説明

ガスパイプラインのシミュレーションプログラムおよびシミュレーション装置

【課題】 技術的な知識などを有さなくても、ガスパイプライン上の各需要地でのガス圧力などを把握できるようにする。
【解決手段】 ガスの供給元から各需要地に至るガスパイプラインの敷設状態を含む敷設情報を記憶する敷設データベース5と、各需要地におけるガス需要量を入力するととともに、供給元の輸送ガス圧力などを入力する入力部2と、敷設データベース5に記憶された敷設情報と、入力部2で入力された需要量や供給元の輸送ガス圧力などに基づいて、各需要地における到達ガス圧力などを算出するシミュレータ7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、天然ガスなどを輸送するガスパイプライン(導管)において、各需要地でのガス圧力などをシミュレーションするガスパイプラインのシミュレーションプログラムおよびシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスの貯留地や採掘地またはLNG基地などから需要地・消費地に輸送する手段として、ガスパイプラインが使用されている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、供給元から各需要地に至ってガスパイプラインを敷設し、供給元で天然ガスに高い送圧(輸送ガス圧力)を与えてガスパイプラインにて輸送し、各需要地に天然ガスを供給するものであり、各需要地に所定量、所定圧の天然ガスを送る必要がある。このため、天然ガスの供給に際しては、供給元でどのくらいの送圧を与えることで、各需要地にどのくらいの圧力の天然ガスを供給することができるか、あるいは、各需要地に所定量の天然ガスを送るには、供給元からのガスパイプラインの径がどのくらい必要であるか、などを適正に算出、予測(想定)する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−343798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような送圧や供給量などの算出、予測に際しては、ガスパイプラインの敷設状態などを考慮した上で、流量や圧力損失などの流体力学的な計算や、応力などの材料力学的な計算などを行わなければならず、技術的かつ専門的な知識や経験を要する。従って、このような技術的、専門的な知識などを有する担当者によって各種の計算などを行う必要があり、さらに、このような担当者であっても、計算などに多大な労力と時間を要する。殊に、ひとつの供給元から複数の需要地に天然ガスを供給するなど、ガスパイプラインの敷設状態が複雑な場合には、計算が煩雑となり、適正な計算が困難となる。
【0005】
しかも、実際の業務においては、各需要地における天然ガスの需要量や必要圧力などを変えながら、供給系統全体(各需要地)において適正な需要量や必要圧力が得られるように、各需要地における需要量や必要圧力、供給元での送圧などを決定する。つまり、上記のような算出、予測を繰り返し行わなければならず、多大な労力と時間を要するばかりでなく、適正な計算、予測がより困難となる。
【0006】
そこでこの発明は、技術的な知識などを有さなくても、ガスパイプライン上の各需要地でのガス圧力などを把握することが可能なガスパイプラインのシミュレーションプログラムおよびシミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、コンピュータを、ガスの供給元から各需要地に至るガスパイプラインの敷設状態を含む敷設情報を記憶する敷設情報記憶手段と、前記各需要地におけるガス需要量を需要量パラメータとして受け入れるとともに、前記供給元の輸送ガス圧力および前記需要地の必要ガス圧力の少なくとも一方を圧力パラメータとして受け入れるパラメータ受入手段と、前記敷設情報記憶手段に記憶された敷設情報と、前記パラメータ受入手段で受け入れられた需要量パラメータと圧力パラメータとに基づいて、前記パラメータ受入手段で受け入れられていない前記供給元の輸送ガス圧力および前記各需要地における到達ガス圧力を算出する圧力算出手段、として機能させるためのガスパイプラインのシミュレーションプログラムである。
【0008】
この発明によれば、パラメータ受入手段を介して、例えば、各需要地のガス需要量と供給元の輸送ガス圧力とを入力(指定)すると、圧力算出手段によって、ガスパイプラインの敷設情報と各需要地のガス需要量と供給元の輸送ガス圧力とに基づいて、各需要地における到達ガス圧力が算出される。また、パラメータ受入手段を介して、例えば、各需要地のガス需要量と必要ガス圧力とを入力すると、圧力算出手段によって、ガスパイプラインの敷設情報と各需要地のガス需要量と必要ガス圧力とに基づいて、供給元の輸送ガス圧力が算出される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシミュレーションプログラムにおいて、前記圧力算出手段は、ガスをガスパイプラインで輸送した場合の圧力損失の実測値に基づいて、前記供給元の輸送ガス圧力および前記到達ガス圧力を算出する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のシミュレーションプログラムにおいて、前記パラメータ受入手段は、前記ガスパイプラインの長さをライン長パラメータとして受け入れ、前記圧力算出手段は、前記パラメータ受入手段で受け入れられたライン長パラメータに基づいて、前記供給元の輸送ガス圧力および前記到達ガス圧力を算出する、ことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、パラメータ受入手段を介して、ガスパイプラインの長さを入力すると、圧力算出手段によって、入力された長さに基づく供給元の輸送ガス圧力や各需要地における到達ガス圧力が算出される。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載のシミュレーションプログラムにおいて、前記パラメータ受入手段は、前記ガスパイプラインの径をライン径パラメータとして受け入れ、前記圧力算出手段は、前記パラメータ受入手段で受け入れられたライン径パラメータに基づいて、前記供給元の輸送ガス圧力および前記到達ガス圧力を算出する、ことを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、パラメータ受入手段を介して、ガスパイプラインの径を入力すると、圧力算出手段によって、入力された径に基づく供給元の輸送ガス圧力や各需要地における到達ガス圧力が算出される。
【0014】
請求項5に記載の発明は、ガスの供給元から各需要地に至るガスパイプラインの敷設状態を含む敷設情報を記憶する敷設情報記憶手段と、前記各需要地におけるガス需要量を需要量パラメータとして入力するととともに、前記供給元の輸送ガス圧力および前記需要地の必要ガス圧力の少なくとも一方を圧力パラメータとして入力する入力手段と、前記敷設情報記憶手段に記憶された敷設情報と、前記入力手段で入力された需要量パラメータと圧力パラメータとに基づいて、前記入力手段で入力されていない前記供給元の輸送ガス圧力および前記各需要地における到達ガス圧力を算出する圧力算出手段と、を備えることを特徴とするガスパイプラインのシミュレーション装置である。
【0015】
この発明によれば、入力手段によって、例えば、各需要地のガス需要量と供給元の輸送ガス圧力とを入力すると、圧力算出手段によって、ガスパイプラインの敷設情報と各需要地のガス需要量と供給元の輸送ガス圧力とに基づいて、各需要地における到達ガス圧力が算出される。また、入力手段を介して、例えば、各需要地のガス需要量と必要ガス圧力とを入力すると、圧力算出手段によって、ガスパイプラインの敷設情報と各需要地のガス需要量と必要ガス圧力とに基づいて、供給元の輸送ガス圧力が算出される。
【発明の効果】
【0016】
請求項1および5に記載の発明によれば、各需要地のガス需要量や供給元の輸送ガス圧力などを入力することで、ガスパイプラインの敷設状態などに基づいた各需要地における到達ガス圧力などが算出される。つまり、各需要地のガス需要量に見合った各需要地でのガス圧力などが算出される。このため、技術的、専門的な知識、経験を有さなくても、各需要地でのガス圧力などを知得でき、しかも、ガスパイプラインの敷設状態が複雑な場合であっても、容易かつ適正に各需要地でのガス圧力などを知得できる。
【0017】
さらに、各需要地のガス需要量や必要ガス圧力などを変えながら、供給系統全体において適正な到達ガス圧力などが得られるように、各需要地のガス需要量や必要ガス圧力、供給元での輸送ガス圧力などを決定する場合でも、各需要地のガス需要量や必要ガス圧力などを順次入力するだけで、各需要地の到達ガス圧力などが順次算出される。このため、供給系統全体におけるガス需要量や必要ガス圧力などの検討を、適正かつ容易に行うことが可能となる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、圧力損失の実測値に基づいて供給元の輸送ガス圧力や到達ガス圧力を算出するため、実際の圧力損失に見合った、より適正な算出結果を得ることが可能となる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、入力されたガスパイプラインの長さに基づいて、供給元の輸送ガス圧力や各需要地の到達ガス圧力が算出されるため、ガスパイプラインの長さを変えた場合の各需要地の到達ガス圧力などを、適正かつ容易に知得することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、入力されたガスパイプラインの径に基づいて、供給元の輸送ガス圧力や各需要地の到達ガス圧力が算出されるため、ガスパイプラインの径を変えた場合の各需要地の到達ガス圧力などを、適正かつ容易に知得することができる。これにより、所定のガス需要量や到達ガス圧力などを得るのに要するガスパイプラインの径を、適正かつ容易に選定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態に係るガスパイプラインのシミュレーション装置を示す概略構成ブロック図である。
【図2】図1の装置の敷設データベースに記憶される演算結果シートの例を示す図である。
【図3】図1の装置の敷設データベースに記憶される演算シートの例を示す図である。
【図4】図3の続きを示す図である。
【図5】図1の装置のシミュレータの処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0023】
図1は、この発明の実施の形態に係るガスパイプラインのシミュレーション装置(以下、「シミュレーション装置」という)1を示す概略構成ブロック図である。このシミュレーション装置1は、天然ガスを輸送するガスパイプラインにおいて、各需要地でのガス圧力などをシミュレーションする装置であり、汎用コンピュータから構成され、主として、入力部(入力手段)2と、表示部3と、記憶部4と、敷設データベース(敷設情報記憶手段)5と、管材データベース6と、シミュレータ7と、これらを制御などする中央処理部8とを備えている。
【0024】
入力部2は、後述する需要量パラメータや圧力パラメータなどを入力するものであり、キーボードやマウスなどから構成されている。また、この入力部2で入力された各種パラメータが、後述するパラメータタスク71によってシミュレータ7内に受け入れられる(取り込まれる)ようになっている。表示部3は、シミュレータ7での入力データ・パラメータや演算結果などを表示するものであり、LCD(液晶ディスプレイ)などから構成されている。記憶部4は、シミュレータ7による演算結果などを一時的に記憶するメモリである。
【0025】
敷設データベース5は、ガスの供給元から各需要地に至るガスパイプラインの敷設状態を含む敷設情報を記憶するデータベースである。具体的には、ひとつの供給元(基地)から各需要地に至るガスパイプラインのルート(軌跡)や埋設深さが、供給系統ごとに記憶されている。さらに、シミュレータ7によって既に各需要地間におけるガスパイプラインの長さや管径などが入力されている場合には、これらの敷設情報も記憶される。すなわち、シミュレータ7によるシミュレーションが行われる前では、ガスパイプラインのルートや埋設深さが最低限記憶され、さらに、ガスパイプラインの長さや管径などの初期値が設定されている場合には、これらの敷設情報が記憶されている。また、シミュレータ7によるシミュレーションが行われた後は、ガスパイプラインのルートや埋設深さと、入力されたガスパイプラインの長さや管径、さらには、演算結果である各需要地における到達ガス圧力などが記憶されている。より具体的には、図2に示すような演算結果シート51や、図3、4に示すような演算シート52が記憶されている。
【0026】
管材データベース6は、ガスパイプラインの管材に関する諸元情報を記憶したデータベースである。具体的には、管材の材質、引張強度、各呼び径に対する外径、肉厚、内径などが記憶されている。
【0027】
シミュレータ7は、ガスパイプライン上の各需要地でのガス圧力などをシミュレーションするプログラムであり、図5に示すように、主として、パラメータタスク(パラメータ受入手段)71と、演算タスク(圧力算出手段)72とを備えている。パラメータタスク71は、入力部2で入力された各種パラメータを受け入れるプログラムであり、演算結果シート51上のセルIC1〜IC7で各種パラメータを受け入れられるようになっている。ここで、受け入れるパラメータとして、次のものが含まれる。
「需要量パラメータ」
各需要地P3、P5…におけるガス需要量であり、各需要地P3、P5…上の需要量セルC1で受け入れられる。
「圧力パラメータ」
供給元P1の輸送ガス圧力(送圧)および各需要地P3、P5…における必要ガス圧力であり、供給元P1および各需要地P3、P5…上の圧力セルC2で受け入れられる。また、この圧力セルC2は、圧力パラメータを受け入れるとともに、後述するように、演算結果である到達ガス圧力などを表示するセル(エリア)でもある。
「ライン長パラメータ」
供給元P1から第1の需要地P3(=P2)までのガスパイプラインの長さ、および各需要地P3、P5…間のガスパイプラインの長さであり、各ガスパイプライン上のライン長セルC3で受け入れられる。
「ライン径パラメータ」
供給元P1から第1の需要地P3までのガスパイプラインの径(呼び径)、および各需要地P3、P5…間のガスパイプラインの径であり、各ガスパイプライン上のライン径セルC4で受け入れられる。
「負荷率パラメータ」
供給元P1および各需要地P3、P5…におけるガスの負荷率であり、供給元P1および各需要地P3、P5…上の負荷率セルC5で受け入れられる。
「最低到達圧力パラメータ」
供給元P1から最も遠い需要地P14で最低限必要なガス圧力である最低到達圧力であり、需要地P14上の最低圧力セルC6で受け入れられる。
「開閉弁パラメータ」
ガスパイプライン上の開閉弁の開閉状態を示すパラメータであり、各需要地P3、P5…の上流側に位置する開閉弁セルC7で受け入れられる。すなわち、ある開閉弁を「閉」状態にしてガスの流れを止める場合には、該当する各需要地P3、P5…の開閉弁セルC7に「閉」(「×」)が受け入れられる。
【0028】
演算タスク72は、敷設データベース5に記憶された敷設情報と、パラメータタスク71で受け入れられた各種パラメータとに基づいて、各需要地における到達ガス圧力などを演算するプログラムであり、主として、次のような事項について算出などする。ここで、この実施の形態では、圧力パラメータとして、供給元P1の輸送ガス圧力のみが入力可能であり、各需要地P3、P5…における必要ガス圧力は、入力・指定できないものとする。つまり、供給元P1の輸送ガス圧力が入力値・指定値であり、各需要地P3、P5…における到達ガス圧力を演算タスク72による演算値とする。
「総供給量」
供給元P1で必要とするガスの総供給量であり、各需要地P3、P5…におけるガス需要量に基づいて算出する。また、その算出結果は、演算結果シート51上の総需要量セルC8および演算シート52上の「需要情報」に反映、記憶される。
「到達ガス圧力」
各需要地P3、P5…における到達ガス圧力であり、図3に示すように、ガスパイプラインの敷設状態(ルート)に従って供給元P1から順に、送出側のガス圧力に基づいて直近の需要地である到着側の到達ガス圧力を算出していく。つまり、供給元P1から第1の需要地P3(=P2)に、総供給量のガスが輸送された場合の第1の需要地P3におけるガスの圧力(到達ガス圧力)を算出し、次に、第1の需要地P3から第2の需要地P5(=P4)に、第2の需要地P5以降の総需要量のガスが輸送された場合の第2の需要地P5における到達ガス圧力を算出する、というように、区間ごとに順次到達ガス圧力を算出する。
【0029】
ここで、到達ガス圧力の算出は、送出側のガス圧力、対象区間のガスパイプラインの長さ、対象区間のガスパイプラインの内径、対象区間を流れるガス流量、ガス比重、流量係数に基づいて、既知の式で行い、さらに、ガスをガスパイプラインで輸送した場合の圧力損失の実測値に基づいて算出する。つまり、計算式のみによる到達ガス圧力と、実測値による到達ガス圧力との比や差などを実測補正値とし、計算式のみによる到達ガス圧力を実測補正値で補正して、到達ガス圧力を算出する。このように、到達ガス圧力は、送出側のガス圧力、対象区間のガスパイプラインの長さと内径、対象区間を流れるガス流量などに基づくため、後述するように、各需要地P3、P5…におけるガス需要量(需要量パラメータ)、供給元P1の輸送ガス圧力(圧力パラメータ)、対象区間のガスパイプラインの長さ、呼び径(ライン長パラメータ、ライン径パラメータ)が入力、変更されるたびに、到達ガス圧力が算出される。また、その算出結果は、演算結果シート51上の圧力セルC2および演算シート52上の「圧力情報」に反映、記憶される。
「ガスパイプラインの肉厚」
各区間におけるガスパイプラインの肉厚・管厚であり、次の3式によりそれぞれ必要肉厚tを算出する。そして、これらの算出値の最大値以上で直近の標準肉厚(規格化された肉厚)をガスパイプラインの肉厚とする。また、その算出結果は、演算シート52上の「パイプライン情報」に反映、記憶される。
【数1】

【数2】

【数3】

f:許容引張応力
σ:材料引張強さ
C:腐食代
:ガスパイプラインの外径
Wf:上載荷重
Wt:路面過重土圧
Kf:ガスパイプラインの材質による係数A
Kt:ガスパイプラインの材質による係数B
P:最高使用圧
η:長手継手効率
【0030】
また、演算タスク72は、作図機能を備え、各需要地P3、P5…におけるガス需要量や到達ガス圧力などを表すグラフを作成する。具体的には、図2に示すように、供給元P1の輸送ガス圧力および各需要地P3、P5…における到達ガス圧力を折れ線グラフG1で表し、供給元P1の総供給量および各需要地P3、P5…におけるガス送り量を第1の棒グラフG2で表し、各需要地P3、P5…におけるガス需要量を第2の棒グラフG3で表すものである。
【0031】
以上のような敷設データベース5と管材データベース6とシミュレータ7とによって、ガスパイプラインのシミュレーションプログラムが構成されている。そして、このようなシミュレーションプログラムによるシミュレーションは、各需要地P3、P5…におけるガス需要量や供給元P1の輸送ガス圧力を変更する場合、あるいは、新たな需要地に対して新たなガスパイプラインを敷設する場合などに実行される。
【0032】
次に、このような構成のシミュレーション装置1およびシミュレーションプログラムの作用などについて説明する。まず、図5に示すように、シミュレータ7を起動して、入力部2でシミュレーション対象の供給系統を指定すると、敷設データベース5から該当するガスパイプラインの敷設情報、つまり演算結果シート51および演算シート52が取得され、表示部3に表示される(ステップS1)。次に、上記のようにして入力部2で、各需要地P3、P5…におけるガス需要量(ステップS21)、供給元P1の輸送ガス圧力(ステップS22)、各区間のガスパイプラインの長さ(ステップS23)あるいは呼び径(ステップS24)などを入力すると、これらのパラメータがパラメータタスク71によって受け入れられ、演算タスク72が起動される。
【0033】
続いて、この演算タスク72によって、総供給量(ステップS21でガス需要量が入力された場合)、各需要地P3、P5…における到達ガス圧力および、各区間のガスパイプラインの肉厚などが上記のようにして算出され(ステップS3、S4)、さらに、この算出結果に基づいて、上記のようなグラフG1〜G3が作図される(ステップS5)。そして、これらの算出結果およびグラフG1〜G3が、演算結果シート51および演算シート52に反映され、表示部3に表示される(ステップS6)。
【0034】
このとき、供給元P1から最も遠い需要地P14での到達ガス圧力が、上記の最低到達圧力(最低圧力セルC6)未満の場合には、「到達圧不足」の警報が表示部3に表示される。また、特定の需要地P3、P5…の開閉弁セルC7に「閉」を入力した場合には、この需要地P3、P5…よりも前までにおける総供給量や到達ガス圧力などが演算、表示され、この需要地P3、P5…移行のガス需要量や到達ガス圧力などは、ゼロとして表示される。
【0035】
次に、パラメータを変更してシミュレーションを続行する場合(ステップS7で「N」の場合)には、ステップS21〜S24に戻り、同様な処理が繰り返される。すなわち、各需要地P3、P5…におけるガス需要量や、供給元P1の輸送ガス圧力、各区間のガスパイプラインの長さ、あるいは呼び径などが入力、変更されるたびに、総供給量や各需要地P3、P5…における到達ガス圧力などが算出され、その算出結果などが表示部3に表示される。そして、シミュレーションを終了する場合(ステップS7で「Y」の場合)には、算出結果や作図したグラフG1〜G3を含む演算結果シート51および演算シート52、つまり演算結果が敷設データベース5に記憶される(ステップS8)ものである。
【0036】
以上のように、このシミュレーション装置1およびシミュレーションプログラムによれば、各需要地P3、P5…におけるガス需要量、供給元P1の輸送ガス圧力、各区間のガスパイプラインの長さや径などを入力・指定することで、この入力パラメータに適合したガスの総供給量、各需要地P3、P5…における到達ガス圧力、さらには各区間のガスパイプラインの肉厚などが算出される。このように、技術的、専門的な知識、経験を有さなくても、各需要地P3、P5…におけるガス需要量や供給元P1の輸送ガス圧力などを変更、調整した場合の、各需要地P3、P5…でのガス圧力などを適正に知得できる。しかも、ガスパイプラインの敷設状態が複雑な場合であっても、容易かつ適正に各需要地P3、P5…でのガス圧力などを知得できる。
【0037】
このため、例えば、各区間のガスパイプラインの呼び径を変更、調整してシミュレーションを行うことで、所定の到達ガス圧力などを得るのに適正なガスパイプラインの呼び径を、選定することが可能となる。また、特定の需要地P3、P5…の開閉弁セルC7に「閉」を入力することで、ガスの供給を特定の需要地P3、P5…の前で停止する場合の、総供給量や到達ガス圧力などを把握することができ、ガス供給系統の検討をより柔軟に行うことが可能となる。
【0038】
さらに、供給系統全体において適正量かつ適正圧の天然ガスが供給できるように、各需要地P3、P5…におけるガス需要量、供給元P1の輸送ガス圧力などを決定する場合でも、各種パラメータを順次入力、調整するだけで、各需要地P3、P5…における到達ガス圧力などが順次算出される。このため、供給系統全体におけるガス需要量や輸送ガス圧力、さらにはガスパイプラインの径などの検討を、適正かつ容易に行うことが可能となる。
【0039】
また、圧力損失の実測値に基づいて各需要地P3、P5…における到達ガス圧力を算出するため、実際の圧力損失に見合った、より適正な算出結果を得ることが可能となる。さらに、各需要地P3、P5…におけるガス需要量や到達ガス圧力などがグラフで表されるため、目視によって容易かつ適正にガスの輸送状態を把握することが可能となる。例えば、ある需要地P3、P5…において折れ線グラフG1が急激に下降している場合には、その需要地P3、P5…で到達ガス圧力が急激に下がっており、その需要地P3、P5…の前のガスパイプラインの呼び径などが不適切ではないか、と判断することが可能となる。
【0040】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、供給元P1の輸送ガス圧力を入力値とし、各需要地P3、P5…における到達ガス圧力を演算値としているが、特定の需要地P3、P5…における必要ガス圧力(到達ガス圧力)を入力値とし、この必要ガス圧力が得られるように、供給元P1の輸送ガス圧力および他の需要地P3、P5…における到達ガス圧力を演算(逆算)するようにしてもよい。さらには、供給元P1の輸送ガス圧力と特定の需要地P3、P5…における必要ガス圧力とを入力値(固定値)とし、この輸送ガス圧力および必要ガス圧力に基づいて、他の需要地P3、P5…における到達ガス圧力を演算するようにしてもよい。
【0041】
また、供給元P1の輸送ガス圧力と需要地P3、P5…における必要ガス圧力とを入力値とし、この入力値に適合した各需要地P3、P5…におけるガス需要量、各区間のガスパイプラインの長さや径などを演算するようにしてもよい。なお、天然ガス以外のガスにも適用できることは、勿論である。
【符号の説明】
【0042】
1 シミュレーション装置
2 入力部(入力手段)
3 表示部
4 記憶部
5 敷設データベース(敷設情報記憶手段)
51 演算結果シート
52 演算シート
6 管材データベース
7 シミュレータ
71 パラメータタスク(パラメータ受入手段)
72 演算タスク(圧力算出手段)
8 中央処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
ガスの供給元から各需要地に至るガスパイプラインの敷設状態を含む敷設情報を記憶する敷設情報記憶手段と、
前記各需要地におけるガス需要量を需要量パラメータとして受け入れるとともに、前記供給元の輸送ガス圧力および前記需要地の必要ガス圧力の少なくとも一方を圧力パラメータとして受け入れるパラメータ受入手段と、
前記敷設情報記憶手段に記憶された敷設情報と、前記パラメータ受入手段で受け入れられた需要量パラメータと圧力パラメータとに基づいて、前記パラメータ受入手段で受け入れられていない前記供給元の輸送ガス圧力および前記各需要地における到達ガス圧力を算出する圧力算出手段、
として機能させるためのガスパイプラインのシミュレーションプログラム。
【請求項2】
前記圧力算出手段は、ガスをガスパイプラインで輸送した場合の圧力損失の実測値に基づいて、前記供給元の輸送ガス圧力および前記到達ガス圧力を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載のガスパイプラインのシミュレーションプログラム。
【請求項3】
前記パラメータ受入手段は、前記ガスパイプラインの長さをライン長パラメータとして受け入れ、
前記圧力算出手段は、前記パラメータ受入手段で受け入れられたライン長パラメータに基づいて、前記供給元の輸送ガス圧力および前記到達ガス圧力を算出する、ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のガスパイプラインのシミュレーションプログラム。
【請求項4】
前記パラメータ受入手段は、前記ガスパイプラインの径をライン径パラメータとして受け入れ、
前記圧力算出手段は、前記パラメータ受入手段で受け入れられたライン径パラメータに基づいて、前記供給元の輸送ガス圧力および前記到達ガス圧力を算出する、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガスパイプラインのシミュレーションプログラム。
【請求項5】
ガスの供給元から各需要地に至るガスパイプラインの敷設状態を含む敷設情報を記憶する敷設情報記憶手段と、
前記各需要地におけるガス需要量を需要量パラメータとして入力するととともに、前記供給元の輸送ガス圧力および前記需要地の必要ガス圧力の少なくとも一方を圧力パラメータとして入力する入力手段と、
前記敷設情報記憶手段に記憶された敷設情報と、前記入力手段で入力された需要量パラメータと圧力パラメータとに基づいて、前記入力手段で入力されていない前記供給元の輸送ガス圧力および前記各需要地における到達ガス圧力を算出する圧力算出手段と、
を備えることを特徴とするガスパイプラインのシミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−113236(P2011−113236A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268293(P2009−268293)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】