説明

ガス付臭剤脱臭触媒及びその製造方法

【課題】本発明は、ガス付臭剤脱臭触媒及びその製造方法に関し、燃料電池システムの作動温度において非硫黄系の付臭剤を脱臭可能なガス付臭剤脱臭触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】原料モリブデンを焼成して得られた焼成モリブデン化合物を500℃よりも高く900℃よりも低い温度条件下において、炭素数1〜5の低級炭化水素ガスと水素ガスとを含む混合ガスで処理し、その後冷却することで製造される。このように製造されたガス付臭剤脱臭触媒は、Cu−Kα線によるX線回折角が25.8°〜26.2°及び39.2°〜39.6°の両方に特徴的なピークを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス付臭剤脱臭触媒及びその製造方法に関し、より詳細には、モリブデン化合物を含むガス付臭剤脱臭触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムに供給する水素燃料に付臭剤を用いると、システムからの水素漏れや水素漏れの箇所を臭気で検知することができ、水素燃料を用いたときの安全性を高めることができる。しかしながら、スタック中で水素が消費されてもこの付臭剤は残るため、付臭剤がスタック外に排出された場合には水素漏れとして検知されてしまう。このため、付臭剤を用いる場合には、システム内に付臭剤を脱臭するための脱臭手段が用いられる。
【0003】
上記脱臭手段として、従来、例えば特許文献1には、ゼオライト、活性炭といった吸着材を用いることが開示されている。吸着材を用いれば付臭剤を吸着除去できる。また、この特許文献1には、付臭剤が硫黄系の場合にコバルト−モリブデン(Co−Mo)系触媒を用いることが開示されている。Co−Mo系触媒を用いれば硫黄化合物を硫化水素に分解除去できる。さらに、特許文献2、3には、Mo触媒を硫黄化合物の除去に用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−111167号公報
【特許文献2】特表2006−511678号公報
【特許文献3】特開2000−84592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吸着材は一定量の吸着により飽和してしまうため、定期的な交換や再生処理が必要となる。このため、定期交換時にはコストを要し、再生処理時には電力を消費することから燃料電池のパワーロスに繋がる可能性がある。したがって、吸着材が脱臭手段に適しているとは言い難い。この点、Co−Mo系触媒、Mo触媒は上記問題が生じないため脱臭手段として望ましいことになる。しかしながら、非硫黄系の付臭剤を用いた場合、システムの作動温度において、上記Co−Mo系触媒やMo触媒はこれら付臭剤に対して活性を示さない。したがって、非硫黄系の付臭剤を用いた場合には脱臭手段に適しているとは言い難かった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、燃料電池システムの作動温度において非硫黄系の付臭剤を脱臭可能なガス付臭剤脱臭触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、ガス付臭剤脱臭触媒であって、
Cu−Kα線によるX線回折角が25.8°〜26.2°及び39.2°〜39.6°のピークを有するモリブデン化合物を含むことを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、上記の目的を達成するため、ガス付臭剤脱臭触媒の製造方法であって、
500℃よりも高く900℃よりも低い温度条件下において、炭素数1〜5の低級炭化水素ガスと水素ガスとを含む混合ガスでモリブデン化合物を処理する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1及び第2の発明によれば、燃料電池システムの作動温度において非硫黄系の付臭剤を脱臭可能なガス付臭剤脱臭触媒及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例で作製した触媒の脱臭試験を模式的に表した図である。
【図2】脱臭試験により得られた転化率(%)の結果と、CO吸着量(μmol/g‐cat)の結果との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態のガス付臭剤脱臭触媒は、原料モリブデンを焼成して得られた焼成モリブデン化合物を500℃よりも高く900℃よりも低い温度条件下において、炭素数1〜5の低級炭化水素ガスと水素ガスとを含む混合ガスで処理し、その後冷却することで製造されるものである。
【0012】
上記原料モリブデンとしては、モリブデンの酸化物、塩化物、硫化物、炭化物を挙げることができるが、入手容易性の観点から、モリブデンの酸化物を用いることが望ましく、これらの内、安定性の観点から三酸化モリブデンを用いることがより望ましい。
【0013】
原料モリブデンを常圧下で焼成することで焼成モリブデン化合物を得ることができる。焼成は、空気中で行ってもよく、窒素やアルゴンなどの実質的に酸素を含まないガス雰囲気下で行ってもよい。なお、焼成は、400〜500℃で1〜4時間程度行うのが一般的である。
【0014】
得られた焼成モリブデン化合物は、必要に応じてアンモニアガスにより処理された後、500℃よりも高く900℃よりも低い温度条件下において、混合ガスにより処理される。ここで、500℃よりも高く900℃よりも低い温度条件で処理するとしたのは次の理由による。すなわち、500℃以下で処理した場合には酸化モリブデン(IV)(MoO)のみが形成され、900℃以上で処理した場合には炭化モリブデン(β−MoC)のみが形成されてしまう。しかし、500℃よりも高く900℃よりも低い上記の温度条件とすれば、酸化モリブデン(IV)(MoO)と炭化モリブデン(β−MoC)とを含む活性モリブデン種を形成することができる。なお、温度条件を600℃〜800℃とすれば、この活性モリブデン種を確実に形成できるので望ましい。
【0015】
焼成モリブデン化合物を処理する混合ガスは、炭素数1〜5の低級炭化水素ガスと水素ガスとの混合ガスである。このような混合ガスで処理することにより、上述した活性モリブデン種の表面に、付臭剤に対して活性なサイトを形成することができる。
【0016】
ここで、混合ガスを形成する炭素数1〜5の低級炭化水素ガスとしては、1分子内に1〜5個の炭素を有する脂肪族飽和炭化水素の単独若しくは2種以上の混合ガスが挙げられる。具体的には、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタンなどの単独若しくは2種以上の混合ガスが挙げられるが、脱臭効果の高い活性サイトを形成するためには、分子量の小さいガスが用いられることが望ましく、メタンガスが単独で用いられることがより望ましい。
【0017】
また、混合ガス中の上記低級炭化水素ガスの割合は、10〜30重量%であることが望ましいが、15〜25重量%であることがより望ましい。混合ガス中の低級炭化水素ガスの割合を上記範囲とすることで、上述した活性モリブデン種の表面に活性なサイトを多数形成することができる。
【0018】
混合ガスで処理された焼成モリブデン化合物は、その後冷却される。冷却の方法は特に限定されない。以上により、本実施形態のガス付臭剤脱臭触媒を製造することができる。このように製造されたガス付臭剤脱臭触媒は、白金等の貴金属よりも安価なモリブデンを用いた触媒であるため、量産に適している。さらに、本実施形態のガス付臭剤脱臭触媒は、後述する実施例から示されるように、固体高分子型燃料電池の作動温度(70℃〜90℃)において高い脱臭効果を示す。したがって、固体高分子型燃料電池システムの搭載に適している。
【0019】
付臭剤の脱臭作用は、上述した活性モリブデン種の表面に多数形成された活性なサイトに付臭剤が付着することによって行われる。ここで、付臭剤としては、本実施形態のガス付臭剤脱臭触媒との組み合わせに適した、分子内に炭素−炭素間二重結合を有する化合物が挙げられる。分子内に炭素−炭素間二重結合を有する化合物としては、例えば、1−ペンテン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等の分子内に炭素−炭素二重結合を1つ以上有する炭化水素化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルといった分子内に炭素−炭素間二重結合を含むエステル類、1−ヘプテン−3−オール、1−オクテン−3−オールといった、分子内に炭素−炭素間二重結合を含むアルコール類が挙げられる。
【0020】
これらの付臭剤が活性モリブデン種の表面に付着すると、この表面に形成された活性なサイトの機能によって付臭剤分子内の炭素−炭素間二重結合に水素が付加する。この結果、付臭剤の臭質が変わることから脱臭される。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、本実施例のみに限定されるものではない。
【0022】
まず、以下に示す方法で実施例1、2及び比較例1、2の触媒を作製した。その後、作製したこれらの触媒について、容量法によりCO吸着量を、線源にCu−Kαを用いた粉末X線回折測定(XRD)法によりX線回折パターンを、それぞれ測定した。
【0023】
<触媒の作製等>
(実施例1)
酸化モリブデン(MoO)触媒を常圧流通式反応装置に充填した。まず、触媒を空気気流中にて500℃で焼成した。その後、アンモニアガス気流中にて700℃で3時間、同温度で20%のメタン水素混合ガス気流中にて3時間処理した。得られた処理品を室温まで冷却したものを実施例1の触媒とした。
実施例1の触媒のCO吸着量は、触媒1g当たり15μmolであった。X線回折像では、25.8°〜26.2°と39.2°〜39.6°にMoOとβ−MoCの主要ピークがそれぞれ観察され、他のピークは観察されなかった。
【0024】
(実施例2)
酸化モリブデン(MoO)触媒を常圧流通式反応装置に充填した。まず、触媒を空気気流中にて500℃で焼成した。その後、700℃で20%のメタン水素混合ガス気流中にて3時間処理した。得られた処理品を室温まで冷却したものを実施例2の触媒とした。
実施例2の触媒のCO吸着量は、触媒1g当たり10μmolであった。X線回折像では、25.8°〜26.2°と39.2°〜39.6°にMoOとβ−MoCの主要ピークがそれぞれ観察され、他のピークは観察されなかった。
【0025】
(比較例1)
20%のメタン水素混合ガスでの処理を900℃で行った他は実施例1と同様に比較例1の触媒を作製した。
比較例1の触媒のCO吸着量は、触媒1g当たり1μmolであった。X線回折像では、39.2°〜39.6°のみにβ−MoCの主要ピークが観察された。
【0026】
(比較例2)
20%のメタン水素混合ガスでの処理を500℃で行った他は実施例1と同様に比較例2の触媒を作製した。
比較例2の触媒のCO吸着量は、触媒1g当たり1μmolであった。X線回折像では、25.8°〜26.2°のみにMoOの主要ピークが観察された。
【0027】
<脱臭試験>
図1にこの脱臭試験の模式図を示す。アクリル酸エチルを付臭剤として添加した水素ガスを用い、これら実施例1、2及び比較例1、2の触媒の脱臭試験を行った。脱臭試験は、これらの触媒を反応管に充填した脱臭手段10を用い、反応温度を80℃として、空間速度(SV)10,000h−1、付臭剤濃度50ppmの水素を脱臭手段10に通すことにより行った。
この際、脱臭手段10出口のアクリル酸エチル濃度を測定し、脱臭手段10入口の濃度に対する百分率を転化率として算出した。
【0028】
<結果>
図2に、それぞれの触媒についての転化率(%)と、CO吸着量(μmol/g‐cat)との関係を示す。図2に示すように、CO吸着量が少ない比較例1、2の場合には転化率も低い。一方、実施例1、2に見られるように、Co吸着量が触媒1g当たり10μmol以上の場合には、転化率が高い。アクリル酸エチルを付臭剤として用いた場合、転化率が75%よりも低いと臭気として検知され、水素漏れと誤認される。しかしながら、実施例1、2の触媒は転化率が75%以上であり、脱臭効果が十分あることが示された。このことから、実施例1、2の触媒は、白金を触媒に用いた場合に得られるであろう効果と同等の脱臭効果が得られることが示された。
【0029】
また、X線回折像のピーク、転化率、CO吸着量の結果を表1に示す。
【表1】

表1から分かるように、XRDの回折角度25.8°〜26.2°及び39.2°〜39.6°のピークを共に有する実施例1、2の触媒が、Co吸着量が触媒1g当たり10μmol以上であり、転化率が高いという結果を示している。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るガス付臭剤脱臭触媒は、付臭剤を使用した燃料水素を用いた場合の脱臭手段、特に、固体高分子型燃料電池の脱臭手段として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Kα線によるX線回折角が25.8°〜26.2°及び39.2°〜39.6°のピークを有するモリブデン化合物を含むことを特徴とするガス付臭剤脱臭触媒。
【請求項2】
500℃よりも高く900℃よりも低い温度条件下において、炭素数1〜5の低級炭化水素ガスと水素ガスとを含む混合ガスでモリブデン化合物を処理する工程を備えることを特徴とするガス付臭剤脱臭触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−221170(P2010−221170A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73156(P2009−73156)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】