の基準点で位置決めして、前記被加工体の前記外面の内、前記穴と対応する位置を測定する第二のステップとを有し、
前記第一の基準点加工工程は、前記第一のステップでの測定結果に基づいて、前記被加工体に対する各前記第一の基準点の相対位置を調整し、
前記第二の基準点加工工程は、前記第二のステップでの測定結果に基づいて前記第二の基準点を加工することを特徴とするガスタービン翼の中間加工品の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のガスタービン翼の中間加工品の製造方法において、
前記位置測定工程の結果に基づいて、前記被加工体の前記外面を機械加工することにより、許容範囲内となるように該外面を加工可能か否かの判定を行う第一の判定工程と、
前記位置測定工程の結果に基づいて、前記被加工体の前記穴を機械加工することにより、許容範囲内となるように該穴を加工可能か否かの判定を行う第二の判定工程とを備え、
前記第一の判定工程で加工可能と判定された場合のみ前記第一の基準点加工工程を実施し、
前記第二の判定工程で加工可能と判定された場合のみ第二の基準点加工工程を実施することを特徴とするガスタービン翼の中間加工品の製造方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のガスタービン翼の中間加工品の製造方法において、
前記一次加工工程では、前記被加工体として前記第一の基準点の少なくとも一つの代わりをなす補助基準点が設けられたものを形成し、
前記第一の基準点加工工程では、前記第一の基準点の少なくとも一つに代えて、前記補助基準点を加工することで、該補助基準点を新たな第一の基準点の一つとして構成させることを特徴とするガスタービン翼の中間加工品の製造方法。
【請求項8】
請求項4から請求項7のいずれか一項に記載のガスタービン翼の中間加工品の製造方法で製造された前記中間加工品を、前記第一の基準点で位置決めして前記外面の形状を機械加工する外面加工工程と、
前記中間加工品を前記第二の基準点で位置決めして前記穴を機械加工する内部加工工程とを備えることを特徴とするガスタービン翼の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のガスタービン翼の製造方法で製造されたガスタービン翼を備えることを特徴とするガスタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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