説明

ガス分離分析装置およびガス分離分析方法

【課題】大気中での試料からの加熱発生ガス分析において、プレカラムと分析用カラムの間に接続・非接続の切り替えが可能な接続/非接続切替手段を有し、分析の再現性向上および分析用カラムの劣化防止が可能なガス分離分析装置とガス分離分析方法を提供する。
【解決手段】ガス分析装置を、試料を加熱してガス成分を生成させる加熱装置1と、プレカラム7と、分析用カラム9と、該カラム7と該カラム9の間に接続・非接続の切り替えが可能な接続/非接続切替手段10と、ガスクロマトグラフ2とで構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリアとして大気を用いて、加熱された試料から発生したガス成分を分離するガス分離分析装置およびガス分離分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気雰囲気下で加熱された試料から発生したガス成分の分析方法としては、得られた生成ガスを冷却下の分析用カラム中に保持しておき、キャリアを大気からヘリウムに切り替えた後、分離された生成ガスを分析する方法が知られている(非特許文献1参照)。
しかし、この方法は、大気を分析用カラムに流すため、カラムの液相の酸化劣化を引き起こしたり、検出器に悪影響を及ぼす恐れがある。また、分析用カラム内のキャリアガスの置換においては、クロマトグラフのベースラインや検出されたピーク強度の再現性を見ると、満足できる状態に至るまでに時間がかかっており、更なる改良が必要とされている。
【非特許文献1】第5回高分子分析討論会講演予稿集43〜44ページ(平成11年11月9日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は,大気から不活性ガスへの置換に要する時間を短縮することにより、分析を効率化させ、再現性の向上および分析用カラムの酸化劣化防止を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)試料を加熱して発生するガスを分離分析する装置であって、大気及び不活性ガスを流して大気と不活性ガスの切り替えが可能な大気/不活性ガス切替手段を備えたキャリアガス供給路と、キャリアガス供給路に連通して試料を収容する試料導入部と、試料導入部に収容された試料を加熱する試料加熱部と、試料導入部に連通して加熱した試料から発生するガスの成分を保持するコールドトラップ部を備えたプレカラムAと、コールドトラップ部を冷却する冷却手段と、プレカラムAに連通してコールドトラップ部に保持されたガス成分を分離する分析用カラムBと、プレカラムAと分析用カラムBとの間の接続と非接続の切り替えが可能な接続/非接続切替手段と、分析用カラムBに連通して分離されたガス成分を分析する検出器と、を備えることを特徴とするガス分離分析装置。
【0005】
(2)試料を加熱して発生するガスを分離分析する方法であって、上記(1)のガス分離分析装置を用いて、次の工程からなるガス分離分析方法。
大気/不活性ガス切替手段を大気に切り替えて、試料を試料導入部に収容して、コールドトラップ部を冷却手段で冷却して、接続/非接続切替手段を非接続に切り替えて、キャリアガス供給路に大気を流して、試料導入部からプレカラムAまでを大気で置換する工程と、試料加熱部を加熱して試料導入部に収容された試料を加熱し、キャリアガス供給路に大気を流して、加熱した試料から発生するガス成分を冷却したコールドトラップ部に保持する工程と、試料加熱部の加熱を止めて、大気/不活性ガス切替手段を不活性ガスに切り替えて、キャリアガス供給路に不活性ガスを流して、試料導入部からプレカラムAまでを不活性ガスで置換する工程と、冷却手段の冷却を止めて、接続/非接続切替手段を接続に切り替えて、キャリアガス供給路に不活性ガスを流して、コールドトラップ部に保持されたガス成分を分析用カラムBで分離して、分離したガス成分を検出器で分析する工程。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、プレカラムAを用いることによって、大気から不活性ガスへの置換が短時間で行われ、分析を効率良く行うことができる。また、プレカラムAと分析用カラムBの間に接続・非接続の切り替えが可能な接続/非接続切替手段を有するため、分析用カラムBに大気が流れることがなく、分析の再現性向上および分析用カラムBの劣化防止が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明でいう試料とは、合成高分子を指し、ガス成分とは、試料の加熱によって発生する揮発性化合物を指す。
カラムは、市販のガスクロマトグラフ装置に設置可能なキャピラリーカラムを用いる。
プレカラムAは、クロマトグラフィー用キャピラリーカラムで、液相として100%ジメチルポリシロキサン、5%ジフェニル−95%ジメチルポリシロキサン、25%ジフェニル−75%ジメチルポリシロキサン、35%ジフェニル−65%ジメチルポリシロキサン、50%ジフェニル−50%ジメチルポリシロキサン、ポリエチレングリコール、6%シアノプロピルフェニル−94%ジメチルポリシロキサン、14%シアノプロピルフェニル−86%ジメチルポリシロキサン、トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等を持つキャピラリーカラムと、不活性処理が施されているヒューズドシリカキャプラリーカラムが好ましく、より好ましくは不活性処理が施されているヒューズドシリカキャピラリーカラムが望ましい。内径は0.05〜0.53mmが好ましいが、より好ましくは0.25〜0.35mmで行うのが望ましく、長さは≦60mが好ましいが、より好ましくは4〜5mで行うのが望ましい。
【0008】
分析用カラムBは、クロマトグラフィー用キャピラリーカラムで、液相として100%ジメチルポリシロキサン、5%ジフェニル−95%ジメチルポリシロキサン、25%ジフェニル−75%ジメチルポリシロキサン、35%ジフェニル−65%ジメチルポリシロキサン、50%ジフェニル−50%ジメチルポリシロキサン、ポリエチレングリコール、6%シアノプロピルフェニル−94%ジメチルポリシロキサン、14%シアノプロピルフェニル−86%ジメチルポリシロキサン、トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等が挙げられる。内径は0.05〜0.53mmが好ましいが、より好ましくは0.25〜0.35mmで行うのが望ましく、長さは5〜60mが好ましいが、より好ましくは30〜60mで行うのが望ましく、膜厚は0.05〜5.00μmが好ましいが、より好ましくは0.25〜1.00μmで行うのが望ましい。
【0009】
さらに、プレカラムAの内径a、分析用カラムBの内径a’は、a≧a’であることが好ましく、プレカラムAの長さb、分析用カラムBの長さb’は、b≦b’であることが好ましい。
加熱発生ガスをプレカラムA内に保持しておくためのコールドトラップ部は、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、クロロホルム、アセトン等の溶媒にドライアイスを加えた寒剤や、液体酸素、液体窒素等の液化ガス等によって、手動もしくは自動に冷却する方法が好ましいが、より好ましくは液体窒素を用いて自動的に冷却する方法が望ましい。冷却温度は、−196〜−50℃が好ましいが、より好ましくは−196〜−190℃が望ましい。
加熱装置には、加熱脱着装置(TCT、TDS等))、熱分解装置(Py)、パージ&トラップ装置が好ましいが、より好ましくは熱分解装置(Py)が望ましい。
市販のGC装置の検出器には、水素炎イオン化検出器(FID)、質量分析装置(MS)、原子発光検出器(AED)等を用いることが可能であるが、好ましくはFIDやMSが望ましい。
【0010】
プレカラムAと分析用カラムBの接続/非接続切替手段には、手動もしくは自動の三方切り替えを有する切り替えコックを用いることが可能である。
本発明のガス分離分析装置の構成およびガス分離分析方法について、図1〜4を参照しながら説明する。ガス分離分析装置は加熱装置1とGC2から構成されている。さらに、大気と不活性ガスを流すキャリアガス供給路3、そのキャリアガスを切り替えるバルブ4、試料導入部5(試料カップ)、試料加熱部6、プレカラム7、冷却手段でプレカラム7を冷却し加熱発生ガス成分をトラップするコールドトラップ部8、分析用カラム9、7と9のカラムを接続・非接続の切り替えが可能な接続/非接続切替手段10、検出器11を備えている。
【0011】
この構成によれば、まず、7と9のカラムが非接続の状態で、試料を入れた試料カップを加熱されない状態で加熱装置1にセットし、冷却剤でコールドトラップ部8を冷却し、試料導入部5からプレカラム7までを大気で置換する(図1)。次に、試料カップを試料が加熱される状態にし、試料を加熱する(図2)。加熱した試料から発生したガスは、プレカラム7を通り、コールドトラップ部8に保持される。試料の加熱終了後、試料カップを加熱されない状態に戻し、試料導入部5からプレカラム7までを不活性ガスで置換する(図3)。このとき、プレカラム7を用いることで、大気から不活性ガスへの置換を早く行える。大気から不活性ガスへの置換が終わった後、7と9のカラムを接続し、コールドトラップ部の冷却を止め、ガスクロマトグラム測定を開始し、ガス分離分析を行う(図4)。
【実施例】
【0012】
[実施例1]
試料としてポリイソプレンを用いて、加熱発生ガス分析を行った。プレカラムに、GL Sciences製ヒューズドシリカキャピラリーチューブ(内径0.32mm、長さ5m)を用い、分析用カラムに、J&W Scientific製DB−1(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)を用いた。
加熱装置として、フロンティア・ラボ社(株)製Py-2020D、ガスクロマトグラムとして、アジレント社(株)製6890、クライオトラップ部にはフロンティア・ラボ社製MJT-1030Eを用いた。
キャリアとして大気を流し、試料を加熱装置で100℃、1分加熱し、キャリアを大気からヘリウムに置換した後、GCのオーブン温度を50℃から250℃まで、毎分10℃の速度で加熱昇温した。
その結果、キャリアを大気からヘリウムに置換後、約10分でクロマトグラムのベースラインが安定し、クロマトグラフ上に検出したメタクロレインは再現性良く得られた(CV=1.3%、n=3)得られた。
【0013】
[実施例2]
試料としてポリブチレンテレフタレートを用いて、加熱発生ガス分析を行った。プレカラムに、GL Sciences製ヒューズドシリカキャピラリーチューブ(内径0.32mm、長さ5m)を用い、分析用カラムに、J&W Scientific製DB−WAX(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)を用いた。
加熱装置として、フロンティア・ラボ社(株)製Py-2020D、ガスクロマトグラムとして、アジレント社(株)製6890、クライオトラップ部にはフロンティア・ラボ社製MJT-1030Eを用いた。
キャリアとして大気を流し、試料を加熱装置で260℃、1分加熱し、キャリアを大気からヘリウムに置換した後、GCのオーブン温度を40℃から150℃まで、毎分10℃の速度で加熱昇温した。
その結果、キャリアを大気からヘリウムに置換後、約10分でクロマトグラムのベースラインが安定し、クロマトグラフ上に検出したテトラヒドロフランは再現性良く得られた(CV=1.4%、n=3)。
【0014】
[比較例]
実施例1で使用したポリイソプレンを用いて、プレカラムと分析用カラムを接続したまま同様に測定を行うと、約10分でクロマトグラムのベースラインが安定したように見えたが、繰り返し測定を行ったところ、検出されたメタクロレインの再現性が低下した(CV=33.4%、n=3)。再現性が得られるためには(CV=1〜2%、n=3)、大気からヘリウムの置換時間に1時間20分を要した。
【産業上の利用可能性】
【0015】
実環境下で合成高分子を加熱したときに発生するガス成分は、環境および人体に悪影響を及ぼす可能性や、製品の品質の良し悪しを左右する可能性があるため、これらの合成高分子からの加熱発生ガスの分析手法は、研究開発、製造、品質管理を行う上で、利用可能性は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】プレカラム7と分析用カラム9が非接続の状態で、試料を入れた試料カップを加熱されない状態で加熱装置1にセットし、冷却剤でコールドトラップ部8を冷却し、試料導入部5からプレカラム7までを大気で置換している状態。
【図2】試料カップを試料が加熱される状態にし、試料を加熱している状態。
【図3】試料の加熱終了後、試料カップを加熱されない状態に戻し、試料導入部5からプレカラム7までを不活性ガスで置換している状態。
【図4】大気から不活性ガスへの置換が終わった後、プレカラム7と分析用カラム9を接続し、コールドトラップ部の冷却を止め、ガスクロマトグラム測定を開始し、ガス分離分析を行う状態。
【符号の説明】
【0017】
1 加熱装置
2 ガスクロマトグラフ(GC)
3 キャリアガス供給路
4 キャリアガス切り替えバルブ
5 試料導入部
6 試料加熱部
7 プレカラム
8 コールドトラップ部
9 分析用カラム
10 接続/非接続切替手段
11 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を加熱して発生するガスを分離分析する装置であって、大気及び不活性ガスを流して大気と不活性ガスの切り替えが可能な大気/不活性ガス切替手段を備えたキャリアガス供給路と、キャリアガス供給路に連通して試料を収容する試料導入部と、試料導入部に収容された試料を加熱する試料加熱部と、試料導入部に連通して加熱した試料から発生するガスの成分を保持するコールドトラップ部を備えたプレカラムAと、コールドトラップ部を冷却する冷却手段と、プレカラムAに連通してコールドトラップ部に保持されたガス成分を分離する分析用カラムBと、プレカラムAと分析用カラムBとの間の接続と非接続の切り替えが可能な接続/非接続切替手段と、分析用カラムBに連通して分離されたガス成分を分析する検出器と、を備えることを特徴とするガス分離分析装置。
【請求項2】
試料を加熱して発生するガスを分離分析する方法であって、請求項1記載のガス分離分析装置を用いて、次の工程からなるガス分離分析方法。
(1)大気/不活性ガス切替手段を大気に切り替えて、試料を試料導入部に収容して、コールドトラップ部を冷却手段で冷却して、接続/非接続切替手段を非接続に切り替えて、キャリアガス供給路に大気を流して、試料導入部からプレカラムAまでを大気で置換する工程。
(2)試料加熱部を加熱して試料導入部に収容された試料を加熱し、キャリアガス供給路に大気を流して、加熱した試料から発生するガス成分を冷却したコールドトラップ部に保持する工程。
(3)試料加熱部の加熱を止めて、大気/不活性ガス切替手段を不活性ガスに切り替えて、キャリアガス供給路に不活性ガスを流して、試料導入部からプレカラムAまでを不活性ガスで置換する工程。
(4)冷却手段の冷却を止めて、接続/非接続切替手段を接続に切り替えて、キャリアガス供給路に不活性ガスを流して、コールドトラップ部に保持されたガス成分を分析用カラムBで分離して、分離したガス成分を検出器で分析する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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