説明

ガス封入型比例計数管

【課題】エネルギー分解能の経時劣化が十分に抑制され、しかも安価なガス封入型比例計数管を提供する。
【解決手段】X線を入射させる窓2が設けられたケース1内に、芯線3が絶縁されて収納され、検出ガスが封入されたガス封入型比例計数管であって、ケース1内に、活性炭、活性アルミナ、ゼオライト、シリカゲルおよび酸化カルシウムの一群から選ばれた少なくとも1つからなる吸着剤5を備えている。本発明のガス封入型比例計数管によれば、従来のような対策を行わなくても、ケース1内に吸着剤5を備えるという簡単な構成により、ケース1の内面1aから放出される不純ガス等を吸着し、検出ガスには影響を及ぼさないので、エネルギー分解能の経時劣化が十分に抑制され、しかもコスト高にならない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線検出のためのガス封入型比例計数管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光X線分析装置などに用いられるX線検出器として、ガス封入型比例計数管がある(例えば、特許文献1参照。)。ガス封入型比例計数管では、金属製のケースに検出ガス(検出器用ガス、計数ガスとも呼ばれる)が封入されているが、徐々にケースの内面から有機性ガスや水蒸気などの不純ガスが放出されて検出ガスに混入することによって、エネルギー分解能が経時的に劣化するという問題がある。
【0003】
検出ガスを供給し続けて使用するガスフロー型比例計数管に対しては、検出ガスがボンベ内や配管内に存在していた不純物を含んだまま計数管に供給されないように、供給前に不純物を低減、除去する技術があるが(特許文献2、3参照)、このような技術をガス封入型比例計数管に適用しても、前記問題は、検出ガスが封入された後にケースの内面から放出される不純ガスに起因しているので、問題の解決にはならない。
【0004】
そこで、検出ガス封入後にケースの内面から放出される不純ガスを低減させるべく、ケースを構成する部材を不純ガス放出量の少ないステンレス製とするとともに、それらのケース部材同士の接合やケース部材と窓部材との接合を溶接やろう付けで行い、検出ガス封入前に高温真空ベーキングを行って不純ガスを十分に放出させる、などの対策を行っている。これは、不純ガスをケース内に放出するおそれのある部材を極力排除して、清浄な状態でケースを密閉すべきという技術常識に基づいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−345589号公報(段落0003、図4)
【特許文献2】特開2001−221862号公報
【特許文献3】特開2005−10141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような対策では、エネルギー分解能の経時劣化を十分に抑制できず、しかもコスト高になる。前記対策では不十分である一因として、ケースの内面から放出される不純ガス以外にも、ケース部材同士の接合やケース部材と窓部材との接合を通ってケースの外部から侵入する不純ガス、窓部材自体を通ってケースの外部から侵入する不純ガスがあることが考えられる。以下、これらをまとめてケースの内面から放出される不純ガス等という。
【0007】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、エネルギー分解能の経時劣化が十分に抑制され、しかも安価なガス封入型比例計数管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、X線を入射させる窓が設けられたケース内に、芯線が絶縁されて収納され、検出ガスが封入されたガス封入型比例計数管であって、前記ケース内に、活性炭、活性アルミナ、ゼオライト、シリカゲルおよび酸化カルシウムの一群から選ばれた少なくとも1つからなる吸着剤を備えている。ここで、吸着剤には、いわゆる吸湿剤、乾燥剤、脱水剤も含む。
【0009】
本願の発明者は、従来のような対策では効果に限界があることから、不純ガスをケース内に放出するおそれのある部材を極力排除して、清浄な状態でケースを密閉すべきという前述の技術常識を打破して、ケースの内面から放出される不純ガスの量を低減させることには固執せず、技術常識からすれば不清浄とも思われる吸着剤をあえてケース内に備えることにより、放出される不純ガスを吸着して検出ガスに混入させないという対策を案出した。そして、鋭意検討の結果、活性炭、活性アルミナ、ゼオライト、シリカゲルおよび酸化カルシウムの一群から選ばれた少なくとも1つからなる吸着剤であれば、ケースの内面から放出される不純ガス等を吸着し、しかも、検出ガスを吸着したり、吸着剤自体が不純ガスを放出したりして検出ガスに影響を及ぼすことがない、という知見を得て本発明をなすに至ったのである。
【0010】
本発明のガス封入型比例計数管によれば、従来のような対策を行わなくても、ケース内に吸着剤を備えるという簡単な構成により、ケースの内面から放出される不純ガス等を吸着し、検出ガスには影響を及ぼさないので、エネルギー分解能の経時劣化が十分に抑制され、しかもコスト高にならない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態のガス封入型比例計数管を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態のガス封入型比例計数管について、図にしたがって説明する。図1の縦断面図に示すように、このガス封入型比例計数管は、X線を入射させる窓2が設けられた筒状のケース1内に、芯線3が絶縁部材4により絶縁されて収納され、検出ガスが封入されており、さらに、ケース1内に吸着剤5を備えている。ケース1は金属製で陰極を形成し、例えばタングステンからなる芯線3が、絶縁部材4によりケース1から絶縁され、ケース1の中心軸に沿うように張られて陽極を形成している。窓2は、例えばベリリウムからなる金属箔である。
【0013】
ケース1は、ケース1の内面1aから放出される不純ガスの量を低減させるという観点からは、不純ガス放出量の少ないステンレス製が好ましい。しかし、本発明では、不純ガス放出量の少ない金属に固執する必要はなく、加工が容易で安価なアルミニウム製としてもよい。また、通常、ケース1は複数のケース部材を接合して製作され、ケース1に設けられた細長い孔をふさぐように窓2が接合されるが、これらの接合は、ケース1の内面1aから放出される不純ガスの量を低減させるという観点からは、十分な高温での真空ベーキングに耐える溶接やろう付けによる接合が好ましい。しかし、本発明では、十分な高温での真空ベーキングに固執する必要はなく、安価で簡便なエポキシ接着剤による接合でもよい。
【0014】
ケース1内に封入される検出ガスは、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの電離ガスとして用いられる希ガスを主体とし、メタン、二酸化炭素などをクエンチングガスとして加えたもので、例えばアルゴンと二酸化炭素の混合ガスがよく用いられる。
【0015】
吸着剤5は、活性炭、活性アルミナ、ゼオライト、シリカゲルおよび酸化カルシウムの一群から選ばれた少なくとも1つからなり、例えば複数の粒状活性炭である。吸着剤5は、接着剤を用いてケース1の内面1aに接着されるが、芯線3の周囲の電場を乱さないように、ケース1内の円柱状空間における軸方向両端部の外周部に配置される。接着剤としては、不純ガスを放出せず、高温での真空ベーキングにも耐えるセラミックス系接着剤が好ましい。接着に代えて、例えば網状の金属部材を用いて、ケース1内において吸着剤を配置すべき空間を仕切ることにより、残りの空間と連通した吸着剤収納室を設け、その中に吸着剤を収めてもよい。
【0016】
活性炭、活性アルミナ、ゼオライト、シリカゲルもしくは酸化カルシウム、またはそれらの組合せからなる吸着剤5であれば、ケース1の内面1aから放出される不純ガス等を吸着し、しかも、検出ガスを吸着したり、吸着剤5自体が不純ガスを放出したりして検出ガスに影響を及ぼすことがない。
【0017】
以上のように、本発明のガス封入型比例計数管によれば、従来のような対策を行わなくても、ケース1内に吸着剤5を備えるという簡単な構成により、ケース1の内面1aから放出される不純ガス等を吸着し、検出ガスには影響を及ぼさないので、エネルギー分解能の経時劣化が十分に抑制され、しかもコスト高にならない。
【0018】
なお、上述の実施形態は、芯線3を中心軸とする筒状のケース1の側面に窓2を設けた形式のガス封入型比例計数管として説明したが、本発明は、同様の筒状のケースの端面に窓を設けた形式のガス封入型比例計数管にも適用できる。
【符号の説明】
【0019】
1 ケース
2 窓
3 芯線
5 吸着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を入射させる窓が設けられたケース内に、芯線が絶縁されて収納され、検出ガスが封入されたガス封入型比例計数管であって、
前記ケース内に、活性炭、活性アルミナ、ゼオライト、シリカゲルおよび酸化カルシウムの一群から選ばれた少なくとも1つからなる吸着剤を備えたガス封入型比例計数管。

【図1】
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