説明

ガス圧接に用いるバーナー装置

【課題】 ガス圧接に用いるバーナー装置10において、圧接する2本の鉄筋1a,1bの接合面Pが鉄筋軸心L2に垂直な面でなく傾斜した面となっている場合でも、リングバーナーBの位置決めを適切に行えるようにする。
【解決手段】 吹管Aに位置決め手段を取り付ける。位置決め手段は、吹管軸心L1方向への移動と、吹管軸心を中心とした回転と、吹管軸心に対する傾動とが可能な状態と、鉄筋1a,1bに対してリングバーナーBが適切な位置にセットされたときの姿勢で吹管Aに一体に固定された状態とを選択的に取りうるようにされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋材等のガス圧接装置で用いるバーナー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用鉄筋、肉厚パイプ、鉄道レールなどである鉄筋材等を接合するのに、ガス圧接法が広く用いられている。図7は特許文献1に記載されるガス圧接法で用いるガス圧接装置の一例であり、図示しない燃料ガス源と酸素源とに接続する吹管Aと吹管先端に配置されるリングバーナーBとを備えている。圧接しようとする鉄筋材等1a,1bは両端面を衝接させた状態で、圧接機Cに取り付けられた2つのクランプ部材Ca,Cbでクランプされ、接合部方向に圧接される。
【0003】
ガス圧接に当たっては、作業者は、リングバーナーBからの放射火炎の中心に鉄筋材等1a,1bの接合面Pがくるように、かつ接合面Pと放射火炎の方向が一致するようにしてバーナー装置を保持し、還元炎で接合面近傍を加熱して前期加熱を行う。それにより、接合面Pに酸化膜の残留のない良好な密着面が得られる。赤熱状態となった密着面を形成した後、酸素比を増加させて還元炎を中性炎に切り換え、バーナー装置を左右に振って巾焼きを行いながらさらに圧縮する後期加熱を行う。
【0004】
バーナー装置は重いものであり、特に前期加熱の段階で、作業者が目的どおりの位置にバーナー装置を保持しておくことは容易でない。そのために、特許文献1に記載のバーナー装置では、位置決め手段として、吹管Aに沿って移動可能となっているバーナー支持台Dに、吹管Aを挟むようにして2本の鉄筋係止部材Da,Dbを取り付けている。
【0005】
最初に、鉄筋係止部材Da,Dbの先端を圧接しようとする鉄筋等1a,1bに係止させると共に固定用ボルトDcで止め付けて、鉄筋接合面に対するリングバーナーBの位置決めを行う。この姿勢では、バーナー装置は鉄筋係止部材Da,Dbで鉄筋に一部が乗った状態となることから、作業者に対する負荷も軽減される。
【0006】
なお、この装置では、初期加熱段階では、鉄筋の圧縮方向への移動量に同期して、鉄筋係止部材Da,Dbも鉄筋の圧縮方向に移動するようにされており、リングバーナーBは接合部近辺に自動的に位置することができるようになっている。初期加熱終了後は、固定用ボルトDcを解き、バーナーの移動を自由にして巾焼きを行う。
【0007】
特許文献2にも同じような趣旨の位置決め手段を備えたガス圧接用のバーナー装置が記載されており、そこでは、位置決め手段を構成する鉄筋係止部材を、吹管の軸心線方向に移動および固定自在に装着している。このように鉄筋係止部材の突出量を自在に設定できるようにすることにより、鉄筋に対するリングバーナーの位置決めをより確実かつ容易に行うことができる。
【特許文献1】特開平10−137931号公報
【特許文献2】特開昭57−62314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガス圧接の施工現場において、接合端面がともに鉄筋軸心に垂直な面として加工されている場合には、2本の鉄筋の接合面は鉄筋軸心に垂直な面となるので、特許文献1に記載のような位置決め手段を備えたバーナー装置を用いることにより、所期どおりの、すなわち、バーナー火炎の中心と鉄筋の中心とが一致し、また、放射火炎の方向と鉄筋の接合面Pとが一致した状態でガス圧接を行うことができる。径の異なる鉄筋を圧接するために、異なる大きさのリングバーナーを用いる場合でも、吹管Aに沿ってバーナー支持台Dを移動させる、あるいは、特許文献2に記載のような突出量が可変となった鉄筋係止部材を用いることにより、容易にバーナー火炎の中心と鉄筋の中心とを一致させることができる。
【0009】
しかし、実際の施工現場では、端面が鉄筋軸心に垂直な面に加工されていない鉄筋同士を接合せざるを得ない場合が往々にして生じる。この場合、端面同士を突き合わせた状態で、一方または双方の鉄筋を回転させて、双方の鉄筋軸心が一直線状となりかつ端面同士が平行に近い状態とした後、圧接機のクランプに双方の鉄筋を把持させることが行われる。その場合に、2本の鉄筋の接合面Pは鉄筋軸心に垂直な面ではなく傾斜した面となる。
【0010】
この場合、特許文献1あるいは特許文献2に記載の鉄筋係止部材のように、圧接開示時での鉄筋等に対するリングバーナーの位置合わせを、単に吹管軸心方向にのみに相対的に移動可能な鉄筋係止部材を持つ位置決め手段で行うものにあっては、リングバーナーの放射火炎の方向と鉄筋等の接合面Pとを完全には一致させることはできない。そのために、火炎が接合面の隙間にうまく入り込まず、良好な加熱ができなくなり、接合面に酸化膜が発生しやすくなる。
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、位置決め用の鉄筋係止部材を備えたガス圧接用のバーナー装置において、施工現場で2本の鉄筋等が所期どおりの衝接状態にない場合であっても、リングバーナーの中心に容易に鉄筋等を固定することができ、かつ、リングバーナーの放射火炎面と鉄筋同士の端面接合面とを容易に一致させることができるようにしたバーナー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によるガス圧接装置で用いるバーナー装置は、燃料ガス源と酸素源とに接続する吹管と吹管先端に配置されるリングバーナーとを備えた鉄筋材等のガス圧接装置で用いるバーナー装置であって、吹管には、ガス圧接する鉄筋材等に対するリングバーナーの位置を決めるための位置決め手段が取り付けられており、該位置決め手段は、吹管軸心方向への移動と、吹管軸心を中心とした回転と、吹管軸心に対する傾動とが可能な状態と、鉄筋材等に対してリングバーナーが適切な位置にセットされたときの姿勢で吹管に一体に固定された状態とを選択的に取りうるようにされていることを特徴とする。
【0013】
上記位置決め手段は、全体が吹管軸心方向へ移動できるようになっており、吹管に取り付けるリングバーナーを圧接しようとする鉄筋径に応じたものに変更したような場合に、バーナーからの放射火炎の中心と鉄筋接合面の中心とを容易に一致させることができる。また、位置決め手段は、吹管軸心を中心とした回転と吹管軸心に対する360度方向での傾動とが可能な状態とされているので、2本の鉄筋の端面接合面が鉄筋軸心に垂直な面でなく傾斜した面となっていても、鉄筋接合面とリングバーナーからの放射火炎の面とを一致させた状態(すなわち、鉄筋材等に対してリングバーナーが適切な位置にセットされた状態)で、位置決め手段を当該鉄筋に対してセットすることができる。そして、その位置で位置決め手段を吹管に一体固定できるので、作業者は、圧接しようとする鉄筋とリングバーナーとを最適位置に位置決めした状態で、ガス圧接での初期加熱を行うことができる。
【0014】
初期加熱を終えた時点で、必要な場合には位置決め手段の固定を解除し、吹管に沿って後方に移動させる。それにより鉄筋とバーナー装置との係合は開放されるので、還元炎を中性炎に切り換え、鉄筋の軸心に沿った巾焼き等の後期加熱を行う。巾焼きを必要としないガス圧接の場合には、位置決め手段を吹管に固定したままで、後期加熱を行うこともできる。
【0015】
好ましくは、位置決め部材は次のような構成とされる。すなわち、吹管軸心方向への移動および吹管軸心を中心とした回動ができるようにして吹管に外嵌合する内管と、内管を吹管に固定する第1の固定手段と、吹管軸心方向への移動と吹管軸心を中心とした回転と吹管軸心に対する傾動とが自由にできるようにして内管に外嵌合された基板部材と、内管と基板部材との嵌合部に吹管軸心方向に移動可能な状態で介在する球面部材と、球面部材と基板部材との摩擦力を大きくして両者間の相対移動を停止させる締め付け手段と、相対移動が停止された状態の球面部材と基板部材とを内管の軸心に沿って移動および固定できるようにした第2の固定手段と、吹管の両側で基板部材に取り付けられた鉄筋等への係止部材とを備えるようにする。
【0016】
この態様では、内管を吹管軸心方向へ移動させることにより、位置決め部材は全体として吹管軸心方向へ移動し、2つの係止部材は2本の鉄筋にそれぞれ係止した状態となる。その場合に、圧接しようとする2本の鉄筋の接合面が鉄筋軸心に対して傾斜した面となっていても、内管が吹管軸心を中心としてわずかに回動すること、および、基板部材が吹管軸心に対してわずかに傾動することの2つの挙動を取ることにより、2本の鉄筋に対する2つの係止部材の係止、すなわち位置決め手段の位置決めは適切に行われる。
【0017】
すなわち、第2の固定手段を用いて内管と基板部材とを相互に非回動状態とし、リングバーナーの中心に鉄筋の接合面を位置させ、また、前記のようにして鉄筋接合面とリングバーナーからの放射火炎の面とが一致した状態に位置決め手段を鉄筋に対してセットした後、第1の固定手段を用いて内管を吹管に一体に固定する。さらに、締め付け手段を用いて、球面部材と基板部材との摩擦力を大きくして基板部材を傾動した姿勢で固定する。
【0018】
それにより、位置決め手段のセッティングが終了する。その後、その状態を維持して初期加熱を行う。初期加熱を終えた時点で、第2の固定手段を解除すると、基板部材は当初の姿勢を保持したままで、内管上を内管後端まで移動することができる。後退位置で第2の固定手段を用い基板部材を再度内管に(すなわち吹管に)固定し、その状態で後期加熱を行う。
【0019】
同じ施工現場で連続して圧接を行う場合に、同じように傾斜した端面を持つ鉄筋対を連続してガス圧接することが起こり得る。上記した形態の位置決め手段では、第2の固定手段を開放することにより、基板部材の姿勢を維持したままで、基板部材を後退させ後期加熱を行うことができるので、そのまま前進させて内管に固定することにより、次の鉄筋対に対して適切な条件でのガス圧接を行うことができる。そのために、現場でのガス圧接作業をきわめて円滑に進めることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、位置決め用の鉄筋係止部材を備えたガス圧接用のバーナー装置において、施工現場で2本の鉄筋等が所期どおりの衝接状態にない場合(端面接合面が鉄筋軸心に垂直な面でなく傾斜している場合)であっても、リングバーナーの中心に鉄筋を位置させ、かつ、リングバーナーの放射火炎面と鉄筋同士の端面接合面とを一致させた状態で、2本の鉄筋に対するバーナー装置の位置決めを行うことが可能となり、特に初期加熱段階において、品質の高いガス圧接を得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明によるガス圧接用のバーナー装置を実施の形態により説明する。図1はバーナー装置の全体を示す斜視図であり、図2は図1のII−II線に沿う断面図である。図3は2本の鉄筋の軸心が一致している場合での位置決め手段の姿勢を説明する図であり、図4は2本の鉄筋の軸心が吹管軸心の前後方向にずれている場合での位置決め手段の姿勢を説明する図であり、図5は2本の鉄筋の軸心が垂下軸心の垂直な面方向にずれている場合での位置決め手段の姿勢を説明する図である。
【0022】
バーナー装置10は、吹管Aを有し、吹管Aの一端にはリングバーナーBが交換可能に取り付けられ、他端にはアセチレンガスあるいは都市ガスのような燃料ガス源への接続ポート11と、酸素源への接続ポート12が備えられる。なお、この吹管Aの構成自体は既に知られたものであり、その詳細な説明は省略する。以下、本発明による位置決め手段を中心に説明する。
【0023】
吹管Aの竿部13には、吹管Aの軸心L1と共通の軸心を持つ内管20が摺動および回転自在に外嵌合している。内管20の後端側は軸方向の切除部21が複数本設けてあり、かつその外周にはネジが切られている。該ネジ部にはテーパーの付いた内ネジを持つロックネジ22が螺合しており、ロックネジ22をネジ込むことにより、内管20は吹管Aの竿部13に固定される(この構成が「第1の固定手段」に相当する)。ロックネジ22を緩めると内管20は再び竿部13の上を摺動自在となる。内管20は所要の厚みを有しており、その周壁面には軸心方向に所要長さの凹溝23が形成されいる。そして、該凹溝23の前端と後端には凹溝23よりも深い孔24、25が形成されている。
【0024】
図2aに示すように、内管20には、内管20の直径aよりもdだけ大きな直径である球体30が摺動自在に外嵌合している。すなわち、図2bに示すように、直径(a+d)の球に直径(a+α)(αはaよりもきわめて小さい値である)の貫通孔31をその中心線が球体の中心を通過するようにして形成した球体30の、該貫通孔31内を内管20が貫通した状態となっており、球体30は内管20に沿って軸方向に自由に移動しまた回転することができる。
【0025】
該球体30に対して基板部材40が外嵌合状態で取り付けられる。基板部材40は、リング状の基部41と、そこから吹管Aの両側に延びる2つの横材42、42と、各横材42の先端から吹管軸心L1に平行に吹管先端方向に延出する2つのアーム43、43と、各アームの先端に取り付けた係止部材44、44とを有する。図示のものでは、係止部材44はY型をなしているが、逆さL型であってもよい。逆さL型の場合には、Lの底面部を鉄筋の上に乗せておくだけで、位置が固定される利点がある。
【0026】
リング状の基部41の前方にはフランジ部45が形成され、該フランジ部45には孔46が形成されている。そして、該孔46にピン47を挿入すると、該ピン47は該孔46を通過して、その先端が内管20に形成した凹溝23内に入り込む(この構成が「第2の固定手段」に相当する)。その状態では、基板部材40と内管20とは一体となり、吹管Aの竿部13に沿って吹管軸心L1の方向に移動することができ、また、吹管軸心L1を中心として回動することもできる。
【0027】
さらに、リング状の基部41には軸心を吹管Aの軸心L1と同じくするようにして貫通孔50が形成されており、貫通孔50は、前方円筒部51、それに続く球面部52、それに続く後方円筒部53で構成される。前方円筒部51、すなわちリングバーナーBを取り付けている側の円筒部51の直径bは、球体30の直径(a+d)よりは小さく、内管20の直径aよりは大きくなっている。後記するように、この直径の差分c(=b−a)は、基板部材40が吹管軸心L1に対する最大傾動角度αを規制する一つの要因となる。
【0028】
球面部52は、貫通孔50の軸心線上に中心をおく直径(a+d)、すなわち球体30と同じ直径の球面体の一部をなしており、該球面部52は軸心に対して垂直となる位置まで続いている。後方円筒部53は球面部52に接続する直径(a+d)よりも大きな直径の円筒体であり、その内周面にはネジが切られている。なお、球面部52は、後記するように球体30と基板部材40との相対移動と固定とを円滑かつ確実とするために好ましい形態であるが、相対移動と摩擦による固定とが可能であれば、必ずしも、球面部52は直径(a+d)の球の球面の一部である必要はなく、放射面、円錐面、楕円面などであってもよい。
【0029】
後方円筒部53には、その内周面に形成したネジに螺合するネジを外周面に有する締め付けネジ55がネジ係合している。締め付けネジ55には軸心を吹管Aの軸心L1と同じくするようにして貫通孔56が形成されており、貫通孔56の直径cは、基板部材40の前方円筒部51の直径bと同じか、それよりも大きな直径とされる。この直径cも、基板部材40が吹管軸心L1に対して傾動する最大傾動角度αを規制する一つの要因となる。締め付けネジ55の前方端は、貫通孔56の軸心線上に中心をおく直径(a+d)、すなわち球体30と同じ直径の球面体の一部をなす球面部57となっており、後端側は形の大きいフランジ部58となっている。
【0030】
位置決め手段を組み付けるに当たっては、内管20の後端にロックネジ22を緩くネジ込んだ状態とする。それを、リングバーナーBを取り外した状態の吹管Aの竿部13にロックネジ22側から外嵌合状態で差し込む。次に、該内管20に、締め付けネジ55をフランジ部58の側から外嵌合状態で差し込み、続いて、球体30を差し込む。次に、基板部材40をその後方円筒部53側から差し込み、後方円筒部53に先に差し込んでおいた締め付けネジ55を螺合させる。さらに、基部41前方のフランジ部45に形成した孔46と内管20に形成した凹溝23との位置合わせを行い、孔46にピン47を挿入する。
【0031】
図2はこの状態を示す断面図であり、締め付けネジ55のネジ込み量が少ないときは、基板部材40の球面部52と球体30とは非接触状態であるか、接触しているとしても両者間の摩擦力はきわめて小さく、基板部材40は内管20と共に、球体30とは独立して吹管Aの軸心L1を中心に回転することができる。
【0032】
また、基板部材40は吹管軸心L1に対する傾動姿勢を取ることもできる。この傾動は、基板部材40が竿部13の回りを回転する360度の任意の位置で生じさせることができる。なお、この傾動する動きに順応してピン47が孔46内を自由に摺動できるようにされている。また、自由落下しないように、適宜のストッパー(不図示)も設けられる。
【0033】
なお、前記した傾動は、基板部材40に形成した貫通孔50の前端縁、すなわち、基部41の前方に突出したフランジ部45の前端縁が内管20に衝接するか、締め付けネジ55の後端縁が内管20に衝接するかのいずれかが生じたときに、停止する。すなわち、基板部材40の吹管軸心L1に対する最大傾動角度αは、前方円筒部51の直径bと締め付けネジ55に形成した貫通孔56の直径cに規制され、それらの直径が大きい程、最大傾動角度αは大きくなる。
【0034】
基板部材40が内管20と共に吹管軸心L1の回りで適宜回動し、また吹管軸心L1に対して適宜の角度で傾動している状態で、締め付けネジ55をさらに締め付けていくと、基板部材40の球面部52と球体30との接触摩擦、および締め付けネジ55の先端の球面部57と球体30との接触摩擦とが大きくなり、基板部材40(の基部41)と球体30とはその姿勢で一体に固定される。その後、締め付けネジ55を緩めると双方は再び自由に移動できるようになる。
【0035】
実際のガス圧接においては、上記のようにして吹管Aの竿部13に、内管20、球体30および基板部材40等を、基板部材40と球体30とが自由に移動できる状態で組み付けた後、基部41のフランジ部45に形成した孔46にピン47を挿入し、該ピン47の先端を内管20に形成した凹溝23内に入り込ませる。その姿勢で、基板部材40を前方に移動し、ピン47の先端を凹溝23の先端に形成した穴24に落とし込んで基板部材40と内管20とを一体化する。
【0036】
その状態で、バーナー装置10を、図7に示した従来法と同様に、圧接機Cの2つのクランプ部材Ca,Cbでクランプされて接合部方向に圧接される2本の鉄筋1a,1bに対向させ(なお、図1では、圧接機Cおよびクランプ部材Ca,Cbは図示を省略している)、基板部材40に取り付けた係止部材44、44を2本の鉄筋1a,1bに押し付ける。そして、リングバーナーBの中心に2本の鉄筋1a,1bが位置し、かつその端部接合面PとリングバーナーBの放射火炎の面とが一致するように、吹管Aの位置調整を行う。その後、ロックネジ22および締め付けネジ55を締め付ける。それにより、吹管Aと内管20と基板部材40とはすべてが一体化され、その姿勢で、鉄筋に対する初期加熱が行われる。
【0037】
初期加熱が終了した時点で、作業者はピン47の先端を孔24から外し、ピン先端を凹溝23内でスライドさせながら、基板部材40を後方にさせる。そして、ピン先端を凹溝23に後端に形成した孔25に落とし込む。それにより、係止部材44、44と鉄筋1a,1bとの係合は解除するので、バーナー装置10の横移動は自由になり、中性炎による幅焼き(後期加熱)を容易に行うことができる。後期加熱において巾焼きを必要としないガス圧接の場合には、前期加熱を行った姿勢のままで、中性炎への切り換えのみを行い、後期加熱を行えばよい。
【0038】
基板部材40を前記のようにして後方に移動させても、ピン47の先端は凹溝23内に位置しており、基板部材40の当初姿勢はそのまま維持されるので、同じ条件下にある2本の鉄筋を圧接する場合には、再度、基板部材40を前方に移動して、ピン47の先端を凹溝23の先端に形成した穴24に落とし込むだけで、次の鉄筋に対する最適の条件下での初期加熱を行うことができる。
【0039】
次に、ガス圧接しようとする2本の鉄筋1a,1bの接合面Pが、その鉄筋軸心L2に対して垂直面となっている場合、および、鉄筋軸心L2に対して傾斜している場合での、基板部材40の挙動について、図3〜図5に基づいて説明する。
【0040】
図3は、2本の鉄筋1a,1bの接合面Pが、その鉄筋軸心L2に対して垂直面となっている場合での、位置決め手段の状態を示している。この場合には、吹管Aを接合面PにリングバーナーBの放射火炎面を一致させた姿勢としても、基板部材40に取り付けた2つの横材42、42は、図3aに示すように、吹管軸心L1に直交した姿勢にあり、かつ、図3bに示すように、前後方向(吹管軸線L1方向)で見たときに、鉄筋軸心L2とねじれのない、すなわち同一平面内に位置してする。この姿勢を、前記した基板部材40の吹管軸心L1を中心とした回動も、吹管軸心L1に対する傾動も起こっていないものとする。
【0041】
図4、図5は、2本の鉄筋1a,1bの接合面Pが、鉄筋軸心L2に対して、垂直面から角度θだけ傾斜している場合を説明する模式図である。図4は、傾斜面の方向が、基板部材40に取り付けた2つの横材42、42と鉄筋軸心L2を含む仮想平面に直交する平面であって鉄筋軸心L2に対して90度+θだけ傾斜した平面内にある場合である。この場合に、吹管Aを接合面PにリングバーナーBの放射火炎面を一致させた姿勢とすると、吹管軸心L1は鉄筋軸心L2に対して、図3に示した位置よりもθだけ下方に傾斜した姿勢となる。しかし、前記のように、基板部材40が吹管軸心L1に対して角度θだけ傾動して、この傾斜を吸収することができるので、位置決め手段による鉄筋の押さえは安定したものとなる。
【0042】
図5は、傾斜面の方向が、図4の状態から鉄筋軸心L2を中心として90度回転した姿勢にある場合である。この場合には、吹管Aを接合面PにリングバーナーBの放射火炎面を一致させた姿勢とすると、吹管軸心L1は鉄筋軸心L2に直交した姿勢となるが、吹管Aが図3に示す姿勢から吹管軸心L1を中心に角度βだけ回転した姿勢となる。しかし、基板部材40が前記のように吹管軸心L1を中心に角度θだけ回動することにより、吹管Aの回転を吸収することができるので、この場合にも、位置決め手段による鉄筋の押さえは安定したものとなる。
【0043】
いずれの場合も、そのようにして姿勢を確保した後に、ロックネジ22および締め付けネジ55を締め付けることにより、2本の鉄筋1a,1bの軸心La,Lbが一致している場合と同様にして、初期加熱および後期加熱を行うことができる。
【0044】
実際の施工現場では、2本の鉄筋の接合面は、図3に示す傾斜面位置と図4に示す傾斜面位置との中間位置にある場合が多い。その場合には、基板部材40は、図3に基づき説明した傾動と図4に基づき説明した回転との双方の挙動を取ることにより、位置決め部材は安定した位置決め姿勢となる。
【0045】
上記の実施の形態において図示しないが、球体30として、弾性変形と形状復帰が可能な材料からなる球体を用いることもできる。その場合には、締め付けネジ55を締め付けによって球体30に変形が生じ、内管20との間の摩擦力が大きくなって基板部材40と内管20との相対移動を阻止できるようになる。そのために、内管20の凹溝23、フランジ部45に形成した孔46、ピン47等の構成を省略しても、さらには、内管40自体を省略しても、位置決め手段は、上記した位置決め手段と同様な作用効果を奏することができる。
【0046】
図6は本発明による位置決め手段の他の実施の形態を示している。この形態は、球体30の形状が一部で図1、図2に示したものと異なっており、結果として、基板部材40に形成したフランジ部45およびフランジ部の孔46が不要になっている。他の構成は、図1、図2に示したものと同じであり、同じ機能を奏する部材には同じ符号を付し、説明は省略する。
【0047】
球体30Aは貫通孔31と同じ内径である円筒体32を前方に向けて一体に有しており、円筒体32の先端フランジ部33には孔34が形成されている。なお、円筒体32の厚さは、基板部材40の吹管軸心L1に対する傾動角度αに制限を与えないように、所要の強度が得られることを条件に薄いものとすることが望ましい。
【0048】
球体30Aは、図1、図2に示した実施の形態での球体30と同様にして、内管20に摺動及び回動自在に外嵌合される。そして、フランジ部33に形成した孔34と内管20に形成した凹溝23とを位置合わせした後、ピン47を孔34に挿入し、ピン先端を凹溝23内に位置させる。それにより、球体30Aと内管20とは一体化し、ロックネジ22の締め付けがない状態では、両者は吹管軸心L1を中心として同時に回転することができる。また、ピン47が孔34の先端と後端に形成した穴24、25に入り込んだ状態(この構成が「第2の固定手段」に相当する)では、吹管軸心L1の方向に一体となって移動する。
【0049】
この形態では、締め付けネジ55を締め付けない状態では、球体30Aの球面に沿って基板部材40は自由に回転と傾動をすることができる。そして、図1、図2に示した実施の形態と同様に、締め付けネジ55を締め付けることにより、その位置で、球体30Aと基板部材40は一体化する。この形態では、基板部材40の吹管軸心L1に対する傾動はピン47の影響を受けることなく行われるので、位置決め時の吹管Aの移動をよりスムースに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明によるガス圧接用のバーナー装置の全体を示す斜視図。
【図2】図2aは図1のII−II線に沿う断面図であり、図2bは球部材を説明するための図。
【図3】2本の鉄筋の接合面が鉄筋軸心に垂直な面となっている場合での位置決め手段の姿勢を説明するための図。
【図4】2本の鉄筋の接合面が鉄筋軸心に対して傾斜した面となっている場合での位置決め手段の姿勢を説明する図。
【図5】2本の鉄筋の接合面が鉄筋軸心に対して傾斜した面となっている場合での位置決め手段の他の姿勢を説明する図。
【図6】本発明によるガス圧接用のバーナー装置で用いる位置決め手段の他の実施の形態を図2に相当する断面図。
【図7】位置決め手段を持つガス圧接用のバーナー装置の従来例を示す図。
【符号の説明】
【0051】
A…吹管、B…リングバーナー、L1…吹管の軸心、L2…2本の鉄筋の軸心、P…2本の鉄筋の接合面、10…バーナー装置、13…吹管の竿部、20…内管、21…内管の後端の切除部、22…ロックネジ、23…凹溝、24、25…凹溝の前後端に形成された孔、30、30A…球体(球面部材)、31…球体の貫通孔、40…基板部材、41…リング状の基部、42…横材、43…アーム、44…係止部材、45…フランジ部、46…フランジ部の孔、47…ピン、50…基板部材の基部に形成した貫通孔、51…前方円筒部、52…球面部、53…後方円筒部、55…締め付けネジ、56…締め付けネジに形成した貫通孔、57…締め付けネジ前方端の球面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス源と酸素源とに接続する吹管と吹管先端に配置されるリングバーナーとを備えた鉄筋材等のガス圧接装置で用いるバーナー装置であって、
吹管には、ガス圧接する鉄筋材等に対するリングバーナーの位置を決めるための位置決め手段が取り付けられており、該位置決め手段は、吹管軸心方向への移動と、吹管軸心を中心とした回転と、吹管軸心に対する傾動とが可能な状態と、鉄筋材等に対してリングバーナーが適切な位置にセットされたときの姿勢で吹管に一体に固定された状態とを選択的に取りうるようにされていることを特徴とするバーナー装置。
【請求項2】
位置決め部材は、吹管軸心方向への移動および吹管軸心を中心とした回動ができるようにして吹管に外嵌合する内管と、内管を吹管に固定する第1の固定手段と、吹管軸心方向への移動と吹管軸心を中心とした回転と吹管軸心に対する傾動とが自由にできるようにして内管に外嵌合された基板部材と、内管と基板部材との嵌合部に吹管軸心方向に移動可能な状態で介在する球面部材と、球面部材と基板部材との摩擦力を大きくして両者間の相対移動を停止させる締め付け手段と、相対移動が停止された状態の球面部材と基板部材とを内管の軸心に沿って移動および固定できるようにした第2の固定手段と、吹管の両側で基板部材に取り付けられた鉄筋等への係止部材、とを備えることを特徴とする請求項1に記載のバーナー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−26666(P2006−26666A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206311(P2004−206311)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(394024983)東海ガス圧接株式会社 (12)
【出願人】(596171384)株式会社 徳武製作所 (14)
【出願人】(392020015)ヤマト産業株式会社 (2)
【出願人】(390024914)東京ガスケミカル株式会社 (13)
【Fターム(参考)】