説明

ガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置

【課題】 広い範囲で製品ガスの純度と回収率の安定性を確保するとともに、装置の能力をフルに利用しつつ、連続的な減量が可能で、運転コストの低減も可能なガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置を提供すること。
【解決手段】 ガス分離膜S、原料ガス流路1、透過ガス流路2、残留ガス流路3、流量計測手段FT1などの計測手段、圧力調整手段PC1などの調整手段を有するガス製造装置であって、減量操作において、ガス分離膜Sの最大処理量における圧力から出発して、前記計測手段の計測値をもとに、前記調整手段などを制御し、製品ガスの純度および回収率を所望の範囲内に制御操作を行うことを特徴とする。特に、製品昇圧手段との組合せにより有効となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置に関し、具体的には、選択的透過性を有するガス分離膜を用い、複数の成分ガスを含むガス混合物から特定のガス成分を分離回収するガス製造方法およびガス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工場あるいは各種の化学プロセス工場などにおいては、各工程における原料ガスあるいは処理ガスとして所定量の純度の高いガスが必要とされ、入手容易で低コストの原料からこうしたガスを分離して連続的に使用することが多く行われる。具体的には、例えば、空気から富化酸素ガスと富化窒素ガスのいずれかあるいは両方を得る場合、ナフサ分解ガスから水素を分離濃縮する場合、有機物蒸気を含むガス混合物から有機物蒸気を分離回収する場合、水性ガスから水素(H)を分離する場合などが該当する。また、主としてHと一酸化炭素(CO)からなる混合ガスを原料として、Hを主成分とするガスと、COとHの比率を下流の合成過程に適した値(典型的には1:1)に制御した混合ガスとに分離する。同様に、主としてHと窒素(N)からなる混合ガスから、Hを主成分とするガスとNとHの比率をアンモニア(NH)合成の原料に適した値(1:3)に制御したガスとに分離する場合なども工業的に重要である。かかる工程においては、装置がコンパクトにできプロセスが簡便であることから、選択的透過性を有するガス分離膜に透過性の異なるガス混合物を原料ガスとして供給し、透過ガスと残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスと難透過性ガスに富んだ残留ガスのいずれかあるいは両方を製品として取り出す方法が採られることが多い。
【0003】
こうしたガス分離膜を用いたガス製造方法においては、その主要な性能に、製品ガスの純度と回収率があり、上記のような種々の用途においては、製品ガスの純度を一定条件とし回収率が高いことが望まれる。しかしながら、一般に、ガス分離膜の面積と圧力(一次圧力および二次圧力)などを一定として、原料ガスの流量が基準の値から減少した時、透過ガスの割合が増加し、残留ガスの割合は減少する。すなわち、残留ガスにおける透過率の低い成分(難透過性ガス)の回収率は減少し、その割合は増加する。一方、透過ガスにおける透過率の高い成分(易透過性ガス)の回収率は増加するが、その割合は減少する。このとき、特に、透過ガスが製品ガスである場合には製品ガスの純度が低下し、残留ガスが製品ガスである場合には回収率が低下するとの問題が知られている。この特性を避ける幾つかの減量方法が提案されている。
【0004】
具体的には、ガス分離膜の最大処理量における値に対し透過ガスの圧力を上げる〔方法a〕が提案されている。つまり、透過ガスあるいは残留ガスが製品である場合の両方について、ガス分離膜の二次圧力を上昇させることによって、製品ガス流量の減量を図る方法が記載されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、ガス分離膜の最大処理量における値に対し透過ガス圧力を一定として、一次圧力を低下させる〔方法b〕が提案されている。つまり、透過ガスあるいは残留ガスが製品である場合の両方について、ガス分離膜の1次(原料)圧力を減少させることによって、製品ガス流量の減量を図る方法が記載されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
さらに、図8に例示するような構成のガス製造装置が提案されている。つまり、半透過性膜106を備える膜装置104において、透過弁120と第1圧力調整装置122により透過ガス圧力は実質的に一定に保たれる。透過ガスの要求量の減少(増加)に従い上昇(低下)する透過弁120の下流の圧力を第2圧力調整装置126によって検知し、二次圧力が上昇するとき供給ガス弁108を閉鎖する(二次圧力が低下するとき供給ガス弁108を開口する)ことによって、透過ガスの供給流量を調節する。このとき、流量調節装置114によって残留ガス流量が一定に制御される。結果的に半透過性膜の一次圧力が調整される(例えば特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4806132号公報
【特許文献2】特開平2−115018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記装置あるいは方法のいずれによっても減量の幅が制限されるとの課題が生じることがあった。特に、特許文献2のガス製造装置にあっては、残留ガス流量を一定としつつ、一次圧力を制御するとの制約も一因である。
【0009】
また、実動運転においては、原料ガスの最大流量に対して例えば100%から約50%程度まで連続的に減量する条件で運転されることが好ましく、こうした減量運転時において、所望の純度と回収率を確保できる制御方法が求められていた。
【0010】
本発明の目的は、選択的透過性を有するガス分離膜に透過性の異なるガス混合物を原料ガスとして供給し、透過ガスと残留ガスに分離して易透過性ガスに富んだ透過ガスと難透過性ガスに富んだ残留ガスのいずれかあるいは両方を製品とするガス製造装置の減量方法において、膜面積を変更することなく広い範囲で製品ガスの純度と回収率の安定性を確保するとともに、装置の能力をフルに利用しつつ、連続的な減量が可能で、運転コストの低減も可能なガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置を提供することである。特に、昇圧手段を組合せてガス分離膜および昇圧手段の両機能を有効に生かしつつ、所望の圧力を有する製品ガスを製造することによって、ガス分離膜の負荷を軽減し、昇圧手段の圧縮動力を低減することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は、選択的透過性を有するガス分離膜に対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物を原料ガスとして供給し、該ガス分離膜によって透過ガスと残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスと難透過性ガスに富んだ残留ガスのいずれかあるいは両方を製品ガスとして製造する方法であって、減量操作において、前記ガス分離膜の一次圧力および透過ガスを導出する二次圧力を、両者の相関関係を維持しながら、前記ガス分離膜の最大処理量における圧力から出発して共に低下させる制御操作を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、選択的透過性を有するガス分離膜、該ガス分離膜に対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物を供給する原料ガス流路、前記ガス分離膜を透過する透過ガスを取り出す透過ガス流路、前記ガス分離膜からの残留ガスを供出する残留ガス流路、前記流路のいずれかに設けられる圧力計測手段、濃度計測手段あるいは流量計測手段のいずれかの計測手段、前記流路のいずれかに設けられる圧力調整手段、濃度調整手段あるいは流量調整手段のいずれかの調整手段、を有するガス製造装置であって、減量操作において、前記ガス分離膜の最大処理量における圧力から出発して、前記計測手段の計測値によって、前記調整手段を制御し、製品ガス中の所望の成分の純度および所望の成分についての回収率を所望の範囲内に制御操作を行う機能を有することを特徴とする。
【0014】
一般に、ガス分離膜の一次圧力(絶対圧)をP1、二次圧力(絶対圧)をP2、あるガス成分iの透過係数をCi、1次側での成分iの濃度をyi1、2次側での成分iの濃度をyi2とするとき、成分iの透過の速度dRiは、膜面積をdAに対して下式1のように近似することができる。
dRi=Ci×(P1×yi1−P2×yi2)×dA・・(式1)
式1を変形すると、下式2となる。
dRi=Ci×[yi1−(P2/P1)×yi2]×P1×dA・・(式2)
この変形は、一次圧力P1と、圧力比P2/P1(以下「P2/P1」という。)とを独立変数として捉えることに対応する。上式2は、ガスに含まれる各成分について成り立つ。また、ガス分離膜全体では、原料ガス流量および原料ガスの組成を初期条件として、yi1およびyi2に関する連立微分方程式の解として解析される。
【0015】
以上より、次のようなガス分離膜の幾つかの一般的特性が導かれる。ここで、膜面積は変えないものとする。
〔特性1〕一次圧力P1およびP2/P1を一定として、原料ガスの流量が低下すると、透過のドライビングフォースが過剰になる。このことは、原料ガスの流量に比例して膜面積を減少させるとガス分離膜の特性は変わらないことから、膜面積が過剰となることと等価である。この操作で、透過ガスに注目すると、回収率は上昇するが、純度は低下する。一方、残留ガスに注目すると、純度は上昇するが、回収率が低下する。
〔特性2〕一次圧力P1一定で、P2/P1を1未満の範囲で増加すると、透過のドライビングフォースが弱まる。この操作で、残留ガスに注目すると、回収率が上昇し、純度は低下する。一方、透過ガスに注目すると、回収率が低下し、純度は初期上昇するが、最大値を経由し最終的に低下する。P2/P1が0に近い状態では、透過のドライビングフォースが過剰で、難透過性ガスも透過して純度が低下し、P2/P1が1に近い状態では、透過のドライビングフォースが小さく、透過ガスの組成は原料ガスの組成に近づき、ある中間のP2/P1の値で、純度が最高となる。
〔特性3〕P2/P1が一定で、一次圧力P1を低下させると、透過のドライビングフォースが弱まる。つまり、上式2で、一次圧力P1はdAとの積で入っているので、膜面積を減少することと等価となる。特に、Ciが圧力に依存しないとの近似では、P2/P1が一定の条件で、原料ガスの流量の減少に比例して一次圧力P1を低下させた時、透過ガスと残留ガスの各々の組成は変化せず、これら両者の流量は、原料ガスの流量と比例的に変化し、その結果、透過ガスの回収率および残留ガスの回収率は変化しない。
【0016】
以上を踏まえて、減量方法の〔方法a〕および〔方法b〕について捉え直してみると、減量時には、上記〔特性1〕より、透過のドライビングフォースが過剰になり、これを緩和するための対策が考えられてきた。
〔方法a〕は、一次圧力P1が一定で、P2/P1を1未満の範囲で増加する操作に対応する。つまり、上記〔特性2〕に相当する。
〔方法b〕は、上記〔特性2〕に加え、上記〔特性3〕に相当する一次圧力P1を低下する方法の組合せに対応する。
いずれも透過のドライビングフォースを弱める操作であるが、上記〔特性2〕の操作では、P2/P1を1に近づけ過ぎると、純度を維持できなくなるとの副作用があり、減量の限界となる。以上より、〔方法a〕と〔方法b〕の両方が使用できるときは、後者の方が、減量幅は広くなる。このことは、後程、数値解析で確認する。
【0017】
これに対し、本発明は、上記〔特性3〕に対応する、P2/P1を保った状態で、一次圧力P1を低下することによる減量効果に注目して発案された。上記〔特性3〕で述べた如く、透過係数Ciが圧力によらないとの近似では、P2/P1を一定として、減量率に比例して一次圧力P1を下げたとき、透過ガスと残留ガスの各々の純度および回収率を一定に保つことができる。従って、減量率に比例して一次圧力P1および二次圧力P2を下げて行くとP2/P1は保たれ、上記〔方法a〕および〔方法b〕で生じたP2/P1を1未満の範囲で大きくする方法の副作用を避けつつ、膜面積を等価的に、減量率に比例して下げたときの効果を期待できる。結果的に、製品ガスの純度および回収率を保ったままで幅広い減量が可能となる。
【0018】
さらに、原料ガス中に高沸点成分が含まれる場合には、常温で液化を起こす可能性があり、この高沸点成分が難透過性ガスである場合、残留ガス中に高沸点成分が濃縮し液化するおそれがある。特に〔方法a〕の場合には、その影響で減量限界が制約されやすい。〔方法b〕の場合には、減量に応じ、一次圧力P1を下げる分、液化が起こり難くなる。本発明の〔特性3〕による方法では、減量時も残留ガスの組成は殆ど変わらず、一次圧力P1を下げる効果もあって、減量限界に影響しなくなる。
【0019】
実際には、透過係数Ciに僅かに圧力依存性があり、一次圧力P1および二次圧力P2を完全に減量率に比例させない方が良い結果を与えるが、P2/P1が一定でなくても一次圧力P1および二次圧力P2の相関関係を維持しながら低下する方法は、上記〔方法a〕および〔方法b〕などに比較して、より幅広い減量が可能である。これらのことは後程、数値解析で確認する。
【0020】
上記技術思想を基に、こうした条件を満たす一次圧力P1と二次圧力P2の関係を検証したもので、後述するようないくつかのパターンを組み合わせ利用することにより相関関係を維持しながら、両者を同時に低下させる制御操作を行うことによって、上記のような課題を解決することが可能となった。
【0021】
また、両者の相関関係は、両者の任意な条件で設定するのではなく、再現性があり客観性がある条件を基準にすることが好ましいことから、本発明においては、最大処理量における圧力を基準に両者を同時に低下させる方法を適用した。これによって、広い範囲で製品ガスの純度と回収率の安定性を確保しながら制御することが可能となった。つまり、本発明は、ガス分離膜を用いたガス製造方法における一次圧力P1と二次圧力P2に対する最適な制御操作方法を明確にするとともに、かかる制御操作機能を有するガス製造装置が最適であることを明確にしたものである。
【0022】
従って、膜面積を変更することなく、広い範囲で製品ガスの純度と回収率の安定性を確保するとともに、連続的な減量が可能で、装置の能力をフルに利用し、運転コストの低減も可能なガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置を提供することが可能となった。なお、ここで、「易透過性ガスに富んだ透過ガス」とは、原料ガスに比較して易透過性ガスの濃度が高められた透過ガスをいい、「難透過性ガスに富んだ残留ガス」とは、原料ガスに比較して難透過性ガスの濃度が高められた残留ガスをいう。「減量操作」とは、ガス分離膜の最大処理量における設定条件を基準にして処理量を減少操作することをいい、原料ガスの減量および製品ガスの減量がある。また、「製品ガスの純度」とは、製品ガス中の所望の成分の濃度をいい、前記、COとHの比率を制御した製品ガスの場合には、製品ガス中の注目する2成分COとH以外の成分を無視したCO濃度あるいはH濃度とみなすこととする。
【0023】
また、原料ガス流路に昇圧手段を配設し、昇圧手段の吐出圧力をそのままガス分離膜に供給して残留ガス流路の圧力調整手段で制御する場合には、昇圧手段の圧縮比の減少による圧縮動力の低減を図ることができるというメリットを得ることができる。
【0024】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記製品ガスの流路のいずれかに濃度計測手段を設け、製品ガスの純度が規定値以上となるように前記一次圧力、二次圧力あるいはこれらと連動するプロセス値のいずれかを制御することを特徴とする。
【0025】
ガス分離膜を用いたガス製造装置において、一般に運転条件が安定している場合には、各流路における流量および圧力を管理することによって、所望のガス成分の物質収支を把握することができることが多い。しかしながら、供給される原料ガスの純度の変化やガス分離膜の劣化など実稼動時に生じる要素に対しては、こうした管理項目だけでは十分に対応することが難しい。本発明は、製品ガス流路に濃度計測手段を設け、自動的に製品ガスの純度が規定範囲内となるように一次圧力、二次圧力あるいはこれらと連動するプロセス値のいずれかを制御することによって、これらの影響を排除して安定した製品ガスの純度を確保するもので、実稼動時に生じる種々の要素に追従した対応を行うことができる。なお、この場合、濃度計測手段の測定誤差や応答時間遅れなどを考慮して、製品ガスの純度の設定値は、製品ガスの要求純度条件より少し高い値とし余裕を持たせることが有効である。
【0026】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記一次圧力、二次圧力あるいはこれらと連動するプロセス値のいずれかを、前記原料ガスの流量を変数とする関数で制御するとともに、その関数の係数を、製品ガス中の所望の成分の濃度計測値または/および回収率を指標として、微調整することを特徴とする。
【0027】
上記のように、広い範囲で製品ガスの純度と回収率の安定性を確保するには、ガス分離膜の一次圧力および透過ガスを導出する二次圧力を、両者の相関関係を維持しながら、前記ガス分離膜の最大処理量における圧力から出発して共に低下させることが好ましい。
例えば、前記一次圧力P1および/あるいは二次圧力P2を、前記原料ガスの流量F1を変数とし、それぞれ下式3および下式4によって表される関数で制御する方法が考えられる。
P1=f1(F1)・・(式3)
P2=g1(F1)・・(式4)
ここに、f1(F1)およびg1(F1)は、F1の折れ線関数である。
【0028】
具体的には、一次圧力P1あるいは二次圧力P2を、それぞれ上式3および上式4のような原料ガスの流量F1の折れ線関数として表し、その値を基に制御することによって、非常に広い範囲で製品ガスの純度と回収率の安定性を確保することが可能となった。
なお、実際のガス分離膜においては、原料ガスの組成の時間変化やガス分離膜の劣化による性能の変化などの影響などを考慮する必要があることから、本発明においては、上式3および上式4における関数の形つまり折れ点や各係数を、製品ガス中の所望の成分の濃度計測値および/あるいは回収率を指標として微調整することによって、その影響を補正し、さらに精度の高い制御を行うことができる。
【0029】
また、一次圧力P1あるいは二次圧力P2に連動するプロセス値を制御しても同様の効果が得られる。例えば、残留ガス流路に残留ガスの流量制御手段を配設し、その設定値を原料ガスの流量F1の折れ線関数で表すような方法が考えられる。なお、f1(F1)、g1(F1)は、折れ線関数である場合を例示したが、それに限るものでなく、例えば、一次式、多項式など、任意の関数を利用することができる。
【0030】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記一次圧力、二次圧力あるいはこれらと連動するプロセス値のいずれかを、前記透過ガスの流量あるいは残留ガスの流量を変数とする関数で制御するとともに、その関数の係数を、製品ガス中の所望の成分の濃度計測値または/および回収率を指標として、微調整することを特徴とする。
【0031】
例えば、前記一次圧力P1あるいは二次圧力P2を、前記透過ガスの流量F2を変数とし、それぞれ下式5および下式6によって表される関数で制御する方法を挙げることができる。
P1=f2(F2)・・(式5)
P2=g2(F2)・・(式6)
ここに、f2(F2)およびg2(F2)はF2の折れ線関数である。
【0032】
前項と同様の方法であり、原料ガスの流量F1に代え、透過ガスの流量F2を用いた点が異なる。本発明は、前項と同じ技術思想を基に、透過ガスの流量F2の関数として、上式5および上式6のような透過ガスの流量F2の折れ線関数として一次圧力P1および二次圧力P2を表すことによって、非常に広い範囲で製品ガスの純度と回収率の安定性を確保することが可能となった。なお、上式5および上式6における関数の形つまり折れ点や各係数の微調整については、前項と同様である。
【0033】
また、一次圧力P1あるいは二次圧力P2に連動するプロセス値を透過ガスの流量F2の関数として制御しても良い。なお、f2(F2)およびg2(F2)は、折れ線関数である場合を例示したが、それに限るものでなく、例えば、一次式、多項式など、任意の関数を利用することができる。さらに、上記の各場合において、透過ガスの流量F2に代え、残留ガスの流量F3を用いても良い。
【0034】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造方法であって、前記残留ガスと透過ガスのいずれかあるいは両方を昇圧手段にて所望の圧力まで昇圧して製品ガスとして供給し、前記一次圧力あるいは二次圧力の制御を前記昇圧手段との容量バランスによることを特徴とする。
【0035】
また、本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造装置であって、前記残留ガス流路と透過ガス流路のいずれかあるいは両方に昇圧手段を有することを特徴とする。
【0036】
本来、ガス分離膜を用いたガス製造工程において、製造されたガスの用途に応じて所望の圧力が必要であることが多い。その圧力に合わせてガス分離膜を設計することができない場合や非常に大きな膜面積が必要となり合理的でない場合には、製造されたガスの圧力を昇圧手段で所望の圧力に昇圧することが有効である。本発明においては、減量操作において、一次圧力および二次圧力を、両者の相関関係を維持しながら、ガス分離膜の最大処理量における圧力から出発して共に低下させる制御操作を行うことを特徴としている。このとき、残留ガスあるいは透過ガスの流量は、減量に応じて減少する。また、この下流に設置した昇圧手段の吸入圧力は、一次圧力あるいは二次圧力の変化に応じて低下する。一般に、昇圧手段の処理量は吸入圧力の低下と共に減少するので、一次圧力あるいは二次圧力の制御を省略し、ガス分離膜の特性と昇圧手段の容量バランスに任せる方法が可能である。特に、容積式昇圧手段を用いる場合には、吸入圧力が減量率に比例することになり、ガス分離膜の減量特性との整合は、なお好ましい形となる。
【0037】
なお、後述の如く、原料ガスは加熱された後、ガス分離膜に供せられることが多い。そのため、透過ガスあるいは残留ガスを昇圧手段に導く手前において、冷却手段で常温近くまで冷却することが多い。この時、この冷却手段でのガスの圧力損失を考慮する必要がある。妥当な近似として、ガス密度をρ、実流速Vに対し、圧力損失がρVに比例すると仮定すると、特に容積式昇圧手段を用いる場合には、圧力損失も製品の減量率に比例することになる。つまり、上記圧力損失を考慮しても、ガス分離膜の一次圧力P1、二次圧力P2、および昇圧手段の吸入圧力は、ほぼ製品の減量率に比例して変化するとの近似がなりたつ。
【0038】
ここで、容積式昇圧手段を用い、吐出圧力を一定として吸入圧を変えた時の圧縮動力の変化について考察しておく。容量調整機能を持っているときは、ガスの容量は一定とし、吸入圧の変化に対し断熱効率は、一定と仮定する。従って、断熱圧縮動力の変化を調べれば良い。理想気体と近似した場合の断熱変化に対し、昇圧手段前後の温度変化dTsは、
dTs=Tout−Tin=Tin×[(Pout/Pin)((γ−1)/γ)−1]・・(式7)
が成立する。ここで、γは比熱比(Cp/Cv)を表す。容積式昇圧手段ゆえに、処理量は吸入圧力に比例する。結局、断熱圧縮動力は、Pin×dTsに比例する。TinおよびPoutはいずれも一定であり、断熱圧縮動力は、x=Pin/Poutとして、
F(x)=(Pin/Pout)×[(Pout/Pin)((γ−1)/γ)−1]
=x×(x(−(γ−1)/γ)−1)=x(1/γ)−x・・(式8)
とおくとき、F(x)に比例するとして良い。ここで、F(x)を微分とすると、
F’(x)=(1/γ)×x(−(γ−1)/γ)−1・・(式9)
となり、x=γ(−γ/(γ−1))とおくと、1/x=γ(γ/(γ−1))のとき、F(x)は極値となる。F’(x)の符号から極大値であることが分かる。従って、昇圧手段の定格時(ガス分離膜の最大処理量に相当する時)の圧縮比(Pout/Pin)を、上記1/xより大きく選んでおけば、減量時の方が圧縮動力を少なくできることとなる。数値例は、後述する。
【0039】
また、容積式昇圧手段であっても、実際は容積効率のために、吸入圧力が製品の減量率に比較して緩やかに変化する。そのような場合でも、他方の一次圧力P1あるいは二次圧力P2の関数形を調整することにより、上記〔方法a〕あるいは〔方法b〕に比較して、より幅広い減量条件を満たすことができる。
【0040】
本発明は、上記ガス分離膜を用いたガス製造装置であって、前記昇圧手段が連続式容量調整機能を有することを特徴とする。
【0041】
前項の発明において、昇圧手段が連続式容量調整機能を設置可能なときには、その容量調整を組合せることにより、吸入圧力に連動する一次圧力あるいは二次圧力の変化をより好ましい形に修飾することができる。例えば、減量が進んで、前記昇圧手段に関して、その圧縮比が大きくなり過ぎる場合あるいは、吸入圧が負圧となるために問題が生じる場合には有効である。つまり、吸入圧が規定値以上のときは、容量調整機能を最大(あるいは一定)値で制御し、また、吸入圧が規定値以下になろうとするときには、容量調整機能を調整し吸入圧を規定値に戻すような制御が可能となる。
【0042】
また、圧縮動力の削減の観点では、(a)容量調整機能による電力減少と、(b)吸入圧力を容量バランスに任した時の圧縮動力の減少とのいずれが効果的かを勘案して選択することができる。
【0043】
以上のごとく、一次圧力P1あるいはそれと連動するプロセス量の制御方法と、二次圧力P2あるいはそれと連動するプロセス量の制御方法は、色々の組合せが可能であるが、原料ガスの流量F1、透過ガスの流量F2および残留ガスの流量F3の間には、F1=F2+F3の関係があるので、残留ガス流路と透過ガス流路の両方に流量制御ループを設け、それらの設定値の各々を原料ガスの流量F1の関数で制御することはできない。
【発明の効果】
【0044】
以上のように、本発明に係るガス分離膜を用いたガス製造方法および製造装置を適用することによって、減量運転時においても、膜面積を変更することなく、広い範囲で製品ガスの純度と回収率の安定性を確保するとともに、連続的な減量が可能で、ガス分離膜の能力をフルに利用することが可能となる。特に、原料ガス流路に昇圧手段を配設し、昇圧手段の吐出圧力をそのままガス分離膜に供給して残留ガス流路の圧力調整手段で制御する場合には、昇圧手段の圧縮比の減少による圧縮動力の低減を図ることができるというメリットを得ることができる。また、ガス分離膜から導出された製品ガスを、さらに昇圧手段によって所望の圧力に調整することによって、ガス分離膜の必要面積を軽減し、減量運転時においても昇圧手段の能力をフルに利用し、圧縮動力の低減も可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、残留ガスを製品ガスとする場合も含むが、以降、透過ガスを製品ガスとする場合に中心をおいて説明する。残留ガスに注目した制御操作については、透過ガスを製品ガスとする場合の制御操作から、容易に理解することができる。
【0046】
本発明は、選択的透過性を有するガス分離膜に対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物を原料ガスとして供給し、ガス分離膜によって透過ガスと残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスを製造するプロセス(以下「本プロセス」という。)での減量操作において、ガス分離膜に対してその一次圧力および透過ガスを導出する二次圧力を、両者の相関関係を維持しながら、前記ガス分離膜の最大処理量における圧力から出発して共に低下させる制御操作を行うことが基本となる。
【0047】
本発明においては、ガス製造プロセスにおける計測制御の実現方法が重要となるので、その具体的な計測制御方法に重点をおいた図1〜4を参照しつつ、構成例を説明する。むろん、実際の計測制御方法は、図示されたものに限定されるものでなく多くの他の変形が可能であること、また、上流あるいは下流のプロセスの状況に応じて追加の計測制御手段が必要となることはいうまでもない。
【0048】
〔第1構成例〕
図1は、本プロセスの構成例(第1構成例)を示す。構成要素として、ガス分離膜S、原料ガス流路1、透過ガス流路(製品ガス流路)2、残留ガス流路3、各流路に設けられた計測手段、および調整手段がある。図1の構成においては、原料ガスの流量F1によってガス分離膜Sの二次圧力P2を制御し、透過ガス流路2の製品ガスの純度によってガス分離膜Sの一次圧力P1に連動する残留ガスの流量F3を制御する例となっている。これらの計測手段および調整手段によって、以下のような計測制御機能を有している。
(1)透過ガス流路2の圧力発信器PT2(圧力計側手段に相当)で計測された二次圧力の計測値P2をもとに、圧力調節計PC2の設定値との比較がなされ、圧力調節計PC2の制御出力により、圧力調整弁PCV2(圧力調節計PC2と合せて圧力調整手段に相当)の開度が調整される。その結果、二次圧力P2が実質的に圧力調節計PC2の設定値に制御される。
(2)原料ガス流路1の流量発信器FT1(流量計側手段に相当)で計測された原料ガスの流量計測値F1(原料ガスの流量F1に相当)とデータメモリM2に格納された係数の値をもとに、演算器CU2で下式4によって二次圧力P2が求められ、その値をもとに、上記圧力調節計PC2の設定値が修正される。結果的に二次圧力P2が、実質的に下式4の値に制御される。
P2=g1(F1)・・(式4)
なお、g1(F1)は例えば、折れ線関数であるが、それに限るものでなく、一次式、多項式など、任意の関数を利用することができる。
(3)残留ガス流路3の流量発信器FT3で計測された残留ガス流路3の流量計測値F3(残留ガスの流量F3に相当)をもとに、流量調節計FC3の設定値との比較がなされ、流量調節計FC3の制御出力により流量調整弁FCV3(流量調節計FC3と合せて流量調整手段に相当)の開度が調整され、その結果、残留ガスの流量F3が、実質的に流量調節計FC3の設定値に制御される。
(4)透過ガス流路2の濃度発信器AT2(濃度計測手段に相当)で計測された製品ガスの濃度計測値C4(製品ガスの純度C4に相当)をもとに、濃度調節計AC2(濃度調整手段に相当)の設定値との比較がなされ、濃度調節計AC2の制御出力の出力は、上記流量調節計FC3に入力され、カスケード制御にて残留ガスの流量F3が調整される。その結果、製品ガスの純度C4が、実質的に濃度調節計AC2の設定値に制御される。
(5)本プロセスの性能確認用に、原料ガスの指示計FI1、製品ガスの流量発信器FT2および指示計FI2、原料ガスの分析ポートAP1(ガスクロ分析計などによるバッチ分析に利用される。)が含まれている。原料ガス組成や回収率の確認用に供せられる。
【0049】
上記計測制御方法により、減量操作において、ガス分離膜Sに対する一次圧力および透過ガスを導出する二次圧力を、両者の相関関係を維持しながら、前記ガス分離膜の最大処理量における圧力から出発して共に低下させる制御操作を行い、製品ガスの純度と回収率を維持する。g1(F1)の関数形により本プロセスでの回収率が決定される。実際の運転を通して、回収率を指標として、その係数を微調整することが有効である。
【0050】
この構成例の変形として、(a)残留ガス流路3の流量発信器FT3、流量調節計FC3、流量調整弁FCV3の流量制御ループを、同流路の圧力発信器PT1、圧力調節計PC1、圧力調整弁PCV1の圧力制御ループに変更する方式、あるいは(b)透過ガス流路2の圧力発信器PT2、圧力調節計PC2、圧力調整弁PCV2の圧力調整ループを、透過ガス流路2の流量発信器FT2、流量調節計FC2、流量調整弁FCV2の流量調整ループに変更し、それぞれ演算器CU2を原料ガスの流量F1の関数(例えば一次式)で流量調節計FC2の設定値を求めるものに変更する方式などが可能である。
【0051】
〔第2構成例〕
図2は、上記第1構成例の別の変形で、一次圧力P1の制御に、原料ガスの流量F1の関数を利用した例を示す。第1構成例との相違点を中心に説明する。第1構成例と同様の方法で、二次圧力P2が制御される。
(1)残留ガス流路3の圧力発信器PT1で計測された一次圧力P1をもとに、圧力調節計PC1の設定値との比較がなされ、圧力調節計PC1の制御出力により圧力調整弁PCV1の開度が調整され、その結果、一次圧力P1が、実質的に圧力調節計PC1の設定値に制御される。
(2)原料ガス流路1の流量発信器FT1で計測された原料ガスの流量計測値F1とデータメモリM1に格納された係数の値をもとに、演算器CU1で下式3によって一次圧力P1が求められ、その値をもとに、上記圧力調節計PC1の設定値が修正される。結果的に、一次圧力P1が、実質的に下式3の値に制御される。
P1=f1(F1)・・(式3)
なお、f1(F1)は例えば、折れ線関数であるが、それに限るものでなく、一次式、多項式など、任意の関数を利用することができる。
【0052】
上記計測制御方法において、f1(F1)およびg1(F1)の関数形により、本プロセスでの製品ガスの純度と回収率が決定される。実際の運転を通して、製品ガスの純度と回収率を指標として、それらの係数を微調整することが有効である。
【0053】
この構成例の変形として、(a)残留ガス流路3の圧力発信器PT1、圧力調節計PC1、圧力調整弁PCV1の圧力調整ループを、残留ガス流路3の流量発信器FT3、流量調節計FC3、流量調整弁FCV3の流量調整ループに変更し、演算器CU2を原料ガスの流量F1の関数(例えば一次式)で流量調節計FC3の設定値を求めるものに変更する方式と、(b)透過ガス流路2の圧力発信器PT2、圧力調節計PC2、圧力調整弁PCV2の圧力調整ループを、透過ガス流路2の流量発信器FT2、流量調節計FC2、流量調整弁FCV2の流量調整ループに変更し、演算器CU2を原料ガスの流量F1の関数(例えば一次式)で流量調節計FC2の設定値を求めるものに変更する方式との、いずれかが可能である。
【0054】
〔第3構成例〕
図3は、上記第2構成例の別の変形で、一次圧力P1および二次圧力P2を、原料ガスの流量F1に代えて、透過ガスの流量F2を変数とする関数で制御する方式である。演算器CU1,CU2およびデータメモリM1,M2に代え、演算器CU3,CU4およびデータメモリM3,M4を用いて制御する。主たる構成および機能は、第2構成例と同様であるので、説明は省略する。
【0055】
〔第4構成例〕
図4は、上記第3構成例の変形で、透過ガス流路2に透過ガスの冷却手段4および昇圧手段5を設け、第3構成例における二次圧力P2の制御を、昇圧手段5との容量バランスに任せる方式に変えたものである。この例では、一次圧力P1は、製品ガスの流量F2を変数とする関数で制御される。昇圧手段5の吐出圧力は、下流の制御手段で一定に保たれているとする。昇圧手段5の特性により透過ガスの流量F2に応じて、その吸入圧力(圧力発信器PT4で計測される。)が流量バランスから決定される。従って、冷却手段4のガス圧力損失の特性を介して、二次圧力P2が決定される。最終的に、一次圧力P1および二次圧力P2が、透過ガスの流量F2に応じて制御されることになる。
【0056】
この構成例の変形として昇圧手段4に連続式容量調整機能を持たせ、その容量調整を組合せることにより、吸入圧力に連動する二次圧力P2の変化を、より好ましい形に修飾することができる。たとえば、透過ガス流路2の圧力発信器PT2で計測される二次圧力P2を基に、圧力調節計PC2(図示せず)で設定値との比較を行い、その制御出力により、昇圧手段5の連続式容量調整機能を調整する。更に、前記設定値を原料ガスの流量F1のある関数で変更するような方式により、二次圧力P2の制御が可能である。
【0057】
<実施例>
次に、上記の構成例の計測制御方法を、水素ガス製造プロセスを設定し、透過ガスの純度や回収率の数値解析を行った結果を以下に示す。
【0058】
(1)解析条件
(1−1)原料ガスの組成を表1に例示する。
【表1】

(1−2)解析に用いたガス分離膜は、素材をポリアラミド系膜とした。
(1−3)原料ガスのガス分離膜入口温度は、90℃とした。
(1−4)原料ガスの一次圧力の初期設定値は30bar(abs)とし、定格時(最大処理時)の原料ガスあるいは製品ガスの流量は、10,000Nm/hとした。なお、以下の表2〜7においては、最大値を100%と表示し、以下減量に対応した数値(%)によって表示した。従って、膜面積の絶対値は、問題にする必要がない。
(1−5)定格時の透過ガスの圧力は、6bar(abs)とした。なお、製品水素ガスの純度は98mol%以上とし、水素の回収率は96%以上を基準と捉えた。
(1−6)なお、〔実施例4〕で昇圧手段を利用するが、次の仮定をおいた。
(a)昇圧手段は、理想的な容積式とする。
(b)昇圧手段の出口圧力(Pout)は、18bar(abs)で一定とする。
(c)昇圧手段の吸入温度(Tin)は、一定とする。
(d)昇圧手段の吸入圧力(Pin)は、100%運転時に5.5bar(abs)とし、このときガス分離膜の2次圧力との差圧ΔPは、0.5bar(abs)とする。
(e)減量運転時の上記差圧ΔPは、ρVに比例すると仮定する(ρ:ガス密度、V:実流速)。
(f)連続式容積調整機能を一定とした場合の昇圧手段の断熱効率は、一定とする。圧縮動力の変化は、断熱圧縮動力の相対的変化で捉えることができる。
【0059】
(2)解析結果
〔実施例1〕
本プロセスにおいて、図1に示した上記構成例1に基づき、製品ガスの純度により残留ガスの流量F3を制御し、原料ガスの流量計測手段の計測値F1の一次式により二次圧力P2を制御し、原料ガスを減量する方法を適用した。具体的には、減量率20%当たり二次圧力P2を、1bar減少させた。その結果、下表2に示すように、40%減量までの広い範囲において、製品ガスの純度と回収率の安定性を確保することができた。なお、下表2において、原料ガスの流量は、原料ガスの最大流量との比率で示す。
【表2】

【0060】
〔実施例2〕
本プロセスにおいて、図2に示した上記構成例2に基づき、原料ガスの流量計測値F1の一次式により一次圧力P1および二次圧力P2を制御し、原料ガスを減量する方法を適用した。具体的には、減量率20%当たり一次圧力P1、二次圧力P2を、それぞれ4.22bar、0.8bar減少させた。その結果、下表3に示すように、40%減量までの広い範囲において、製品ガスの純度と回収率の安定性を確保することができた。なお、下表3において、原料ガスの流量は、原料ガスの最大流量との比率で示す。
【表3】

【0061】
〔実施例3〕
本プロセスにおいて、図3に示した上記構成例3に基づき、透過ガスの流量計測値F2の一次式により一次圧力P1および二次圧力P2を制御し、両圧力を同時に低下し減量する方法を適用した。具体的には、減量率20%当たり一次圧力P1、二次圧力P2を、それぞれ4.28bar、0.8bar減少させた。その結果、表4に示すように、40%減量までの広い範囲において、製品ガスの純度と回収率の安定性を確保することができている。なお、下表4において、製品ガスの流量(透過ガスの流量F2に相当)は、製品ガスの最大流量との比率で示す。
【表4】

【0062】
〔実施例4〕
本プロセスにおいて、図4に示した上記構成例4の変形で述べた連続式容積調整機能を有する昇圧手段4との組合せを利用した構成に基づき、透過ガス流量の計測値F2により一次圧力P1を制御し、二次圧力P2を昇圧手段5との容量バランスによって制御する方法について模擬解析した。昇圧手段5の吸入圧力に下限界を設ける場合を模擬するため、吸入圧力の下限界を3.3bar(abs)と仮定した。つまり、製品ガスの減量60%までは、減量率に比例的に二次圧力P2つまり昇圧手段の吸入圧力を減少させ、その後、吸入圧力は3.3bar(abs)で一定とした。一次圧力P1は、これに相関させて、製品ガスの減量60%を編曲点とし、100%〜60%と、60%〜35%の2区間で傾きの異なる折れ線関数を適用した。具体的には、減量率20%当たり一次圧力P1を60%の上下で、それぞれ5.72bar、2.6bar減少させた。その結果、下表5に示すように、35%減量までの広い範囲において、製品ガスの純度と回収率の安定性を確保することができている。なお、下表5において、製品ガスの流量(透過ガスの流量F2に相当)は、製品ガスの最大流量との比率で示す。
【表5】

【0063】
また。圧縮動力について、理想気体の近似での式7および式8についても評価した。製品ガスの最大処理量100%時の計算で、等エントロピー過程での吸入・吐出条件から、比熱比γ=Cp/Cvを求めると吸入・吐出の平均で1.405であった。減量運転時も、製品ガスの純度は、殆ど変化しないのでこの比熱比を使用した。
先ず、式7より、γ=1.405の時、1/x=3.253の時に極大値となる。
式8より、F(x)=0.1245が求まる。
これらの値をもとに、圧縮比1/xと相対圧縮動力の関係を求めたものが図5である。最大処理量でのPin=5.5bar(abs)、Pout=18bar(abs)より圧縮比を求めると、Pout=/Pin=3.273であった。これは、F(x)が極値をとる圧縮比より大きく、減量につれてさらに圧縮比は大きくなるので、結論的に、圧縮動力は減量につれて、単調に減少することが判明した。
【0064】
〔比較例1〕
本プロセスにおいて、上記〔方法a〕に基づき、一次圧力を一定としつつ、二次圧力を上昇させて減量する方法を適用した。その結果、下表6に示すように、回収率96%になる点を辿ると、原料ガス流量ベースで約69%まで減量が可能であった。実施例1〜4と比較して減量幅は狭いことが示された。
【表6】

【0065】
〔比較例2〕
本プロセスにおいて、上記〔方法b〕に基づき、二次圧力を一定としつつ、一次圧力を低下させて減量する方法を適用した。一次圧力は、残留ガスによって制御した。その結果、下表7に示すように、回収率96%になる点を辿ると、原料ガス流量ベースで約57%まで減量が可能であった。実施例1〜4と比較して、減量幅は、狭いことが示された。〔方法a〕に比較すると、少し改善された。
【表7】

【0066】
(3)まとめ
上記の結果に示すように、本プロセスにおける上記、図1〜4に対応する構成例に基づく実施例1〜4の制御方法は、〔方法a〕および〔方法b〕に比較して、広い範囲において、透過ガスの純度と高い回収率を安定的に確保することができた。また、最大処理時の圧縮比を適切に選んでおけば、減量時には、昇圧手段の圧縮動力は、減少することが判った。
【0067】
<本発明に係るガス製造装置における基本構成要素>
本発明に係るガス製造装置(以下「本装置」という。)は、図1〜3に示されるように、以下の構成要素を含めて構成され、上記の計測制御方法が適用されることによって、原料ガスの流量が減少した場合も膜面積を変更することなく、簡便な手法で所望の製品ガスの純度と回収率の安定性を確保することができる。
【0068】
原料ガスは、精製ガス、あるいは粗製ガスを精製処理されたガスを供給することが好ましい。具体的には、精製空気、精製ナフサ分解ガス、精製改質ガス、精製水性ガスなどが該当する。原料ガスの供給条件は、通常、環境温度とし、流量約100〜100,000[Nm/h]の上記各種ガスが使用される。また、圧力条件は、透過ガスの用途などによって異なるが、2〜150[bar(abs)]程度に加圧して使用する。
【0069】
ガス分離膜は、原料ガスあるいは透過ガスの種類によって、最適な素材や容量(表面積)あるいは形状などが選択される。ガス分離膜の素材として、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シリコーンゴム、ポリスルフォン、ポリアラミド、酢酸セルロースやポリイミドなどの有機系分離膜のみならず、セラミックス系薄膜などのような無機系の分離膜を挙げることができる。本装置においては、これらに限定されるものではない。
【0070】
ここで、ガス分離膜への原料ガスの供給流路に加熱手段を設けることが好ましい。ガス分離膜は、その特性と用途に応じて適切な温度でガス分離を行うことが必要である。従って、原料ガスの温度を適切な温度まで加熱するために、また、原料ガス中に液体のミストが含まれた場合には、ガス分離膜自体の変質を齎すことがある。具体的には、原料ガス中に高沸点成分が含まれる場合には、常温で液化を起こす可能性があり、この高沸点成分が難透過性ガスである場合、残留ガス中に高沸点成分が濃縮し液化する恐れがある。そのため、例えば約40℃(夏季の条件)まで原料ガスを冷却し、凝縮液化成分を分離後、加熱手段にて加熱することにより、ガス分離膜での液体ミストの生成の恐れを回避することができる。
【0071】
濃度計測手段は、所望の成分i、つまり製品ガス成分に対して選択性の高い分析計が好ましく、連続分析で信頼できるものがあればそれによって一次圧力P1、二次圧力P2あるいはこれらと連動するプロセス値のいずれかを制御することができる。また、製品ガスに対して化学的な変化を生じさせない分析計が好ましい。例えば、成分iが水素の場合には熱伝導度式分析計や成分iがメタンの場合には赤外線吸光式分析計などを挙げることができる。なお、ガスクロマトグラフィーなどを使用してバッチ分析をする場合には、製品ガス流路にサンプリングポートを設けておき、定期的な分析結果から、演算式の係数を修正する方式を採ることができる。また、バッチ分析と連続分析を併用する方式も可能である。より信頼できるバッチ分析の結果から連続分析計の誤差を確認しつつ、微調整の判断に供することができる。
【0072】
さらに、濃度計測手段の誤差や時間遅れなどを考慮して、制御する純度の設定値は要求純度の条件より少し高い値とし余裕を持たせることが有効である。こうした、濃度計測手段を用いることによって、本装置に供給される原料ガスの純度変化やガス分離膜の経時的劣化に対しても自動的に追従するとのメリットを得ることができる。
【0073】
図4に示した構成例では、昇圧手段が組合される。昇圧手段(圧縮機)の具体例としては、回転式あるいは往復式の容積式圧縮機や軸流式あるいは遠心式のターボ式圧縮機を挙げることができる。このとき、昇圧手段の使用条件によって、その方式の選択において適否がある。例えば、水素濃度が高く平均分子量が小さいガスなどは、遠心式圧縮機が使えない。一方、ガス中に水素以外の成分も多くある場合には、平均分子量の制約が外れ、吸入圧力条件や処理流量の関係で大型の圧縮手段を必要とするときには、遠心式圧縮機を用いることが好ましい。また、特に、減量運転時において圧縮動力の低減できるものが好適である。
【0074】
一般に、昇圧手段の吐出圧力を一定に保持して吸入圧力を下げてゆくと、処理風量は、単調減少するとともに、圧縮動力は、圧縮比(吐出圧力と吸入圧力の比)の増加の効果と処理風量の減少の効果の競合で変化する。特に、容積式昇圧手段は、処理風量が吸入ガスの実容積で決まることから、吸入ガスの温度が一定のとき、理想気体として近似すると、処理風量が吸入圧力に比例して変わる。図5で例示したように、容積式昇圧手段においては、圧縮比がある値で圧縮動力が最大となり、その両側ではより小さな値となる特性を有している。従って、最大処理時の圧縮比を適切に選んでおけば、減量時には、昇圧手段の圧縮動力は減少することになり、不必要に大きな原動機を付ける必要がなく、初期コストおよび運転コストを抑えることができて好ましい。
【0075】
また、図4の構成例の変形で、昇圧手段が連続式容量調整機能を設置可能なときには、その容量調整を組合せることにより、吸入圧力に連動する二次圧力P2の変化をより好ましい形に修飾することができる。連続式容量調整機能としては、電動機の電源周波数を制御して回転数を変更する方法、遠心式圧縮機などにおけるインレットガイドベーン、スクリュー圧縮機におけるスライド弁等がある。
【0076】
例えば、図6のような、スライド弁を設けたスクリュー式圧縮機(例えば、神戸製鋼所製)を挙げることができる。ここで、図6(A)〜(C)は、スライド弁の位置を調整して、吸気側への帰還流路6の開口度を変えることによる容量調整機能の原理を説明している。また、図7は、吸入・吐出圧力を一定としたときの上記スライド弁による風量の変化に対応する圧縮動力の相対的変化を示している。処理量は、最大処理量に対して約20〜100%の範囲で変化できる。
【0077】
つまり、本装置としては、減量運転時、一次圧力P1および二次圧力P2を減少させることにより、本装置の製品の純度および回収率を所望の範囲に維持するとともに、ガス分離膜の減量運転に伴う昇圧手段の減量に対し、昇圧手段の吸入圧力を低下する方法と連続式容量調整機能による方法の2つを組合せて利用できる。昇圧手段の圧縮動力の削減について、より効果的な方法を検討し減量方法を選定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
透過ガスの純度条件によっては、原料ガス流路から透過ガス流路にバイパス路を設け、原料ガスの一部を透過ガスに添加し、製品ガスとするような変形も可能である。
【0079】
また、本発明に係るガス分離膜を用いたガス製造方法および製造装置単独の作用や機能などについて説明したが、かかる機能や技術思想は、ガスのみに限らず液体の選択的分離を行う場合においても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係るガス製造装置の第1の構成例を示す説明図
【図2】本発明に係るガス製造装置の第2の構成例を示す説明図
【図3】本発明に係るガス製造装置の第3の構成例を示す説明図
【図4】本発明に係るガス製造装置の第4の構成例を示す説明図
【図5】昇圧手段の圧縮比と圧縮動力の関係
【図6】スクリュー式圧縮機のスライド弁による容量調整機能の説明図
【図7】上記容量調整機能による圧縮動力の特性を例示する説明図
【図8】従来技術に係るガス製造装置の構成を例示する説明図
【符号の説明】
【0081】
1 原料ガス流路
2 透過ガス流路
3 残留ガス流路
4 透過ガス冷却手段
5 昇圧手段
AC2 濃度調節計
AP1,AP2 分析ポート
AT2 濃度発信器(濃度計測手段)
CU1,CU2,CU3,CU4 演算器
F1 原料ガスの流量、原料ガスの流量計測値
F2 透過ガスの流量、透過ガスの流量計測値
F3 残留ガスの流量、残留ガスの流量計測値
FC3 流量調節計(流量調整弁と合せて流量調整手段)
FCV3 流量調整弁
FI1,FI2 流量指示計
FT1,FT2,FT3 流量発信器(流量計測手段)
M1,M2,M3,M4 データメモリ
PC1,PC2 圧力調節計(圧力調整弁と合せて圧力調整手段)
PCV1,PCV2 圧力調整弁
PI2,PI4 圧力指示計
PT1,PT2,PT4 圧力発信器(圧力計測手段)
S ガス分離膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的透過性を有するガス分離膜に対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物を原料ガスとして供給し、該ガス分離膜によって透過ガスと残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスと難透過性ガスに富んだ残留ガスのいずれかあるいは両方を製品ガスとして製造する方法であって、
減量操作において、前記ガス分離膜の一次圧力および透過ガスを導出する二次圧力を、両者の相関関係を維持しながら、前記ガス分離膜の最大処理量における圧力から出発して共に低下させる制御操作を行うことを特徴とするガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項2】
前記製品ガスの流路のいずれかに濃度計測手段を設け、製品ガスの純度が規定値以上となるように前記一次圧力、二次圧力あるいはこれらと連動するプロセス値のいずれかを制御することを特徴とする請求項1記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項3】
前記一次圧力、二次圧力あるいはこれらと連動するプロセス値のいずれかを、前記原料ガスの流量を変数とする関数で制御するとともに、その関数の係数を、製品ガス中の所望の成分の濃度計測値または/および回収率を指標として、微調整することを特徴とする請求項1または2記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項4】
前記一次圧力、二次圧力あるいはこれらと連動するプロセス値のいずれかを、前記透過ガスの流量あるいは残留ガスの流量を変数とする関数で制御するとともに、その関数の係数を、製品ガス中の所望の成分の濃度計測値または/および回収率を指標として、微調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項5】
前記残留ガスと透過ガスのいずれかあるいは両方を昇圧手段にて所望の圧力まで昇圧して製品ガスとして供給し、前記一次圧力あるいは二次圧力の制御を前記昇圧手段との容量バランスによることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガス分離膜を用いたガス製造方法
【請求項6】
選択的透過性を有するガス分離膜、
該ガス分離膜に対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物を供給する原料ガス流路、
前記ガス分離膜を透過する透過ガスを取り出す透過ガス流路、
前記ガス分離膜からの残留ガスを供出する残留ガス流路、
前記流路のいずれかに設けられる圧力計測手段、濃度計測手段あるいは流量計測手段のいずれかの計測手段、
前記流路のいずれかに設けられる圧力調整手段、濃度調整手段あるいは流量調整手段のいずれかの調整手段、
を有するガス製造装置であって、
減量操作において、前記ガス分離膜の最大処理量における圧力から出発して、前記計測手段の計測値によって、前記調整手段を制御し、製品ガス中の所望の成分の純度および所望の成分についての回収率を所望の範囲内に制御操作を行う機能を有することを特徴とするガス分離膜を用いたガス製造装置。
【請求項7】
前記残留ガス流路と透過ガス流路のいずれかあるいは両方に昇圧手段を有することを特徴とする請求項6記載のガス分離膜を用いたガス製造装置。
【請求項8】
前記昇圧手段が連続式容量調整機能を有することを特徴とする請求項7記載のガス分離膜を用いたガス製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−161780(P2008−161780A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352350(P2006−352350)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】