説明

ガス供給装置

【課題】発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで処理液中にガスを溶け込ませることを可能とするガス供給装置を提供する。
【解決手段】処理液S中にガスを溶存させるガス供給装置1Aであって、処理液Sを貯留する貯留槽と、処理液Sの内部に内周面の一部が露出するように浸漬された第1撹拌器12aと、第1撹拌器12aの内周面側に挿入され、処理液Sの内部に外周面の一部を除いて浸漬された第2撹拌器12bと、第1撹拌器12aおよび第2撹拌器12bを、第1撹拌器12aの長手方向と平行な第1回転軸F、および第2撹拌器12bの長手方向と平行な第2回転軸Fの周りに回転させる駆動装置14と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡を抑制しつつ反応溶液中に気体(ガス成分)を溶け込ませるガス供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素反応や微生物を用いた生物反応等を利用して、溶液状態の原料から物質の合成や分解を行う装置、所謂バイオリアクタに関する技術が盛んに開発されている。
【0003】
一般に生物反応は、化学反応のように高温・高圧を必要としないため省エネルギー性に優れること、反応設備を耐熱・耐圧とする必要がないこと、反応に用いる生物種に応じて副反応が少ない反応系を構築できること、などの特長を備えており、工業的に有利な点が多く注目を浴びている。他にも、好気性微生物群を主成分とする活性汚泥を用い、排水中の有機性汚濁を浄化させる設備(活性汚泥槽)が知られており、生活排水や工業排水などを処理する設備として利用されている。
【0004】
これらのバイオリアクタであって、用いる微生物が生物反応において特定の気体を必要とするものは、用いられる原料液や排水などの反応溶液に含まれる溶存ガス成分を生物反応により消費する。例えば、好気性反応では原料液や排水に含まれる溶存酸素を消費し、メタン発酵を行う嫌気性反応では溶存二酸化炭素を消費する。生物反応を継続するためには、このように消費されるガス成分を供給する必要があるため、通常、必要とするガス成分を反応溶液中に吹き込む曝気処理によって溶存ガス濃度を高めることとしている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−7799号公報
【特許文献2】特開2004−141730号公報
【特許文献3】特開2002−59189号公報
【特許文献4】特開平5−177191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法では反応溶液が発泡するおそれがある。このような泡は、反応に用いる微生物を巻き込んで液面に滞留し、反応溶液中での微生物の活動を阻害することがある。例えば、活性汚泥により生活排水の処理をする場面では、排水中に洗剤が含まれていることが多く、曝気処理によって液面に多量の泡が滞留する。屋外の活性汚泥施設では、液面の泡が風で飛ばされ、周囲を汚すおそれがある。このような発泡を抑制するために曝気量を少なくすると、ガス成分の供給速度が低下するため、バイオリアクタの運転条件を整えることが困難となる。
【0007】
発泡を抑制するためには反応溶液に消泡剤を添加する対策も考えられるが、泡の発生を抑制することから曝気のための泡そのものの発生も同時に抑制され、曝気効率が低下しガス成分の供給速度が低下する。あるいは、消泡剤を用いることによりランニングコストが増加すること、医薬品のような有用物質生産のためのバイオリアクタでは消泡剤の使用ができないこと、など消泡剤によっては課題が解決できない、または新たな課題が生じる場合がある。
【0008】
また、曝気によって反応溶液中に放たれた多量の気泡は、液体中を激しく流動させながら上昇するため、細胞培養に用いるバイオリアクタでは、培養している細胞が激しい液体の流動によって損傷するおそれがある。損傷した細胞は死滅することが多く、生産効率の低下につながる。
【0009】
さらに、上記方法では、液面下にガスを供給するためにガスを加圧する必要があり、加圧のためのエネルギーが必要となる。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、バイオリアクタに用いられる装置であって、発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで処理液中に気体を効率的に溶け込ませることを可能とするガス供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明のガス供給装置は、液体中にガスを溶存させるガス供給装置であって、前記液体を貯留する貯留槽と、前記液体の内部に内周面の一部が露出するように浸漬された第1筒状部材と、前記第1筒状部材の内周面側に挿入され、前記液体の内部に外周面の一部を除いて浸漬された第2筒状部材と、前記第1筒状部材および前記第2筒状部材を、前記第1筒状部材の長手方向と平行な第1回転軸、および前記第2筒状部材の長手方向と平行な第2回転軸の周りに回転させる駆動装置と、を有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、第1筒状部材および第2筒状部材が回転する際、各筒状部材の表面は、液面上方のガスとの摩擦により多くのガスを巻き込みながら液体内に浸入する。あるいは、液体との摩擦によって多くの液体を液面の上方へ引き上げながら、液面上方へ露出することとなる。
【0013】
また、各筒状部材の回転により液面を波立たせると、液面では気液接触面が増えるため液体へのガス成分の溶け込みが促進される。さらに、各筒状部材は内部が中空であるため、各筒状部材を配設することによる貯留槽の貯留量の減少を極力抑えることができる。そして、複数の筒状部材を用いているため、処理液へのガスの溶け込みが更に促進される。
【0014】
これらの作用が合わさることにより、液体にガスを供給する効率が高くなり、液面上方のガスを加圧することなく効率的に液体に溶け込ませることが可能となる。そのため、発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで液面上方のガスを液体中に溶け込ませることが可能なガス供給装置とすることができる。
【0015】
本発明においては、前記第1筒状部材および前記第2筒状部材は、長手方向の両端が、前記貯留槽の前記長手方向において向かい合う両側壁から離間しており、前記貯留槽は、前記両側壁の少なくともいずれか一方から前記第1筒状部材と前記第2筒状部材との間に挿入するように延在して設けられ、延在方向と直交する幅方向の両端が前記液体の液面から露出する仕切り板と、底部に設けられた前記液体の排出口と、を有し、前記仕切り板は、該仕切り板の上面側と下面側とを接続する接続口を有することが望ましい。
この構成によれば、貯留槽内の液体は、仕切り板と各筒状部材との間の流路を流れながら排出口に達して排出されることとなる。このように処理液が流動する間、各筒状部材が処理液に液面上方のガスを供給し続けるため、効率的にガスの供給を行うことが可能となる。
【0016】
本発明においては、前記仕切り板は、前記両側壁からそれぞれ延在して設けられた、互いに端部が向かい合う一対の板状部材で構成されており、前記一対の板状部材において、互いに向かいあう端部同士の間を前記接続口とすることが望ましい。
この構成によれば、装置の組み立てが容易となる。
【0017】
本発明においては、複数の前記第2筒状部材を有することとすることもできる。
この構成によれば、第1筒状部材の内周面側において、処理液へのガスの溶け込みが更に促進される。
【0018】
本発明においては、前記第1回転軸および前記第2回転軸が前記液体の液面と平行に設定されていることが望ましい。
この構成によれば、各筒状部材が液面から長手方向で露出するため、各筒状部材と液面上方のガスとが広い面積で接触する。そのため、各筒状部材の表面と液面上方のガスとの摩擦が増え、液体中に効率的にガスを供給することができる。
【0019】
本発明においては、前記第1筒状部材の外周面には、前記第1筒状部材の回転方向に延在する凸条部が設けられていることが望ましい。
【0020】
また本発明においては、前記第2筒状部材の外周面には、前記第2筒状部材の回転方向に延在する凸条部が設けられていることが望ましい。
【0021】
これらの構成によれば、筒状部材の外側において表面積が増えるため、各筒状部材の表面と液面上方のガスとの摩擦が増え、効率的にガスを供給することができる。
【0022】
本発明においては、前記第2筒状部材の内周面の一部が、前記液体の液面から露出していることが望ましい。
この構成によれば、第2筒状部材の内周面も液面上方のガスと接触するため、内周面が液体の液面を通過する際にも液体へのガス供給が行われ、効率的にガス供給を行うことができる。
【0023】
本発明においては、前記第2筒状部材の内周面には、前記第2筒状部材の回転方向に延在する凸条部を有することが望ましい。
この構成によれば、第2筒状部材の内周面において表面積が増えるため、第2筒状部材の表面と液面上方のガスとの摩擦が増え、効率的にガスを供給することができる。
【0024】
本発明においては、前記第1筒状部材および前記第2筒状部材は、前記回転軸に直交する平面による断面形状が円環であるであることが望ましい。
この構成によれば、各筒状部材の表面の液体への浸入、および液中からの露出が滑らかな動きとなり、発泡を抑制して液体中にガスを供給することができる。
【0025】
本発明においては、前記駆動装置は、前記第1筒状部材に挿通され、前記第1筒状部材を内部から支えて吊り下げる第1軸部と、前記第2筒状部材に挿通され、前記第2筒状部材を内部から支えて吊り下げる第2軸部と、前記第1軸部および前記第2軸部を回転させるモーターと、を有することが望ましい。
この構成によれば、筒状部材の構成を簡略化し、簡単な構成の駆動装置とすることができる。
【0026】
本発明においては、前記第1軸部および前記第2軸部は、前記液体の液面の上方に配置されていることが望ましい。
この構成によれば、各軸部が液面よりも上方に配置されているため、連続運転を行ったとしても軸部が液体に浸漬することにより生じ得る錆などによる劣化が抑制され、信頼性の高いガス供給装置とすることができる。
【0027】
本発明においては、前記第1筒状部材および前記第2筒状部材の運転を制御する制御部と、前記液体に溶存する前記ガスの濃度を測定する測定手段と、を有し、前記制御部は、前記測定手段により測定される前記ガスの濃度が所定の目標値に近づくように前記筒状部材の運転を制御することが望ましい。
この構成によれば、液体中のガス濃度を所望の濃度に維持することが容易となる。ここで、「運転を制御」とは、各筒状部材の回転速度または回転方向の少なくともいずれか一方を制御することを示す。
【0028】
本発明においては、前記貯留槽の底部は、前記第1回転軸に交差する平面による断面形状が、半円筒形状であることが望ましい。
この構成によれば、各筒状部材の回転を阻害することなく、底部の端で処理液の対流が停滞したり、固形物が堆積したりする箇所を無くすことができる。そのため、処理液内へのガス供給を効果的に行うことができる。
【0029】
本発明においては、前記貯留槽の上部は蓋で閉じられており、前記蓋と前記液体の液面との間の空間に、前記ガスを供給する供給手段を有することが望ましい。
この構成によれば、蓋と液体の液面との間の空間に供給されたガスの濃度を高く維持し、効率的に液体中にガスを供給することができる。例えば該空間に酸素を供給する場合、酸素濃度を大気中よりも高濃度に保つことができるため、効率良く液体に酸素を供給することができる。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで、処理液中に気体を溶け込ませることを可能とするガス供給装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガス供給装置の説明図である。
【図2】第1実施形態のガス供給装置の組立図である。
【図3】第1実施形態に係るガス供給装置内での処理液の流れを説明する説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るガス供給装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[第1実施形態]
以下、図1〜図3を参照しながら、本発明の実施形態に係るガス供給装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0033】
図1は、本実施形態のガス供給装置の説明図であり、図1(a)はガス供給装置1Aについての断面図、図1(b)は図1(a)の線分A−Aにおける矢視断面図である。
【0034】
図1(a)に示すように、本実施形態のガス供給装置1Aは、ガスを供給処理する対象である処理液Sを貯留する貯留槽10と、自身を貫通する回転軸F回りを回転することで貯留槽10内の処理液Sを撹拌する撹拌器12と、撹拌器12を回転させる駆動装置14と、を有している。
【0035】
処理液Sは、生物反応によって消費される原料と、該原料を代謝する生物反応を起こす菌類などの生物や培養される動物細胞などが含まれるものである。
【0036】
貯留槽10は、上部10aに蓋がされ底部10bが略半円筒形状を呈する平面視矩形の容器である。貯留槽10の対向する側壁には貫通孔101が設けられており、貫通孔101には、処理液Sの原液を貯留槽10内に供給する供給配管16が設けられている。供給配管16は、貯留槽10の長手方向および短手方向の中央付近に端部が設置され、貯留槽10の中央付近に処理液Sの原液を供給するように設けられている。
【0037】
また、貫通孔101からは、処理液Sに供給するガスが貯留槽10内の気相部Gに供給される。図では、ガスを供給する供給装置(供給手段)15が貫通孔101を介してガスを供給することとしている。供給するガスの種類は、処理液Sの種類に応じて種々選択することができ、例えば処理液Sが好気性細菌の培養に用いる培養液である場合、空気や酸素を選択することができる。本実施形態では、供給装置15から酸素を供給することとしている。
【0038】
貯留槽10は上部10aに蓋がされているため、気相部Gに供給されたガス濃度を高く維持することができる。例えば処理液Sが好気性細菌の培養に用いる培養液である場合、気相部Gに酸素を供給すると、気相部Gの酸素濃度を大気中よりも高濃度に保つことができるため、効率良く処理液Sに酸素を供給することができ、細菌の培養を効率的に行うことができる。その意味において、供給するガスが空気である場合、貯留槽10の上部10aに蓋は不要である。もちろん、埃などの異物混入防止のため、貯留槽10に蓋を設けることとしても構わない。
【0039】
貯留槽10の底部10bは、半円筒形状に設計されており、撹拌器12の回転軸Fの延在方向に直交する方向に端部が丸くなっている。このような底部形状とすることで、底部の端で対流が停滞したり、固形物が堆積したりすることを防いでいる。もちろん、底部の形状は丸くなくても良い。
【0040】
さらに、貯留槽10の底部10bには、貯留槽10から処理液Sを排出するための排出口109が設けられ、排出配管19が接続されている。排出口109は、貯留槽10の底部10bにおいて長手方向および短手方向の中央付近に設けられている。貯留槽10内でガスが供給された処理液Sは、排出配管19を介して下流の設備へと排出される。
【0041】
貯留槽内に浮遊する固形分により排出口109が閉塞しやすい場合など、必要に応じて排出配管19側から処理液を逆方向に流す構成としても良い。この場合には、貯留槽から処理液を抜き取る別の設備を適宜設けると良い。
【0042】
撹拌器12は、回転軸Fと略重なる対称軸を有する筒状の軸対称回転体を複数有しており、本実施形態のガス供給装置1Aは、大きさの異なる中空円筒状の第1撹拌器(第1筒状部材)12a、第2撹拌器(第2筒状部材)12b、第3撹拌器(第3筒状部材)12cを有している。それぞれ、第1撹拌器12aの内部の空間には、第2撹拌器12bが配設され、第2撹拌器12bの内部の空間には、第3撹拌器12cが配設されており、各撹拌器の回転軸はいずれも共通する位置に設定されている。各撹拌器は、貯留槽10内において処理液Sの液面から少なくとも一部が露出し、残る部分が処理液Sに浸漬する状態となるように配置されている。
【0043】
第1撹拌器12a、第2撹拌器12b、第3撹拌器12cの回転軸Fは、略水平方向(貯留槽10に貯留される処理液Sの液面と平行な方向)に設定されている。これらの各撹拌器は、回転軸Fまわりを円周方向に回転することで、処理液Sと貯留槽10の気相部Gとの界面を撹拌し、気相部Gのガスを処理液Sに供給する。回転軸Fは、水平方向から傾いて設定されていても良い。
【0044】
第1撹拌器12aと第2撹拌器12bとの間、第2撹拌器12bと第3撹拌器12cとの間、および第3撹拌器12cの内側には、貯留槽10の側壁に設けられた仕切り板105(第1仕切り板105a、第2仕切り板105b、第3仕切り板105c)が挿入されている。各仕切り板105a〜105cはそれぞれ、向かい合う側壁にそれぞれ設けられて対を成す板状部材で構成されており、平面視中央付近において、向かい合う板状部材の間に生じる隙間は、仕切り板の上面側と下面側の空間を接続する接続口106を構成している。
【0045】
また、図1(b)に示すように、各仕切り板は下方に凸となるように湾曲して設けられており、撹拌器12の回転軸Fの延在方向に直交する方向の両端は処理液Sの液面から露出している。このように、仕切り板105と各撹拌器との間には処理液Sの流路が形成される。
【0046】
形成される流路の幅(仕切り板105と撹拌器との距離)は、処理液Sの内容によって適した幅を選択することとする。この流路が狭くなるほど、該流路では高い剪断力が生じ激しく処理液Sを撹拌する。そのため、処理液S内に動物細胞が含まれ、該動物細胞を培養して増やす場合、高い剪断力によって動物細胞が損傷するおそれが生じるため、流路を広く設定するほうが良い。逆に、剪断力によって処理液Sの内容物が損傷するおそれがない場合には、流路を狭くしておくと、高い剪断力によって多くのガス成分(例えば酸素)が処理液Sに供給されることが期待される。
【0047】
図1(a)に戻って、駆動装置14は、第1撹拌器12a、第2撹拌器12b、第3撹拌器12cの内側を各々貫通する3本のシャフト(軸部)141と、各シャフト141の複数箇所(図では2箇所)に設けられたローラー142と、3本のシャフト141の端部に設けられ、シャフト141を軸周りに回転させるモーター143と、を有している。シャフト141は、貯留槽10の対向する側壁に設けられた貫通孔101〜106を貫通して配設されている。
【0048】
複数のシャフト141は、それぞれ撹拌器の内壁にローラー142を介して接しており、撹拌器を内部から支えて吊り下げている。シャフト141が回転することにより、ローラー142と各撹拌器の内壁との間の摩擦を生じさせ、該摩擦力によってシャフト141の回転方向と同方向に各撹拌器を回転させるようになっている。
【0049】
各シャフト141は液面と平行に配置されている。また、液面よりも上方に配置されているため、連続運転を行ったとしても処理液Sに浸漬することにより生じ得る錆などによる劣化が抑制される。
【0050】
このような構成のガス供給装置1Aでは、気相部Gに露出する第1撹拌器12a、第2撹拌器12b、第3撹拌器12cの表面が、回転により処理液Sに侵入する際、各撹拌器の表面は、気相部Gのガス成分との摩擦によって多くのガス成分を巻き込みながら処理液S内に浸入する。また、各撹拌器の表面が処理液S内から気相部Gへと出る際には、撹拌器の表面は、処理液Sとの摩擦によって多くの処理液Sを気相部Gへ引き上げながら気相部Gへと露出する。
【0051】
さらに、第1撹拌器12a、第2撹拌器12b、第3撹拌器12cは軸対称回転体であり、対称軸と各撹拌器の回転軸とが一致しているため、各撹拌器の回転による撹拌器表面の処理液Sへの浸入、処理液Sからの露出は滑らかな動きとなり、発泡を起こさずに液面を波立たせる。そうすると、液面では気液接触面が増えることにより、処理液Sへのガス成分の溶け込みが促進される。また、複数の撹拌器を用いているため、処理液Sへのガス成分の溶け込みが更に促進される。
【0052】
これらの作用が合わさることにより、撹拌器12が処理液S内に浸入し処理液Sを撹拌すると、処理液Sにガス成分を供給する効率が高くなり、気相部Gのガス成分を加圧することなく効率的に処理液Sに溶け込ませることが可能となる。
【0053】
ガス供給装置1Aは、他にも、処理液Sの溶存ガス濃度を測定する測定装置(測定手段)17を有している。このような測定装置17としては、例えば処理液Sの溶存酸素濃度を測定するための溶存酸素計を例示することができる。このような測定装置17の測定結果は、各撹拌器の回転を制御する制御部18に伝えられ、制御部18は溶存酸素濃度を所望の目標値とするために各撹拌器の回転を制御する。
【0054】
例えば、溶存酸素濃度が目標値より低い場合、気相部Gの酸素をより多く処理液Sに供給するため、制御部18は、各撹拌器の角速度を早めたり、互いに角速度を異ならせたり、更には各撹拌器の回転方向を互いに逆方向にしたりすることにより、処理液Sの液面をより波立たせ、酸素の溶解が促進されるように制御する。逆に、溶存酸素濃度が目標値より高い場合には、制御部18は、各撹拌器の角速度を遅くし、互いに角速度を揃え、更には各撹拌器の回転方向を互いに同方向にしたりすることにより、処理液Sへの酸素の溶解を緩やかにするように制御する。
【0055】
図2は、本実施形態のガス供給装置1Aの組立例を示す組立図である。組立前の貯留槽10は、撹拌器12の回転軸の中央付近において回転軸方向に直交する面で分割され、槽部品10A,10Bとなっている。各槽部品10A,10Bの内壁には、それぞれ仕切り板105が設けられており、槽部品10A,10Bで撹拌器12を挟み込むようにして仕切り板の間の隙間に複数の撹拌器を挿入することで、貯留槽10内に撹拌器12を配設する(図2(a)(b))。なお、ここに示す組み立て方は一例であり、他の組み立て方で組み立てることとしても良い。
【0056】
図3は、本実施形態のガス供給装置1Aにおける処理液Sの流れを示す説明図であり、図1(a)に対応する図である。ここでは、図を見やすくするために、図1に示す駆動装置14を省略して図示している。
【0057】
本実施形態のガス供給装置1Aは、供給配管16から貯留槽10に供給された処理液Sの原液が、貯留槽10内において生物反応を起こしながら流動し、排出口109から連続的に排出される連続式の運転方式を採用している。
【0058】
第3仕切り板105cの内側の処理液Sは、第3仕切り板105cの接続口106cを介して、第3仕切り板105cと第3撹拌器12cの内壁とに挟まれた流路を流動する。第3撹拌器12cの端部にまで達すると、第3撹拌器12cの外壁と第2仕切り板105bとに挟まれた流路を流動して第2仕切り板105bの接続口106bに達する。
【0059】
以下同様に、接続口106bを介して第2仕切り板105bと第2撹拌器12bの内壁とに挟まれた流路、および第2撹拌器12bの外壁と第1仕切り板105aとに挟まれた流路を流動して第1仕切り板105aの接続口106aに達し、さらに第1撹拌器12aの内壁外壁に沿って流動する処理液Sが排出口109に達して、排出配管19を介して下流の設備へと排出される。
【0060】
このように処理液Sが流動する間、撹拌器12が処理液Sに気相部Gのガス成分を供給し続け、さらに撹拌器12が処理液Sを撹拌することよって生物反応が促進されるため、連続式でありながら効率的に生物反応を起こさせることが可能となる。
【0061】
以上のような構成のガス供給装置1Aによれば、気相部Gに含まれるガス成分を、発泡を抑制しつつ少ないエネルギーで効率的に反応溶液中に溶け込ませることが可能となる。
【0062】
なお、本実施形態では、設けられる仕切り板が、向かい合う側壁にそれぞれ設けられて対を成していることとしたが、これに限らない。1枚の板状の部材が向かい合う側壁に渡されて仕切り板を構成し、該板状の部材に貫通孔を設けることで該貫通孔を排出口として用いることとしても良い。更には、仕切り板が向かい合う側壁の一方から延在し、且つ他方の側壁との間が離間した状態で設けられ、仕切り板と他方の側壁との隙間を排出口として用いることとしても構わない。
【0063】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係るガス供給装置1Bの説明図であり、撹拌器の回転軸に直交する断面での断面図である。本実施形態のガス供給装置1Bは、第1実施形態のガス供給装置1Aと一部共通しており、ガス供給装置の構成が異なっている。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0064】
ガス供給装置1Bが有する撹拌器12は、貯留槽10内に配設される第1撹拌器12dと、第1撹拌器12d内に配設される2つの第2撹拌器12eと、を有している。2つの第2撹拌器12eは、第1撹拌器12d内の液面付近において、第1撹拌器12dの対称軸の延在方向と交差する方向に配列され、各々の対称軸を第1撹拌器12dの対称軸と同方向に設定している。第1撹拌器12dと2つの第2撹拌器12eとの回転軸は異なっており、それぞれ独立した回転軸(第1回転軸、第2回転軸)の周りを回転している。
【0065】
このような構成のガス供給装置1Bを有するガス供給装置1Bであっても、複数の撹拌器を用いることによる気相部のガス成分の溶解を促進するという本願の効果を得ることができる。
【0066】
なお、本実施形態においては、2つの第2撹拌器12eは第1撹拌器12dの回転軸の延在方向と交差する方向に配列するものとしたが、これに限らず、第1撹拌器12dの回転軸の延在方向に並んで配列するものとしても良い。
【0067】
また、本実施形態においては、第1実施形態で示した仕切り板を設けないものとして説明したが、もちろん第1撹拌器12dと第2撹拌器12eとの間に仕切り板を設けることとしても良い。その場合、仕切り板は、2つの第2撹拌器12eのそれぞれに対応して設け、2つの第2撹拌器12eと第1撹拌器12dとの間を各々個別に仕切ることとしても良く、また、2つの第2撹拌器12eをまとめて覆い、2つの第2撹拌器12eと第1撹拌器12dとの間をまとめて仕切ることとしても良い。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0069】
例えば、上記実施形態においては、中空円筒状の撹拌器を用いることとしたが、撹拌器の外壁または内壁のいずれか一方または両方に、撹拌器の円周方向に沿って複数の凸条部を設け、表面に凹凸形状を設けることとしても良い。このようにすると、撹拌器表面と気相部でのガス成分との接触面積が広がる。そうすると、撹拌器の気相部に露出する面が、回転により処理液に侵入する際、撹拌器の表面は、ガス成分との摩擦によってより多くのガス成分を巻き込みながら処理液を撹拌する。そのため、ガス成分を供給する効率がさらに高くなり、効率良くガス成分を処理液に溶け込ませることが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
1A,1B…ガス供給装置、10…貯留槽、10a…上部、10b…底部、12…撹拌器、12a,12d…第1撹拌部(第1筒状部材)、12b,12e…第2撹拌部(第2筒状部材)、14…駆動装置、15…供給装置(供給手段)、16…供給配管(供給口)、17…測定装置(測定手段)、18…制御部、19…排出口、105…仕切り板、106…接続口、141…シャフト(軸部)、143…モーター、F…回転軸、S…処理液、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中にガスを溶存させるガス供給装置であって、
前記液体を貯留する貯留槽と、
前記液体の内部に内周面の一部が露出するように浸漬された第1筒状部材と、
前記第1筒状部材の内周面側に挿入され、前記液体の内部に外周面の一部を除いて浸漬された第2筒状部材と、
前記第1筒状部材および前記第2筒状部材を、前記第1筒状部材の長手方向と平行な第1回転軸、および前記第2筒状部材の長手方向と平行な第2回転軸の周りに回転させる駆動装置と、を有することを特徴とするガス供給装置。
【請求項2】
前記第1筒状部材および前記第2筒状部材は、長手方向の両端が、前記貯留槽の前記長手方向において向かい合う両側壁から離間しており、
前記貯留槽は、前記両側壁の少なくともいずれか一方から前記第1筒状部材と前記第2筒状部材との間に挿入するように延在して設けられ、延在方向と直交する幅方向の両端が前記液体の液面から露出する仕切り板と、
底部に設けられた前記液体の排出口と、を有し、
前記仕切り板は、該仕切り板の上面側と下面側とを接続する接続口を有することを特徴とする請求項1に記載のガス供給装置。
【請求項3】
前記仕切り板は、前記両側壁からそれぞれ延在して設けられた、互いに端部が向かい合う一対の板状部材で構成されており、
前記一対の板状部材において、互いに向かいあう端部同士の間を前記接続口とすることを特徴とする請求項2に記載のガス供給装置。
【請求項4】
複数の前記第2筒状部材を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項5】
前記第1回転軸および前記第2回転軸が前記液体の液面と平行に設定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項6】
前記第1筒状部材の外周面には、前記第1筒状部材の回転方向に延在する凸条部が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項7】
前記第2筒状部材の外周面には、前記第2筒状部材の回転方向に延在する凸条部が設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項8】
前記第2筒状部材の内周面の一部が、前記液体の液面から露出していることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項9】
前記第2筒状部材の内周面には、前記第2筒状部材の回転方向に延在する凸条部を有することを特徴とする請求項8に記載のガス供給装置。
【請求項10】
前記第1筒状部材および前記第2筒状部材は、前記回転軸に直交する平面による断面形状が円環であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項11】
前記駆動装置は、前記第1筒状部材に挿通され、前記第1筒状部材を内部から支えて吊り下げる第1軸部と、
前記第2筒状部材に挿通され、前記第2筒状部材を内部から支えて吊り下げる第2軸部と、
前記第1軸部および前記第2軸部を回転させるモーターと、を有することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項12】
前記第1軸部および前記第2軸部は、前記液体の液面の上方に配置されていることを特徴とする請求項11に記載のガス供給装置。
【請求項13】
前記第1筒状部材および前記第2筒状部材の運転を制御する制御部と、
前記液体に溶存する前記ガスの濃度を測定する測定手段と、を有し、
前記制御部は、前記測定手段により測定される前記ガスの濃度が所定の目標値に近づくように前記筒状部材の運転を制御することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項14】
前記貯留槽は、前記第1回転軸に交差する平面による断面形状が、半円筒形状であることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載のガス供給装置。
【請求項15】
前記貯留槽の上部は蓋で閉じられており、
前記蓋と前記液体の液面との間の空間に、前記ガスを供給する供給手段を有することを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載のガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−183349(P2011−183349A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53736(P2010−53736)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】