説明

ガス分析用吸着体

【課題】有機EL素子の封止内空間のガス成分を選択的かつ容易に吸着し分析する、効果的な分析用吸着体および分析手法を提供すること。
【解決手段】有機EL素子2に対向する面が多孔質体となっている分析用吸着体3を用いることにより、分析用吸着体3と有機EL素子2に囲まれた封止空間5のガス成分を分析用吸着体3に吸着させる。分析用吸着体3そのものを直接ガスクロマト分析やイオンクロマト分析可能とするため、封止空間5に存在するガス成分を容易に分析することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子内部に残存あるいは素子構成部材から発生するガス成分を簡易にかつ的確に分析できるガス分析用吸着体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄型ディスプレイとして着目される有機EL素子は、有機物質からなるごく薄い発光層の両サイドに電極を配置し、一方は正孔を注入する陽極、もう一方は電子を注入する陰極として発光層に電流を流すことで発光させている。この電極は、発光した光を取り出すため一方が透明である必要がある。そのため一般に陽極を透明金属酸化物からなるものとし、陰極は金属電極とすることが多い。
【0003】
しかし、一般に有機発光層や電極材料は水分や酸素により化学変化をおこし劣化し、電荷注入が効率的に行われなくなる場合がある。特に水分により有機EL素子の発光輝度は低下し、最終的にはダークスポットと呼ばれる非発光領域が発生する。
【0004】
このダークスポットを抑制するために、かねてから様々な手法が確立されている。一つは、有機EL素子を作製する際、特に電極および有機発光層を製膜する工程をNや希ガスなどの不活性雰囲気中で行うことである。
また、そうして作製された有機EL素子を大気中の水分から保護するために、金属やガラスからなるキャップ型カバーで完全に封止する。
更には有機EL素子と封止キャップとの間に封じられる雰囲気は不活性ガスとなるようにする。
つまり、製膜から封止までの工程をすべて不活性雰囲気下で行うのが一般的である。
【0005】
有機EL素子の封止は、ガス透過性の低い金属やガラスからなるキャップ型のカバーを、樹脂からなる接着剤を用いて有機EL素子に貼り付けることで行われる。このときこの封止カバーは特に水分に弱い陰極金属面側に貼付される。
【0006】
しかし、そうした条件で作製された有機EL素子であっても、封止カバーの接着剤部からごく微量の大気中水分が封止空間内に侵入し、有機EL素子の発光輝度低下を避けることが困難であった。
【0007】
そこで大気中からの極微量水分を除去するために、封止空間内に吸湿能の高い成分からなる吸着剤や乾燥剤を挿入する技術が発展した。一つにはガス吸着剤として酸化カルシウムや酸化バリウムなどの吸湿性物質をバインダー樹脂に混合した乾燥剤を封止カバーの内面に接着剤で貼付したり、塗布したりする手法である。しかし、これらの乾燥剤は水分を吸着すると、剥がれ易く陰極金属上に落下する可能性がある。
【0008】
こうした背景に加え、近年では更なるディスプレイの薄型化のため、陰極上に直接フィルム樹脂やガラス層を形成する技術が発展してきている。これらを形成する際には、陰極金属上に成膜するため、形成膜は陰極金属との親和性、応力耐性、ガスバリア性を有する必要があり、膜種や成膜方法についての開発が継続されている。
【0009】
このように水分バリアについては多くの研究開発がなされている一方、その他のガス成分対策についてはあまり多くの報告はなされていない。しかし、大気中から進入されるその他のガス状有機・無機物質や有機EL素子部材からのアウトガスについては、有機EL素子の特性に影響を与える可能性があることが危惧されており、今後の技術課題となるこ
とが明白である。
【0010】
そのために、大気中から進入されるその他のガス状有機・無機物質や有機EL素子部材からのアウトガスなどのガス成分を正確に分析することが必要となる。
【0011】
大気からの進入ガス成分や有機EL素子部材のアウトガス分析は、封止空間内のガス成分の分析となる。しかし、実際に封止まで行われた有機EL素子の空間ガスはサンプリングが非常に困難である。部材のアウトガスにおいては代替手段として、それぞれの単体部材を加熱するなどして発生したアウトガスを捕集分析する場合が多い。
【0012】
大気から進入してきたガスの影響調査においては、例えば予め想定したガス種で有機EL素子を暴露させるなどの代替手段が設けられる。非特許文献1においては、密閉容器内に想定する数種のガスを流し未封止の有機EL素子をそれらのガスに暴露させた上で駆動させることで、有機EL素子の劣化状況を調べている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】山本祐五ら、有機EL素子の外部要因による劣化とその解析、有機EL討論会第7回例会プログラム(2008年)。
【0014】
しかし、この手法では劣化に影響を与えるガス成分を予め推測する必要があり、実際に封止空間内に存在するガスと一致しているかが不明である。
【0015】
その他の方法として、ガス分析用吸着体を封止空間内に貼付し、その吸着体にガス成分を吸着させることにより間接的に分析する手法もある。分析用吸着体としては、この場合水分除去用に貼付した乾燥剤が良く利用される。しかし、乾燥剤を分析すると、酸化カルシウムなどの吸湿剤に吸収されたガス成分のみならず、バインダー樹脂や封止空間内に貼付する際に必要な接着剤などからのアウトガスが多く検出されてしまう。また、それらの吸湿材は薬品耐性が低く、抽出溶媒の選択性が低いという欠点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
有機EL素子の劣化を防ぐためには、封止空間内にどのようなガス成分が存在するか調べることが重要である。本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、その目的は吸着能が高く、実際に封止空間内に存在する物質を捕捉することが可能で、かつそれらの物質を正確に判断するために自身からの放出化学物質が極めて少ないガス分析用吸着体およびそれを用いた分析手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の特徴を以下に示す。
本発明は、主に有機EL素子の封止空間内に存在するガス成分を正確に分析するためのガス分析用吸着体ならびそれを用いた分析手法である。
【0018】
第一の発明は、有機EL素子の封止空間内のガス成分分析用吸着体であって、その吸着体が2層の高純度石英からなることを特徴とするガス分析用吸着体であり、また、その吸着体は強酸、強アルカリなどに対する薬品耐性があることを特徴とするものである。
【0019】
第二の発明は、その吸着体の外層が無孔質の高純度石英であり、内層(有機EL素子に対向する面)が比表面積が大きい多孔質体もしくは繊維凝集体からなる高純度石英層であ
るであることを特徴とするものである。
【0020】
第三の発明は、その吸着体が500℃までの高温に加熱できることを特徴とするものである。
【0021】
第四の発明は、その吸着体が、キャップ型であって有機EL素子を覆うように実装でき、素子駆動後にガス成分が吸着した吸着体を有機EL素子より剥離し、分析することができることを特徴とするものである。
【0022】
第五の発明は、その吸着体に吸着したガス成分を加熱により脱離でき、ガス分析できることを特徴とするものである。
【0023】
第六の発明は、その吸着体に吸着したガス成分を酸性および塩基性液体、または純水により脱離でき、分析できることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
第一の発明は、その吸着体の外層が高純度石英からなるため、自身からの放出化学物質が極めて少なく、またその吸着体の内層も、高純度石英であり強酸、強アルカリなどに対する薬品耐性があるため、吸着したガス成分を変性させずに溶離させられる長所を有するものである。
【0025】
第二の発明は、その吸着体の外層が無孔質の高純度石英であり、内層(有機EL素子に対向する面)が比表面積が大きい多孔質体もしくは繊維凝集体からなる高純度石英層であるであるため、その内層にて十分に雰囲気中のガス成分を吸着することができる長所を有するものである。
【0026】
第三の発明は、その吸着体の内外層が、ともに高純度石英からなるため耐熱性が高く500℃程度の高温に加熱できるため、捕集したガス成分を効率よく脱離することが出来、効率よく分析することができる長所を有するものである。
【0027】
第四の発明は、本発明の分析用吸着体は有機EL素子に実装することが可能な形状であるため、実際に有機EL素子を駆動させた際の大気からの進入ガス成分や有機EL素子部材のアウトガスを吸着することができる長所を有するものである。
【0028】
第五の発明は、その吸着体に吸着したガス成分を加熱により脱離でき、ガス分析できる長所を有するものである。
【0029】
第六の発明は、その吸着体に吸着したガス成分を酸性および塩基性液体、または純水により脱離でき、分析できる長所を有するものである。
【0030】
本発明は、本発明の分析用吸着体を用い、その吸着体にガス成分を吸着する過程と、ガス成分を吸着した分析用吸着体を分析する過程を経て、有機EL素子を駆動させた際の大気からの進入ガス成分や有機EL素子部材のアウトガスを擬似的に分析用吸着体に吸着し、それを分析することにより有機EL素子の劣化原因物質を推測することが出来る長所を有するものである。結果として、有機EL素子の劣化を抑制できる長所を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】有機EL素子の一例を示す図である。
【図2】分析用吸着体3を示す図である。
【図3】分析用吸着体3を有機EL素子に設置した一例を示す図である。
【図4】分析手法のフローチャートを示す図である。
【図5】実施例1および比較例1、2の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態の分析用吸着体ならびに分析手法について図面を参照して説明する。
【0033】
図1は、有機EL素子2の一例を示す図である。図1に示すように、有機EL素子2は、透明基板1と透明陽極2aおよび正孔輸送層2bおよび有機発光層2cおよび電子輸送層2dおよび陰極2eから構成される。
【0034】
図2は、分析用吸着体3を示す図である。分析用吸着体3は内面3aが多孔質体もしくは繊維凝集体の石英であり、封止空間5内のガス成分を十分に吸着できるよう、比表面積は100m/g以上、好ましくは1000m/g以上あることが望ましい。ただし、完全に大気と封止空間5を遮断するため、外面3bはガス透過性のない無孔質であることが望ましい。
【0035】
図3は、分析用吸着体3を有機EL素子に設置した一例をしめす図である。分析用吸着体3は透明基板1に接着剤4を用いて有機EL素子2を覆うように貼り付けられている。分析用吸着体3と透明基板1で囲われた封止空間5には不活性ガスが充填されている。
【0036】
次に本発明の実施の形態の分析手法について、図4に示されるフローチャートを用い説明する。
【0037】
本発明の分析手法は分析用吸着体3にガス成分を吸着する過程とガス成分を吸着した分析用吸着体3を分析する過程を有する。まず、図3で説明した設置方法の一例のように、透明基板1上に分析用吸着体3を設置する。このとき、分析用吸着体3は予め、純水や酸性もしくは塩基性液体、アルコールなどで洗浄を行い、純度の高いHeなどの不活性雰囲気中で300℃以上加熱し、クリーンな状態にしておくことが望ましい。
【0038】
次に、分析用吸着体3を透明基板1に接着剤4を用いて有機EL素子2を覆うように貼り付ける。このとき接着剤4は実際に有機EL素子を作製する際に用いる接着剤を使用することが望ましい。
【0039】
そのまま所定期間分析用吸着体3を大気からの進入ガス成分や有機EL素子部材のアウトガスにさらし、吸着させる。このとき、駆動中のガス成分を分析したい場合は、有機EL素子を駆動させた状態でガス成分を吸着しても良い。
【0040】
所定期間封止空間5の雰囲気を吸着したのち、分析用吸着体3を透明基板1から剥がす。
【0041】
次に分析用吸着体3を分析する過程について説明する。分析用吸着体3には、封止空間5の雰囲気に含まれる様々なガス成分が吸着している。このうち、炭化水素やアルコールなどに代表される有機物については、分析用吸着体3を加熱することにより脱離したガス成分をガスクロマト分析にて分析する。また、アンモニアやSOなどの無機物に関しては、分析用吸着体3を酸、塩基もしくは純水などにより抽出した後、抽出液のイオンクロマト分析を行う。このとき接着剤4の成分を直に分析することを避けるために、接着部分をガラス切りなどで削除するとなお良い。
【実施例1】
【0042】
以下、本発明の実施例を示す。
まず、高純度石英からなる封止ガラスの内面に高純度粉体石英を堆積させた後、1000℃以上の温度を加え多孔質層を形成し分析用吸着体3とした。
【0043】
次に、透明ガラス基板上に、ITO透明電極2aおよび正孔輸送層2bおよび有機発光層2cおよび電子輸送層2dおよび陰極2eを形成した有機EL素子2に、予め硫酸で洗浄しN/O=4:1からなる高純度エア雰囲気中にて300℃で加熱した分析用吸着体3を、乾燥高純度N雰囲気下のもとエポキシ樹脂接着剤4を用い貼付した。
【0044】
次に有機EL素子を100時間駆動させ、その間分析用吸着体3に封止空間5のガス成分を吸着させた後、分析用吸着体3を透明基板1から剥がした。分析用吸着体3は、分析用サンプラーにて100℃30分加熱し、発生したガスを吸着管に吸着させ、加熱脱着式のGC/MSで分析を行った。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同様、透明ガラス基板上に、ITO透明電極2aおよび正孔輸送層2bおよび有機発光層2cおよび電子輸送層2dおよび陰極2eを形成した有機EL素子2に、予め硫酸で洗浄しN/O=4:1からなる高純度エア雰囲気中にて300℃で加熱した無孔質の高純度石英からなる封止カバーを、乾燥高純度N雰囲気下のもとエポキシ樹脂接着剤4を用い貼付した。
【0046】
次に有機EL素子を100時間駆動させ、その間無孔質の高純度石英からなる封止カバーに封止空間5のガス成分を吸着させた後、封止カバーを透明基板1から剥がした。封止カバーは、分析用サンプラーにて100℃30分加熱し、発生したガスを吸着管に吸着させ、加熱脱着式のGC/MSで分析を行った。
【0047】
(比較例2)
予め硫酸で洗浄しN/O=4:1からなる高純度エア雰囲気中にて300℃で加熱した無孔質の高純度石英からなる封止カバーにCaOを樹脂中に混合した乾燥剤を貼付し、有機EL素子2に乾燥高純度N2雰囲気下のもとエポキシ樹脂接着剤4を用い貼付した。乾燥剤は、分析用サンプラーにて100℃30分加熱し、発生したガスを吸着管に吸着させ、加熱脱着式のGC/MSで分析を行った。
【0048】
実施例1および比較例1、2の分析結果を図5に示した。
【0049】
実施例1と比較例1において、同一成分で比較した場合実施例1の方が多量に検出されていることから、実施例1の本分析用吸着体は比較例1の無孔質の高純度石英からなる封止カバーよりも吸着効率の高いことがわかる。また、比較例2においては、実施例1の検出成分とは別の成分がメインピークとして検出されているため、乾燥剤の樹脂や接着剤から生じる成分を強く検出してしまっていることが確認された。
【0050】
以上で述べたように、本発明により有機EL素子の封止空間内のガス成分を容易にかつ効率よく吸着し分析することが出来た。
【符号の説明】
【0051】
1……透明基板、2……有機EL素子、2a……透明陽極、2b……正孔輸送層、2c……有機発光層、2d……電子輸送層、2e……陰極、3……分析用吸着体、3a……内面、3b……外面、4……接着剤、5……封止空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL素子の封止空間内のガス成分分析用吸着体であって、その吸着体が2層の高純度石英からなることを特徴とするガス分析用吸着体。
【請求項2】
吸着体の外層が無孔質の高純度石英であり、内層(有機EL素子に対向する面)が比表面積が大きい多孔質体もしくは繊維凝集体からなる高純度石英層であることを特徴とする請求項1に記載のガス分析用吸着体。
【請求項3】
500℃までの高温に加熱できることを特徴とする請求項1または2に記載のガス分析用吸着体。
【請求項4】
吸着体は、キャツプ型であって有機EL素子を覆うように実装でき、素子駆動後に、ガス成分が吸着した吸着体を有機EL素子より剥離し、分析することができることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のガス分析用吸着体。
【請求項5】
吸着体に吸着したガス成分を加熱により脱離でき、ガス分析できることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のガス分析用吸着体。
【請求項6】
吸着体に吸着したガス成分を酸性および塩基性液体、または純水により脱離でき、分析できることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のガス分析用吸着体。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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